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No.13774の一覧
[0] うそっこおぜうさま(東方project ちょこっと勘違いモノ)[にゃお](2011/12/04 20:19)
[1] 嘘つき紅魔郷 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:52)
[2] 嘘つき紅魔郷 その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[3] 嘘つき紅魔郷 その三 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[4] 嘘つき紅魔郷 エピローグ (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[5] 嘘つき紅魔郷 裏その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[6] 嘘つき紅魔郷 裏その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:55)
[7] 幕間 その1 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:11)
[8] 嘘つき妖々夢 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:24)
[9] 嘘つき妖々夢 その二[にゃお](2009/11/14 20:19)
[10] 嘘つき妖々夢 その三[にゃお](2009/11/15 17:35)
[11] 嘘つき妖々夢 その四[にゃお](2010/05/05 20:02)
[12] 嘘つき妖々夢 その五[にゃお](2009/11/21 00:15)
[13] 嘘つき妖々夢 その六[にゃお](2009/11/21 00:58)
[14] 嘘つき妖々夢 その七[にゃお](2009/11/22 15:48)
[15] 嘘つき妖々夢 その八[にゃお](2009/11/23 03:39)
[16] 嘘つき妖々夢 その九[にゃお](2009/11/25 03:12)
[17] 嘘つき妖々夢 エピローグ[にゃお](2009/11/29 08:07)
[18] 追想 ~十六夜咲夜~[にゃお](2009/11/29 08:22)
[19] 幕間 その2[にゃお](2009/12/06 05:32)
[20] 嘘つき萃夢想 その一[にゃお](2009/12/06 05:58)
[21] 嘘つき萃夢想 その二[にゃお](2010/02/14 01:21)
[22] 嘘つき萃夢想 その三[にゃお](2009/12/18 02:51)
[23] 嘘つき萃夢想 その四[にゃお](2009/12/27 02:47)
[24] 嘘つき萃夢想 その五[にゃお](2010/01/24 09:32)
[25] 嘘つき萃夢想 その六[にゃお](2010/01/26 01:05)
[26] 嘘つき萃夢想 その七[にゃお](2010/01/26 01:06)
[27] 嘘つき萃夢想 エピローグ[にゃお](2010/03/01 03:17)
[28] 幕間 その3[にゃお](2010/02/14 01:20)
[29] 幕間 その4[にゃお](2010/02/14 01:36)
[30] 追想 ~紅美鈴~[にゃお](2010/05/05 20:03)
[31] 嘘つき永夜抄 その一[にゃお](2010/04/25 11:49)
[32] 嘘つき永夜抄 その二[にゃお](2010/03/09 05:54)
[33] 嘘つき永夜抄 その三[にゃお](2010/05/04 05:34)
[34] 嘘つき永夜抄 その四[にゃお](2010/05/05 20:01)
[35] 嘘つき永夜抄 その五[にゃお](2010/05/05 20:43)
[36] 嘘つき永夜抄 その六[にゃお](2010/09/05 05:17)
[37] 嘘つき永夜抄 その七[にゃお](2010/09/05 05:31)
[38] 追想 ~パチュリー・ノーレッジ~[にゃお](2010/09/10 06:29)
[39] 嘘つき永夜抄 その八[にゃお](2010/10/11 00:05)
[40] 嘘つき永夜抄 その九[にゃお](2010/10/11 00:18)
[41] 嘘つき永夜抄 その十[にゃお](2010/10/12 02:34)
[42] 嘘つき永夜抄 その十一[にゃお](2010/10/17 02:09)
[43] 嘘つき永夜抄 その十二[にゃお](2010/10/24 02:53)
[44] 嘘つき永夜抄 その十三[にゃお](2010/11/01 05:34)
[45] 嘘つき永夜抄 その十四[にゃお](2010/11/07 09:50)
[46] 嘘つき永夜抄 エピローグ[にゃお](2010/11/14 02:57)
[47] 幕間 その5[にゃお](2010/11/14 02:50)
[48] 幕間 その6(文章追加12/11)[にゃお](2010/12/20 00:38)
[49] 幕間 その7[にゃお](2010/12/13 03:42)
[50] 幕間 その8[にゃお](2010/12/23 09:00)
[51] 嘘つき花映塚 その一[にゃお](2010/12/23 09:00)
[52] 嘘つき花映塚 その二[にゃお](2010/12/23 08:57)
[53] 嘘つき花映塚 その三[にゃお](2010/12/25 14:02)
[54] 嘘つき花映塚 その四[にゃお](2010/12/27 03:22)
[55] 嘘つき花映塚 その五[にゃお](2011/01/04 00:45)
[56] 嘘つき花映塚 その六(文章追加 2/13)[にゃお](2011/02/20 04:44)
[57] 追想 ~フランドール・スカーレット~[にゃお](2011/02/13 22:53)
[58] 嘘つき花映塚 その七[にゃお](2011/02/20 04:47)
[59] 嘘つき花映塚 その八[にゃお](2011/02/20 04:53)
[60] 嘘つき花映塚 その九[にゃお](2011/03/08 19:20)
[61] 嘘つき花映塚 その十[にゃお](2011/03/11 02:48)
[62] 嘘つき花映塚 その十一[にゃお](2011/03/21 00:22)
[63] 嘘つき花映塚 その十二[にゃお](2011/03/25 02:11)
[64] 嘘つき花映塚 その十三[にゃお](2012/01/02 23:11)
[65] エピローグ ~うそっこおぜうさま~[にゃお](2012/01/02 23:11)
[66] あとがき[にゃお](2011/03/25 02:23)
[67] 人物紹介とかそういうのを簡単に[にゃお](2011/03/25 02:26)
[68] 後日談 その1 ~紅魔館の新たな一歩~[にゃお](2011/05/29 22:24)
[69] 後日談 その2 ~博麗神社での取り決めごと~[にゃお](2011/06/09 11:51)
[70] 後日談 その3 ~幻想郷縁起~[にゃお](2011/06/11 02:47)
[71] 嘘つき風神録 その一[にゃお](2012/01/02 23:07)
[72] 嘘つき風神録 その二[にゃお](2011/12/04 20:25)
[73] 嘘つき風神録 その三[にゃお](2011/12/12 19:05)
[74] 嘘つき風神録 その四[にゃお](2012/01/02 23:06)
[75] 嘘つき風神録 その五[にゃお](2012/01/02 23:22)
[76] 嘘つき風神録 その六[にゃお](2012/01/03 16:50)
[77] 嘘つき風神録 その七[にゃお](2012/01/05 16:15)
[78] 嘘つき風神録 その八[にゃお](2012/01/08 17:04)
[79] 嘘つき風神録 その九[にゃお](2012/01/22 11:18)
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[13774] 幕間 その5
Name: にゃお◆9e8cc9a3 ID:dcecb707 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/14 02:50







 中秋の風を頬に受け、透き通るような大空見上げて深呼吸。
 うだるような暑さは完全に消え失せ、夜になれば寒さすら感じ始める季節。そんな季節、そんな空の下で、私は人里の道を歩く。
 一歩、二歩、三歩。人々の賑わう声が溢れかえる世界で自分の確かな存在を感じながら、私は後ろを振り返る。
 そこに居るのは見知らぬ人々。右を見ても左を見ても私が知る顔は無い。ニンゲンというマジョリティに埋没する異端、それが今の私。
 妖怪にとって人は食糧、人は獲物、そして人は天敵。相反する意味を持つ存在、彼らの生み出している日常の景色に溺れながら、私は意を決して言葉を紡ぐ決意をする。
 人々の作りだす日常という名の甘毒に触れぬように、流され得ぬように。ニンゲン共の優しさに、決して心が砕かれぬように。

「だからね、お嬢ちゃん。黙ったままじゃ、お父さんやお母さんが何処にいるのか探しようがないんだってば」
「ほら、怖くないからお姉さん達にお名前教えてくれるかな?」
「…迷子じゃないわよ。私は紅魔館の誇り高き主だもの、迷子なんかじゃないわよ…」

 人里の優しい…もとい、私をどこまでも馬鹿にしてくれる人間達から目を逸らしながら、私は己が拳をワナワナと強く握り締める。
 馬鹿魔理沙。アホ輝夜。駄目駄目鈴仙。あとで絶対覚えてなさいよ…あ、キャンディくれるの?…私、もう五百歳過ぎてるのに…いや、一応貰うけど。
 大体迷子はあいつらの方なのよ。ちょっと目を離しただけなのに、あいつら一人残らず私を置いて何処かに行って…そりゃ輝夜は初めての
人里で舞い上がる気持ちは分かるわよ。でも、人里案内しろって私に言ったの貴女じゃない。それを放置て。案内人要らないじゃない。
 魔理沙も一緒に遊び呆けて私をおいて行くんじゃないわよ。鈴仙は…やっぱり許してあげよう。どうせ今日は輝夜に振り回されるのは
鈴仙だって決まってるんだし。とりあえず、この人ゴミの中を捜し回るのは得策じゃない。迷ったら待つ、私はホトトギスは鳴くまで待つ派なのよ。
 そういう訳で早く戻ってきなさいかぐまりコンビ。鈴仙もなんとか上手く舵取りして輝夜を連れ戻して頂戴。早くして、早くしてくれないと…

「…って、おい、お嬢ちゃん今にも泣きそうだぞ?なんだ、腹でも痛いのか?」
「馬鹿ね、こんな小さな子供が町中で両親と逸れたんだからこうもなるでしょ?ほら、怖かったら無理せず泣いてもいいからね?」

 …早くしてくれないと、そろそろ私の心が折れそうなのよ。駄目かも、ある意味萃香の試練より死ねる。何これネガティブホロウ?
 泣かない、絶対に泣いたりするもんか。…あと千年、あと千年後には必ずボンキュッボンのナイスバディな女になってやる。打倒幽々子…やっぱり打倒永琳にしよう、うん。
















「ほら、もう機嫌直せって。私達も悪かったと思ってるし、謝罪もこのとおりしたじゃないか。な?」
「…心が籠もって無い。輝夜なんてまだ笑ってるじゃない」
「だって、おかしくっておかしくって。もう、レミリアったら私を笑い死にさせるつもり?不死を殺そうだなんて、本当に貴女は最高ね」
「…姫様、今回はちゃんと謝罪した方が。悪いのは完全に姫様…じゃなくて私達なんですから」

 心が完全に折れて号泣する寸前だった私をよ・う・や・く救い出してくれた魔理沙輝夜鈴仙。
 そんな連中の心無い謝罪にぷんぷんの私。ふん、簡単に許してなんかあげないわよ。あと私が優しい夫婦から貰ったキャンディもあげないわよ。
 機嫌が全然直らない(当たり前よ)私に、魔理沙苦笑輝夜爆笑鈴仙困り顔。…輝夜ああああ!!貴女って人は貴女って人は!

「なに、ちょっとレミリア、いたいいたい」
「うるさいっ!うるさいっ!元はと言えば輝夜がフラフラするからいけないのよ!おかげで私が、淑女たる私があんな恥辱にっ!」
「あら、だって仕方ないじゃない。こんな風に出歩くの、本当に久しぶりなんだもの。楽しくて楽しくて色々と目移りしちゃうわね」

 反省の色を微塵も見せない輝夜に私の怒りのスーパーモード、レミリアフィンガー炸裂。具体的に言うと輝夜の掌になっくるなっくる。ガイアが私に輝夜を殴れと囁いているの。
 くう…この少しも自分が悪いとも思わない、なんていうバリバリ最強No1お姫様。きっとこんな姫は竜王だってクーリング・オフするに違いないわ。
 いや、まあ…確かに輝夜は脱引き籠りしたばかりで世界が新鮮に感じるのはしょうがないと思う。思うんだけど…どうして私だけ割りを食ってるのよ。

 そもそも、今日だって本当はこんな予定無かったのに。人里にちょっと用があるから、準備をして紅魔館を出ようとしたら、何故か輝夜と鈴仙がいて。何の用かと
訊ねたら最高の笑顔で『人里を案内して頂戴』。私は他の用があるから別の日にしてくれって言ったのに、聞く耳持たずに強制連行。で、人里に向かう途中で会った
魔理沙…うん、ごめんなさい。ぶっちゃけ魔理沙は唯の道連れ。二つ返事で一緒に行くって言って貰えたから良かったけれど…とにかくそれが今日の経緯。
 私が用があろうとなかろうと、他人の用など二の次三の次。自分が面白き世を面白く生きる、それが今の輝夜の姿。…いや、脱皮し過ぎでしょこの娘。
 初めて会ったときは本当に深窓の令嬢というか物語のお姫様って感じだったのに、今や世界を大いに盛り上げる活動でもやってそうな素敵少女に。
 …でも、輝夜がそんな今を楽しんでくれているなら、それでいいかなと思ったり。毒されてる、私完全に毒されちゃってる。こんな風に考える時点で
自分というモノが風化して流されまくってる。で、でも輝夜他の連中に比べたら常識内で引っ張り回すだけだからマシに感じるんだもん。
 私の周りには、輝夜が可愛く見えるくらい私を無理矢理振り回す奴が多いからね…紫とか幽々子とか萃香とか紫とか紫とか紫とか紫とか紫とか紫とか紫とか紫とか。
 だから輝夜の常識内に納めてくれてるワガママくらいは受け入れてあげてもいいかなって。一緒に居て楽しいしね…でも、でもね。

「そんな気持ちと今回の私の恥辱は無関係なのよ!!誰が迷子よ!誰が親とはぐれた女の子よ!」
「拳を握りしめて力説されてもねえ。私が貴女と逸れたのと貴女が人間の子供に間違えられたことに因果関係も何も無いし」
「…まあ、正論だよな。レミリアが人間の子供に間違えられたのは着てる服に理由があるだろ。
なんで咲夜が着てるようなメイド服着てるんだ?しかも羽まで収納しちゃって、そんな格好だったら間違えない方が無理だ」
「だから私は用があって人里に来たって言ったでしょう!私が付き合うのはここまでなの!今日は本当に用事があるの!」

 魔理沙の指摘通り、私の様相はいつものような格好ではなく、咲夜が身につけてるようなメイド服。紅魔館にあった妖精用のものを
一着拝借して着込んでる。妖精のものだから、背中の羽は外に出せるようになってるんだけど、私はあえて収納してる。結構背中の羽が窮屈なんだけどね。
 そして、魔理沙が訊ねてるこんな服装の理由何だけれど、この格好こそ私が今日人里に来る意味を文字通り体現、指し示している。
 いい、メイド服とは勝負服。すなわち汚れても大丈夫なように作られている、文明の結晶なの。これを着込んでいるということは、何をするかは分かるでしょう?
 そんな意志を伝えんが為に腕を組んで(日傘は脇に挟んで)ふふんと笑う私。そして、この問いにあっけなく回答を出したのは輝夜。それも全力に間違った方向に。

「言い難いけれど、娘と同じ格好をしたって体型は変わらないわよ?」
「誰がおっぱいの話をしてるのよ!!同じ格好して大きくなるなら咲夜じゃなくて美鈴の格好するわよ畜生!」
「大きくなるには揉まれると良いらしいぜ?この前紫が言ってた」
「紫が言ったことなんか信用出来…いや、でも、紫大きいし、まさか…」

 あのアダルトかつ妖艶な雰囲気を常に醸し出している紫、その経験談は決して馬鹿に出来ないわ。
 も、もしその話が本当なら、揉まれて私の鳥取砂丘がマウントフジに通信進化してくれるなら、勇気を出して一歩踏み出しても…!

「成長の余地があるんだから、胸なんか勝手に大きくなるでしょうに。まあ、やるなら手ぐらい貸すけれど。揉みますか?揉みませんか?」
「アリスゲームってあれだよな、アリスが一人寂しく遊んでるみたいで面白い響きだよな」
「『覚悟』とは…逃げを打つ心じゃないッ!『覚悟』とはッ!暗闇の荒野にッ!進むべき道を切り開くことよッ!!
真の『覚悟』とはここからよッ!さあ輝夜、覚悟は決まったわ!私の夢、野望の為に…さあ!私の胸をいつでも揉むがいいわ!」
「え、本当にするの?というかレミリア、揉めるほどあるの?あ、ないから揉むんだけど…本当にいいの?私、他人の胸を揉むなんて初めての経験なんだけど」
「そんなの私だって初めての経験よ。絶対、絶対に痛くしちゃ駄目だから!絶対に優しくしてよ!」
「ん~、ま、出来る限り頑張ってみるわ。痛かったらごめんね、可能な限り優しくするから」
「あれ…おかしいな、レミリアが子供に間違えられた話だったのに、なんでこんなヘンテコ歪曲空間が出来あがってるんだ?
いやいやいや、レミリア、話がずれてるからな?無理矢理話を戻すけど、結局人里の用事って何なんだ?
あと、無理矢理話を戻したのは、決して後で不機嫌爆発の咲夜からナイフを投げつけられたり追い回されたりするのが怖いからじゃないからな?ほ、本当だぞ?」

 魔理沙の話に、そういえばその話題だったと思いだし、私は意識を切り替え直す。おっぱい成長はまた今度にしよう、うん。あと鈴仙、
さっきから水筒に入れてる水で流しこんでるそれは何?私には胃薬か何かに見えるんだけど…胃薬を常備する程、胃が弱いのかしら。大変ね。
 でも家が薬屋さんだから胃腸が弱くてもなんとでもなるか。私も今度永琳になにか貰ってみよう、そんなことを思いながら魔理沙の問いに言葉を返す。

「メイド服を着てやることなんて、清掃とか料理とか家事関係に決まってるじゃない。
私は今日、慧音の家でお掃除やら何やらの手伝いをする為に人里に来てるの。先約というのはそれよ。分かった?」
「成程、全く分からん。慧音って寺小屋の先生やってる慧音だよな。なんでレミリアが慧音の家の掃除をするんだ?」
「ぐっ…そ、それは海よりも深くて山よりも高い事情があるのよ。せ、説明を始めると日が暮れて夕方になっちゃうくらいの壮絶な物語が」
「あら、須臾を永遠に変えるのは得意分野よ。語りたいなら、刹那を引き延ばしてあげるけれど」
「…黙秘します。とーにーかーく!私は今日は慧音との用が先なの!その用が終わったら合流するから!これで納得して頂戴!」

 どうして私が慧音の家の掃除やら何やらを手伝うのか…その理由なんて、語れる訳ないじゃない。言ったら絶対呆れられて馬鹿にされる。
 以前、異変解決ごめんなさい&ありがとうパーティーを開いたとき、慧音に今回の異変の件で色々と謝ったのよ。慧音、フランのせいで
怪我しちゃったし…いや、でも慧音はあのときのフランを私だと勘違いしてるから、私が怪我させたことになるのよね。
 で、直接『あのときはカッとなってやった。反省している。もう謝罪なんてしないなんていわないよ絶対!』って必死に謝ったら、予想外というか
拍子抜けする程に呆気なく許してくれたのよね。でも、その後何故か夜遊びについて怒られたけど…あの、私、その、吸血鬼…
 何はともあれ、慧音は簡単に許してくれたんだけど、慧音は異変とかと何の関係なく怪我しちゃったんだから、流石にそれだけっていうのも…そんな訳で
何か私に出来ることはないか力は貸せないかと訊ねまくったら、寺小屋の大掃除をするから手を貸してくれたらって言ってくれて。
 フフッ、それを聞いて私は内心ガッツポーズよ。弾幕勝負でも殺し合いでもなく家事、それはまさしく私だけのフィールドなのよ!
 この世に生を為して云百年、とうとう私の持つ固有結界、アンリミテッド・オソウジ・ワークスが火を吹く時が来てしまったようね。お菓子作りと
お掃除ならまだ咲夜にだって負けていない、まだ私の腕は錆ついちゃいないのよ!家事は任せろー!バリバリー!ってレベルなのよ私は。

 という訳で、今日の午前中は寺小屋の大掃除のお手伝いタイムなの。これで慧音への莫大な借りを少しでも返せるなら安いもの、ふふっ、私策士過ぎる。
 ただ、それを魔理沙達に話すのは…いや、だって、結局のところ『慧音にごめんなさいする為に家事手伝いするよ!』ってことで、
そんなこと言うとまた事態がややこしくなりそうだし…今日のことだって、紅魔館のみんなには内緒でやるんだし。紅魔館の主が清掃係とかみんな怒りそうだし。
 とにもかくにも、みんなに事情を話したくない以上、納得して貰わないと困る。いい、これはチャンスなのよ。あれだけフランの真似して
異変の夜を駆け回ったのに、フラン=私だって気付いていない数少ない人物が慧音と妹紅なのよ!くそう…どうしてばれてるのよ、ミスティアにも
会ったこと無かったリグルって娘にもあの夜の入れ変わりがばれてたし…だから、だから今回の件は絶対に逃せないのよ。
 まあ、なんだかんだ言って私お姉さんだしね。フランは異変を解決するために頑張っていたんだもん、駆け回るのがフランの役割なら私は
お姉さんとして出来る限りのフォローはしないと。慧音が私に対して勘違いしてくれて、私が謝罪して解決するならそれが一番。
 だから私を解放して!何も事情を聞かずに寺小屋へ向かわせてあげて!そう心の中で必死に念じていると、輝夜が軽く息をつき、微笑んで言葉を紡ぐ。

「…それで?ワーハクタクとの用件は昼過ぎには終わるのね?」
「ふぇ?え、あ、うん。昼までには終わるって言ってたわ」
「そう。ならレミリアはレミリアの用を済ませなさい。そして午後から私に付き合うこと、これを約束なさいな」
「ええっと…私は全然構わないというか、むしろ望む展開なんだけれど、いいの?」

 …意外というか、予想外というか。輝夜のことだから『他人との用事?そんなの知らないわ。やっぱり世界はあたし☆れじぇんど!』くらい
言うかと思ってたのに。そんな私の心を読み透かしているのか、輝夜はクスクスと上品に微笑みながら言葉を続ける。

「他人の用なんて知らない。他人の事情なんて鑑みるつもりもないわ。
でも私にとって貴女は、レミリアは他人なんかじゃないでしょう?
貴女は私にとって初めて出来た大切な『お友達』なんだもの。それくらいの配慮くらいは、ね」
「輝夜…」
「まあ、幸い私一人じゃなくて鈴仙もこの娘もいるし、退屈はしないでしょうからね。
勿論少しでも退屈だと感じたら寺小屋に乗り込んで貴女を連れ出すつもりなのだけれど」
「…私の十秒前の感動を返せ、月姫」
「返さずとも感動は日々自ずと生み出されるものよ、吸血姫。
レミリアはレミリアの望むまま、自分勝手に道を歩みなさいな。私も貴女に教えられたとおり、そうやって生きるつもりだから。
それじゃまた午後に会いましょう。行くわよ、鈴仙、黒いの」
「はあ…それじゃレミリア、また後ほど」
「誰が黒いのだっ!私には霧雨魔理沙って名前が…おっと、それじゃレミリア、またなっ!」

 楽しそうに去っていく輝夜と、それを追う鈴仙に魔理沙。そんな三人の後ろ姿を眺めながら、私もまた
思わず笑みを零してしまう。本当、面白い友達を得たものね。どこまでも優雅、上品で、そしてそれ以上にお姫様。

「…さて、お姫様の機嫌を損ねない為にも、頑張って慧音の手伝いを終わらせるとしましょうか」

 手に持つ日傘をくるくると回して、私は寺小屋への道を一歩一歩と足を進めていく。
 季節は中秋、空は快晴。こんな日はきっと絶好のお掃除日和になる筈だから。

















 ~side 鈴仙~



 ――輝夜がよく笑うようになった。


 数日前、師匠の手伝いを行っているときに、ぽつりと師匠が呟いた一言。
 その言葉の意味を、耳にした時の私はよく意味を理解出来なかったけれど、レミリアと共にいる姫様を見ていると成程と納得する。
 レミリアを右に左に振り回して、その反応を見ては姫様は心から楽しそうに笑ってる。こんな風に明るく、そして『生きている』姫様は
これまでになかったこと。以前、姫様は私達に語ったことがある。自分は生きながらに死んでいる、と。その言葉は今の姫様からは
全く連想できない…それほどまでにレミリアは姫様を変えてくれた。こんな風に前を見て歩く姫様は以前からは考えられなかった。

「…それは、私もか。私もレミリアに変えられた一人、よね」

 己の掌を見つめ、私は軽く笑みを零して開かれた掌を軽く握り締める。
 私の弱さを強さだと教えてくれたレミリア。私の臆病な心を勇気だと言ってくれたレミリア。
 …本当に不思議な吸血鬼だと思う。強者でありながら、驕らず見下さず常に他者と同じ目線に立とうとし、優しく微笑んで手を引こうとしてくれる。
 そんな彼女だからこそ、私もてゐも強く興味を引かれてしまう。恐らく姫様もそう。普通の妖怪には感じられない、彼女特有の不思議な魅力に惹きつけられる。
 ただ、それは私達とレミリアに距離が保たれているからであって、もしレミリアが主人だったらと思うと気が気でならない。
 どんな相手にも慈愛と敬意を持って対等に接してくれるレミリア…そんな主を持ったら、きっと私なんかストレスで胃が壊れちゃうに違いない。

 あの夜に触れ、今もこうして彼女との付き合いを持ってなんとなく分かってきたけれど…レミリアは潔白過ぎる。綺麗過ぎて、眩し過ぎて…もし、
こんなレミリアを利用しようとする輩、レミリアを穢そうとする輩が出てきたらと思うと、気が気じゃいられないと思う。
 勿論、レミリアは吸血鬼。あの師匠すらあと一歩まで追いつめたフランドールの姉なのだから、彼女はそれ以上の実力者なのだろうけれど…それでも
レミリアはその力を愚者にも振舞わない気がする。悩んで、悩んで、悩み抜いて…拳を振うのは、最後の最後になってから、そんな気がする。
 だからこそ、レミリアの従者は大変でしょうね。主がこんなにもお人好しなのだから、自分達まで春爛漫では絶対に話にならない。それでは利用されるだけ。
 …レミリアの従者の条件はきっと冷酷であること。他人に情けをかけるのも、優しさをみせるのも、全てはレミリアの役目。それがきっと主の良さを引立たせる。
 ならば従者は主の無い部分を補う必要がある。何処までも冷酷に、何処までも他人を利用して…それがきっと、レミリアを『活かす』。
 あの夜に、館内を包んだ恐ろしいまでの濃密度の殺気…師匠の話だとレミリア以外の三人の殺気らしいけれど、あれはホントに呪いに近いモノだった。
 月にいた頃だって、あれほど濃密な死の気配なんて感じたことはなかった。理由も、感情も、理性も捨てて、他人を殺すという意志…あんな
禍々しいモノを内包している時点で、きっとあの三人はレミリアの傍につく者として最高の資格と実力を持っているんだと思う。
 言われずとも必要なものは既に揃えている…流石はレミリア、か。その気になれば、この幻想郷でも力によって他者を捻じ伏せることだって
出来るでしょうに…でも、今なら分かる。レミリアはきっとそんな『無意味』なことはしない。
 彼女はどこまでも高潔だから、力で他者を従わせることも支配することも良しとしない。在るのは何処までも美しく誇りに満ちた在り方。
 他者を知ろうとし、他者を認め、他者を受け入れ、他者の手を取り、他者を誇る。それがきっと、彼女の…レミリア・スカーレットの生き方なんだと思う。

 そんなレミリアの姿に、私は自分を振り返る。私はレミリアのように、自分を誇り、他人を誇れるような生き方が出来るだろうか。
 身体の強さだけじゃなく、心の強さを内包するあの吸血鬼のように、私は自分自身を強く在り続けることが出来るだろうか。
 そこまで考え、私は軽く自嘲する。出来るだろうか、じゃないわね。やらなきゃいけないんだ。私は強く在りたい、もう二度と逃げたくないと誓ったから。
 背なら既に押してもらった筈。勇気と強さの意味は教えてもらっている筈。だったら、行動しないと。少しでもレミリアの背中に近づく為に、
レミリアのように強く在る自分を、師匠に、姫様に誇ってもらえるように。こんな自分を好きだと――誇れる自分だと、胸を張って言えるように。
 軽く握っていた拳を強く握り締め直し、私は顔を上げる。心は決まっている。想いは定まっている。だったらあとは走るだけ。
 レミリアの背中を見失わないように、遠くに感じないように、離れないように。そうですよね、姫様――

「…って、あれ、姫様は?」
「ん?あのお姫様なら、出店の方に歩いて行くの見たけど…いや、でもそれ結構前の話だぞ?」
「へ!?え、ええええ!?い、いつの間に!?」
「いつの間にって、いや、だから十分くらい結構前の話で…そういやお前、ずっと難しい顔してその人形と睨めっこしてたな。
買おうか買うまいか悩んでいたのは分かるけど…流石にお付きの人間が主忘れて没頭するのは拙いんじゃないか?」

 魔法使い…霧雨魔理沙の言葉に、私は言い返す言葉もなくウッと呻くしか出来ない。手に持ってる人形は姫様を待ってる間、
時間をつぶす為に偶然手に取っていただけの商品で…いや、私こんなウサギだか何だかのロボット人形なんて要らないわよ。何このシルバーニアンって。
 人形を陳列棚に戻し、私は慌てて周囲を見回して姫様を探す。拙い、拙い拙い拙い拙い。今の姫様から目を離すなんて迂闊もいいところよ。
 以前ならともかく、今の姫様は常にノンブレーキで我が道を行く人だもの、こんな人の多い場所で放置なんてしたらどんな問題を引き起こすか…

「お?あれってあのお姫様じゃないか?」
「え、ど、何処!?何処に姫様がいるの!?」
「いや、あの出店の団子屋のところ。普通に串団子食べてる美人がいるだろ、アレどう見てもお前の姫様じゃないか」

 霧雨魔理沙の言葉に、私は視線を彼女の指摘する方向へと向ける。
 そこには出店の団子屋から数本の串団子を受け取り、美味しそうに食べている姫様が。よ、良かった…普通に買い物を楽しんでるだけだったんだ。
 私は心から安堵して、姫様の方へと近づいていく。本当、今度は目を離さないようにしないと、なんの為に姫様のお付きで来てるのか分からないもの。
 近づいてくる私達に気付いた姫様は、楽しそうに微笑みながら私達に団子の感想を告げる。

「私、生まれて初めてこんな風に道端で売られている団子を食べたんだけれど、本当に美味しいわね。
こんな楽しいことばかりなら、本当に早く永遠から出るんだったわ。店主、もう一つ頂けるかしら」
「はいよ。どうぞ、お嬢さん」

 店主から団子を受け取って楽しんでいる姫様に、私は苦笑してしまう。
 …ごめんなさい、姫様。姫様のこと少し誤解してました。姫様のことだから絶対問題を叩き起こすだろうとか勝手に思っててごめんなさい。
 でも、よくよく考えてみれば姫様だって昔は地上で人間と生活をしていたそうだし、そこまで常識外れなことをしでかす理由もないものね。
 一人勝手に安堵する私に、姫様はニコニコと微笑んで私にも団子を差し出してくれる。えっと、受け取ってもいいのかしら…

「何を遠慮してるのよ。鈴仙も食べなさい、凄く美味しいから。あとそこの黒いのも」
「あ、ありがとうございます!それではお一つ…」
「だから黒いのって言うな!私は霧雨魔理沙だって言ってるのに…あと、サンキューな。貰えるものは貰う主義だから遠慮なく頂くよ」
「そうそう、遠慮なく食べなさい。なんてったって、団子は幾らでもここにあるんだから。これだけあれば幾ら食べても問題ないわよ」

 ――待て、ちょっと、マテ。私は姫様の発言がとんでもなく何か引っ掛かり、口に運ぼうとした団子を押し留める。
 姫様が言った言葉の羅列、『遠慮なく食べろ』『団子は幾らでもある』『幾ら食べても問題ない』。…え、なんで?意味がつながらないじゃない。
 遠慮なく食べろっていうのは、姫様の考え意志提示。その理由起点として団子は幾らでもある。幾らでもあるんだから幾ら食べても問題ない。…いやいやいや。おかしいでしょ。
 幾らでも団子はあるって姫が言ってるのは、言うまでもなく団子屋が出店に並べてる作り置きの団子のことよね。これが幾らでもあるのは
団子屋さんだから当たり前のこと。でも、それがイコール幾ら食べても問題無いにつながる筈が…だ、だってそのイコール関係につながる為には、
一つの何より重要かつ重過ぎるピースが必要で…そんなことを考えていたら、団子屋さんは姫様に当然の要求を口にする。

「沢山食べるねえ。ところでお嬢さん、先に今食べてる分のお代の方を貰ってもいいかい?」
「お代?…ああ、お代。そういえば買い物ってお金と物々交換するんだっけ。長年買い物なんてしてなかったから、完全に忘れてたわ」
「……え゛」

 姫様のとんでも発言に私は思わず声を発してしまう。多分驚きのあまり声帯からじゃなくて胃くらいから声が飛び出しちゃったと思う。
 忘れてたって…いやいやいや、この御団子はもう『お金を払って購入済』のものじゃないの?あ、いや、でも姫様が今から支払うなら何の問題も
ないんだよね…も、勿論お金ありますよね。だって日も昇って無い早朝に私を叩き起こして『レミリアのところに行くからついてきなさい!永琳の許可は下りてるわ!』って
言って私を連れ出したんですから。当然お金を師匠から受け取ってますよね…

「お代ね、少し待ってて頂戴。――そういう訳で鈴仙、支払いお願いね」
「……ええええええええええええ!?わ、私ですか!?」
「私ですかも何も当たり前でしょう?だって私、お金持ってないもの」
「ど、どうして持ってないんですか!!師匠に許可貰ったんですよね!?そのときに買い物行くこと分かってたならお金貰いますよね!?」
「そういう些事は貴女の仕事でしょ?だから払って頂戴」
「払うも何も私だって一文無しですよ!!私寝てる中を姫様に叩き起こされて、着替えだけ済ませてここまで連れてこられたんですよ!?
そんな私が師匠に会ってお金を貰ってる訳がないじゃないですか!自分の財布だって部屋の中ですよ!?…って、ええええ!?何その
『うわ、こいつ本気で使えねえ』みたいな目!?私だって最初からレミリアの家じゃなくて人里に買い物行くって知ってたら財布だってお金だって!」
「そんな『もしも』を仮定して言い訳をする時点で貴女は三流なのよ。言い訳は唯の逃げ口上、唯の責任転嫁だわ。違って?」
「う、確かに…って、えええ!?な、なんで私が悪いみたいな空気になってるんですか!?責任転嫁って姫様のことですよね!?」
「…あー、お嬢さん達、横から悪いが話を聞いていると、もしかしてアンタら一文無し…」
「ままま待って下さい!お金ならえーとえーと、そ、そうよ!霧雨魔理沙がいるじゃない!
ねえ霧雨魔理沙、申し訳ないんだけど…っていないし!!!影も形も残ってないし!!あ、あの黒白魔法使い一人で逃げたわね!?」
「…それで、お代、払って貰えるのかい?まさかとは思うけど、踏み倒そうなんてつもりじゃ」
「違います違います違います違います!お願いですから待って下さい!支払いはちゃんとしますから、えっと、えっと…」

 必死に頭を回転させて策を巡らせようとする私。落ち着け、落ち着いて。このままじゃ私も姫も窃盗なんて情けなくて涙が出そうな
前科が人里でついちゃうじゃない。こんなの師匠にバレたら…ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!どうにか、どうにかして支払いを…
 必死に考えを働かせていたら、姫様が何かを思いついたのか、ニコニコと微笑みながら店主に口を開く。いや、その笑顔に凄く嫌な予感が…

「ねえ店主。見たところ、貴方の店は少し人手が足りないように思うのよ。忙しくて仕方ないんじゃない?」
「え、ああ、そうさね。客が多い昼前になると、一人じゃなかなかねえ…それがどうかしたかい?」
「ええ、そうでしょうそうでしょう。そんな貴方に朗報よ。忙しい昼前、人件費の掛からない労働力が欲しいとは思わない?」
「唯で貰えるんならそりゃ喉から手が出る程欲しいが…」
「私達は代金を支払えない。だけど貴方が求める労働力で応えることは出来る。いわば支払いは身体で払うってヤツね。そういう訳で――」

 私の方を向いて最高の笑顔を浮かべる姫様。嫌な予感最高潮、いや、姫様といると最初からクライマックスなんだけど。
 分かってる。姫様の口から放たれる言葉は完全に理解出来てる。でも、でも、でもでもでもでもでも――

「鈴仙、貴方昼までここで唯働きね。よろしく」
「――なんて言われて納得できるかー!!どうしてそうなるんですかっ!!」
「だって私達お金無いんだから仕方ないじゃない。それに貴女、団子食べたじゃない。立派な共犯者よ」
「食べてません!まだ口に付けてないから返品します!クーオフ期間です!
団子を食べたのも沢山注文したのもお金払えなかったのも全部姫様じゃないですか!?
百歩譲って私も支払いのお手伝いをするとしても、どうして私『だけ』なんですか!?普通姫様も一緒に唯働きでしょ!?」
「嫌よ。だって私、まだまだ人里で見て回らなきゃいけないところが沢山あるもの。
貴女は何度も人里に来て遊び回ってるんでしょう?だったらいいじゃない」
「遊び回ってません!私は師匠の薬を販売に来てるんです!それに何ですその勝手過ぎる理由!?
私が働かなきゃいけない理由が微塵も無さ過ぎるじゃないですか。大体姫様は…っていないし!!またコレ!?またコレなの!?」

 気付けば姫様は私の目の前からロストしていて。ひ、卑怯過ぎる!須臾を永遠に変えて瞬間移動もどきで逃げたんだ!
 魔理沙も逃げ、姫様も逃げ、団子屋に残ってるのは私と店主、そして支払われていない団子の伝票だけ。
 引き攣った笑みを浮かべる私に、団子屋の店主は諦めろとばかりに肩を優しく叩いてくれる。
 そんな店主の嬉しくもなんともない優しさに、私は地面に膝をついて声を漏らすしか出来なかった。

「……不幸だ」

 絶望の色で染められた私の脳裏に何故かふと思い浮かぶ人形遣いの笑顔。
 …どうしてあの娘が頭の中に思い浮かんだのかは分からないけれど、今私が分かる現実は唯一つ。
 レミリアが用を済ますまでの間、私は一人団子屋で無償奉仕をしなければいけないということ…なんで私だけこんな目に…
















 ~side 慧音~



「このゴミ袋はまとめて外に出しておくわよ?あと、向こうの窓拭きも終わらせたからチェックしておいて頂戴」
「ん、了解した。すまないなレミリア、そこまでしてもらって」
「自分から言い出したことだもの、気にする必要なんてないわ。
むしろ私より子供達に礼を言いなさいな。私なんかよりよっぽど精力的に動き回ってくれてるわよ、貴女の教育の賜物かしらね」

 気にするなと手を振り、レミリアはゴミ袋を両手で持って寺小屋の外へと運んで行く。
 そんなレミリアの周囲には最早当たり前の光景のように群がる子供達。短時間でよくあそこまで懐いたものだ。
 …まあ、当たり前と言えば当たり前か。レミリアの子供に対する柔らかい接し方と対応を見ていれば。
 むしろ子供は大人よりフィルターが少ない分、純粋にその人物の本質を見抜く。一切合財の色眼鏡を外して覗くレミリア・スカーレットは
子供達にとって恐怖の対象などではなく、好意を抱くべき対象なのだろう。

「…本当、レミリアには出会ったときから驚かせて貰ってばかりだな。
あれを凶悪な妖怪だと疑い警戒し続けていた昔の自分のなんともまあ間抜けなことやら。今となっては良い笑い話か」

 窓を拭く手を止め、私は今回の寺小屋掃除の件に関して振り返る。
 以前、レミリアに招待されたパーティーの席で、予想通りレミリアは異変の夜の件を謝罪してきた。あれは自分が悪かったと、済まなかったと。
 あの夜のレミリアの行動から、絶対に妹を庇い自分の罪にするだろうとは予想出来ていたが、あんな衆人の面前で謝罪してくるとは
正直予想していなかったけれど…そんなレミリアの謝罪を私は当然受け入れた。レミリア側の事情は妹紅から聞き及んでいるし、あのときは
私もフランドールに対して警戒と疑念のあまり先に手を出してしまった。あちらに戦闘の意志が無かったのに、だ。結果だけを見れば私は被害者だが
同時に加害者でもある。だからこそ、レミリアの謝罪を一方的に受け入れることは当初渋ったけれど、レミリアの真っ直ぐ過ぎる想いに根負けした。
 私がフランドールに謝罪したいと申し出ても、それはレミリアの行為を台無しにすることになる。ならば私は謝罪の代わりにレミリアの優しい
嘘に付き合うことを決めた。だからこそ、レミリアには負担の少ない代価を支払ってもらって貸し借りを無しにさせて貰おうと思っていた…のだけれど。

「…まさかここまで本格的に手伝いをしてくれるとは思わなかったな。
しかもメイド服まで着てくるとは…美鈴の奴が知ったら一体どんな反応を示すことやら」

 私がレミリアに言い渡した代価、それは寺小屋の掃除の手伝いをしてほしいというもの。
 勿論、それは大仕事でもなんでもないし、子供たちと私の手があれば十分午前中には終わるような軽いものだ。
 それに少しだけレミリアの手を借りるだけ、それだけのつもりだったのに、レミリアは予想を遥かに越えて全力で付き合ってくれた。
 正直、美鈴か誰かを連れてきて手伝わせるかなとも思っていただけに、私がレミリアという少女を未だ甘く見ていたことを謝罪したいくらい、
それ程真剣にレミリアは取り組んでくれた。子供達が怯えないよう、メイド服に身を包んで背中の羽を隠し、寺小屋の掃除から子供達の
昼食の準備、挙句の果てには並行して子供達の話し相手にすらなってくれていた。その姿を眺めながら、私は笑っていいのか驚いていいのか
呆れていいのか本当に困ってしまった。以前からギャップだらけのおかしな吸血鬼だとは思っていたが、何処の世界に家事と子供の世話が得意な
吸血鬼がいるというのか。十六夜咲夜という一人娘がいるのだから、その手のことはお手の物なのだろうけれど…まさかレミリアに母として尊敬する日がくるとは。
 ゴミ出しを終え、外から戻ってくるレミリアの姿を眺めながら、私は思う。成程、美鈴が酒を飲んでは自慢する訳だ。
 レミリア・スカーレット、誇り高き吸血鬼にして悪魔達の棲まう紅魔館の主…そんな大層な肩書が馬鹿らしく思える程に、レミリアは…

「ゴミ出しも終わったし、これで掃除は一段落ってとこかしら。慧音、他に手伝うことは?」
「無いな。いや、正直レミリアには十分過ぎる程に手を貸してもらったよ。本当にありがとう。
まさか子供達の昼ご飯まで作ってくれるとは予想すらしていなかったけれど…」
「ふふん、そうでしょうそうでしょう。私は自分の部屋掃除も料理も出来ないような女じゃないのよ。
今は戦場に女が立つ時代だけれど、それでも決して忘れてはならない捨ててはならないモノがある。台所は女の戦場なのよ」
「いや、そこまで胸を張られても…まあ、レミリアが古式ゆかしき大和撫子を目指しているというのは理解出来た。
もうすぐ昼時にもなる。早速レミリアの手料理をみんなで楽しませて貰うとしようか」
「ええ、そうしなさい。冷めない内に食しなさい。召しませ淑女の愛情手料理、名付けてスカーレットタイフーンエクセレントガンマよ」
「わーい!レミリアお姉ちゃんの料理だー!スカタン料理だー!」
「スカタン料理ー!スカタン料理ー!」
「こ、こらっ!誰がスカタン料理よ!?スカーレットタイフーンエクセレントガンマだって言ったでしょ!?
いい?これには深い意味があって、まず私のスカーレットと和風、ジャパニーズタイフーンが重ね合わさって…」

 子供たちに指を立てて料理の説明するレミリアの姿に、私は思わず苦笑してしまう。
 世界広しと言えども、自分の作った料理の薀蓄を人間の子供に語る吸血鬼などレミリアくらいなのだろうな。
 騒ぎ立てる子供達の意識を引く為、私は一度二度と掌を叩き合わせて音を鳴らす。そして、子供達にご飯の準備をするように告げる。
 子供達が台所の方へ向かった後、私はレミリアに口を開く。

「ほら、もうすぐ正午の時間だ。蓬莱山輝夜達との約束があるんだろう?子供達がいない今、外に出ると良い」
「…悪いわね、なんか気を使わせちゃったみたいで」
「構わないさ。レミリアが用で離れなきゃいけないと言うと、必ず子供達は嫌がるだろうからな。
それより、今日は本当に感謝しているよ。レミリアのお陰で掃除も終わったし子供達も喜んでくれた」
「感謝の言葉はもう不要だってば。私こそこんなに楽しい時間を過ごさせて貰ったことを感謝してるんだから。
ところで慧音、その、身体の方は…」
「ん、勿論何の問題も無い。『レミリアの』卓越した戦闘センスのおかげで、後に残るような傷も無いからな」
「そ、そうよね!わ、私が後に残ったり後遺症を残したりする訳がないじゃない!それならいいのよ、うん!」

 引き攣った笑みを浮かべながら、レミリアはそれじゃ失礼するわと言葉を言い残し、寺小屋を後にする。
 私も『またいつでも遊びに来てくれ』と返し、レミリアの帰宅する背中を眺め続ける。途中、レミリアが玄関の扉を開こうとすると
外から扉が開かれ、そこから妹紅が現れる。そしてレミリアと一言二言言葉を交わし、何故か妹紅がレミリアにデコピンを放っていた。
 レミリアは不思議そうに首を傾げながらも今度こそ寺小屋を出ていき、妹紅は少し不機嫌そうな顔をしてこちらへと近づいてくる。ふむ、どうしたのやら。

「どうした妹紅、レミリアが何か?」
「…いや、ちょっと忠告しただけ。『お人好しも大概にしなさい』って。アイツ、良い人過ぎるから」
「まあ…な。確かに心配なところもあるけれど、それをフォローするのがレミリアの家族なのだろう?」
「そうなんだけど…でもさ、やっぱり心配になるよ。あーもう、上手く言えないんだけどさあ…アイツ絶対人生損してる」
「損か得かを決めるのは私達じゃない、レミリアだ。そのレミリアが今の日常を幸せだと言っているんだ、だったら良いじゃないか。
それに妹紅、随分とレミリアのことを気にかけるじゃないか。いや、私は嬉しいぞ?妹紅の成長を感じることも出来て、レミリアには本当に感謝しないとな」
「茶化さないで。全く…今度レミリアとはトコトン話し合う必要がありそうだよ」

 不満そうに憤る妹紅をなだめながら、私達は子供達に習うように台所の方へと足を向ける。
 ふむ、子供達の喜ぶ声と妹紅の愚痴を聞きながらレミリアの作る昼食を食べると言うのも悪くはないな。
 こんなにも良い天気の中、妹紅と共にお人好しな友人について色々と語り合うのも楽しそうだ。




















 っていうか、私輝夜達と合流する時間と場所を明確に決めてなかったわね…どうしよう。
 手に持つ日傘を右回転、左回転とくるくる回しながら、私は次に取るべき行動を思考する。人里の何処に行けばみんなに会えるやら。
 とりあえず昼食も近いから、みんな集まってご飯に行きたいわよね。流石に寺小屋で自分の作った料理を食べるのは
なんか違う気がするし、輝夜は人里の料理を食べてみたいでしょうし。となると、まずは合流でその後にご飯で…っと。
 そんな風に色々と考えていると、私の左肩が何かにぶつかるような衝撃…いや、そこまで大きなものではないんだけど、何かにぶつかるような
感覚に襲われる。その衝撃を得て初めて私は考え事に熱中するあまり誰かにぶつかってしまったことに気付いた。

「ご、ごめんなさい。少し考え事をしていて――」

 そこまで口にして、私は己の身体が凍りつくような錯覚に襲われた。まるで自分とは比肩出来ない程に強大な存在、蟻が恐竜と対峙した
ような、そんな恐怖を感じることすらおこがましい程の圧倒的な差を突き付けられたような…そんな錯覚に。
 そして漂う何処までも濃厚な血の香り。吸血鬼の私ですら噎せ返ってしまう、そんな夥しい血液、返り血。それが私の脳内に叩きつけられたイメージ。
 幽々子とも、萃香とも、紫とも異なる濃密な死の気配。例えるなら紫達と対峙した時が刃を突き付けられている状態なら、今の状態は
身体の奥深くに刃を突き刺されたようなモノ。襲い来る死の気配の恐怖ではなく、訪れた死への諦念。抗うことも怯えることも出来ず、ただただ受け入れる
ことしか出来ない死の現実。そんなリアルが私の全身を支配している、心と体が自ら死を望むような、そんな――

「…こちらこそごめんなさい。お怪我は無いかしら?」
「――え」

 私がぶつかった女性から声が掛けられ、それまでに私が感じていた死の気配や血の匂いがまるで幻だったかのように急速に霧散する。
 …あ、あれ、なんで。私は己の現状を理解出来ないままに、ぶつかってしまった女性の方へ視線を向ける。
 そこにいたのは、美女という表現がよく似合う女性。緑色の綺麗な髪を持ち、私同様に日傘を指して佇む女の人。柔らかく微笑む優雅な女性、
その人からは先ほどのような死や血といった生臭い表現はこれっぽっちも似合わないし、感じることも出来ないで。…もしかして、私の気のせい?
 不可思議過ぎる現状に首をかしげていると、女性が疑問に思ったのか私に対して問いかけをしてくる。

「どうしたの、そんな不思議そうな顔をして。私がどうかして?」
「え、いや…なんでも、ないわ。濃厚な血の匂いがした気がしたんだけど…気のせいかしら」
「血の匂い?フフッ、面白いことを言うのね、貴女。こんな昼間、それも人里でそんなモノがある訳がないじゃない」
「そうよねえ…悪いわね、急に変なことを言ったりして。初対面の、それも女性に言うような言葉では無かったわ」
「別に気にしてなんていないわよ。むしろ褒めてあげたいくらい。正直眉唾ものだと思っていたけれど、噂とは侮れないものね」

 私の言葉に、意味不明な言葉を返してくれる女性。…うわ、もしかしてこの人紫の仲間?完全自己完結型人間?
 この手のタイプはあまり会話に為りにくいのよね。とりあえず、早くおさらばしてしまおう、うん。早く輝夜達を探さないといけないし。
 私は女性に怪我がないことを確認し、さっさと離れる為に別れの言葉を切りだす。

「それじゃ、私は用があるから。さようなら」
「ええ、さようなら。フフッ――私達が再会するに相応しい日、そのときにまた会いましょう、『レミリア・スカーレット』」

 互いに別れの言葉を告げあい、私達は反対の方向へと歩み始める。
 そして十数メートル程あるいた後で、私はあることに気付き、自分の背後を振り返る。
 そこには先ほどの女性の姿は既に無く。人々で賑わう人里の道を眺めながら、私はぽつりと言葉を紡ぐ。

「…私、さっきの人に自分の名前教えたかしら」

 私の問いかけに言葉を返してくれる人はいない。
 視線を町中に彷徨わせながら、私は自分の問いに対する答えを記憶に求め続ける。初対面…だと思うんだけど…ね。
 輝夜達との再会を約束した昼過ぎの時間、私は解けない面倒な難題を望まずして運命に渡されてしまったような気がした。











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