前回までのあらすじ。
目が覚めたら何故かフランの格好(髪まで染められてた)になってた。
→犯人はフラン。フランの奴、自分は私(レミリア)の格好して咲夜まで連れて外に暴れに行ってる。
→私の格好をしてるフランが外で問題を引き起こせば(霊夢による)私の処刑確定。このままじゃまずい。
→萃香、美鈴、パチェの協力の下、絶賛フラン追跡中(未だ私フランの格好のままで)。
→その道中、お友達になれたミスティア、弾幕の流れ弾で轟沈。早過ぎる『さよなら』!
…とまあ、これまでを軽く振り返ってみたんだけど、我ながら突っ込みどころ満載過ぎて嫌になるわ。もう帰りたい、畜生。
とりあえずミスティアのお店に今度行って今回の件は謝るとして、現在フランを絶賛追跡中な訳なんだけど…
「さて、どちらを探しましょうか。この広い幻想郷、はたしてどこから手を付けたものやら」
「それはお前の得手とするところじゃないの?気を探るのが得意なんだろ?ぱぱっと見つけちゃってよ」
「冗談、人を便利道具か何かと勘違いしないでよ。いくらなんでも私の察知領域にだって限界範囲はあるもの。
幻想郷中からフラン様や咲夜さんの気配探知なんてしてたら、それこそ夜が明けちゃうわよ」
「そうね…伊吹萃香、貴女は妖気を広範囲に散布しているんでしょう?そこから気配を読み取ることは?」
「無理だね。私のは妖魔の反応を探知出来るような能力じゃないし。まあ、地道に探っていくしかないんじゃないか?」
「地道にねえ…全く、時間が無いというのに非効率ね。美鈴、貴女は気を限界まで張り巡らせて。半径1kmくらいはいけるんでしょう?」
「本気になれば3kmくらいは。しかし、隙間の妖怪がところどころ弄っているせいか、世界に気を混じらせにくいんですよね。
一応やってみますけれど、あまり期待はしないで下さいね。戦闘でも継続してくれていればすぐに分かるんですけど」
三人の相談をポツンと少し離れたところで耳にする私。うん、難しい話はよく分からないけれど、私にだって
フランをここからどう探すかで困ってることくらいは分かる。えっと…ま、拙くないかしらコレ。フランが何処にいるか微塵も分からないって。
幻想郷は広い、その中でフランを早く見つけるなんて…しかもフランの行動パターンなんて分からないし…そ、そうよ!フランの
日頃の外出パターンから分析すればいいんじゃない!人は遊びに行くときは遊び慣れた場所に行くものよ!いや、そんなことはないかもと思ったけど
フランなら…フランならきっとお姉様の予想通りに動いてくれる筈。という訳で三人に進言進言っと。
「美鈴、お前ならフランの向う先が分かるんじゃないの?」
「ふぇ?わ、私ですか?」
「え、いや、そんな風に驚かれても…だってフランが普段外出しているとき、私のとき同様にフランを抱き抱えて
外出させてるんでしょう?前にそう言ってたじゃない。だったら、貴女は普段のフランの外出の際、一緒に何処かへ行ってるということよね。
なら、その普段フランが遊び歩いている場所から手始めに探してみる価値はある筈よ…って、何その微妙そうな顔は」
「あ、いえ、そういえばそんな設定だったなあ、と」
「設定?」
「ああ、いえいえ、なんでもないです。確かにお嬢様の仰る通りですね。普段の外出先を考えれば、そこに居る可能性が高いですよね」
「そうそう、そういうこと。私を探すなら、人里か博麗神社かってところなんだけど、私は普段フランが何処に遊びに行っているか
知らないからね。という訳で美鈴、貴女は普段フランと一緒に何処に向ってるのよ」
「あー、えー、フランお嬢様は普段はそのー「人里でしょう」そう、パチュリー様の仰る通り人里なんですよ、はい」
…いや、だからどうしてそんな一々自分自身を納得させるような仕草を。まあ、いっか。とりあえずフランが行きそうな場所は分かったし。
ヒントが少ない今、まずは人里に向おう。うん、そこに居なかったら…分からなかったら人に訊く!ってことで、訊き込みでもしよう。幸い、
人里なら情報に困らないでしょうし。霧雨店主とか、本屋の主人とか、茶屋の主人とか…ああ、慧音に訊くのも有りね。無駄に物知りで親切だからね。
「それじゃ、まずは人里に向うとしましょう。そこでフランを探して、フランが居なかったら情報収集。
普段からフランが遊んでるなら、フランの目撃情報があるかもしれないし」
「まあ、訊ねる目撃情報はフランドールじゃなくてレミィ、貴女の情報なのだけれどね」
「は?いや、なんで私の情報を…探してるのはフランであって私じゃ…」
「はぁ…貴女、今の自分の姿とフランドールの姿をちゃんと理解してる?」
「自分の様相って…あ、そうだった」
自分の服装を見直して、改めて気付く。そうだった、今の私はフランで、フランがレミリアなんだっけ。うう、紛らわしい。
君の姿は僕に似ているなんてレベルじゃないわよ。羽の差異が無かったら私とフランの外見なんて少しも変わらないし。つまり、
フランが暴れる→部外者にはレミリアが暴れてる以外の何モノでもないって訳なんだけど…ううー!早くフランを捕まえないと。
「それじゃ人里に向うよ。フランが居なくとも、目撃情報を誰かが握ってるかもしれない。慧音とか」
「慧音さんですか。まあ、彼女ならお嬢様に好意的ですし、協力もしてくれますね」
「初めて聞く名ね。誰?」
「上白沢慧音、人里の守護者というか、寺小屋の先生というか。とにかくまあ、人里に住んでるワーハクタクですよ。
お嬢様が人里に漫画や茶菓子なんかを買いに向い始めた頃からの知り合いでして。昔はまあ色々ありましたけど、今はお嬢様の良き友人ですよ」
「友人というか、茶飲み友達というか。えっと、うん、物知りだし、良い奴だよ慧音は」
「それじゃ目指すは人里か。とりあえず向ってみるとしようかねえ」
全員の同意を得て、私達は進路を人里へと向け飛翔する。私は飛んでないけどね!飛んでるのはあくまで萃香の分身だけどね!(自虐)
しかし、慧音か。最近、茶屋で話したのは二週間前くらいだっけ。元気にしてるかしら…なんて懐かしむ程の期間は開いてないわねえ。
上白沢慧音。美鈴の話し通り、人里で寺小屋の教師をやっているワーハクタク。ワーハクタクが何かって?いや、そんなの知らないから。どうも
美鈴の話と慧音の話からするに妖怪の一種みたいだけど…はあ、どうせ強いんでしょ。強い妖怪なんでしょ。私何か比べ物にならないんでしょ。もげろ(おっぱいとか)。
話を戻して、私が慧音と知り合ったのは、初めて人里に訪れたとき。書物だけの知識だけじゃ真のお菓子は作れない、とかなんとかの理由で
人里に美鈴と遊びに行った時に、私の前に現れたのよね。しかも、めっちゃ私を睨みつけて。うん、あのときは凄く怖かったわね。
で、美鈴と二人で『お菓子を買いに来たんです。人里に害するつもりなんて全然無いんです。トラストミー』なんて感じで説得したら
渋々納得して…くれる訳も無く。その日から私が里に遊びに来る度に、『監視だ』とか言って傍に居たのよね。いや、実に懐かしいわね。
それで一緒に本屋で漫画漁りしたり、茶屋でスイーツ巡りしたり、それはもう散々慧音を振り回した気がする。主に美鈴が。特に美鈴が。
美鈴の奴、なんか慧音の事気に入ってるらしくて何かある度に慧音に話しかけては振り回してたのよね。私?私は主に疲れ果ててる慧音を
労わってた気がする。しかし何でまた慧音を美鈴が気に入ってるのやら。理由を聞いたら、美鈴曰く『同じですから』とのこと。テライミフ。
んで、気付けば慧音と雑談に興じたり、慧音の愚痴を聞いたり、私のお菓子作りの実力を語ったり…まあ、そんなことをしてたら
仲良くもなる訳で。気付けば、慧音が私達を監視することは無くなってた。というか、あとで聞いた話なんだけど、人里に入ってくる妖怪で
監視されたのは後にも先にも私だけとのこと。他の妖怪にそんなことをした事は無かったとのこと。害を為す妖怪は人里に入って来れないから
監視なんてする意味はないとこのこと。じゃあどうして私だけ特別枠なのかと慧音に文句を言ったら、慧音曰く『他の野良妖怪と幻想郷に喧嘩を売ったスカーレットの後継者を
同一視などするか馬鹿者』とのこと。怒ったら逆に怒り返されたの巻。どうやら私を危険視したのは、私のクソ親父の責任らしい。本当マダオだわお父様。
それで、私も何かするつもりかと監視していたら漫画は読むわお菓子は食うわ危険な素振り何か一切しなかったから無罪放免。
…なんか妖怪としてそれもどうなのって理由だけれど、こうして慧音は私を認めてくれたらしい。レミリア=無害だと。
いや、そんな期待を裏切ったのが紅霧異変な訳で。あのときは本当にこれでもかってくらい怒られた。泣きそうになるくらい怒られた。
私の責任じゃないのに。フランの責任なのに。拳骨一発で許して貰えたのは喜ぶべきか悲しむべきか。くそう、嫌な事思いだしたじゃないの。
そういう訳で、人里の中で数えるほどしかいないお友達、上白沢慧音にお話を聞きに行くべく人里まで夜間飛行を行っている私達。
慧音、起きてるかしら。こんな時間だから、もしかしたら寝てるかもしれない。そうなった場合、どうしよう…無理矢理起こすのも…
いや、でも、今回ばかりは緊急事態だし、慧音も分かってくれる…といいなあ…くれるわよね、わ、私は慧音を信じてる!上白沢慧音、やはり奴がベスト…
「…へえ?こいつは面白い。人里はいつから雲雀を飼うようになったんだい?」
「…お嬢様、私の背後に」
「へ?」
萃香と美鈴の言葉に、私は慧音への言い訳選択から思考を現実へと引き戻す。
明るい――私が目の前の『アレ』を視界に入れた最初の感想はたったその一言。ああ、自分のボキャブラリの無さに軽く絶望。だって
メチャクチャ明るかったんだもん、夜なのに。私達の目の前に現れた少女――彼女が身に纏うは暗き闇夜を照らす灼熱の光翼。
人里まであと四半里。その夜空に羽ばたくは炎の翼鳥。…何この凄いの、鳳凰星座の青銅聖闘士?なんか迫力的には黄金以上なんだけど…
白髪とも白銀とも判別し難い長い髪を携えた少女は、私達の方を睨み…ってええええ!?め、めっちゃ睨んではるやん…私達めっちゃ睨まれてるじゃない!怖っ!
「去れ、妖怪共。今夜の人里には誰一人として足を踏み入れさせやしない。
お前達とて身の危険を感じる為の幾分かの智慧はあるでしょう?なればこそ引き返せ。私の不死鳥にその身を焼き焦がされぬ前にね」
掌に激しく燃える炎を携え、少女は私達に警告を発する。さっさとここから出ていけ、と。
…うん、帰りましょう。なんか理由は知らないけれど、目の前の少女はとにかく機嫌が悪いみたい。人里に入るのは駄目みたいだし。
私のヘタレセンサーがビンビンに危険アラームを鳴り響かせてる。アレは紫や幽々子、萃香ほどじゃないけれど充分に危険なモノだ。私が一歩でも
踏み出そうものなら確実に燃やされる。いやいやいやいやいやいや!危ないから!炎とか洒落にならないから!蝙蝠なんて焼いても美味しくないから!
とにかくこの場から去る事が第一。そう考え、私は三人にここから去る様に口を開く…ことができなかった。何故なら…
「去れ、なんて言われて『はいそうですか』と従う馬鹿がいると思うかい?しかも相手は虚弱な雛鳥だ。
威勢が良いのは構わないが、人間、相手を見誤ったな?貴様如きが鬼退治を成し遂げられると?冗談は酒の席だけにしなよ、小娘。
…門番、魔法使い、手を出すなよ?コイツは私が直々に相手してやる。なんならお前達は先に人里へ向っても構わないよ」
…萃香、普通に喧嘩を正面から買おうとしてるから。うおおおおおい!?何喧嘩普通に買っちゃってるの!?馬鹿なの!?鬼なの!?
ちょ、ちょっと美鈴もパチェも萃香を止め…って、二人とも『そうさせてもらうわ』的な空気を出すのを止めてえええ!!何人里に向おうと
してるのよ!?怒ってるでしょ!?二人ともあの娘に馬鹿にされて少しカチンときてるんでしょ!?
そ、そりゃいきなり喧嘩を売ってきたのは向こうだけど…いやいやいや、ここで正面から叩き潰すなんて真似は非常に拙い。何が拙いって
この娘が人間(萃香曰く)で、人里の近くというのがかなり拙い。この娘が人間ってことは、十中八九人里の人間。それをフルボッコになんて
しちゃったら『大怪我しました→犯人は萃香→一緒にいたのはレミリア→悪名経験値上昇中→全盛期レミリア伝説にまた一ページ』になっちゃう!
駄目だ…フランを止めるどころか、私達のせいで人里を荒らすなんて本末転倒もいいところじゃない。ここは意地でも止めないと…紅魔館でSGGKと呼ばれたこの私ならいける!
「待ちなさい、萃香。私達の目的はその娘と戦うことではないでしょう?萃香程の妖怪が小娘相手に大人気ない。
そうね…どうしてもやりたいのなら『個人の用として後日日を改めて』彼女を訪れなさい」
「…それもそだね。いや、久々に骨のありそうな人間だったからつい気分が乗っちゃったよ。悪いね、小娘」
「…小娘小娘と言ってくれるわ。私の名は藤原妹紅、二度と小娘なんて呼ばないで」
「そう、それは失礼したわね、妹紅。さて…私達は人里に用があり、ここまでやってきた訳なのだけれど。
貴女の話を聞く限り、今夜人里の地には客を認めていないようね。その理由、訊かせてもらっても構わないかい?
私は幾度と人里に足を運ばせてもらっていたけれど、このように妖怪だからという理由で通行止めをくらったなんて過去に経験が無いわ。
となると、それには何か理由があるんだろう?まあ、話せないなら無理にとは言わないけれど。それならそれで私達はおとなしくこの場を去るだけさ」
私の問いに、少女――もとい妹紅は睨むのを止めて少し考える仕草を見せる。多分、私達が話相手に足るかどうかを
判断してるんだと思う。まあ…萃香も拳を引っこめてくれたし、私も出来る限りの対応はしたし、会話くらいはしてくれても良いと思うんだけど…
いや、でもまあ『お前達に話す義理は無い!』と言われてもそれはそれで…とりあえずこの場での争いは無くなるし。情報が手に入れられないのは
少しばかり残念だけど、私の明日の未来の方が何十万倍も大事だもの。フランの情報はまた別の方法で探すとしましょう。
やがて、妹紅は思考を止め、軽く息をついて私達に事情を話す。
「お前は今、人里に何度か足を運んでると言ったわね。なら、この人里に住んでいるワーハクタク…上白沢慧音は知ってる?」
「ああ、知ってるも何も知人だよ。慧音とは良い茶飲み友達だ。慧音がどうかしたのかい?」
私の言葉を聞いて、妹紅は今までの疑いに強張らせていた表情を崩し、本当の表情を見せてくれる。それは悔しさと憤りに満ちた少女の素顔。
その様子に、私と美鈴は顔を見合わせて眉を寄せる。ちょっと…いや、何この空気…いや、まさか慧音の身に何かあったとか言うつもりじゃ…ちょっと、何この
新シリーズにつき物語新展開的な話の流れは…いやいやいやいや、慧音はリンカーコア持ちでも何でも…嫌な予感しかしなさ過ぎる…
「知人なら話は早いね…その慧音がつい今しがた妖怪に襲われたんだ」
「っ…慧音さんが!?容体は!」
「不幸中の幸いにして命に別条は無いけれど…それでもしばらくは動けないだろうと言われたわ。
慧音が動けず、人里の護り手が不在の今、私が代わりにここに居るのよ。それが私のお前達を警戒し拒む理由。
再び人里にあの妖怪が訪れないとも限らないからね…お前達がアイツの仲間である可能性も拭いきれない」
「アイツ?その口ぶりからして、貴女は犯人が誰だか分かっているの?」
「まあね…私は去り行く奴等の後ろ姿をおぼろげにしか見る事が出来なかったけれど、人里の連中に特徴を話したら、
すぐに正体は割れたよ。とんでもない妖気を発する背中に羽を生やした小娘に、それに付き従うメイド…奴等はかなり特徴的だったからね」
「…ちょ、おま」
妹紅の言葉に、私は全身から血の気が引き、言葉を上手く返す事が出来なかった。
拙い。拙い拙い拙い拙い拙い拙い拙い拙い拙い。何そのどこかで聞いたことある容姿のコンビ。聞いたことあるというか身に覚えがあり過ぎる。
ちょっと、ちょっとスタッフどういうことよ。何この最悪の展開。嘘やん、こんなん。ありえへんやもん。いつになったらせっちゃんはウチと口きいてくれるん?
…って、現実逃避してる場合じゃない!ま、まさかまさかまさか慧音を怪我させた犯人ってこれはやっぱりどう考えても…
「そいつの名前はレミリア。紅魔館の主である吸血鬼、レミリア・スカーレットっていうらしいわ。
そいつが慧音をボロボロにした元凶、犯人。どう?お前達のうちの誰か、この名前に心当たりはある?」
心当たりもクソもあるか。その名前を両親から与えられたちっぽけな小娘はお前の目の前に居るのよ畜生。
美鈴とパチェは困ったような表情で私を見つめてるし…って、おおい!?こっちを見るなあ!ばれちゃうから!私がレミリアだってばれちゃうから!
萃香に至っては笑い堪えてるし!畜生、萃香のあほ!そんなに私の不幸が楽しいか!楽しいのね!?ジーザス、どうして私にこんな試練ばかりを…
というか、フランのあほたれは何て事してくれるのよ…他の誰でも無い慧音をフルボッコにするなんて…あああああああ…終わった、私の人里ライフ完全に終わった。
慧音の命に別条は無い(慧音ごめんなさい慧音ごめんなさい慧音ごめんなさい)とはいえ、私(の格好したフラン)は慧音に手を出した。これで慧音は絶縁確定、人里に入れなくなること間違いなし。
本屋にも茶屋にも顔出せなくなって…うううう…私の人生唯一の娯楽が…なんで私がこんな目に…泣きたい。本気で泣きたい。でも今やるべきはそんなことじゃない。
泣く以前に、妹紅に事情を説明しないといけない。そうしないと、私が妹紅の劫火に焼き殺される。レミリア=殺すになってる妹紅に殺される。
でも、どうすればいい?ここで『犯人は私の妹よ!私は悪くないの!』なんて主張しても、私は助かるけれどフランが…いや、フランが妹紅に
簡単に負けるとは思わないけれど、間違いなく後日フランは妹紅とバトルことになる。そうなるとフランがあの業火のターゲットになる。
…フランが、危ない。
…フランの、命が、危ない。
…フランを、護らないと。
…護らなきゃ――私が、フランを。
「知っているわ。レミリア・スカーレットは他ならぬ私の姉の名前だもの。
慧音を襲った人物は、間違いなく私、フランドール・スカーレットの姉、レミリア・スカーレットだよ」
「何?」「え…」「へ!?」「へえ」
気付けば私は、そんな戯けたことを口にしていた。あばばばばばば…じ、自分から逃げ道を塞いでしまった。もうだめぽ。
でも、私に思いつく作戦はもうこれしかない。だから私は即座に実行に移す。こうすれば少なくともフランは目をつけられない。フランに
害は及ばない。どうして自分がそんな行動に走るのかは分からない。だけど、そうするしか、その選択肢しか私には無いと私は感じていた。
「慧音を傷つけたのは私の姉、レミリア・スカーレットよ。紅魔館の主にして、冷血非道な吸血鬼、それが私の実姉」
「っ!!お前えええええ!!!!!」
「っ、そこまでです」
私の言葉に逆上し、襲いかかろうと拳を振り上げた妹紅を止めたのは美鈴。
私めがけて振り下ろされた炎の拳を美鈴は難なく受け止めてみせる。…あ、熱くないのかしら美鈴。どう見ても火傷じゃ済まないと思うんだけど…
そんな他人事のような私の感想はさておき、妹紅は今にも射殺さんとばかりに私を睨みつける。そんな妹紅に、私は軽く息をつきながら言葉を紡ぐ。
「妹紅、貴女の怒りは尤もよ。だがそれ以上にお門違いでもある、それは理解してるかしら?」
「…くそっ!分かってるわよ!」
言葉を吐き捨て、妹紅は美鈴から拳を離す。…良かった。どうやら『犯人の妹→よし殺す』というような発想をするほど
ヤバい人間じゃないみたい。ならいける。妹紅は紫達のような『あちら』の住人ではなく『こちら』の住人だと把握。
ならなんとか説得出来る。なんとか、なんとかフランの罪を『レミリアの』罪にしないと…
「…妹紅、少し遅くなってしまったけれど、謝罪をさせてもらうわ。私の姉が慧音に行った愚行に対してね。
本当にごめんなさい。私の姉のせいで、貴女の友人に要らぬ怪我を負わせてしまった。そのことに身内として謝罪するわ」
「へ?あ、い、いや…あー、その…こ、こっちこそ御免。よくよく考えれば、アンタは少しも悪くないのに、八つ当たりしてしまって。
悪いのはあくまでレミリア・スカーレットであって、アンタじゃないものね」
「そう…そう言って貰えると少し心が楽になるわ」
「しかし、そうなるとこっちはアンタ達に訊きたい事が幾つか出来たよ。何故、レミリア・スカーレットは慧音を襲った?
アンタ達は一体何しにここにやってきた?その行動の理由はこの歪な月と夜とも関係しているのか?」
妹紅のマシンガンのような問いかけに頭の中で一つずつ処理していく私。最後の質問はよく分からないけれど…ま、まあ困った時は人に訊く!
なんとかパチェに上手く話を振って解答して貰おう、うん。そんなことを心に決め、私は一つずつ問いかけに答えていく。
「お姉様が慧音を襲った理由は分からないわ。もしかしたら暇潰し、ただの気紛れかもしれない」
「っ!そんな下らない理由でっ!!」
「そんな下らない理由で馬鹿な行動を起こすのがお姉様だもの。貴女も耳にしたことはあるでしょう?紅霧異変の首謀者、レミリア・スカーレットの話は」
「あ、ああ…なんでも太陽を覆い隠せば日中も吸血鬼が遊びに出られるとか、そんな下らない理由で異変を起こしたんでしょう?
その噂は聞いていたけれど、まさか本当にそこまで馬鹿とは…あ、ごめん、実の妹なんだ、姉の悪口を言われて気持ち良くはないよね」
「フフッ、構わないわ。それにしても妹紅、貴女は優しいのね」
「…別に、普通でしょ」
照れ隠しにそっぽを向く妹紅。良い娘だわ…うう、その優しさをほんの少し…ほんの少しでいいから
お馬鹿な妹になんで分けてやれなかったんだ!神様の意地悪!フランのばか!おばか!なんで慧音に手なんか出したのよ!あんぽんたん!
「二つ目の問い、私達がここにやってきた理由…それは簡単、あの馬鹿な姉を館に連れ戻しに来たのよ。
館を勝手に離れ、幻想郷の人妖達…現にこうして貴女達に迷惑をかけ、被害まで出しているもの。早々に連れて帰って説教しなきゃいけないのさ。
そういう理由で、私達は愚姉を探してる最中という訳。まあ、ここで重要な情報が得られた訳だけれど」
「そういう理由…それじゃ、いきなり喧嘩を売って本当に申し訳ない事をしちゃったね。本当にごめん」
「構わないよ。その理由と背景だ、気が張るのも仕方ないさ。むしろ姉の愚行のせいで生じた結果だ、こちらが謝りこそすれ謝られる理由は無い」
「…フランドールって言ったっけ。貴女、なんか違うわね。妖怪だけど、慧音に近い」
「フフッ、おかしな妖怪だろう?よく友人からも言われるよ。けれどまあ、それが私だ、こればかりは仕方無い」
「ふぅん…まあ、私は嫌いじゃないよ、そういうの。まさか慧音以外にまともに話が通じる妖怪が居るとは思わなかったけれど」
妹紅の言葉にありがとうと言葉を返し、話を再び戻す。
…というか、さっきからパチェと美鈴の視線が痛い。これでもかってくらい痛い。説明するから!あとでちゃんと説明するから!だから
お願いだからボロを出さずに『悪いのは全部レミリア』って流れにして頂戴!この場を被害なしで乗り切るにはこれしかないのよ!
「そして最後にこの夜と月の理由は…ま、私は説明が下手だからね。パチェ」
「…関係は有るでしょうね。何故ならレミィの目的はこの歪な月だもの。
大方レミィもこの月の情報を得ようと人里に来て、その流れでワーハクタクと争いになったんじゃないの?あの娘、気が短くて我儘で子供っぽいし」
ぐ…ぱ、パチェの奴!ここぞとばかりに好き勝手暴言並べてるし!イジメ駄目絶対って言葉を知らないの!?
うう…気は短くないもん、我儘じゃないもん…子供っぽいって、こんなアダルティックな私になんという…くそう、ちょっと自分のオッパイが大きいからって。
いつかパチェに反撃することを心に誓い、私は説明は終わりと妹紅の方に視線を送る。私達の説明に、妹紅は納得した様子で言葉を紡ぐ。
「成程ね…アンタ達がどういう意図で此処に来たのか、そしてその理由が私の願ったりであることも分かったわ。
だとしたら、私の願う事は唯一つだよ。さっさとアンタの馬鹿姉を慧音の前に引きずって謝罪させて」
「ええ、勿論そのつもりよ。後日改めて馬鹿姉を謝罪に向かわせるわ。それこそ土下座させるつもりよ」
「土下座って、あの悪名高いスカーレット・デビルが?あははっ!そりゃいいや!もし本当にそんなことしてくれたなら、
慧音はともかく、私は何の後腐れも無く全部許してあげるかもね!誇り高い吸血鬼が一妖怪に土下座って!」
「…言ったわね。言質、しっかり取ったからね」
「は?」
「いえ、なんでもないわ。うふふふ」
ククク…妹紅、貴女は悪くないのよ。ただ、惜しむらくは世界の広さを知らない事。自分の物差しで世界を測り過ぎる事。
土下座?そんなの余裕過ぎるわ!土下座どころか地面に頭擦り付けてやるわよ!靴だって磨いてやるわ!紅魔館の主のプライドの低さを舐めんな!
しかし、これで全ては予定調和。妹紅に関しては私が後日出向いて頭を下げればOK。あとは慧音ね…慧音は怪我した張本人だから
簡単には許してくれないかもしれないわね…よし、フランを装ってどうすれば許してくれるか探ってみよう。勿論、見舞いの意味も込めて。
そういう訳で、妹紅に慧音の見舞いに顔を出させてはくれないかを訊ねたところ、少し考える仕草をみせて、『慧音に訊いてくるからちょっと待って』と
言葉を残して人里へと戻って行った。その後ろ姿が見えなくなるや否や、私に向けられるパチェと美鈴の言葉の嵐。ですよねえ。
「で、どういうつもりなの、レミィ。どうして貴女はあの娘にあんなことを言ったのよ」
「そうですよお嬢様。あれではレミリアお嬢様が完全に悪役じゃないですか。お嬢様は何も悪くないのに」
「…良いのよ。そもそも、フランの件に関しては私の監督不行き届きの面もあるし、何よりフランが他人に頭を下げるなんて思えない。
幸い、人里の連中も妹紅も私が犯人だと勘違いしてくれているわ。だったら、その嘘を押し通して私が後日謝罪した方が後腐れが無くて良い」
「それでレミリア、アンタが汚れを一身に被ることになってもかい?」
「ふん…汚れなんて慣れ切ってるよ。本当の事を言って妹紅とフランが殺し合い、なんて下らない事態が防げるなら、それで良いじゃない。
慧音には本当に申し訳ないことをしたわ。その罪はお馬鹿な妹の代わりに私が全て償うつもりよ。それにね…」
その言葉は、本当に驚くほどに自然と私の口から零れていて。
まるでもう一人の自分が、胸の奥底の想いを代弁したかのように。
「――私はもう嫌なのよ。フランの命を危険に晒すような事態は」
~side 慧音~
馬鹿だ。この娘――レミリア・スカーレットは本当に馬鹿だと思う。
思い返せば出会ったときからそうだった。人里に初めて訪れた彼女に、私は疑心を抱き、監視という名目で彼女の人里での行動を邪魔した。
それなのに、彼女は嫌な顔一つせず、私に笑って告げた。
『人里の護りを担っているのだろう?その行動は正しいよ。お前の行動に敬意を表せど、
邪険になどするものか。この私が如何に無害な存在であるかを、しっかり見届けなさいな』
その言葉を聞いた時、私は開いた口がふさがらなかった。何処の世界に一妖怪に敬意を表する吸血鬼が居るのだろうか。ましては相手は半分人間の血が通っているのに、だ。
そして彼女の言葉通り、私は彼女が人畜無害な人物であることをそう時間を掛けずに知ることになる。それどころか、彼女が本当に心優しい人間味あふれた
吸血鬼で在る事を知った。茶を酌み交わし、私の話に一喜一憂し、楽しげに笑みを零す彼女の何と天真爛漫なことか。彼女の笑顔を見る度に、私は己が勘違いを恥じた。
本当、実に愚かしい。私は彼女を吸血鬼だからと、あのスカーレットの後継者だからという前提条件で勝手にこういう妖怪だと決めつけた。
それがどうだ。本当のレミリア・スカーレットは冷酷とは無縁の存在ではないか。小さな日常に一喜一憂する、本当にありふれた人間の少女そのものではないか。
誰よりも心優しく、常に他者を労わる心を忘れない少女、それがレミリア・スカーレットなのだから。
だが、そんな少女だからこそ、そんな少女だと知っているからこそ、今回ばかりは『馬鹿』だと言うほかは無い。
何故ならレミリアは今、私の目の前で必死に言葉を並べたてているのだ。
曰く、慧音を怪我させたのは全て『姉のレミリア・スカーレット』の責任だと。
曰く、後日必ずレミリアに謝罪をさせる。だからそれまで待っていて欲しい、と。
曰く、その後の罰は何を与えても構わない。姉が謝っても慧音の気が済むまで好きにしてくれて構わない、と。
そう、彼女は言葉を必死に並べたてるのだ。自身を妹の格好に扮し、妹の罪を自分の罪へと変える為に。
その姿は道化だ。何故なら私は彼女の正体がレミリアだと知っているから。道化に身を扮したレミリアの必死なダンスを眺めている観客、それが私。
だからこそ痛いほどにレミリアの想いが伝わってくる。頼むから妹のことは許して欲しい。責めるなら自分にしてくれ。全ては自分が悪いのだと。
…馬鹿だ。本当にこの娘は馬鹿だ。お前は優し過ぎると、思わず絶叫したくなる。お前はそれで良いのか、と。
けれど、私は決して口にはしない。口にすることなんて出来ない。友人がここまで必死に妹を護ろうとしているんだ。それをどうして台無しにできるだろう。
だからこそ、私はこの寸劇に乗る。レミリアの背後で頭を下げる美鈴に軽く溜息をつき、目で言葉を贈る。『貸し一つだ』と。
「…お前の話は分かった。確かに全てはレミリアの罪だな。ならば、お前に頼みがある。
全てが終わったら、レミリアに私の下へ訪れるように告げておいてくれないか」
「え、ええ…勿論謝罪に向かわせるけれど…そ、その、あのね?
い、一応参考までに訊いておきたいのだけれど、あの、えっと…お、お姉様にどんなお仕置きをするのかなあ、なんて…」
恐る恐る訊ねてくるレミリアに、私は軽く笑って答えてみせる。
どうしてレミリアの妹があのような行動に出たのか。この夜に一体何が起きているのか。全ては未だ謎のままだ。けれど、それは全てが終わってから知ればいいこと。
「無論説教だ。こんな深夜に外を飛び回って好き勝手するような悪い子には、大人が諭してやらねばならんからな。
そうだな…ざっと五時間ほど、私の長話に付き合って貰うとしよう」
そう――全てが終わった後で、レミリアには今回の事件の顛末を全て赤裸々に語って貰うとしよう。
その際には茶屋の新作の茶菓子を茶請けにするのも悪くは無いな。だからレミリア、頼むから怪我一つ無く人里に戻ってこい。
怪我人の面倒をみる相手まで怪我をしていては、こっちの気も休まらないだろうから。
~side 妹紅~
「それじゃ、世話になったわね。フラン…じゃなくて、レミリアは竹林の方向に向かったのね?」
「ああ、それは間違いないよ。私が見た限りではね」
人里の外、慧音を見舞い終え、フランドール達は早速姉を追うべく行動に移そうとしていた。
本当、実に気持ちの良い連中だと思う。それがどうして慧音を傷つけるような奴の妹なのかさっぱり理解出来ないけれど…まあ、そういうこともあるんだと思う。
全てが終えたら、また人里に来るらしいから、その際は是非とも共に酒でも酌み交わしてみたいものだ。こういう連中は嫌いじゃないから。
「それじゃ行くよ、パチェ、美鈴」
「ええ」
「はいっ」
「それと萃香…本当に頼むわね」
「はいよっと。ま、分身が居れば私はその光景だけは見れるからね。脇役は観客に徹するとするよ。
ほらほら、夜は短いんだ。さっさと妹…じゃなくて姉を捕まえて拳の一発でもくれてやりなよ」
「そんな無理ゲーを…ま、まあとにかく必死で頑張ってくるわ。それじゃ妹紅、また会いましょう」
そう言い残し、今度こそ連中は人里から離れていった。…何故か一人を残して。
その残された一人…確か萃香とか呼ばれてたっけ。萃香に私は疑問符を頭に浮かべたまま訊ね掛ける。
「いや…アンタ、なんで残ってるのよ?連中と一緒に行かなくていいの?」
「うん?まあ、最初はそのつもりだったんだけどね。親友から一つ頼まれちゃってさ」
「頼み?」
「ああ。『慧音が体調を取り戻すまで、人里を護ってあげて欲しい。きっと妹紅一人じゃ辛い筈だから』って。
ま、そういう訳でこの伊吹萃香様が手を貸してあげるんだ。大船に乗ったつもりで構えてなよ。にゃはははは!」
萃香の言葉に、私はその願いを込めた人物が誰であるのかをすぐに悟る。本当、吸血鬼のくせにお人好しだ。馬鹿だ。
自分自身が悪い訳でもないのに、本当に余計な気苦労まで背負っちゃって…軽く息を吐き、私は笑みを零して言葉を紡ぐ。
「本当に呆れるくらいに良い奴だよね。そしてどこまでも気持ち良くすらあるわ。
吸血鬼、フランドール・スカーレットか…ふふっ、帰ってきたら焼き鳥の一つでも振舞ってあげようかね」
「おいおい、人の親友の名を間違ってくれるなよ?」
「へ?」
何を言っているんだというような私に、萃香は胸を張って力強く言葉を放つ。
それはまるで自分のことを自慢するように。己が武勇を語る様に。
「――レミリア・スカーレット。それが天下無双のこの私、伊吹萃香が唯一無二の親友と認めた友人の本当の名だよ。
どこまでも強く、どこまでも勇ましく、そしてどこまでも優しき小さな勇者。それがレミリア・スカーレットさ」
輝く笑顔と共に嬉々として語る少女の顔。それは、どこまでも親愛と誇らしさに満ちたモノで。それを見て、思わず私も笑ってみせる。
幸か不幸か、今宵の夜は長い。なればこそ、夜が明けるまで聞かせてもらおうじゃない。私にもその小さな優しい勇者様の私の知らない武勇伝をね。