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No.13774の一覧
[0] うそっこおぜうさま(東方project ちょこっと勘違いモノ)[にゃお](2011/12/04 20:19)
[1] 嘘つき紅魔郷 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:52)
[2] 嘘つき紅魔郷 その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[3] 嘘つき紅魔郷 その三 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[4] 嘘つき紅魔郷 エピローグ (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[5] 嘘つき紅魔郷 裏その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[6] 嘘つき紅魔郷 裏その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:55)
[7] 幕間 その1 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:11)
[8] 嘘つき妖々夢 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:24)
[9] 嘘つき妖々夢 その二[にゃお](2009/11/14 20:19)
[10] 嘘つき妖々夢 その三[にゃお](2009/11/15 17:35)
[11] 嘘つき妖々夢 その四[にゃお](2010/05/05 20:02)
[12] 嘘つき妖々夢 その五[にゃお](2009/11/21 00:15)
[13] 嘘つき妖々夢 その六[にゃお](2009/11/21 00:58)
[14] 嘘つき妖々夢 その七[にゃお](2009/11/22 15:48)
[15] 嘘つき妖々夢 その八[にゃお](2009/11/23 03:39)
[16] 嘘つき妖々夢 その九[にゃお](2009/11/25 03:12)
[17] 嘘つき妖々夢 エピローグ[にゃお](2009/11/29 08:07)
[18] 追想 ~十六夜咲夜~[にゃお](2009/11/29 08:22)
[19] 幕間 その2[にゃお](2009/12/06 05:32)
[20] 嘘つき萃夢想 その一[にゃお](2009/12/06 05:58)
[21] 嘘つき萃夢想 その二[にゃお](2010/02/14 01:21)
[22] 嘘つき萃夢想 その三[にゃお](2009/12/18 02:51)
[23] 嘘つき萃夢想 その四[にゃお](2009/12/27 02:47)
[24] 嘘つき萃夢想 その五[にゃお](2010/01/24 09:32)
[25] 嘘つき萃夢想 その六[にゃお](2010/01/26 01:05)
[26] 嘘つき萃夢想 その七[にゃお](2010/01/26 01:06)
[27] 嘘つき萃夢想 エピローグ[にゃお](2010/03/01 03:17)
[28] 幕間 その3[にゃお](2010/02/14 01:20)
[29] 幕間 その4[にゃお](2010/02/14 01:36)
[30] 追想 ~紅美鈴~[にゃお](2010/05/05 20:03)
[31] 嘘つき永夜抄 その一[にゃお](2010/04/25 11:49)
[32] 嘘つき永夜抄 その二[にゃお](2010/03/09 05:54)
[33] 嘘つき永夜抄 その三[にゃお](2010/05/04 05:34)
[34] 嘘つき永夜抄 その四[にゃお](2010/05/05 20:01)
[35] 嘘つき永夜抄 その五[にゃお](2010/05/05 20:43)
[36] 嘘つき永夜抄 その六[にゃお](2010/09/05 05:17)
[37] 嘘つき永夜抄 その七[にゃお](2010/09/05 05:31)
[38] 追想 ~パチュリー・ノーレッジ~[にゃお](2010/09/10 06:29)
[39] 嘘つき永夜抄 その八[にゃお](2010/10/11 00:05)
[40] 嘘つき永夜抄 その九[にゃお](2010/10/11 00:18)
[41] 嘘つき永夜抄 その十[にゃお](2010/10/12 02:34)
[42] 嘘つき永夜抄 その十一[にゃお](2010/10/17 02:09)
[43] 嘘つき永夜抄 その十二[にゃお](2010/10/24 02:53)
[44] 嘘つき永夜抄 その十三[にゃお](2010/11/01 05:34)
[45] 嘘つき永夜抄 その十四[にゃお](2010/11/07 09:50)
[46] 嘘つき永夜抄 エピローグ[にゃお](2010/11/14 02:57)
[47] 幕間 その5[にゃお](2010/11/14 02:50)
[48] 幕間 その6(文章追加12/11)[にゃお](2010/12/20 00:38)
[49] 幕間 その7[にゃお](2010/12/13 03:42)
[50] 幕間 その8[にゃお](2010/12/23 09:00)
[51] 嘘つき花映塚 その一[にゃお](2010/12/23 09:00)
[52] 嘘つき花映塚 その二[にゃお](2010/12/23 08:57)
[53] 嘘つき花映塚 その三[にゃお](2010/12/25 14:02)
[54] 嘘つき花映塚 その四[にゃお](2010/12/27 03:22)
[55] 嘘つき花映塚 その五[にゃお](2011/01/04 00:45)
[56] 嘘つき花映塚 その六(文章追加 2/13)[にゃお](2011/02/20 04:44)
[57] 追想 ~フランドール・スカーレット~[にゃお](2011/02/13 22:53)
[58] 嘘つき花映塚 その七[にゃお](2011/02/20 04:47)
[59] 嘘つき花映塚 その八[にゃお](2011/02/20 04:53)
[60] 嘘つき花映塚 その九[にゃお](2011/03/08 19:20)
[61] 嘘つき花映塚 その十[にゃお](2011/03/11 02:48)
[62] 嘘つき花映塚 その十一[にゃお](2011/03/21 00:22)
[63] 嘘つき花映塚 その十二[にゃお](2011/03/25 02:11)
[64] 嘘つき花映塚 その十三[にゃお](2012/01/02 23:11)
[65] エピローグ ~うそっこおぜうさま~[にゃお](2012/01/02 23:11)
[66] あとがき[にゃお](2011/03/25 02:23)
[67] 人物紹介とかそういうのを簡単に[にゃお](2011/03/25 02:26)
[68] 後日談 その1 ~紅魔館の新たな一歩~[にゃお](2011/05/29 22:24)
[69] 後日談 その2 ~博麗神社での取り決めごと~[にゃお](2011/06/09 11:51)
[70] 後日談 その3 ~幻想郷縁起~[にゃお](2011/06/11 02:47)
[71] 嘘つき風神録 その一[にゃお](2012/01/02 23:07)
[72] 嘘つき風神録 その二[にゃお](2011/12/04 20:25)
[73] 嘘つき風神録 その三[にゃお](2011/12/12 19:05)
[74] 嘘つき風神録 その四[にゃお](2012/01/02 23:06)
[75] 嘘つき風神録 その五[にゃお](2012/01/02 23:22)
[76] 嘘つき風神録 その六[にゃお](2012/01/03 16:50)
[77] 嘘つき風神録 その七[にゃお](2012/01/05 16:15)
[78] 嘘つき風神録 その八[にゃお](2012/01/08 17:04)
[79] 嘘つき風神録 その九[にゃお](2012/01/22 11:18)
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[13774] 嘘つき花映塚 その二
Name: にゃお◆9e8cc9a3 ID:dcecb707 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/23 08:57



 一度、二度と大きく翼を羽ばたかせ、文は飛行速度を目的地の到着にあわせて漸減させてゆく。
 飛行から滑空へ、滑空から停空へ。『空を飛ぶ』という技能を持つだけの者達には出来ない美しき流れの形を伴って、
妖怪の山随一の飛行能力を持つ少女は大空を舞う。終着点の上空に辿り着き、文は大きく一息ついて目的の地を俯瞰する。
 博麗神社、そこに住まう人間、博麗霊夢。それが文の次の取材対象であり、今回会いに来た人物でもある。
 先ほど出会い、話を交わした人間の少女――霧雨魔理沙から得た情報より、文は次の標的を霊夢一人に絞り、異変に関する情報を呼び水として
なんとかレミリアに関する情報を得ようと考えていた。なんせ、博麗の巫女は紅霧異変においてレミリアを打倒した過去がある。それが例え
お遊びの弾幕勝負であっても、あのレミリア・スカーレットに唯一土をつけた存在となれば、文の好奇心をくすぐるのは当然の帰結であり。
 ましてや、博麗霊夢はレミリアと交友関係にあるという情報も流れている。ならば、博麗の巫女に取材を申し込むのは
一連の面倒を全て省くことが出来、実に効率的だとも言える。

「…なんだけど、ね。あの魔法使いの言ってた台詞が妙に気になるのよねえ…不機嫌だとか妖怪相手だと拙いだとか。
ま、そんな理由で引き下がるような私じゃないけれど。博麗霊夢、貴女には良いネタを期待させて貰うわよ」

 ご自慢の翼をはためかせ、手には愛用の手帳と筆を。ゆっくりと博麗神社の地へと高度を落とし近づいていく。
 境内に降り立ち、文は軽く周囲を見渡す。外に人の気配は無し、どうやら博麗霊夢は室内らしい。そう判断を下し、文は居住区らしき
建物の方へと足を進めていく。神社や設備に興味をひかれ、写真を撮ろうかとも考えたのだけれど、今日の取材は博麗神社ではないため自重する。
 そして、居住区の中庭の方へ歩いて行くと、その縁側に女性が一人腰を下ろしているのを発見する。
 あちらも文の存在に気付いたのか、湯呑を両手に持ちながら、じっと文の方を見つめている。その視線に、文はお得意の営業スマイルを浮かべてみせる。
 悪意がこちらに無いことを表情で示し、文はその女性へと近づき、いつも通りの挨拶を紡ぐ。

「どうもどうも、いきなりお邪魔して申し訳ありません。
私、妖怪の山に棲む鴉天狗、清く正しく誠実にがモットーの射命丸文と申します。はじめまして」
「…ええと、どうも」
「あやや、これはこれは友好的なご挨拶、恐縮です。ちなみにこちらは私の発行しております文々。新聞なのですが
定期購読はお済ですか?今でしたら、新聞に加えて河童特製汚れのよく落ちる洗濯洗剤がセットで…」
「…ええと、申し訳ないのだけれど、新聞勧誘なら私にしても無駄だから。私、この神社の家主でもなんでもないから」
「ですよねー。ええ、ええ、貴女が博麗の巫女ではないことくらい最初から分かっていましたとも。
ですが、やはりこの日この時この場所でお会いできましたのも何かの縁と申しましょう。という訳で貴女個人で新聞契約の方は…」
「お断りよ。私も霊夢も新聞は不要、他に用が無いなら悪いことは言わないから霊夢が帰ってくる前に帰りなさい。
あの娘、今頗る機嫌悪いから八つ当たりされても知らないわよ?ましてや貴女は妖怪なんだから」
「ほうほう、博麗霊夢さんは不在かつ妖怪相手に機嫌が悪いと。それはやっぱり今回の異変に関係して?えーと…」
「アリス。アリス・マーガトロイドよ。はあ…何だか面倒なのが来ちゃったわね。こんなことなら帰るべきだった」

 文の問いかけに、少女――アリス・マーガトロイドは実に面倒そう、億劫そうに答える。
 返答を待つ文に対し、アリスはちらりと視線を向ける。まるで観察するように文を一通り眺め、言葉を選ぶ。

「残念だけど、私は霊夢の情報は何も話さないわよ。あとで霊夢に怒られたくないし」
「ええ…いえいえ、そう仰らずに。そもそも、どうしてアリスさんが私に霊夢さんのお話をすると怒られちゃうんですか」
「だって貴女、天狗じゃない。天狗とは風説を玩ぶ者、ようするに御喋り好き。
例えば貴女に霊夢に関する一を語ったとして、それが十にも百にも五千六百九十二にもされてはかなわないわ」
「異議あり!そのご意見には異議ありです!それは所謂ひとつの妖怪種族差別です!
天狗だからと言って、誰も彼もがそうという訳ではありません。私は清く正しく純真無垢を売りにする清廉潔白幻想郷伝統のブンヤなのですよ?」
「それなら、私が話すことは誰にも話さないと約束出来るの?誓約の遵守、誓いの魔法陣でも描いてみる?」
「世の中に絶対なんて言葉は存在しませんよ。秘密が漏れることもまたマスコミュニケーションの今後の課題の一つなのです。
仕方ありません、私は取材対象のもしもを考え、ここは引き下がることにいたしましょう」
「本当、調子の良いことで。…まあ、霊夢のことは何も話さないけれどそれ以外なら」
「いいんですか!?」
「…少し引きたくなるくらいの喰いつきようね。言っておくけれど、私の答えられる範囲なら、よ」

 アリスの譲歩に、文は心の中で小さくガッツポーズをとる。正直、博麗の巫女の取材は不在という点で完全に諦めていただけに
予定外の取材が行えることに喜んでいた。どうもアリスの口振りからして、博麗霊夢との仲は良好らしい。ならば、彼女もまた
レミリア・スカーレットにつながる情報を持っているかもしれないということ。不機嫌が続いているという噂の巫女よりも、
落着きと冷静さを感じる目の前の少女の方が余程有益な情報を得られるかもしれない。そうプラスに前向きに文は考えることにして、
さっそく手帳を開いて筆の準備をする。取材対象の名前を霊夢からアリスへと切り替えて。

「それでは早速取材を行わせて頂きたいのですが…」
「待って。先に訊いておきたいのだけれど、貴女の用事って『それ』?
霊夢に訊きたいことがあったけれど、霊夢は不在。代わりにここに偶然滞在していた私に…それで間違いない?」
「ええ、間違いありませんが…どうしてまた?」
「もし霊夢に会わないといけない用があるのなら、後日にしないといけないでしょう。
何日の何時頃に会いたいと言っていたって霊夢に伝言しないといけないもの。貴方だってこういう無駄足をまた踏みたくないでしょう?」
「あやや…その、何と言いますか、よく『人が良い』とか『苦労性』とか言われたりしません?」
「…放っておいて。もう自分でも諦めてるから…性分なのよ」
「えっと…まあ、私はアリスさんのような方は好きですよ?一緒に居ると面倒事全部押し付けて楽できそうですし」
「それ全然褒めてないじゃない…まあいいわ。ほら、さっさと気が変わらない内に訊きたいことを言いなさい」

 肩を落としながら話すアリスの姿に、文は営業スマイルの中に自然と湧き出る笑みも含ませる。
 そんなアリスの気が変わらない内に情報を収集するべく、文は心を新聞記者のそれへと切り替え、アリスに対して強弱をつけて質問を投げかける。

「それでは早速。私がアリスさんにお訊ねしたいのは、今この幻想郷を騒がせている異変についてです」
「異変?…ああ、季節感が全く統一されない花が咲き乱れてるアレ?」
「そうですそうです。その異変について、新聞に一筆しようかなと考えこうして情報を収集しているのですが、
この異変について何かご存じではありませんか?元凶とか犯人とか志望動機とか犯行時間とか」
「…あのねえ。そんなこと知ってたら、『私がこの異変の犯人です』って言ってるようなものじゃない。私がそんなこと知る訳ないでしょうに」
「ですよねえ。まあ、先ほどのは冗談でして、本当に何かご存じありませんか?小さな情報でも構わないのですが」
「異変…異変ねえ。悪いけれど、今回の異変に関して私はノータッチなのよ。調査をしていないの。
興味が無い訳ではないけれど、今は他のことで手が離せないし…今回、異変のこと探っているのは私の回りだと霊夢くらいじゃないかしら」
「おや、いいんですか?霊夢さんの情報をお話しても。あとで怒られても私は知りませんよ?」
「博麗の巫女が異変に対して行動を起こすなんて誰でも知ってる情報よ、別段隠すようなことでも無し。
とにかく、私は異変について何も知らないわ。情報を得たいなら、人里辺りで聞き込みでもした方が余程良い情報を得られると思うわよ」
「午後からはそうさせて頂きますよ。あと、アリスさんから見て、やっぱり博麗の巫女に直接取材とかは…」
「…止めておきなさい。異変に関する情報で霊夢が許可した内容なら、私が改めて貴女に話してあげるから。
今の霊夢は…本当に不安定なのよ。少し厳しい言い方になるかもしれないけれど、貴女のような心労を今の霊夢に与えたくないの」
「あやや、心労ですか。私としましては、取材させて頂く方には極力気持ちよく話して頂けるように心がけているつもりなのですが」
「気に障ったならごめんなさい。貴女がどうとか、そういう問題じゃなくて…ね。
私個人としては、貴女は嫌いじゃないわよ。常識を理解しているし、頭もよく回る。話していて気持ち良いわ」
「…褒めても何も出ませんよ?というか、天狗相手なら普通は腹に一物とか考えません?自分で言うのもあれですけれど、私、結構酷いですよ?」
「むしろそれくらいの方が楽なのよ。私の周りは裏なんて無い直球勝負な連中ばかりだから、いつもいつも苦労するのは私だし…
ま、それは良いとして…とにかく、霊夢の取材だけは止めておきなさい。異変に関する情報なら、私が霊夢に話を聞いててあげるから」
「そうですね…今回はアリスさんという民間協力者を持てた訳ですし、良しとしておきましょう。
私としましても、博麗の巫女と事を荒立てたり気分を悪くさせたりするつもりもありませんので」
「そう、それは有難いわ。最近、ようやく機嫌の最低値を脱却したばかりだもの。このせいでまた機嫌を損ねられちゃかなわないわ」
「…もしかしてアリスさん、博麗の巫女の奥様か何かですか?」
「…否定したいけど、最近強く否定できないわ。どうして私が霊夢の為に家事なんてやってるのよ…確かにここでも魔法の研究は出来るけど。
いくら心配だからとはいえ、最近三日に二日はここに泊ってるし…でも、私が目を離すと今の霊夢はすぐ駄目な生活を送ろうとするし…」

 頭を抱えて悩みだすアリスに、文は今度からこの手の質問はしないことにしようと考える。何故か文にアリスの姿が可哀想に映ったらしい。
 流石の文も、アリスと霊夢の関係を同性愛などと微塵も考えるつもりはないが、ある意味これも爛れた関係なのかなどと思ったりする。
 アリスのお人好しと友達想い、情の厚さが霊夢をどうしても放っておけない。だから帰れない。無駄に自分を縛ってしまう苦労性な性格。
 心許した人限定ではあるのだろうが、駄目な人を見ると手を貸さずにはいられない、力になりたいと考えてしまう、それがきっとアリスなのだろうと文は推測した。
 そう考え、文は優しい笑みを浮かべ、とんとんとアリスの肩をそっと叩き、アドバイスを送る。

「アリスさん、貴女は将来ダメ男に引っ掛かるオーラが溢れかえってますのでお気をつけて」
「そんな心配いらないわよっ!!余計なお世話以外の何物でもないし!!」
「もしよろしければ知人の天狗をご紹介しますよ?私は興味無いんで全力でお断りしたんですが、
丈夫な卵を産めそうな番いを探してる大天狗が二、三人程いまして。厄介払いも兼ねてアリスさんにご紹介できればなと」
「卵なんて産めるかっ!しかも貴女今さりげなく厄介払いって言ったでしょ!?」
「あやや、残念です…アリスさんの未来をなんとかより良きものに変えられればと思ったのですが」
「だから人の未来をダメ男に引っ掛かる前提で話すの止めてくれる!?はあ…こういうのは妖夢とかの役割なのに」

 弄られキャラや突っ込み役を友人に押し付けてるあたり、アリスも大概な発言ではある。無論、妖夢を知らない文は頭に疑問符を浮かべるしかないが。
 アリスと雑談を交わしながら、文は手帳に得られた情報を整理していく。霧雨魔理沙に続き、アリス・マーガトロイドという少女の情報を。
 一人の人物として文はアリスに好感を抱いているが、そこに記者としての文が入ると別の観点が生まれる。記者の文にとって、アリスという
少女は情報源にもなりうるが、肝心の奥底は見せてくれない強かな人物に映っている。すなわち、押そうが引こうがアリスからはきっと
一定以上の情報は得られないだろうと考えている。文の言葉に、アリスはノーシンキングで情報の取捨選択を行っている。文に対し
どの情報をどの程度まで与えれば良いのかを即時に判断する、その能力と頭脳をアリスは持ち合わせている。
 そのことを文は肌と直感で感じ取り、記者としてアリスは揺さぶれない人物だと判断したのだ。よって、文はアリスに対し友好な関係を
築く為に会話を構成している。打算に満ちているように感じられるが、それをアリスは受け入れるだけの心を持っている。そのことが
文には非常に好ましい。アリス・マーガトロイドの大きさに敬意を表しつつ、文は程々の情報収集を行い続けた。

「とまあ、こんなものでいいかしら。他に訊きたいことは?」
「そうですね、今はこれで十分です。取材協力、心より感謝いたします、はい。
近い未来に記事になると思いますので、その際は是非とも文々。新聞の定期購読を…」
「考えておくわ。勿論、サービスは沢山してくれるのよね?」
「当然です。今ならご契約頂いたお客様全員のお宅に対し、この私め射命丸文が直々に早朝配達させて頂きますよ。文ちゃん目覚まし、便利ですよ」
「それは…嬉しいようであまり嬉しくないサービスだわ」

 苦笑するアリスに、文はニコニコ笑みを浮かべたままに別れの挨拶を切り出す。
 博麗の巫女には会えなかったけれど、予想外の情報を沢山得られた…アリスとの話で、文はそう結論を下す。
 むしろ不機嫌な博麗の巫女と相対するよりも余程有意義になったのではないかとすら思う。また後日ここに寄ってアリスと話をしよう、
そう考えながら文は神社から飛び立とうと黒羽を広げたその刹那だった。背後のアリスから突如、文に言葉が投げかけられたのは。

「そうそう、文。最後に一つだけ言っておくわ。
私の時はともかく、霊夢と直接会ったときに今日のような取材は止めておきなさいね」
「あやや?今日のような、と申しますと?」
「知れたこと――会話の中で『レミリアに関する情報をばれないように引き出そうと誘導すること』よ」

 アリスの言葉に、文は営業スマイルを止め、目を見開いて口を真一文字に結ぶ。無論、背後を向けているのでその表情はアリスに見えないようにだが。
 先ほどまでアリスと雑談に興じた中で、確かに文はアリスに対し何度か探りを入れていた。それとなく、レミリアに関する情報を引き出せないかと
考えて、だ。だが、文は魔理沙の時とは違い、直球的にレミリアの情報を問い質すことはしなかった。何故なら、先ほどの魔理沙の態度を見て、更に
情報管理が厳しいアリスがそう簡単にレミリアの情報をくれるとは思えなかった為だ。霧雨魔理沙と博麗霊夢はつながりがある、ならば霧雨魔理沙と
アリス・マーガトロイドにつながりがあると考えるのは文としては自然な考えであった。故に、魔理沙の時のようにストレートでいくと態度を
強張らせかねない。よって相手に気付かれないように上手く引いた状態のままで探ることが出来た…そう考えていたのだが。
 こちらの手の内はばればれ、か。そう結論付け、文は営業スマイルではなく『射命丸文本来の笑み』を浮かべてアリスに向き直る。

「本当、貴女は優秀よね、アリス。好意にも尊敬にも値するわ」
「ありがとう。それと、今の貴女が本当の射命丸文なのね。
どうせならいつもそちらでいなさいよ。今の貴女の方が話してて肩が凝らなそうで良いわ」
「新聞記者としての矜持の問題よ。取材対象には心から礼節を持って、懇切丁寧第一主義」
「あら、今の貴女は記者ではないの?」
「取材は終えたもの。今の私は唯の友人でしょう、アリス・マーガトロイド」
「そうね、今の私達は唯の友人ね、射命丸文」

 文の砕けた態度にも、アリスは少しも動じない。
 それも当然で、アリスは最初から文が裏表も一物あるとも考えていたのだから驚く筈もない。
 そんな冷静さが文にはますます好ましい。これから先も彼女とは良い友人として付き合っていけそうだと、文は笑みを零す。

「それじゃ、私は今度こそ失礼するわ。アリス、貴女の忠告をしっかりと心に留めさせて貰うわね」
「そうしなさい。霊夢の前でレミリアの話だけは絶対に駄目よ。それだけは遵守しておきなさい」
「…訊かないのね、私がレミリア・スカーレットに関して情報を探ろうとする理由を」
「訊かないわよ。貴女が誰の情報を探ろうと勝手だもの。ただ…」
「ただ…?」
「…なんでもないわ。とにかく、私や霊夢からレミリアの情報は期待しないで。
探すなら自分の足で探しなさい。苦労は若いうちに買ってでもするものよ」
「千年の時を生きる天狗に説教とは言ってくれるわ。有難く頂戴しておくけれど。
それでは、また会いましょう――アリス・マーガトロイド」
「ええ、また会いましょう――射命丸文」

 疾風迅雷、まるで風の化身のように文はアリスから消えるように高速で空を翔けていった。
 去って行った文の方向を眺めることもなく、アリスは軽く息をつく。そして、先ほど文に呟きかけた言葉を思い返し、自嘲する。

「ただ…レミリアに関する情報を手に入れたら、私にも教えて頂戴、というのは流石に虫が良過ぎるか。
あちらもレミリアと私達の関係を突っ込まずに自制したのに、こちらばかり求めてもね。情報は魔理沙の役目、私は私の役割を果たさないと」

 冷え切ってしまった緑茶を啜りながら、アリスは今は遠い友人達に想いを馳せる。
 湯呑をそっと横に置き、青く澄んだ空を見上げてアリスはぽつりと呟く。今は遠い友人達に、そっと。



「…早く会いに来なさいよ、レミリア、咲夜。このままじゃ、霊夢に許して貰えなくなっちゃうわよ。
今の霊夢はカンカンで、不機嫌で…本当に、今にも泣き出してしまいそうな顔してるんだからね」





























「ん~…予想以上。いや、この場合、予想以下って表現すべきなのかしら」

 夕刻を迎え、日が完全に傾き始めた人里の通りにて、文は足を進めながら一人頭を悩ませていた。
 博麗神社から移動し、人里にてレミリアに関する情報捜索を始めた文であったが、人々から得られた情報は実に面倒なものであった。
 得られた情報量はまさしく文の想定以上のものであった。レミリア・スカーレットの名は人里でも…否、妖怪の山以上に強く広まっており、
誰も彼もがその存在を知っていてレミリアの情報を語ってくれた。
 しかし、得られた情報の質が予想以下に悪過ぎる。なんせ、訊く人訊く人によって情報内容に差が在り過ぎるのだ。
 レミリア・スカーレット、彼女について人は本当に様々な人が存在した。
 やれ極悪な妖怪だの最強の妖怪だの幻想郷で一番害のある妖怪だの、それこそ悪鬼羅刹の表現も可愛らしく感じるように語る人もいれば
やれ唯のお菓子好きだのやれこの前漫画を立ち読みしていただのやれ道端で石に躓いて転んで泣きそうになっていただの、有り得ない
レミリアを語る人もいた。まるでレミリアが複数人いるかのように、人々の情報はあまりにまばら過ぎて、その点に文も頭を悩ませていた。

「なかには寺小屋で掃除を手伝っていたなんて馬鹿話もあったし…人間の為に掃除をする吸血鬼なんている訳ないでしょう」

 ぶつくさと愚痴を零す文だが、流石に彼女も文句の一つも言いたくなると言うものだ。なんせレミリア・スカーレットは
鬼を打ち倒し八雲と肩を並べる幻想郷の強者。それがどうして寺小屋の掃除なんて話とつながるのか。自分の目と耳を一番とする
心はあるものの、流石にそんな情報を文は鵜呑みにすることが出来ない。というか、出来る方がどうかしている。
 吸血鬼は夜の覇者、その力は鬼に並び立ち、その空を翔ける力は天狗にも比肩すると謳われる。その吸血鬼が、寺小屋の掃除などするのか。
 情報に玉石混合するのは当然のこと、しかし今回ばかりは石の混じりが多過ぎるのではないか。無論、その情報を自分が気に入らないから
嘘だなどと記者としてあるまじき行為をするつもりは微塵もない文だが、流石にレミリア=寺小屋の掃除手伝いだけは受け入れることが出来なかった。

「というか、何より手痛いのはレミリア・スカーレットの目撃証言がここ数カ月ばったり途切れてるってことなのよね…
誰も彼も見たのは半年以上も前だったりするし…ということは、人里にレミリアは来ていないのかしら」

 人里に足を最近めっきり運ばないとなると、この人里内でレミリアのよく行く場所を特定してそこで張る意味もなくなってしまう。
 文の目的はあくまで異変取材のついで、その偶然を利用してレミリアに接触することなのだから、肝心のレミリアが
人里に来ないのでは何の意味もなくなってしまう。半年以上も目撃証言が無いのなら、人里で出会える可能性は頗る低いということになる。
 魔理沙、アリスと順調に情報を小出しに得られたのはよかったが、この人里では良くも悪くも情報を得過ぎてしまった。玉石混じり過ぎた
情報は人の判断能力を曇らせる。無論、文とてその点は強く理解し心に留めてはいるが、こうなると人里で目撃されたレミリアが本当に
レミリアなのかどうかすら疑わしくなってくる。ケーキを食べたり漫画を読んだり寺小屋で掃除をしたりした妖怪は、もしかしたら
レミリアに良く似た別の妖怪なのではないだろうか。そもそも、人間に吸血鬼と他の妖怪の違いを理解出来るのかどうかすら疑わしい。
 日傘等で日陰を作っていたり、背中に羽が生えていたりする=今を騒がせてる妖怪、すなわちレミリアなどという短絡思考が
働いた可能性も否めない。むしろ、噂内容の大きな二極化からその可能性は非常に大きい。もしそうならば、本物のレミリアは、紅魔館から一切足を外に
運ばない可能性だって出てきてしまう。そうなると文は完全に手詰まりだ。紅魔館内部に侵入して偶然を装うもくそもないのだから。

「あやや…困ったわね。状況を打開するには足で行動するしかないんだけど…どうするか」

 足を止め、手帳に状況を取りまとめながら、文は次の一手を思考する。
 レミリアが人里に足を運ばないとなると、文に打てる手は大きく限られてしまう。すなわち、人里以外でレミリアの足を運ぶ場所を
捜索しなければならない。そうすると、再び人里の外での聞き込みが必要となってくる。人里では人里外の情報はどうしても色落ちてしまう。
 一番早い手は霧雨魔理沙かアリス・マーガトロイドを捕まえてレミリアの行動範囲を聞き出すことだ。二人は間違いなくレミリアとつながりがあり、
恐らくレミリアの良く行く場所も知っているだろう。けれど、あの二人がレミリアの情報を口にするとは思えない。二人が駄目なら、博麗の巫女など以ての外だ。
 次に早いのは、博麗神社付近で張り込むことだろう。博麗霊夢とレミリアの間で交友関係があるのは、八雲の妖怪の証言からはっきりしている。
 ならば、博麗神社にレミリアが足を運ぶ可能性は非常に高い。そこを張り込んでしまえば、偶然を装って近づくことは容易い…が、これまた来るという確証が無い。
 有用な一手を見出せず、頭を悩ませる文だが、ふと視線の先に気になる光景が広がっていることに気付く。


 一人の少女がちょこんと地面に腰を下ろしている。

 その状況を表現するなら、たったその一言で棲むのだが、更に詳しく説明するとなると、様々な不可思議な付帯状況が付いてしまう。
 まず第一に、少女が腰を下ろしているのは、正確には地面ではなく、使い古された茣蓙のようなもの。縦横一、二メートル程度の長方形型の
薄襤褸のそれに、少女は足を崩して座っていた。そして、少女の前には二、三個程パンにもお菓子にも見えるものが置かれていた。
 また、少女の上には雨避けの為か薄板で簡易の屋根のようなものが作られている。四本の脚の上に薄い木板を少女の正面以外覆った
箱モノのような、ある意味部屋とも呼べるかもしれないが、遠くから見るとまるで少女が箱に納められた地蔵か何かに見えてしまう。
 加えて、少女は厚手の服装に顔も隠れてしまうようなフードを被ってしまっている。どうして、その様相で相手が少女だと分かるのかと
言えば、その人物の背丈が本当に小さいことと、長丈のスカートを着用していることから判断したのである。それでも春先のこの季節で
真冬とも思えるようなその格好は十分異彩を放ってはいるのだが。
 そして何より目に付くのは、この少女が人通りの多い表通りではなく、あまり人の来そうにない裏路地の隅でこのような奇怪な行動を
取っていた点にあった。どうして誰もいないような、こんな場所で…何かの遊びだろうか。まさかこれが家と言う訳ではないだろうけれど…

 そんな風に文は思考を巡らせていた。
 人間の子供か何かの遊びだろう。別に自分が気にする必要もなければ、興味を惹かれるようなことでもないだろう、そう考えることだって出来た。
 けれど、文はそう判断しなかった。そのへんてこりんな光景に、言ってしまえば心惹かれた。
 文は常に面白いを好み生きてきた。興味惹かれるものに対し、常に全力で向かい走りときに追い。それが射命丸文の生き方だった。
 だからこそ、文は今回も自身の生き方、本能に従って判断を下す。ニコニコと楽しそうに笑みを零し、文は少女のもとに近づき、そっと声をかける。

「――こんにちは、お嬢さん」
「ふぇ…?」

 文の接近に全く気付いていなかったらしく、頭上から声を掛けられて、少女はゆっくりと顔を文の方へと上げる。
 そのフードから垣間見ることが出来た少女の素顔に、文は表情にこそ出さないものの驚いてた。その少女の容貌のなんと整ったことか。
 物乞いの子供をも予想していただけに、少女の様相は文にとって実に予想外であった。まるでどこぞの令嬢かと思わせる程に可愛らしい顔、
そして何処までも澄み切った綺麗な瞳。同性ながら、文は少女の可愛らしさに賞賛を送りたくなってしまう。恐らくあと少し成長すれば、
この少女は異性泣かせな女の子になるだろう、と。そんな文の不埒な思考とは反対に、少女は驚きの表情からやがて満面の笑みへと表情を変え、文に元気よく言葉を紡ぐ。

「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいませ?えっと、どういうこと?お店ごっこでもしてるの?」
「ご、ごっこじゃないわよ!立派なお店よ!私はここで商売してるの、しょーばい!」
「お店?商売?」

 少女の反論に、文は少し視線を彼女から外してぐるりと店(?)を見渡していく。
 敷かれた古茣蓙、雨風を防ぐ屋根、ぷーっと頬を膨らませる少女、そして少女の目の前に並べられた二個のパン。
 そこまで視界に入れ、文はようやく事態を呑みこめたのか、ぽんと掌を叩いてニコニコと笑顔で言葉を紡ぐ。

「そういうこと。貴女、おやつの時間なのね」
「そうそう…って、違うわよ!?どうしておやつの時間をここで一人寂しく迎えなきゃいけないの!?
私がしてるのは商売だって言ったじゃない!売ってるの!私はここでパンを売ってるの!」
「売ってるのって言われても…商品、二つしかないじゃない」
「そりゃそうよ、今一体何時だと思ってるの。良いパンはみんなお昼に売れちゃったわよ。お得意様が買っていったわ」
「お得意様がねえ…ちなみに最初は何個あったの?」
「三個!」
「…あー、いや、ええと…なんていうか、ごめん」

 嬉しそうにハキハキ答える少女に、文は思わず目頭を押さえてしまう。
 少女の笑顔がまた文の心をズキズキと痛めてしまう。『全然売れてないじゃない』という突っ込みすら引っ込めてしまう程に。
 気を取り直し、文は少女の方に視線を向け直して疑問を投げかける。

「そもそも、貴女はどうしてこんなところで商売なんてしているの?ここ、裏通りよ?人来ないでしょ?
どうせ売るんだったら、表通りで捌いた方が良いと思うんだけど…」
「んー…私もその方が良いかなと思ったんだけど、美鈴と咲夜がね。
まあ、表通りは店長さんのお店もあるし、じゃあ私は裏通りで頑張るとしましょうって考えた理由もあるけれど」
「表通りに店長さんのお店?」
「ほら、西通りの和菓子屋さん。私、あそこで働かせて貰ってるの。
働かせて貰ってるというか、調理器具と材料を借りて、自分の作ったモノをこうして売ってるだけなんだけどね」
「へえ、それで売り上げは懐に入ると。歩合制でやる気も入りそうね」
「?入らないよ?お金は全部店長のだよ」
「…いや、おかしいから。給料が出るとか?」
「?でないよ?お金、何も貰ってないよ?」
「…いやいやいや、おかしいから。何、貴女ただ働きさせられてるの?その年齢で?」
「ただ働きというか、趣味でやってることだし。私、お菓子作りとか大好きなのよ。
だから和菓子屋の店長さんにお願いして、道具と材料を貸してもらってる。その代わりに、私の売り上げは店長さんにあげるって交換条件。
店長さんは給料を渡すってずっと言ってきたんだけど、私はそんなの欲しくないし、美鈴も咲夜もいいって言ったし…そもそも迷惑かけてるの私だからね」
「ふーん…貴女が良いなら、それで良いけど。それにしても、子供に見えてしっかりしてるのね。何歳?」
「子供じゃないわよ!立派なレディよ!」
「そうね、立派なレディね。胸もお尻もぺたんこだけど立派なレディね。それで、何歳?」
「…知らない。私、自分の年齢知らないし」

 いじけるように言う少女に文は笑いながら、声をかけたのは正解だったと自分の判断に賞賛を送りたくなった。
 声をかけた少女のなんとも珍妙で面白いことか。こんなに幼いのに、自分の趣味の為に和菓子屋に頼み込んで道具を貸して貰い、
こうして自己満足の為に商売を為す。なんともまあ面白い少女だ。思いがけない出会いに、文は更なる会話を望み更に言葉を投げかける。

「貴女、面白いわね。私は文、射命丸文よ」
「教えない。文に私の名前は教えないわ」
「それでも構わないわ。貴女が私の名を知ってくれた、胸に刻んでくれたことが何より大事なの。
それじゃ店長さん、早速だけど商談に入らせて貰えるかしら。貴女のご自慢のパン二つのね」
「買うのね!?私のパンを買ってくれるのね!?ええと、一つが…」

 むすっとしていた少女だが、文の言葉を聞いて表情を百八十度切り替える。きらきらと目を輝かせて
期待に胸躍らせて金額を告げる少女に、文は満足げに微笑みながら手持ちのお金で支払いを済ませる。
 お金を受け取り、少女は首にぶら下げた小袋にお金を入れて、薄紙で作った袋に二つのパンを入れ、満面の笑みで文に手渡す。
 パンを渡され、それを早速口にしようとした文だが、少女から『ダメッ!』という制止の声をあげられ、手を止める。
 不思議そうに首を傾げる文に、少女は笑みを浮かべながら理由を語る。

「食べるのは私のいないところで食べて頂戴」
「そうなの?どうして?」
「だって、その方が楽しいじゃない!文に今、感想を聞かずにこのまま私は家に帰るの。
そうして『文はパンを美味しく食べてくれたのかな。その感想を明日聞けるのかな』ってワクワクしながら寝るの。
そうすると、明日がもの凄く楽しみになるじゃない!ワクワクの気持ちがいっぱいでおはようを迎えられるの!」
「何よそれ。あははっ、本当に子供ねえ」
「子供じゃないわよ!立派なレディだって言ってるでしょ!
そういう訳だから、食べるのは後にして。そして明日絶対に感想を言いに来ること!あとついでにまた私のパンを買いなさい!」
「本当、注文の多いパン屋さんね。まあいいけれど。パンの購入については、美味しかったら検討してあげる」
「ふふん、言ったわね。見てなさい、絶対絶対私のパンは美味しいんだから!」

 小さな胸をこれでもかと張る少女の微笑ましい姿に笑いを零しつつ、文はもうすぐ日が暮れそうな時刻になりつつあることを確認する。
 そろそろ山の方に戻らなければ、また可愛い後輩にきゃんきゃんと怒られてしまう。そんなことを考えながら、文は少女に向かい別れの言葉を紡ぐ。

「それじゃ、そろそろ私は行くとするわ。貴女は一人でお家に帰れるの?」
「馬鹿にしないでくれる!?私だって家に帰るくらい一人で出来るわよ!…む、迎えは来てくれるけど」
「ああ、そうなんだ。それなら安心ね。保護者の人の手を離して勝手にフラフラしちゃ駄目よ?」
「しないわよっ!それにフラフラしたって、家は人里にあるんだから一人でも帰れるもん!!文の馬鹿!」

 ぷんぷんになる少女に悪戯好きな笑顔を浮かべ、文はそれじゃと足を表通りの方へ進めようとする。
 ただ、背後の少女から最後に言葉を投げかけられ、一度は足を止める。

「リアよ。本当は他の人に自分の名前を教えちゃ駄目だって言われてるけど、文なら私のことリアって呼んでもいいわ」
「リア…ね。分かったわ。貴女の名前、しっかりと私の胸に刻ませて貰うわね。また会いましょう、リア」

 別れの挨拶を告げると、リアと名乗った少女は文に満面の笑顔で手をぶんぶんと強く振ってくれた。
 そんな一生懸命な少女を見つめながら、文は手に持つパンに期待を寄せる。さてさて、あの少女は一体どんな驚きを私に与えてくれるのか。
 レミリア・スカーレットに関する有益な情報は得られなかったけれど、なかなかに面白いモノは見つかったわね。
 それが今の文の――射命丸文の純粋な本心だった。小さな再会の約束だけど、何故か胸が躍るものがある。明日もまた楽しくなりそうだ、と。











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