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No.13774の一覧
[0] うそっこおぜうさま(東方project ちょこっと勘違いモノ)[にゃお](2011/12/04 20:19)
[1] 嘘つき紅魔郷 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:52)
[2] 嘘つき紅魔郷 その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[3] 嘘つき紅魔郷 その三 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[4] 嘘つき紅魔郷 エピローグ (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[5] 嘘つき紅魔郷 裏その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[6] 嘘つき紅魔郷 裏その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:55)
[7] 幕間 その1 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:11)
[8] 嘘つき妖々夢 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:24)
[9] 嘘つき妖々夢 その二[にゃお](2009/11/14 20:19)
[10] 嘘つき妖々夢 その三[にゃお](2009/11/15 17:35)
[11] 嘘つき妖々夢 その四[にゃお](2010/05/05 20:02)
[12] 嘘つき妖々夢 その五[にゃお](2009/11/21 00:15)
[13] 嘘つき妖々夢 その六[にゃお](2009/11/21 00:58)
[14] 嘘つき妖々夢 その七[にゃお](2009/11/22 15:48)
[15] 嘘つき妖々夢 その八[にゃお](2009/11/23 03:39)
[16] 嘘つき妖々夢 その九[にゃお](2009/11/25 03:12)
[17] 嘘つき妖々夢 エピローグ[にゃお](2009/11/29 08:07)
[18] 追想 ~十六夜咲夜~[にゃお](2009/11/29 08:22)
[19] 幕間 その2[にゃお](2009/12/06 05:32)
[20] 嘘つき萃夢想 その一[にゃお](2009/12/06 05:58)
[21] 嘘つき萃夢想 その二[にゃお](2010/02/14 01:21)
[22] 嘘つき萃夢想 その三[にゃお](2009/12/18 02:51)
[23] 嘘つき萃夢想 その四[にゃお](2009/12/27 02:47)
[24] 嘘つき萃夢想 その五[にゃお](2010/01/24 09:32)
[25] 嘘つき萃夢想 その六[にゃお](2010/01/26 01:05)
[26] 嘘つき萃夢想 その七[にゃお](2010/01/26 01:06)
[27] 嘘つき萃夢想 エピローグ[にゃお](2010/03/01 03:17)
[28] 幕間 その3[にゃお](2010/02/14 01:20)
[29] 幕間 その4[にゃお](2010/02/14 01:36)
[30] 追想 ~紅美鈴~[にゃお](2010/05/05 20:03)
[31] 嘘つき永夜抄 その一[にゃお](2010/04/25 11:49)
[32] 嘘つき永夜抄 その二[にゃお](2010/03/09 05:54)
[33] 嘘つき永夜抄 その三[にゃお](2010/05/04 05:34)
[34] 嘘つき永夜抄 その四[にゃお](2010/05/05 20:01)
[35] 嘘つき永夜抄 その五[にゃお](2010/05/05 20:43)
[36] 嘘つき永夜抄 その六[にゃお](2010/09/05 05:17)
[37] 嘘つき永夜抄 その七[にゃお](2010/09/05 05:31)
[38] 追想 ~パチュリー・ノーレッジ~[にゃお](2010/09/10 06:29)
[39] 嘘つき永夜抄 その八[にゃお](2010/10/11 00:05)
[40] 嘘つき永夜抄 その九[にゃお](2010/10/11 00:18)
[41] 嘘つき永夜抄 その十[にゃお](2010/10/12 02:34)
[42] 嘘つき永夜抄 その十一[にゃお](2010/10/17 02:09)
[43] 嘘つき永夜抄 その十二[にゃお](2010/10/24 02:53)
[44] 嘘つき永夜抄 その十三[にゃお](2010/11/01 05:34)
[45] 嘘つき永夜抄 その十四[にゃお](2010/11/07 09:50)
[46] 嘘つき永夜抄 エピローグ[にゃお](2010/11/14 02:57)
[47] 幕間 その5[にゃお](2010/11/14 02:50)
[48] 幕間 その6(文章追加12/11)[にゃお](2010/12/20 00:38)
[49] 幕間 その7[にゃお](2010/12/13 03:42)
[50] 幕間 その8[にゃお](2010/12/23 09:00)
[51] 嘘つき花映塚 その一[にゃお](2010/12/23 09:00)
[52] 嘘つき花映塚 その二[にゃお](2010/12/23 08:57)
[53] 嘘つき花映塚 その三[にゃお](2010/12/25 14:02)
[54] 嘘つき花映塚 その四[にゃお](2010/12/27 03:22)
[55] 嘘つき花映塚 その五[にゃお](2011/01/04 00:45)
[56] 嘘つき花映塚 その六(文章追加 2/13)[にゃお](2011/02/20 04:44)
[57] 追想 ~フランドール・スカーレット~[にゃお](2011/02/13 22:53)
[58] 嘘つき花映塚 その七[にゃお](2011/02/20 04:47)
[59] 嘘つき花映塚 その八[にゃお](2011/02/20 04:53)
[60] 嘘つき花映塚 その九[にゃお](2011/03/08 19:20)
[61] 嘘つき花映塚 その十[にゃお](2011/03/11 02:48)
[62] 嘘つき花映塚 その十一[にゃお](2011/03/21 00:22)
[63] 嘘つき花映塚 その十二[にゃお](2011/03/25 02:11)
[64] 嘘つき花映塚 その十三[にゃお](2012/01/02 23:11)
[65] エピローグ ~うそっこおぜうさま~[にゃお](2012/01/02 23:11)
[66] あとがき[にゃお](2011/03/25 02:23)
[67] 人物紹介とかそういうのを簡単に[にゃお](2011/03/25 02:26)
[68] 後日談 その1 ~紅魔館の新たな一歩~[にゃお](2011/05/29 22:24)
[69] 後日談 その2 ~博麗神社での取り決めごと~[にゃお](2011/06/09 11:51)
[70] 後日談 その3 ~幻想郷縁起~[にゃお](2011/06/11 02:47)
[71] 嘘つき風神録 その一[にゃお](2012/01/02 23:07)
[72] 嘘つき風神録 その二[にゃお](2011/12/04 20:25)
[73] 嘘つき風神録 その三[にゃお](2011/12/12 19:05)
[74] 嘘つき風神録 その四[にゃお](2012/01/02 23:06)
[75] 嘘つき風神録 その五[にゃお](2012/01/02 23:22)
[76] 嘘つき風神録 その六[にゃお](2012/01/03 16:50)
[77] 嘘つき風神録 その七[にゃお](2012/01/05 16:15)
[78] 嘘つき風神録 その八[にゃお](2012/01/08 17:04)
[79] 嘘つき風神録 その九[にゃお](2012/01/22 11:18)
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[13774] 幕間 その6(文章追加12/11)
Name: にゃお◆9e8cc9a3 ID:dcecb707 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/20 00:38



 ~side 霊夢~



 集中。感情を、意志を全てリセットし、虚無へ心をシフトする。
 精神を身体という鎖から解き放ち、全てのしがらみから己の全てを手放し続ける。
 何者にも縛られない存在へ、何モノにも触れられない高みへ。ゆっくりと、ゆっくりと、空っぽの自分へ――

「…出来ないわね、やっぱり」
「だあああ!うっさい外野、今もう少しで出来そうだったのよ!邪魔するなっ!」
「これで通算三十六度目の失敗よ、口だって挟みたくもなるわよ」

 人が頑張ってるところに水を差すクソメイドに、私は手に持っていたおはらい棒を全力で投げつける。
 勿論、コイツにそんなモノが効く訳ないんだけど。片手で簡単に受け止められ、咲夜は心底呆れるように溜息をつきながら
おはらい棒を地面に置く。クッ…腹立つ。出来ない自分に腹が立つというのもあるけれど、何より他の誰でもないコイツに
『使えない』と思われることがムカつく。他の誰でもなくコイツにだけはっ…
 苛立ちを隠せない私に、咲夜は別段気にする素振りも無く掌に持つ懐中時計で時間を確認する。

「鍛錬を初めて一時間…泣き言ならそろそろ受け付けてあげても良い時間だけど?」
「るさいっ!まだ諦めるような時間じゃない!私の辞書に不可能と諦めと奢るという言葉はないのよ!」
「それは随分と不良品な辞書ね。パチュリー様に言って上等の辞書を譲ってもらうことをお勧めするわ」
「言ってろ馬鹿メイド!まだよ、絶対成功させてアンタをギャフンと言わせてやる!」
「はいはい、期待しないで待ってるわ。頑張りなさい、博麗の巫女様。
あと、次に失敗したら強制的に休憩させるから。いい加減貴女がウンウン唸ってる姿を見るだけでは私も退屈だから」

 く…コイツ、完全に馬鹿にして!私はムカつく咲夜を放置し、再び精神を集中させる作業に移る。
 ――夢想天生。あの永い夜、八意永琳と対峙したとき私が使用した博麗にのみ許された真なる力。その絶大な能力で
私と咲夜は八意永琳を敗退させることに成功した。…だけど、あの日から私は一度もその力を発現出来たことが無かった。
 紫が言うには、『貴女にはまだ早すぎる力。永き夜で使用出来たのは幾多の奇跡が生み出した結果。精進なさいな』とのことだけど…そんな
舐めたこと言われて『はい、分かりました』で納得できる程私は良い子でも人間が出来てる訳でもない。
 一度出来た力の行使、二度目が出来ない訳が無い。もしこの力を自在に操れたなら、それは私の大きな武器になる。
 別に大きな力を得たからどうこうするつもりもない。他人に力を自慢することも興味ないし、この力で他人をどうこうするとも思わない。
 でも、自分が使える力を『力量不足』なんて烙印を押されたまま使うことが出来ない、なんて舐めた現実を受け入れる訳にもいかない。
 だから私は何度も何度も鍛錬を重ねて力を発現させる努力をする。怠惰が好き、面倒なことが嫌い、でも絶対に譲れないモノが在る。
 諦める私は私なんかじゃない。膝をつく私は私なんかじゃない。何より――十六夜咲夜の後塵を拝する私なんて、絶対に私なんかじゃない。
 咲夜の奴は既に吸血鬼として、その力を己のモノとする為の訓練を紅魔館で積み重ねてる。コイツは正真正銘の努力を怠らない天才だ。少しでも
気を抜けば、きっと簡単に置いていかれてしまう。こいつは家族の為に…レミリアの為にどこまでも強くなれるから。
 ――負けたくない。絶対に負けたくない。そんな単純な気持ちこそ、私の一番の原動力なんだと思う。他の誰でもない、十六夜咲夜にだけは…
咲夜にだけは、『博麗霊夢は弱い』だなんて絶対に思われたくない。だから――

「…だあああ!!どうして出来ないのよ、もおおお!!!」
「はい、通算三十七度目の失敗ね。少し休みなさい、無理して背伸びするよりも出来ない現実を受け入れた方が余程利口だわ」
「ぐっ…でも、まだ私は」
「次に確実に成功するというのなら言って頂戴、考慮してあげるから。
それが言えないなら、黙って休みなさい。無理を通したところで成功する訳でも無し」

 咲夜が放ったタオルを、私は不満アリアリの表情のまま受け取る。
 汗を拭く私を眺めながら、咲夜は小さく息をついて再び口を開く。

「神社の中にいないから何をしてるかと思えば、裏庭で鍛錬とはね。少しだけ見直したわよ、貴女のこと」
「見直したってどう意味よコラ」
「言葉通りよ。貴女は修行とか鍛錬とかそういうの絶対にしないタイプだと思ってたから。一体どんな心境の変化?」
「…咲夜、アンタ私がどうやって博麗の巫女の力を使えるようになったと思ってるのよ。これまでだってそれなりに鍛錬は積んできたわよ」
「あら、そうなの。私はてっきり貴女の力やセンスは全て天性のものかと。いつも勘だの何だの言ってたし」
「私は一体どんな吃驚人間だ。ったく…別に意味なんてないわよ。あの力は…あの力は遠くない未来、必ず必要になる。そう思っただけ」
「…そう。確かに、貴女の力は『強大』過ぎる。あの力があれば、貴女に勝てる相手はいないでしょうね」
「…褒めるな、気持ち悪い」
「褒めてないわよ、事実を述べただけ。それと勘違いしないで頂戴。
私はあくまで力の性質を賞賛しているだけで、そこに博麗霊夢への賞賛は一ミリも入って無いもの」
「よく言ったわ。それでこそ十六夜咲夜よ。…ちょっと顔貸せこのクソメイド」
「止めておきなさい。鍛錬が上手くいかず、勝負にも勝てずでは落ち込み過ぎて今夜の夕食が喉を通らなくなるわよ」

 暴言に暴言を返してくれる咲夜。本当、コイツは最高に最悪な友人だわ。なんで私も友達してるのやら。
 咲夜から差し出された水筒を受け取り、私は久方ぶりの水分補給をする。…でもまあ、口は最悪だけど、コイツ本当に
面倒見はいいわよね。なんだかんだいって、結局私の鍛錬に付き合ってくれてるし、こうして飲み物とか用意してくれてるし。
 本当は感謝の一つでも言うところ何だけど…絶対言わない。レミリアが相手ならまだしも、咲夜相手に感謝とか絶対嫌。
 鍛錬を一旦切り上げ、私は草の茂る地に腰を下ろし、小さく息をつく。そして再度喉を水で潤して、咲夜になんとなしに訊ねかける。

「人の面倒見るのはいいけど、そっちの鍛錬はどうなのよ。吸血鬼になったばかりで力の制御、大変なんでしょ?」
「あら、心配してくれるの?本当、貴女昨日何を拾い食いしたの?」
「茶化すな。真剣に会話しろ馬鹿メイド」
「それは失礼。力の制御なら順調…と言いたいところだけど、中々、ね。
魔力の行使の方は適性があったみたいで、そこそこ使えるようにはなってきてるのだけど、吸血鬼としての力の方が…ね」
「何、やっぱり力の制御って難しい訳?」
「論より証拠、その目で見てもらえれば理解してもらえると思うわ」

 そう言って、咲夜は軽く瞳を閉じ、己が身体の周囲に紅の霧を散布させる。魔力…いや、妖力か。紅霧異変でフランドールが使ったヤツね。
 紅の霧は咲夜の身体、その周囲から背中へと収束し続け、咲夜の背中に永い夜での戦いで見せた紅血の蝙蝠翼を生みだしてみせる。
 その血液の結晶とも取れる紅の羽は何処までも妖しく、咲夜が吸血鬼であることを主張していて。…本当、レミリアよりこいつの方が
よっぽど吸血鬼してるわよね。レミリアの羽はなんていうか…小さくてパタパタしてマスコットの羽みたいにしか思えないし。
 紅の翼を背に生み出し、吸血鬼としてのスタイルを繕った咲夜は、私を一瞥することなくスタスタと足を進め、庭内にある木々のうち、一本に
軽く手を添え、その木を撫でるように軽く押す。すると…まあ、なんとなく予想は出来ていたんだけど、木は呆気なく根元からへし折れて。

「…呆れた。アンタ、いつからそんなパワフルキャラになったのよ。まるでゴリラね、ゴリラ妖怪よ」
「その発言に関しては後で泣きたくなるほど釈明させるとして…正直、貴女より問題は山積みね。
以前のように人間としてのスタイルで戦うには、この身体はあまりにも『規格外』過ぎる。かといって、今のこの身体の
力を如何なく発揮させるには、まだまだ力の調整や発現に問題が在り過ぎる。正直、今の私は誰を相手にしても負けるでしょうね」
「どうして?どんな相手だろうと、その馬鹿力で全力でぶん殴ってやればいいじゃない。大抵の奴はビビって逃げ出すわよ?」
「…そんなふざけたかつ不格好な戦いをするくらいなら死を選ぶわ。大体、そんなテレフォンパンチが誰に当たるのよ。
私『達』が追いかける存在、肩を並べなければならない存在の誰に、ね」

 咲夜の言葉に、私は否定することはなかった。咲夜の言うとおり、私達が目指すは格上、天蓋の連中。その辺の妖怪を
相手に考えても仕方が無い。フランドール・スカーレット、八雲紫、西行寺幽々子、伊吹萃香、八意永琳…私達はあの連中に
負けない力を手にしなくちゃいけない。特に伊吹萃香…アイツには負けっぱなし、大き過ぎる借りがある。
 別にアイツが嫌いな訳じゃない。飲み会で何度か話したし、本当は良い奴だって分かってる。だけど、それとこれとは話が別。
 私、魔理沙、妖夢、アリスの四人がかりでも勝てなかったアイツに、いつか絶対ワンパンチ顔面に叩き込む。それを
あちらさんも望んでいるんだから、誰かに非難される謂れもない。負けられない。私はもう二度と誰にも負けない。
 どんな相手にも勝利をもぎ取って、それで大きく胸を張ってやる。それくらいの気概が無いと、絶対にあいつ等には追いつけないだろうから。
 私は水筒を地面に置き、気持ちを入れ直して立ちあがる。…そう、私はもう二度と誰にも負けない。誰が相手でも絶対に勝つ。だから――

「――鍛錬の続きをやるわよ。力をつけて、上から見下しくてくる連中の顔面を片っ端から驚愕の色に染め上げてやる」
「あら、私の顔なら既に驚愕に染まっていてよ?貴女がこんなに鍛錬に熱を込めているんですもの、幻想郷の終焉かと思いましたわ」
「…何処から湧いてきたのよ、自称最強妖怪」
「他称最強妖怪、ですわ」

 人が決意をしたってところに、突如空間に生じた隙間から湧き出る隙間妖怪。…本当、ゴキブリ並に神出鬼没ね、コイツは。
 宙に浮いた状態で上半身だけを見せ、紫はいつもの胡散臭い笑顔を浮かべて私達に言葉を紡ぐ。何の用よ、全く…さっさと済ませて何処かに行ってほしいわ。

「あら、そんなに邪険にしなくても良いでしょうに。二人きりの邪魔をしたのがそんなに嫌だった?」
「次にそんな気持ち悪いことを言ったら、その口を二度ときけないように無理矢理塞いでやる」
「…貴女、若い身空でそんな趣味に走ってるの?そういうのはもう少し年齢を重ねてからでも…」
「何の話よっ!!本気で陰陽玉で口塞ぐわよクソ妖怪!!さっさと用件を言え用件を!!」
「冗談よ、そんなに怒らなくてもいいじゃない。用件はただ単にお別れの挨拶をね。私、冬眠するから」

 紫の言葉に、私はそういえばもうそんな季節かと時期を確認する。そうね、コイツは冬眠を必要とする妖怪だっけ。
 いつも気が付いたら顔出して自由気ままに振舞ってくれてるから、居て当たり前居なくて当たり前っていう意味不明な存在。だからまあ、
冬眠しようと目覚めようと私としては『ふーん』って感じなんだけど…まあ、律儀に挨拶に来てくれたんだから、そこまで邪険にすることもないか。

「結界管理の仕事等はいつも通り藍に任せてるから、何かあったらあの娘に連絡してね」
「分かってるわよ。あと、ハッキリ言うけれど、アンタ起きてても寝てても常に藍に仕事押し付けてるじゃない。
私が博麗結界関係で頼った回数、アンタよりも断然藍の方が多いと思うんだけど。少しは真面目に仕事しなさいよ怠惰妖怪」
「あーあー、聞こえない聞こえない。そういう訳で後のことはよろしくね。
誰かさんの主のお陰で、今年は楽しい夢が沢山見られそうだわ。本当、今年は楽しい出来事が沢山あったもの」
「…それはレミリアお嬢様を貶しているのかしら、八雲紫」
「レミリアお嬢様ではなく、霊夢達の前で言うみたいに『母様』って言っても構わないのよ?私もレミリアのお友達だし」
「けれど、貴女は私の友達ではない。公私の区別はつけているつもりよ」
「つまりは霊夢はとうの昔に線の内側だと。フフッ、本当に良いお友達関係なのね、貴女達は」
「「誰がこんな奴と」」
「…そういうところが仲が良いと表現されると思うのだけれど。まあ、いいわ」

 紫は満足そうに微笑み、手に持つ扇子を広げて口元を隠す。
 そして、視線を私から咲夜の方へ移して、一つの質問を投げかける。

「そういえば十六夜咲夜、最近のフランドールはどんな風に館で過ごしているかしら?」
「フラン…お嬢様?どんな風に、とは質問の意図がよく分からないけれど…」
「そのままの意味で構わないわよ。私はレミリアの友人であると同時にフランドールの友人でもあるの。
あの娘、この前開かれたパーティーにも顔を見せなかったでしょう?どうしているかと思いまして」
「フラン様は異変の夜から以前以上に地下に籠られているわね…そういえば食事の時もあまり顔を見せなくなられたわ。
フラン様曰く、『忙しくて手が離せないだけだから気にするな』とだけ言われたけれど…それが何か」
「そう、成程ね…フフッ、ありがとう。十分過ぎるお話だわ」

 そう言葉を残し、それではと一礼して隙間の中に戻ろうとする紫に、私は『待ちなさい』と一言制止する。
 その声に、紫は行動を止め、私の方へ再度視線を向ける。そんな紫に、私は刹那に沸いた質問をぶつけてみる。

「…紫、貴女これから何かしでかすつもりじゃないでしょうね」
「はて…何か、とは?」
「それが分からないから聞いてるのよ。なんていうか…今のアンタにそれ、訊かないといけないと思って」
「フフッ、おかしな質問をするのね霊夢は。私のこれからの行動は冬眠に向けて挨拶回りするくらいよ。
最後にレミリアのところに顔を出して、心行くまでからかった後にゆっくり眠りにつくつもり」
「…最後の行動だけは止めて頂戴。お嬢様は今日、美鈴と一緒に夜雀のご友人のところに行っているのだから」
「あら、それは良い話を聞いたわ。是非ともその中に混じらせて貰うとしましょうか。
…それで霊夢、質問は終わりでいいかしら?今の答えで満足?」

 紫の反応に、これ以上何を追及しても無駄だと悟り、私は手をシッシッと追い払うように動かして行っていいと意志表示する。
 それを受けて、紫は今度こそ隙間の中に消え、神社内から消失した。それを見届けて、私は大きく溜息をつく。

「…結局何だったのよ、アイツは。いつもは勝手に冬眠して勝手に目覚めるくせに」
「貴女が分からないのに私が分かる筈もないでしょう。あの妖怪の考えることは本当に想像がつかないもの」
「当たり前よ。アイツの狂った思考回路を読み取れる奴がいたらお目に掛かりたいわ。尊敬のあまり神社で祀ってあげるから」
「他の誰でもない霊夢にそこまで言われるというのも…八雲紫、本当に不思議な妖怪ね」
「単に意味不明なだけよ。本当…変な悪だくみをしてなきゃいいんだけど。まあいいわ、とにかく鍛錬の続きよ続き」

 やがて興味の失せた紫を捨て起き、私は再び己の鍛錬へと戻る。
 あんの意味不明妖怪を始めとした連中に少しでも追いつくために、追い抜くために、ね。














 ~side パチュリー~



 暗闇に支配され、闇夜に棲まう者しか存在を許されぬ地下の監獄。
 レミィの在る世界が表なら、彼女が在る世界こそ裏。闇だけが息衝くこの空間に、彼女はただ一人存在し続ける。
 愛する姉の為に誰よりも冷酷に在り、誰よりも他者を見下し、誰よりも孤独で在り続けた少女――フランドール・スカーレット。
 彼女は誰の手を取ることもなく、この暗き世界で狂い続ける。咲夜も、美鈴も、そして私も…誰の力も不要とし、ただ独り、その身は愛する姉の為に。

「…何?貴女を呼んだ記憶はないのだけれど」
「そうね、呼ばれてなんていないわ。だけど、半月も上に姿を見せなければ心配もするでしょう」
「心配?フフッ、らしくもない。私のことなんて頭に入れる必要なんてないわ。貴女はただ、お姉様のことだけを――」
「――と、レミィが最近よく零しているのよね。フランと色々話したいことがあるのに、全然会えないって」

 私の言葉に、暗闇から返答は返ってくることは無い。
 私は軽く息を吐き、暗闇を照らす為に点灯の魔法を紡ぐ。掌から放たれる淡い光に、フランドールの身体から暗闇が振り払われていく。
 そして少しばかり面白くなさそうな表情を浮かべているフランドールに、私はしてやったりとばかりに笑って言葉を紡ぎ直す。

「勿論、レミィだけではなく私達も貴女を心配していたわ。さて、他に何か?フランドール・スカーレット」
「…前々から分かっていたことだけど、貴女の性格は時々不快だわ。衝動で思わず磨り潰したくなるときがある」
「人形のような私が好みなら、レミィに引き会わせた己の過去を呪うことね。あの娘に出会えなかったら、私は今も立派なお人形のままだった」
「ハッ、それこそ冗談。…それで、今日は何の用?生憎と私はあまり長話に付き合うような気分じゃないの。手短に頼みたいわね」
「ええ、こちらとしても手短に済ますつもりよ。こうして会話をしている今ですら、きっと貴女には多大な『負担』なのでしょうから」

 沈黙。私の言葉に、フランドールは笑うことも嫌味を返すこともなく、口を真横に噤んで応対する。
 その反応に、私は自分の推測の全てが一本の線でつながったことを確信した。…本当、嫌な予想ばかり当たるものね。
 運命未来全てに怨嗟の言葉を紡ぎたくなる…そんな感情を押し殺し、私は魔法使いとして必要な情報の確認と収集に努めていく。
 掌の上に展開する光魔法、その輝きを私はフランドールの座るベッド…その背後の壁に中てる。そこには、想像通り、無数の
欠落、欠損、傷跡が残されていた。力のままに、己の荒れ狂う能力のままに暴力をぶつけられたその痕跡が。

「いつから、というのも無駄な問いかけね。貴女の力、そのブレーキが外されたのはあの永き夜しかないもの」
「…その問いかけは私がすべきモノね。パチュリー…貴女、いつ気付いたの?」
「気付いたこと、そのことに声を大にすることはあまりしたくないわね。むしろどうして今まで気付けなかったのか…そちらが問題だもの。
思い返せば、答えは何処にでも転がっていた。だけど私達は、レミィしか見ていなかった。レミィだけを見続け、レミィの為だけを考えて
物事を判断し過ぎた。そして貴女のレミィに対する妄執を当たり前に捉え過ぎた…だから、私達は本当に大事なことの何もかもに気付けなかった」
「本当、面倒ね…魔法使いっていうのは一々前書きを並べ立てないと本題に入れないのかしら」

 小さく息をつき、フランドールは瞳をこちらに向け直す。
 その瞳は何処までも冷酷で、残忍で。その気になれば私の一人や二人の首など瞬きする間もなく刎ねることが出来るでしょうね。
 けれど、そんな子供騙しに流されてあげるほど私は子供ではない。フランドールの殺気を気にすることもなく、淡々と言葉を紡ぐ。

「確証を得たのはつい最近よ。薄々とは勘付いていたけれど、決定打を導けなかった。…違うわね、導こうともしなかっただけ。
最初に違和感を感じたのは、貴女がレミィを無理矢理この館の当主に仕立て上げたとき」
「どうして?私はお姉様が大好きなの。だから私は連中を殺した。お姉様を侮辱するあの塵達を淘汰したの。
ならばお姉様を紅魔館の主に据えるのは当たり前でしょう?愛する姉の為に、妹は姉を主にした、ただそれだけのこと」
「その手を用いるならば、あと数順遅らせる方がベストだった、それが分からない貴女ではないでしょう?
確かにレミィの秘密を握る連中は淘汰したけれど、レミィが主に座ること、その全てを他の連中まで納得した訳じゃないもの。
そもそも、レミィを主に据えること自体が悪手だわ。レミィの幸せを、無事を願うなら、貴女が無理にでも主として表に立った方が良い。
貴女に『その時間が許されているのなら』、紅魔館の主としてレミィの為に在り続ければ良かった。幻想郷の強者として立ち、レミィの
為に全ての障害を打ち払えるような、そんな存在として、ね」
「それが不可能である理由、分からない貴女ではないでしょ。私は頭が狂ってるからね、こんな不安定な者に主なんて勤まるものか。
それにお姉様を私の下につける?面白くない、実に面白くない冗談だ。お姉様が誰かの下につくことなどないわ。お姉様は唯一無二の存在なのだから」
「気が触れているから主はしない、レミィが大好きだから下につけたくない…そんな理由でレミィを失する悪手を打つ程、
私の知るフランドールは甘くないのよ。貴女にはそれが出来ない理由があった。無理をしても、時計の針を早める必要があった。
…思い返せばなんて簡単。フランドール、貴女は急き過ぎていたのよ。吸血種、妖怪…貴女やレミィの持つ許された時間とは対照的にね」

 私の言葉をフランドールは淡々と耳に入れるだけ。反論しないのは、間違いなく私の推測が外れていないことの証明。
 …事実、フランドールは計画を急いでいた。私達が元主を始めとした連中を淘汰した後、彼女はレミィを無理矢理紅魔館の
主の地位へと縛りつけた。そして、その決定に異を唱え、レミィではなくフランドールを担ぎあげようとする者、その全てを消し去った。
 フランドールがレミィへ冷たく接する態度、それを見て蠢く羽虫を呼び寄せて断罪していく。その結果として、この紅魔館に最早
レミィをどうこうしようなんて輩はいない。本来なら百年スパンで時間をかけて行うモノを、フランドールは十数年で成し遂げてしまった。
 レミィを愛するが故に、気が触れているから…そんな理由に、私達も惑わされた。フランドールの撒く幻惑に、踊らされた。
 彼女の取る行動一つ一つがレミィの為という理由が存在するから…だから、気付けなかった。彼女が隠していた真実を見抜けなかった。

「そしてレミィへの態度…あれも理由の一つね。元主達が消え去ったというのに、貴女は一向にレミィと距離を詰めようとしない」
「当たり前じゃない…私がお姉様と距離を詰めれば、私の枷としてお姉様が他の連中に狙われる。
それはお前だって重々承知の筈でしょう。その為に、私は屑共を全て消し去るのに数多の時間を要してしまったのだから。
またお姉様が屑に利用されないとは限らない、私に対してお姉様が有用だと知られてはならない。わざわざ己のアキレスを主張しろと?」
「誰が狙うの?博麗も八雲も西行寺も伊吹も蓬莱山も、その全てに友好を持ったレミィを一体誰が?」
「保険と本分を履き違えないで。連中はあくまで保険、百を九十九に自ら下げる愚行なんてしないわ」
「その一の為にレミィを悲しませるの?それこそ有り得ないわね。嘘も並び立てられると随分不快だわ。
言ってあげる。貴女がレミィと距離を取る理由は二つ…レミィを悲しませたくないこと、そして自分が悲しみたくないこと」

 そこまで言葉を並べ立てて、私は自分の言葉尻がどんどん強くなっていることを自覚する。
 …ああ、そういうこと。私、怒っているのか。フランドールに対して、どうしようもなく怒りを感じている。感情をぶつけてしまっている。
 けれど、思うままに感情をぶつけても、きっと答えは得られない。私は熱してしまった頭を冷ましながら、ゆっくりと言葉を紡ぎ直していく。

「…レミィを無理に異変に参加させること、これ自体が本来なら考えられないことなのよ。
確かにレミィの為になり、強者との関係を結ばせることが出来るけれど…そこにはレミィの望みもなければ危険だって存在する。
ならば何百年とゆっくり時間をかけて基盤作りしていく方が余程貴女らしく在る」
「急いてなどいないわ。現に私は屑共を屠り、数十年の時を無駄に過ごしてる。
もし貴女が言うように時間が無いのなら、すぐさま異変を起こしていた筈でしょ?」
「そこまで私に言わせないで…貴女はギリギリまで保っていたかった、ただそれだけでしょう。
貴女の『命(タイムリミット)』のギリギリまで、レミィと過ごす穏やかな平穏を…ね」

 …もう問答は必要ないでしょう。そう態度で告げる私に、フランドールは顔を顰めて言葉を返せない。
 カードは全て開かれている。残忍で冷血な吸血鬼、闇に生き続け仮面を被って嗤う少女の手札は曝け出された。
 馬鹿だ。この娘は本当に愚かだ。どんなに苦しくとも、辛くとも、仮面を被り姉の為に舞台の上で狂人として嗤い続けるフランドール。
 その少女に、私は辿り着いた真実を突き付ける。フランドールが隠し続けた、本当に戯けた運命を。




「――貴女はもう永くない。そうでしょう、フランドール・スカーレット」




 私の辿り着いた答え。それはたった一つの残酷な事実。
 嘘ならば良かった。私の下らない思い違いなら良かった。だけど、彼女の態度は私の答えを肯定してしまう。
 何を馬鹿なと笑ってくれればいい。勝手に殺すなと罵倒してくれればいい。だけど、フランドールはしない。出来ない。
 十数秒の間をおいて、フランドールは大きく息を吐き、言葉をぽつりぽつりと紡いでいく。それは、先ほどまでの殺気に
満ち溢れた狂気の姿とは程遠い、どこまでもか弱き姿。

「…使えない屑は嫌い。けれど、有能過ぎる奴も苛立たしいものね。長年生きてきたけれど、初めて知ったわ」
「否定はしないのね、フランドール」
「別にパチュリーと言葉遊びしたい訳じゃないもの。今更どう否定したところで無駄だろうし」
「最初からそう言ってくれたら長話せずに済んだのよ、違って?」
「フフッ、違いないね…本当、貴女は最高の拾いものよ、紅魔館の頭脳さん」

 一度言葉を切り、フランドールは苦笑混じりに語り始める。
 それは全くの第三者が耳にすれば理解に苦しむ言葉。けれど、彼女の真実を知る者からすればどこまでも悲痛な叫び。
 フランドールという少女の慟哭が、絶望が、痛い程に伝わってくる…そんな言葉。

「…最近、よく夢を見るよ」
「夢?」
「ええ…アイツを、私達を永遠の牢獄に閉じ込めた屑を屠るときの夢。
お姉様を全てから解放する為に…違うね。私を、私自身を全ての柵から解き放つ為に私が起こした私の戦争。
沢山の時間と沢山の恨みを積み重ね…ようやく、ようやく実行出来た私の夢の刹那(じかん)」

 彼女の語るシーン、それは私達のスタートと言っても過言ではない過去。
 フランドールと私が幾重の計略を用いて、実行に移した呪われし館の解放…前当主、レミィ達の父親の殺害。
 紅魔館に蔓延る最後の屑達を一掃する為に、八雲達との戦闘後、奴等の消耗時を狙って遂行した掃討作戦。
 その中で、私が実の父親を手にかけたように、フランドールもまた実の父親をその手にかけた。
 私達の計画は成功に終わり、種火を最低限の状態のままにレミィを忌まわしき鎖から解放することが出来た。
 そのとき、私も美鈴も全てが終わったのだと思っていた。これからはレミィとフランドールをはじめ、私達が望む
幸福に満ちた時間が始まったのだと思いこんでいた。…そう、フランドールの真実を知るまでは。

「あいつの頭を磨り潰したとき、私の心は歓喜に震えたよ…もう、何モノにも縛られないで済むんだって。
これで私は幸せになれる…これで私は本当の気持ちをお姉様に伝えることが出来る…もうあいつ等の目を気にして
お姉様に他人のように接する必要も無いんだって…お姉様の手を、つないで一緒に歩いていけるんだって…」
「フランドール…」
「…アイツを殺した気の昂りと、お姉様とお話し出来る喜びと…沢山、沢山感情が混じり合ったよ。
アイツを殺して、私は一心不乱にお姉様の部屋を目指して走ったよ。走って、走って、走って…お姉様の部屋の扉を開けて…
何て最初に声をかけよう、何て言えばお姉様は驚いてくれるかな…そんなことを馬鹿みたいに沢山考えて…お姉様に会ったんだよ。
…フフッ。ねえ、パチュリー、なんだと思う?私がお姉様に会って、最初に思ったことって一体何だと思う?」

 そこまで告げ、フランドールは細い両腕で自身の身体を強く抱きしめる。
 それが自身の身体の震えを抑える為の行為だと気付いたのは、彼女が言葉を発してから。声が震えないように必死に身体を抑え込み、
フランドールは言葉を続ける。それは懺悔、それは自嘲、それは悔恨、それは絶叫。

「――お姉様を殺したい。そう、思ったんだよ。沢山沢山お姉様を想って、私は…そう、思ったんだ」
「殺す…レミィを…?」
「…信じられないよね。私だって信じられない、信じたくない…でも、私はあのとき強くそう思ったんだ。
ベッドの上で眠るお姉様を見て…血塗れの私とは正反対な、何処までも純白で綺麗なお姉様を見て…私は、強く殺意の衝動に駆られた。
大好きなお姉様を、世界中の誰よりも愛するお姉様を、この手で穢したいと…殺したいと、思った。その光景は、きっと何よりも綺麗だろうから…
お姉様の血は一体どんな味がするだろう。お姉様は死の間際に一体どんな声を上げてくれるのだろう。お姉様の死は一体どれほど私の心を揺り動かすのだろう。
欲望が私の身体を突き動かして、お姉様の細い首に手をかけて…正気に戻ったよ。自分の行動に対し、今の貴女のような感情を抱いて…ね」

 ――絶句。今の私を表現するなら、最早それ以外の言葉はない。フランドールの口から紡がれたのは、私の想像を遥かに超える言葉。
 フランドールが、レミィを殺そうとした?あの誰よりもレミィを護る為に奔走し、レミィの為に全てを遂行したフランドールが?
 …有り得ない。馬鹿な。どうして。彼女は確かに精神的に不安定なところもあるが、判断、理性、そのあたりは何も問題ない。それなのに…
 答えの出ない迷宮に閉じ込められている私を余所に、フランドールの言葉は続く。

「最初は気の迷いだと思った…実の父親を殺した為に、精神が昂っただけなんだって、自分を誤魔化して…でも、それが私の持ち続けていた
『致命傷』なんだって気付くのには、ものの三日も掛からなかったよ。フフッ…本当、思い返せば当たり前なのにね…
私が今をこうして生きていられるのは、全てお姉様の起こした奇跡のおかげ…そんな儚いモノに頼っていただけなのに、私は自分が正常に戻れたんだって勘違いして…」
「どういうこと?フランドール、答えなさい。貴女の身体は…」
「…先天的な障害だよ。私の身体は生まれた頃から『欠陥品』でね。力の構造と精神構造が『駄目な』方向にねじ曲がり入り組んでる。
具体的に言うと妖力魔力の発動に心体が連動しちゃってるんだよね…ま、この当たりは貴女の方が詳しいでしょう?」
「…嘘。そんなの、決して有り得ない。貴女のその力で、そんな欠陥が存在したら…」
「壊れちゃう、よね。吸血鬼クラスの妖力なんて、発動した瞬間に心と身体が過負荷で悲鳴をあげる。例えそれが妖怪の身体でも、ね。
力を使わずとも、保持し続けるだけで心の方が先に根を上げる…ああ、そう言えば貴女の父親に私は百年持たないって言われてたわよ。
勿論、その百年の全ては寝たきりの状態で…という前置きが必要なのだけど」
「…どうして、貴女は今生きているの?言い難いけれど、そんな酷い障害は生半可な治癒、ましてや正当法では治せない筈よ」
「訊かなくても分かるでしょう?それを知っているからこそ、貴女は私の前にこうして現れたのでしょう?
私の計画、私の身体、私の思惑、そしてお姉様の…レミリア・スカーレットの真実。全ては一本の線につながったかしら、パチュリー・ノーレッジ」

 十分過ぎる程に…その一言が、言葉に出来ない。嫌みの一つも言い返せない。重過ぎる真実が、私の心を縛る。
 フランドールの言葉、その全てが真実ならば…『あの娘』のフランドールへの『呪い』は、奇跡と呼べるレベルに昇華してしまっている。
 けれど、幼さが故の力技…だからこそ、歪みが生じた。命を賭した禁呪を持ってしても、幾ら優秀とはいえ幼過ぎる『あの娘』では、
完全に蓋を閉ざせなかった。故に、災厄が漏れ出る。長年抑えてきた筈のフランドールの病が、実父を殺した弾みで解放されてしまった。
 その開かれた蓋は、じわりじわりとフランドールを蝕み、そして永き夜…八意永琳との戦闘で、フランドールは我を忘れる程に
憎悪を解放し…そして、最後の封は放たれてしまった。その結果が今の彼女。こうして笑ってはいるが、今のフランドールは眠ることすら
ままならないだろう。心と体、そのどちらにも言葉にしがたい苦痛が襲っている筈。それほどまでに、彼女を蝕む病は残酷なもの。
 その真実が、私の心を責め立てる。どうして気付けなかった。どうして私は知ることが出来なかった。
 ここに来るまでは、頬を引っ叩いて文句の一つでも言ってやろうと考えていた。同胞と謳いながら、私達に何も話してくれなかった
ことに嫌みの一つでも言ってやろうと思っていた。だけど、この娘のレミィを…愛する姉を護る為の、想像を絶する覚悟を知ってしまった。
 己が命も省見ず、ただ姉の為に奔走し続けた少女。姉を手にかけそうになる程の病と狂気を悟り、何の躊躇もなく『自らの死後の未来』を
築く計画を実行した少女。そんな彼女の真実が、決意が、想いが…どうしようもなく、責め立てる。
 …レミィの為に生きる。私達が口にするその言葉、それはなんて安っぽい言葉なんだろう。この娘はどんな気持ちで私達の言葉を聞いていたのだろう。
 愛する姉の為に計画を遂行し、愛する姉を護る為に駒を揃え…そして彼女は、その駒に最後の役割を果たさせようとしている。
 美鈴の、咲夜の、私の…フランドールの考えた、本当の役割。それはレミィを護ることではなく、レミィの最大の危険と為ってしまった――の排除。

 …認められない。こんなもの、絶対に認められない。
 私は拳を強く握り締め、フランドールに背を向ける。部屋から出て行こうとする私に、フランドールは分かりきったような問いを投げかける。

「そんなに急いでどちらにお出掛け?賢しい貴女なら、間違っても私の話をお姉様に言ったりしないとは思うけれど」
「…『今の』レミィに話してもしょうがないでしょう。今のレミィには…あまりに残酷過ぎる。
あの娘は貴女が大好きだからね…貴女が死ぬかもしれない、なんて言えばレミィの心が壊れてしまう」
「分かってるならいいわ。私が貴女に話したのは、『これから』のことを貴女に考えて貰う為。
上に戻って美鈴や咲夜に話して、これからのことを考えなさい。どうすればお姉様の為になるか…何がお姉様の為になるのか、それをしっかりと、ね」
「…ええ、しっかりと考えてあげるわ。ただ、一つだけ言えることはあるけれど」
「へえ、訊いてあげる。言ってみなさい」

 ここまで諦めているということは、間違いなくフランドールもあらゆる手を尽くしたんだろう。
 レミィと生きる為に、沢山の方法を探し、考え、壁に当たる度に絶望し…そして、諦めた。諦め、切り替え、決して足は止めなかった。
 フランドールが諦めるかどうかは確かに彼女の勝手。だけど、彼女が諦めたから私も…という訳にはいかない。
 だって、そうじゃない。フランドール、貴女は私にとって自分が姉の付属品くらいにしか思っていないと勘違いしてるようだけど…私は今でも盟友のつもりよ。
 レミィが掛け替えのない親友なら、貴女は決して別れられない悪友。これまで散々一緒に姦計を笑って実行してきた相棒、そう簡単に抜けられると思って貰っては困るわね。
 貴女は死を決め付けているけれど、私はそんなに甘くは無い。貴女の死なんて、私達の描いた計画には存在しないもの。
 私達が目指すべきは幸福。私達が目指すべきは最高のハッピーエンド。他人なんかどうでもいいけれど、レミィと貴女は絶対に幸せに
なってもらう。それが私達の…この館に生きる場所を与えて貰った者達の、大切な仕事だと思うから。だからフランドール、貴女に言えることはたった一つだけ――



「――私達をおいて、決して楽に死ねると思わないことね」



 私の捨て台詞に、フランドールは目を丸くさせて驚き、そして耐えきれないとばかりに声を上げて大笑いする。
 そんなフランドールに対し、私は呆れるように息を吐いて、今度こそ地下室を後にする。

 フランドールの眦に光る小さな滴…そんな本当の彼女の意志をしっかりと胸に抱いて。




















 ~side 紫~



 隙間から飛び降り、私は地に足をつける。
 そして、私の前に立つは私の自慢の式、八雲藍。藍は私の帰還を確認し、訊ねかけるように言葉を紡ぐ。

「お帰りなさいませ、紫様。博麗神社から?」
「いいえ、ヤツメウナギの屋台から」
「…は?」
「フフッ、貴女も一度行ってみるといいわ。中々に素敵なお店だったわよ。
特にお勧めのメニューは涙目の蝙蝠弄りね。可愛くて可愛くて、思わず時間を忘れてしまったわ」

 私の言葉に、なんのことか理解したのか、藍は呆れるように大きく溜息をつく。
 あらあら、心外な反応ね。あの娘の素晴らしさは貴女とて触れてみて理解したでしょうに。
 そんな私の考えを感じ取ったのか、藍はじと目で私を見つめながら口を開く。

「…お言葉ですが、あまりそんな行動ばかり取ってると、本気で嫌われちゃいますよ」
「レミリアが私を?フフッ、有り得ない有り得ない。あの娘、他人を嫌うことを嫌うもの。むしろ怯えると言ってもいいくらい」
「それでも、です。どんな気心が知れた友が相手でも、最低限の礼節は必要でしょう」
「あら、貴女いつから私に意見出来る程偉くなったの?」
「意見なら式になったときから全力でしているつもりですが。特に紫様が結界管理をサボったときとか私に押し付けたときとか」
「あーあー、聞こえない聞こえない」

 藍の言葉に両耳を抑え、私は全力でスルーに努める。こんな嫌味を言えるようになったなんて、藍も随分大きくなったわねえ。
初めて出会った頃はこんな小さな子狐だったのに、本当、月日が流れるのは早いものね。
 私は軽く息をついて、気持ちを切り替え直す。冗談話ではなく、真剣な話をする為に。
 空気の変化を機敏に読み取ったか、藍もまた意識を切り替え直し、報告の言葉を紡ぎ始める。

「早速ですがご報告させて頂きます。妖怪の山の天魔を始め、幻想郷の賢者達から苦情と要望が殺到しています。内容は…」
「説明されるまでもないわ。私の管理者としての力量への疑心、そして管理権限の譲渡でしょう?」
「…仰るとおりです。紅霧、春雪、永夜と幻想郷の平穏をかき乱す異変を許しておきながら、管理者として
自分達との会議に異変首謀者を連れてくるでもなければ謝罪させる訳でもない。事情すら説明しない、と」
「フン、年齢だけを重ねた屑が言ってくれるわね。捨て置きなさい、連中の要望に耳を貸す必要はないわ」
「ですが、紫様…特に天魔を始めとした妖怪の山の者達の声は強く、このままでは紫様の…」
「――捨て置け、私はそう言った筈よ。同じ言葉を二度も言わせないで」
「…出過ぎた真似を。申し訳ございません」

 頭を下げる藍を余所に、私は軽く瞳を閉じて思考する。連中の求めるモノ…それはこんな『重石』なんかではないでしょう。
 となると、理由か…下の血気盛んな連中を納得させるだけの理由、それが天魔。他の連中は…単なる私への揺さぶりか。
 …どちらにしても、行動は不要ね。少なくとも私は連中にレミリアもフランドールも差し出すつもりは微塵もない。あの娘達は
この幻想郷の未来を築いていく大切な欠片、決して失ってはならない玉石。だからこそ、私は藍に指示を出す。

「藍、指示を出すわ。連中が何を言おうと、決して耳を貸すことも首を垂れることもない。
例え連中が何を条件とし、何を引っ張り出してきたとしても突っ撥ねなさい。私が眠る間、このことだけを遵守なさいな」
「…例えそれが、紫様の立場を失わせることになろうとも、ですか?」
「無論よ。私が望むは変化、成長、永続、未来。私が望む幻想郷、その世界に私という駒は重要ではないの。
私が駄目なら、別の者が世界を管理すればいい。私は神を気取ることなど望まない――私が望むは、この世界の母で在ること」
「…承知しました。八雲藍、必ずや紫様の命を遵守いたします」
「ええ、お願いね、藍。私が起きるまで…きっとその間に、この幻想郷は一波乱あるだろうから」

 ――あの娘がみんなの中心に立つ限り、きっと、ね。そう付け足して、私は視線を空に向け、星々の瞬く世界を見上げる。
 夜空に輝く宝石達、それはまるで私の愛する幻想郷のよう。この世界に住まう誰もが輝きに溢れ、自らの生を証明するように眩しく地上を照らしている。
 その幻想郷の中で一際大きく輝く二つの星に、私は出会った。暗き闇夜で眩しく輝く姉星と、明るい日光の中で存在を示す妹星。
 二者相反するように輝く二星、けれどその輝きの美しさ、その本質は一緒。どちらも輝きの色が異なるだけで、この幻想郷内で
どこまでも優しく純粋に、道に迷う旅人の行き先を照らすが如くに煌めいて。私はそんな二つの星を何処までも愛おしく思う。
 決して失ってはならないモノ。決して無くしてはならないモノ。その二星はきっと、これから先の幻想郷の未来をも照らし出す。
 だから私は心から願う。決して失われぬように、忘れ得ぬように、無くさぬように。私が直接手を触れてしまえば、その輝きはきっと消えてしまう。
 何者にも穢されない、縛られない、触れられない、そんな天に輝く彼女達だからこそ価値が在る。友として、この世界を愛する者として、私は願う。


「――今年もまた、永い冬になりそうね。凍てつく嵐が吹き荒れる、そんな冬に」


 永き冬を越え、再び友として会いましょう――レミリア、フランドール。
 貴女達に待つ過酷な試練、それらを乗り越えて幸せに微笑みあう貴女達…そんな未来を、私は楽しみにしているわ。
 二つの星の輝きが一つになる、誰もが望み願うその儚くも優しい、決して在り得ぬ奇跡と呼ばれる未来を…ね。








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