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No.13774の一覧
[0] うそっこおぜうさま(東方project ちょこっと勘違いモノ)[にゃお](2011/12/04 20:19)
[1] 嘘つき紅魔郷 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:52)
[2] 嘘つき紅魔郷 その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[3] 嘘つき紅魔郷 その三 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[4] 嘘つき紅魔郷 エピローグ (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[5] 嘘つき紅魔郷 裏その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[6] 嘘つき紅魔郷 裏その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:55)
[7] 幕間 その1 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:11)
[8] 嘘つき妖々夢 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:24)
[9] 嘘つき妖々夢 その二[にゃお](2009/11/14 20:19)
[10] 嘘つき妖々夢 その三[にゃお](2009/11/15 17:35)
[11] 嘘つき妖々夢 その四[にゃお](2010/05/05 20:02)
[12] 嘘つき妖々夢 その五[にゃお](2009/11/21 00:15)
[13] 嘘つき妖々夢 その六[にゃお](2009/11/21 00:58)
[14] 嘘つき妖々夢 その七[にゃお](2009/11/22 15:48)
[15] 嘘つき妖々夢 その八[にゃお](2009/11/23 03:39)
[16] 嘘つき妖々夢 その九[にゃお](2009/11/25 03:12)
[17] 嘘つき妖々夢 エピローグ[にゃお](2009/11/29 08:07)
[18] 追想 ~十六夜咲夜~[にゃお](2009/11/29 08:22)
[19] 幕間 その2[にゃお](2009/12/06 05:32)
[20] 嘘つき萃夢想 その一[にゃお](2009/12/06 05:58)
[21] 嘘つき萃夢想 その二[にゃお](2010/02/14 01:21)
[22] 嘘つき萃夢想 その三[にゃお](2009/12/18 02:51)
[23] 嘘つき萃夢想 その四[にゃお](2009/12/27 02:47)
[24] 嘘つき萃夢想 その五[にゃお](2010/01/24 09:32)
[25] 嘘つき萃夢想 その六[にゃお](2010/01/26 01:05)
[26] 嘘つき萃夢想 その七[にゃお](2010/01/26 01:06)
[27] 嘘つき萃夢想 エピローグ[にゃお](2010/03/01 03:17)
[28] 幕間 その3[にゃお](2010/02/14 01:20)
[29] 幕間 その4[にゃお](2010/02/14 01:36)
[30] 追想 ~紅美鈴~[にゃお](2010/05/05 20:03)
[31] 嘘つき永夜抄 その一[にゃお](2010/04/25 11:49)
[32] 嘘つき永夜抄 その二[にゃお](2010/03/09 05:54)
[33] 嘘つき永夜抄 その三[にゃお](2010/05/04 05:34)
[34] 嘘つき永夜抄 その四[にゃお](2010/05/05 20:01)
[35] 嘘つき永夜抄 その五[にゃお](2010/05/05 20:43)
[36] 嘘つき永夜抄 その六[にゃお](2010/09/05 05:17)
[37] 嘘つき永夜抄 その七[にゃお](2010/09/05 05:31)
[38] 追想 ~パチュリー・ノーレッジ~[にゃお](2010/09/10 06:29)
[39] 嘘つき永夜抄 その八[にゃお](2010/10/11 00:05)
[40] 嘘つき永夜抄 その九[にゃお](2010/10/11 00:18)
[41] 嘘つき永夜抄 その十[にゃお](2010/10/12 02:34)
[42] 嘘つき永夜抄 その十一[にゃお](2010/10/17 02:09)
[43] 嘘つき永夜抄 その十二[にゃお](2010/10/24 02:53)
[44] 嘘つき永夜抄 その十三[にゃお](2010/11/01 05:34)
[45] 嘘つき永夜抄 その十四[にゃお](2010/11/07 09:50)
[46] 嘘つき永夜抄 エピローグ[にゃお](2010/11/14 02:57)
[47] 幕間 その5[にゃお](2010/11/14 02:50)
[48] 幕間 その6(文章追加12/11)[にゃお](2010/12/20 00:38)
[49] 幕間 その7[にゃお](2010/12/13 03:42)
[50] 幕間 その8[にゃお](2010/12/23 09:00)
[51] 嘘つき花映塚 その一[にゃお](2010/12/23 09:00)
[52] 嘘つき花映塚 その二[にゃお](2010/12/23 08:57)
[53] 嘘つき花映塚 その三[にゃお](2010/12/25 14:02)
[54] 嘘つき花映塚 その四[にゃお](2010/12/27 03:22)
[55] 嘘つき花映塚 その五[にゃお](2011/01/04 00:45)
[56] 嘘つき花映塚 その六(文章追加 2/13)[にゃお](2011/02/20 04:44)
[57] 追想 ~フランドール・スカーレット~[にゃお](2011/02/13 22:53)
[58] 嘘つき花映塚 その七[にゃお](2011/02/20 04:47)
[59] 嘘つき花映塚 その八[にゃお](2011/02/20 04:53)
[60] 嘘つき花映塚 その九[にゃお](2011/03/08 19:20)
[61] 嘘つき花映塚 その十[にゃお](2011/03/11 02:48)
[62] 嘘つき花映塚 その十一[にゃお](2011/03/21 00:22)
[63] 嘘つき花映塚 その十二[にゃお](2011/03/25 02:11)
[64] 嘘つき花映塚 その十三[にゃお](2012/01/02 23:11)
[65] エピローグ ~うそっこおぜうさま~[にゃお](2012/01/02 23:11)
[66] あとがき[にゃお](2011/03/25 02:23)
[67] 人物紹介とかそういうのを簡単に[にゃお](2011/03/25 02:26)
[68] 後日談 その1 ~紅魔館の新たな一歩~[にゃお](2011/05/29 22:24)
[69] 後日談 その2 ~博麗神社での取り決めごと~[にゃお](2011/06/09 11:51)
[70] 後日談 その3 ~幻想郷縁起~[にゃお](2011/06/11 02:47)
[71] 嘘つき風神録 その一[にゃお](2012/01/02 23:07)
[72] 嘘つき風神録 その二[にゃお](2011/12/04 20:25)
[73] 嘘つき風神録 その三[にゃお](2011/12/12 19:05)
[74] 嘘つき風神録 その四[にゃお](2012/01/02 23:06)
[75] 嘘つき風神録 その五[にゃお](2012/01/02 23:22)
[76] 嘘つき風神録 その六[にゃお](2012/01/03 16:50)
[77] 嘘つき風神録 その七[にゃお](2012/01/05 16:15)
[78] 嘘つき風神録 その八[にゃお](2012/01/08 17:04)
[79] 嘘つき風神録 その九[にゃお](2012/01/22 11:18)
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[13774] 幕間 その7
Name: にゃお◆9e8cc9a3 ID:dcecb707 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/13 03:42




 ~side 妖夢~



 流れる汗を拭い、刀を下ろし、私は目の前に対峙する咲夜に一礼する。
 息を切らす私とは対照的に、呼吸一つ乱さず一礼を返す咲夜。…まだまだ届かないなあ。けれど、本当に勉強になる。
 咲夜から離れ、縁側に向かう私と入れ替わるように咲夜のもとへ向かうのは霊夢。霊夢は咲夜の前に立ち、言葉を発さず開始の合図を待つ。
 それを察し、縁側に座っているアリスは私の時同様に足元の小石を拾い、宙に軽く放り投げる。空に放たれた小石が着地する刹那、二人の
影は風に溶け、二人だけが視認しあう、隔離された世界になる。霊夢と咲夜、二人の模擬戦闘が。
 スタートを見届けて、私もまたアリスや魔理沙同様に縁側に腰を下ろし、大きく息を吐く。そんな私に魔理沙は楽しそうに笑い、アリスは
当然のように用意していたタオルを投げてくれる。

「残念だったな。最初は妖夢が勝つんじゃないかって流れに見えたんだけどなあ」
「強引にこっちのペースに持ち込もうとしたからね…私じゃそうでもしないと咲夜相手に立ち回れないから。
ただ、攻め急ぎ過ぎたのが駄目だったかも。此方の思惑に気付かれて、距離の出し入れをされると…ね」
「咲夜、貴女の力配分と戦闘法を推し量ってたものね。様子見して次の手を柔軟に使い分ける、近遠どちらも出来る咲夜ならではね」
「嫌らしい戦い方するもんだなあ。私なら火力火力また火力で勝負だけど」
「魔理沙はそれで良いと思うよ、魔理沙らしくて」
「…ふふん、今さらりと妖夢が私を馬鹿にしたこと、気付かないと思ったか?誰が砲撃馬鹿だとー!」
「いいい言ってない!そんなの一言も言ってないから!だ、抱きつかないで!汗、汗かいたばかりだから私!」
「…人が真面目な話をしてるのに、貴女達って人は」
「私は真面目に聞いてるよ!?お願いだから一緒くたにしないでー!」

 抱きついてくる魔理沙をなんとか引き剥がし、私はアリスに必死に潔白を訴える。
 …う、冷たいじと目。はあ…魔理沙のせいでアリスに呆れられてしまった。空気を切り替える意味を込めて、こほんと小さく咳ばらいをして
私は霊夢と咲夜の模擬戦闘へと視線を移す。そこには恐ろしい速度で駆け回る咲夜と、腰を据えて迎撃する霊夢の姿が在った。
 どうやら霊夢相手に咲夜は様子見をするつもりはないらしい。その判断は実に正しいと思う。霊夢とは何度か手合わせしたけれど、
様子見なんて彼女相手には悪手以外の何物でもないのだから。霊夢は直観と洞察で相手の行動の数歩先を読み取る、だから探りなんて
引く真似をすればあっという間に押し込まれてしまう。霊夢相手に様子見の一手を打てるのは、遥かに格上の存在だけ。そう…あの八意永琳のように。
 その名前を頭に描いたとき、私は先ほどまでの咲夜の戦闘と八意永琳の戦闘が少しばかり重なって見えた。ああ、そうか。さっきまで
咲夜と戦っていたときの既視感は『それ』だったのか。相手によって時に押し、時に洞察し、最良の一手を常に紡ぎ相手を追い詰め、仕留める。
 さながら狩人のような戦い方、それはまるであの夜の八意永琳そのものではないか。似てる…本当によく似ている。
 そんなことを考えながら戦闘を眺め続ける私に、魔理沙は八卦炉を弄りながら私に問いかける。

「どうしたんだ?さっきからボーっとして。そんなに咲夜に負けたのがショックだったのか?」
「へ?ああ、そんなことないよ。落ち込む理由なんて何処にもないし、むしろ学ぶべきことの方が多いからね。
咲夜や霊夢との手合わせは本当に勉強になることばかりだもん、落ち込む暇があるならバネにして少しでも二人に追いつかないと」
「追いつくねえ…私の見る限りだと、そこまで二人に妖夢が劣っているとは思わないわよ。
むしろ近接戦闘なら貴女の領域だったじゃない。近接が貴女、遠距離が霊夢、ミドルレンジが咲夜ってところかしら」
「その距離の優位を保てる技術と経験が二人にはあるんだよ。いくら接近で圧倒したって負けちゃ意味が無いからね。
だから勉強努力精進あるのみ。二人に置いていかれないように、肩を並べて戦えるように…ね」
「その為に幽々子に頼み込んでこうして博麗神社に鍛錬に来ている…と。
立派な心がけだけど、お前、もしかして自分が幽々子の傍仕えってこと忘れてたりしないよな?」
「う…そ、それを言われると…でも幽々子様は『無意味な警護をする暇があるなら自分の為に時間を費やしなさいな』って…」
「無意味って…幽々子も大概言うわね…流石は八雲紫の親友かしら」
「まあ私は万々歳だけどな。その結果、こうして妖夢と会えるんだから。
鍛えろ鍛えろ、満足いくまで自分を鍛え上げれば良いさ。私はそんな妖夢を弄って楽しむから」
「弄って楽しむって何!?私修行しに来てるのになんで魔理沙にここで弄られる前提なの!?」

 魔理沙に反論するも、右から左にと魔理沙は受け流すだけ。本当、魔理沙って人は…良い友達ではあるんだけど。
 私がこうして博麗神社に最近よくお邪魔している理由、それは自己鍛錬の為。これまでは幽々子様の傍仕えとして、幽々子様の傍に
居ながら独力で鍛錬をし続けていた。私はそれで十分鍛錬出来ていると考えていた…そう、あの永き夜の異変までは。
 あのとき、私は霊夢達と一緒に八意永琳と対峙し、一人先に脱落してしまった。それは自分の役割を果たした結果、霊夢達に怒られ悟った今、
そのことを後ろめたく思うことも恥じるつもりもない。けれど、それでもやはり一剣士として思ってしまう。
 私も最後まで二人と共に戦いたかった。一人先に脱落することなく、最後まで一緒に…そう、願ってしまう。
 だから、霊夢と咲夜が博麗神社で鍛錬している話を聞いたとき、私は良い機会だと思った。独力では辿り着けない領域に、自分の意思で
踏み出すチャンスだと。私が持ち得ない、二人の持つ何かを学ぶことが出来るかもしれない、と。
 それから私は度々博麗神社を訪れ、二人と刀を交わらせている。その戦闘経験は決して一人では味わうことの出来なかった最良の経験。
 腕を交えて分かる、二人との差。だけど、そのことにマイナスを感じることなどない。切磋琢磨出来る存在がこんなにも身近にいること、
努力して追いつき、追い越すべき存在がこんなにも傍にいること、そのことをどうして後ろ向きに思う必要があるだろう。
 恵まれている。私は本当に恵まれている。この研鑽が、必ず私の糧となる。そしてそれがいつの日か、必ず幽々子様をお守りする為の力となる。
 届かぬ存在だと諦めていた紫様達の高み…その高みを、霊夢も咲夜も迷わず目指そうとしている。きっと私と彼女達の決定的な違いはそこだった。
 勝てないと諦めること、逃げ出すことは容易い。だけど、そこで上を向くことを諦めてしまっては本当のゴールを見失ってしまう。
 だから私は覚悟を決めた。あの二人のように、私も視線を遥か高みへ。敬意を示す存在を、追いつくべき目標へ。
 紫様にも藍さんにも決して負けない一人の剣士…どんな存在をも凌駕する、幽々子様を護る一振りの刀に。それが私の覚悟。
 その想いを幽々子様にぶつけたとき、幽々子様は驚いた表情を浮かべた後、優しく微笑んで言葉を送って下さった。

『その気持ちを忘れずに何処までも研鑽なさい、妖夢。良き友達と手を重ね合わせ、前だけを向いて走り続けなさい。
貴女の胸に宿る一途な想いこそ、貴女を目指す高みへと押し上げてくれる最高の武器。それさえ忘れなければ、貴女は決して誰にも負けないのだから』

 子供を褒めるように、幽々子様は私にそんな言葉を与えて下さった。それは私の気持ちを奮い立たせる為の優しい過分なお言葉、けれど、
私には千の財宝にも勝る至言。私の目指す道を幽々子様が後押しして下さっている…ならば、私は走り続ければ良い。
 何処までも高みへ…霊夢にも、咲夜にも紫様にも藍さんにも萃香様にも決して負けない、幽々子様を護る一振りの刀へ。

「おーい、妖夢ー?自分の世界に入るのはいいけど、流石にずっと無視されると地味に傷つくぞー?」
「みょんっ!?あ、ま、魔理沙、ごめん、話聞いてなかった」
「だろうなあ。いーよいーよ、妖夢に無視される私は一人寂しく八卦炉の調整でもしてる方がお似合いなんだ。
ああ、魔法使いとは何と孤高な存在か。そう思わないか、アリス」
「そこで同意を求めないで。それに貴女、会話していようとしていなかろうと最近ずっと八卦炉弄ってるじゃない」
「まあ、どっちにしろ弄るつもりではあるんだけど。…妖夢を」
「私を!?八卦炉じゃなくて!?」
「ああ、間違えた、八卦炉だった。やっぱ良いなあ、妖夢は打てば響くから。
妖夢がいない時なんて、もっぱら私の話し相手はアリスなんだが、コイツの冷たいこと冷たいこと」
「人に冷たくされるのは、それなりの理由が在るものよ。まともに会話して欲しければ、相応の話題を振って欲しいものね」
「…な?そんな訳でお前が神社に来ないと、私の話し相手はレミリアが来るまでゼロって訳だ。霊夢と咲夜はあの調子だしな」
「そういえばレミリアさんは?普段は咲夜と一緒に来てるのに」
「寝坊だと。起こすのも忍びないから、咲夜一人で来たそうだ。後で来るなら美鈴と一緒に来ると思うって」
「寝坊って…あはは、レミリアさんらしいというか、なんというか…」
「どーせ徹夜で漫画の新刊でも読んでたんだろ。よし、今夜はレミリアの家に泊って私も読ませて貰うとしよう」

 実に自分勝手なことを言う魔理沙に苦笑しつつも、私はレミリアさんが来ることに喜びを感じていた。
 …うん、レミリアさんが実は弱いってことを萃香様の異変で知ったけれど、やっぱりレミリアさんが私にとって
憧れの存在であることに変わりなくて。力は無くても、萃香様に勇気を持って立ち向かった姿なんて未だに心打たれてやまない。
 だから、レミリアさんと接することが出来るのは、やっぱり嬉しくて…それに美鈴さんも来るのは本当に嬉しい。あの人は
どちらかというと『武人(わたしたち)寄り』だから、色々と指導願いたいこともあるから。もしかしたら、一手手合わせ願えるかもしれないし。
 そんなことを考えていると、横から魔理沙が呆れるように息をついて言葉を漏らす。

「ったく、霊夢も咲夜も妖夢もみんな永夜の熱に浮かされちゃってまあ。いつからバトルマニアの集団になったんだよ」
「霊夢も咲夜も妖夢も目指すべき場所を見つけたのよ。祝福してあげなさいな。私達魔法使いに目指す境地があるように、
みんなにも辿り着かなきゃいけない場所が存在するのよ」
「ま、それもそうだけどな…それでもやっぱり寂しいぜ。どうせなら修行を二時間したら四時間は私に構うべきだと思うんだ」
「何がどうせならなのか分からないけれど、そういうのはレミリアに頼みなさい。あの娘なら喜んで付き合ってくれるでしょ?
それになんだかんだ言って、貴女も『かなり熱に浮かされてる』みたいだけど?いつから貴女はそんな殊勝な人間になったのかしら?」
「おいおい、言ってくれるぜ。私は最初から努力型人間だよ。みんなに一人取り残されない為に、自分に出来る限りの知識を重ねることで精一杯さ」
「?どういうこと?魔理沙も何か鍛錬しているってこと?」
「まあ、鍛錬というか研究かな。…よっと、完成!」

 先ほどまで弄っていた八卦炉を軽く宙に投げ、空から落ちてくる八卦炉を魔理沙は右手で掴み取る。
 その手に持つのは、私のような素人では何の判断もつかない魔理沙のいつもの八卦炉。でも、魔理沙は会心の出来だとでもいうように
笑って天に掲げている。その八卦炉を見て、アリスもまた感心するように魔理沙に賞賛に近い言葉を紡いでいる。
 全く理解できない私に、魔理沙は楽しそうに笑みを零しながら、その手に持つ八卦炉について説明を始める。

「いいか妖夢、この八卦炉は私の魔力を燃料として大きな火力を生み出す魔道具、そこまではいいか?」
「うん、それは知ってる。魔理沙がよく使ってる砲撃魔法とかにも利用してるよね、凄い大火力で」
「そうそう、マスタースパークとかにも使ってるアイテムなんだけど…そいつを更に今回チューンナップしたって訳だ。
今回は凄いぞ?なんせ私のここ三週間分の睡眠時間を根こそぎ奪っていった程の仕様なんだからな」
「…寝てないの?」
「寝てるぜ?毎日三時間きっちり」
「それって全然寝てないよね!?」
「まあまあ、その苦労も全ては今日の為さ。今回八卦炉に加えた改良は、力の貯蔵と収集、そして発現だ。
従来までの八卦炉は私の身体から直接魔力を送り込んで、それを火力に変換したり、魔法の森の植物から魔力を抽出したりしていたんだけど
今回は更にバリエーションを増やしてみたんだ。そうだな…アリス、ちょっと発火の魔法使ってみてくれないか?」

 魔理沙に頼まれ、アリスは瞬きする時間で小さな炎を掌に展開させる。
 その炎に、魔理沙は八卦炉を近づけさせ、短いセンテンスの詠唱を行う。すると、アリスの掌から炎は消えてしまう。
 …成程。そこまで見て、私は理解することが出来た。力の貯蔵と収集、魔理沙の先ほど言っていた話はコレのことだ。

「ちなみに今のはアリスの『魔力』を変換した訳だが…その気になれば咲夜の妖力、妖夢の霊力だって変換出来るんだ」
「ほえ…それは凄いかも。だって、巨大な力を他人から集めて貯蓄できる訳でしょ?しかも発現まで出来るということは…」
「勿論、集めた力を火力に変換して利用出来るって訳だ。どーだ!凄いだろ!魔理沙さん会心の新発明は!
どうだ妖夢!今ならこの八卦炉に霧雨魔理沙お手製のマジックマッシュルームシチューをつけてお値段…」
「こら、耳触りのいいことばかり言って妖夢を騙さないの。貯蓄出来る魔力量には制限が存在する…違って?」
「おい、ネタばらしするのが早過ぎ…ってか、やっぱり気付くよなあ…」
「当たり前よ。私は貴女より魔法使い歴が永いのよ。こと魔法関係の知識に関して負けるものですか」
「えっと…欠点が在るってこと?」
「ああ、イグザクトリーでございます。収集出来る力の量に限界があって、その限界が私の魔力量に依存するんだよな。
つまり、私が内包する限界魔力までしか八卦炉に貯蓄出来ないってこと。それは結局…」
「…この八卦炉で実現出来る最大火力の魔法は、魔理沙が現状で放てる最大火力と何ら変わらないということよ。
でも、魔力バックアップとしては非常に優秀だわ。貴女は火力二倍三倍の魔法を撃ちたかったみたいだけど、ね」
「くそ~…私も地道に魔力量を増やさないと駄目ってことか。ああ、やだなあ…流石にあの連中の仲間入りだけは無理だ」

 魔理沙は大きく溜息をつく。勿論、彼女の視線は庭先で戦闘を繰り広げている咲夜と霊夢の方向。
 悔しそうにしてる魔理沙だけど、二人の話を聞くだけでもそれがもの凄い発明だって分かるんだけど…自分と同等の力を
ストック出来るなんて、インチキもいいところって普通なら思うレベルなのに。本当、魔理沙もアリスもやっぱり凄い。
 そんなことを思っていると、ふと私達が座ってる縁側が突如として日陰になったことに気付く。そのことに気付き、私は
何気なく空を見上げ…そして驚愕。アリスも同様に驚き目を見開いて。だけど、魔理沙だけは未だ気付かずにぶつぶつと愚痴を零している。

「う~ん、もう少しだと思うだけどなあ…これさえ完成すればどんな妖怪だろうと確定一発効果は抜群なのに…」
「あ、あ、あ…ま、まり、まりさっ」
「…いや、待てよ?確かに理論的には私の限界魔力しか魔法を放てないけれど、それはあくまで理論であって実践した訳じゃない。
もしかしたら、実際に使ってみるともの凄い火力が出たりするんじゃないか?」
「りゅ、りゅ、りゅうがっ!竜がっ!」
「おお、竜だろうとなんだろうと薙ぎ払ってみせるさ!それくらい今回のは自信作なんだ!なんなら今すぐにでも実験して…」
「ち、違っ!上っ!魔理沙、上!!」
「んあ?上?」

 私達の声に、魔理沙はようやく異変に気付き、ゆっくりと顔を空に向ける。
 私達の視線の先、そこに存在するのは、巨大な紅翼竜。体長も身高もゆうに十メートルを超えようかという巨大な生き物。
 圧倒的な存在感を誇る紅竜が、博麗神社の上で翼をはためかせている。そしてゆっくりとこちらに近づいて――

「ま、ま、ま、マスタースパークーーーー!!!!!!」
「…って、えええええええええ!!!!!??」

 ――来る前に魔理沙が思いっきり魔法で迎撃していた。
 空を舞う紅竜目がけて、先ほどまで改良を行っていた八卦炉を使って、それはもう盛大に。
 呆然とする私達を余所に、魔理沙が最初にぽつりと呟いた一言――『急に竜が来たので』がやけに強く耳に残ってしまっている。



















「死ぬかと思った!!本っっっっ気で死ぬかと思ったのよ!!!?」

 ダンダンと強く卓袱台を叩いて必死の抗議糾弾を行う私。その相手は勿論魔理沙。
 博麗神社の客間、いつもの集合場所にて私は半泣き状態で必死に声を荒げている。私の対面には帽子を脱ぎ、畳の上に正座して反省の
形を取っている魔理沙。そんな魔理沙に向けられる霊夢、咲夜、アリスの呆れる視線。妖夢は困ったようにオロオロするだけ。私同様、
被害者である美鈴は私の背後に立っているから顔は見えないけど…とにかく!今この場で魔理沙は多数決によって有罪確定なのよ!

「だから、悪かったってば。ワザとじゃないんだよ、ついだよ、カッとなってやっちゃっただけなんだってば」
「ついもクソもあるかー!!何で友達の家に遊びに行っただけなのに、全力全壊スターでライトなブレイカーを喰らわなきゃいけないのよ!?」
「いや、だから目の前に突如として馬鹿でかい滅茶苦茶強そうな竜が現れたら、そんなの迎撃しちゃうって。竜なんて絵本の中でしか見たことなかったし」

 びっくりしたけど格好良かったなあ、なんて美鈴のことを褒める魔理沙。美鈴が格好良いのは確かだけど、今はそれは関係ないでしょうが!
 霊夢の家に遊びに行く日に少し寝坊しちゃって、美鈴にいつものように抱っこ飛行頼もうと思ったら、美鈴がドラゴンモードで連れてってくれるって
言うから、大興奮して美鈴の背中で竜騎士気分を味わって…で、友達の家に辿り着いた瞬間にズドンよ?誰だって怒るし泣きたくもなるわ!
 下からの砲撃だから、美鈴に直撃して背中にいた私は被害無しだったけど…それでも死ぬ想いだってしたのよ!意識ブラックアウトしかけたのよ!ブラックアウトシューターよ!
 いや、私だけじゃなくて美鈴に直撃させたことも駄目駄目よ!幾ら竜だって、美鈴が痛くないってことはなかっただろうし!

「私に謝罪するのもだけど、美鈴にもちゃんと謝りなさい!直撃くらったのは他ならぬ美鈴なのよ!」
「あはは、お嬢様、私は大丈夫ですから。魔理沙も悪気があってやった訳ではありませんから」
「…美鈴、建前はいいから、本音を言いなさい。母様もそれをお望みよ」
「魔法使いちゃん、今からちょーっと神社の裏まで面貸してね?肉体言語でお話してみよっか」
「怖っ!?門番滅茶苦茶怖っ!!おい咲夜、頼むから火に油を注ぐようなこと言わないでくれっ!!」
「自業自得でしょう。母様と美鈴に魔法を向けた罰、しっかり受けてきなさい。
言っておくけれど、美鈴は怒ると静かに怒るタイプで私なんかよりよっぽど怖いわよ?」
「馬鹿っ!止めろっ!嫌だっ、まだ死にたくなあああい!!!」

 ニコニコと張りつけられた笑顔を堅持する美鈴にずるずると引きずられる魔理沙。
 …あれ、もしかしてちょっとやり過ぎたかな。いやでも美鈴は滅茶苦茶優しいから、怒っても全然怖くなさそうだし…まあ、
美鈴が代わりに魔理沙にメッて言ってくれるみたいだから、水に流すことにしましょう。そもそも砲撃喰らったの美鈴なんだし。
 うん、そうよね。友達の家に来て、いつまでも一人怒ってるなんて空気悪くするだけだし。私は空気の読める女、エアリーダーフワライド
レミリアとは私のことよ。タイプにひこうはつけられないけれど。ぷわわー(・×・)。
 さて、遊びに来るなり盛大にズッコケてしまったけれど、大丈夫、今からならまだカリスマを取り戻せる。魔理沙の砲撃にかなり涙目絶叫
してしまったけれど、これから威厳に満ちたスタイルを見せれば私のキャラは取り戻せるわ。いくわよ、霊夢達!

「クククッ…ときに霊夢、貴女」
「気持ち悪い笑い方すんな」
「き、気持ち悪いって…私の悪役笑いが気持ち悪いって…」
「馬鹿なことやってないで用件をさっさと言いなさい用件を」
「うぐぐ…た、ただお昼ご飯はもう食べたのかって聞こうとしただけよ…
まだなら私が作ってあげるから、貴女達は鍛錬に戻って構わないわって言おうとしただけよ…あと気持ち悪くないもん…」
「母様、それでしたら私が…」
「何言ってるのよ。咲夜も霊夢達と鍛錬してるんでしょう?だったらそちらに集中なさい。
何、いつも霊夢の家にお邪魔させてもらってる立場なんだから、これくらいはね」
「…紅魔館の主が料理ねえ。アンタ、本当に変わってる吸血鬼よね」
「紅魔館の主でも吸血鬼でもある前に貴女達の友人だからね。そんなモノは今何も関係ないわ。
友達や娘が懸命に研鑽を重ねてるんだ。その手伝いをするのに、私の立場なんて秤にかける必要なんてないでしょう?
貴女達の一生懸命な姿は見ていて気持ち良いものね。貴女達が好きだから私も私に出来ることをしたい、ただそれだけよ」
「…っ、アンタ、またそういう言葉を何の臆面もなくっ」

 私の言葉に何か言いかけて口を閉ざす霊夢。…あれ、もしかして何か拙いこと言ったかしら。思ったことを言っただけで
特に失言は無かったと思うんだけれど。アリスなんか笑ってるし、咲夜や妖夢は熱っぽい視線向けてくるし…なんぞこれ。
 というか、お昼ご飯、作っていいのよね?料理する前提で、紅魔館から食材を美鈴ドラゴンの背中に乗せて運んできたんだから、
ここで断られても凄く困るんだけど…もし駄目だなんて言われたら美鈴が室内に運んできてくれた二つの大袋を一体どうしろと。
 家主の返答を待っていると、霊夢はやがて視線を逸らしながらポツリと『勝手にすれば』と言ってくれた。合意と見て宜しいですね?私は一向に構わん!
 それじゃ早速善は急げ、私は大袋から食材をどんどん台所の方へと運んで行く。まあ大半を妖夢と咲夜が運ぶの手伝ってくれたけど。
 台所内の椅子を拝借し、その上に立って(身長が足りないからね!)早速調理に取りかかる私。ああ、今この瞬間私は生きていると実感出来るわ!

「…ったく。あんなヤバい紅竜の主が『コレ』だなんて、本当、誰が信じてくれるんだか…」
「世界で五指に入る魔法使いと時間を操る吸血鬼、そして彼女達を遥かに上回る力を持つ吸血姫も付き従ってるわよ。
加えて言えば、八雲と西行寺、伊吹と博麗につながりを持っているわね。まあ…形だけなら、魔界にも、か…なんだか言ってて頭痛くなってきたけれど」
「あはは…でも、それはレミリアさんだからこそ、だよ。レミリアさんがああいう風だから皆傍に居たいと感じるんだと思う。
誰が相手でも真っ直ぐに向き合ってくれる、優しいレミリアさんだから…だよね、咲夜」
「そうね…本当、私の自慢の母様よ」

 外野が何かボソボソ言ってるけれど、聞こえない聞こえない。どうせ吸血鬼が料理とか~なんて言ってるんだろうし。
 ふふん、私の料理が外でも通じることは慧音のときで経験済みなのよ!私の料理の腕前に驚くがいいわ!…咲夜には実力追い抜かれちゃってるけれど。
 …お菓子作りなら、お菓子作りならまだ私に軍配が上がる筈。よし、どうせだからデザートも作っておこう…せ、設備あるのかな、神社に。


















 ~side 霊夢~



 ムカつく。イライラが収まらない。本気でムカムカする。

 レミリアの作った昼食を終え(本当に美味しかった。紅魔館の主辞めて料理人にでもなった方が良いんじゃないかしら)、午後に咲夜や妖夢と
模擬戦を行い、現在休憩時間(咲夜と妖夢が戦ってるから)で縁側で休んでる私は内心苛立ちが募っていた。
 その理由は咲夜に模擬戦で微妙に負け越してるからとか、妖夢に一度出し抜かれたからとか、そういう理由なんかじゃない。
 私が苛立つ理由、それは私の真横で先ほどからチラチラと此方に視線を送っては逸らし、視線を送っては逸らしを繰り返してるレミリアにあった。
 さっきから何か言いたそうにしては、口を開こうとし、そして噤む。私に何か言おうとしては、思い止めて魔理沙やアリス達の方へ話しかける。
 それが先ほどから数えることもう二十二回。…ムカつく。私に何か言いたいことがあるなら、遠慮せずに言えばいいじゃない。こういうのは
なんか…まるでレミリアに壁を作られているようで、本当に苛立たしい。一応、向こうが言いだすまで待つつもりではいたんだけど…正直もう限界。
 次に言葉を引っ込めたら、無理矢理にでも吐かせる。締め上げる。泣くまで脅して洗いざらい話させる。そう決めて言葉を待っていると、とうとうレミリアが私に言葉を紡ぐ。

「あの…あのね、霊夢…」
「…何よ」
「ひっ…え、えっと…えっと、その、良い天気ね?」

 ごめん、もう無理。限界。
 散々待たせて、勇気を振り絞ったと思ったら、出た言葉がそれってどういうことよ。大体この雲一つない晴天、吸血鬼として忌むべき
天気に対し『良い天気ね』って何よ。アンタ絶対微塵もそんなこと思ってないでしょ。空言葉なんか私に送って…OK、泣かす。
 私は身体をレミリアの方に向け、幽鬼の如くレミリアの頭に右手を近づけ、そしてガッチリとホールド。驚くレミリアを気にすることもなく、全力で握力注入。

「ひぎぃっ!?痛い痛い痛い痛い痛い!!霊夢痛い痛い痛い痛い痛い!!!」
「言いたいことがあるならさっさと吐きなさいよ!!!さっきからモジモジモジモジモジモジモジモジと!!!!!!」
「言う!!言うから!!ちゃんと言うから離してええええ!!!潰れる!私の頭が潰れちゃうから!!!!」
「…フン、最初からそうすればいいのよ。それと門番、アンタも咲夜の同類だとこれから認識してやるから、その邪魔な拳をどけなさい」
「今回は見逃しますが、次はありませんよ?私は咲夜さんほど貴女に寛容ではないので」

 私の後頭部に突き付けた拳を門番は笑顔を保ったままで引く。…成程、咲夜の奴が師匠の一人と慕う訳ね。コイツ、やっぱり相当強い。
 春雪異変のときに一度共闘したきりだけど、あの時はコイツの戦いをあまり見られなかったから強さを測り損ねたのよね。…まあ、正体が
竜って時点でトンデモだとは知ってたけど…今は別にそんなことどうでもいいか。レミリアがいる限り、コイツと戦うことは無いだろうし。
 私はレミリアを解放し、涙目になっているレミリアに『さっさと話せ』と視線を向ける。私の視線に小動物のようにビクビクしながらも、
レミリアはぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始める。…ていうか、そんなに怯えなくてもいいじゃない。他の連中はどうでもいいけど、コイツに
怖がられるのだけは…なんか、ちょっと嫌だ。

「あの、あのね…これはあくまで、あくまでも例え話なんだけど…本当に例え話なんだけどね?」
「分かったから!例え話という前提で聞いてあげるから、さっさと話しなさい!」
「そう、それならいいんだけど…えっと、それで、例えば霊夢に妹がいたとするじゃない?」

 …フランドール(あいつ)関係の話ね。しかもレミリア的に結構悩んでる内容だとみた。
 何、アイツと喧嘩でもしたのかしら。もしかしてアイツとの仲を取り持って欲しいだなんて言わないでしょうね。そんなのは
門番でも咲夜にでも頼めばいいじゃない。正直、私とフランドールは水と油でしかないのだから、力に為れるとも思わないし。
 ただ、相談事がフランドール関係だっていうのは門番も予想外みたいね。一瞬驚いたような表情を見せたし。さて、家族の連中にも
言ってない相談事か…まあ、力になれるようなことだったら良いんだけど。私は黙ったまま、レミリアの話に耳を傾ける。

「その妹は霊夢にいつもいつも嫌がらせばかりするの。最初の百年二百年くらいは無視、霊夢が話しかけても存在すら見えないように扱うの。
その後は意地悪や嫌がることばかり。霊夢が望んでないことを押し付けてきたり勝手に決めたり…そんな妹」
「…何それ。その妹、最悪過ぎるじゃない。私だったら問答無用でぶっ飛ばしてるわよ。二度とふざけた真似出来ないくらいボッコボコに…」
「で、でも!!でもその妹は悪いところばかりじゃないの!!」

 私の言葉を最後まで聞かず、レミリアは強く言葉を被せてくる。
 それは私の言葉を遮るように、それは私の言葉を否定するように。真剣な表情で、レミリアは真っ直ぐに私を見つめて言葉を紡ぎ続ける。

「確かに…確かに嫌なことばかりする妹で、霊夢は振り回されてばかり、ときには本気で殴りたくなるときだってある。
でも…でも、そんな妹だけど…そんな妹なんだけど、霊夢にとってはとても大切な可愛い妹なの」
「…いや、可愛くないでしょ。むしろ可愛さなんて微塵も感じないわよ」
「ううん、なんていうのか…何処が可愛いのかは、分からないんだけど…それでも、大切なの。守りたいと、一緒に居たいと思える妹なの…」
「…それで?そのふざけてるけど可愛い妹が私にいたとして?」

 言葉の続きを促す私に、レミリアは少し押し黙るように言葉を止める。…ったく、馬鹿咲夜に馬鹿門番、レミリアになんて顔させてんのよ。
 この話、どう聞いても家庭内の事情、問題じゃない。これはアンタ達がレミリアをケアしなくちゃいけない問題でしょうが。自分の都合で
レミリアを振り回すだけ振り回してコレじゃ、何の意味もないでしょうが…私の大切な『親友』に、こんな顔させてんじゃないわよ。
 やがて、レミリアは意を決したように言葉を続けていく。それは、レミリアの心の奥底に押し沈め続けていた悩み。

「その妹と…どうすれば、仲良くなれると思う?」
「…どういう意味よ。姉は妹が大好きなんでしょう?十分仲が良いじゃない」
「違うの…妹と姉の間には、永い年月で出来た隙間があって、会話なんてここ数年が奇跡というくらい、していなかった。
そのことに姉妹は…ううん、姉は、それでいいと思ってた。嫌なことばかりしてくる妹、勝手なことばかりする妹に辟易して…向こうが
そうならって、姉が距離を取っていたの。殴り合いの喧嘩なんかはしてないけど…その姉妹は、とてもとても遠い姉妹だった」
「レミリア…」
「…でも、姉の方は気付いてしまった。妹がどんなに大切なのか、どんなに大好きなのか…失いそうになって…本当に、今更…気付いてしまった。
都合が良いとは分かってる。でも、姉の方は妹のことが好きだから…好きだったんだと知ったから、だから仲良くしたいと思った。
だけど、今更どうして仲良くできるだろう…現に妹は姉と食事のときすらも顔を合わせようとはしなくて…会いたくても、姉はその勇気がなくて…
…ねえ、霊夢。そんな馬鹿な姉は、一体妹にどうすればいいのかな…どうすれば、仲直り出来るのかな…」

 そこでレミリアは言葉を切ってしまう。それ以上、言葉は続けられそうにないから。
 室内に訪れる静寂。この場の誰もが言葉を発することが出来ない。アリスも、門番も、あの魔理沙でさえも。
 …正直、話の内容には驚きを隠せない。コイツが妹と不仲に悩んでる、なんて微塵も想像してなかった。魔理沙達の語るフランドール像から、
こんな風にレミリアと距離があるだなんて想像すら出来なくて。でも、実際にレミリアはこうして語ってくれている。
 妹との距離、錯綜…そのことに、強く心を痛ませ、後悔し、悲しんでる。私にはこいつ等紅魔館の連中の過去なんて微塵も知らないし、
知ろうとも思わなかったけれど…でも、この現状はちょっとばかり許せない。コイツがこんな風に凹んでるのは認められない。
 何悩んでんのよ。何ウジウジしてんのよ。アンタは常に笑ってないといけないのに、能天気なくらいほわほわしてるのが丁度いいのに。
 だから私は思考する間もなく口にしてしまう。それは博麗霊夢にとって実にらしくない言葉。けれど、口にすることに後悔なんて無い言葉。

「…一つ、話をしてあげるわ」
「話…?」
「そう、これは私の経験談…一人の馬鹿でお人好しな妖怪の話よ」

 以前の私…博麗霊夢には友人と呼べる存在がいなかった。小さい頃から博麗の後継者として育てられ、この神社で過ごしてきた
私には同年代の人間の知り合いも、ましてや退治する存在である妖怪の知人なんて存在しなかった。
 唯一そう呼べそうな人間である魔理沙も、当時の私は友人とは認識していなかった。面倒事を運んでくる変な奴、そのくらいの認識だっただろうか。
 友人がいないこと、そのことに私は別段何も思わなかったし、感じることもなかった。『そういうものだ』、その程度くらいにしか思っていなかった。
 …だけど、そんな私の前に一人の変な妖怪が現れた。そいつは私に向かって『お前と仲良くなりたい』、なんてアホな言葉を投げつけてきた。
 そんな妖怪に私は呆れた。馬鹿じゃないのかと、頭おかしいんじゃないのかと。私は躊躇することなく、その妖怪を追い払った。二度と来るな、と。
 冷たく当たる私、すごすごと退散する妖怪。その姿を見て、私は二度とそいつは来ないだろうと思っていた。妖怪特有の一時の気まぐれか何かだろうと。

 …次の日、そいつはやってきた。驚く私に、そいつは再び口にした。『お前と友達になりたい』と。
 その言葉が、何故か私の心を強く揺さぶった。あれだけ強く追い返したのに、あれだけ冷たくあしらったのに、それでもコイツはこんなことを言う。
 気付けば私は、子供のようにムキになっていた。ときに門前払いをし、ときに居留守を使い、ときに暴言を並べ立て…本当、今思い返すとガキも甚だしい。
 でも、当時の私にとってそれは決して譲れなかったこと。トモダチなんて知らなかったから。自分と仲良くなりたい、なんて言う存在を知らなかったから。
 …そのときの私は怯えていたのかもしれない。知らないものに触れること、知らない世界に踏み出すこと、そのことを恐れていたのかもしれない。
 そんな酷い私に、それでも妖怪は会いに来る。『お前に会いに来た』『博麗霊夢と仲良くなりたいんだ』と、日傘を片手にメイドを連れて、何度も何度も。
 こっちの気持ちなんてお構いなし、その妖怪は自分が『そうしたいから』行動した。失敗とか、罵倒されるとか、そんなこと微塵も考えない。そいつは
こちらのことなんて何も怖がらず、自分の意志で何度も何度も何度も何度も私に言葉をぶつけてくれた。何を言われても、どんなに冷たくされても。
 …結局、そんな馬鹿に私は負けた。いつものように神社に来たそいつを、気付けば中に入れてて…そのとき、そいつは初めて私に笑顔を見せてくれた。
 その笑顔は本当に心から喜んでいる顔で…それを見たとき、私は全てを受け入れたわ。ああコイツ、アホなんだって。どうしようもないアホだから、
私の今までの行動なんて微塵も気にしちゃいないんだって。今コイツは私と友達になれたことを心から喜んでいるんだなって…そう、思った。
 そして、そいつの無理矢理こじ開けた扉のおかげで、私は沢山の奴等と友達になれた。きっと、そいつがいなかったら、私はまだ一人のままだった。
 だから私はそいつに凄く感謝してる。どこまでもアホで真っ直ぐな親友。私の大切な親友、最後まで諦めずに私なんかに接してくれた親友。
 私は今でもそいつのことを誇りに思うし、心から大切に思ってる。どんな事情があろうと、絶対に負けない諦めないへこたれない私の大切な親友を…ね。

 一度話を止め、私は息をついた後、レミリアに向き合う。
 …正直、これが正解かどうかは分からない。でも、私が言わなきゃいけないことはコレだと思うから。だから、言う。

「…正しいかどうか、何が一番効率的に目的を達成できるか、そんなことはどうでもいいのよ。
私の大切な親友が取った行動は、自分が信じるまま、何処までも愚直に真っ直ぐ向き合ってくれたということ」
「…霊夢」
「怖がらず、諦めず、決して譲らず。その真っ直ぐな想いに、私は負けたのよ。
…さて、話はここで終わりよ。レミリア、『仮定の姉』が『仮定の妹』に対し、どうすればいいのかなんて私は知らないわ。
でも、私の親友なら――私の大好きな親友なら、取るべき方法なんて一つしかないと考える筈よ。そうでしょう?」
「…そう、ね。霊夢の言う通りだわ。最初から取るべき方法なんて、一つしかないじゃない」

 ゆっくりと、だけど着実にレミリアの瞳に力強さが灯っていく。
 それは何があろうと決して折れない本当の強さ。私の大好きな親友(レミリア)の持つ、尊敬する強さ。
 …ふん、何よ。そんな表情が出来るなら、最初からそうしてなさいっての。こんな他人もいる中で、恥ずかしい話をした私が
馬鹿みたいじゃない。そんな風に考えていると、レミリアは大輪の笑顔を咲かせて私に頭を下げる。

「ありがとう、霊夢!貴女の話、凄く凄く参考になったわ!」
「…あっそう。それは良かったわね。お礼は期待してるから、今度何か持ってきなさいよ」
「うんっ!!霊夢が絶対喜ぶようなもの、持ってくるから!」

 ――ッ、だから、そんな顔を私に向けるなってば。
 頬の温度上昇を感じ、私はレミリアから顔を逸らす。本当、邪気が無さ過ぎる天然って厄介だわ。こっちが恥ずかしくなるから。
 そんな私に、音もなく近づいてくるのは門番。レミリアに聞こえないような小声で、私に話しかけてくる。

「ありがとうございます。貴女のおかげで、お嬢様の悩みは解決しそうです」
「…あのね、こういうのはアンタ達の管轄でしょうが。しっかりケアしてあげなさいよ、何の為の従者よ」
「あはは、耳が痛い…でも、大丈夫ですよ。妹様関係の悩みならば、ただの勘違い、すぐに解決する筈ですから」
「…つまり、妹はレミリアのことを嫌っていないのね?これから先は仲良く一緒に生きていくのね?」
「ええ、勿論です。もうフランお嬢様も異変に参加することはないと断言されましたし、二人の仲を邪魔するモノは何もありませんから」

 門番の言葉を聞き、私は軽く安堵の息をつく。それならいいんだけど…本当、頼むわよ。
 目の前でヒマワリのような笑顔を浮かべている親友を見つめながら、私は誰にでもなく心の中で呟いた。

 ――この笑顔が陰るようなことは、私は絶対に認めてやらないんだから。





















 反転。狂心。世界が揺れる。世界が壊れる。


 暗闇の中で、少女は蠢く。呼吸を乱し、身体を震わせ、体内に沸騰する己が狂気を抑え込む。
 それは苦痛、それは快楽、それは激痛、それは悦楽。幼い身体を、忌蟲が荒れる。

「――カ、あ、ふう――」

 抑えられぬ程の熱量を、少女は力に変換し、体外へと放出する。
 少女から放たれた狂刃は猛り狂い、彼女の棲まう檻壁を破壊する。
 少女の破壊は止まらない。少女の破壊は止められない。自発ではなく能動、それが狂った時間の終焉。

 荒れる。壊す。嗤う。
 荒れる。壊す。嗤う。
 抑えられない力の暴走、抑えられない心の暴走、消える蝋火の最期は苛烈。
 最高の絶頂と最低の絶望に振り回されながら、少女は思う。あとどれほど耐えればこの時間は終わるのか。

「ハァッ…あぅ…」

 捨てたくない夢。捨てられない希望。諦めたくない願い。諦められない世界。
 儚い望みに少女は夢を見る。夢を見るから恐怖する。ほんの小さな一つの願い、それすらも許されない世界で、少女は一人泣き続ける。

「…シにたク、ナいよ…ワかれタク、なイよ……お姉…サマ…」

 少女の涙は狂気に塗り潰される。少女の願いは色濃き絶望に浸食される。
 故に少女の声は天に届かない。何処までも暗き檻の中で、少女は独り――今宵も残酷な夢を見る。









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