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No.13774の一覧
[0] うそっこおぜうさま(東方project ちょこっと勘違いモノ)[にゃお](2011/12/04 20:19)
[1] 嘘つき紅魔郷 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:52)
[2] 嘘つき紅魔郷 その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[3] 嘘つき紅魔郷 その三 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[4] 嘘つき紅魔郷 エピローグ (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[5] 嘘つき紅魔郷 裏その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[6] 嘘つき紅魔郷 裏その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:55)
[7] 幕間 その1 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:11)
[8] 嘘つき妖々夢 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:24)
[9] 嘘つき妖々夢 その二[にゃお](2009/11/14 20:19)
[10] 嘘つき妖々夢 その三[にゃお](2009/11/15 17:35)
[11] 嘘つき妖々夢 その四[にゃお](2010/05/05 20:02)
[12] 嘘つき妖々夢 その五[にゃお](2009/11/21 00:15)
[13] 嘘つき妖々夢 その六[にゃお](2009/11/21 00:58)
[14] 嘘つき妖々夢 その七[にゃお](2009/11/22 15:48)
[15] 嘘つき妖々夢 その八[にゃお](2009/11/23 03:39)
[16] 嘘つき妖々夢 その九[にゃお](2009/11/25 03:12)
[17] 嘘つき妖々夢 エピローグ[にゃお](2009/11/29 08:07)
[18] 追想 ~十六夜咲夜~[にゃお](2009/11/29 08:22)
[19] 幕間 その2[にゃお](2009/12/06 05:32)
[20] 嘘つき萃夢想 その一[にゃお](2009/12/06 05:58)
[21] 嘘つき萃夢想 その二[にゃお](2010/02/14 01:21)
[22] 嘘つき萃夢想 その三[にゃお](2009/12/18 02:51)
[23] 嘘つき萃夢想 その四[にゃお](2009/12/27 02:47)
[24] 嘘つき萃夢想 その五[にゃお](2010/01/24 09:32)
[25] 嘘つき萃夢想 その六[にゃお](2010/01/26 01:05)
[26] 嘘つき萃夢想 その七[にゃお](2010/01/26 01:06)
[27] 嘘つき萃夢想 エピローグ[にゃお](2010/03/01 03:17)
[28] 幕間 その3[にゃお](2010/02/14 01:20)
[29] 幕間 その4[にゃお](2010/02/14 01:36)
[30] 追想 ~紅美鈴~[にゃお](2010/05/05 20:03)
[31] 嘘つき永夜抄 その一[にゃお](2010/04/25 11:49)
[32] 嘘つき永夜抄 その二[にゃお](2010/03/09 05:54)
[33] 嘘つき永夜抄 その三[にゃお](2010/05/04 05:34)
[34] 嘘つき永夜抄 その四[にゃお](2010/05/05 20:01)
[35] 嘘つき永夜抄 その五[にゃお](2010/05/05 20:43)
[36] 嘘つき永夜抄 その六[にゃお](2010/09/05 05:17)
[37] 嘘つき永夜抄 その七[にゃお](2010/09/05 05:31)
[38] 追想 ~パチュリー・ノーレッジ~[にゃお](2010/09/10 06:29)
[39] 嘘つき永夜抄 その八[にゃお](2010/10/11 00:05)
[40] 嘘つき永夜抄 その九[にゃお](2010/10/11 00:18)
[41] 嘘つき永夜抄 その十[にゃお](2010/10/12 02:34)
[42] 嘘つき永夜抄 その十一[にゃお](2010/10/17 02:09)
[43] 嘘つき永夜抄 その十二[にゃお](2010/10/24 02:53)
[44] 嘘つき永夜抄 その十三[にゃお](2010/11/01 05:34)
[45] 嘘つき永夜抄 その十四[にゃお](2010/11/07 09:50)
[46] 嘘つき永夜抄 エピローグ[にゃお](2010/11/14 02:57)
[47] 幕間 その5[にゃお](2010/11/14 02:50)
[48] 幕間 その6(文章追加12/11)[にゃお](2010/12/20 00:38)
[49] 幕間 その7[にゃお](2010/12/13 03:42)
[50] 幕間 その8[にゃお](2010/12/23 09:00)
[51] 嘘つき花映塚 その一[にゃお](2010/12/23 09:00)
[52] 嘘つき花映塚 その二[にゃお](2010/12/23 08:57)
[53] 嘘つき花映塚 その三[にゃお](2010/12/25 14:02)
[54] 嘘つき花映塚 その四[にゃお](2010/12/27 03:22)
[55] 嘘つき花映塚 その五[にゃお](2011/01/04 00:45)
[56] 嘘つき花映塚 その六(文章追加 2/13)[にゃお](2011/02/20 04:44)
[57] 追想 ~フランドール・スカーレット~[にゃお](2011/02/13 22:53)
[58] 嘘つき花映塚 その七[にゃお](2011/02/20 04:47)
[59] 嘘つき花映塚 その八[にゃお](2011/02/20 04:53)
[60] 嘘つき花映塚 その九[にゃお](2011/03/08 19:20)
[61] 嘘つき花映塚 その十[にゃお](2011/03/11 02:48)
[62] 嘘つき花映塚 その十一[にゃお](2011/03/21 00:22)
[63] 嘘つき花映塚 その十二[にゃお](2011/03/25 02:11)
[64] 嘘つき花映塚 その十三[にゃお](2012/01/02 23:11)
[65] エピローグ ~うそっこおぜうさま~[にゃお](2012/01/02 23:11)
[66] あとがき[にゃお](2011/03/25 02:23)
[67] 人物紹介とかそういうのを簡単に[にゃお](2011/03/25 02:26)
[68] 後日談 その1 ~紅魔館の新たな一歩~[にゃお](2011/05/29 22:24)
[69] 後日談 その2 ~博麗神社での取り決めごと~[にゃお](2011/06/09 11:51)
[70] 後日談 その3 ~幻想郷縁起~[にゃお](2011/06/11 02:47)
[71] 嘘つき風神録 その一[にゃお](2012/01/02 23:07)
[72] 嘘つき風神録 その二[にゃお](2011/12/04 20:25)
[73] 嘘つき風神録 その三[にゃお](2011/12/12 19:05)
[74] 嘘つき風神録 その四[にゃお](2012/01/02 23:06)
[75] 嘘つき風神録 その五[にゃお](2012/01/02 23:22)
[76] 嘘つき風神録 その六[にゃお](2012/01/03 16:50)
[77] 嘘つき風神録 その七[にゃお](2012/01/05 16:15)
[78] 嘘つき風神録 その八[にゃお](2012/01/08 17:04)
[79] 嘘つき風神録 その九[にゃお](2012/01/22 11:18)
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[13774] 嘘つき永夜抄 その十
Name: にゃお◆9e8cc9a3 ID:dcecb707 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/12 02:34







 ~side 萃香~



 物語もいよいよ最終幕か、なかなかに面白い秋夜だったねえ。
 私は酒を傾けながら、分身の目を通してレミリア達と同じ光景を眺め続ける。
 そんな私の楽しみを共有せんと…違うか、レミリアが心配なだけか。情報を知ろうと、私の隣にいる雲雀の娘…確か藤原妹紅とか言ったっけ。
 妹紅が私に訊ねかけてくる。

「なあ、鬼。その、フランドール…じゃ、ないんだよね。レミリア、だね。あいつ、どうなった?危険な目にあったりとか…」
「してないよ。対峙する輩は全部門番と魔法使い、それにレミリアの妹が全部露払いしてるからね。
しかし、お前も奇特な奴だねえ。会って数時間しか経ってない妖怪の身の心配なんかしちゃってさ」
「…悪い?話した限り、レミリアは悪い奴じゃないからね、そんな知人の心配するくらい当たり前のことじゃない。
その妹は許せないけどさ…大体レミリアもレミリアで、いくら妹を庇う為とはいえ、あんな真似を…」
「笑えるだろ?本当、笑えるくらいにお人好しで人情家でとんでもない大馬鹿野郎さ。私にとって自慢の友人だよ」
「否定はしないね。本当、とんでもない大馬鹿みたいだね。鬼相手にそこまで言わせるなんて、とんでもない大馬鹿で大物だよ」

 妹紅の言葉に気を良くし、私はけらけらと笑いながら、妹紅に『飲むか?』と誘うように瓢箪を差し出す。
 少しばかり迷った後、妹紅は私から瓢箪を受け取り酒を喉に流し込む。おお、なかなか良い飲みっぷりじゃない。
 そういう飲める奴は嫌いじゃないね、そんなことを考えながらも私は思考をレミリア達の方へと切り替える。しかし、レミリアの奴、
異変に参加することを決めたかい。妹を連れ戻すところで終わりかと思っていたけれど、そこから更に踏み込むか。本当、飽きさせないね、レミリアは。
 まあ、正直今宵の黒幕がどんな連中かは興味あるし、私の好奇心を満たすうえでも、レミリアの勇姿を楽しむうえでも私としては
大歓迎な展開だけれど…さて、よくまあ、あの紅魔館の連中がそんな決断をしたもんだ。
 あの連中のことだから、この異変の『ヤバさ』は理解してる筈。そしてこの黒幕が並の実力者じゃ無いことも。
 天を覆う偽りの月、こんな大魔術を行使出来るのは私の知る限り紫クラスだ。そんな輩を前に、あの紅魔館の連中がレミリアを連れだせる訳がない。
 …少なくとも、私はそう考えていたんだけど。どうやら私のとんだ見当違いだったようだね。私としては非常に好ましい変化だ。
 閉じ込めるだけが愛情じゃない。羽を折り、檻に飼うだけが護るということじゃない。レミリアは吸血鬼、我ら鬼の同族。誇りある鬼をそんな
生殺しするような真似だけは認められない。だからこそ、私は連中の決断には大いに賞賛と賛同の意を表したいのだけれど…

「…さて、それは本当に決断かい、フランドール・スカーレット。
勇と信念を持った決断なら、私は何も言わないが、それが迷いによる中途半端な判断なら…レミリアの身を危険に曝すだけだ。
もし自身の考えに迷いが生じただけの選択なら、いっそのこと今宵は何も行動せずに終わった方がよかった。違うかい?」
「…は?いや、いきなり何を訳の分かんないことを」
「ああ、お前じゃない。私が問いかけてるのはお前じゃない。そうは思わないかい?――八雲紫に西行寺幽々子」

 困惑する妹紅の背後、その揺れ動く空間に私は笑って訊ねかける。
 その私の問いに対する答えは肯定の意。捻じ曲げられた空間の隙間から、妖艶に笑う紫と幽々子の姿が見える。

「でも、それは仕方のないこと。何故ならフランドールは孤独だから。
孤独で誰一人の味方も無く、ただ姉の為に走り続けてきた。山の頂上ばかり見続ける少女には、自分の走る道を把握することなど出来はしないわ」
「味方ならいくらでもいるじゃないか。門番に魔法使いに従者に」
「味方であっても、仲間じゃない。家族であっても、同胞じゃない。
いっそのこと、使い魔の一匹でも使役するべきだったわね。今のフランドールは揺らぎ過ぎている。
数百年の芯すら座屈させる程に、揺らぎ移ろい己を見失う。さて、彼女は一体何を焦っているのやら…」
「仕方ないわ、紫。生き急ぎ前だけを向いて走るのは若者の特権だもの。彼女にだって転ぶ権利はあるわ」
「そうかしら…私にはそうは思えないけれど。一度転ぶと全てが終わる、そんな風にフランドールは今を走ってる」

 紫の言葉に、私は肯定も否定もしない。紫はどうやらフランドールの何かを掴んだみたいだけれど、私は奴のことを何も知らない。
 否、知ることもないし、知るつもりもない。紫はやけにフランドールに肩入れしてるみたいだけど、私はアレには微塵も興味がない。
 私が興味を抱くのは今を強く賢明に生きる剛き者。希望の炎を胸に宿し、常に足を進め続ける前進者。
 だから私はフランドールに興味は持てない。少なくとも今のアレは、私には唯の過去に捕らわれた亡霊にしか見えないから。
 そんな紫や幽々子との会話の区切り。今まで口を挟まなかった妹紅が私の肩を叩き、ひそひそと小声で訊ねかける。

「お、おい…えっと、だ、誰?友人か何か?」
「ん、そうだよ。八雲紫に西行寺幽々子、どっちも胡散臭い妖怪と亡霊だから気をつけな」
「あら、失礼ですわね。私は常に清廉潔白、清く正しくを座右の銘としてますのに」
「紫はそういうところが胡散臭いって言われる所以なんだよ。もっと正直に気持ち良く生きられないもんかねえ、なあ幽々子」
「お生憎とこちらは死人なものでして。気持ちよく死なせて頂いてますわ」
「…ああ、なんとなく分かったよ。こいつ等、私駄目だ。なんか多分、間違いなく無理」

 そう言い残し、妹紅は私達から少しだけ距離を取る。まあ、正解だろうね。
 私も二人が強くなかったら最初は話そうとも思わなかっただろうし。多分、近づいてもないね。胡散臭過ぎて。
 軽く息をつき、私は紫達に向き直る。さて、どうしてこいつ等はこんなところに居るのやら。

「私達がここに居るのが不思議、そんな顔をしてるわね、萃香」
「なんだ、分かってるじゃんか。アンタ達が今夜の異変解決に乗り出さないのは正直不思議だね。
特に紫、アンタはどうして動かないんだい?この異変の犯人がアンタにとって実に接触するに値する奴だと知ってるんだろ?」
「ええ、知っているわ。知っているけれど、その存在にこの幻想郷で『私が』気付けなかった。
この世界は私の世界、けれど、私は止まった時間は認識できない。だからこそ、私は後ろに下がった」
「…当て馬か?紅魔館の連中と博麗の巫女達を餌にして、本懐を為すつもりか?」
「否定はしないわ。だけど、それは二割くらいかしら。一番の理由は霊夢達に経験を積ませることね。
これから先、似たようなシチュエーションが訪れたときにいつまでも母親頼りじゃ困るでしょう?歩行器はもう霊夢には不要だわ」
「ハッ、尤もらしいことをベラベラと。結局のところ、どちらに転んでも紫には美味しい話って訳だ。
紅魔館の連中が出し抜いても良し、博麗の巫女達がふんじばっても構わない、二者が敗すれば得られた情報を武器に己が手で片づける。
その結果、どの道を歩もうと、アンタはあの連中に意趣返しが出来るって訳だ」
「そういうこと。こんな私を萃香は軽蔑するかしら?」
「ああ、するね。思いっきりする。だけど、それ以上に好ましくある。
何があろうと決して揺れずに己が欲望を遂行する、それが八雲紫の芯の通ったやり方だ。アンタはそのままが良い」

 私の言葉に、紫はクスクスと微笑み『ありがとう』と感謝の言葉を紡ぐ。礼なんて要らないっていうのに。
 しかし、幽々子の奴もここにいるってことは、どうやら秘蔵っ子だけを派遣したか。あれも中々に筋が良いからね、経験も積ませたくもなるだろう。
 紫と幽々子は私と同じ傍観のスタンスってことか。臨機応変に紫はその後を対応するみたいだけど…いいのかねえ。

「アンタには言うだけ無駄だけど、今夜は正直何が起こっても不思議じゃない。不測の事態だって起こるかもしれないよ?」
「何を今更。世の中に不測以外の事態なんて在りませんわ。不測の事態を適宜捌いてこそ人々の後ろに歴史が出来るのだから。
私の方より貴女は良いの?この不測の事態という魔物こそが他の誰でもなく『レミリア』にとっては危険なのではなくて?」
「それからレミリアを護るのは連中の仕事だろ?私はレミリアが望めば手を貸すけれど、不要に出しゃばるつもりもないし」
「あらあら、冷たいお友達ですこと。それでレミリアが怪我でもしたら後悔するのではなくて?」

 ワザとらしく言ってくる紫と幽々子に、私は面倒臭がりながらも言葉を紡ぐ。
 本当は分かってるくせに、一々言葉に出させようとするこいつ等が本当、苛立たしい。どうせお前達も同じスタンスだろうが。

「――見縊るなよ?私はレミリアを紫と幽々子、アンタ達と同等の『友』として見做してるんだ。
レミリアは強い。そんな強者に子供の手を引くような舐めた扱いをするつもりは無い。私は一人の友として、レミリアの歩む道に手を貸すだけだ」

 私の返答に、紫は満足そうに、幽々子は楽しそうに笑うだけ。本当、ムカつくねこいつ等。なんで私はこんなのと友達なんだか。
 面倒な二人を放置して、私は再び視界を分身の方へと奔らせる。さて、レミリア、今宵もとうとう最終章だ。
 お前の勇、お前の心、お前の意志。その全てを黒幕にぶつけてやりなよ。この私、伊吹萃香に対してそう在り続けたように、ね。





















 デレ期終わるの早っ!めっちゃ早っ!


 …いや、何のことかと問われると、ただ単にフランが私の手を握ってきたってだけの話なんだけど。
 いやいやいや、それってはっきり言って滅茶苦茶凄いことなんじゃない?だってあのフランよ?いつも私のこと馬鹿にして
気持ち悪いとかきしょいとか言い続けてきたあのフランが私の手を握ってきたのよ?あれ、これ奇跡なんじゃない?奇跡って起こっても奇跡っていうの?SP40消費?
 もうすぐ異変の元凶と相まみえるから、正直かなりプルプル震えてた私だったけど、そんな私の手をフランが握ってきて。
 驚くあまりフランに対する反応が遅れちゃって、数秒くらいしてフランの方を見ると、フランは顔をそっぽに背けちゃってて。
 で、廊下が終わるとすぐに手を離して。本当、フラン、どうしちゃったのかしら…私の手を握るなんて、普段のフランからは微塵も考えられない。
 私みたいに異変の犯人が怖いとか、そんなんでフランが震えるタマじゃないし。むしろ嬉々として殺し合いを始めそうなフランがどうして。
 そんなことを悩みながら、私は先ほどまでフランの温もりが分け与えられていた自分の左手をニギニギと開閉する。
 …うん、まあ、悪くなかったかも。正直、嬉しかった。ほら、なんだかんだいって、フランは私の妹だから。
 問題ばかり起こす困ったちゃんだけど、ずっとずっと一緒だった可愛い妹だから。そんな妹に甘えられたのが、嬉しかった。…あ、甘えてくれたのよね?
 まあ、どうせ紅魔館に戻ったらいつものフラン何だろうけれどね。それはそれでいいか。どんなフランでもフランはフランだもん。
 私の大切なたった一人の妹、フランドール・スカーレット。フランがいつまでも一緒なら、私はそれで満足だから。

「…だから、さっさと異変を解決して紅魔館に戻らないとね。
美鈴、パチェ、フラン、準備は良いかしら?この襖の先に、今回の馬鹿げた異変の首謀者がいるわ。覚悟はOK?」

 私の問いに、三人は小さく頷いて肯定を示す。よし、行くわよ。幻想郷の平和の為に、私の日常の為に、この世を乱す悪を討つ!
 …も、勿論フランと美鈴とパチェがね?私?あほたれ!私如きが一体どなた様を倒せるというのよ!私の精神コマンドは激励・祈り・応援・期待・信頼・隠れ身よ!
 そんな訳で私もフル回転でみんなの応援に尽力するとするわ。例え世界がどんな腐敗と自由と暴力の真っただ中な世紀末でも
私が出来ることは唯一つ、人それを他力本願という!フハハー!お前も吾輩の応援対象にしてやろうかー!求められたらチアガールの格好だってするわよ!
 よし、紅魔館に帰ったら本を書こう。題名は『500歳から始めるレミリア式応援法』ね。私、生きて帰ったら印税生活で暮らすんだ…なーんちゃって。

「?どうしたんですか、お嬢様。突然笑い出したりして」
「フフッ、これが笑わずにいられるものか。美鈴、帰ったら一仕事よ。門番の仕事は休みでいいから、私を手伝いなさい」
「ふぇ?あ、はい、喜んで」
「パチェもよ?貴女の知識も必要だからね、期待してるわ」
「はあ…何を思いついたかは知らないけれど、帰ったらね」

 ぬふふ、二人の協力ゲット!これで私は人里界の出版プリンセスになれそうね。
 よし、私の未来の為にも頑張るわよ、フラン!私は気合を入れ直し、フランに笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。

「いくわよ、フラン。さっさと終わらせて、私達の紅魔館(いえ)に帰りましょう」
「…そうだね。うん、終わらせて早く帰ろう、お姉様。全てを終わらせて、みんな一緒に――」

 フランの言葉に力強く頷き、私は意を決して最後の大襖を力いっぱい開く。
 廊下を終えた襖の先に広がっていたのは、広々とした木張り床の一室。どう考えても弾幕勝負に適してる室内と呼びたくも無くなるほどに
広い部屋。そんな一室の中央に佇む一人の女性の姿――どうやらアレが全ての元凶みたいね。ふふ、分かるわ。私の身体に存在する
『パねえっスいやマジで俺無理っスセンサー』、略してパイオセンサーがビンビンに反応するのよ。アレは近寄ってはいけない存在だと!ヤバい化物だと!
 妖力は感じない。けれど、私には分かるのよ!これまで散々不幸な目に会い続けた、そして化物と呼ばれる天蓋の存在を友達に持ち続けてる
私だからこそ感じ取れる!アレは本気でヤバい存在だと!ふふっ…まさかここにきて護身完成とはね…などと悠長なことを言ってる場合じゃない!
 思考しまくってた私を放置し、アレは私達の方へと一歩一歩近づいてくる。それに倣うように、私達も部屋の中央へ足を進めていく。
 そして、中央で互いに距離を取りあったまま、睨み合うように対峙する私達。私達の目の前に対峙する女性…それは美しい銀色の髪を持ち、人のものとは思えぬ美しい美貌を…って、

「――咲夜?」

 気付けば、私は思わず声を漏らしてしまっていた。そんな私の呟きに、少しばかり眉を顰める銀髪の女性。
 また、私の呟きに反応し、私の方を向く三人。あ、やば、空気読めないことした!放置して!私は放置していいから!
 …でも、似てる。私はマジマジとその女性を観察し直すけれど、やっぱり似てる。この人、凄く咲夜に似てる。
 勿論、咲夜の方が幼い感じがするし、髪型とか全然違うし何よりウチの咲夜の方が百万倍可愛いんだけれど(親馬鹿)…それでも、私は
目の前の女性から咲夜のイメージを除外できない。なんでこんなに似てるんだろう…まあ、世の中にはそっくりさんが三人云々いうけれど。
 そんな私はさておき、室内は思いっきり重い沈黙の空気に包まれていて。あれ、誰もしゃべらないの?挨拶って大事だと思うわよ?
 まあ、私は嫌だけど!こんなヤバイオーラビンビンの黒幕に話しかけるのなんて嫌だけど!だから私は他の人の力を借りるのよ。
 よーし、フラン、貴女に決めた!いけっ!フラン、貴女の毒舌で効果は抜群しちゃいなさい!何ならギャラドスでんきで四倍ダメージでも…

「咲夜、とは私のことかしら?可愛い可愛いお嬢さん」
「うぇ!?わ、私!?」

 うおおおい!なんでコッチに話しかけてくるのよ!目の前にフランとか美鈴とかパチェとかいるじゃない!めっちゃいるじゃない!
 くそ、コイツ絶対空気が読めない女ね!流石紫の同類は格が違った!多分コーヒー一杯でマックで粘るタイプの女ね!化粧とか始めたりするのね!
 忌々しく思いつつも、私はこほんと咳払いをして気持ちを切り替え直す。とにかく言葉を返さないと、返事をして得意満面の顔で『ボールはそちらにある』とか
政治的答弁して私から興味を逸らさないと。

「…悪いわね。貴女が私の娘によく似てたから、つい名前を零してしまったわ」
「貴女の娘に…?吸血鬼の娘に似てるだなんて、不思議なこともあるものね」
「一応言っておくけれど、咲夜は人間だからね。私は吸血鬼であってるけれど」
「吸血鬼の娘が人間?私に似ている娘といい、実に興味深いわ。無粋な侵入者でなければ、長話にでも付き合って欲しいところなのだけれど…」
「生憎と私は不躾で歓迎されない侵入者だ。雑談に興じる為にここに来た訳じゃないわ」
「然り。ならば侵入者に対して私は相応の対応を取らなきゃいけないわ。
――永遠亭にようこそ、招かれざるお客様方。この私、八意永琳が誠心誠意真心を持って応対させて頂きます」

 軽く瞳を閉じ、息を吸い直して目を見開く女性――八意永琳とかいう女。それに呼応するように吹き荒れる室内の風。
 あわわわわわ!やややややっぱりヤバい!こいつもヤバい!なんで目を開けたり閉じたりするだけで風が巻き起こるのよ!?
 そんなオサレ能力を持ってる時点でコイツは紫クラス確定だわ!くそ!私が実力者なら『ほう…大した奴だ…』なんて言ってやるのに!
 慌てて美鈴の後ろに隠れる私とは対照的に、一歩前に踏み込むのはフラン。ああ、格好良い、格好良いわフラン。貴女やっぱり英雄よ。勇者よ。

「…一応聞いておくわ。今宵の偽りの月、その犯人はお前で間違いないわね?」
「ええ、相違ないわ。そして、その邪魔をする為に夜を止めていたのは貴女達かしら?」
「私達『も』だよ。生憎とお前が考える程この幻想郷は甘くはないからね。
好き勝手に振舞おうとするお前達に業を煮やした数人が全員同時に夜を止めている。下手をすれば術者全員を倒すまで朝はこない」
「不要な心配をありがとう。けれど、その対策は既に在る。後は時間の経過を待つだけなのだけれど…当然退くつもりはないのでしょう?」
「当たり前だ。この幻想郷で随分と好き勝ってしてくれたんだ。私達妖怪の月を奪った罪、そう簡単に赦されると思うなよ?」
「これは異なことを。月は貴女達妖怪のモノでもなんでもない…月は唯無慈悲に万物を照らす宝玉、それが誰かの手に渡ることなど決してない」

 そこまで告げ、八意永琳は宙に浮かびながら少し後方へ下がる。そして取りだしたるは巨大な長弓。
 …うわ、何あれ、滅茶苦茶格好良い。あんなスラッとした細腕で大きな弓を扱うとか素敵過ぎる。…って、そんな呑気なことを言ってる場合じゃない!
 八意永琳の手にはいつの間にか携えられた光の矢が完全セット。めっちゃ狙ってる!フランの方をめっちゃ狙ってる。ヤバいって!あれ絶対ヤバいって!
 でも、フランの奴全然動じてないし、美鈴達も少しもビビる素振り見せないし…みんな男前過ぎるでしょう?もう本当、嫁に貰ってほしい。どうしてみんな女なのよ、畜生。
 弓矢を見ても動じない私達(あ、私は除外して。私めっちゃ動じてるから)に、八意永琳は最後通牒とばかりに口を開く。

「最後に訊ねさせて貰うわ。貴女達、本当に退くつもりはないのね?」
「当たり前だ。ここでお前を潰さずして帰れるものか」
「…朝になれば満月は元に戻すと言っても?偽りの月は今宵限りと言っても?」
「その言葉の真偽を誰が決める?そんな問答はもう良いだろう?私達はお前を倒すわ。
ああ、言っておくけれど…弾幕勝負、などと温いことを言ってくれるなよ?私達はもうお前達の無意味な時間稼ぎに付き合う義理は無いからね」
「…そう。ならば最早問答は不要ね。今宵のこの場は弾幕勝負ではなく殺し合い。
そして貴女達は私の言葉に耳を貸すつもりもない…ならば、私は相応に振舞うだけよ。お前達がそのつもりなら――私は姫の為にどこまでも冷酷でいられるわ」

 言葉を切り、八意永琳が瞳を閉じて術式を展開し始める。
 それはこれからこの場で殺し合いが始まる証。フランが前に出て、パチェと美鈴は下がり、私を護る陣形になっている。
 あとはフランと八意永琳のバトルを見守るだけ…そう考え、もっと後ろに下がろうとした私だけれど、その行動に移ることは出来なかった。







 ――身体が、跳ねた。

 ――駄目だ、と。このままではいけない、と。
 ――このままでは間違いなく失ってしまう。

 ――このままでは、大切なモノをまた失ってしまう。



 ――このままでは、また、私は――








 気付けば、私はその場から全力で翔け出していた。萃香の分身の力を借りず、自分に出来る精一杯の飛翔を持って。
 そんな私に最初に気付いたのは美鈴。次にパチェ。でも、遅い。私の飛翔は二人には止められない。
 何故、そうしたのかは分からない。何故、そのように思い至ったのかは分からない。
 だけど、身体が勝手に動いてしまう。まるで運命に導かれるように…いいえ、運命を阻害するように。
 ただ一心に私は翔ける。翔ける。翔ける。翔ける。翔ける。翔ける。
 もっと早く、もっと早く、もっと、もっともっともっともっともっともっともっと――!!
 それは私の永きに渡る生涯においても一番の速度で。ただがむしゃらに、ただ真っ直ぐに、私は翔ける。
 そうして目的の人物の背中まで辿り着き、私はブレーキをかけることなくその人物の背中を強く弾き飛ばす。

「――え」

 その人物――フランは突然の衝撃に、状況を把握出来ないままに『部屋の中央』から弾き飛ぶ。
 そして、フランの代わりに部屋の中央へは私の身体が。フランが床に転ぶと同時に八意永琳は呪文詠唱を終わるが、もう遅い。
 八意永琳の術式を紡ぎ終えると同時に、私の周囲を囲むように光の奔流が室内を奔っていく。そして床に描かれるは巨大かつ何解な魔法陣。
 私の半径一メートルを完全に外界から遮断するような光の陣。その陣の中央に佇む私。
 そんな私を呆然と見詰める三人の瞳と、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる八意永琳。
 そこまで把握し…私は軽く息を吸い、思わず絶叫してしまった。それはもう、カリスマもくそも取り繕うことも出来ずに全力で。

「うおおおおおおおおおおおい!!!!?私は一体何を暴走してくれちゃってるのよおおおおおおおおお!!!!!!!」

 思わず頭を抱え、その場にへたり込んでしまう自分。馬鹿馬鹿馬鹿!私の馬鹿!あんぽんたん!幼児体型!幼児体型は関係ないでしょ!?
 もうここまでくれば、一体これが何なのかくらい分かる。この魔法陣は明らかに八意永琳の仕掛けたトラップ。そして、そのトラップに
見事に引っかかってくれちゃってる私。いやいやいや!何!何なの私!何故!?どうして!?WHY!?
 自分の行動を振り返ってみれば、本当に馬鹿丸出しで。八意永琳とフランのガチバトルを離れて観戦しようとした刹那、突然身体中に
嫌な予感が激走して…うん、その正体はもう分かる。多分『コレ』だ。この魔法陣に私は気付いたんだ。
 …いや、なんで気付けるのよ私。魔法のスペシャリストのパチェも戦闘のプロのフランや美鈴も気付けなかった魔法陣に、どうして私なんかが
気付けちゃったりするのよ…意味分かんない。いや、もういい。気付けたのはもういい。危険察知能力(笑)とか運命把握能力(爆笑)とか
そんなの持ってるとは思わないけど…とにかく気付けた、それはそれでいい。
 でも、私はどうしてよりによって『私』が『フラン』を庇ってるのよ!?なんで『最弱』が『最強』を庇ってるのよ!?
 こんなの逆にみんなの良い迷惑じゃない!私が捕らわれてたら、みんな面倒事が増えて逆にやりにくくなって…いや、そもそもこれ捕縛魔法?
 下手をすれば殺傷魔法とか…ひ、ひいいい!!やっぱり強くて頑丈な美鈴辺りに役目を代わって貰えば良かったあああ!!!
 でもでも、みんなは私を強いと勘違いしてる訳だから、そんなお願い届く訳もなくって…そこまで考えたとき、私を囲む魔法の光に変化が
生じ、私の身体に異変が生じていることに気付く。
 …あー、そういうこと。うん、本当、最低最悪だ。あの、本当、ドン引かないで聞いてほしいんだけど、その…ね?


 …私、もう既に足首から先がありません。本当に何もないんですけど。


 本当、綺麗さっぱりない。ていうか、現在進行形で、足からどんどん魔法が浸食して分解されていっちゃってる。
 まるで砂で出来た城がサラサラと風に溶けていくように、私の身体がどんどん消えちゃってる。オーノー…などと言ってる場合ではない!
 あわわわわわわ!!ヤバい!ヤバいって!死んじゃう!これ本当に冗談抜きで死んじゃう!助けて!美鈴!パチェ!フラン!僕の地球を護って!
 泣き喚きそうになりながら、私は結界の外を眺めるも、そこには想像を絶する光景が。


 …フラン、泣いてる。
 泣きながら、必死に私を取り囲む魔法光の壁を叩いてる。

 …美鈴が何か叫んでる。目を見開かせて、必死に必死に何かを。
 …パチェが珍しく取り乱してる。クールビューティーが売りの、あのパチェが。


 その光景を見て、私は否が応でも悟ってしまった。完全に理解してしまった。
 こんな必死なみんなを見て。こんな絶望の色に染まってるみんなの顔を見て。







 …そっか。そうなんだ。
 私は――レミリア・スカーレットは、もうここで終わりなんだ。







 そこを理解してしまえば、後は早くて。私は大きく息を吐き、全身の力を失ってしまう。
 そうか、私、死んじゃうんだ。まあ、当たり前と言えば当たり前よね。
 もう私は膝から下がないんだもん。これで生きられるって方がおかしい。そんなこと、絶対にありえない。
 自分の死に直面して、私は予想外に動じていない自分自身に気付く。昔から死ぬことに散々怯えてきた私だけど、まさか
こんな結末だなんて思わなかったものね。だからかな、きっとただ単に自分自身の死をまだ理解しきれていいないだけなのかもしれない。
 うん、だったらそれでいいかも。変に把握して、みっともなく泣き叫ぶより、落ち着いたまま死んだ方が在る意味綺麗かも。
 …そんな風に死ねば、少しくらいみんなも安心できるしね。私は安らかに逝くことが出来たって。

 自身の身体が腰の部分まで消えている点に気付き、私は慌てて立ちあがる。足も無いのに立ちあがれる、本当、魔法って不思議よね。
 正直、言いたいことは山ほどある。何で私が、とか。どうして私がここで、とか。言い始めればきっと情けない台詞のオンパレードで霧が無い。
 だけど、そんな弱い私は最後の最後まで押し殺して。私は最後の奉公と、頭を切り替え直して喝を入れ直す。

 だって、私にはまだ役割が残されてるから。
 他のみんなにお別れは言えないけれど、友達にはお別れできないけれど。
 でも、今私の目の前には三人がいる。

 数百年も私に付き従ってくれた、美鈴が。
 初めての私の友達で、ずっと仲良くしてくれた、パチェが。
 幼い頃から今この時まで、傍にいてくれた、フランが。

 咲夜が居ないのは本当に残念。咲夜にも、愛する娘にも沢山沢山言いたいことは沢山あるけれど。
 でも、こればかりは仕方ないこと。逆に良かったのかもしれない。
 咲夜はあれで私にべったりだから、私の死に目になってあうと心が折れちゃうかもしれない。だから、逆に幸運に思おう。
 私は紅魔館の主。私はみんなのご主人様。だから、最後の仕事だけはしないとね。本当、らしくないけれど。

 私は美鈴の方を向き、頑張って笑顔を作る。
 美鈴は目に涙を溜めて必死に声を出してるけれど、私に美鈴の声は届かない。
 魔法陣が音を封鎖しているのか、私がもう音を感じ取れていないだけなのか。
 もし、前者だったら私の言葉は美鈴に届かないかもしれない。だけど、後者である可能性を…
美鈴に私の最後の言葉が届くことを信じて、私は言葉を紡ぐ。

「美鈴…これまで永きに渡る時間、よく私に付き従い尽くしてくれたわ。
貴女は一人ぼっちだった私を救ってくれた。貴女がいたから私は一人じゃなかった。
だから美鈴…今まで本当にありがとう。貴女は私の誇りだわ。貴女という従者がいたこと、私は絶対に忘れない」

 紅魔館の中、ひとりぼっちで過ごし続けた私に手を差し伸べてくれた美鈴。
 暗き館の中、私なんかの為に話し相手になってくれた美鈴。どんなときでも私の味方だった美鈴。
 ありがとう。本当に心からの感謝を。大好きな貴女が居たから、私は紅魔館の主として頑張れたんだから。

「パチェ…私の唯一無二の心友として、共に在り続けてくれてありがとう。
どんなときでも優しくて…ううん、ときどき意地悪だったりするけれど、そんなパチェが私は大好きだった。
本当はもう少し一緒に馬鹿に付き合って欲しかったけれど…ごめんね。こんな勝手ばかりな友達で、本当にごめんなさい」

 私に初めて友達というものを教えてくれたのは、他ならぬパチェだった。
 私がどんなに振り回しても、どんなに馬鹿な行動をしても、パチェはいつだって嫌な顔一つせずに付き合ってくれた。
 きっと、生まれ変わっても私は貴女以上の友達なんて出来ないと思う。だからパチェ、来世でもまた友達として会いましょう。約束だからね。

 二人に言葉を紡ぎ終え、私はゆっくりとフランの方へと顔を向ける。
 そこにいたフランは、これまで私が紅魔館で接し続けてきたフランとは全くの別人で。
 今、私の目の前に居るフランは傲慢さも冷血さも吸血鬼としての存在感も無い。
 ただ、泣いている。幼子が親を求めるように、夜に怯えるように、必死に声をあげて泣いている。
 それはどこまでも臆病な姿。それはどこまでも弱さをさらけ出した姿。でも、私はその姿に驚いたりしない。
 だって、私は理解したから。今のフランは、きっと本当のフラン。私の知る、本当のフランなんだ。
 泣き虫で、臆病で、怖がりで、私がいないと一人で夜も眠れなかった、私の可愛いフラン。
 そう、私はいつだってフランの傍に居たんだ。フランの泣き顔を、フランの悲しむ顔を見たくないから。
 ただ、笑っていてほしかった。そうだ、私はフランに笑っていて欲しかったんだ。
 フランが幸せになれますように。フランが笑って過ごせますように。それが私の願い。それが私の夢。
 それが今も昔も何一つ代わることのない――私、レミリア・スカーレットの夢だったんだ。

 夢。絶対譲れない夢。
 夢だから護らないと。大切なモノだから、決して諦めちゃ駄目だから。
 だから私は笑う。フランにも笑っていて欲しいから。だから笑う。フランが安心できるように。フランがゆっくり眠れるように。

「フラン…私の可愛いフラン。お願いだから泣かないで。私はフランの笑顔が大好きだから。
お姉様は先にさよならしてしまうことになっちゃったけど…でも、大丈夫。貴女はもう一人じゃないわ。
あの時とは違って、美鈴も、パチェも、咲夜もいる。貴女は一人じゃないから…お姉様がいなくても、貴女は大丈夫だから」

 私の言葉、それはもしかしたら届かないかもしれない言葉。だけど、私は必死で紡ぐ。
 私の身体はもう胸元まで消えてしまっている。私に残された時間は少ない。だから、最後の最後まで言葉を押し出し続ける。
 だって、フランは泣き虫だから。フランは本当に泣き虫で…そして、世界中で誰よりも優しい女の子だから。
 私の死で心が潰れない為に、フランが明日から頑張って前を向いて歩いていく為に、だからお願い。フラン、悲しまないで。

「ねえ、フラン…お願いだから、笑っていて。貴女が笑ってくれたら、私は安心できるから。
どんな状況でもフランが笑顔なら、きっと世界は幸せになる筈よ。フランの笑顔は魔法の力が込められてるの。貴女の笑顔でみんなが幸せになるわ。
そう…お父様も、お母様も、館のみんなも、みんなみんな貴女の笑顔が好きだから。ね?だから、フラン――」

 私が口に出来たのはそこまで。だけど、それで十分。
 フランが、最後に笑ってくれたから。昔のような無邪気でお日様のような笑顔じゃなくて、涙塗れの笑顔だったけど、フランは笑ってくれた。
 うん――頑張ったね、フラン。貴女は優しい娘だから、きっときっと私のことで沈んでしまうんだと思う。
 でも、悲しまないで。怨まないで。憎まないで。難しいかもしれないけれど、どんなときでも笑っていて。
 笑っていれば、貴女を中心に沢山の人と笑い合っていれば、きっとこの傷も癒える日が来る筈だから。だからお願い――フラン、私の可愛いフラン。









 どうか――どうかその笑顔を忘れないで。


 貴女の未来は、貴女の道は――きっと、貴女の優しい笑顔と共に、温かい幸せに満ち溢れている筈だから。































 室内を包む光が消え去ったとき、場は完全な静寂に包まれていた。
 否、強制的に包まされたといっても過言ではない。何故ならこの場の誰一人として心に空いた風穴の為に口を開くことが出来ないから。


 それは喪失。己が命よりも大切な人を失ったが故の絶望。
 それは失態。どうして大切な人を助けられなかったのかという自責。

 彼女達は立ちあがれない。彼女達は膝をつくしかできない。
 何故なら彼女達は失ってしまったから。王を奪われ、駒達は行動など出来はしない。何故ならそれがルール。
 彼女達の生きる意味は、彼女達の存在は、全ては一人の少女の為にあったのだから。
 止まらない。絶望が、悲しみが、涙が。けれど、それを糧に立ちあがることすら出来ない。
 そんな少女達に鞭打つように、この空間の支配者はゆっくりと言葉を紡ぐ。

「そう…あの娘が、貴女達にとっての『姫』だったの。人数を省く予定が、まさかチェックメイトになるなんて…分からないものね。
何はともあれ、これで試合終了よ。心折れた者に手出しはしないわ。疾くこの場から去りなさい」

 それは無慈悲な通告。それはどこまでも無感情な言葉。
 恐らく、それを耳にしても常人は立ち上がれなかっただろう。何故なら心はそんな簡単なモノではないから。
 割り切れない。最愛の人を失った悲しみは割り切れない。叱咤されても、暴言を吐かれても、心が揺り動くのは更に先のこと。


 けれど、それは常人の話。
 『最悪なことに』、彼女達は違った。並の人間も、並の妖怪をも超越した彼女達。
 それは誰にとって幸運なのか。それは誰にとって不幸なのか。
 少女達の瞳に光が宿る。けれど、それは決して明るい瞳などではない。前を向く光などではない。
 ただただ絶望の湖を黒色で塗り染めただけ。いうなればそれは人形。いうなればそれは傀儡。
 彼女達は糸で踊る唯の人形。その糸を操るは復讐心や反逆心などといった生温いモノなどではなかった。


 彼女達を操るモノ――それは殺意。
 どこまでも純粋に、純粋に黒色を重ね合わせた底の見えない殺意。それが少女達の身体を突き動かす。







 少女は咆哮した。涙は枯れ果てる程に流してなお、彼女は泣き叫ぶ。
 彼女の愛する人は言ってくれた。私の為に生き、私の為に全てを差し出し、そして私の為に笑いなさい、と。
 それは遠い過去の誓約。その誓約を少女は遵守し続けた。愛する主と共に生きる為に、愛する主の傍に寄り添う為に。
 けれど、今、その愛する主人はもういない。彼女の生きる意味は何処にも存在しない。
 殺戮機械は生きる意味を得、そして再び失った。そんな少女に残されたモノなど何があるだろう?
 ない。なにもない。何故なら彼女にとって愛する主が全てだったから。主がいたから、彼女の世界に初めて色が灯ったのだ。
 ない。なにもない。最早彼女に生きる意味などありはしない。生きる意味を失った少女はこの世に存在する理由が無い。
 ――否。在った。一つだけ、たった一つだけ。存在する。
 愛する主を、自分の全てを奪ったモノ。それが今、目の前に居る。
 主を殺したモノが、この世にまだ存在している。何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
 要らない。主を殺したモノは、この世に必要無い。奪う。消す。それが自然。それが当然。
 なればこそ、彼女は躊躇しない。数百年の時を経て、殺戮機械は殺戮機械へ。この世の全てに絶望し、彼女は真なる姿を晒す。
 その姿は彼女が憎み続けた姿。人間にも化物にも属することが出来なかった呪われし己が血筋。
 だけど、もうそんなことに彼女は悩まない。アレを殺す為なら、彼女はどんな手段だって用いてみせる。仕えるモノはなんだって使う。

 強大な咆哮とともに現れた一匹の紅竜。神性を持つ龍ではなく、獣に特化した竜。それは彼女が半端者である証。
 理性を失い、愛する者を失い、紅竜は悲しみと憤怒の感情に咆哮する。優しく微笑む紅美鈴――もう彼女が笑うことは、ない。








 少女は壊れてしまった。彼女特有の冷静な思考回路は最早判断の一つすら下せない。
 智慧も、経験も、含蓄も。その何もかもを少女は投げ捨てた。だって使えないから。壊れた人形にそれは使えないから。
 人形。それは彼女が最も忌み嫌う言葉。だけど、今の少女の姿はまさしく人形だった。
 愛する友を。心友を。唯一無二の大好きな人を失ってしまった少女は、最早自身の意志で立つことすら叶わない。
 だってそれは仕方のないこと。彼女を人形から解き放ってくれた少女が、もうこの世には存在しないから。
 愛する友の為に、愛する心友の為に自ら手繰り糸を引き千切ったというのに、今もうその友は何処にもいない。
 滑稽だ。ああ、実に滑稽だ。ならばこの身は一体何の意味が在る?どうしてこの身が存在する必要がある?
 大好きな友の為に、未来の為に、様々な策を弄した。様々な姦計を施した。なのに、このざま。なのに、この結果。
 結局、自分の行ったことは、友を殺しただけ。友を失う未来につなげただけ。全ての結果が、コレだ。
 最愛の父を手にかけ、そこまでした勝ち取った未来がこの結果だったのだ。
 その現実は少女には辛過ぎた。だからこそ少女はもう動けない。瞳に未来を映すない。
 瞳に未来を映せないなら、マリオネットの生涯はそこでお終い。後に残されたのは、舞台用具の片づけだけ。
 故に、少女は行動する。人形として最後の仕事、舞台用具の片づけを。大切な親友を奪ってくれた邪魔な道具の片づけを。

 強力な魔力の塊である七色の石を纏い、少女は力を暴走させる。その力は稀代の魔法使い、実に三人分という国を一つ滅ぼせる程の力。
 けれど、その力を使うことに少女は躊躇しない。何故なら人形は判断など下さないから。判断など下せないから。
 自身で判断を下さない人形に、友と道を共にすることなど出来はしない。
 友の傍で幸せの道を歩み続けたパチュリー・ノーレッジ――彼女が自身の足を進めることは、二度とない。











 少女は失った。この世で何よりも大切だった、この世で誰よりも強く護りたいと願ったモノを、少女は失ってしまった。
 全てを犠牲にした。全てを捨てた。全てを賭した。全てを諦めた。けれど、少女は失った。
 少女は破れた。少女が幼き頃に立てた誓い、そのたった一つのことすら護れなかった。
 今度は私の番だと。全てを犠牲にして自分を助けてくれた人を、今度は私が護るのだと。
 どんなに蔑まれてもいい。どんなに嫌われてもいい。自分がどんな目にあっても、絶対に護ると誓った筈だったのに。
 許せなかった。自身が。何も出来なかった無力な自分が。
 幼い頃、少女は無力だった。無力故に、最愛の人は自分の犠牲となった。
 それは時間が経った今でも何一つ変わらなかった。護りたいと思ったモノを、今もこうして失ってしまった。
 全ては己が無力故に。全ては己が浅慮故に。
 自分のせい。自分のせい。大切な人が死んだのは、何もかも自分のせい。
 けれど、何より許せないのは、最愛の人が最後の最後まで自分の心配をしていたこと。
 声は届いていた。だからこそ、少女は全身を悲しみに捕らわれる。
 最後の最後まで愛する人は、死にゆく自身のことではなく少女のことを心配していた。
 笑っていて欲しいと。幸せであってほしいと。そんな馬鹿なことを望みながら、最愛の人は消えてしまった。
 最後まで少女を庇って、それでも最愛の人は笑っていた。感謝していた。
 それが少女には何より自分を責め立てる。自分がいなければ。自分なんて最初からいなければ、こんな結果になんてならなかった。
 自分が下らない計画なんて立てなければ。自分が紅魔館で父を殺さなければ。
 自分が最愛の人と接触しなければ。否…問題は原初、最初から自分なんてこの世に存在しなければよかったのだ。
 そうすれば、すべてが上手くいった。そうすれば、あの人は死ななかった。死なずに済んだ筈だ。

 殺意。少女を包むは殺意。拒絶。全ての拒絶。
 嫌い。嫌い。嫌い。全て嫌い。愛する人を殺した自分。愛する人の未来を許さない世界。愛する人がいない未来。
 そんなもの要らない。そんなものなんて必要ない。だから壊す。全部壊す。何もかも塵一つ残さない。
 心も、身体も、思い出も、今も、過去も、未来も。何もかも壊す。全てを壊し尽して、私も壊す。
 抑えつけた狂気の解放。長年積み重ねられた封印、その果てに込められた憎悪の想いは如何程のものなのか。
 少女は全てを解き放つ。狂気を抑えつけてくれていた最愛の人の力も、身体の限界も、何もかもを解放し、少女は真の姿を現す。
 それは四枚羽の堕天使。彼女特有の虹色の羽の上に生えるは、彼女の最愛の人と同じ漆黒の蝙蝠翼。
 少女の左手に握られしは、全てを断罪する深紅の神槍。少女の右手に握られしは、全てを焼き尽くす深焔の魔剣。
 全てを滅ぼし尽す力を持って、少女は口元を歪めて言葉を紡ぐ。それはきっと、少女にとって別れの言葉。



「――ごめんなさい。おねえさま、ごめんなさい。おねえさま…おねえさま…おねえさま…」



 流れる涙は止まらない。紡がれる謝罪の言葉も終わらない。嗚咽を零しながら、少女は別れを告げた。
 彼女の最愛の人――誰よりも臆病で、誰よりも優しかった愛しき姉に。そして、最愛の姉の愛した、この温かな世界に。









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