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No.13774の一覧
[0] うそっこおぜうさま(東方project ちょこっと勘違いモノ)[にゃお](2011/12/04 20:19)
[1] 嘘つき紅魔郷 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:52)
[2] 嘘つき紅魔郷 その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[3] 嘘つき紅魔郷 その三 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[4] 嘘つき紅魔郷 エピローグ (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[5] 嘘つき紅魔郷 裏その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[6] 嘘つき紅魔郷 裏その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:55)
[7] 幕間 その1 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:11)
[8] 嘘つき妖々夢 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:24)
[9] 嘘つき妖々夢 その二[にゃお](2009/11/14 20:19)
[10] 嘘つき妖々夢 その三[にゃお](2009/11/15 17:35)
[11] 嘘つき妖々夢 その四[にゃお](2010/05/05 20:02)
[12] 嘘つき妖々夢 その五[にゃお](2009/11/21 00:15)
[13] 嘘つき妖々夢 その六[にゃお](2009/11/21 00:58)
[14] 嘘つき妖々夢 その七[にゃお](2009/11/22 15:48)
[15] 嘘つき妖々夢 その八[にゃお](2009/11/23 03:39)
[16] 嘘つき妖々夢 その九[にゃお](2009/11/25 03:12)
[17] 嘘つき妖々夢 エピローグ[にゃお](2009/11/29 08:07)
[18] 追想 ~十六夜咲夜~[にゃお](2009/11/29 08:22)
[19] 幕間 その2[にゃお](2009/12/06 05:32)
[20] 嘘つき萃夢想 その一[にゃお](2009/12/06 05:58)
[21] 嘘つき萃夢想 その二[にゃお](2010/02/14 01:21)
[22] 嘘つき萃夢想 その三[にゃお](2009/12/18 02:51)
[23] 嘘つき萃夢想 その四[にゃお](2009/12/27 02:47)
[24] 嘘つき萃夢想 その五[にゃお](2010/01/24 09:32)
[25] 嘘つき萃夢想 その六[にゃお](2010/01/26 01:05)
[26] 嘘つき萃夢想 その七[にゃお](2010/01/26 01:06)
[27] 嘘つき萃夢想 エピローグ[にゃお](2010/03/01 03:17)
[28] 幕間 その3[にゃお](2010/02/14 01:20)
[29] 幕間 その4[にゃお](2010/02/14 01:36)
[30] 追想 ~紅美鈴~[にゃお](2010/05/05 20:03)
[31] 嘘つき永夜抄 その一[にゃお](2010/04/25 11:49)
[32] 嘘つき永夜抄 その二[にゃお](2010/03/09 05:54)
[33] 嘘つき永夜抄 その三[にゃお](2010/05/04 05:34)
[34] 嘘つき永夜抄 その四[にゃお](2010/05/05 20:01)
[35] 嘘つき永夜抄 その五[にゃお](2010/05/05 20:43)
[36] 嘘つき永夜抄 その六[にゃお](2010/09/05 05:17)
[37] 嘘つき永夜抄 その七[にゃお](2010/09/05 05:31)
[38] 追想 ~パチュリー・ノーレッジ~[にゃお](2010/09/10 06:29)
[39] 嘘つき永夜抄 その八[にゃお](2010/10/11 00:05)
[40] 嘘つき永夜抄 その九[にゃお](2010/10/11 00:18)
[41] 嘘つき永夜抄 その十[にゃお](2010/10/12 02:34)
[42] 嘘つき永夜抄 その十一[にゃお](2010/10/17 02:09)
[43] 嘘つき永夜抄 その十二[にゃお](2010/10/24 02:53)
[44] 嘘つき永夜抄 その十三[にゃお](2010/11/01 05:34)
[45] 嘘つき永夜抄 その十四[にゃお](2010/11/07 09:50)
[46] 嘘つき永夜抄 エピローグ[にゃお](2010/11/14 02:57)
[47] 幕間 その5[にゃお](2010/11/14 02:50)
[48] 幕間 その6(文章追加12/11)[にゃお](2010/12/20 00:38)
[49] 幕間 その7[にゃお](2010/12/13 03:42)
[50] 幕間 その8[にゃお](2010/12/23 09:00)
[51] 嘘つき花映塚 その一[にゃお](2010/12/23 09:00)
[52] 嘘つき花映塚 その二[にゃお](2010/12/23 08:57)
[53] 嘘つき花映塚 その三[にゃお](2010/12/25 14:02)
[54] 嘘つき花映塚 その四[にゃお](2010/12/27 03:22)
[55] 嘘つき花映塚 その五[にゃお](2011/01/04 00:45)
[56] 嘘つき花映塚 その六(文章追加 2/13)[にゃお](2011/02/20 04:44)
[57] 追想 ~フランドール・スカーレット~[にゃお](2011/02/13 22:53)
[58] 嘘つき花映塚 その七[にゃお](2011/02/20 04:47)
[59] 嘘つき花映塚 その八[にゃお](2011/02/20 04:53)
[60] 嘘つき花映塚 その九[にゃお](2011/03/08 19:20)
[61] 嘘つき花映塚 その十[にゃお](2011/03/11 02:48)
[62] 嘘つき花映塚 その十一[にゃお](2011/03/21 00:22)
[63] 嘘つき花映塚 その十二[にゃお](2011/03/25 02:11)
[64] 嘘つき花映塚 その十三[にゃお](2012/01/02 23:11)
[65] エピローグ ~うそっこおぜうさま~[にゃお](2012/01/02 23:11)
[66] あとがき[にゃお](2011/03/25 02:23)
[67] 人物紹介とかそういうのを簡単に[にゃお](2011/03/25 02:26)
[68] 後日談 その1 ~紅魔館の新たな一歩~[にゃお](2011/05/29 22:24)
[69] 後日談 その2 ~博麗神社での取り決めごと~[にゃお](2011/06/09 11:51)
[70] 後日談 その3 ~幻想郷縁起~[にゃお](2011/06/11 02:47)
[71] 嘘つき風神録 その一[にゃお](2012/01/02 23:07)
[72] 嘘つき風神録 その二[にゃお](2011/12/04 20:25)
[73] 嘘つき風神録 その三[にゃお](2011/12/12 19:05)
[74] 嘘つき風神録 その四[にゃお](2012/01/02 23:06)
[75] 嘘つき風神録 その五[にゃお](2012/01/02 23:22)
[76] 嘘つき風神録 その六[にゃお](2012/01/03 16:50)
[77] 嘘つき風神録 その七[にゃお](2012/01/05 16:15)
[78] 嘘つき風神録 その八[にゃお](2012/01/08 17:04)
[79] 嘘つき風神録 その九[にゃお](2012/01/22 11:18)
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[13774] 嘘つき萃夢想 その三
Name: にゃお◆9e8cc9a3 ID:2135f201 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/18 02:51




「それじゃ、また遊びに来るぜ。多分明日の昼くらいに」
「はあ…魔理沙、貴女もう紅魔館に住んだ方が色んな手間が省けて早いんじゃないの?そんなに毎日毎日来るのならね」
「魅力的な御誘いだがそいつは無理な相談だ。魔法の森に住んでるから魔法使い、そのポリシーだけは譲れないからな」
「はいはい、冗談よ。それじゃまた明日」

 私を紅魔館のテラスに箒から降ろし、魔理沙は無駄に男前な笑顔を浮かべて日の落ちた空へと飛び去って行った。
 魔理沙が見えなくなるのを見届けてから、私は手に持つ漫画本の入った袋と共に、自室の方へと足を進めていく。
 人里では魔理沙と茶屋でまったりしたり、本屋で漫画を購入したりとなかなか実に有意義な時間を過ごすことが出来たわ。
 魔理沙相手だと一切気を使わなくていいから楽ねえ。まあ、美鈴のときも咲夜のときも気を使ってないんだけど。
 後は晩御飯までゆっくり漫画タイムを決め込むとしましょう。その者、熱き漫画を運びて怠惰の世界に降り立つべし…ってね。 ランランララランランラン。
 鼻歌を口ずさみながら、私はゆっくりと自室の扉を開け、室内に入る。そして、ベッドに身体を投げ出して袋を漁って漫画を取り出そうとする。

「さてさて、晩御飯までまだまだ時間もあるし、二巻分くらいは…」

 そこまで独り言を呟き、私は漫画に伸ばそうとした手を止める。何故なら、私の視界におかしなモノが入ってしまったから。
 私が何よりの楽しみにしている漫画時間、それを止めてしまったモノ。それは私の部屋に決して存在する筈の無いモノ。
 いや、私の部屋っていうか…普通の人の部屋には絶対無いと思う。変人で名高い紫の部屋にだって無いと思う。そんなモノが、私の視界に入ってしまったのだ。
 見間違いかと思い、目を何度か擦ってみるものの、それが幻と変わってくれることは無くて。つまりこれは私の見間違えとかじゃなくて。
 私の視界の先に在るおかしなモノ――それは頭から二本の角を生やした幼女さん。どう見てもまだ年端のいかない少女。…いや、外見なら私も充分子供なんだけど、その私に負けてないレベル。
 その女の子がこの部屋に居る理由は勿論全く知らないけれど、その子は部屋の中央にぷかぷか浮いて瓢箪に口付けている。…お酒を飲んでるのかしら。
 いや、その子が何を飲んでいるのかは置いといて…あの、あれ、誰?えっと…確かに最近毎日のように入れ替わり立ち替わりで
お客さんが紅魔館に来るんだけど、あんな知り合い私に居たっけ…いや、普通に知らない女の子だし…いやいや、待ちなさいレミリア、これは孔明の罠かもしれないわ。
 もしかしたら、この娘は私の昔の知り合いで、遊びに来てるのかもしれない。だって、そうじゃない?全く見知らぬ赤の他人を美鈴が
素通しさせる訳が無いもの。この紅魔館は門を通らないとお父様の遺した障壁で入れないようになってるし。あ、紫は別だけど。
 だったら、残る可能性は私の知り合い…しかも、私の部屋であんなに寛いでいるところを見るに、相当仲が良かった子なのかもしれないわ。
 美鈴が通したってことは、美鈴がこの館で働き出した頃から今の間までの期間の知り合いということかしら。…ヤバイ、美鈴って
お父様が主だった代から紅魔館で働いてるからざっと三百年は思い出さないといけない。う~ん…友達は無いわ。私、パチェ以外友達が一人も
いなかった純粋なぼっち女だったし…お父様の部下の娘とか…あああ本気で思い出せない…どうしよう…このまま『アンタ誰?』なんて言うのも失礼だし…
 私の昔の知り合いだというのは間違いない筈なんだけど…だって、あんなに私の部屋で我がモノ顔に振舞ってるのよ?まるで慣れ親しんだ我が家のように寛いでるのよ?
あれだけの姿を見せられては、流石に赤の他人とは思えないし。思い出せ、思い出すのよレミリア。うー…お父様の右腕だったオオカミ男さんの娘さんとか。
 本当、我ながら記憶力の無さに呆れるしかないわ。思い起こせば、私って本当に記憶力が全然無い気がする。美鈴が館に来る五十年前くらいの
記憶はあるんだけど、それ以前の記憶なんかこれっぽっちも覚えてないし…まあ、どうせ今と何一つ変わらない自堕落っぷりなんでしょうから興味無いけど。
 …って、違う違う、今大事なのは目の前の女の子のことを思い出すこと…なんだけど、うん、無理。だってこんな娘本当に記憶に無いんだもの。
 頭から角が生えてるし、妖怪の娘には間違いないんでしょうけど…身体から妖気が微弱にしか感じられないのよね。正直、私とどっこいくらい。なんか見てて可哀そうになる
くらい…成程、外から見た私ってこんな風なのかしら。というか、みんな私を強い強いって勘違いしてるけど、妖気の量とかで気付けないのかしら。
 そりゃ私が某野菜人のように戦闘力を上下出来るスカウターに優しくない生き物だったら別なんでしょうけど…ああもう、全く思い出せない。よし!諦めた!
 もうどれだけ考えても思い出せないから、私が取るべき方法は一つ。それは勿論、『知ったかぶり』よ!
 女の子に『久しぶり~!』みたいな感じで話しかけ、少しずつ会話するうちに思い出すだろうって流れ。まあ、全くの他人である可能性なんて
皆無なんだし、これでいけるでしょ。ちょっと思いだせないところはぼかしたり誤魔化したりすればいいし。
 よし、作戦が決まったらレッツトライ。とりあえず知り合いだから馴れ馴れしくて良いのよね…よし、せーのっ。

「連れないねえ。一人ガツガツ呑むだけが酒の楽しみ方という訳でもないだろう?」
「――っ」

 私の声に、酒を飲んでた女の子は目を見開いて私を見る。うわ、めっちゃ驚いてる…なんで?私が声掛けるの待ってたんじゃないの?
 この娘、結構豪快な酒の飲み方をしてたけど、それとは対照的に人見知りする娘なのかしら。それなら私がリードしてあげないと
駄目ね。そう!つい最近リア充デビューを果たしてしまったこの私!レミリア・スカーレットが!(強調)

「花も無ければ鳥も無い。風も無ければ月も無い。自然無くして深く酒を愉しむには、人を寄り添わせるのが手っ取り早い。違うかい?」
「…違いないね。人が萃まりゃ景色も踊る、実に私好みの酒の楽しみ方さね」
「そう、そして私好みの楽しみ方でもある。こんな良い女を放置して独り酒とは、本当にお前は見る目が無い」
「にゃはは、それは確かに私が悪かったね。自分の仕掛けた喜劇を眺めるのに夢中になって、足元の注視を完全に怠っていたよ」

 角を生やした幼女さんは、笑顔を浮かべて私の腰掛けるベッドに座りこむ。あ、今ちょっとお酒零したわね。お布団がお酒臭くなるじゃないのよ。
 しかし、この反応を見るに、どうやら私の取った作戦は間違いじゃ無かったようね。この娘と私は知人で決定みたい。普通、私とこの娘が
他人だったらガン無視の筈だものね。私が素敵な男の子だったら話は違うんでしょうけれど。くそう、これが※ただし(ryって奴なのね。
 まあ、それはさておき、さっさと適当に会話して、この娘の名前と私に久々に会いに来た目的を訊き出さないと…って、あれ、何か見てる。

「…紫か」
「は?」
「む~、紫の奴、この件に関して一切手出しはしないと読んでたんだけど…まあ良いけどさ。本当、紫の奴はなんでそこまでコイツに入れ込んでるのかねえ」

 あれ、この娘もしかして紫の知り合い?…うわ、私の知り合いで紫の知人がいたんだ…なんか嫌な縁だなあ。
 しかし、逆に言えば紫のおかげで共通の話題が出来たわ。感謝するわ、紫。貴女の話から少しずつ斬り込ませて貰うから。

「それは私が知りたいくらいさ。私なんかより面白い連中は五万といる。
妖怪として紫が興味を引くようなものなんて、私は何も持っていないと言うのに。本当、あれは不思議な妖怪だよ」
「へえ、それを認めるんだ。紫の友でありながら、自分が矮小な存在だって簡単に認めるのかい」
「当然でしょう?私は自分自身の在り方を当然他の誰よりも理解しているわ。私は紫の興味を引くような妖怪じゃない。だけど…」
「だけど?」
「――だけど、それでも私は紫の友人だ。紫がどうして私に興味を持ってくれたかなんて微塵も理解出来ない。
けれど、紫はこんな私を友だと言ってくれた。対等の友として、紫は私に接してくれるんだ。ならば、私は紫の想いを裏切らない。裏切れない。
自分の存在がどうこうなんて関係ない。幾ら紫と比肩して私が矮小であっても、この気持ちが確かなものだと知っているから、私は紫の友人だと胸を張るよ」

 …あれ、何か話を美化しすぎた気がする。結局言いたかったのは、『私雑魚だけど紫が友達と認めてくれる限りは友達な関係だよね』ってことなんだけど。
 これじゃまるで紫がメッチャ良い奴じゃない。いや、この娘も紫の知人だから、別に良いわよね?そろそろ『紫はそんなキャラじゃねー!』って突っ込みがくるだろうし。
 そうしたら私も『紫が変な奴だって!?…だよねえ~!』って同意しよう。さあこいバッチこい。ノリ突っ込みは私の得意分野よ。
 私の顔を、幼女はじっと見つめ、何かを確認するように何度か頷いてゆっくりと言葉を紡ぐ。

「…私は嘘つきが嫌いだ。そして、その何倍も自分を卑下する奴が大嫌いだ。
自分を卑下する奴らは己が境遇を呪うばかりで努力することをしない。未来を切り開くことを最初から放棄してる。勇無き奴らだからね」

 ふーん、嘘つきで自分を卑下する奴ねえ。まるで私のことじゃない。一日中ネガティブな考えして未来切り開く努力捨ててるし、
記憶の続く限りずっと嘘…は、ついてないんだけど自分は強いって周囲を騙してる…いや、勝手に思い込まれてるだけなんだけど、そんな感じだし。
 あれ?つまりこの娘、私の事嫌いって言ってるの?えええ…全然話が違うじゃない。紫の話題じゃ場を開くどころか困窮に追い込んじゃったじゃない。
 もしかして紫を褒めたのが駄目だったのかしら…アンチ紫だったのかな。紫、フラフラして敵自体はあまり作らなさそうなイメージなんだけど…
 まあ、紫が嫌われてるだけじゃなくて、私も嫌われたのか…まあ、仕方ないわよね。だって私、この娘のこと本当に思い出せないんだもん。それなのに
これまで頑張って会話したと思うわ。多分この娘は『昔のレミリアと違う!失望した!』ってなってるんだと思うけれど、こればっかりは…ねえ。
 …いや、ちょっと待って。勝手に人の家に上がり込んで、勝手に人に期待して、勝手に幻滅するってどうなの?流石にこれはナシじゃない?
 このままこの娘はプンプン怒ったままお帰りになるんでしょうけど、少しくらい言っても良いわよね。うん、ちょっとくらい嫌味を言っても大丈夫よね。

「嫌い、ねえ…それなら私はお前にとって国士無双の嫌われ者って訳だ。こればかりは幾らありったけの勇を振るおうと覆せないか」
「ついでに加えさせてもらうなら、自分で勝手に人の考えを決めつける奴も嫌いかな」
「嫌い嫌いと煩わしい。だったらお前は一体何を好むと言うの?」

 ダメダメダメダメダメダメダメダメピーマン残しちゃいけません…って、むきー!何なのよコイツ!さっきから私の事嫌い嫌いって!
 もしかしてコイツは私に嫌味を言う為だけに数百年ぶりに会いに来たっていうの!?何て性根の腐ってる…オ・ノーレ!!
 もういい、さっさと咲夜か美鈴を呼んでご丁重にお帰り頂こう…ふん、べ、別にこれ以上嫌いって言われると本気で泣きそうだからって理由じゃ
ないんだからねっ!勘違いしないでよねっ!これで勝ったと思うなよ~!!将来絶対ダニエルになってやるううう!!

「そうだな…私はね、勇ある者が大好きだ。そして、仁に厚い奴も大好きだ」
「へえ…それはそれは抽象的な好みだ。勇も仁も兼ね備えた奴なんて、パチェの持つ歴史書を片っ端から紐解いた方が早く見つかりそうだ」
「そうかい?少なくとも、私の近くに一人そういう奴が存在すると思うけど」
「紫は勇があるとは言わない。あれは怖い者なんて存在しないから勇を振り絞る機会が無い」
「ん~、紫は私の好みとは全くの正反対だ。あれはあれで面白いから友達やってるんだけど…居るだろう?
己が無力さを知りながら、鬼を前にして一歩も引かずに堂々と対等の会話をし続ける勇の心を持ち、
胡散臭い妖怪が相手でも、胸を張って友人だと言い放つ仁の心を持つ。そんな面白い奴がさ」

 へえ、そんな奴が居るんだ。何この幼女、そいつのことべた褒めじゃない。というか、他人を持ち上げる能力があるのなら
少しは私に対してフォローの一つもしてくれても良いじゃない。私の事は嫌いで、そいつのことは好きなのね。くそう、幾ら
私でも初対面…じゃないんでしょうけれど、面識の無い相手に嫌われるのは流石に堪える。小心者舐めんな、気を緩めたらすぐに泣く自信があるわよ。
 しかし、用が済んだなら早く帰ってくれないかしら…いや、そもそもこの娘の用って一体なんなのよ。私に嫌いって言いにきただけ?
 …これは何の嫌がらせなのかしら。文句だけを言いに来た奴を私の部屋まで通すって…美鈴の無言の抗議なのかしら。
 まあ、でも嫌われてるなら話は早いし。うん、もう名前も思い出さなくて良いわよね。友情は見返りを求めない…なんて言うと思ったのか?私は見返りの無い
愛情なんて御免なのよ。ううん、なんて我ながら器の小さい吸血鬼。流石はベテランの引き籠りだと褒めてあげたいところよね。幾らパチェとてこの私を超えることは出来ぬ…って、
幼女の奴、また私を見てるし…。何、コイツもしかして嫌いな奴を観察するのが趣味なの?私は趣味が人間観察ですっていう奴は一切信用しないことにしてるんだけど。

「そうだね…差し引きゼロってところかね。気に食わない点も多々あるが、気に入った点も多いに在る。合格だよ、吸血鬼」
「あら、それは光栄なことね。合格祝いに今日は館をあげてパーティーかしら」
「そうそう、目出度い時は大いに騒ぎ大いに飲めばいい。人も妖しも入り混じって朝まで騒ぐのさ」
「冗談よ。昨日宴会をしたばかりだと言うのに、毎日毎日宴会騒ぎを起こしてなるもんか。私の身体が先に潰れてしまうよ」
「年寄り臭い事言うんじゃないよ。まだまだ若いんだろう?」
「お前に言われたくは無い台詞だよ、小娘」
「私相手に小娘か。くふふっ、いやあ、他人に馬鹿にされたのなんて何十年振りかねえ!私相手に言いたい事をスパッと言う点は気に入った!」

 …いや、どう見ても私より年下(しかも私以上に妖気が殆ど感じられない最弱)妖怪相手に言いたいこと言えなかったら、
私本当に蟻以外に口がきけなくなるし。何か偉そうな感じだし、やっぱりお父様の部下の娘か何かかしら。随分箱入り娘として
育てられたのねえ…まあ、私は心が広いから別に気にしないんだけど。まあ年上としては後で優しく窘めるとかしないといけない気がするけどね。

「そうかい、満足してくれたのなら幸いだよ。満足してくれたのならそろそろ…」
「そうだね、そろそろ喉も乾いてきた頃だろう。ほいっと」

 そろそろ帰れ。そう言おうとしたら、何故か酒升を渡されたでござるの巻。いや、何でさ。
 どうしてゴートゥーホームがお酒を酌み交わすことになってんのよ。いや、喉は確かに乾いてるけど…あ、酒も注いじゃうのね。私の
意志は無視なのね。仕方ない、もうちょっとだけ付き合おう…はあ、なんで私は自分の部屋で記憶に残ってすらいない相手の接待をしてるのよ。
 この娘あれよ、将来絶対空気読めない娘になるわ。一人暮らししてる友達(彼女持ち)の家に上がり込んで、そわそわしてる友人を余所にいつまでも帰ろうとしないタイプよ。

「今宵の酒は月見酒、空気の霞みも実に悪くない塩梅だ。誰かと飲む酒も久しぶりだしね」
「そうかい、私はこれで二日連続だ。幾ら酒に強い私でも、これだけ続くと流石に胃にもたれそうだよ」
「んん?お前、酒に強かったのか。なんだなんだ、それならそうと早く言ってくれれば良いのに。
いつも宴会の席で酒を飲んでないから、酒が嫌いな奴なのかと思ったじゃないか。にゃはは、こいつは益々気に入ったよ」

 …こいつ、何言ってるのかしら。私は宴会の度にいつもいつも赤ワインをこれでもかってくらい飲んでるじゃない。
 もしかしてアレかしら。この幼女は日本酒以外は酒じゃないってタイプなのかしら。まあ、その拘りはよく分からないけど。
 でも、『いつも宴会の席で』って、まるで最近の宴会にずっと参加してたみたいな物言いをするのね。変な奴。お父様が
開いてたパーティーでのことを言ってるのかしら…まあ、いっか。さっさと酒を飲んで、この幼女ちゃんに満足して帰って貰いましょう。早く漫画読みたいし。
 私は日本酒を口元に近づけ、ふととある事に気付く。それは本当に今更なことで。

「…そう言えば、ワイン以外のアルコールを飲むのは初めてね」
「おおう、そうなの?くふふ、それじゃいっちょこの伊吹萃香様が最高の酒の飲み方ってもんを教えてやろうじゃないか!
今回みたいな酒なら、一気に呷るのが美味い酒の飲み方さ。チマチマ飲むのを悪いとは言わないが、めでたい席にそれは戴けない。
鬼のように豪快に、鬼のように力強く、それが正しい酒の飲み方だよ。まあ、紫は下品だって全然取り合ってくれないんだけどさ…頭の固い奴」

 嬉しそうに語る幼女…あ、今さり気なく名前を言ったわね。伊吹萃香…やばい、名前を聞いても素で思い出せない。
 もしかして、この娘って本当は私とは初対面なんじゃ…いや、そんな訳ないわよね。誰にも気付かれずに私の部屋に侵入し、
しかもこんな風に馴れ馴れしく接してくる紫みたいな化物がそうゴロゴロしててたまるもんか。とにかく萃香に関してはもうちょっと情報を集めよう、うん。
 しかし、紫の奴もコミュニケーションが下手ね。萃香の話しぶりを見て、この娘がどれだけ酒が好きかなんて分かるじゃない。しかも
飲み方には相当な拘り持ってるみたいだし…そういうタイプの人を頭から否定しちゃ駄目なのよ。他人が熱く語る話はしっかりと聞き頷き同意してあげるのが
世渡りのコツなんだってパチェの持ってる本に書いてた。まあ、私のようにアルコール耐性が完璧な奴じゃないと、今回ばかりは厳しいでしょうけれど。

「フフッ、そういう豪快な奴は嫌いじゃないよ。折角の指南だ、教えに沿って酒を呷り飲み干すのも悪くは無い」
「あははっ!良い!実によく分かってるじゃないか、レミリア・スカーレット!アンタは鬼の在り方ってもんをよーく理解してる!」
「馬鹿ね、私を誰だと思っているのよ。幻想郷のみんなは私の事をこう呼ぶわ。 吸血『鬼』ってね」

 さっきから鬼鬼連呼してるけど、この娘は鬼が好きなのかしら。この娘は妖気の量からして鬼な訳ないし。鬼って最強と謳われる妖怪の種族の一つだし。
 私は萃香の満面の笑みを横目に、手に持つ酒升を一気に傾ける。升内の液体は全て私の口の中へ注ぎ込まれていく。ふうん、おしゃけってわいんとくらべてずいぶんのみにきゅ…















 ~side 萃香~



 正直なところ、最初は微塵も興味は無かった。それが私、伊吹萃香のレミリア・スカーレットに対する心からの本心だった。
 冥界の亡霊のせいで、今年は春が短くなり、幻想郷中で行われる宴会がめっきり少なかった。その事を不満に思い、私は己の力で幻想郷中を宴会騒ぎに巻き込むことを画策した。
 幻想郷中に妖霧を散布させる点において、まず必要となる宴の基点。その基となるモノを探していた私が最初に見つけたのが、この紅魔館だった。
 この紅魔館に住まう吸血鬼、レミリア・スカーレット。千年と生きていない未熟な吸血鬼、そいつがここ最近の幻想郷の『騒ぎ』を引き起こしている
要因だと私はすぐに知った。紅霧が幻想郷中を覆った時も、亡霊が幻想郷中の春を奪った時も、嵐の中心に居たのはコイツ。レミリアが居る場所に嵐は必ず舞い起こる。
 そして何より、レミリアは人妖問わず誰からも好まれている。人と人とのつながりが、祭りの気配を醸し出す。そういう意味で、レミリアは私にとって最高の道具だった。
 今回、私が計画した幻想郷中で宴会を行わせる騒気の散布、そしてその騒ぎを元に地底の鬼達を幻想郷に戻らせる計画。それらを全て
レミリアを取り巻く周囲環境を利用することで、実行に移すことにした。狙い通り、実行後はレミリアを巻き込んで毎日のように大騒ぎがこの館で行われた。
 勿論、私の存在に薄々と気付いた奴も何人か居た。だけど、私の霧化を破れるのは紫だけ。だから誰も私のところまで辿り着ける筈も無い。
 その紫も私に対して傍観を決め込むことを約束した。そう、ただ一つのイレギュラーを残して。

「だ~か~らっ!れーむはつおいのっ!ときどきこわいのっ!がーんでどーんでばーんなのっ!わかるっ!?」
「はいはい、分かってるよ。博麗の巫女はメチャクチャ強いって話だっけ。良い事じゃんか、人間はそれくらい反骨心がないといけない」
「ばかっ!にんげんであんにゃにつよいとかないわよ!それじゃわたしはどうなるっていうのよ!わたしそらもまんぞくにとべにゃいのにっ!」

 唯一のイレギュラー、それは私が利用させてもらった紅魔館の主、レミリア・スカーレット。
 紫の干渉という裏技によって、私に『触れる』ことに成功した吸血鬼。現在の地上において、紫以外で唯一私の存在を知り得ることが出来た妖怪。
 否、吸血鬼だの妖怪だの言葉でコイツを取り繕うことに何の意味も無い。何故ならレミリアは有象無象の妖精共にすら劣る力しか持っていないのだから。

「うー…なんでみんなみんなあんなにつよいのよお…わたしはなんでこんなによわいのよお…ばーか!みんなばーか!」
「おお、凄い揺れ方だ。さっきから酒をガンガン零してるけど、ベッド汚しても構わないのかい?」
「これはさけじゃにゃいっ!これはあ~!これはあ~!わたしのなみだよっ!えんえんないたなみだなのっ!
みんなつよいのっ!つよすぎるのっ!わたし、きゅうけつきなのよ~!こわいのよっ、こわいのよっ!きゅうけつきはこわいのよっ!でもよわいのよ!」

 本人もさっきから呂律が回らない口調で認めるように、レミリアは吸血鬼なのに何故か力を有して無い。妖力が殆ど感じられない。
 それは別に私のように力を他者に見えない程に微細化させて霧と化させた訳でも、力を抑え隠している訳でもなんでもない。ただ、本当にレミリアは弱いらしい。
 吸血鬼は私同様、鬼の名を持つ通り妖怪の中でも上等な部類に入る強さを持つ種族だ。それがこんなレミリアのように力を一切持たないなんて
考えられない。まあ…そんなところも『あの』紫が興味を示している点でもあるんだろうと私は考えている。アイツは物珍しいモノを興味を示す奴だから。
 だけど、結局はそれだけだ。結局のところ、レミリアは『力を持たない脆弱な吸血鬼』でしかなく、強い者に興味を示す私にとって
それは唯のマイナスポイントでしかなく、唯でさえ薄い興味を皆無にさせる方向にしか働かなかった。そう、実際にレミリアと会話をするまでは。
 大いに疑問だったことがあった。結局、弱い吸血鬼でしかないレミリア。それも周囲に自分が強いなどという幻像で自身を偽り、欺こうとする
吸血鬼にどうしてこんなにも人が集まるのか。どうして誰も彼もがレミリアに近づこうとするのか。
 博麗の巫女も西行寺の亡霊もこの館の真の吸血鬼も、誰もが儚い吸血鬼の『熱』を求めようとする。一体コイツに何の価値があるのか、そんな風に私は考えていたんだ。

「弱いと境遇を嘆くより、取るべき道は数多在る。強くなりたきゃ一に鍛錬二に鍛錬、三四に飲酒で五に決闘さ」
「いいよお…もうわたしはあ、わたしTUEEEなものがたりの~…しゅじんこうにはにゃれにゃいってしってるもん。
うふふ、でも、べつにいいんだあ…わたし、よわくてもいいよ。よわくても、わたしにはさくやがいるもん」
「咲夜?誰だい、そりゃ」
「わたぁしのぉ、じまんのーかわいいーかわいいーひとりむすめよお。
なんにもないわたしだけどぉ、さくやがいればそれでいいんだもん。さくやがいれば、わたしはわたしでがんばれるんだからぁ。
よわくて、やくたたずで、なんにもできなくて…けど、わたしはさくやのおかあさんだもん。さくやがぁ、わたしを~たよってくれたのよ。
おかあさん、おかあさんって、たくさんたくさんあまえてくれたのよぅ。さくやがたよるんだもん、こんなだめだめなわたしを、さくやがたよってくれるのよぉ」

 レミリア・スカーレットに皆が心を奪われる理由――それは、この妖怪の持つ本当の在り方が実に眩いモノだからだ。
 この妖怪は情で行動を判断する。心に由り、他者に寄る生き方をレミリアは望み行動する。言ってしまえばこの幻想郷の誰よりも人間らしい生き方をしている。
 レミリアの素顔を知った今だからこそ分かることが有る。レミリアはこの館に来た誰が相手であっても友として歓迎し、交わっている。
 相手が種族として劣る人間だろうが、妖怪としての誇りを刺激する格上の妖怪だろうが、レミリアは笑って迎えている。
 紫や亡霊相手だろうと、レミリアの中に在るのは友としての関係だけ。そこに他の思考など混じる余地は無い、打算や駆け引きなど以ての外。
 どんな相手をもレミリアは受け止める。そして、そんなレミリアの在り方が他の奴らにとっては心地良いんだろう。当然だ、友として
純粋に原寸大の自分を見、受け入れてくれるのだ。しかも相手は吸血鬼だというのに、だ。恐らく、レミリアが弱い事を
紫をはじめとした連中は皆理解してるんだろう、だからこそ余計にレミリアに惹かれてしまう。

「さくやだけじゃないのよっ。さいきんはね、わたしにもたくさんたくさんともだちができてねっ。
れいむにい、まりさにい、ありすでしょ、ようむでしょ、ゆゆこにゆかり!ともだちがたくさんできたのよっ!
そして~、わたしにはかぞくもいるのよ。ぱちぇにめいりん。そしてふらんっ!ねえ?ぜんぜんよわくてもいいでしょ~?」
「良いのかい?周りに強い奴等が集まってるから、自分は強くなくて良いってこと?」
「ちがう~。わたしがいいたいのはあ、つよくなくてもわたしはじゅーーーーーぶんに『しあわせ』だってことっ!
たくさんともだちがいて、たくさんかぞくがいて、たくさんすきなひとがいて~、わたしはぜったいぜったいしあわせものなのよ!
げんそうきょーでいっちばんしあわせなの!えへへ、どうだ~まいったかっ」
「はいはい、参った参った。アンタは世界で一番幸せ者だよ、おめでとさん」
「でしょ~?…うー!すいかー!さけがにゃいじゃない!わたしのおさけー!おさけー!おさけおさけおさけー!」
「ベロンベロンに酔っぱらってるくせに酒を飲むペースは早いのか。本当、面白い奴だねえ。ほいよっと」

 紅霧異変に春雪異変。二つの異変がレミリアを舞台の上に引きずり出したか。
 どうしてレミリアが紅魔館のトップに飾り立てられているのかは知らない。だけど、レミリアが自発的にそんなことを
するとは到底思えない。となると、紫やコイツの妹辺りが裏で糸を引いてるのか。発端を考えると、妹の方が当たりだろう。
 さて…この幻想郷のルールに滅びの運命でも見たか。博麗の巫女、隙間妖怪、西行の亡霊。この短い間でレミリアが築いた人物関係を
見るに、連続した異変はレミリアと制止力を結び付ける為か。誰が考えたシナリオかは知らないけれど、実に堅実で、実に『甘い』。
 確かにレミリアと他の連中の結びつきは生まれただろう。だけど、それは単に糸を軽く結んだだけに過ぎない。軽く結んだ糸は
周囲の環境変化で容易に紐解けてしまう。なればこそ、その糸を堅く強く結び直さなきゃ話は進まない。
 この計画を考えた奴はとことんまでもレミリアに甘い。そして何よりレミリア自身を完全に舐めている。恐らく本人はそんなつもりはないんだろうけれど。
 …そうか、だからこそ紫はこう動いたのか。紫は私の描く台本に一部追加公演を付け加えようとしているのか。本当、狡猾な奴。
 紫は私に役目を背負わせようとしている。レミリア・スカーレットと、他の連中との結びつきをより強固なモノに固めさせようと、鬼としての役割を果たせと訴えている。
 この計画には、私がレミリアに対して興味を示すことが最低条件なんだけれど…そこまでお見通しか。ああ、これなら私は確実に興味を示すだろうさ、本当にやってくれるよ。
 さて、紫の三文芝居に伸るか反るか。私は判断を決めかね、視線を一度レミリアの方へと移し、訊ね掛ける。

「レミリア、お前は『友達』が好きかい?そいつらともっと仲良くなりたいと思うか…って、何この手は」

 私の言葉は途中で遮られることになる。台詞を言い終える前にレミリアが、私の肩をばしばしと叩いたからだ。
 何のつもりなのか意図が全く掴めない私に、レミリアはアルコールのせいで紅に染まった顔を私に近づけて言葉を紡ぐ。

「そんなのあたりまえでしょーっがっ!わたしはー、みんなとっいっしょがいいっ!」
「…いや、一緒が良いかどうかじゃなくてね」
「わたしはみんながすきだもんっ!れいむも、まりさも、ありすも、ようむも、ゆゆこも、ゆかりも!
ぱちぇも、めいりんも、さくやも、ふらんも!みんなみーんなだいすきっ!そしてすいかもだいすきっ!」
「おおう、私もか。にゃはは、まあ、悪い気はしないけどね」
「どーいたしまして!だってわたしたち、ともだちだもんね!すいかとわたしはともだちだもん!」

 レミリアの自信満々な言葉に、私は苦笑を浮かべるしか出来なかった。まさか私まで友達になってるとは思わなかった。
 しかし、友達…か。その言葉に私は胸の奥が熱くなるのを感じていた。私がその言葉に絶望したのは一体いつのことだっただろう。
 古き昔、この世界には勇敢な人間達がいた。鬼を相手にしても、一歩も引かぬ勇敢な人間達だった。種族の違い、力の違いを乗り越え、
勇気と知恵をもって私達を打倒しうる人間達、それを私達は友と呼んだ。殺し合う仲でも、私達は互いを認め合い、互いを求め合った。
 けれど、時代の流れは人間達から勇を失わせていった。一人、また一人と鬼達が人間に失望し、やがて鬼は人と相入れることはなくなった。
 人と鬼の絆は失われ、私達は友と呼べる存在を失った。勇ある人間達は、幻想へと消えていったんだ。鬼相手に一歩も引かない私達の友は。
 そんな勇ある存在は二度と現れないと思っていた。私達、鬼が心震わせるモノを得る機会など、二度と訪れないだろうと考えていた。
 …私は多分認めたくないんだと思う。胸躍る最高の時間が二度と触れることなど出来ない現実を受け入れたくないんだと思う。

「期待…しても良いのかい、紫。私はその気になると一途だよ、下手すると止まらなくなるかもしれない」
「だいじょうぶよっ!ゆかりはゆかりだから!ゆかりはゆかりなのよ!」
「また意味不明なことを…そりゃそうだ、紫は紫以外の何者でもないだろうさ。フフッ、しかしまあ、自身を納得させるにゃ十分過ぎるか。
よ~し!良いだろう!嫌われ役は鬼の仕事だ、全部まとめて引き受けてやるよ!レミリア、アンタが私にとって最高の『友』であると私は信じてるからね!」

 どうせ元より面白半分目的半分で起こした異変だ、益は貰えるだけ貰っておいてあげるよ。
 外界を捨て、幻想郷を諦め、地底に降りてなお諦めきれないこの胸の高鳴り。もしかしたら、レミリアならば私の胸の隙を埋めてくれるかもしれない。
 同格の妖怪との殺し合いでは満たされない、私達鬼が求めて止まないこの衝動。この心の渇きを満たしてくれるなら、私は――

「失礼します、お嬢様、夕食の準備が…って、お、お嬢様!?その御姿は一体!?」
「んあー?あー、さくやー!さくやっ!おかあさんのさくやー!」
「な!?ま、まさか母様、お酒をっ!?一体誰が…っ、魔理沙かっ!!
なんてことをしてくれるのよ…母様は人十倍アルコールに弱いのに…と、とりあえずパチュリー様をお呼びしないと!」

 ――私は、この完全に出来あがってしまってる面白可笑しい吸血鬼に心から感謝する事にしようか。
 さて、この宴会劇も終わりに近い。歪な神輿に担ぎあげられた吸血鬼、レミリアの持つ本当の強さを垣間見る為に、せいぜい鬼らしく行動するとしよう。






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