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No.13774の一覧
[0] うそっこおぜうさま(東方project ちょこっと勘違いモノ)[にゃお](2011/12/04 20:19)
[1] 嘘つき紅魔郷 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:52)
[2] 嘘つき紅魔郷 その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[3] 嘘つき紅魔郷 その三 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[4] 嘘つき紅魔郷 エピローグ (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[5] 嘘つき紅魔郷 裏その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[6] 嘘つき紅魔郷 裏その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:55)
[7] 幕間 その1 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:11)
[8] 嘘つき妖々夢 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:24)
[9] 嘘つき妖々夢 その二[にゃお](2009/11/14 20:19)
[10] 嘘つき妖々夢 その三[にゃお](2009/11/15 17:35)
[11] 嘘つき妖々夢 その四[にゃお](2010/05/05 20:02)
[12] 嘘つき妖々夢 その五[にゃお](2009/11/21 00:15)
[13] 嘘つき妖々夢 その六[にゃお](2009/11/21 00:58)
[14] 嘘つき妖々夢 その七[にゃお](2009/11/22 15:48)
[15] 嘘つき妖々夢 その八[にゃお](2009/11/23 03:39)
[16] 嘘つき妖々夢 その九[にゃお](2009/11/25 03:12)
[17] 嘘つき妖々夢 エピローグ[にゃお](2009/11/29 08:07)
[18] 追想 ~十六夜咲夜~[にゃお](2009/11/29 08:22)
[19] 幕間 その2[にゃお](2009/12/06 05:32)
[20] 嘘つき萃夢想 その一[にゃお](2009/12/06 05:58)
[21] 嘘つき萃夢想 その二[にゃお](2010/02/14 01:21)
[22] 嘘つき萃夢想 その三[にゃお](2009/12/18 02:51)
[23] 嘘つき萃夢想 その四[にゃお](2009/12/27 02:47)
[24] 嘘つき萃夢想 その五[にゃお](2010/01/24 09:32)
[25] 嘘つき萃夢想 その六[にゃお](2010/01/26 01:05)
[26] 嘘つき萃夢想 その七[にゃお](2010/01/26 01:06)
[27] 嘘つき萃夢想 エピローグ[にゃお](2010/03/01 03:17)
[28] 幕間 その3[にゃお](2010/02/14 01:20)
[29] 幕間 その4[にゃお](2010/02/14 01:36)
[30] 追想 ~紅美鈴~[にゃお](2010/05/05 20:03)
[31] 嘘つき永夜抄 その一[にゃお](2010/04/25 11:49)
[32] 嘘つき永夜抄 その二[にゃお](2010/03/09 05:54)
[33] 嘘つき永夜抄 その三[にゃお](2010/05/04 05:34)
[34] 嘘つき永夜抄 その四[にゃお](2010/05/05 20:01)
[35] 嘘つき永夜抄 その五[にゃお](2010/05/05 20:43)
[36] 嘘つき永夜抄 その六[にゃお](2010/09/05 05:17)
[37] 嘘つき永夜抄 その七[にゃお](2010/09/05 05:31)
[38] 追想 ~パチュリー・ノーレッジ~[にゃお](2010/09/10 06:29)
[39] 嘘つき永夜抄 その八[にゃお](2010/10/11 00:05)
[40] 嘘つき永夜抄 その九[にゃお](2010/10/11 00:18)
[41] 嘘つき永夜抄 その十[にゃお](2010/10/12 02:34)
[42] 嘘つき永夜抄 その十一[にゃお](2010/10/17 02:09)
[43] 嘘つき永夜抄 その十二[にゃお](2010/10/24 02:53)
[44] 嘘つき永夜抄 その十三[にゃお](2010/11/01 05:34)
[45] 嘘つき永夜抄 その十四[にゃお](2010/11/07 09:50)
[46] 嘘つき永夜抄 エピローグ[にゃお](2010/11/14 02:57)
[47] 幕間 その5[にゃお](2010/11/14 02:50)
[48] 幕間 その6(文章追加12/11)[にゃお](2010/12/20 00:38)
[49] 幕間 その7[にゃお](2010/12/13 03:42)
[50] 幕間 その8[にゃお](2010/12/23 09:00)
[51] 嘘つき花映塚 その一[にゃお](2010/12/23 09:00)
[52] 嘘つき花映塚 その二[にゃお](2010/12/23 08:57)
[53] 嘘つき花映塚 その三[にゃお](2010/12/25 14:02)
[54] 嘘つき花映塚 その四[にゃお](2010/12/27 03:22)
[55] 嘘つき花映塚 その五[にゃお](2011/01/04 00:45)
[56] 嘘つき花映塚 その六(文章追加 2/13)[にゃお](2011/02/20 04:44)
[57] 追想 ~フランドール・スカーレット~[にゃお](2011/02/13 22:53)
[58] 嘘つき花映塚 その七[にゃお](2011/02/20 04:47)
[59] 嘘つき花映塚 その八[にゃお](2011/02/20 04:53)
[60] 嘘つき花映塚 その九[にゃお](2011/03/08 19:20)
[61] 嘘つき花映塚 その十[にゃお](2011/03/11 02:48)
[62] 嘘つき花映塚 その十一[にゃお](2011/03/21 00:22)
[63] 嘘つき花映塚 その十二[にゃお](2011/03/25 02:11)
[64] 嘘つき花映塚 その十三[にゃお](2012/01/02 23:11)
[65] エピローグ ~うそっこおぜうさま~[にゃお](2012/01/02 23:11)
[66] あとがき[にゃお](2011/03/25 02:23)
[67] 人物紹介とかそういうのを簡単に[にゃお](2011/03/25 02:26)
[68] 後日談 その1 ~紅魔館の新たな一歩~[にゃお](2011/05/29 22:24)
[69] 後日談 その2 ~博麗神社での取り決めごと~[にゃお](2011/06/09 11:51)
[70] 後日談 その3 ~幻想郷縁起~[にゃお](2011/06/11 02:47)
[71] 嘘つき風神録 その一[にゃお](2012/01/02 23:07)
[72] 嘘つき風神録 その二[にゃお](2011/12/04 20:25)
[73] 嘘つき風神録 その三[にゃお](2011/12/12 19:05)
[74] 嘘つき風神録 その四[にゃお](2012/01/02 23:06)
[75] 嘘つき風神録 その五[にゃお](2012/01/02 23:22)
[76] 嘘つき風神録 その六[にゃお](2012/01/03 16:50)
[77] 嘘つき風神録 その七[にゃお](2012/01/05 16:15)
[78] 嘘つき風神録 その八[にゃお](2012/01/08 17:04)
[79] 嘘つき風神録 その九[にゃお](2012/01/22 11:18)
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[13774] 嘘つき永夜抄 その十三
Name: にゃお◆9e8cc9a3 ID:dcecb707 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/01 05:34




 ~side 魔理沙~



 デカイ口叩いた分の仕事はきっちりする、それこそ釣り銭が返ってくるくらいにだ。
 自分の信条を何度も何度も口の中で呟いて、私は持てる力の全てを賭けて飛翔する。背に自分より一回り大きな美鈴の奴を担いで、だ。
 私が翔ける後に、アリスの奴がパチュリーを背負って飛んでいく。そしてアリスと並ぶように、傀儡魔法によって人形に支えられた
フランドールの身体。私達はこの屋敷の廊下を真っ直ぐ出口向けて飛行し続けていた。
 …結論としては、あの女から三人を救出すること、コレ事態は呆気に取られる程簡単にいった。あの女は向かい来る霊夢達三人だけを
相手にし、紅魔館の連中の救出に向かう私達の阻害をすることは無かった。私とアリスの見解は一致して『こちらに手を出す余裕が無かった』ではなく
『ワザとこちらを見逃した』だけ。あの女は紅魔館組に最早存在価値は無いとでもいうように、私達の邪魔を一切しなかった。
 その点に関しては願ったり叶ったりだったんだが、けれど、私達の仕事はこれで終わりじゃない。
 私達が本当に任された仕事は、こいつ等の完全な無事という結果を叩き出すこと。その為にも、一刻も早くこいつらの手当てをしてやらなきゃ
いけない。私とアリスが救出組に回ったのも、その役割故のこと。アリスはともかく、私は治癒魔法なんて不得手なんだけど、今はそんなこと
言ってる場合じゃない。霊夢も妖夢も咲夜も使えない、なら私がひと踏ん張りするしかない。

「アリス、この辺りの適当な部屋は無理か!?」
「駄目よ、敵の懐内で長時間治癒に専念なんて博打を打つ訳にいかないわ。
大がかりな術式の行使になるんだから、背中の安全が確認出来る屋敷外まで向かわないと」
「でも、でもこいつ等は…特にフランドールの奴は、早く治癒しないと」
「外見上は致命傷に見えるけれど、吸血鬼は頭さえ残っていれば再生が可能。
…魔理沙、冷たいように感じるかもしれない。けれど、焦って失敗だけは許されないのよ。
レミリアに咲夜…友人の家族の命が懸かってるんだもの。私達に『精一杯頑張った』なんて言い分は要らない。
必要なのは『誰一人残らず助かった』という結果だけ。…この三人を、信じなさい」
「…そうだな、アリスの言う通りだ。今、私達に求められるのは最良の結果だけだ。
咲夜の奴が、他の誰でも無いアイツが私達に家族を助けてくれと頼んだんだ。だったら、結果を残さないとな。
常人には成し遂げられない奇跡を不思議な力で叶えること、それこそが――」
「――魔法使いの本分、でしょう?」

 アリスの返答に、私は満足だと笑い、飛翔速度を更にワンランク加速させる。
 こいつらを助ける前に受けた呪いのせいで、本調子とはいかないが、七割程度の速度は出せる。アリス曰く、それでも十分過ぎる程の速さらしいけど。
 …でも、あの女からは私が受けた殺意は感じられなかった。となると、やっぱりアレの発生源は…こいつらなんだろうな。
 レミリアが殺されたと思い…違うな、思わされて、あの女を殺さんと暴走して…仕方ないよな、こいつらにとってレミリアは全てなんだから。
 アリスの話では、レミリアは幻想郷内のどこかにいるらしい。まあ、少し心配ではあるけれど、生きているなら大丈夫。なんせアイツは
萃香相手に生き残った悪運があるからな。こいつらの治癒を終えた後で、紫にでも頼んで捜索するか。どうせ明日には魔法の効果が切れて私は『ポンコツ』なんだ。面倒を
見てもらう予定の家主がいないってんじゃ、どうしようもないし。そんなことを考えていた私に、突如アリスの声が耳を貫いた。

「――魔理沙!止まって!」
「――え」

 アリスの指示に、私は急ブレーキをかけ、その場に漂うように制止する。おいおい、魔理沙は急に止まれないっていうのに、一体何事…
と、アリスの視線の先――廊下の奥の存在達に気付き、私はようやく状況を把握する。…ちっ、面倒な。行きはよいよい帰りは地獄ってか。
 私達の前、廊下に立ち塞がるは無数の白。それは妖怪兎の群れ。そして、そいつ等を統率しているらしき人型妖怪が二人。
 …拙いな、この状況。私は本調子じゃない上に美鈴を担いでる。アリスに至っては二人だ。こんなことなら妖夢をこっちに回して貰うんだった。
 戦力的にも状況的にも圧倒的不利。さて、どうするかね…まあ、迷うことはないんだけどな。アリスは万全、そして治癒魔法が私より上手い。なら、
話は簡単だ。アリスもそのことを分かっているけれど、口にはしない。本当、冷静だけど冷酷に徹せない優しい奴。だから私から口にするしかない。

「アリス、悪いけど美鈴のこと任せたぜ。こいつ担ぐ分の人形の余裕はあるだろ?」
「…魔理沙、貴女」
「悪いけど拒否権は無しだ。私は熱しやすくて馬鹿な魔法使いだけど、それでも今の状況で『誰』が『何』を為すべきなのかくらいは分かるさ。
…ま、私もこんなところで死ぬつもりはないぜ。派手に道を切り開いたら適当におさらばさせて貰うつもりだしな。
だからアリス…三人のこと、頼むぜ。私達の持つ魔法使いの矜持ってヤツをみせつけてやろうじゃないか」

 私の提案、それがベストだと分かっているからアリスは何も言わない。何も言えない。
 何か言いたげなアリスを無視し、私は美鈴をアリスに押し付けて息を吸い直す。さて、仕切り直しだ。ここまでは正直魔理沙さんらしくない
格好悪い姿ばかり見せてるからな。ここらでちょっと汚名挽回、名誉返上といこうじゃないか。…逆だっけ?まあ、いいや。
 私はアリスの前に立ち、八卦炉を手にとって妖怪の群れを凝視する。…ざっと四十はいるか。数はともかく、先頭の二人をどうするか。
 けど、退くつもりも背中をみせるつもりも毛頭ないぜ。なんせ咲夜や霊夢、妖夢は私以上に絶望的な戦いを今やってるんだ。それなのに
私一人『イモを引く』訳にもいかない。勇気なら既に貰った。希望なら既に託した。ならば後はどこまでも自分らしくを貫くだけ。
 私はアリスに視線で合図を送る。私が特大の魔法を放ったら、それがミッションスタートの合図だ。
 さあ、一丁行くとしますかね。この私、霧雨魔理沙の独壇場。ここでやらなきゃ女が廃る、目に物みせてくれようかってな。
 八卦炉を突き出し、いざ魔力を解放しようとしたその刹那だった。向こう側――妖怪達から声が掛けられたのは。

「止めなさい。私達は貴女達と戦うつもりでここに来た訳じゃないわ。まず話を聞いて」
「そうそう、必要なら白旗だって掲げてあげるからさー。大人しく会話の席についた方がいいと思うよ?
鈴仙、こう見えて以外と気が短いから、下手すれば気が変わるかもしれないしー」
「てゐっ!もう…とにかく、私達の話を聞いて。貴女達が抱え込んでる三人を含めて、貴女達に決して手出しはしないことを約束するから」

 妖怪達からの唐突の提案、その内容に私は一瞬呆気に取られることとなる。いや、だってこっちは決死の覚悟完了したのに、蓋を開けてみれば…まあ、
正直助かる内容ではあるんだけど。妖怪達の提案に私はアリスの方を向き、その視線にアリスは頷いて応える。…だよな、折角のお誘いだけど
私達にはあまり時間が無い。それにこいつ等が簡単に心許して良い相手かどうかも分からない。

「…戦闘しないっていう提案には感謝するよ。けど、私達はアンタ等とのお話で貴重な時間を浪費する訳にはいかないんだ。
だから、このまま私達を見なかったことにして素通りさせてくれると有難い」
「屋敷の外に出るつもりなんでしょ?貴女達がそのつもりだって悟ったからこそ、私達はこうして貴女達の前に出たの。
このまま外に出るのは…ましてや、怪我人を連れて行くのは止めなさい。今、外は大変なことになってるから」
「…大変なこと?」
「そだよ。さっきまでずっとお師匠様のいる部屋から放たれてた殺気のせいで、妖精達が怯えちゃって敏感になり過ぎてる。
もしこのまま外に出たら、混乱した妖精達が一斉に襲ってきかねないよ。まあ、このまま何も教えずにアンタ達が痛い目にあっても
最初は構わないかなって思ってたんだけど、鈴仙の恩人の仲間がそれに巻き込まれるのはちょっとね~」
「恩人の仲間…ってのは、こいつ等のことか?」
「そうそう。そこの連中…正確にはそのご主人様に借りがあってね~。その分を今、ここで帳消しにして貰おうって訳」

 そういって小さな妖怪兎は楽しそうに笑う。…成る程、こいつ等、紅魔館組と接点があったのか。
 それもレミリアに恩があるって…レミリアの奴、一体何をしたんだ?いや、まあ、レイセンの恩人とか言ってたから、どうせアイツの
無意識お人好しパワーが爆発したんだろうけれど…ただ、妖怪達の言葉はしっかり咀嚼しないといけない。そのまま飲み込んでいい話じゃない。
 まず、一つ。この屋敷の外で妖精達が暴れ回ってるって話だけど…これはかなりの確率で真実の可能性が高い。あれだけの殺気、唯の人間の
私ですら中てられたのに、自然調和の象徴である妖精に何の影響も無い訳が無い。となると、これが真実だと仮定して…拙いな、三人を担いだ状況で
弾幕勝負なんて出来る訳が無い。ましてや今の私じゃ弾幕一つ避けることすら難しいかもしれない。
 そして、もう一つ。こいつ等がレミリアに借りがあって、それを返す為に私達の前に現れたという話。その話が真実かどうか、それを
断定するには私とアリスじゃ不可能。気絶してる三人のうち誰か一人でも起きてれば可能だったんだろうけれど…な。
 それに、その話が本当だったとして話を進めるとして、こいつ等が私達に一体何をするつもりなのか…恐らく、そこを話したいが為の、『お話』なんだろう。
 …受けるしか、ないな。私はアリスに肩を竦めて意志を示す。アリスも相手の狙いに潜り込まないといけないことが癪なのか、少し
不満そうにしながらも、口を開いて訊ねかけている。

「…いいわ、『話し合い』に応じましょう。もう一度伝えておくけれど、私達には時間が無いの。
無意味な話をするつもりなら、ここで切って頂戴。私達に有用な話であると判断出来るなら、耳を貸す用意はある」
「有用も何もないわ。私達の話は唯一つ、貴女達の求めてる場を提供する用意があること…私達が伝えたいのはそれだけよ」
「私達の求める場…とは?」
「訊くまでもないことでしょう?貴女達が今、求めているのはその三人を治癒する為に安全を約束された場所。
この先に広間が在るわ。治療薬から魔法陣生成道具まで一通り揃っているから、治すならそこに連れて行きなさい」

 大きい方の妖怪兎から提示された内容、それは何処までも私達が求めていた内容で。
 …いや、ここまでくると、逆に疑ってしまうのが人間の性ってもんだろ。おかし過ぎるだろ、それ。なんでこの館に住んでる妖怪が
ここまでしてくれようとするんだよ。しかもこいつ等、間違いなくあの女の手下だろ?それを、なんで…幾らレミリアに借り?があるとはいえ、
おかし過ぎる。そもそもこいつ等をここまで傷つけたのは他ならぬこいつ等のボスだって言うのに…そんな私の考えを読んだのか、大きな方の
妖怪兎は溜息をつきつつ言葉を紡ぐ。

「私達がそこまでする理由が見つからないから疑ってるんでしょうけれど…それは果たして最良の選択なの?
時間が経てば経つ程、後ろの三人は弱っていく。意地を張って疑って、それで全てを台無しにしてしまっては本末転倒じゃないの?」
「簡単に言ってくれるなよ…だって、おかし過ぎるだろ。なんでこいつ等を傷つけた奴等が、治療しようなんて思うんだよ」
「先に言っておくけれど、この件に師匠は関係無いわ。これは私の独断だもの」
「そうそう。だから鈴仙は後でお師匠様に説教されることが確定って訳。にししっ、楽しみ楽しみ」
「うるさいな…とにかく、どうするの?断るなら断る、それでも良いわ。
もし断られたところで、結果は同じこと――私が無理矢理貴女達から三人を引き剥がして、治療するだけだもの」

 鈴仙、そう呼ばれた少女は強い意志を瞳に込めて私達を一瞥する。…ここまでか。ここまでしようとするのか。
 どうやらこいつ等はあの女の意志とは無関係にフランドール達を助けようとしているらしい。それを鵜呑みにするのは難しいけれど、
でもその言葉が嘘じゃないってことは何となく分かる。それは相応の覚悟をした奴の目、心が強い奴の目だ。私に知人に沢山いる、そんな。
 …参ったな。もう、こうなると私じゃどうするべきか判断がつかない。私としてはこいつ等の提案に乗りたいが、それでも相応のリスクが在る。
 かといって、このまま外に出るのも…何より私達には時間が無い。だから、どうするか――当然お前に任せたぜ、アリス。
 私は笑ってアリスに託す。そんな私にアリスは呆れるような表情を浮かべながらも、答えは決まっていたのかあっさり決断を下す。

「…散々疑っておいて申し訳ないけれど、貴女達の提案、喜んでお受けするわ。
現在の私達を取り囲む状況を考えたら、貴女達を頼ることが最善…逆に、それ以外の道が無いもの」
「英断だね。それじゃ早速怪我人を預かろうか。準備は進めておくけれど、魔法治癒は貴女達が責任持ってやってよね。
その後の薬品投与とかは私や鈴仙で判断してあげるから」
「勿論よ。魔法は私達魔法使いの領域、そこまでしてもらうつもりはないわ」
「オーケー。それじゃ確かに患者三人は任されたよ」

 私達から紅魔館組の三人を受け取り、小さな妖怪兎は獣型の妖怪兎達に三人を運ばせ、自分もまた奥の部屋へと消えていく。
 そして、そんな妖怪達に付いて行くように、鈴仙と呼ばれた妖怪兎もまた奥の部屋へ向かおうとする。
 その後ろ姿に、私は思わず訊ねかけてしまう。どうしても訊いておきたかったから。

「おい、鈴仙とか言ったっけ。お前、どうしてそこまでしてくれるんだ?
レミリアに借りがあるとか言ってたけど、その借りはそこまでして返すような大きいモノでも無いんだろ?それなのにどうして…」
「…大きいわよ。レミリアは…レミリアは、私が失っていた大切なモノを取り戻させてくれたんだもの。
だから、こんなことは些細なことよ。貴女達が気にするようなことでもないし、気にして欲しくも無い」
「そっか…お前、良い奴だな。ちなみにお前が取り戻した大切なモノ、それが何なのか訊ねても?」

 私の問いかけに、鈴仙は小さく言葉を発し、奥の部屋に消えて行った。
 その鈴仙の呟きは小さく…けれど、何より力強く。


『――誇り、よ』


 鈴仙の言葉は、彼女の姿が見えなくなった今もなお、私の耳に残り続けていた。

















 ~side 妖夢~



「くうっ!!獄界剣『二百由旬の一閃』!!」

 襲い来る魔弾の嵐を、私は二本の剣で必死に捌く。
 弾幕を捌き終えた私の背後から、私の顔の横をすり抜けるように放たれる霊夢の迎撃弾。それを女は障壁を張って防ぐ。
 …陣形を変えてもなお霊夢狙い。本当、徹底してる。私は背後の霊夢に視線だけ交わし、二人同時に弾幕を展開する。
 そのばら撒かれた弾幕はあくまで補助。如何にあの人が――咲夜が女に対し優位に立ちまわれるか、その環境づくりこそ私達の役割。
 私達の弾幕を防ぎつつも、女は決して咲夜から目を逸らさない。常人を遥かに超越した速度の咲夜を眼で追える、それだけで
賞賛に値するけれど、それで全てを防ぎ切れるなら私達がアシストする意味は無い。咲夜は私達の援護をこれ以上ない程に上手く利用して、
女に近づき、その手に持つナイフを振う。事実、咲夜はこれで幾度と女を切りつけることに成功してる。

 この戦いが開幕したとき、私達の心は驚愕に満たされていた。魔理沙とアリスによる三人の救出を、この女は敢えて見逃した。
 その理由、それを問い詰めることも考えることも許すことなく、女は行動した。女の狙いは唯一人、霊夢だった。
 霊夢に対し恐ろしい量の弾幕を展開し、ときには直接攻撃しに近づくこともある。あまりに執拗な霊夢狙いに、私はすぐに攻撃から
サポートへ身を転じた。霊夢の傍で彼女を護ること、それこそが私の今、為すべき役割だと戦いの中で感じたからだ。
 結果、その一手は正解で、あの女は私達を攻めあぐねている。霊夢が只管咲夜の援護を、そして咲夜がトリッキーかつ俊敏な動きで女に切り込み、
私は霊夢の傍で霊夢の護りと咲夜のサポートの両方にスイッチを切り替える。私達が作った咄嗟の陣形だけど、これが今確実に功を奏してる。
 私が霊夢の傍についたことで、女は先ほどのように霊夢に近づくことは無くなった。恐らく、女は霊夢が近接レンジに有効な攻撃手段を
持っていないことを悟っていたんだろう。だけど、その霊夢の足りない部分は私が埋めた。だからこそ、女は無駄なリスクを背負わない。
 今、女に出来ることは咲夜の猛攻を防ぎながら、遠距離から霊夢を狙うこと。そして私はそれに対処し続ければいい。

「妖夢っ!大きいの撃つからその間壁は任せた!」
「承知!って、ちょ、ちょっと霊夢、私一人じゃこの量は…ええい!人符『現世斬』!!」

 当然のように無茶ぶりをしてくる友人に頭を痛めながら、私は必死に霊夢の壁となる。
 確かに辛い、辛いけれど…あのとき程の絶望は無い。私と霊夢と魔理沙とアリス、四人で萃香様に立ち向かったあのとき程は。
 何故なら、あのときとは違い、相手の攻撃は『常識』の範囲内に収まっている。相手は確かに強いとは感じるが、あくまで私達でも
反応出来るし防ぐことが可能なレベル。一対一では決して勝てないレベルだけど、三対一、ましてやこちらが防御に徹するなら手の打てない相手じゃない。
 萃香様の攻撃は常識を遥かに超え、防ぐことも出来ないし、何よりこちらの攻撃は通らない。そんな絶望しか待っていない戦いだったけれど、
この女には攻撃が通る。現に咲夜が幾度かナイフを奔らせ、出血という状況を生み出している。萃香様のように刃が肌を通らないということもない。
 決して届かない相手じゃない。決して絶望する戦力差じゃない。なら、負けられない。咲夜の為にも、レミリアさんの為にも、絶対に。
 私が訪れた全ての魔弾を叩き落としたとき、霊夢は紡ぎ続けていた術式を女に向けて発動させる。

「よし…咲夜!死ぬんじゃないわよ!――霊符『夢想封印』!!」
「え、ちょ、嘘っ…」

 私の制止の声を聞く前に、霊夢はとんでもない大技を咲夜と女の方をめがけて放ってみせる。
 二人を中心に、霊夢の放ったとんでもない符術が発動し――爆発。って、えええええええ!?ばばば、爆発って!?

「ちょ、ちょっと霊夢!?あれじゃ咲夜まで巻き込まれ…」
「る訳ないじゃない。アイツはこういうときに凄い便利な隠し玉があるんだから。そうでしょう、咲夜」
「――私のことを信頼した上での行動、そういうことにしておくわ」

 慌てふためく私と落着き払う霊夢のすぐ傍に、いつの間にか咲夜が。あ、そうか、時間操作…
 咲夜の持つ能力に気付き、一人慌てていた自分自身が少し恥ずかしい。小さくなる私に呆れながら、霊夢は
淡々と情報交換を行っていく。

「切りあってみての感想は?」
「力は私と同じくらい、反応速度も特筆すべき訳じゃない。肉弾戦はまだ美鈴やフラン様と組み合っていた方が恐怖を感じたレベルね。
間違いなくあれは近接戦闘を得意とするタイプじゃないわ。遠距離で撃ち合ってみての感想は?」
「撃ち慣れてるわね。正直、妖夢の機転がなければいの一番に墜とされてた。こっちが回避行動に移る、その先の先まで狙ってくる。
けれど、正直言って防げないレベルじゃない。威力も弾幕速度も許容範囲内。だけど…気持ち悪さが残るのよね」
「気持ち悪さ?」
「ええ…なんていうか、アイツ、私達を推し量ってるっていうか、試してるように弾幕を放ってる気がする。
だから、正直手の内を見せるのは程々にした方が良いわ。手札を切るなら一枚ずつ慎重に。そうしないと…多分、一気に喰われる」
「成程…確かにそうね。アレはフラン様や美鈴、パチュリー様を一人で打倒した存在。この程度の筈が無いわ。
相手の手札も何となく掴めてきたし、次はもう少し距離を詰めてみるつもりよ」
「頼むわよ、恐らく距離が近ければ近いほどアイツを打倒する答えに近づける筈。あと、気付いてると思うけど、アイツも持つ厄介な手札は…」
「ええ、言われるまでも無いわ。――驚異的な再生能力、それがあの女の一枚目の手札」

 咲夜の言葉を合図に、私達は再び離れる。こちらに向かって魔弾が放たれたからだ。
 咲夜の話の通り、あの女は霊夢の大技を喰らってなお平然とこちらを攻撃してくる。再生能力、か。妖怪なら誰もが持ち得る能力だけど…霊夢の
アレを喰らって簡単に立ち上がれるなんて常軌を逸してる。本当、厄介なことこの上ない能力だ。…っ、いけない!霊夢と少し距離が離れた!
 慌てて霊夢の方へと飛翔する私だけど、そんな隙を相手が見逃す筈も無く、女は咲夜のナイフを捌いて真っ直ぐに霊夢へ翔けていく。
 ただ、霊夢もそれを読んでいたのか、慌てることなく迎撃の陰陽玉を放ち、女を退けようとする。

「っ、さっきからしつこいのよアンタは!女に付き纏われる趣味なんか私にはないっ!」
「指示、読み、援護、直感…この戦いの中心は間違いなく貴女。
博麗の巫女…八雲紫の寵愛を受けし楽園の管理者。放置しておくには厄介過ぎるものね。まずは頭を叩いておきたいのよ」
「霊夢っ!!このっ、はあああああああ!!!」

 私が振り下ろした楼観剣にも女は慌てることなく退き、霊夢の追撃の弾幕を難なく避けて距離を取る。
 …上手い。本当、戦い慣れてる。私と霊夢の繰り出した囮を避け、女はその頭上から訪れる咲夜の斬撃をも防いでみせた。
 再生の追いつく傷は放置し、致命傷だけは必ず避ける。その淡々とした機械的作業、けれど完璧を求められる戦闘スタイルに賞賛を送りたくもある。
 けれど、それでも優位はこちらにある。数でも力でも、戦況は私達優位。だったら、その流れを押し続けなきゃいけない。
 切り結ぶ咲夜に、私と霊夢は只管援護をし続ける。そして、咲夜と女の戦いに瞬くすら許さず観察し続け、必死に状況打破の糸口を探す。
 どんな人間や妖怪にも必ず弱点はある。探せ、探せ、探せ。あの女の鉄壁の守りを抜くにはどうすればいい。
 不幸中の幸い、あの女の身体能力は私達と同等レベル。なら、手は在る筈だ。対処できない存在ではない筈だ。だから探せ。必死に、なんとしても――

「っ!拙っ、咲夜の奴、押され出してるじゃない!」
「え――う、嘘!?どうして!?」

 霊夢の叫びに、私は切り結ぶ二人の状況に気付き唖然とする。先ほどまで圧倒的に立ち回っていた咲夜の攻撃が、全て受け止められている。
 いや、受け止められているどころか、咲夜が時間を止めて現れる瞬間、場所を読み取って予めそちらに向かうような弾幕すら張ってる。
 …なんで、どうして。呆然とする私に、霊夢は声を荒げて指示を送る。

「ボケっとすんな!!このままじゃアイツが堕ちる!アイツを援護しに向かいなさい!」
「え、で、でも、そうすると霊夢が!」
「アンタがいないくらいで私が簡単に堕ちる訳ないでしょうが!それよりさっさと向かう!」
「わ、分かった!」

 霊夢の激しい声に、私は迷いを断ち切って真っ直ぐに咲夜のもとへ翔ける。
 その私の攻撃が通るように、霊夢は一際大きな弾幕を展開する。その弾幕を背に、私は二人の場所へ疾走し、勢いそのままに刀を振う。
 私の攻撃を紙一重で避け、距離を取ったのを確認して、私は咲夜に声をかける。

「急にどうしたんですか!?あんな突然劣勢に追いやられて…」
「…げほっ、本当、霊夢の読みって馬鹿に出来ないわね。霊夢の言う通りだったわ。
あの女…これまで霊夢を狙いながら私を推し量ってたみたい…私の攻撃モーションから時間操作、次のステップに至るまで完全に読み切ってる」
「そ、そんな…咲夜は私達の中でも一番戦闘慣れしてるのに…」
「…いくわよ。私達はまだ、負けていない」

 咲夜の呟きに、私は力強く頷き、女に向かって滑空する。
 正直、状況は悪化の一途を辿り始めてる。咲夜の動きを読めるようになっているということは、それ以上に激しく動き回っていた
私と霊夢の行動は筒抜け同然かもしれない。だけど、私達はまだ負けてない。心折れていない。ならば、立ち向かえる。
 必死に女の攻撃を捌く霊夢の前に立ち、私は二本の刀で次々と弾幕を打ち払っていく。…っ、重い。どうやら魔弾の威力も上乗せしてきてる。
 首元にかけた両手にゆっくりと力を入れていくように、女は私達にじわりじわりとプレッシャーをかけてきてる。
 それは如実に効果が現れて…霊夢も、私も、そして攻撃側で在る筈の咲夜ですら女の放つ弾幕に手を焼くことになる。くう…反撃に
移らせて貰えない。このままじゃ、防戦一方で何の手も打てなくなる…どうにかして、状況を打破しないと。なんとか、なんとかして…

「ああもうっ!このままじゃジリ貧じゃない!」
「れ、霊夢…落着いてっ」
「分かってるわよ!くぅ…二重結界を展開、無理、先に撃ちおとされる。夢想封印…散も集も時間稼ぎにしかならない。
なにか…なにか糸口が在る筈よ。認めるもんか…何も出来ずに負けるなんて絶対に認めてなんかやるもんか…」

 必死に策を探す霊夢、だけど私と同じく上手くこの状況をひっくり返す方法がみつからない。
 私と霊夢は重い弾幕で完全に封じられ、咲夜も相手の懐に潜り込めていない。本当、霊夢じゃないけどジリ貧。
 …だけど、絶対に対処法は在る筈。だってそうじゃない、あの女は現に霊夢を先に潰そうと必死に行動してたじゃないか。
 どんな状況でも勝てる雑魚を相手にしているなら、向こうはそんな行動には出ない筈。頭さえ潰れなければ、私達にも勝機は在る筈なんだ。
 だから耐える。耐えて耐えて耐えて耐えて、今は待つ。私達がなんとか出来る、その糸口を掴む機会を。

「…流石に、手ごわい。やはり、チームを組まれると厄介ね。本当、あの三人は先に頭を潰しておいて正解だったわ。
だけど、それもお終い。これまでの戦いで貴女達の大凡の力は把握したわ。
一人ずつ、確実に潰させて貰うわ。――この一撃、妖怪の身ですらない貴女達に耐えられて?」

 刹那、女の周囲に恐ろしい程の濃密な力を感じ取った。だけど、その時にはもう遅い。
 この女の真に恐るべきはその手慣れた戦闘技術。まるで呼吸をするように大きな力をワンアクションで私達に解き放った。
 ――拙い。その瞬間、私は現在の状況を把握する。咲夜の方はともかく、私達が非常に拙い。
 明らかにこれまでとは異なる力、まるで封印の封でも切ったかのように押し出された暴力の塊は、明らかに私と霊夢を呑みこまんと放たれている。
 私の回避はともかく、霊夢が完全に出遅れている。周囲の弾幕を防ぐ為に、霊夢が大きめの術式を常時展開していたのが仇になってる。
 どうする。私一人ならともかく、霊夢はこの攻撃を絶対に避けられない。私一人で避ける、恐らく相手はそれを望んでいる筈だ。
 相手の目的はあくまで霊夢。霊夢を潰し、その後で私と咲夜を潰すつもりだ。だったら、私はどうするべきか。考える、考える、考えて――そして呆気なく結論が出る。

「――っ!?妖…」
「…頼んだよ、霊夢、咲夜」

 私は半霊を叩きつけるように霊夢に押し付け、残る霊気のありったけを半霊の加速に使い、霊夢を女の攻撃の射程外へと運ぶ。
 …これでいい。霊夢、咲夜、そして私。このメンバーの中で、霊夢も咲夜も決して欠けてはいけない存在だ。あの女に勝つ為には、
二人の力が絶対に必要。だから、私は自分を切り捨てる。けれど、それは後ろ向きでもなんでもない。勝つ為の、勝利を掴む為の選択だ。
 その上での決断だもの、故に私は下を向かない。胸を張って、敵の攻撃を受け入れる。多分…いいえ、間違いなくこの攻撃で私はリタイアだろう。
 だけど、だけど勝利だけは譲らない。私では手が届かなくとも、霊夢なら、咲夜なら必ずなんとかしてくれる。この二人なら、どんな強敵だって打ち勝ってくれる。
 だから幽々子様…後悔はしていませんが、謝罪します。魂魄妖夢、この手で異変の元凶を切り伏せることが出来ませんでした。でも幽々子様に
怒られるというような心配はしていません。だって、この私の選択をきっと幽々子様は褒めて下さる…必ずそうだと、知っていますから。



 だからみんな――私の分まで、任せたからね。


 私達が…私達がみんなで力を合わせれば、勝てない者など――誰も、いない!



















 ~side 霊夢~



 息は、ある。


 倒れた妖夢に駆け寄る私と咲夜は、妖夢の生存を確認して安堵する。
 …こんの、馬鹿。何勝手に人を庇って勝手に危険な目にあってんのよ。アンタ、一歩間違えれば死ぬかもしれなかったのよ。
 それを勝手に…私は思わず自分の拳を強く握り締める。自分の未熟さが、力の無さが、友達の危険を招いたこと…その現実が、痛かった。
 そんな私達に、女は追撃をするでもなく宙に浮いたまま悠然と見下している。そして、私達に一方的に言葉を告げる。

「力の差は理解したでしょう?分かったなら、その娘を連れて引き返しなさい。
私の邪魔さえしなければ、逃げる者の背を撃ったりなどしないわ。だから早く、この場から消えなさい」

 その何処までも上からの言葉に、私は自分の中で何か切れるのを感じた。
 逃げろですって?消えろですって?アンタ、本気で何様のつもりよ。魔理沙が、アリスが、そして妖夢がどんな想いで私達に全てを
託したと思ってるのよ。それを命だけは助けてやるから逃げろですって?この場から去れですって?

 …許せない。絶対に、許せない。
 私は抱きしめた妖夢をその場にゆっくりと寝かせ、立ちあがって女に向かう。
 同じ気持ちなのか、咲夜の奴も私と肩を並べるように立ち、女を正面に据えて立ち並ぶ。

「…許さない。アンタだけは絶対に許さない。
妖夢が…私の友達がどんな想いでこの場に居たのか、それを理解せずに誇りを汚すような言葉…何処までも、馬鹿にして!」
「激昂するのは構わないけれど…それで一体何が変わるというの?
貴女達も前の三人同様、怒り狂い思考を失って私に襲いかかるのかしら?それはいいわね――ええ、実に楽になる」
「…もういい、黙りなさい。
お前の声も、存在も、その全てが癇に障る。私の家族を傷つけ、友人を穢した罪、その命だけでは足りないくらい。
もう迷わない…二度と人の身に戻れなくとも構わない。私の全てを賭して――お前を討つ」

 咲夜が言葉を紡ぎ終え、手に持つ白銀のナイフを迷うことなく己が首筋に奔らせる。
 その行動に、目の前の女は酷く驚きをみせているけれど、私は別段驚くことも無い。正直、咲夜の行動に驚いてる余裕すらない。
 頭が、心がグチャグチャに煮え滾ってる。けれど、それとは対照的に酷く心が落ち着いている自分が居るのも確か。
 燃えたぎる自分と、酷く冷静な自分。その二人が混じり合って、私の中でもう一人の私を形成していく。
 それはどんなしがらみからも逸脱した、全てに捕らわれない在り方。全てから浮いた自分、そんな私を形成していく。
 そんな私を余所に、咲夜の奴は己の首筋から噴き出した血液を己が背中に凝固させていき、一対の巨大な翼を形成する。その深紅の翼は
どこまでも美しく、そして禍々しく。翼を形成し終え、咲夜の首筋の傷はまるで妖怪のそれのようにあっさりと元に戻っていった。
 咲夜の瞳の色はどこまでも血の滴るような紅。その姿に、私は冷静に納得してしまう。ああ、そうか、これがコイツの『本当の姿』なのだと。
 その姿に納得しつつ、私もまた精神の中に『もう一人の自分』を形成し終える。全ての存在を超越し、何もかもから解き放たれた私――博麗の巫女。
 …ああ、成程。今なら紫の言っていた『博麗の巫女がその気になれば勝てない相手など存在しない』という言葉の意味がよく分かる。
 『この』私なら決して誰にも負けないだろう。精神的なものも物質的なものも全てから浮いた、こんな『現象』でしかない、今の私なら。

 私達の様子に、女は呆然とした状態を保っていたかと思うと、突如として笑いだす。
 そして、楽しそうに笑いを押し殺しながら、私達にゆっくりと言葉を紡いだ。

「成程、そういうこと。これが隙間妖怪と吸血鬼の…本当、今宵は驚かせて貰ってばかり。
さて…今の私では貴女達と朝まで遊ぶことが出来るかどうか。だけど、姫の為にも私が退くことはない。
お互いに退けぬ想いが在るのなら、どちらかが潰えるしかないわ。フフッ――さあ、幻想郷の夜明けはもう目の前にある!」

 今まで押し殺してきた己が本当の力――その全てを目の前の女は解放する。その力は本当に恐ろしく強大。
 …でも、今の私達に負けは無い。負けなんて考えられない。だってそうでしょう、魔理沙、アリス、妖夢、フランドール、美鈴、パチュリー…そしてレミリア。
 貴女達の想いを背負ってる、私達に敗北なんて在りえない。さあ、これで終幕よ。――『夢想天生』、その身にしかと受け止めなさい!





















 雑談なう。


 …いや、なうもくそもないくらい、ずっと話しっぱなしなんだけどね。
 私ことレミリア・スカーレット(故人)は、ここ数日ずっと輝夜相手にお話の毎日です。
 あ、輝夜っていうのは私の前に座ってるルナティックプリンセス(笑)のことね。輝夜の奴、いつもいつも私に
『レミリアの話が聞きたい』って言うんだもん。まあ、お迎えの順番待ちの間、やることも特にないし、じゃあ話すしかないじゃない。
 輝夜には私の輝かしい栄光の日々(不幸180パーセント)の内容を赤裸々に面白おかしく語ってるわ。いや、もう、輝夜の反応が
凄く良くて。私が何か話す度に冒険譚に耳を傾ける子供のように喜ぶのよ。そんな風にされちゃ、お姉さん頑張るしかないじゃない?
 それでまあ、延々と語り続けちゃう訳よ。輝夜って本当に聞き上手だから、話してて楽しいしね。本当、良い友人を見つけたわ。…死後だけどね!


 私が死に、この場所に辿り着いてから一体何日経過したかしら。
 日本風の小さな小部屋に、私はずっと輝夜と二人っきり。輝夜が言うには、この部屋は永遠に守られていて、全ての時間が止まった世界らしいのよね。
 だから私がお腹を空くこともないし、眠たくなることも無いし、トイレに行きたくなることもないし、新陳代謝がないからお風呂も不要らしい。
 …うん、でも花も恥じらう乙女としては、お風呂くらい用意して欲しかったわ。一日きっちり四回入浴するのがマイジャスティスオブライトっていうか。どんな試練に倒れるとしても
お風呂だけは入りたい純情な感情なのよ。ま、ものの三日くらいで慣れたけど。
 で、まあ、輝夜の話と自分の推測から思うに、ここは多分待合室なのよね。ほら、死んだ者は閻魔様に捌かれるっていうじゃない、多分それ。
 閻魔様は多忙だから、私達は待ちぼうけってこと。ああうん、私が待ちぼうけってことは一緒に待ってる輝夜も死人なのよね。美人薄命って本当なのねえ…勿体無い。
 まあ、初対面で散々笑ったり泣いたりして意気投合。転生裁判を待つ間、こうして輝夜と延々お話タイムって訳。で、今に至る、と。

 最初は自分の死に悲しみの中の悲しみ、百パーセント悲しみに暮れまくっていたけれど、まあいつまでも泣いてられないわよね。
 それに、なんだかんだいって輝夜が傍に居てくれたし。フラン達のことをふっきる為の時間、ずっと輝夜は何も言わずに傍に居てくれた。
 だから、今もまあ、正直悲しみはあるけど…以前に比べれば、大分ふっきれたと思う。自分の死もネタに出来るくらいになっちゃったし。
 落着いた時、そこで初めて輝夜と自己紹介をし合ったんだけど…まあ話をすると輝夜も面白いこと面白いこと。だってこの娘、蓬莱山輝夜って
メチャクチャ雅で大人し大和撫子な容貌してるのに、中身が破天荒過ぎるんだもん。ちょっと思い出すだけでも笑えるんだけど、この娘名前の後に
言った一言が『私、実は月のお姫様なのよね』。それ聞いて私大爆笑。だっていきなり「私は月の姫よ!(キリッ)」なんてされたら、その、普通に死ぬから。
 本当、輝夜って冗談のセンスも飛びぬけてるとその時しみじみ思ったわね。この吸血鬼殺し(フッキン・ブレイカー)めっ。

 長い期間、気の合う女の子と二人っきり。そんな状況じゃ、仲良くならない方がおかしいわよね。
 今じゃ輝夜とは目と目で通じあう関係になれるんじゃないかとすら思えるわ。
 私達の転生裁判がいつになるのかは知らないけれど、お迎えが来るまでの間、私はいつまでも待っていられそう。いやー、本当、
転生待ちの同室相手に恵まれたわ。持つべきモノは理解力のあるルームメイトよね。そんなことを思いながら、今日も私は輝夜と無駄話な日々よ。

「…とまあ、そんな訳で私は紫の魔の手から逃れた訳よ。
でも紫は同性愛者でもペドフィリアでもなんでもなくて、私の完全な誤解だった訳なんだけど」
「あははははっ、そんな間違いするのはレミリアだけよ、おっかしい。貴女は実に馬鹿ね」
「そんな青狸みたいに言うなっ!あのときの私は本当に必死だったのよ!
…でもまあ、紫の疑惑も完全に晴れた訳じゃないけどね」
「へえ、その根拠は?」
「…紫の奴、式神に獣耳の女性を連れてるのよ、狐耳。しかも話によると、更にもう一人、猫耳ロリの女の子もいるみたい。
しかも紫から直々に聞いたんだけど…その狐耳の女性は紫の手足として絶対命令服従らしいわ。もうね、それだけでもうね」
「どう聞いても変態ね。どうもありがとうございました」

 雑談に興じ、私は輝夜とお腹を押さえて笑いあう。…うん、こんな話、紫に聞かれたら瞬殺されるわね。
 でも、まあ、私死んじゃったから、流石に紫もここまでこないわよね…紫のケモナー同性愛者説は一度でいいから誰かに
話したかった秘密だし。流石に幽々子や萃香に話すと絶対紫に伝わるから、持てあましていた話題だけに。
 紫は本当、度し難い趣味を持ってたけど…良い奴だったよ。アイツは話を聞かないからな、ってね。
 そんなことを話しながら、また気付けば時間が経って。話が一区切りついて、私はうんと背伸びをして床に寝転がる。そんな私の
特等席は勿論、輝夜の膝の上。いや、この部屋って枕がないのよね。それで初日に枕にして以来、惰性でずるずると。
 …別にいいよね?輝夜、嫌がって無いし、私も頭が楽だし気持ちいいし。そんな風に寝転んだまま、私は思うままに言葉を紡ぐ。

「あー…それにしても、転生順番待ちも永いわね。そんなに死人が並んでるのかしら?閻魔様も大変ね」
「ああ、前に言ってた死者の転生が云々って話?私は死なないから、その概念がよく理解出来ないのよね」
「はいはい、不死身の第四小隊かっこいー。輝夜の『私絶対無敵不死身なんです』説は沢山聞かせてもらったから」
「むー、本当なんだけど…まあ、いいわ。それで、転生がどうしたの?」
「いや、私は次は一体どんな風に生まれ変わるのかなあって思ってね。また吸血鬼になるのかなあ」
「どうかしら。もしかしたら前世で云々なんて言って閻魔様がサービスしてくれるかも」
「転生…チート…だと…?フッ…とうとう私がシルバーニアンのパイロットになって宇宙を駆け回るときが来てしまったようね。
生まれ変わったときは私はコウ・ウサギ少尉でお願い」
「前に言ってた空想話だっけ。今度、読ませてね」
「いいわよ、来世で出会えたら幾らでも読ませてあげるわよ。貴女もあの動物の泥臭い武骨な世界にハマるといいわ!」

 地味な布教活動を行いながら、絶対に来ないであろう未来に私は想いを馳せる。
 …この輝夜の性格と何でも興味を示す性質なら、どっぷり漬け込むのは美鈴より簡単そうね。よし、もし来世でミラクル的に会えたら、絶対に布教する。
 まあ、その世界にシルバーニアンがあるのかすら怪しいんだけど…無いと泣く。絶対に泣く。あれは私のバイブルなのに。
 そんなことを考える私に、輝夜は少し考えるしぐさをみせて、再び言葉を紡ぐ。それは本当に何気ない質問。

「でも…もし、本当に転生におまけをつけてくれるとしたら、レミリアは何を願う?」
「普通の生活。ケーキ屋さん。素敵な旦那様。一軒家。男の子と女の子。願うことがあり過ぎて欲望で頭が埋め尽くされそう」
「本当、レミリアって小市民。貴女本当に吸血鬼?」
「ふん、自称ルナティックプリンセスには分からないわよ。この私の壮大なドリーム・ストーリーは」

 私は軽く息をつき、先ほどの輝夜の質問を真面目に考える。
 転生に願うべき願い。少し考え、そして呆気なく結論が出る。…本当、答えなんて分かり切ってるわよね。
 私が次の未来に…いいえ、次が駄目でも、その次の未来でも、願う内容は決して変わらない。変わる筈なんか、ないんだ。

「…また、みんなと出会うこと、かな。私の願う内容なんて、それくらいだよ」
「みんな…というのは、レミリアの部下達のこと?」
「家族と友達。私の大切な…とっても大切な人達。
フランにパチェ、美鈴に咲夜。霊夢に魔理沙に妖夢にアリスに紫に幽々子に萃香に…私の大好きだったみんな。
みんなとまた出会って、そして笑って一緒にいたい…私の願いは、どんなに月日が経とうとも、変わらないよ」

 目を閉じれば思い出す、騒がしくも温かな日々。終わってみて気付いた、自分がどうしようもなく幸せだと知ることが出来た毎日。
 そんな日々を、私は望んでる。大好きなみんなに囲まれて、少しくらい危険な目にあっても、それを後の笑い話に出来るような日々を。
 悲しみは今も胸に。でも、それ以上の感謝を心に。みんなとの再会を心の奥底で願いながら、私はきっと転生するのだと思う。
 それは私がレミリアじゃなくなっても、絶対に変わらない。どんな存在になってもきっと、いつの日かまたみんなの傍に。
 その想いを私は輝夜に照れ隠しに早口に語る。うん、こういうの、面と向かって人に語るのってあれだしね。
 私の話を聞き、輝夜は少し押し黙り、私の頭を膝に抱えたままで、ゆっくりと言葉を紡ぐ。それは、普段のおちゃらけた輝夜とは違っていて。

「…悪いけれど、私はレミリアと同じことは願えそうにないわね。
私は自分を取り巻く日常をそんな風に捉えたことなんてないもの。今が続けばいい、なんて思えない。こんなもの、早く終わればいいと思ってる。
…本当、愚かしいわね。永遠を否定してるくせに、私は今こうして永遠の中に居る」
「それは『今』が輝夜の掌に存在してるからそう思うのよ。失ってみれば、その大切さにも気づくわよ」
「そうかしら…私は二度、全てを捨て去ったけれど、それに悲しみなんて感じなかったわ」
「それこそ冗談。そう感じるのは貴女が全てを捨て去っていない証拠。
少し落着いて、周囲をしっかり見てみなさいな。貴女は本当に全てを失っているの?大切なモノを一つ残らず?」

 そんな訳ないでしょう。全てを捨てるなんて…いやいや、私がどれだけ苦労して漫画をコレクトしたと思ってるのよ。
 それを全部失うとか…悲しみのあまり夢想転生すら習得してしまうかもしれないわ。どうせ輝夜も失った失ったって
言ってるけど、絶対全部捨ててないわ。多分、一般人受けするような漫画は残してる筈よ。…あれ、これ漫画の話だっけ。
 永遠がどうとか訳の分かんないこと言うから、てっきり漫画の話だとばかり。まあ…いっか。私、他人にどうこう言える程立派な吸血鬼じゃないし。
そのあたりは輝夜も分かってくれてるでしょ。この私が如何に腐った吸血鬼かをね。だからこんなアホ相手に
真面目な相談や悩み吐露とかする訳も無い。私は黙って輝夜の言葉に耳を貸し続けた。

「…確かに手元に残ったモノは在る。けれど、それは在って当然のモノよ」
「それが当然だって決めたのは誰?それがいつまでも貴女の傍にあるなんて決めたのは誰?
…そんなこと、誰にも分かりはしないのよ。貴女は永遠永遠というけれど、この世に本当の永遠なんて存在しないのよ。
もし、本当に存在してるのなら、それは永遠なのではなくて…ただ、終わってるだけなのよ」
「…終わってる?」
「変化無く無限が続くって、つまり止まってるってことでしょ?変化が無い状況は既に破綻、終焉を迎えてるに過ぎないわ。
…具体的に言うと、永遠にこのままだったら私は身長も大きくならないし胸も大きくならないじゃない。そんなの絶対に御免よ」
「永遠から脱すれば、それは変化と穢れを伴うということ。ともすれば、最悪すら引き寄せかねない。それでも貴女は一歩を踏み出すの?」
「当たり前よ。最悪が起こるってことは最高も起こり得るってことじゃない。
四等賞だけの籤を引いたって楽しくもなんともないわ。ハズレの存在を知ってなお狙う一等賞に価値がある。怖がってちゃ何も始まらないよ」
「…それでも、私は踏み出せないわ。一人で踏み出すには、私はあまりに多くのモノを切り捨て過ぎた」

 …えーと、踏み出すって何が?一人で籤引きに行けないってこと?
 おかしいな…漫画の話から女体の成長の話から籤引きの話題で…踏み出す?本屋?服屋?籤引き屋?
 とりあえず何処でも一人で行ける場所だと思うんだけど…ははあ、そこまで考えて、私は一つのことを思い出す。
 そういえば、輝夜は前に言ってたわね。あまり外に出たことがないって。そう、この娘は生前はとんでもない引き籠りだったのよ。それで
一人じゃ買い物に行くのも心細いし勇気が出ない、と。まあ、自分のこと月のお姫様っていうくらいだし、そういう一歩を踏み出すのは
大変かもしれないけれど、でもここで勇気を出さないと貴女は来世でもヒッキーのままじゃない。駄目よ、それは友達として認められないわ。
 今となってはもう遅いかもしれないけれど、友の新たな旅立ちの為に私は力を貸さないといけないわ。
 大丈夫、社会は貴女が思う程怖いモノじゃないわ。勇気を出して一歩前進、そうすれば違う世界が開けるんだから。


「――戯け。何を恐れているのよ、蓬莱山輝夜。そんなの、全然貴女らしくもないじゃない」

 輝夜の膝から頭を上げ、私は息を吐きながらその場に立ちあがる。
 友の社会復帰の為に、来世の為に。私は己に出来る精一杯の応援を輝夜に送る。頑張れ頑張れ輝夜。かっとばせー輝夜。

「何かに怯え、永遠(じぶんのへや)に逃げるなど輝夜のすべきことじゃないでしょう?
貴女は誰に遠慮することなく、月の照らす道を真っ直ぐに歩けばいい。そして只管に胸を張り続けなさいな。
他人など考慮するな。全ては己が心と欲望に沿って、全てに対し傲慢に在り続けて笑っていればいい」

 …あ、そういえば輝夜言ってたっけ。一人じゃ勇気が出ないって。
 なら仕方ないわね…この社会人として先輩のレミリアさんが少しばかり背中を押してあげるとしましょうか。

「もし、それでも怖いというのなら、私が輝夜の手を引っ張って共に道を歩いてあげるわ。
一緒に道を歩き、共に笑い、共に騒ぎ、共に眠る――そうすれば、きっと貴女の求める全てが手に入る筈よ」

 ほら、貴女漫画読みたがってたじゃない。それも自分の好みで選んで帰るのよ。
 さようなら、母親に週刊誌を頼む日々。こんにちは、本屋で週刊誌を立ち読みする日々。さあ、私の手を掴みなさい輝夜。
 ああ、もしかして遠慮してるの?輝夜は良い人だから、私に迷惑をかけるのを嫌がってるかもしれないわ。フフッ、何遠慮すること無いじゃない。



「さあ、勇気を出して私の手を取りなさいな。何、私に気を使ってるなら遠慮は不要よ。
なんせ貴女は月の姫、そして私は吸血鬼の姫だ――古来より、吸血鬼は美しき満月に寄り添うが運命。
在るべきモノが在るべき場所に戻る、ただそれだけのこと。違うかしら、我が愛すべき友――蓬莱山輝夜」



 呆然と私を見つめたまま、輝夜はゆっくりと…だけど、強く私の手を握り返してくれた。
 …や、やった!友達を、あの世で出来た友達を無事真人間の道に連れ戻すことに成功したわ!私凄いかも!何この達成感!と、とったどー!
 うう…フラン、美鈴、パチェ、咲夜、見てくれてる?私、やったわよ!あの世でも頑張ったわよ!レミリア、あの世でも頑張ってるからー!







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