「…生きてる。私、ちゃんと生きてる」
霊夢とアリスが飛び去っていく方向を眺めながら、私は美鈴やパチェにも聞こえない程の小声(しかも滅茶苦茶震えてる声)で呟く。
目を瞬かせながら、右手ぶらぶら左手ぶらぶら。うん、動く。私の体はちゃんと動く。萃香にフルボッコされたときのような事態にはなっていない。
というか、何もされなかった。無罪放免。霊夢に拳骨のひとつも貰わなかった。えっと…奇跡?起きないから奇跡というなら、起きた奇跡は
なんていうの?霊夢に胸元掴まれたときは本気で冥界への移住を決意したんだけど…何が何だか分からない…
「あーあ…いいんですか、パチュリー様。博麗の巫女達、異変より先にフランお嬢様を退治するみたいですよ?
それどころか、さっきの説明じゃ異変の犯人がフランお嬢様だと勘違いする可能性だってありますし」
「いいんじゃない?別にレミィが虚言を並べた訳でもなし、好きなように行動させてあげれば。
それに、どうせあの二人じゃフランドールに勝てないわ。遊び心さえ起こさなければ、時間稼ぎにもならないでしょ。
フランドールの相手をするには博麗の巫女では十年早い。違って?」
「過小評価ですねえ。私は五年で面白い勝負すると思いますよ?博麗霊夢の才気はウチの咲夜をも凌駕するレベルですからね。
私達の手元に置いて貰えるなら、ざっと三年で面白い成長をさせてみせると言い切れますけど」
「どちらにしろ、今の彼女相手なら鎧袖一触もいいところ。私たちが気にすることじゃないわ」
「違いありませんね。ましてや咲夜も一緒に居るんですからね。人形遣いちゃんが一緒でもまだ届かない」
…後ろでパチェと美鈴が何かぼそぼそ話してるけど、今の私にはそんなの関けーね。…慧音、ちゃんと養生してるかしら。
ちなみに、私が霊夢から解放された流れを話すと、ざっとこんな感じ。
霊夢「フランドール、手前顔貸せやコラァ」
→レミリア「罠よ!これはフランが私を陥れるために仕組んだ罠よ!」
→霊夢「そうか!よし!殺す!フランはてめーだろーが!」
→レミリア「こやつめハハハ。ぬかしおる。覚悟完了、殺すなら殺せ。私は、私が思うまま!私が望むまま!雑魚であったぞ!」
→霊夢「よく見りゃレミリアじゃねーか。お前紛らわしんだよボケ」
→レミリア「最初に気づけハゲ。嘘ですすいまえんでした。私はレミリアで最初から霊夢様に逆らうつもりとかないんですごめんなちい」
→霊夢「妹の格好して夜間飛行してる理由を今北産業」
→レミリア「現代とりかへばや物語
犯人はヤス
ちょっくら妹捕まえてくる→無茶しやがっての予定」
→霊夢「把握。異変解決ついでにお前の妹ボコってきてやる。感謝しろ。あとお前帰れ。夜遊びすんなボケ」
→レミリア「自分、吸血鬼ですけどー」
…いや、流れね?あくまでこういう流れだったってだけで、勿論会話にはアリスや美鈴やパチェも入ってきてるわよ?
あと、怒気発しまくってた霊夢相手に本気で涙目全開だったことは歴史に残さないことにしたわ。泣いてない!泣いてないもんね!
本当、霊夢に首根っこ掴まれたときは縊り殺されるかと…Thank you感謝、ここからゲームを始めよう。ロマンスの神様どうもありがとう。
「…というか、霊夢にぶつかったのは私のせいじゃなくてアンタのせいなんだけどね」
「?」
「…いや、そんな純粋な目をして首を傾げられても」
パチェと美鈴に見つからないように、私の背中を支えてくれているちび萃香を捕まえ覗き込む私。
軽くため息をつきながら、人差指でちび萃香の頭を軽く撫で、無罪放免と解放してあげる。するとちび萃香は何ごとも無かったかのように
私の背中へと戻り支え始める。萃香の分身のくせに良い子ねえ…いや、萃香が悪いことか捻くれてるとかいう意味じゃないけど。むしろ萃香は
真っ直ぐ過ぎて手に負えないというか…とにかく、危機は去ったわ。私は霊夢にフルボッコにされずにすんだのよ。
ただでさえ、人里の件があるから霊夢にだけは会わないようにと心がけてたのに…今日は厄日だわ。誰かシャナク唱えてシャナク。ディスペルでも良いから。
「ふう…何はともあれ、これでフラン捜索に戻れるわね。
さあ二人とも!気を取り直してちゃっちゃとフランを見つけるよ!美鈴、フランの気配はまだ掴めないのかしら!?」
「ん~、気配察知の範囲をかなり広げてはいるんですけど、これだけ妖気が満ちる森だとなかなか…
ただ、なんとなくですけれど、二つほど知ってる気配の塊が在りますね。少なくとも二人は固まってそうな」
「こんな深い竹林のなかで?ふふん、間違いなくビンゴね。そのどちらかがお馬鹿フランと咲夜のコンビに違いないわ。
それで美鈴、どっちがフランと咲夜っぽいかまで分かるかしら?」
「断定は難しいですね。ただ、このまま竹林を左に抜ける方向の気配の方が濃密かつ強大に感じますね」
「いや、強大なのはちょっと…」
美鈴の言葉に、私は顔を引き攣らせてお断りする。何が悲しくて正体不明の妖気の方向に行かなきゃいけないのよ。
それがフランなら良いけれど、紫や幽々子クラスの見知らぬ化け物と遭遇しちゃったらどうするのよ。目も当てられないじゃないのよ。
いい、美鈴。私は過去の異変で学んだのよ。危険な目に会いたくなければ、危険の元に近づかなければ良いと。紫や幽々子のような
最強連中はいわゆるひとつのトラブルメーカー。ToLoveるな展開ならまだしも、トラブルテリブルアクシデントなんて私には一切不要なの。わふぅ。
という訳でもう一つの気配の塊とやらに向かうよ。さあ、急ぐのよ!時間は有限、フランをさっさと捕まえないと私はこの夜を越せないのよ!さあハリーハリーハリー!
「ちなみに、もう一つの気配は博麗の巫女が向かった方向でして…」
「よし、前者の強大な気配の方向へ向かうわよ!こっちにフランがいるって運命が告げてるわ!良いわね二人とも!」
美鈴とパチェの返事を待つことなく、私は進路を霊夢とは反対方向に舵取りする。
強大な妖怪との出会い?ハッ!今の不機嫌な霊夢と再びかち会う方がその何十倍も怖いわ!ヘタレ舐めんな!いくらお友達になったとはいえ
私の霊夢恐怖症がそう簡単に完治すると思ってか!チキンにビビリなくらいが女の子は丁度いいのよ!女は愛嬌!度胸は将来の旦那様に任せるっ!
「了解しました。全てはお嬢様の望む通りに」
「はあ…本当、分かりやすいというか…」
「そこがお嬢様の魅力的な点なんじゃないですか。ですよね、パチュリー様?」
「フフッ、まあ、否定はしないわ」
一人先走ろうとする私に、二人は少しも遅れることなくついてくる。
…というか、美鈴はまだしもパチェも飛行上手よね。普段図書館で引き籠ってる姿しか見てないから、ちょっと意外。
喘息持ちかつ病弱とは本人の談だけれど…正直嘘なんじゃないかしらと思ってしまう。あれだけ綺麗な加速飛行を繰り返す奴のどこが
虚弱だというのやら。あれか。もしかして普段は病弱だけど、それは自分自身にリミッターをかけてるから副作用として症状がとか、そういうのか。
もしそんな中二設定だったら、私は一人枕に顔を埋めて咽び泣いてやる。隠れチート設定とか…う、羨ましくないもん!
あの引き籠りクイーンのパチェにそんな設定があるのなら、私に少しくらい…例えばほら、天に手を翳すとエネルギー的な何かが出たりとか。
…いや、もしかしたら出るんじゃないかな。萃香の力を借りてるとはいえ、今の私は五分以上空を飛んでるレミリアを超えたレミリア、超レミリアだと
言わざるをえない存在なのよ。だったら少しくらい神様がおまけしてくれても…で、出ろー!エネルギーとか魔力とかそんなの出ろー!
「何、レミィ。急にラジオ体操なんか始めたりして。伸びの運動?」
「…パチェ、私達って親友よね?決して私の一方通行(アクセラレータ)な勘違いなんかじゃないわよね?」
「何を急に。私の親友は後にも先にも貴女だけよ、レミィ。それで?どうして急にラジオ体操?趣味なの?そういう年頃なの?」
「…美鈴、主命令よ、そこの魔女を懲らしめて」
「はいはい、そこまでですよパチュリー様。お嬢様への愛情表現は用法用量を順守して下さいね」
「そうしておくわ。流石に私も嫌われたくはないものね」
そう言って話を打ち切るもニヤニヤしてるパチェ。よし、泣かす。帰ったら絶対泣かす。
具体的に言うと、パチェはこれから一週間私の抱き枕の刑に処してやる。紅魔館主命令で拒否なんか許さないんだから。
「良いわねパチェ、団長命令だからね!」
「はいはい、そうね、覚えてたらね」
…絶対に許さない。開き直るその態度が気に入らないのよ。両手をついて謝ったって許してあげない。
私の怒りはフランよりもパチェの方に重きを置きそうな今日この頃。本当、私は良い友人を持ったものね。ちくせう。
~side 霊夢~
「それで、どうするの?本当に…」
「レミリアに言った通りよ。異変解決のついでにレミリアの妹をぶっ潰す。
そうすればレミリアの用も解決して紅魔館に戻れる。異変を解決するのはそれからでも遅くない」
「…レミリアの妹って、フランドールでしょう?そんな物騒なことしなくても、話せば分かると思うんだけれど」
「…アンタ、一体フランドールの何を見てるのよ?そんな甘っちょろい言葉やお話が通じる相手だとでも?」
「その言葉、そっくり返させてもらうわ。霊夢はフランドールの一体何を見てそんな物騒な言葉を使ってるのよ」
並んで飛行するアリスの言葉に、私は軽く舌打ちをする。駄目だ、話にならない。コイツはフランドールを知らないんだ。
否、知ってはいるんだろう。けれど、私の知るフランドールとアリスの知るフランドールの姿が大きく異なり過ぎる。
アリスの話を聞く限り、コイツの知ってるフランドールは姉思い、そして少しばかり変わり者の妹程度の認識だ。何を馬鹿な、と思う。
夏に伊吹萃香が引き起こした異変で、私はフランドールと接する機会を一度得たけれど…あれがそんな生易しい言葉で終わるものか。
確かにあの一件は完全に私の手落ちであり、非も認める。けれど、その際に接したフランドール・スカーレットの禍々しさ、内に秘める
狂気、常軌を逸した天蓋の力。そのどれもが私の全身に死と言う名の警告をけたたましく響かせた。
あの一件は唯の濡れ衣だったけれど、だからといって、今回もそうとは限らない。レミリアの話を聞く限り、あいつはレミリアの知らない中で
勝手な行動を起こしている。それも、自身をレミリアだと偽って、だ。レミリア自身がそれを望まないのに、だ。
レミリアの意思を無視し、レミリアの振りをして、この異変の夜を翔ける…それだけで私には十分過ぎるほどにぶっ飛ばす対象だ。
ましてや、フランドールは紅霧異変で『前科』がある。この異変も奴が引き起こしたものである可能性は十二分にある。だからこそ、私は
フランドールを捕まえなきゃいけない。博麗の巫女として…そして、レミリア(あいつ)の友達として、絶対に。
「だから、霊夢…って、話を聞いてるの!?」
「うっさいわね…嫌なら帰りなさいよ。私は別に手伝ってくれと言った覚えはないわよ。
アンタがなんと言おうと、私はフランドールをぶっ飛ばす。そしてアイツをレミリアの前に引きずり出して頭下げさせてやる」
「はあ…それで、異変は?」
「犯人がフランドールなら解決。違うっていうんなら別の犯人をぶっ飛ばして解決。それだけよ」
「滅茶苦茶ね…全く、本当に仕方のないパートナーだわ」
「…悪いわね、アリス」
「高いわよ、魔法使いへの貸しは」
「安いわよ、友達への借りだもの」
「はあ…本当、今回だけだからね」
ぶつくさと文句を言いながらも、結局私に手を貸してくれるアリス。本当、こいつは心底良い奴だと思う。良い奴というかお人好しね。
今回の異変の件だってそうだ。異変解決は私の仕事なのに、『異変が起こってるのに何もしないのは寝覚めが悪いから』なんて理由で
アリスは異変解決に参加しちゃってる。思えば、春雪異変のときも、コイツには基本関係なかった気がする。それが根っからのお人好しのせいで。
――本当に、馬鹿よね。私はアリスの顔を軽く覗いて内心で笑ってやる。本当…ありがとう、アリス。
ため息を連発するアリスを横目に、私は真っ直ぐ飛行を続ける。さて、こっちの方向に何かあると私の勘が告げてるけれど、鬼が出るか蛇が出るか。
…鬼は前回出くわしたから、今回は蛇の方がいいわね、なんて思いながら飛行を続けると、辿り着いた場所には意外な連中がいた。
「ありゃ、霊夢?それにアリスも」
「魔理沙?それに妖夢も…」
竹林の少し開けた場所に居たのは、魔理沙と妖夢。どうしてこいつ等が…そこまで考え、私は軽く息をつく。
当たり前、か。他の誰でもない魔理沙だもの、異変が起こっているのにじっとしてる訳がない。妖夢と魔理沙、どっちがどっちを誘ったかは
分からないけれど、二人は今回の異変解決に乗り出してるのだろう。異変解決はこいつ等の仕事じゃないのに…本当、暇な連中ね。
「貴女達、どうして…なんて、聞くだけ野暮よね。貴女達もあの月を見て?」
「ああ、正確には月の件を妖夢に教えてもらって、だな。更に言うと妖夢は幽々子に教えてもらって、だ」
「あのね…別に胸を張って言うようなことじゃないでしょ。異変に気付けなかったんだから」
「アリス、言うだけ無駄よ。魔理沙だもの」
「そうね、魔理沙だものね」
「…お前ら、ため息つきながら人を小馬鹿にするのは辞めろよ。軽く傷つくから。ほら、早く謝れよ、妖夢に」
「そうだよっ…って、ええええ!?わ、私何も馬鹿にされてないじゃない!?馬鹿にされたのは魔理沙でしょ!?」
「酷っ!!妖夢、お前私のことを馬鹿だって言うのか!?」
「い、言ってない!!魔理沙のことを馬鹿になんてしてないじゃない!!」
「私が馬鹿にされてない、アリスと霊夢の他に居るのは私と妖夢だけ、じゃあ誰が馬鹿にされてるんだ?4ひく3は?」
「1だけど…」
「四人引く魔理沙アリス霊夢いこーる?」
「…あれ、私だ」
「という訳で二人とも妖夢に謝れ!」
「えっと…ええっと…と、とにかく私に謝って!謝らないと怒るよ!」
「…ちょっと待て、いいから落ち着きなさい、馬鹿コンビ」
「本当、掛け値なしの馬鹿ね、こいつ等」
額を抑えるアリスに同調する私。正直、漫才なら家に帰ってやってほしい。幽々子の前なら喜ぶんじゃないの?
というか、こんな馬鹿話をする為に私はここにいるんじゃない。軽く息を吐き、私は気持ちを切り替えて二人に尋ねかける。
「あんた達に訊きたいことがあるんだけど、いいわね。無論、拒否権なんてないけれど」
「相変わらず強引な奴、それでこそ博麗霊夢だ。まあ、良いぜ。異変の首謀者とか犯人の居場所とか以外なら何でも聞いてくれ」
「…なんでそこは教えてくれないのよ?」
「そんなの決まってるだろ、アリス。私が知らないからだ」
「最初から素直に知らないって言えばいいじゃない!このアホ魔理沙!」
「知らないって言うより教えないって言った方が格好いいと思わないか?」
「思わないわよっ!本当、なんでこんなのが魔法使いなのよ…」
「…あのね、いい加減にしないと三人まとめて締め上げるわよ?」
「「なんで私まで!?」」
私の言葉に、アリスと妖夢が反論の声を上げるが無視。
いい加減イラついている私に気付いたのか、魔理沙も空気を切り替え、真剣な表情で私を見つめ返す。最初からそうすればいいのよ、馬鹿魔理沙。
「アンタ達、私達に会うまでこの辺を飛びまわってたのよね?」
「ああ、そうだな。かれこれ三十分は飛びまわってるぜ。ただ、客人とは会えども残念ながら犯人の尻尾は依然見つけられないが」
「その客人っていうのは私達だけ?他の奴には会ってない?」
「会ってるぜ。お前達二人でこの夜通算四人目のお客様だ」
「…そいつ等の名前はフランドール・スカーレットに十六夜咲夜、これは間違いないわね?」
私の言葉に、魔理沙は声を返さない。少し眉を寄せ、私の方をじっと観察してる。対照的に妖夢は目を丸くして驚いたような顔をしてる。
…当たり、ね。どうやら魔理沙達は目的の二人に会ってる。そして、その二人が『ここ』に居ることを知っている私達に驚いている。
けど、二人があいつらに会ってるなら話は早い。私は二人の変化を無視し、そのまま言葉を続けていく。
「それで、フランドール達は何処へ行ったの?三十分程度この辺りで飛びまわっていたなら、別れてそう時間が経ってないハズでしょう」
「さて、な。そもそも私達が会った客人がどうしてレミリアの妹と咲夜になるんだ?全くの別人かもしれないぜ?」
「…魔理沙、私は面倒も問答も嫌いなの。さっさと答えを返せ。アンタは私の質問に答えりゃいいのよ」
「…その言い方、癇に障るな。そんな言い方じゃ、例え私達が会った相手がフランドールだとしても、教える訳がないだろ」
「喧嘩売ってるの?こっちは急いでるんだけど」
「売ってるのはどっちだよ。急いでるなら、私達なんか無視して何処へでも行けばいい」
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着きなさいよ!何二人して喧嘩腰になってるのよ!」
「そ、そうだよ二人とも、ちょっと落ち着いて…」
睨みあう私達の間に割り込むアリスと妖夢。何よ、別に熱くなってなんかいないわよ。
ただ魔理沙の馬鹿がいやに楯ついてくるから言葉を返してるだけじゃない。別に喧嘩なんてするつもりは…
そんな私達に呆れるような表情を浮かべたまま、アリスは魔理沙達の方に視線を送り、口を開く。
「ねえ、魔理沙に妖夢。私達は別に貴女達に喧嘩を売りに来たわけじゃないのよ。まずそこは理解して」
「どうだかな。お前はそうでも、後ろの暴力巫女はそうでもないみたいだけど」
「んですって…?喧嘩売ってるならそう言いなさいよ、三秒で地べたに沈めてあげるから」
「あーもー!!いいから二人とも落ち着けって言ってんでしょうが!!黙って私の話を聞け!!話を続けるわよ!
私と霊夢は貴女達同様に異変解決に乗り出してる。そして、今回の異変の首謀者の第一容疑者としてフランドール・スカーレットだと
考えてる。だからこそ、フランドールを私達は追いかけてるし、その行き先を貴女達に教えてほしい、ただそれだけなのよ」
アリスの説明を聞き、魔理沙は軽く目を見開いたかと思うと、『なんだそれ』と軽くため息をついて肩を竦める。
そんな魔理沙の動作が癇に障るものの、私はアリスの顔を立てて口にはしない。ただ、妖夢も似たように『何言ってるんだ』という表情を
しているのにイラつきを覚えたけれど。
「あのなあ、霊夢にアリス。どこをどうしてそんな結論に辿り着いたかは知らないけれど、そりゃただの勘違いだ。
フランドールは白も白、真っ白だよ。あいつ等が今回の異変の首謀者な訳ないだろ」
「そう考える根拠は?根拠も無しに私も霊夢も『はい、そうですね』なんて言えないわ」
「根拠もくそもあるか。フランドールの奴は咲夜と一緒に異変解決に乗り出してるってさっき言ってたぜ?
言ってしまえば私達側だ。種明かししちゃうと、私達と異変解決の共同戦線を張ってる仲だよ」
「フランドールが異変解決ですって?魔理沙、アンタ、その言葉そのまま信じたの?鵜呑みにしちゃってる訳?」
「…なんだよ、何が言いたいんだよ、霊夢」
「それが嘘だって思わないの?自分が騙されてるって思わないの?本当、馬鹿にも程があるわよ」
「…おい、いい加減にしろよ霊夢。いくらお前でも、私の『友人』を馬鹿にすると、こっちも怒るぞ?」
「『友人』ですって?アレと友人?…馬鹿じゃないの?アレが誰かと手をつなぐ訳がない。
魔理沙、はっきり言うわ…アンタ、利用されてるわよ。人が良いのも大概にしなさいよ」
「――!!大概にするのはそっちだろ!さっきから聞いてればフランドールの悪口をべらべらと並べ立てて…
アイツが異変の首謀者っていうのはそっちの勝手な思い込みだろうが!そんな根拠でよくもまあ好き勝手言えるな!!」
「そっちこそよくもフランドールを庇い立て出来るわね!!何アイツの肩持っちゃってるのよ!!
フランドールがレミリアの格好して好き放題してるの、知らない訳でもないんでしょ!?」
「知ってるさ!けど、それがなんだって言うんだよ!レミリアの為の行動だろ!?それをどうこう言う必要もないだろ!」
「っ!ふざけんじゃないわよ!!何がレミリアの為の行動よ!それの何処にレミリアへの想いが存在してんのよ!!
レミリアの格好して好き勝手して!挙句の果てにはレミリアを困らせて!フランドールがどれだけレミリアの迷惑になってるか知ってる訳!?」
「はあ!?お前、言ってることがおかしいだろ!?フランドールはレミリアが好きで、レミリアの為に今行動を…」
「おかしいのはアンタよ!レミリアは迷惑してんのよ!困ってんのよ!止めようとしてんのよ!そんな気持ちも知らないでっ!
だから私はフランドールが許せない!私の大切な友達を困らせて、追い込ませて…だから私がレミリアの代わりにぶっ飛ばすのよ!!」
「…させないぜ。お前がフランドールをぶっ飛ばすつもりなら、私はお前を止めなきゃならん。レミリアの為にな」
「…やってみなさいよ。アンタが私の邪魔をするつもりなら、私はアンタもぶっ飛ばすだけよ。レミリアの為にね」
私と魔理沙は睨み合い、互いに術符と八卦炉を取り出す。こうなったら止められない。止められるわけがない。そんなことは
長年の付き合いでとうの昔に分かってる。お互い強情だもの、こうなっては相手を屈服させる以外にない。そうやって私達は育ってきたんだもの。
そんな私達に遅れて、アリスと妖夢は互いのパートナーの傍に立つ。妖夢は魔理沙の前衛に。アリスは私の後衛に。
「…悪いわね、アリス。また面倒事に巻き込んじゃって」
「もういいわよ、慣れっこだし。…それに、私もフランドールを全く疑って無いわけじゃないからね。
魔理沙の言うことが正しいとして、レミリアが全く事情を知らずに困り果てる理由がないもの。真にレミリアを想っているなら、ね」
「頼むぜ、妖夢。私だけじゃあの二人は部が悪いからな」
「はあ…こんなことはこれっきりだからね。でもまあ、今回の件は魔理沙に同意だから。
あのフランドールさんが、あんな風に優しく笑う人が、レミリアさんを利用してるだなんて微塵も思えないから」
互いのパートナーに短く意思疎通し、合図も無しに私達は夜空を翔ける。
そして互いに展開しあう季節外れの弾幕(はなび)。さて…早く二人をぶっ潰して、フランドールのところへ行くとするわよ、アリス。
時間は有限、今宵の異変のタイムリミットは限られているのだから。