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No.13774の一覧
[0] うそっこおぜうさま(東方project ちょこっと勘違いモノ)[にゃお](2011/12/04 20:19)
[1] 嘘つき紅魔郷 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:52)
[2] 嘘つき紅魔郷 その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[3] 嘘つき紅魔郷 その三 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[4] 嘘つき紅魔郷 エピローグ (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[5] 嘘つき紅魔郷 裏その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[6] 嘘つき紅魔郷 裏その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:55)
[7] 幕間 その1 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:11)
[8] 嘘つき妖々夢 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:24)
[9] 嘘つき妖々夢 その二[にゃお](2009/11/14 20:19)
[10] 嘘つき妖々夢 その三[にゃお](2009/11/15 17:35)
[11] 嘘つき妖々夢 その四[にゃお](2010/05/05 20:02)
[12] 嘘つき妖々夢 その五[にゃお](2009/11/21 00:15)
[13] 嘘つき妖々夢 その六[にゃお](2009/11/21 00:58)
[14] 嘘つき妖々夢 その七[にゃお](2009/11/22 15:48)
[15] 嘘つき妖々夢 その八[にゃお](2009/11/23 03:39)
[16] 嘘つき妖々夢 その九[にゃお](2009/11/25 03:12)
[17] 嘘つき妖々夢 エピローグ[にゃお](2009/11/29 08:07)
[18] 追想 ~十六夜咲夜~[にゃお](2009/11/29 08:22)
[19] 幕間 その2[にゃお](2009/12/06 05:32)
[20] 嘘つき萃夢想 その一[にゃお](2009/12/06 05:58)
[21] 嘘つき萃夢想 その二[にゃお](2010/02/14 01:21)
[22] 嘘つき萃夢想 その三[にゃお](2009/12/18 02:51)
[23] 嘘つき萃夢想 その四[にゃお](2009/12/27 02:47)
[24] 嘘つき萃夢想 その五[にゃお](2010/01/24 09:32)
[25] 嘘つき萃夢想 その六[にゃお](2010/01/26 01:05)
[26] 嘘つき萃夢想 その七[にゃお](2010/01/26 01:06)
[27] 嘘つき萃夢想 エピローグ[にゃお](2010/03/01 03:17)
[28] 幕間 その3[にゃお](2010/02/14 01:20)
[29] 幕間 その4[にゃお](2010/02/14 01:36)
[30] 追想 ~紅美鈴~[にゃお](2010/05/05 20:03)
[31] 嘘つき永夜抄 その一[にゃお](2010/04/25 11:49)
[32] 嘘つき永夜抄 その二[にゃお](2010/03/09 05:54)
[33] 嘘つき永夜抄 その三[にゃお](2010/05/04 05:34)
[34] 嘘つき永夜抄 その四[にゃお](2010/05/05 20:01)
[35] 嘘つき永夜抄 その五[にゃお](2010/05/05 20:43)
[36] 嘘つき永夜抄 その六[にゃお](2010/09/05 05:17)
[37] 嘘つき永夜抄 その七[にゃお](2010/09/05 05:31)
[38] 追想 ~パチュリー・ノーレッジ~[にゃお](2010/09/10 06:29)
[39] 嘘つき永夜抄 その八[にゃお](2010/10/11 00:05)
[40] 嘘つき永夜抄 その九[にゃお](2010/10/11 00:18)
[41] 嘘つき永夜抄 その十[にゃお](2010/10/12 02:34)
[42] 嘘つき永夜抄 その十一[にゃお](2010/10/17 02:09)
[43] 嘘つき永夜抄 その十二[にゃお](2010/10/24 02:53)
[44] 嘘つき永夜抄 その十三[にゃお](2010/11/01 05:34)
[45] 嘘つき永夜抄 その十四[にゃお](2010/11/07 09:50)
[46] 嘘つき永夜抄 エピローグ[にゃお](2010/11/14 02:57)
[47] 幕間 その5[にゃお](2010/11/14 02:50)
[48] 幕間 その6(文章追加12/11)[にゃお](2010/12/20 00:38)
[49] 幕間 その7[にゃお](2010/12/13 03:42)
[50] 幕間 その8[にゃお](2010/12/23 09:00)
[51] 嘘つき花映塚 その一[にゃお](2010/12/23 09:00)
[52] 嘘つき花映塚 その二[にゃお](2010/12/23 08:57)
[53] 嘘つき花映塚 その三[にゃお](2010/12/25 14:02)
[54] 嘘つき花映塚 その四[にゃお](2010/12/27 03:22)
[55] 嘘つき花映塚 その五[にゃお](2011/01/04 00:45)
[56] 嘘つき花映塚 その六(文章追加 2/13)[にゃお](2011/02/20 04:44)
[57] 追想 ~フランドール・スカーレット~[にゃお](2011/02/13 22:53)
[58] 嘘つき花映塚 その七[にゃお](2011/02/20 04:47)
[59] 嘘つき花映塚 その八[にゃお](2011/02/20 04:53)
[60] 嘘つき花映塚 その九[にゃお](2011/03/08 19:20)
[61] 嘘つき花映塚 その十[にゃお](2011/03/11 02:48)
[62] 嘘つき花映塚 その十一[にゃお](2011/03/21 00:22)
[63] 嘘つき花映塚 その十二[にゃお](2011/03/25 02:11)
[64] 嘘つき花映塚 その十三[にゃお](2012/01/02 23:11)
[65] エピローグ ~うそっこおぜうさま~[にゃお](2012/01/02 23:11)
[66] あとがき[にゃお](2011/03/25 02:23)
[67] 人物紹介とかそういうのを簡単に[にゃお](2011/03/25 02:26)
[68] 後日談 その1 ~紅魔館の新たな一歩~[にゃお](2011/05/29 22:24)
[69] 後日談 その2 ~博麗神社での取り決めごと~[にゃお](2011/06/09 11:51)
[70] 後日談 その3 ~幻想郷縁起~[にゃお](2011/06/11 02:47)
[71] 嘘つき風神録 その一[にゃお](2012/01/02 23:07)
[72] 嘘つき風神録 その二[にゃお](2011/12/04 20:25)
[73] 嘘つき風神録 その三[にゃお](2011/12/12 19:05)
[74] 嘘つき風神録 その四[にゃお](2012/01/02 23:06)
[75] 嘘つき風神録 その五[にゃお](2012/01/02 23:22)
[76] 嘘つき風神録 その六[にゃお](2012/01/03 16:50)
[77] 嘘つき風神録 その七[にゃお](2012/01/05 16:15)
[78] 嘘つき風神録 その八[にゃお](2012/01/08 17:04)
[79] 嘘つき風神録 その九[にゃお](2012/01/22 11:18)
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[13774] 嘘つき花映塚 その十二
Name: にゃお◆9e8cc9a3 ID:dcecb707 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/25 02:11





 幻想郷の大地が暗黒の闇に塗潰される。
 幻想郷の風がこの地に住まう者全てに対し、誰一人として分け隔てることなく絶望を運んでゆく。

 ――風見幽香。
 この世界に舞い降りた一人の妖怪…否、最早一つの世界として存在する者の闇は何処までも深く、何処までも暗く。
 圧倒的なまでの力と畏怖すべきほどの狂気。彼女の存在の前に、幻想郷の火は風前の灯火だと表現しても、笑う者は誰も存在しないだろう。
 風見幽香は間違いなく簡単にやってのける。世界を飲み込み、世界を滅ぼすこと。今の彼女の力なら、それが可能なのだ。

 狂った世界が舞い踊るとき、世界は崩壊の円舞曲を奏で続ける。許される時間は幾許か、その絶望の中で少女達は起ち続ける。
 少女達は風見幽香の前には余りに無力。狂った世界を相手にすること、それが一体どれ程までに絶望的な戦いなのか、彼女達は痛いほどに理解している。
 己が未来に待つは、荒れ狂う暗黒の世界に飲み込まれた果ての死。そんな未来が瞳を閉じて夢想せずとも、容易く脳裏を過る、それほどまでに漂う濃密な死の香り。
 けれど、少女達は決して膝を折ったりしない。負けず屈せず諦めず、ただただ未来を信じて風見幽香という絶望に抗い続けている。
 常人なら…否、例え心が強い者でも、今の風見幽香の前では強靭な心も紙屑も同じ。それほどまでに今の風見幽香は強大過ぎた。

 だが、少女達は諦めない。恐怖など振り切って、前だけを向いて必死に走り続ける。
 逃げない。諦めない。絶対に勝つ。絶望に塗潰された世界の中で、少女達は僅かな希望を胸に戦い続ける。
 心を折るものか。絶対に負けるものか。彼女達は心が絶望に染まりそうになる度に、一人の少女へと視線を向けて、少女の姿を勇気に変える。
 その少女はその場の誰もの希望の灯火。闇に支配された幻想郷に灯された唯一の希望。その少女が諦めず、必死に前を向き続けている。
 少女の姿が、少女の勇気がこの場の全ての者に勇気を分け与える。そして心に新たな勇気を灯して誓うのだ。










 ――レミリアが諦めない限り、私達は絶対に諦めないと。




















 風見幽香の力により更なる強化をされた魔植物達。
 それらを相手にしていた者達の疲労もピークが近づいている。当然だ、倒せば倒す程に強くなる敵など一体どれ程の悪夢だろうか。
 そんな悪夢達を前に、ミスティア、リグル、そしててゐは肩で呼吸をしつつ、互いの無事を確認し合うように言葉を紡ぎ合う。

「リグル、それと、てゐ…だっけ?まだ、生きてるわよね?」
「当たり前でしょ…虫が、植物に殺されるなんて…笑い話にもならないわ」
「そう?世の中には、食虫植物なんてのも、いるからねえ…」
「冗談言い合えるなら、まだまだ大丈夫ね…一人当たり、五十体くらいが、ノルマかな…」
「…ミスティア、私、なんでここに居るのか、本当に不思議だわ。なんであまり、面識のない、吸血鬼の為に、ここまで」
「だったら逃げれば、いいんじゃない?別にアンタが逃げても、レミリアは怒りもしないし、恨みもしないさ。
年長者から、意見を言わせて貰うと、アレだけの化物は神話幻想時代にだって存在したかどうか…逃げるなって方が、酷な話だよ」

 てゐの言葉に、リグルは呼吸を整えつつ空を一瞥する。
 そこには複数の幽香が、他の者達を相手に恐ろしいほどの暴力を振っている姿がある。その姿を見て、リグルはフンと不機嫌そうに言葉を返す。

「…絶対嫌。私は戦うわよ。最後まで戦わないと、あのムカつく偉そうな妖怪の泣きっ面を拝めないじゃない。
私は『自分が最強』なんて思って偉そうにふんぞり返ってる妖怪が大嫌いなの。いずれ最強の妖怪の座は私達虫のモノになるのよ。
それを差し置いて、あんな傲慢に私達を屑か塵か何かのように扱って…だからあの妖怪は潰すわ!私以外の奴の力で!」
「はぁ…格好良いと途中まで思ってたのに、最後の最後でどうしてオチつけるのよ、馬鹿リグル」
「いや、だって私じゃ明らかに勝てないし…それにアレに立ち向かうのはちょっとねえ?」
「ま、いいじゃない。他の連中には他の連中の、私達には私達の役割があるさね。
私達が為すべきことは、少しでも多くの植物をプチプチ潰してあの妖怪に嫌がらせすることだね。
鈴仙が上のアシストにも手を割いてるんだから、私達は私達で頑張らないとね~」
「そうねえ…ま、さっさとアイツをぶっとばさないとレミリアと一緒に料理も出来やしないしね」
「あの力の無い吸血鬼だって逃げてないんだから!虫のプライドにも五分の魂ってヤツを見せてやるわ!」
「私はより面白おかしい毎日の為に頑張るとしましょ~。こんな大騒動が起きたんだもの、これを
無事解決した後、果たしてレミリアの未来はどうなることやら。にししっ、絶対面白いよね~!期待してるよ、レミリアさんっ」

 大地に立ち、幽香を真っ直ぐに見詰めているレミリアを横目に、三人は気合いを入れ直して植物達に立ち向かう。
 希望の炎は決して消えない。彼女達は己の欲望に忠実、その欲望は未来への糧、己の願う明日の為に彼女達は決して己を曲げない。

 少女達が願うは『未来』。彼女達が望むは面白おかしく平穏無事な笑いに満ちた幻想郷――それが彼女達の『希望』。

















 風見幽香が異界の扉を開き、幻想郷に再び流入する夥しい数の霊魂達。
 その数は最早妖夢と幽々子の二人では処理出来る限界数を超え、彼女達を逆に飲み込まんとする勢いで暴れ回っている。
 そんな妖夢達をフォローするのは、魔植物組から移行してきた鈴仙、そして常時アシストに徹していた咲夜と永琳。
 地上とは違い、空中は風見幽香とその分身体との戦場でもある。故に、魔植物達よりも霊魂達をしっかりと抑えなければ、風見幽香との
戦闘において害を及ぼす結果となってしまう。ただでさえ、風見幽香に対する勝算が得られていないというのに、それ以上可能性を
悪化させる訳にはいかない。故に、五人体制という多めの人員による戦闘なのだが、それでも彼女達の旗色は良くはない。
 何せ、霊魂に対し決定打を持つのは妖夢と幽々子しかいない。他の面々が出来るのは、あくまで彼女達のバックアップなのだ。
 霊魂の足止めこそ成功しているものの、幽々子と妖夢が魂達を冥界に叩き送る数は疲労と共に減少の一途を辿ってしまっている。また、
他の三人の疲労も当然ながら著しい。無数の霊魂達に囲まれながら、妖夢と鈴仙、そして咲夜は三人共に背中を合わせながら言葉を紡ぎ合う

「本当に嫌になる程の魂達ね…妖夢達もよく二人で凌いだものだわ。遠慮というものを知らないのかしら?」
「あはは…いっそのこと白旗でも上げてみる?」
「冗談でも笑えないわね。私達は絶対に負けられない…誰が相手でも、私はもう二度と戦場で背中は見せない。
今日だけは戦い抜く…この場の誰よりも戦い抜いてみせる…この戦場で、ありったけの勇気を振り絞っている、あのレミリアよりも…ね」
「鈴仙…そうね、私達の戦い、善戦に意味はないわ。私達は必ず勝たなければならない。
勝って、あの妖怪から守り抜くのよ。私達の大切な存在を、この愛しき世界を…そうでしょう、妖夢」
「…そうだね、その通りだ。レミリアさんの折れない心、諦めない心が在る限り、私達は絶対に負けたりしない!
――聞きなさい無数の迷える霊魂達!我が名は魂魄妖夢!今の私はレミリアさんの想いを!そして幻想郷の未来を守る一振りの刃なり!」
「こういうのはキャラじゃないけれど…私の瞳に捉われたのが運の尽きだと思いなさい。蟻一匹すら撃ち逃さないわよ、今の私は」
「母様を、みんなを、そして世界を護る為に――私達は、絶対に勝つ!!」

 咲夜の叫びを皮切りに、三人が霊魂を翻弄する程の速度で戦場を駆け抜ける。
 その力は普段の彼女達の何倍にも感じられる力強さと躍動感を持っていた。時間を操る力など残されていない、狂気の魔眼を
使用してアドバンテージを取ることも出来ない。けれど、彼女達の本当の強さはそのようなモノとは無関係の場所に存在している。
 今の彼女達の心に絶望など入る余地が存在しない。少女達は明日だけを見て、勝利だけを信じて走り続けている。大地に立つ
小さな吸血鬼の姿が、決して諦めない彼女の瞳が、少女達に戦場を翔けるにたる理由を充足させてくれる。

 少女達が目指すは『幸福』。皆が笑いあって過ごし、騒がしくも愛おしい明日を掴み取る為――それが彼女達の『希望』。



 そんな少女達の姿を見つめながら、戦場で舞う戦姫が二人。
 正確無比の射撃と変幻自在の操魂術により、霊魂達を一匹、また一匹と仕留めながら幽々子は永琳に微笑みながら語りかける。

「成長とは若者の特権ね。今のあの娘達は、昨日のあの娘達とはまるで別人の強さを持っている」
「そうね…不謹慎であるとは理解しているけれど、この戦場が無ければ、鈴仙はあんなに強くはなれなかった。
真の強さとは心の強さ、今の鈴仙は戦場を逃げ出した頃の鈴仙とは本当に別人。そして咲夜も…いいえ、これは私の台詞ではないわね」
「フフッ、この先は全てを終えた後で、ね。私が妖夢自慢を、貴女が鈴仙自慢を…そしてレミリアが咲夜の自慢を語り合うの。
もっとも、今の咲夜は貴女にも随分なついているみたいだから、レミリアが焼きもち沢山焼いて大変かもしれないけれど」
「それは凄く楽しそうな催しね。そうね…悪くないわ。戦場において、他者を殺める効率だけを考えるのではなく、
全てを終えた後の未来に夢想する…こんな戦場も、悪くないわ」
「そういうこと。だから――そろそろこの劇を終幕に導くとしましょう?」
「ええ…早々に片づけ、我らが愛しき先導者の雄姿を見届けるとしましょうか」

 幽々子と永琳は妖艶に微笑み合い、その身の力を解放する。
 彼女達が解き放つは全ての存在を死へと容易く導く強大な力。冥界を、そして月の暗部を任せられる程の実力者である
彼女達が霊魂達などにどうして手間取ることがあるだろうか。
 鎧袖一触、一騎当千と表現するに相応しく、彼女達は空に舞う霊魂達を恐ろしき速度で処理していく。
 どんな絶望の状況の中でも、他の者の上に立つ立場である彼女達は決して下を向くことも諦めることも無く、淡々と己達に課せられた
裏方役に徹して従事する。それは、彼女達が理解しているから。未来は決して終わらない、この先も彼女達の望む未来は続いているのだと。
 その未来を揺るがぬモノと信じさせてくれるのは、彼女達とは比較にならぬ程に弱く儚い吸血鬼。
 力を持たぬ少女、しかしそれでも少女は奇跡を為そうとしている。彼女は自分の歩いてきた道により、その可能性を紡ぎ出そうと頑張っている。
 決して屈さぬ諦めぬ、勇気を持って前進をし続ける者、そのような者にこそ奇跡は起こりうることを彼女達は知っていた。そして
その少女が奇跡を起こすことは彼女達にとって実に当たり前のことなのだ。何故なら少女はこれまでに幾度となく在り得ぬ未来を紡いでみせた。
 ならば今回も奇跡を起こすのでは…などという薄い考えではない。その少女は必ず奇跡を起こす、起こす力を持っていると信じている。

 彼女達の揺るがぬものは『確信』。全ての物語の中心に立ち、自分達をここまで導いた少女の描く結末――それが彼女達の『希望』。

















 真なる力を解き放った風見幽香。今の彼女と一対一にて対峙することが可能な者は果たして幻想郷に何人存在するだろうか。
 否、複数掛かりですら数えるほどしか存在し得ないかもしれない。それほどまでに今の風見幽香は天蓋の化物と成ってしまっていた。
 それが例え分身体であっても同じこと。偽りの存在であろうとも、分身体を操るのは他の誰でもない風見幽香本人なのだから。
 絶望と狂気の成れの果て。そのような怪物と対峙し続け、幽香と相対する者達の疲労は極限まで高まってしまっていた。
 最早彼女達に優勢は無く、必死に幽香の攻撃を凌ぎ耐えるしか出来ない。そして幽香は所詮分身体であり、何度でも復活が可能という
点が戦う者達の心に絶望の二文字を色濃く映し出す。…そう、映し出す筈だった。
 決して勝てぬ相手、決して勝利を掴めぬ相手、決して越えられぬ相手。恐らく幻想郷…否、この顕界に生きるほぼ全ての者が
そう認識し、圧倒的な力の差に膝を折ってしまいそうになる状況…それにもかかわらず、少女達は笑っていた。
 気が触れてしまった訳ではない。狂ってしまった訳でもない。それでも少女達は笑う。心から楽しむように、この戦場で。
 その笑顔が幽香は心から気に食わない。劣勢にも関わらず、己の死に片足を突っ込んでいる状況にも関わらず、少女達は笑っている。
 そんな輝夜と妹紅の表情に、幽香は完全に苛立ちを感じていた。荒れ狂う暴弾を放ちながら、幽香は憎々しげに言葉を紡ぐ。

「さっきからヘラヘラと…恐怖のあまり気でも狂ったのかしら?一体何がそんなに面白いというの?」
「あら、面白いわよ。面白くて面白くてもう死んでしまいそう。
ねえ、不思議だとは思わない?永き生を疎み、この世の全てをつまらないと切り捨てていた私が、今こんなにも生を渇望しているわ」

 幽香の全てを穿つ衝撃波を避けながら、輝夜は口元を押さえて愉悦を零す。それが幽香には堪らなく鬱陶しい。
 だが、幾ら幽香が苛立ちを募らせたとて、今の彼女は止まらない。刹那にも満たぬ攻撃の隙間を掻い潜り、反撃を行いながら輝夜は言葉を続ける。

「楽しい。生きるのが楽しくて楽しくて仕方がないの。
知らなかった。外の世界がこんなにも面白きことに溢れているなんて私は知らなかった。
幻でも夢物語でも隠世でもなく、現(うつつ)の世界に広がる御伽噺。小さな小さな女の子が必死に足掻き織り成す冒険譚。
私の世界に色を教えてくれた友人が、己の力の全てを用い、堕ちた世界を相手に奇跡を起こそうとしている。
英雄なんて微塵も似合わない女の子が、可能性を決して捨てることなく世界に対峙しているのよ。
そんな劇を私はこんな特等席で観賞することが出来る。それは私が行きてここにいるから。ねえ、妹紅?生きることは実に素晴らしいことだとは思わない?」

 宝玉の弾幕を空に描きながら、輝夜は入れ替わるように戦場をスイッチする妹紅にさも日常会話のように訊ねかける。
 だが、そんな輝夜の問いに妹紅もまた何ら日常会話と違いを見せず、苦笑交じりに言葉を返す。

「私はアンタと違って前から生きることに絶望なんかしちゃいないわよ。…けど、生きるのが楽しいというのは同感。
最初は必死で一生懸命で馬鹿正直で、こんなの放っておけないじゃないって感じで見守ってただけなのに…あんな姿を見せられるとね。
正直、まだ先が見たいと思うよ。アイツがこれから先、一体どんな妖怪に成長し、どんな未来を築いていくのか…これも生きる楽しみってモンの一つでしょ?
大切な人の未来の為に、今この刹那に全てを捨てても頑張れる姿、それは私や輝夜には出来ない強さだからね…応援したいと思うじゃないか」
「素直にレミリアに惚れたって言えばいいのに。勿論、妹紅如きにレミリアはあげないけれど」
「…輝夜、アンタ変わったね。もう本当、思いっきり気持ち悪い方向に。死ねばいいのに、おえっ」
「死なないわよ?この戦場で私は何があろうと一度も死なないわ。だって約束したものね」
「そうね…例え不死であろうと、私達は一度も死ねない。だってそれがアイツとの約束だから」
「貴女達、一体何をゴチャゴチャと…」

 再び暴力の竜巻を巻き起こす幽香に、輝夜と妹紅は笑いあったまま戦場で踊り続ける。
 永遠の檻に囚われた少女達、彼女達の万分の一にも満たぬ力しか持ち得ぬ吸血鬼。けれど、そんな吸血鬼の女の子に少女達は強さを見る。
 それは誰かの為に立ち上がれる強さ。誰かの為に自分を迷わず捨てられる強さ。そして未来を切り開くことを決して諦めない本当の強さ。
 そんな少女の姿を、在り方を、二人は想いを一つに重ねる。今は、今だけは全ての柵から解き放たれ、ただ一人の少女の為に。
 少女達の舞い踊る天空の下、大地にて戦況を見つめ続ける少女を視界に刻みこみながら、二人は声を揃えて言葉を紡ぐ。

「「――今宵の永遠は決して失われることはないわ。誰一人として死なないこと、それがレミリアの望みなのだから!」」

 彼女達が期するは『誓い』。錆びついた永遠にかつての光を取り戻してくれた少女の未来の為に少しでも力を――それが彼女達の『希望』。



















 状況が完全に反転してしまった戦場。
 現在において、もっとも厳しい情勢と言えるのは間違いなく彼女達、射命丸文とアリス・マーガトロイド組だろう。
 何せ、文は自慢の翼を負傷し、以前までのように速さで幽香を翻弄することが出来ない。また、文の翼が奪われれば、アリスの大魔法を
使う為の時間すら稼ぐことが出来ない。ましてや相手は以前よりも遥かに力が増幅している幽香の分身体なのだ。
 そして、アリスと文は輝夜達とは違い、命を護る為に腕や足を切り捨てたりなどという回避行動は取れない。輝夜達は即死だけを避ける戦術、
すなわち永遠を約束された者にしか出来ない戦い方で何とか均衡を保てているが、彼女達はそうではない。妖怪である文を持ってしても
すぐには回復に到らない…そのような馬鹿げた威力の攻撃を幽香は平然と連続で繰りだしてくるのだ。文とアリスが速度という点での
アドバンテージを失ってしまえば、彼女達は唯の獲物に過ぎない。幽香の攻撃を必死に回避するだけで反撃にも移れない。否、回避とは
いうものの最早完全に攻撃を防ぐことすら叶わない。それほどまでに文とアリスは追い詰められていた。
 現に文は額から血流、自慢の黒羽は片翼が見るも無残な程に傷つけられてしまっている。アリスは表情にこそ出さないものの、残り魔力量が
かなり厳しい状態にある。肉体能力に優れる文が幾度とアリスの楯となっているが、最早二人の命運は風前の灯火と表現されるのも時間の問題だろう。
 幽香の猛攻を何とか防ぎながら、文とアリスは互いに幾度となく状況を報告し合い、少しでも長く戦う為に必死に策を弄する。

「はぁ…はぁ…アリス、障壁はあとどれくらい、張れそう…?」
「…頑張って、十回ね。幽香の攻撃を防ぐレベルだと、それがもう限界…悔しいわね、序盤戦で魔力を使い過ぎなければ…」
「戦場で…『もしも』なんて考えてると、死ぬわよ…っ!!」

 一撃一撃に致命傷を与える威力が込められている誘導弾幕を、文は己が妖力を風に変え、旋風をぶつけることで相殺する。
 否、文の力では最早相殺することすら出来ない。それほどまでに文は疲労し、幽香の力は規格外に変貌してしまっている。迎撃損ねた
幽香の魔弾が文の腕部に直撃し、文は苦悶の表情を浮かべるも決して声には出さない。そんな文にアリスは声を荒げる。

「もう貴女は一度下がりなさい!幾ら妖怪でも幽香の攻撃を受け続けると死ぬわよ!?」
「あやや…天狗がまさか魔法使いに命の危険を心配されるとは…悪いけど、それだけは聞けないわね。
今、私がここを退いたとして、貴女はアイツ相手に勝算があるの…?」
「それは…」
「ないでしょう…?もし、私達の戦線が壊れてしまえば…アイツの向かう先は、間違いなく…あそこだわ」

 文は視線を大地へと向ける。そこには文達の戦場を見つめ続ける少女の姿が在る。
 少女は決して逃げることなく戦場に立ち、勝利を願い、未来だけを見据え、仲間達を信じ続けている。
 そんな少女の姿を見て、文は思わず笑みを零してしまいながら、アリスに楽しそうに話しかける。

「…本当は、逃げたい筈よ…自分が怖いというのもあるけれど…あの娘は大切な人が傷つくことを何より恐れてる…
今みたいに…自分の為に、友達を戦場に立たせること…それはきっと、あの娘にとって、何より嫌なことだと思うわ…
声を大にしたいと思う…『もうみんな逃げて』って、泣き叫びたいんだと思う…」
「文…」
「…でも、逃げないのよね。自分の恐怖を、気持ちを必死に押し殺してさ…勝利を信じて、戦場に立ってるのよあの娘は…
パンが売れただけで笑ってた…私の新聞を読んで楽しいと言ってくれた…みんなが大好きなんだと叫んでいた…
…護りたいのよ、あの娘の笑顔を…大切な友達の笑顔を、私は護りたい…だから戦場から、逃げ出さないし、逃げ出すつもりも毛頭ない…
風見幽香を殺したいとか、妖怪の誇りとか、そんなものは結局瑣末なことで…私はあの娘の…レミリアの為に、ここに在る…
…おかしいわね。本当、妖怪の山では根なし草だったのに…他人の為にここまで戦う未来なんて微塵も想像してなかった…壊れちゃったのかもしれないわね、私」
「壊れた妖怪…か。それなら私も壊れた魔法使いね。
私はあの娘達程レミリアに入れ込んだつもりなんてなかったのに…本当におかしな娘ね。
レミリアはその在り方で私達をどうしようもなく惹きつける。レミリアの存在は…他人を強くさせる」
「在り方とか、魅力とか…そんな安い言葉ではないでしょ…あの娘が他人を惹きつけるのは、あの娘が歩いてきた、道があってこそでしょう…」
「…文は本当にレミリアのことをよく見てるのね。私より短い付き合いである筈なのに、まるでレミリアと数年来の友人みたい」
「鬼も、天狗も…根本は同じなのよ。私達はね、誰かに惚れ込むと…どうしようもなくなってしまうの。
だから、この後はせいぜい気をつけることね…貴女達がうかうかしてると…レミリアのお友達一位の座は、私が奪っちゃうわよ…」
「それは…大事ね。私はともかく、周囲の友人達に強く言い聞かせるとしましょう」

 どんな絶望の下にあろうとも、二人は決して下を向くことはなく、未来だけを考え戦い続ける。
 彼女達の心を折る為には、どんな暗闇や暴力を持ってきたとしても決して叶わない。少女達の心は何モノにも決して屈さぬ芯が通っているから。

 少女達を支えるは『友情』。大切な人々の為に、決して絶望などに屈さない小さな勇者を護りたいから――それが彼女達の『希望』。

















 激しさを増す戦場において、安全地帯など最早何処にも存在しない。

 魔植物が、霊魂達が、そして風見幽香の筆舌し難い程の暴力が地に空に荒れ狂う。
 その戦場で、上白沢慧音は呼吸を乱しながらも必死に守りを固め続ける。彼女の持つ全ての力を防御に注ぎ続け、彼女は自身の役割を果たす。
 右に左に襲いくる魔弾を撃ち落とし切り払い、慧音は口を開いて美鈴に声を荒げる

「動くなっ!!お前達の力を今無駄に使わせる訳にはいかないんだ!!」
「っ…けれど、これ以上は貴女が持たないでしょう!?私とパチュリー様は構わないから、貴女はフランお嬢様の守りだけに…」
「持たせてみせると言った!!舐めるなよ、紅美鈴――私は人里の守護者だ。この程度で根を上げたなら、私は里の子供達に笑われてしまうだろう!」

 彼女の得意とする獲物を剣に鏡に勾玉にと変えてゆきながら、慧音は猛攻を防いでいく。
 慧音の叫びは美鈴が戦場に向かう心を押し留める。歯痒そうな美鈴に、気を失ったフランドールを抱きしめたままパチュリーはそっと言葉を紡ぐ。

「…美鈴、レミィを信じましょう。
私達の力が本当に必要となる場面が必ず訪れる…他の誰でもないレミィが私達にそう言ったのよ。
だったら、私達はレミィを信じて少しでも力を集めるだけよ」
「分かっています…ですが、このままではアイツの圧倒的な力に押され、ジリ貧になってしまうだけですよ。
この状況を打破する為には、場をひっくり返してしまう程のジョーカーでもなければ…」
「――ジョーカーなら在るだろう。致命傷となりうる弾幕が荒れ狂う戦場の中で、ただ真っ直ぐに好機を伺い続けている少女の存在、
それこそがお前の言うジョーカーだろう。この場に私達を集めたのはレミリアなんだ…そのレミリアが諦めない限り、必ず奇跡は起こる」
「…誰も彼もお嬢様に背負わせ過ぎなのよ。世界の命運なんて、お嬢様には重過ぎる。
愛する人達と穏やかに過ごせる日常…それだけがお嬢様の望みだった」
「だが、背負う決意をしたのもまたレミリアだ。小さな少女がみせた大きな勇気、その決意の全ては愛する者の為に…だろう?
それに、レミリアが重過ぎると感じるならば、手を差し出して上げればいいんだ。その為に私達が…いいや、違うな。
レミリアを『真の意味で』支えられるのは美鈴、お前達『家族』だけなんだ。だから――」
「――言われなくとも支えるわよ。私達はまだ、お嬢様に与えて貰ったモノを何一つ返せていないんだから」
「…そうね。私達はまだレミィに何も返せていない。レミィにも、この娘にも…ね」

 気を失っているフランドールを優しく撫でながら、パチュリーはそっと言葉を紡ぐ。
 そんな美鈴とパチュリーの姿を見つめながら、慧音は自然と笑みを零しながら、攻撃を凌ぎ続けていく。
 二人の姿に慧音は思う。レミリア・スカーレットという少女が手にしたモノ、それは確かに私達とのつながりであり絆だったのだろう。
 だが、例えそれらを手にせずとも、少女には誰よりも光り輝く眩い宝物を持っているのだ。
 小さな少女、その勇気を支えているモノ。少女が決して膝を折らない全ての理由が、ここに在る。
 この者達が共に在る限り、レミリアは誰にも負けたりしない。決して諦めたりしないのだろう、と。

 彼女達を強く結ぶは『愛』。永きを共にし、これから先も共に歩み続ける愛しき人の為に――それが彼女達の『希望』。



















「どうした風見幽香?随分と心乱れてるようじゃないか」

 全ての元凶である風見幽香――その本体。
 彼女と対峙し続け恐ろしい程の暴力を交換し合う少女、伊吹萃香が愉悦を零しながら幽香に訊ねかける。
 そんな萃香に、幽香は鬱陶しそうに蹴りを繰りだしながら、言葉を吐き捨てる。

「この世界の住人は、随分と往生際が悪いものねと呆れていただけよ」
「くくっ、何を言うかと思えば。それを私達は心強き者と呼ぶんじゃないか。
最後まで決して諦めない、どんな困難にも膝をつかない存在を人々は敬意と憧憬を込めて勇者と呼ぶのさ」
「…下らないわ。諦めなければ全て上手くいくと?心折れなければ全てが救われると?
愚か、実に愚かで滑稽よ。世界は御伽噺のように優しくはないわ。どんな感動的なお話も、たった一つの運命の気まぐれによって
終焉を迎える。どんなに心強くとも、どんなに勇ましくとも、運命の前ではあまりに無力。
力無き者は悪、抗えぬ者は悪、無念のままに死にゆく者は悪。力に抗えるものは力だけ…運命を殺すには、力が必要なのよ」
「運命運命とやけに拘る。どうした?まさかとは思うが、これはひょっとしてやつあたりか何かかい?
運命や世界に押し潰され、怒りの矛先を何の関係も無いレミリアに向けているだけだとしたら…とんだ期待外れの妖怪だ。
小さい、実に器が小さいね。それじゃ私や紫に勝つことは出来るかもしれないが――レミリアには絶対に勝てないよ、お前如きではね」
「――ッ、伊吹萃香ぁ!!」

 幽香が突き出した拳を萃香は避けることなく掌で受け止め、残る拳を幽香に突き出す。
 その拳を幽香がまた掌で受け、二人は互いに両手を掴み合って純粋な力比べへと突入する。
 力に関しては幻想郷有数の能力を持つ萃香と、世界と融合し能力が遥かに押し上げられた幽香。
 二人の押し合いは見事に拮抗し、一進一退の攻防を繰り広げながら、萃香は幽香に対し言葉を紡ぐ。

「風見幽香、お前に見えるか?今のレミリアの姿が、在り方が。それとも、あの姿が見えぬ程に瞳が曇ってしまっているか?
レミリアは勇敢だ。お前という絶望を前にしても、決して運命がなどと言い訳を並べて逃げたりしない。
運命も何もかもを飲み込み、自分の信じる一の道の為に前だけを向いて歩いているんだ。その姿にお前は一体何を見る?
今のお前に、あのレミリア相手に勝利が掴めるか?確かに命は奪えるだろうさ。確かに滅ぼすことは出来るだろうさ。
だが――レミリアはお前相手に絶対に屈さないよ。例え肢体をバラバラに裂かれても、レミリアがお前相手に心折れたりするものか。
そんなレミリアにお前は一体どうやって勝つっていうのさ?お前のような臆病者に、レミリアの心を絶望に染めることなんか出来ないだろ」
「貴様っ!!!」

 萃香の言葉に、幽香の心に狂気の炎が灯る。
 身体の奥底から溢れ出るおぞましき程の力に、萃香の顔が苦痛に歪む。あの萃香が力で押され始めたのだ。
 だが、萃香が退くことは決して無い。幽香に対峙したまま、腕に力を込めて言葉を紡ぎ続ける。

「予想外か?この場の誰一人として心を絶望に染められないのがそんなに悔しいか?
ははっ、所詮お前の力なんてその程度のモノなのさ。いいや、違うね。お前や私の力なんて、アレの前には塵も同じなんだ。
それは人間だって妖怪だって変わらない。誰かの為に強く在る姿、愛する者の為に力を合わせる姿…それは私達大妖怪をも相手にしない最強の力だ。
感じるか、風見幽香。連中の心に溢れる想いが、熱く燃える希望の炎が。そしてその全てを一身に受ける小さな勇者の熱き鼓動を感じているか?」
「感じているわ…けれど、そんなモノは私の障害になりはしない!
想い、心、希望、その全てを私が絶望の海に沈めてあげる!全てを飲み込み、破壊し尽くし、私は運命を超える!」
「…悲しい妖怪だね、風見幽香。
私はお前に勝てない。紫だってお前には勝てない。でも、レミリアはお前に勝つよ。レミリアはお前なんかに負けてやれる理由がないんだからね。
最後に一つ、忠告しておいてやるよ。――レミリアの拳、じっくりとその身で味わいな。レミリアの拳は、今のアンタにゃ耐えられぬ程に
死ぬほど熱く死ぬほど痛いだろうからね」

 最強の妖怪、風見幽香。彼女を前に、萃香は笑みを零して言葉を送った。
 萃香を戦場に立たせるは友との『絆』。過去にも先にも唯一人、自分に打ち勝った莫逆の友の為――それが彼女の『希望』。
































 絶望の空の下。暗黒に染められた大地の中。

 そんな暗闇の中でも力強く数々の『希望』達。

 少女達の願う未来が、幸福が、確信が、誓いが、友情が、絆が、全ての想いが幻想郷で一つに重なっていく。

 その想いの全てはただ一人の少女の為に。この幻想郷で出会った小さな友人の為に。




 諦めない。

 絶対に諦めない。

 負けない。

 絶対に負けない。




 その気持ちが折れない限り、少女達は負けたりしない。

 純粋な想いと人々の絆。その全てが奇跡を織り成す可能性を持つ少女の元に届けられている。

 そう、奇跡を起こすには最早十分過ぎる程に条件は成立している。

 あとは全ての引き金を引くだけ。世界に絶望せず、大切な人の為に立ち続けるみんなの想いに応えるだけ。

 ならば迷う必要はない。

 力は在る。勇気は貰った。あとは真っ直ぐに未来だけを願い、行動に移すだけ。



 時は満ちた。さあ、最後の勝負を始めるとしよう。

 愛する者の為に。愛する未来を紡ぐ為に。









 沢山の愛する人の力を借りて、誰より弱い吸血鬼はここに一つの奇跡を為さんと動き出す。


 最後の最後の大勝負。吸血鬼、レミリア・スカーレット――小さな小さな勇者の最終劇が今ここに。

























『さあ、見せて頂戴。誇り高き吸血姫、レミリア・スカーレット――この世界での、貴女の真実の羽撃きを』























「なっ!?」

 世界の風が変わる。空気の流れが淀みを払うように逆流する。
 その異変に真っ先に気づいたのは、他の誰でもない風見幽香その人。
 何かの間違いかと、幾度と確認するが、それが己の気のせいではないことを知り、強く奥歯を噛み締める。
 その反応に、萃香は即座に事態を読み取り、口元を歪めて言葉を紡ぐ。

「ようやく紫の奴がやってくれたみたいだね。本当、普段怠けているからこういうときに即座に対応出来ないんだよ」
「っ、八雲紫の仕業だと言うの!?馬鹿な…これが一体何を意味するか理解しているの!?」
「してるだろうね。最悪、紫はもう二度と『元には戻れない』。紫は幻想郷の大地に溶け、真なる意味で幻想郷と一つになるだろうさ」

 萃香が言葉を紡ぐ度に、幽香の表情が焦りの色を孕んでいく。
 紫の行ったこと、それは幻想郷と一つになることで、幻想郷と他世界とのつながりを己が力で直接的に制御を行うこと。
 すなわち、紫は幽香と異世界とのつながりを強引にも程がある方法にて断ち切ったのだ。幻想郷と他世界のつながりを断てば、
幾ら世界と一つになっている風見幽香とて、無限に力を異世界から引いてくることが出来なくなる。紫は幻想郷と他世界全ての
つながりを遮断し、幽香の供給ラインを完全にストップさせたのだ。無論、幽香は紫が境界を操る力を持っていることは知っていたが、
この選択肢を選ぶことは微塵も想定していなかった。何故なら、世界と世界のつながりを断つことは妖怪の力では決して不可能だからだ。
 世界と世界を結びつけるも切り別れるも、可能なのは世界の意志だけ。すなわち、世界の意志がそこになければ、幾ら紫とて
そのような大掛かりな軌跡を起こすことは出来ないのだ。だが、紫はその身を世界に溶かすことで実行に移してみせたのだ。
 幽香は信じられないという感情のまま、吐き捨てるように萃香に言葉を投げつける。

「八雲の管理者と博麗の巫女…そのどちらかが欠けたとき、幻想郷は終焉を迎える。
あの八雲紫が後先のことすら考えられぬ一手を打つとは思わなかったのだけれど…」
「八雲の管理者は既に藍に代替わりしてるよ。紫はその身を犠牲にする可能性を孕んでも、お前を危険視してるのさ、風見幽香。
さて、友の放った渾身の一手、お前は一体どうする?最早お前に無限の力は存在しない。あとはお前を潰せばそこで終わりだろう?」
「――私を倒すですって?クククッ…アハハハハハッ!!この現状の私ですら打破出来ぬお前達がこの私を!?
たかが世界と私を切り離しただけで勝った気でいるなんて、実に愚かね!私には本体のこの力と、分身体の力が存在するのよ?
それらを全て一つにしてしまえば、お前達は各個撃破すら出来なくなると言うのに…」
「どうかねえ?無限の回復力さえ無くなってしまえば、私は勝機が出来たと見るがね。
どんな妖怪だって、自分より大きな力の前には無力だ。アンタを飲み込む程の力が存在すれば、どうかねえ?」
「――面白い。その安い挑発、高くつくわよ。最早手加減などしない、私の全ての力でこの世界を消してあげる!!」

 声を高らかに叫び、幽香は全ての分身体と魔植物の力を己が本体へ集中させる手順を取る。
 彼女の魔術展開と共に、魔植物の全ては枯れ果て、分身体は風に溶けるように形を失い、幽香の元へ集まろうとしていた。
 だが、それはこの戦場で唯一見せた幽香の隙。幾度の戦場を乗り越えた妖怪であっても、紫の秘術により幽香は落ち着きを多少欠いていたのだ。
 勝ちだけを望むながら、現状維持のままで力の差で押し続ければよかった。だが、幽香は運命に打ち勝つことだけに固執し、圧倒的な
力の差を誇示せんが為に、己が本体に力を集める一手を選んでしまった。世界への、運命への呪いが幽香を愚かな一手へと導いてしまったのだ。



 見逃さない。

 戦場にて一度も逃げることなく幽香を観察し続けていた少女がそんな隙を見逃す筈がない。

 それは少女が今の今まで待ち続けていた好機。
 恐らくはこの戦場にて二度と訪れないであろうラストチャンス。

 モノにする。
 絶対にモノにして、勝ちを紡ぎ取る。
 このチャンスをモノにして、戦いを終わらせる。

 永い時間を待ち続けた。
 勝利を掴む為に堪え続けた。
 最早少女を縛るモノは何一つ存在しない。後は力を解放するだけ。
 狂気と過去に囚われた妖怪から勝利を紡ぎ取る為に、少女は己が力の全てを引き出す。

 少女の待ち望んだこの状況を作ってくれた沢山の人々の為にも――必ず成功させてみせる。絶対に勝ってみせる。
 この戦場に集まってくれた人々の想いと願いを――全てはこの瞬間の為に!!






 ――恐ろしい程の妖気の爆発。
 突然膨れ上がった力に、幽香は己の意志とは関係なくその方向へ視線を向けさせられる。
 そして、その光景に幽香は表情を驚愕に歪める。遥か下の大地に立つ少女――レミリアの全身から溢れ出る爆大な妖気に。
 何処までも力強く、何処までも全てを包み込むような力に、幽香は息を飲む。あれ程の強大な力を幽香が他者に見出すのは初めての経験だった。
 単純な力の大きさだけなら、八雲紫はおろか、今の彼女自身よりも大きいだろう。それほどの力を一体何処に。
 そんな幽香の驚きを余所に、好機を掴み取る為に少女は動き出す。手に持つ紅の神槍にその膨大な魔力を注ぎ込み、力を槍だけに集中し。
 そして、少女は全てを終わらせる為に、紅の槍を力強く振りかぶり、幽香目がけて全ての力を込めて解き放つ。

「幽香ァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」

 少女から放たれた紅槍に、幽香は己が身体に警告を走らせる。拙いと、あれを食らってしまえば唯では済まないと。
 だが、幽香は飛翔する槍を回避する行動がとれない。何故なら幽香は分身体達と一つになるための魔術を行使していた為。
 今、その魔術を解いてしまえば、分身体や魔植物の妖気を二度と回収出来なくなってしまい、霧散化させてしまうことになる。だが、
分身体を吸収するには、レミリアの解き放った槍があまりに速過ぎる。吸収を待てば、間違いなく紅槍が己が身体を刺し貫くだろう。
 幽香が完全に動きが止まるその刹那――その瞬間をレミリアは狙っていた。その真実を知り、幽香は気づけば愉悦を零していた。

 面白い。面白い。面白い面白い面白い面白い面白い!!
 まさに運命、勝利を確信する自分に最後の最後まで抗ってくるレミリアはまさしく世界の用意した運命の壁だ。
 どんな未来になろうとも、最後に自分を邪魔してくるのはレミリア・スカーレット。それはまさしく幽香の『想定内』だった。
 幽香はレミリアのことを完全に運命の申し子だと見做していた。レミリアこそが自分に立ち塞がる最後の壁だと認識していた。
 どんな困難をも乗り越える少女。どんな奇跡をも叶えてみせる少女。ましてやレミリアは力を取り戻しているのだ。
 出会ったときから、今のこの刹那まで、幽香はレミリアを一度たりとも弱者であると視界から外したことはない。
 どんな敵よりも、どんな妖怪よりも強敵、それが幽香のレミリアへの評価であった。最強の敵であるレミリア、そんな彼女のマークを
幽香が外す筈もなかった。故にこれは『想定内』――想定内ならば幾らでも対応出来る!
 幽香は分身体の力を己と融合させることなく、即座に転用できる攻撃用の魔力へと変換し、己が掌に集める。
 そして、レミリアが放った紅槍目がけて迷うことなく全力で力を解き放つ。それは彼女が得意とする力――マスタースパークだ。
 全てを飲み込んでしまいそうな程に巨大な光の柱が、レミリア目がけて解き放たれる。そして幽香は笑って声を発する。

「貴女の作戦、実に見事だったけれど――私の勝ちよ、レミリア!!
貴女を殺し、世界を壊して私は運命を超える!!エリーの!くるみの!オレンジの!全ての者の怨みを今ここで晴らしてあげる!!」

 己が勝利を確信し、幽香は愉悦を零す。
 幽香の解き放ったマスタースパークとレミリアの解き放った紅槍。
 その二つがぶつかりあう刹那、幽香はレミリアの表情がどれほど恐怖に歪んでいるかを覗く為に視線を送った。
 だが、そこにあったレミリアの表情は何処までも笑顔。したり顔で笑いながら、レミリアは幽香に向けて何かを呟いていた。
 その言葉は遠く離れた幽香の耳には届かない。だが、幽香には届かずとも、レミリアの周囲の風に溶けることは出来る。
 彼女の周りを舞う風が、空気が少女の確かな言葉を聞いた。それはレミリアから幽香に送られた届かぬ言葉。









『…幽香。貴女の敗因は二つよ。
一つは私を過大評価し過ぎたこと。私の記憶を読むことで『不必要な過去』の情報まで手にしてしまったことが理由の一つ。
そしてもう一つは、貴女が私の最大の武器を知らなかったこと。私の本当の最大の武器は己が魔力でもましてや他人の力でもない――』

 一度言葉を切って、レミリアは胸を張って声を大にした。
 そのレミリアの叫びは槍と魔法の衝突と全く同時に――レミリアの実にヘタレな言葉が幻想郷に響き渡ったのだ。




『私の最大の武器にして、か弱いこの身をここまで生き延びさせた最高の技術――それは勿論『ハッタリ』よ!!
幽香みたいな強靭無敵最強な悪魔超人をこの私如きが倒せると思いこんでしまったこと、それが全ての大間違いよ!!!!』













 レミリアの紅槍は幽香の魔法に着弾した刹那、それはまるで風船が破裂するように『ぱん』と小さな音を立てて呆気なく崩れ去って。
 あれだけ強大な妖気を込められていた筈の槍が、まるでその妖気がハリボテで塗り固められていたかのように何一つ抵抗せずに消えて。
 その事態に幽香は勿論のこと、この場の誰もが驚き言葉を失っていた。その場の殆んどの者がレミリアの力によって幽香の魔弾を
捩じ伏せると思っていたからだ。それが捩じ伏せるどころか、何の抵抗も出来ずに呆気なく崩れ去ってしまったのだ。この事態を
どうして驚かずにいられようか。だが、驚く暇など戦場には存在しない。レミリアの解き放った紅槍では勢いを少しも微塵もこれっぽっちも
止められなかった幽香のマスタースパークがレミリア目がけて疾走しているからだ。
 その状況に気づき、戦場の文が、輝夜が、アリスが、妹紅が、永琳が。その場の誰もがレミリアを護る為に駆け出していた。
 だが、レミリアのはったりに引っ掛かった彼女達では決して間に合わない。レミリアのはったりは見事に敵も味方も騙すことに成功していたのだ。
 そうでなければ、きっとレミリアは幽香を騙すことが出来なかった。敵も味方も騙せるほどの演技でなければ、あの幽香を騙し通すことは
絶対に出来なかった筈だ。だが、その代償が今レミリアの命を奪わんと解き放たれている。
 その光景に、その場の誰もがレミリアの名を叫ぶ。少女の命が奪われる光景を幻視し、この戦場で初めて絶望に心が染まりそうになる。



 レミリアが死ぬ。大切な少女が命の危険に晒される。
 そんなことが許されるのか。否、断じて否。
 失わせない。大切な人を今度こそ自分の手で護る。この人だけは絶対に守り抜く。
 そう誓った者達がいた。レミリアの為に生きると願った者達がいた。
 故に、彼女達はレミリアのハッタリになど騙されず、即座に行動に移していた。
 例えレミリアに力があろうとなかろうと関係ない。レミリアは必ず守ると誓った。レミリアは自分が助けると誓ったのだから。

 故に、ここに彼女達の力は届く。
 レミリアの前に集うは、レミリアが護ろうとした大切な家族達。
 誰よりも傍でレミリアを見守り続けてきた彼女達が、この場でレミリアを護れないなど許される筈もない。
 守り抜く。誰よりもこの人を守り抜いてみせる。
 レミリアの前に少女達が集い、力を合わせて防壁を張る。温存し続けた力は今この時の為に。全ては愛する者を護る為に。
 その光景に、レミリアは声を大にして言葉を紡ぐ。それは本当にヘタレな言葉で――それでもその場の誰もが望んでいた言葉。

「信じてた!美鈴、パチェ、咲夜、私は貴女達を信じてたわ!
貴女達なら私の力の有無に関わらず助けてくれると信じてた!幽香の攻撃が怖くて怖くて…やばい、本気で泣きそう」
「アホなこと言ってる暇があるなら、私達の後ろに隠れてレミィ!美鈴、咲夜、力を集中し続けて!押し返すわよ!」
「分かってますって!気を失っているフランお嬢様の分も私が働いてみせますとも!」
「勝つ…!勝ってまたいつもの紅魔館に戻る…!その為にも、母様は殺させないっ!」

 三人が力を合わせて展開した防壁が、幽香の放つ魔法をギリギリのところで押し戻そうとする。
 突然の防壁にこれこそ面食らった幽香だが、何ら慌てる必要はない。結局のところ、結果だけをみればレミリアのハッタリで
こちらは何の被害も受けておらず、向こうは死に損ないの連中による障壁を張っただけ。やがて光がレミリア達を飲み込むのも
時間の問題だ。そう考え、幽香はマスタースパークへの力を更に押し上げようとした刹那である。

 魔力を解き放っていた幽香の遥か頭上の空。その場所に小さな空間の隙間が生まれる。
 そして、そこから現れた少女達。彼女達の力を感じ取り、幽香は視線を其方に向ける。そこにはこれまで
この戦場の何処にも存在していなかった少女達の姿があった。

「九尾の狐…そしてあれは」

 空間の隙間を生み出した九尾、八雲藍の傍に存在する二人の少女に幽香は目を向ける。
 そこに存在する少女達、それは純粋な人間である博麗霊夢と霧雨魔理沙の二人。幽香が一度手を合わせ、取るに足らぬ
存在であると一蹴した少女だ。それがどうして今この状況で――そんな疑問を考えていた時、幽香の心は驚きに包まれる。
 その少女の片割れである霧雨魔理沙が幽香に向けて八卦炉を構え、己が力を八卦炉へと集中している。それはいい、こちらを
攻撃するというだけなら、人間如きの力で幽香は微塵も動じたりしない。だが、その魔理沙に集っている力が明らかに異常だった。
 霧雨魔理沙の魔力の高まり、その大きさはやがて幻想郷の妖怪達の力をも遥かに越えてゆき。気づけば幽香すらも簡単に
消し去ることが出来るほどの力へと変わっていた。その光景に幽香は動揺を隠せない。何故、たかが人間があれほどまでの力を
扱える。どうして唯の脇役である筈の存在が、あれだけの力を持っている。その幽香の疑問を紐解くには、今より少しばかり時間を遡る必要がある。















『私が何としてでも幽香に隙を作るから――霊夢、魔理沙、トドメの一撃は貴女達にお願いするわ』

 レミリアの言葉に、霊夢と魔理沙が言葉を失い呆然とする。
 そして、先に自分を取り戻した魔理沙が、まだ驚きの表情を浮かべたままレミリアに訊ねかける。

『あー、いや、それは構わないんだが…どうして私達なんだ?
話を聞く限り、風見幽香ってとんでもない化物なんだろう?そいつ相手に隙を作るのは並大抵のことじゃない筈だ。
その隙を私達に預けるなんて…同じ一撃なら萃香の奴とかの方が良いんじゃないのか?』
『いいえ、貴女達じゃないと駄目なのよ。貴女達じゃないと、きっと幽香は倒せない。
私はこの結論に絶対の自信を持っているし、その裏打ちのなる根拠だって存在してるのよ!』
『ほう、その根拠とは?』

 興味津々に訊ね返す魔理沙に、レミリアは胸を張って答えを紡ぐ。
 それはもう声を大にして、自信満々に。

『幽香が前に言ってたのよ!自分の怖いモノは『無鉄砲な巫女と魔法使い』だって!
ほら、霊夢と魔理沙って見事に条件に当てはまってるじゃない!だから幽香相手は二人が適役なのよ!』
『へー、そうなのかー。…って、何だその適当過ぎる理由は!?駄目駄目過ぎるだろ!?』
『え!?何処が!?だって幽香、巫女と魔法使いが…』
『それはそいつが私達以外の巫女と魔法使いに痛い目にでも遭わされただけの話しかもしれないだろ!?
そもそも風見幽香っていうのが嘘ついてるかもしれないし!』
『なん…ですって…?いや、でも幽香がそんな嘘なんてつくとは思えないし…大丈夫!二人なら絶対に出来る!』
『なんで励まし口調になってるんだ!?おい霊夢、お前からもこの天然お嬢様に何とか…』

 ああだこうだと言いあっている二人に、今まで口を閉ざしていた霊夢がゆっくりとレミリアに言葉を紡ぐ。
 その真剣な眼差しに、レミリアもまた真っ直ぐに霊夢を見つめ返す。

『…レミリア。はっきり言っておくけれど、私はつい最近、一度風見幽香に負けているわ。それも手酷く一方的にボコボコにされてる』
『お、おい霊夢…?』
『あの時、私はコイツには勝てないって思った。あまりの自分の情けなさに無様に泣いたりもした。
そんな私だと知っても、アンタは私に任せてくれる?アイツを倒す為の、一番重要な役割を私に任せてくれるの?』
『――当然よ。私は例え霊夢が幽香に何百万回負けていたと知っても、貴女に任せると思うわ。
幽香が言っていた言葉とは関係なしに、私は貴女と魔理沙じゃないと、きっと駄目だと思ってる。貴女達なら大丈夫だって、私は確信してる。
霊夢と魔理沙なら、絶対になんとかしてくれる。霊夢と魔理沙なら…私達の未来を、幻想郷を絶対にどうにかしてくれると』

 真っ直ぐなレミリアの瞳に、霊夢は少しばかり気おくれしたのか、視線を彼女から逸らす。
 だが、レミリアは真っ直ぐに霊夢を見つめたまま、霊夢の両手を包み込むように握りしめ、声を大にして告げる。

『霊夢、自信を持って。幽香に一度負けたからなんだって言うのよ。
ハッキリ言うけれど、私は霊夢が怖かったわ!幽香なんか比べ物にならないくらい怖かった!そんな霊夢が幽香に負ける訳ないでしょ!』
『い、いやレミリア、お前言ってること結構無茶苦茶だからな?』
『紫よりも幽々子よりも萃香よりも誰よりも私は霊夢が怖かった!でも、今は全然怖くないわ!それは霊夢が友達になってくれたから!
霊夢が友達になってくれたとき、私がどれだけ嬉しかったか貴女は知ってる?あんなに強くてあんなに格好良くてあんなに無敵な巫女が
友達になってくれたとき、私は人里のみんなに自慢したいくらい舞いあがっていたのよ?博麗の巫女は幻想郷のヒーロー!主役!英雄なの!
例えどんな敵が相手でも、私のヒーローは絶対に誰にも負けたりしない!負けたら這い上がってスーパー巫女になって帰ってくるの!
どんな状況でも、どんな敵が相手でも、絶対に負けない私の霊夢!私の自慢の大切な友達!どんな逆境でも簡単にひっくり返して
迷惑かけてばかりの私の頭を叩きながら『心配かけんな馬鹿』って言ってくれる、それが私の大好きな博麗霊夢だもの!だから霊夢は幽香に負けないわ!』

 どうだと言わんばかりに胸を張るレミリアに、霊夢はやがて表情を崩していく。
 それは笑顔。仕方ないと言わんばかりに呆れつつも、確かな優しさを湛えた少女の笑顔。
 霊夢は自身と対峙するレミリアをそっと優しく抱きしめ、からかうように言葉を紡ぐ。

『そこまで言われて、流石に逃げるなんて格好悪い真似なんて出来ないわよ。
――任せなさい、レミリア。アンタの家族、アンタの妹、アンタの全てを私が絶対に救ってみせるわ』
『霊夢…ありがとう、霊夢。
本当は私が出来ればいいんだけど、私は本当に無力だから…だから、お願い霊夢…みんなを、みんなを助けて』
『ただし、全てが終わったら…その時は覚悟しなさいよね。沢山心配かけたんだもの、私が良いと言うまで許してあげないんだからね』
『…えーと。もしかして私は邪魔者か?あれか?もしかしなくとも、私の存在忘れられていたりしないか?』
『勿論する訳ないでしょ。あの風見幽香を倒す為には、私と魔理沙…アンタの力が必要なんだから』
『お?もしかして霊夢、何か良い案でも思いついてるのか?』

 魔理沙の問いかけに、霊夢は力強く頷く。
 そして霊夢の語る風見幽香を倒す為の策を聞き、やがて魔理沙はにんやりと楽しそうに笑い賛成する。
 ――そういう賭けは嫌いじゃない。ましてや、こんなにも大切なモノが背負った勝負となるとワクワクするな、と。
















 ――夢想天生。

 全ての柵、限界の枷を解き放つ霊夢だけに許された力。それがこの博打に必要不可欠な力。
 この力と魔理沙の持つ改造された八卦炉の力、その二つを利用することで幽香に対する勝機が生まれる。
 魔理沙の持つ八卦炉は、彼女が以前『自分の魔力量と同程度の力を限界とし、収集、ストックし、砲撃として使用することが出来る』というカスタムを
行っている。この力は理論上、魔理沙の魔力上限によって制限されるものの、言いかえれば魔理沙の上限を超えない限りは魔力を貯め続けることが出来るということになる。
 では、ここに魔理沙の魔力上限を取っ払ってしまったと仮定したらどうなるだろうか。もし魔理沙に魔力量の限界が存在しなければ、
一体どれだけの力を収集し、溜め、解き放つことが出来るだろうか。

 それはあくまで夢物語に過ぎないが、もし魔理沙が限界を超えてしまえば、その力は神をも世界をも倒せる程の力となる。
 そう、それはあくまで夢物語。――だが、今この現実に夢物語を現に変えることが求められた。
 そんな無茶苦茶を可能にすること、それが霊夢の役割。彼女の持つ夢想天生によって、魔理沙を限界の壁から解き放つ。かつて霊夢が
咲夜の限界を超えさせたように、今回もまた同じように行うだけ。
 だが、霊夢はこの力を自在には操れない。自分の意志では使いこなせない。その不安をレミリアは呆気なく解き放ってくれた。
 レミリアが霊夢に送った言葉の一つ一つが霊夢の心を勇気づけた。少女の霊夢を信じる想いが、霊夢の強さを蘇らせた。

 博麗の巫女、博麗霊夢。
 その気になれば幻想郷の誰にも負けないと言われる少女の覚醒の時。
 迷いを捨てた少女に最早操れぬ力など存在しない。魔理沙の限界を解放し、霊夢と魔理沙は藍の力を借りて、只管この戦場で息を潜ませて
力の収集に務めてきた。仲間達の魔弾を、幽香の放つ魔弾を次々と影に集めてゆき、やがてくるであろう舞台の為に準備を整え続けた。

 ――そう。言ってしまえば、この戦場の全ての人々は、最後の真打ちの為に戦い続けたのだ。
 少しでも多く幽香を倒す為の力を霊夢達が集められるように、その真実に幽香が決して気付かぬように。
 そして、その為にレミリアは幾度と幽香の気を引く為の演技を演じてみせた。微塵も持たぬ妖気を薄く張り詰め、自身が強大な力を
持っているかのように演じてみせたり、最後のトドメ役は自分であるかのように演じてみせたり。
 少女達の積み重ねた全ては、この奇跡の為に。そして今、真なる意味での勝負の時は満る。
 マスタースパークを放っている幽香は、霊夢と魔理沙の登場に気づいても、其方の方に攻撃を繰り出せない。攻撃を一度止めたところで、
即座に霊夢達の方角へ攻撃に移ることは出来ない。レミリアの存在が、過分なまでのレミリアへの過大評価が、確かな幽香の足止めを築いていた。
 完全に動きを止められた幽香に、霊夢は動けないことを確信し、魔理沙に指示を送る。

「レミリアは見事に役目を果たしてくれた。あとは私達の番よ、魔理沙。
ぶっ潰すわよ。レミリアを散々弄んでくれた罪、ここで全部償ってもらうわ」
「分かってるさ――狙いは外さないぜ。みんなが築いてくれた好機、私達の手で決めてみせないと女が廃るってな!」
「風見幽香、色々言いたいこともあるけれど、今は一つだけにしてあげる。
――私の大切な親友を泣かせるんじゃないわよ!このクソ妖怪がああああああ!!!!!!」

 そして、魔理沙から解き放たれるは風見幽香のマスタースパークすらも越えるほどの強大な大砲撃。
 想像を絶するほどの力に、幽香は生まれて初めて己の死を錯覚する。あれをまともに食らっては駄目だと何度も何度も身体中に警告が鳴り響く。
 逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。それは風見幽香という誇り高き妖怪の在り方を完全に否定する選択肢。
 故に選べない。そのような選択肢を選んでしまえば、自分が自分ではなくなってしまう。
 ならばどうする、撃ち返しは不可能。今自身が展開しているマスタースパークが完全に反撃という選択肢を削除してしまっている。これほどの
大砲撃を今更方向転換など出来る筈もない。どうするどうするどうするどうするどうする――
 風見幽香としての誇り、運命への勝利への執念。その二つの葛藤で、幽香は最終的に後者を選ぶことになる。捨てて良い。風見幽香という
誇りを捨ててでも、自分は勝たなければならない。運命に、世界に、そうでなければ救われない。他の人々が救われないではないか。
 英断を選び、幽香はマスタースパークを止める。そして、霊夢と魔理沙の放った力に向き合う。
 あれほどの力を完全回避することは出来ない。だが、致命傷を避ければ勝機は在る。身体を再生するだけの妖力は残っている、この攻撃での
致命傷を避けて、身体を即座に回復させてレミリアを潰せばそれで終わりだ。何処何処までも勝利にしがみ付く幽香の執念、それは実に称賛に値するものだろう。
 事実、それが出来れば幽香は勝ちだった筈だ。誰も彼もが消耗した中で、幽香を止められる相手など存在しないのだから。

 だが、幽香はそれを行動に移すことが出来なかった。
 回避行動に移った筈の身体が、元の位置から少しも動いていないのだ。まるで距離でも操られたかのように。
 全く状況が掴めない幽香だが、視線の片隅に一人の死神の姿を映し出す。
 その死神は鎌を大地に突き立て、にやりと笑って幽香にそっと言葉を紡ぐ。

『――アンタには言わなかったっけか。このどでかい借りは近い未来に十倍にして返すってね。
四季様は運命に介入するなと言ったが、そんな未来を幻想郷を愛する四季様が心から望む筈がないだろう?
だから私は存在するのさ。四季様の愛するモノを護る為に、私はこうして仕事をサボるって訳だ。だから妖怪――いい加減眠りなよ』

 小町の言葉を幽香には届かない。しかし小町の意志は確実に幽香に届いている。
 怒りに心を振わせ、幽香は視線を砲撃の方へと移す。最早回避手段を失った幽香にこの攻撃を避けることなど出来はしない。
 やがて彼女を包み込むは全てを終わらせる希望の光。激しい光に包まれながら、幽香は最後にぽつりと言葉を紡いだ。


「結局、私は最後の最後でまた貴女達に敗れたということ…フフッ、貴女達は、この世界にちゃんと生きていたのね――靈夢、魔理沙」

 抗う力を捨て、風見幽香は全てを受け入れた。
 彼女の浮かべた表情、最後に見せた表情は何処までも優しく――温かな笑顔に溢れていた。

























 指一本動かぬ身体。最早妖気も殆んど存在しない。
 大地に身体を沈め、幽香は何一つ抗うことなく力を失っていた。
 やがて聞こえてくる誰かの足音に、幽香は寝ころんだまま起きることなくそっと言葉を紡ぐ。

「…見事よ、レミリア・スカーレット…
貴女は私相手に勝利を収めてみせた…決して逃げることなく奇跡を成し遂げてみせたこと、素直に称賛するわ…」
「…別に奇跡を起こそうとした訳じゃないわ。
私は護りたかった…大切な人が死ぬなんて、絶対に嫌だった…みんなと一緒にいたい、ただそれだけだったのよ」
「そう…貴女は本当に必死だった…ただ純粋に前だけを見つめて、決して諦めず…その結果が、この結末よ…」

 自身を覗きこむように見つめるレミリアに、幽香は最早邪気一つ含まれない笑顔のままに言葉を紡ぐ。
 そして、レミリアから視線を逸らすように、虚空を見つめながら、誰にでもなく言葉を続ける。

「結局、私は運命に勝てなかった…どんなに力をつけても、運命には勝てないのね…
本当、滑稽ね…本当、無様…最後は誇りを捨てた、十全を賭した、それでも私は勝てなかった…これが私の運命なのかしらね…
こんなものはただの見当違いなやつあたりだと理解していても…それでも私は勝ちたかった…」
「ええ、そうね。貴女は運命に勝てなかった。貴女の望む勝利を得ることは叶わなかった」

 レミリアの淡々とした言葉を幽香は何も反論せず受け止める。
 そんな幽香に、レミリアは『だから』と前置きして、そっと言葉を続けた。それは幽香が予想すらしていなかった言葉。

「――だから、私が幽香の代わりに勝ってあげたわよ。
私は…いいえ、私達は『幻想郷滅びの危機』という運命に勝った。幽香の代わりに運命をフルボッコにしてあげたわよ」
「は――」
「要は発想の転換よ。貴女が運命に敵わなかったということは、私達が運命に勝ったということ。
理由は知らないけれど、貴女の憎みに憎んでいた運命は結果として私達が退治してあげたの!だからこれから先、貴女を縛るモノは何一つ無くなったじゃない!」
「…貴女、マッチポンプって言葉を知ってる?」
「アーアーキコエナーイ。とにかく!幽香が散々根に持ってた運命とかいうのは退治したから、これからは前向きに生きていきなさい!
前を向いて他の人達を襲ったりすることなく楽しく毎日を生きていくこと!それが勝者…っていうのは凄くおこがましくて嫌なんだけど、
とにかく勝った私からの命令よ!この命令は絶対なんだから、破ったら…えっと、ええっと、とにかく酷いからね!分かった!?」
「…貴女、まさか私を生かすつもり?私の生を、コケにするつも…」
「『私を殺せ』とか言われても無理よ!だって私他人を殺すだけの力なんて持ってないもの!
あ、もしかして幽香に言った『お前を殺す』って言葉をまだ信じてるの?任務了解、お前を殺すと言ったわね、あれは嘘よ!
その証拠に見るが良いわ!この私の全力全開、フランの力を借りないグングニル(笑)の力の煌めきを!」

 そう言って、レミリアは掌に先ほど幽香に投擲した神槍を創り出し、迷うことなく幽香の腹部へと突き立てる。
 すると神槍は幽香の身体に突き刺さることなく、まるでゴム製か何かのようにぐにゅんと思いっきり座屈し、そして霧散した。
 その光景を幽香は呆然と眺め、そして耐えきれなくなったように笑みを零し、十分過ぎるほどに笑った後に、レミリアに告げる。

「…完敗よ、レミリア。本当、酷い娘ね…最後の最後まで、私の期待を裏切ってくれる…」
「勝手に見当違いな期待をして裏切ったなんて言う方が酷いと私は思う!でも…お願いだから生きてよ、幽香…
確かに幽香の行った行動は許せないし、幽香のせいで沢山の人が傷ついたわ。だけど…」

 一度言葉を切って、レミリアは幽香の傍でそっとしゃがみ込む。
 そして幽香の瞳をじっと見つめながら、真っ直ぐに言葉を紡ぐ。それはレミリアの心からの本心。

「…だけど、それでも幽香は私の大切な友達なのよ。
何も力の無い私に、何も持たず一人だった私に、幽香は手を差し伸べてくれた。
それが例え『本当の私』を引き出す為だったとしても…それでも私は嬉しかった。幽香と会ってお話しすることが、凄く凄く嬉しかったのよ。
私は幽香の過去を知らない。どうして幽香が運命に縛られているのかも分からない。でも、それでも私は願うわ。
幽香が未来に生きることを、幽香が笑って一緒に過ごしてくれる未来を…しょうがないじゃない。どんなことがあっても、やっぱり幽香は私の友達だもの」

 レミリアの言葉に、幽香は返答を返さない。
 ただ、瞳を閉じて、最後にそっと言葉を口にした。それは、どこまでも安らかな想いに充ち溢れた言葉で――

「…あの閻魔の言う通りね。私は私の望む生も死も手に入れられない…
こんな世界があることを知ってしまえば…そんなこと、望めないじゃない…本当に、レミリアは…意地悪ね…」

 そして、幽香は今度こそ意識を闇に沈め、気を失った。
 レミリアは慌てて幽香の胸に耳を当て、彼女にまだ鼓動があることを確認して安堵の溜息をつく。
 結局、少女は冷徹に徹せなかった。だが、そんなものを望む者などこの場に誰も存在しない。
 レミリアはレミリアのままで風見幽香と向き合った。その結果だけで、誰も文句を口にすることはなかった。
 ただ、願わくば、この妖怪がレミリアによって救われますように――そう心の中で祈りながら。

 幽香の傍から立ち上がり、レミリアは周囲に集まってくれた人々をぐるりと見渡し、そして深く深く頭を何度も下げる。
 むしろ頭を下げるどころか土下座する勢い…いや、もう土下座を行っていたりした。土下座をしながら何度も何度もお礼を告げる。

「ありがとう!!みんな、本当に本当に本当に本当に本当にほんとーーーーーーにありがとう!!!
みんなのおかげで誰一人死ぬこと無く助けることが出来た!もう感謝の言葉を表わしきれないくらい感謝してる!!」

 そんなレミリアの姿に、この場の誰もが笑いあう。最後の最後でコレなのだから、笑うのも当然だが。
 あまりに情けない姿を色んな意味でオープンにしてるレミリアに、いい加減苦言を言おうとした霊夢が口を開こうとしたその時だ。
 彼女達の背後から、パチュリーの悲痛な叫びがレミリアの元へ届けられる。

「レミィ!!急いでこっちに…フランドールの方へ来て頂戴!!」
「パチェ!?ふ、フランがどうしたの!?」
「フランドールが…フランドールが危険なのよ!!このままでは…このままではフランドールが一日持たずに死んでしまうわ!!」

 パチュリーの叫びは虚空に溶け、悲痛な声はその場の誰もの胸に。
 風見幽香という嵐を乗り切った少女達。そんな少女達に襲い来る最後の悲報。

 レミリア・スカーレットという少女が愛する最愛の妹――フランドールの命を救わずして、彼女達の望む結末は訪れない。
 誰もが笑っていられるような、そんな幸せな結末を。奇跡をカタチに出来るのは、きっとたった一人の少女だけ。
 最後の奇跡を導いて、最後はどうか幸福な結末を…彼女達の未来の行方は、運命の少女へと委ねられた。













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