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No.13774の一覧
[0] うそっこおぜうさま(東方project ちょこっと勘違いモノ)[にゃお](2011/12/04 20:19)
[1] 嘘つき紅魔郷 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:52)
[2] 嘘つき紅魔郷 その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[3] 嘘つき紅魔郷 その三 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[4] 嘘つき紅魔郷 エピローグ (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[5] 嘘つき紅魔郷 裏その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[6] 嘘つき紅魔郷 裏その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:55)
[7] 幕間 その1 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:11)
[8] 嘘つき妖々夢 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:24)
[9] 嘘つき妖々夢 その二[にゃお](2009/11/14 20:19)
[10] 嘘つき妖々夢 その三[にゃお](2009/11/15 17:35)
[11] 嘘つき妖々夢 その四[にゃお](2010/05/05 20:02)
[12] 嘘つき妖々夢 その五[にゃお](2009/11/21 00:15)
[13] 嘘つき妖々夢 その六[にゃお](2009/11/21 00:58)
[14] 嘘つき妖々夢 その七[にゃお](2009/11/22 15:48)
[15] 嘘つき妖々夢 その八[にゃお](2009/11/23 03:39)
[16] 嘘つき妖々夢 その九[にゃお](2009/11/25 03:12)
[17] 嘘つき妖々夢 エピローグ[にゃお](2009/11/29 08:07)
[18] 追想 ~十六夜咲夜~[にゃお](2009/11/29 08:22)
[19] 幕間 その2[にゃお](2009/12/06 05:32)
[20] 嘘つき萃夢想 その一[にゃお](2009/12/06 05:58)
[21] 嘘つき萃夢想 その二[にゃお](2010/02/14 01:21)
[22] 嘘つき萃夢想 その三[にゃお](2009/12/18 02:51)
[23] 嘘つき萃夢想 その四[にゃお](2009/12/27 02:47)
[24] 嘘つき萃夢想 その五[にゃお](2010/01/24 09:32)
[25] 嘘つき萃夢想 その六[にゃお](2010/01/26 01:05)
[26] 嘘つき萃夢想 その七[にゃお](2010/01/26 01:06)
[27] 嘘つき萃夢想 エピローグ[にゃお](2010/03/01 03:17)
[28] 幕間 その3[にゃお](2010/02/14 01:20)
[29] 幕間 その4[にゃお](2010/02/14 01:36)
[30] 追想 ~紅美鈴~[にゃお](2010/05/05 20:03)
[31] 嘘つき永夜抄 その一[にゃお](2010/04/25 11:49)
[32] 嘘つき永夜抄 その二[にゃお](2010/03/09 05:54)
[33] 嘘つき永夜抄 その三[にゃお](2010/05/04 05:34)
[34] 嘘つき永夜抄 その四[にゃお](2010/05/05 20:01)
[35] 嘘つき永夜抄 その五[にゃお](2010/05/05 20:43)
[36] 嘘つき永夜抄 その六[にゃお](2010/09/05 05:17)
[37] 嘘つき永夜抄 その七[にゃお](2010/09/05 05:31)
[38] 追想 ~パチュリー・ノーレッジ~[にゃお](2010/09/10 06:29)
[39] 嘘つき永夜抄 その八[にゃお](2010/10/11 00:05)
[40] 嘘つき永夜抄 その九[にゃお](2010/10/11 00:18)
[41] 嘘つき永夜抄 その十[にゃお](2010/10/12 02:34)
[42] 嘘つき永夜抄 その十一[にゃお](2010/10/17 02:09)
[43] 嘘つき永夜抄 その十二[にゃお](2010/10/24 02:53)
[44] 嘘つき永夜抄 その十三[にゃお](2010/11/01 05:34)
[45] 嘘つき永夜抄 その十四[にゃお](2010/11/07 09:50)
[46] 嘘つき永夜抄 エピローグ[にゃお](2010/11/14 02:57)
[47] 幕間 その5[にゃお](2010/11/14 02:50)
[48] 幕間 その6(文章追加12/11)[にゃお](2010/12/20 00:38)
[49] 幕間 その7[にゃお](2010/12/13 03:42)
[50] 幕間 その8[にゃお](2010/12/23 09:00)
[51] 嘘つき花映塚 その一[にゃお](2010/12/23 09:00)
[52] 嘘つき花映塚 その二[にゃお](2010/12/23 08:57)
[53] 嘘つき花映塚 その三[にゃお](2010/12/25 14:02)
[54] 嘘つき花映塚 その四[にゃお](2010/12/27 03:22)
[55] 嘘つき花映塚 その五[にゃお](2011/01/04 00:45)
[56] 嘘つき花映塚 その六(文章追加 2/13)[にゃお](2011/02/20 04:44)
[57] 追想 ~フランドール・スカーレット~[にゃお](2011/02/13 22:53)
[58] 嘘つき花映塚 その七[にゃお](2011/02/20 04:47)
[59] 嘘つき花映塚 その八[にゃお](2011/02/20 04:53)
[60] 嘘つき花映塚 その九[にゃお](2011/03/08 19:20)
[61] 嘘つき花映塚 その十[にゃお](2011/03/11 02:48)
[62] 嘘つき花映塚 その十一[にゃお](2011/03/21 00:22)
[63] 嘘つき花映塚 その十二[にゃお](2011/03/25 02:11)
[64] 嘘つき花映塚 その十三[にゃお](2012/01/02 23:11)
[65] エピローグ ~うそっこおぜうさま~[にゃお](2012/01/02 23:11)
[66] あとがき[にゃお](2011/03/25 02:23)
[67] 人物紹介とかそういうのを簡単に[にゃお](2011/03/25 02:26)
[68] 後日談 その1 ~紅魔館の新たな一歩~[にゃお](2011/05/29 22:24)
[69] 後日談 その2 ~博麗神社での取り決めごと~[にゃお](2011/06/09 11:51)
[70] 後日談 その3 ~幻想郷縁起~[にゃお](2011/06/11 02:47)
[71] 嘘つき風神録 その一[にゃお](2012/01/02 23:07)
[72] 嘘つき風神録 その二[にゃお](2011/12/04 20:25)
[73] 嘘つき風神録 その三[にゃお](2011/12/12 19:05)
[74] 嘘つき風神録 その四[にゃお](2012/01/02 23:06)
[75] 嘘つき風神録 その五[にゃお](2012/01/02 23:22)
[76] 嘘つき風神録 その六[にゃお](2012/01/03 16:50)
[77] 嘘つき風神録 その七[にゃお](2012/01/05 16:15)
[78] 嘘つき風神録 その八[にゃお](2012/01/08 17:04)
[79] 嘘つき風神録 その九[にゃお](2012/01/22 11:18)
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[13774] 嘘つき永夜抄 その八
Name: にゃお◆9e8cc9a3 ID:dcecb707 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/11 00:05






 ~side てゐ~



「月の光に導かれ~な~んども~巡り会う~…っと、おおう、そっちにゃその記号は要らないよ」

 気分良く鼻歌の一つを歌いながら、私は兎達に指示を出し、大広間の床に魔法円を描き続ける。
 お師匠様から頼まれた仕事を、私は文句の一つも言わずに淡々とこなし続ける。普段なら愚痴の一つや二つどころか仕事すら
ボイコットしただろうけれど、今日ばかりは手を抜いたりしない。何故なら今宵は特別な一夜、月の光に酔ったお客様を誠心誠意真心込めて
お出迎えしてあげなくちゃいけない。そんな面白おかしいイベントに手なんか抜ける筈もない。私は常に面白いコトの味方なのだから。

「一つ描いては姫の為、二つ描いてはお師匠様の為、三つ描いては鈴仙の…まあ、鈴仙はどうでもいいや。三つ描いては自分の為~」
「…どうでもいいって何よどうでもいいって」
「だって鈴仙、そういうの嫌いでしょ?鈴仙はそういうの、重荷に感じるタイプだし」

 背後からかけられた誰かの声にも私が驚くことはない。
 なんせ、その人物が私の後ろで延々と頭を悩ませていたのは彼是三十分は経つのだから。突然現れたならともかく、背後でウンウンうなり続けていた
声が途切れたらその人物――鈴仙・優曇華院・イナバが行う行動は私に話しかけるくらいしかない。
だから私、因幡てゐが鈴仙の声に驚くことなど決してありはしないのだ。私の返答に、鈴仙は肯定も否定もせず大きく息を吐くだけ。

「そんなに頭を悩ませることかなあ。鈴仙もただお師匠様に言われた通りに淡々と自分の仕事をこなせばいいんだよ。
何も考えることなく、ただ事務的に遂行する。私なんかよりも鈴仙はよっぽど得意じゃない、そういうのは」
「てゐに言われなくても分かってるわよ。侵入者の足止め…師匠に言われたことは全力で遂行に当たるわ。
ただ…ただ、ね。兎達の報告を聞く限り、相手は相当の実力者揃い何でしょ?」
「もちのろんろん、ありゃあヤバいね、ヤバ過ぎるね。
侵入者は四人だけど、三人がヤバいくらいの力を放って兎や妖精達を捻じ伏せちゃってる。ありゃきっと幻想郷でも指折りの妖怪達だよ。
うち一人は高見の見物を決め込んでるみたいだけど、恐らくそいつはリーダーで一番強いんでしょ。力を隠してるだけだと思う。
う~ん、そう考えると鈴仙の役割は大変だねえ。なんていうか、ご愁傷さま?骨は拾ってあげるから安心してね」

 私の軽口にも、鈴仙は少し睨みを利かせるだけで反論をしようとはしない。
 ありゃあ、こりゃ本当に拙いかも。考えの深みに陥っちゃってるね。相手は化け物揃い、その足止めを任された、だから自分が頑張らないといけない、
なんてそんな風に思いつめてるんだろうけれど…本当に鈴仙は真面目過ぎて駄目だね。頭が堅物過ぎるとこ、嫌いじゃないんだけど今はちょっと拙い。
 軽く肩を竦め、私は床に魔法円を描く為に動かし続けていた手を止め、鈴仙の方へと向き直す。全くもう、こういうフォローはお師匠様の仕事だって
いうのにさ。こういうときだけ私に面倒な仕事を押し付けられるのは困るよね、本当に。

「ねえ鈴仙、先に言っておくけどさ、鈴仙じゃどんなに頑張っても『鈴仙の思い描く勝利条件』には辿り着けないよ」
「…どういう意味よ」
「どういう意味もこういう意味も。鈴仙は今、こう思ってるでしょ?
『師匠に侵入者を食い止めるように命令されたけど、相手は化け物揃い、それも四人も相手なんて私で勝てるのか。否、間違いなく勝てない。
四人を相手にどうやって戦う?狂気の瞳と私の力でどれだけ保つ?良くて五分、最悪一分も…勝てなくてもいい、一秒でも足掻いて敵を…』ってね」

 質問に対する返答はない。それは言葉無くして肯定を意味するも同じ。
 そんな生真面目鈴仙に、私は人差指を立て、チッチッチッと三度左右に触れさせて再度言葉を紡ぎ直す。

「それが駄目駄目なんだよねえ。鈴仙、お師匠様の伝えたいことを何も理解出来てない。これじゃお仕事全然達成出来ないでしょ」
「普段仕事をサボりまくってるのが偉そうに…それで、私が分かってないってどういうことよ」
「じゃあ訊くけどさ。お師匠様は鈴仙に『侵入者を撃退しろ』とか『鈴仙が倒せ』とか『一人で勝利を勝ち取れ』とか言った?
鈴仙に対して『貴女の任務の目的は貴女の実力を持って撃ち滅ぼすことだ』とか言ったかなあ?違うよね?
お師匠様が鈴仙に命令したことは唯一つだけ。『可能な限り侵入者の足止め』をすることでしょ」

 そこまで言って、鈴仙はようやく私の言いたかったことに気付いたのか、驚くような表情を浮かべて目を見開いた。
 その顔に満足し、私はふふんと一笑、再び床に膝をついて魔法円を描く作業に移る。

「鈴仙は妖怪兎の中でも特別だよ。地上の兎の中でも群を抜いて…違うね、玉兎を含んでもなお抜きん出て強く優秀な兎だもん。
特別な力を有すると人も妖怪も時折錯覚を起しちゃう。一の仕事を自分なら五出来ると、五の仕事を一人でこなせる筈だと勘違いしちゃう。
でもね、そこは絶対に履き違えちゃ駄目だよ。私達は逆さになっても鬼には打ち勝てないし天狗のように羽ばたけない。けれどそれは決して恥ずかしいことじゃない。
私達は兎。どこまでいっても唯の兎なんだよ。だったら考えないと。狡賢く狡猾に、どうすれば驕り高ぶる悪鬼達から私達だけの勝利を掴みとれるのかをね。
自身の限界を知っている。自身の弱さを知っている。それは鬼にも天狗にも持ち得ない私達だけの立派な『武器』なんだから」
「てゐ…貴女」
「…なんてねっ。今のは全部お師匠様の受け売りだよもん。私が他人に偉そうに何かを語れる薀蓄なんて持ってる訳ないし。
まあ、結局何が言いたいのかっていうと、鈴仙は真面目過ぎるから適当に力抜いて適当にサボればいいんだよ。
私が鈴仙の立場だったらお師匠様の命令なんて全部投げ出して逃げ出すけどね。誰が自分より強い妖怪達と対峙なんかするもんかって」
「もう…少し見直したと思ったら。ふふっ、でも、そうね。少し力を抜いて考えてみる。
そうよね…打ち倒すことが私の勝利条件じゃないわ。私が勝つべき道は、勝ちうる為の道は、もっと別の場所に在る」
「そーそー、その調子その調子。…おおう、それはみ出しちゃ拙いって!私がお師匠様に怒られちゃうじゃない!」

 話に夢中になっていた間に、兎達が私の指示を失いおろおろと適当に魔法円を描いていたことに気付き、私は慌てて指示を出し直す。
 そんな私を見て先ほどとは打って変わって柔らかく笑う鈴仙。ん、もう安心だね。兎はストレスに弱いんだから、精神安定くらい自分で
出来るようにならないとねえ。もっと楽しくもっと可笑しく好き勝手に生きないと。それが兎の生涯ってもんでしょ?

「それで、魔法円の完成には後どれくらい時間を稼げばいいの?」
「ん~…三十分、といいたいところだけど、お師匠様の手による最後の仕上げも必要だから四十分は欲しいかな。
このえげつない術式を発動させるにゃ、私だけじゃ手に負えないからね」
「仕方ないわよ。師匠曰く、これが時間稼ぎの最大の切り札になるんでしょ?だったら頑張らないと」
「ん~、そだね。あ、兎からの報告なんだけど、もうすぐ侵入者達が永遠回廊突破しそうだって。
本当、よくやるよね。このままじゃ、十分経たずにこの部屋まで来ちゃいそう」
「来ないわよ。ええ、来るとしたら、そのときは既に時遅し、よ。
だってこの部屋に来る為には最後の難関――この私、鈴仙・優曇華院・イナバを突破しないといけないんだもの」

 軽口を叩いて笑う鈴仙に、私は笑って拳を差し出す。
 どうやら私の意図を理解したようで、鈴仙もまた拳を突き出し、私の拳にコツンと小さく押し当てる。

「良い格好は要らないよ、鈴仙。私達は兎、私達は弱者、私達は狩られる者。それさえ知っていれば、私達は誰よりも強い」
「ええ、解ってる。私達は私達らしく姫様の為に――どこまでも狡賢く、どこまでも計算高く勝利を掴みとってみせるわ」
「…とかなんとか口では言いながら、最後の最後で格好付けようとするのが鈴仙なのでした」
「しないってば!それじゃ、行ってくるから。それと、もし私がやられちゃったら、姫を…」
「死亡フラグ禁止ー。ほらほら、無駄口叩いてる暇ないんじゃないのー?」
「そ、そうだった!とにかく頑張ってくる!」

 慌てて走り去る鈴仙の背中を眺めながら、私は満足してうんうんと頷く。
 やっぱり鈴仙はああでなくちゃ。『勝つ』とか『倒す』とかじゃなくて『頑張る』がいい。鈴仙は頑張ることだけ考えればいい。鈴仙は納得しないだろうけど。
 そーんな母性溢れる考えを私は一秒で破棄し、さっさと自分のお仕事に戻る。私は何より自分主義、自分が楽しければそれでいい。
 鈴仙が無理をして無駄な怪我をするのは面白くない。鈴仙が見ず知らずの妖怪にボッコボコにされるのは面白くない。
 だから私は『一番楽しい』を実現させるために行動する。ただそれだけ。つまらなき世を面白おかしく、それが私のモットーだから。
 自分の面白さを何より優先する、それが私の生き方。その為には鈴仙にだってお師匠様にだって平気で嘘もつく。だってそれが私。因幡の白兎の生き方。
 常に自分本位、常に己が身可愛さ、それが私。だからこそ、私は自分の面白さの為にどんなことでもやってのける。


「――ねえ、イナバ。この退屈なお祭りを更に盛り上げる為、私に協力なさい。無論、永琳には内密でね」


 おもしろき こともなき世に おもしろく すみなすものは心なりけり
 世界はいつだって自分色。だからこそ私は物事が面白くなる為には、どんな助力だって惜しまない。
 私の知る限り世界で一番のお姫様。そんな姫の命令は、きっと私の世界を更に面白く塗り替えてくれるだろうから。
























 私にはあるのよ!この幻想郷で唯一人、弾幕の中でボーっと突っ立つ権利がね!…んなもん欲しくないわよ、畜生。

 軽くため息をつき、私は左に視線を送る。そこには弾幕を展開して妖精達を追い払う美鈴の姿。
 その姿を見届けた後、視線を右に。そこには弾幕をばら撒いて妖怪兎を逃げ惑わせるパチェの姿。
 そして、私の正面には、私の姿をしたフランが容赦ない弾幕で私達の道を塞ぐ全てのモノを無慈悲に薙ぎ払ってる。ラピュタの雷?
 もうなんていうか右も左も前も全部弾幕。本気で殺しにかかってる弾幕。三人がかりで弾幕。その中心でボーっと突っ立つ私。
 なんだろう…みんな私を護ってくれて大変嬉しいんだけど、なんていうか、その、凄く私駄目駄目過ぎる。
 他のみんなは頑張ってるのに、私は見てるだけ。…いや、何も出来ないのよ?私じゃ何の力にもなれないことくらい分かってるのよ?
 だって私弾幕出せないし、そもそも一人で空飛べないから敵の攻撃避けられないし…でも、だからといってこれは…い、いかんですよ!
 このままじゃ私は誰もが認めるマダオ(まるで駄目な乙女)じゃない!フランの力になる為に同行してるのに、私完全に役立たずじゃない!
 くぅ…分かっていた、分かっていたのよ。私がこのメンツでは明らかに戦力外通告なことくらい。ラスボスの前だと瞳に封じられ戦闘にすら
参加出来ないレベルだってことくらい。例えるならフランがダイでパチェがポップで美鈴がヒムね。私?私は…アバンにもラーハルトにもなれない
蓮っ葉なチウなのよ…同じチウなら長谷川千雨になりたかった…私もアイドルとしてバーチャルでうっはうはに…

「ふう、これで一通りは片付きましたかね」
「これで終わり?あと三倍は来てくれないと肩慣らしにもならないわ。ですわよね、お姉様?」
「へ?あ、そ、そうね。やっぱり肩は消耗品だものね!大事にしないといけないわ」
「温存するのはレミィだけでいいわ。もし私達の誰にも手に負えない奴が現れたら、そのときがレミィの出番だから」
「う…ま、まあ、そのときが本当に楽しみよ!あは、あははは…」

 パチェの一言に、私は乾いた笑みを零すことしか出来ない。そんな出番要らないから!必要ないから!
 美鈴もパチェもフランでさえも勝てない相手とか無理ゲーにも程があるわよ!そんな相手に私が出来ることなんて土下座以外何があるというの!
 大体勇者であるフランが負けちゃったら私達はその時点でゲームオーバー、館に戻るしか出来ないの。私はあれよ、馬車の馬くらいに思って頂戴。
 この異変を解決するという気高き想いを胸に宿したフラン…ああ、フラン、貴女はお姉様の誇りよ。本当に素敵過ぎる。貴女の雄姿、しっかりと
両目に焼き付けるから。頑張って応援するから。だから負けないで、もう少し最後まで走り抜けて。アツクナラナイデ、マケルワ!
 …まあ、いざとなったら一人別行動してる咲夜が助けを呼んでくれると信じましょう。みんながやられたら…そのときは私も必死で頑張るわ!死んだふりを!
 と、とりあえず私の出来ることはみんなを鼓舞することだけ!コホンと咳払いを一つ、私はみんなに声をかける。

「ま、私の出番は期待しないでおくわ。どうせ出番なんてないでしょうから」
「へえ…そうレミィが考える根拠は?」
「簡単よ。私の誇る紅魔館の楯(美鈴)に頭脳(パチェ)、そして私の最愛の剣(フラン)が揃っているんだ。こちらに負けなど存在しないよ。
ましてや私達とは別に私の懐刀(咲夜)が動いてくれている。紅魔館の皆が揃っているんだ、私達に敗北など存在しない。違うかしら?」
「フフッ、お嬢様の仰るとおりですね。お嬢様が私達を信じて下さるならば、私達に負けなど存在しません」
「本当、調子の良い…確かにその通りなんだけどね。残念だけど、お姉様の出番は一切無し。お姉様はただ黙って見てるだけでいいの」

 フランのぶっきらぼうな言葉も今の私には最高の言葉に聞こえるわ。ありがとう、フラン。お姉様、安全な場所でただ黙って見てるから。
 指咥えて見てるだけにするから。だから絶対に巻き込まないでね!いい!?絶対だからね!?約束したかんね!?
 私は言質を取ったことに『計画通り』と頬を緩ませながら、みんなの後に続くように飛行を続ける(続けてるのは勿論ちび萃香)。
 そんな中、永い廊下が終わり、開いた大きな広間に出る。…というか、さっきからずっと思ってたんだけど、この屋敷おかしい。絶対おかしい。
 外見は幽々子の家とあんまり変わらないのに、どうしてこんなに馬鹿みたいに広いのよ。さっきまで飛んでた廊下は横幅二十メートル、高さは三十メートルは
あろうかってくらい広かったし、この広間は縦横高さ四十メートルくらいある。何このフィールド、サイキッカー達が戦うの?咲夜がウォンなの?
 幻覚なのかはたまた魔法的な何かなのか…うー、そういう面に関して知識ゼロの私じゃ分かんない。多分フラン達は何が起きてるのか
把握してるんでしょうけれど、訊くに訊けないし…まあいいか。私は思考を元に戻すと、三人が何か話してた。

「誘ってるのかしら。どうするの?」
「私はどちらでも。お任せします」
「フン…小兎が生意気に。下りるよ、兎如きに馬鹿にされては吸血鬼の名が泣くもの」

 何か少し会話して、みんな床に向かって高度を落としてる。え、ちょ、待てよ!待ちなさいよ!ちび萃香追っかけてー!
 三人に少し遅れて、私は床…というか畳に足をつける。両足を支えてくれていた二匹のちび萃香は私のスカートの中に隠れたみたい。なんでまたそんなとこに。
 地に足をつけて、前を見ると、そこにはフラン達以外の見慣れぬ女の子の姿が。どちら様?え、ていうか何この空気、何で私を睨んでるの?
 …もしかして、このウサ耳少女は私達の敵?目的だったラスボス?異変の主?ちょ、ちょちょちょ!待って!本当に待って!
 拙いって!もしそうだったら拙いって!今の登場の仕方じゃ、まるで私がみんなのボスみたいじゃない!一人遅れてゆっくり降り立つなんて…や、闇に舞い降りた天才!倍プッシュだ!
 ボスは私じゃなくてフラン!この異変を解決するのはフランだから!そう念を込めて私はフランをじっと見つめる。そんな私の意図を理解したのか、
フランは私からウサ耳少女に視線を送ってゆっくりと言葉を紡ぐ。

「さて、逃げ惑う兎の中に立ち向かう兎が一羽。その酔狂な愚行の意図を訊こうか?」

 …おーまいが。フラン、貴女が素直になれないトゥーシャイシャイガールだってことは理解してるけど、初対面の相手にそれはちょっと。
 ほら、相手は確かに黒幕の気配濃厚、濃厚なんだけど…か、勘違いの可能性もあるっていうか、もっと温和に進めてもいいんじゃないかなって
お姉様は思ったりしなかったり…ね?その証拠にウサ耳ちゃんも怯えて…

「貴女はこの連中のトップなの?」
「は?」
「もしトップじゃないなら黙ってて。私は三下に用はないわ。
私が話すは貴女達の頂点に立ち、この永遠亭に土足で足を踏み入れようなんて考えた馬鹿の親玉だけ」
「…っ、言ったな、畜生如きが」

 お、怯えてないし!というかフラン相手に言い返したわよこの娘!?な、なんという恐れ知らない戦士のように振舞うしかないアンインストール。
 おでれえた。おでれえた。この娘、凄く勇気がある。私じゃフラン相手(しかも不機嫌)にそんなこと言えない。絶対言えない。
 そんな私に共感してるのか、美鈴もパチェも目を丸くさせて驚いてる。そりゃそうよ、誰だってフランみたいな妖気爆発させてる奴相手にそんな
喧嘩腰でいられる訳がない。ましてやこの娘のように相応の実力を持ってるような人程。しかし三下ね…フランが三下なら私は何下かしら。八下?十二下?

「…いいわ、その身、骨一つ残さず焼き殺してあげる。今晩は兎の丸焼き、食いでがあまりなさそうだけど」
「私は黙れと言ったわ。お前は唯一つ、お前がこの中で一番の妖怪かどうかを答えればいいのよ。
さあ答えなさい!それともお前が畜生と詰る相手に返す言葉もないの?私の言葉を聞き入れる智慧も存在しないのかしら?
…ハッ、一体どっちが畜生なんだか分かったものじゃないわね。さあ、答えなさい。お前がこの妖怪達の頂点に立つ、そう考えていいのね!?」

 断固たる意思を持って言い放つウサ耳少女。か、格好良い…なんて意思の強い女の子なのかしら。今どきこんな若者がいたなんてお姉さん驚きだ。
 まあ、この娘がどうしてそんな質問をしてるのかサッパリサッパリだけど…一番ね、間違いなくフランでしょ。一番強いし。二番が美鈴かな。
 そんなことを考えながらフランをぼーっと見てると、フランは兎ちゃんから目を逸らし、何故か私の方へ視線移動。…え?
 じっと見つめるフランの視線に耐えかね、私は美鈴の方に視線を向けると、美鈴もまた私を見て…あれえ?
 堪らずパチェの方に視線を…さも当然のように私を見てる。それはつまりあれ?私がこの中でトップだと?…なん…だと…?
 いや!ちょっと待って!お願いだから待って!確かに、確かにそうよ!?紅魔館では私、レミリア・スカーレットが主よ!?一番よ!?でも
この異変解決を目指す勇者はフランでしょ!?なのになんで私を見て…そこまで考え、私は今の自分の姿を振り返る。
 今の私は金色の髪に紅の服。…そうだ、今の私はレミリアではなくフランの格好をしてるんだった。つまるところ私がフラン。
 …ジーザス。そういうこと。つまるところ、あれなのよ。フランが異変解決しようとする場合、フランの名を残す為には私がフランだと
偽らなきゃいけないのよ。フランを立てつつ、他のみんなに異変を解決してもらう、それが私の任務。…フランの馬鹿あああ!よ、余計なことしてええ!!
 くう…今更だけど、これじゃ私が前に出るしかないじゃない。みんなの上に立つって言わなきゃいけないじゃない。で、でも大丈夫!
別に兎ちゃんと話すだけだから!戦う訳じゃないから!だから私がフランですって名乗り出て、適当にお茶を濁して終わろう、うん。
 軽く咳払いを一つし、私は笑みを無理矢理作り、皆の前にでてウサ耳少女と対峙する。そして高らかに名乗りを一つ。

「――フランドール。フランドール・スカーレット、それがこの娘達の頂点に立つ私の名前。
さて、そんな私を指名する貴女の名前は?この私を要望するんだ、それくらいの礼儀は持ち合わせていよう?」
「っ…鈴仙。鈴仙・優曇華院・イナバ。それが私の名前」
「鈴仙…そう、良い名ね。勇敢で、私達を相手に逃げる素振りすら見せやしない。敬意を表するに値するわ」
「…それが唯の強がりで、本当は今すぐにでもここから逃げ出したいって言ったら、貴女は私を軽蔑するかしら?」
「真逆。もしそれが本当ならば、私はお前の名を生涯胸に刻むでしょうね。
恐怖を押し殺し、決して勝てぬ悪鬼達に勇を振り絞り立ち向かう。それは何と誇り高く、気高く、美しき姿か。尊敬するよ、鈴仙・優曇華院・イナバ」

 私の軽口に、少女――鈴仙は少し驚いた様子を見せた後、笑みを零す。なんだ、張り詰めた表情以外も出来るのね。
 まあ、私の言ってることはデタラメ並べまくりだけど、尊敬するっていうのは本当。だって私なら逃げる。間違いなく逃げる。
 美鈴とパチェとフラン相手に対峙するとか罰ゲームにしても酷過ぎる。私がそんな目にあったら二度と自分の部屋から出てこなくなる自信があるわ。
 そんなことを考える私に、鈴仙は感情のギアを入れ直し、真剣な表情を私に向けて言葉を紡ぐ。

「フランドール…貴女達がここまで来た目的、それは今更訊ねるまでもない」
「ええ、知ってるなら話が早いわね。真実の月を取り返す、それが私達の目的よ」
「…そう。ならば私は貴女達の前に立ち塞がらなければいけない。貴女達をこれ以上先に通す訳にはいかないの」
「でしょうね。だけど、それは私達とて同じこと。私達は立ち止まれないわ。貴女の口ぶりから察するに、私達の到達点は間違いなくこの先にある」
「そう、私は譲れない」
「ええ、私も譲れない」

 だから、気は進まないけれど、フラン達にお願いして貴女を軽く優しく傷が残らないくらいに気絶させて…そんな風に考えていたら、
目の前の鈴仙からとんでもない提案が飛んできた。それは私にとって間違いなく最悪の提案。

「だから私は提案するわ。この異変を解決しに来た貴女達…その実力者達の頂点に立つ貴女に」
「提案?」
「そう…私が塞がるか貴女が進むか、その未来を賭けて正々堂々一対一で弾幕勝負をすることをね」

 …弾幕勝負。その言葉を耳にした刹那、私の目の前が真っ暗になった。あれ、手持ちのポケモンがもういない…なんて言ってる場合ではない!
 ちょ、ちょっと待て!よりによって弾幕勝負て!何を言ってるのよこの娘は!正々堂々もくそもあるか!私は弾幕一つ放てないのよ!?
 それのどこがフェアーな提案なのよ畜生!図ったな赤兎!目が赤いのは通常の三倍なの!?馬鹿なの!?兎は寂しいと死んじゃうの!?寂海王なの!?
 と、とにかく拙い!それは拙い!拙過ぎる!そんなん私絶対負けるやん!くそ、何とか口先で上手く路線変更を…

「その姿を見る限り、貴女は吸血鬼…さっきも言ったけれど、その誰もが高い力を感じさせる連中の頂点に立つ実力者。
そして、話してみた限り、貴女はそこの吸血鬼よりも冷静で知的、そして私を観察する眼力も持ってる。他人をも容認する器も持ってる。
そのような誇り高く、そして己が力に自信を持つ吸血鬼なら私如き小兎の挑戦、断る筈がないわよね。
貴女にとっては落ちているお金を拾うようなものでしょう?一人の力で私を弾幕勝負、お遊びで捻じ伏せれば、すぐに道は開けるのだから」

 に、逃げ道塞いでくるんじゃねえー!!何この狡猾兎!あれよあれよと私の逃げ場をおじゃまぷよの如く塞いでるじゃないのよ!?
 ここで『戦いたくねえー!死にたくないー!』なんて言えば私兎から逃げた脆弱吸血鬼のレッテル貼られるじゃない!いや、貼られるなら
まだしも私の真実(実は最弱)がフラン達にばれたりしたら…あ、あわわわわわ…つ、詰む!私の人生が詰んじゃうから!
 考えろ、何か手は、何か手は…そんなとき、横からパチェが私達の会話に口を挟む。

「…貴女、何か勘違いしてるんじゃないの?提案とは対等の条件を持って成り立つものよ?
私達がどうして圧倒的不利な立場にある貴女の言うことを訊かなきゃいけないの?私達がその気になれば
四人がかりで貴女一人その場で始末できるということを忘れてるの?」
「出来るものならやってみなさいよ。吸血鬼の誇りがそれを許すのならね」
「私は勘違いするなと言ったわ。吸血鬼の誇りが何?二人が否定しても、私か美鈴が無理を通して捻じ伏せればそれで解決よ。
二人には悪いけれど、私は全てにおいて効率を優先する。二人には後で謝罪するとして…お前を潰して長話は終わりにしていいかしら」
「主の意向を無視だなんてウチでは考えられないわ…でも、それでも貴女達は私の条件を飲まざるを得ないわ。
何故なら貴女達は私に従うしか道は残されていないのだから」

 パチェのナイスアシストは鈴仙の狡猾な作戦によって弾かれる。言葉を告げ終えると、鈴仙はパチンと軽く指を鳴らし部屋に音を響かせる。
 すると、室内の入り口と出口に在った筈の扉が消え失せ、始めから存在しなかったように世界へ溶け込んだ。ちょ、おま、出口っ!
 驚く私達に、鈴仙は笑みを浮かべながら最後要求を突き付ける。こここ、この女狐!じゃなくて女兎!

「この仕掛けは私の師匠独自の技術によるもの。私の同意なくして扉を開くことは叶わない。私が扉を開くときは、私が弾幕勝負で負けたときだけ。
他の蒙昧の雑音は聞き飽きたわ。さて、答えを聞かせて貰えるかしら、フランドール。何度も言うけれど、貴女にとって何ひとつ不利は存在しない。
私と一対一で弾幕勝負をしてもらえるかしら?それとも、力づくで私を殺し、一生この閉ざされた世界で過ごしてみる?」

 妖艶に笑う鈴仙。むぐう、うぐぐ…ぐうううう!やばい、チェック入ってる。完全に王手だこれ。
 返答を待つ鈴仙。答えに困る私。見守るみんな。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。弾幕勝負だけは嫌だ。どうにか、どうにかして何か何か何か…

「さあ、答えてフランドール・スカーレット!貴女の答えを!私と決闘を行うか否か!!」

 私の答え、私の答え…う、ううううー!!うー!うー!うー!
 私の答えなんて最初から一つしかないわよどちくしょーーーーーー!!!!!!













 ~side 鈴仙~



「決闘は――断る!!」

 フランドールの言葉に、私は驚きも無く受け入れる。
 そうだろう。先程話した時から、薄々とは感じ取っていた。この吸血鬼、フランドールには私の突こうとした欠点が存在しないことを。
 
「私は誇り高き吸血鬼ではない。矜持やプライドなどというものとは無関係の位置にいるわ。私は、幻想郷の妖怪達の命を背負っているの。
 軽々しく決闘などで、幻想郷に住まう人妖の運命を決定することなど、断じてできない!」

 そう、この吸血鬼は強者が持つ驕りや誇りといった余計な荷物を何一つ背負わない。
 だからこそ、決闘などという方法を取り、己が勝ちの道を一毛たりとも可能性を失そうなどとは思わない。
 目的の為ならば、彼女は自身の在り方をも否定する。強者であることも忘れ、否、最初から存在していないように振舞い行動に移す。
 そうでなければ、私のような兎相手に耳を貸そうなんてしない。そうでなければ、私の名を訊ねたりしない。

 …そうでなければ、私のような妖怪兎を誇りに思うだなんて、絶対に考えたりしない。

 彼女の言う幻想郷に住まう人妖の命とやらの意味するところは分からないけれど、彼女は譲れない大切なモノの為にこの場に立っているんだろう。
 だからこそ、彼女は最善を尽くす。私を倒す為には、何が起こるか分からない弾幕勝負ではなく実戦で。そして、一人ではなく多対一で。
 そして何より重要なことに――彼女は私が空手の鉄砲だと気づいている。私の全てがブラフで塗り固められていることに。
 室内を閉ざした術も唯の巧妙な幻術の一種で。私の意思とは関係なく、私の力が尽きれば扉は現れることにも気づいている。
 …悔しいけど、完敗ね。てゐの言う通り、色々と策を弄してみたけれど、稼げた時間は会話分だけか。残念を思う反面、少し喜ぶ自分もいる。
 吸血鬼という強大な存在で在りながら、敵である私にも敬意を払ってくれる器の大きな人に出会えたこと。それが少しだけ、嬉しかった。

「…成程。正しい選択ね。私のような付け焼刃のペテン師じゃ押し通せない、か」

 軽く笑い、私は人差指をゆっくりとフランドールの方に突き出す。
 私の時間稼ぎの作戦――弾幕勝負による時間の引き延ばしは瓦解する。
 四対一という不利を覆し、うまく時間を稼ぐために私の考えた作戦は見事に塵と化し、残される道は一対四の一方的な暴力だけ。
 小さく息をつき、私は意識を切り替える。戦いは嫌。戦争は嫌。だけど、姫様や師匠を後ろにして逃げるのは絶対に嫌。逃げるのは一度だけで十分だから。
 勝負…にもならない。だけど、私はあきらめない。弱者は弱者らしく、足掻いてみせる。嫌らしく狡猾に、格好悪くても役割は果たしてみせる。
 勝とうとは思わない。撃ち貫けるとは思わない。けれど、私の目的は果たさせて貰う。私の役割は唯一つ、姫様の為に少しでも多くの時間を稼ぐこと。
 そうすれば後は師匠が…てゐが、頑張ってくれるから。だからフランドール、私は負けない。貴女が相手でも、決して負けない。
 次に誰かが動けば皆が動く。そう認識し息を殺し合った刹那、フランドールが言葉を紡いだ。それは私が予想だにしていなかった言葉。

「そう、私一人で運命を決定など出来はしない…けれど、私はそれを理由にして鈴仙の誇りを踏み躙ることも良しとしない」
「え…」
「私達を前にして一度とて背を向けず、勇を持って相対したその姿、私は心から敬意を表したい。
強きに立ち向かうこと、それは誰もが可能性を抱きながら、誰もが出来る行動じゃない。そう私は先日、大切な友から教えられた。
勇気は心の強さ。勇気は真なる強さ。鈴仙、自分を卑下するな。お前は強者だ。身体ではない、種族ではない、その心の在り方こそ強者なんだ」
「…違うわ。私はただの臆病者よ。戦場で泣き喚き、逃げ惑うことだけしか出来ない一匹の臆病な兎、それが私」
「…それは私も同じだよ。私も同じ…同じなんだ。けれど、私はお前のように全てを一戦に賭す勇が無い。上に立つ私は、お前の提案を飲めない。
だからこそ、私もお前に提案する。鈴仙は私と一対一で対峙することを望んだが、私もまた一つの案を提案させて貰うわ。
私は自分に全ての運命を委ねられない。私は自分を信頼しない。けれど、私は自分の家族を心から信頼しているの――美鈴、パチェ」

 フランドールの言葉に反応し、彼女の後ろに待機していた二人が私の前に現れる。
 その二人の女性に、フランドールは笑みを零しながら、優しく言葉を紡ぎ直す。

「改めて二人を紹介するわ。
紅美鈴…私の誇る最強にして、過去に一度とて貫かれたことのない完全なる重楯。
パチュリー・ノーレッジ…私の最愛の友にして、唯の一度も知識にて後塵を拝したことのない玉冠。
私の自慢のこの二人――弾幕勝負にて見事に凌いでみせたなら、私は貴女の条件を飲みましょう」

 その提案に私は驚き言葉を失う。馬鹿な、どうして。そんな提案、フランドールに利することなんて何一つ存在しないのに。
 訳が分からないという表情の私から別の感情を読み取ったのか、フランドールは少し申し訳なさそうな表情を浮かべ、ゆっくりと口を開く。

「…ごめんなさい、鈴仙。卑怯だとは分かっている。けれど、これが私に出来る最大の譲歩なの。
私は戦えない…万が一にも私はここで倒れる訳にはいかないの。だから有利な立場を利用して貴女にそれを押し付ける。
レミリアを戦わせないこと…それが貴女に対するギリギリの分水嶺。だから…」
「…馬鹿ね、フランドール。貴女は何も謝る必要なんてないのに」

 心から申し訳なさそうに謝る少女に、私は呆れるように微笑み言葉をかける。
 そうだ。この少女のどこに謝る必要がある。この少女はただ尊重してくれただけなのだ。私の誇りを、心を、在り方を。
 だからこそ、四人で総掛りなどではなく、実力者ではあるものの二人相手にしてくれた。それが私の光を追える最小限の可能性だから。
 四人なら無理でも、二人なら可能性はある。そこから私が光を見いだせれば、勝機はある。そんな地点を、少女は選んでくれたのだから。
 強者の驕りでもお遊びでもなんでもなく、私一人の為に不要な配慮を行う。本当、呆れてしまう。だから、思わず言葉を零してしまった。

「フランドール、貴女、あまり人の上に立つのは似合わないわね」
「耳が痛いわね…でも、事実だわ。だから私に部下なんて必要ない。私に必要なのは家族だけ…それだけあれば他に何も要らないわ」
「…甘いね。本当、甘い。だけど、その甘さは私、嫌いじゃない。
感謝するわ、フランドール。でも、私だって簡単には負けないわ。譲ってもらった好機、絶対に活かしてみせる」
「頑張りなさい。私も二人を信じてるから。…言っておくけれど、美鈴もパチェも強いわよ。私の美鈴とパチェは、絶対に誰にも負けないんだから」

 フランドールの言葉に笑って頷き、私は相対する二人に対峙する。
 彼女の言葉通り、二人ともやはり並の妖怪以上の力を全身に纏っている。普通の殺し合いならおそらく勝負にならない状況だ。
 でも、今は殺し合いなんかじゃない。ルールがあり、勝ち負けがつくゲームの中だ。ならば私にも勝機はある。
 それに、負けてしまってもそれはそれで構わない。どちらに転んでも、私は『本当の勝利』を勝ち取ることが出来たのだから。
 弾幕勝負に持ち込み、泥仕合に縺れ込ませ、必死に時間を稼ぐこと。それが私の狙い。叶わないと思われたその狙いは、一人の少女の
『甘さ』によって得ることが出来た。だから私は感謝する。吸血鬼でありながら甘さの抜けきれない少女の在り方に。






 ねえ、てゐ。私はこれで良かったんだよね。本当に良かったんだよね。
 姫様の為に、師匠の為に、狡猾に立ち回って、他人の善意を、甘さを利用して…これが私達の本当の強さなんだよね?
 だったら、フランドールの教えてくれた私の心の強さって何なのかな…今の私は、その強さを誇っていいのかな。
 私の勇気。ちっぽけな勇気。強者に対しても決して負けない、背を向けない、逃げ出さない、私が求めていた本当の勇気。


 本当は今私が何をすべきか分かってる。姫様の為に、師匠の為に、弾幕勝負で私は正面から向き合わずに逃げ回ればいい。
 だけど、てゐ。それって本当の勇気なのかな。そんな姿をフランドールは認めてくれるのかな。
 そんな私の姿を見ても、フランドールは私に勇気ある者だって言ってくれるのかな。フランドールが全てを賭して信頼する二人を相手にして…


「…な訳、ないよね。そんな訳、あるもんか」


 私は拳を強く握り直し、覚悟を決めて二人に狂気の瞳を解放する。
 逃げ回るのが正解だと知っている。時間を稼ぐのが正しいと分かってる。だけど、そうじゃない。そうじゃない。
 私が今為すべきことはそんなことじゃない。私が真に胸を張って今を生きる為にすべきことはそんなことなんかじゃない。

「――っ!パチュリー様、きますよ!!」
「ええ…不規則な弾幕、構成、危険ね。この娘、かなりの実力者よ」

 そう、私は今を強く在りたい。フランドールに、この二人に報いる為に。
 私は勝つ。てゐ、ごめんなさい。私はやっぱり勝ちたい。心からこの二人に、フランドールに勝ちたい。
 勝利を手にして、胸を張りたいの。『みたか』って。『これが貴女達が認めてくれた鈴仙・優曇華院・イナバなんだ』って。
 てゐの言ってることが正しいことなんだって分かってる。てゐの言葉が本当なんだって分かってる。
 でも、それでも一度だけ。この一度だけは踏み出させて。こんなちっぽけな私を勇者と呼んでくれた人に報いる為に。
 臆病者で、裏切り者で、戦場で逃げ出した私にも、こんな私にもまだ誇れるものがあるのなら。
 だから私はもう迷わない。今は姫様も、師匠も忘れて、ただ眼前の好敵手達の為に。そして――






「月の兎の罠は決して抜けられない――今宵は狂夜、全てを捉える私の目に狂い惑いなさい!」






 ――私の想いを護ってくれた、フランドールの為に。この弾幕勝負(ゲーム)、絶対に勝ってみせる!



















「な、なしてこげなことに…」

 始まった弾幕勝負を見上げながら、私は一人呟く。
 なんとか私(無力雑魚)との勝負を避けて美鈴とパチェと戦わせる方向にもっていったんだけど…なんで対等の勝負しちゃってるの?
 あ、あんの嘘つき兎!どこが弱いのよ!自分は臆病だ、よ!滅茶苦茶強いじゃない!あの二人相手に弾幕ごっこであそこまで
立ちまわれるとか聞いてないわよ!?二対一に流れで持っていって勝確定とか思ってた過去の自分をぶん殴りたい…やっぱりフランも参戦させるべきだったかも…

「フン…必死ね」
「ひ、必死じゃないわよ!私は冷静よ」
「お姉様のことじゃなくてアイツのことね。あんなボロボロのくせに目がちっとも死なない。
…忌々しいけど撤回する。アイツは脆弱な小兎なんかじゃない」

 格好付けて言うフラン。お、お馬鹿っ!鈴仙が脆弱な小兎なんかじゃないことくらいそんなの最初から分かってるわよ!
 多分あれよ、鈴仙は兎のなかでも選ばれた兎なのよ。ほら、アメリカの童話にいる大きい太った感じがする兎なのよ。

「何にしても、少し時間が掛かるか…本当、お姉様は余計なことばかり」
「余計なことって…私、何もしてないわよ」
「してるよ。お姉様、手当たり次第見境無し。本当、不潔」
「ふ、ふふふ不潔とか言うなっ!朝昼夕夜と四回毎日欠かさず身体洗ってる乙女に不潔とか言うなっ!」

 私とフランのやり取りは結局弾幕勝負が終わるまで続けられた。
 鈴仙が被弾し、気を失い、それを美鈴が抱き抱えて助けるまで延々と。









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