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No.13774の一覧
[0] うそっこおぜうさま(東方project ちょこっと勘違いモノ)[にゃお](2011/12/04 20:19)
[1] 嘘つき紅魔郷 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:52)
[2] 嘘つき紅魔郷 その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[3] 嘘つき紅魔郷 その三 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:53)
[4] 嘘つき紅魔郷 エピローグ (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[5] 嘘つき紅魔郷 裏その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:54)
[6] 嘘つき紅魔郷 裏その二 (修正)[にゃお](2011/04/23 08:55)
[7] 幕間 その1 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:11)
[8] 嘘つき妖々夢 その一 (修正)[にゃお](2011/04/23 09:24)
[9] 嘘つき妖々夢 その二[にゃお](2009/11/14 20:19)
[10] 嘘つき妖々夢 その三[にゃお](2009/11/15 17:35)
[11] 嘘つき妖々夢 その四[にゃお](2010/05/05 20:02)
[12] 嘘つき妖々夢 その五[にゃお](2009/11/21 00:15)
[13] 嘘つき妖々夢 その六[にゃお](2009/11/21 00:58)
[14] 嘘つき妖々夢 その七[にゃお](2009/11/22 15:48)
[15] 嘘つき妖々夢 その八[にゃお](2009/11/23 03:39)
[16] 嘘つき妖々夢 その九[にゃお](2009/11/25 03:12)
[17] 嘘つき妖々夢 エピローグ[にゃお](2009/11/29 08:07)
[18] 追想 ~十六夜咲夜~[にゃお](2009/11/29 08:22)
[19] 幕間 その2[にゃお](2009/12/06 05:32)
[20] 嘘つき萃夢想 その一[にゃお](2009/12/06 05:58)
[21] 嘘つき萃夢想 その二[にゃお](2010/02/14 01:21)
[22] 嘘つき萃夢想 その三[にゃお](2009/12/18 02:51)
[23] 嘘つき萃夢想 その四[にゃお](2009/12/27 02:47)
[24] 嘘つき萃夢想 その五[にゃお](2010/01/24 09:32)
[25] 嘘つき萃夢想 その六[にゃお](2010/01/26 01:05)
[26] 嘘つき萃夢想 その七[にゃお](2010/01/26 01:06)
[27] 嘘つき萃夢想 エピローグ[にゃお](2010/03/01 03:17)
[28] 幕間 その3[にゃお](2010/02/14 01:20)
[29] 幕間 その4[にゃお](2010/02/14 01:36)
[30] 追想 ~紅美鈴~[にゃお](2010/05/05 20:03)
[31] 嘘つき永夜抄 その一[にゃお](2010/04/25 11:49)
[32] 嘘つき永夜抄 その二[にゃお](2010/03/09 05:54)
[33] 嘘つき永夜抄 その三[にゃお](2010/05/04 05:34)
[34] 嘘つき永夜抄 その四[にゃお](2010/05/05 20:01)
[35] 嘘つき永夜抄 その五[にゃお](2010/05/05 20:43)
[36] 嘘つき永夜抄 その六[にゃお](2010/09/05 05:17)
[37] 嘘つき永夜抄 その七[にゃお](2010/09/05 05:31)
[38] 追想 ~パチュリー・ノーレッジ~[にゃお](2010/09/10 06:29)
[39] 嘘つき永夜抄 その八[にゃお](2010/10/11 00:05)
[40] 嘘つき永夜抄 その九[にゃお](2010/10/11 00:18)
[41] 嘘つき永夜抄 その十[にゃお](2010/10/12 02:34)
[42] 嘘つき永夜抄 その十一[にゃお](2010/10/17 02:09)
[43] 嘘つき永夜抄 その十二[にゃお](2010/10/24 02:53)
[44] 嘘つき永夜抄 その十三[にゃお](2010/11/01 05:34)
[45] 嘘つき永夜抄 その十四[にゃお](2010/11/07 09:50)
[46] 嘘つき永夜抄 エピローグ[にゃお](2010/11/14 02:57)
[47] 幕間 その5[にゃお](2010/11/14 02:50)
[48] 幕間 その6(文章追加12/11)[にゃお](2010/12/20 00:38)
[49] 幕間 その7[にゃお](2010/12/13 03:42)
[50] 幕間 その8[にゃお](2010/12/23 09:00)
[51] 嘘つき花映塚 その一[にゃお](2010/12/23 09:00)
[52] 嘘つき花映塚 その二[にゃお](2010/12/23 08:57)
[53] 嘘つき花映塚 その三[にゃお](2010/12/25 14:02)
[54] 嘘つき花映塚 その四[にゃお](2010/12/27 03:22)
[55] 嘘つき花映塚 その五[にゃお](2011/01/04 00:45)
[56] 嘘つき花映塚 その六(文章追加 2/13)[にゃお](2011/02/20 04:44)
[57] 追想 ~フランドール・スカーレット~[にゃお](2011/02/13 22:53)
[58] 嘘つき花映塚 その七[にゃお](2011/02/20 04:47)
[59] 嘘つき花映塚 その八[にゃお](2011/02/20 04:53)
[60] 嘘つき花映塚 その九[にゃお](2011/03/08 19:20)
[61] 嘘つき花映塚 その十[にゃお](2011/03/11 02:48)
[62] 嘘つき花映塚 その十一[にゃお](2011/03/21 00:22)
[63] 嘘つき花映塚 その十二[にゃお](2011/03/25 02:11)
[64] 嘘つき花映塚 その十三[にゃお](2012/01/02 23:11)
[65] エピローグ ~うそっこおぜうさま~[にゃお](2012/01/02 23:11)
[66] あとがき[にゃお](2011/03/25 02:23)
[67] 人物紹介とかそういうのを簡単に[にゃお](2011/03/25 02:26)
[68] 後日談 その1 ~紅魔館の新たな一歩~[にゃお](2011/05/29 22:24)
[69] 後日談 その2 ~博麗神社での取り決めごと~[にゃお](2011/06/09 11:51)
[70] 後日談 その3 ~幻想郷縁起~[にゃお](2011/06/11 02:47)
[71] 嘘つき風神録 その一[にゃお](2012/01/02 23:07)
[72] 嘘つき風神録 その二[にゃお](2011/12/04 20:25)
[73] 嘘つき風神録 その三[にゃお](2011/12/12 19:05)
[74] 嘘つき風神録 その四[にゃお](2012/01/02 23:06)
[75] 嘘つき風神録 その五[にゃお](2012/01/02 23:22)
[76] 嘘つき風神録 その六[にゃお](2012/01/03 16:50)
[77] 嘘つき風神録 その七[にゃお](2012/01/05 16:15)
[78] 嘘つき風神録 その八[にゃお](2012/01/08 17:04)
[79] 嘘つき風神録 その九[にゃお](2012/01/22 11:18)
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[13774] 嘘つき萃夢想 その二
Name: にゃお◆9e8cc9a3 ID:2135f201 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/14 01:21




 若さが怖い。私は今、何よりも若さが恐ろしい。そんなことを私はベッドに寝転びながら今日も今日とて考える。
 最初の『異変解決だよ!全員集合』と銘打った大宴会から二週間くらい経ってるかしら。それからの私の毎日はもう
先月までの引き籠りな日々が一体何だったのかってくらい過酷な過密スケジュールなのよ。もう今本当に忙しい。忙し過ぎてデスマーチ入ってる。
 あの飲み会が皮切りだったように、最近は毎日毎日必ず誰かが紅魔館にやってきては私を大いに振り回してくれるのだ。
 ある時は魔理沙に無理矢理箒に乗せられキノコ採集に付き合わされ、またある時は紫に隙間におとされて白玉楼送りにされて。
 ある時は霊夢の術符の制作の手伝いをさせられて(何で妖怪にそんなもん頼むのよ)、ある時はアリスの人形劇の台本チェックを頼まれて…何この混沌サークルの部長。
 そして、私の身体をより疲れさせてくれたのは、何故か三日に一度は必ず皆が紅魔館に集まって開かれる宴会。
 いや、私には何で定例開催になってるのか全く理解出来ないんだけど、みんなはさも当たり前のように三日置きに紅魔館に集まるのよ。
 そしてワイワイ飲み食いしては大騒ぎ。最近は魔理沙なんか宴会時は必ずお泊りコースだし…いや、それは別に全然良いんだけど。
 ただ、一月前まで『この世の太陽浴びてる人妖みんなもげろ!』って呪詛を呟く程のヒキリストな私には、それはそれは大変な日程で。
 おかげで最近は夕方くらいまでこうしてベッドで寝てることが多い。霊夢や魔理沙と違ってもう私は若くないのよ、お願いだから休ませて頂戴。本当に死んじゃうから。
 全身の疲労を癒す為、私は全身をベッドに投げ出してごーろごろ。ああ、本当に身体が辛いときには、ベッドでダラダラするに限るわ。生きているって素晴らしい。
 うつ伏せの状態になってお布団に包まるこの幸せ。私の羽に触れるもふもふお布団の心地良い感覚。リア充デビューした私でも
やっぱりこの幸せには身も心も抗えないわ。振り向いたら負けだからダラダラ怠惰で見つめてるのよ。

『お嬢様、美鈴です。起きてますか?お嬢様にお客様が来てるんですけれど』

 …稲妻になって美鈴を張っ倒すわよ。いや、うん、美鈴少しも悪くないんだけどね。しかも私が美鈴を倒せる訳ないんだけどね。
 はぁ、ちゃんと起きるとしましょうか。最近、本当にゆっくりした記憶がないわねえ…社会ってこんなに大変だったんだ。
 何だか最近になって初めて紅魔館の主らしい仕事をしてる気がするわ。まあ、ただのお飾りのご主人様なんだけど。












 欠伸を何度か噛み殺しながら、美鈴に連れられてやってきたのは、いつもの客間。
 そこで私を待っていたお客さんとは霊夢。あれ、てっきり魔理沙辺りかと思ってたんだけど…あの娘、確か昨日の宴会の後帰宅しないで
お泊りコースだった筈だし。まあ、それなら魔理沙のことをお客さんなんて言わないか。

「おはよう霊夢。こんな太陽が昇りきってる時間に来訪とはあまり感心しないね。良い子の吸血鬼は寝る時間だよ」
「アンタ昼夜逆転の吸血鬼じゃない。別に良いでしょ」

 うぐぅ、霊夢ったら切り返しが鋭いわね。何よ、少しくらい嫌味を言わせてくれても良いじゃない。
 何ていうか、ここ最近の霊夢は少し私に対して柔らかくなった気がする。だからまあ、こんな軽口が叩けるんだけど、個人的にはずっとこんな感じで居て欲しい。
 少なくとも異変時の『私、めっちゃキレてます』オーラを爆発させてるモードの霊夢はごめんよ。だって怖いんだもん。

「まあ、折角紅魔館に来てくれたんだ。ゆっくりしていきなさいな。
今日の用件は何かしら。また術符作りの手伝いなら任せなさい。ふふん、私ってば実は手先が器用でねえ。
コツをしっかりと掴んだ今なら前回以上…いいえ、霊夢よりも上手く術符を…」
「術符は足りてるからもういいわ。今日の用件は別件よ」

 あれ…なんだ、またてっきり内職(術符作り)を手伝えって言われるのかと思ってた。
 折角上手く作るコツを掴んできたところなのに。あれって筆で文字を書く前に綺麗に折り返すのがポイントなのよね。
 霊夢ってば適当に折ってるものだから見てられないのよ。その点、この私のヒッキー生活で鍛えた折り紙技術が…って、何?霊夢ってば人の顔をジロジロと見つめて。

「何?私の顔に面白いモノでも付いてる?」
「目と鼻と口が付いてるわね。口を開けばちっちゃい犬歯が伸びてるかもね」
「ち、ちっちゃいとか言うなっ!吸血鬼の牙を馬鹿にするなんて失礼な奴ねっ!」
「あ、気にしてたなら謝るわ。ごめん」

 いや、気にしてはないけどさ…私の犬歯ってそんなに小さいかしら。というか、素朴な疑問なんだけど、
私の牙って他人の皮膚を貫通出来るのかしら。人から直接吸血したことないから分からないなあ…私貧弱だし、出来ない予感爆発してるのよね…
 まあ、幸いなことに紅魔館の地下には血液がしっかり貯蓄されてるから、飢え死にすることはないんだけど。
 私とフラン以外で血液を食事とする奴が現れない限り、私のご飯の心配は無さそうね。まあ、血が無ければ普通の食事をするだけなんだけど。
 結局吸血って私達の趣向の問題なだけだし。ぶっちゃけ血をそのまま飲むよりも甘いお菓子の方が好きだし。ああ、なんて駄目吸血鬼な私。

「…って、話が逸れちゃったじゃない。アンタの犬歯なんかどうでも良いのよ。今日はレミリアに訊きたいことがあって来たわ」
「訊きたいこと?まあ、私で答えられることなら答えてあげるけれど」
「そう、素直にそう言って貰えると助かるわ。アンタ相手に私も無理矢理訊き出すなんてことはしたくないし」

 こ、怖っ!ちょっと何この霊夢、いつの間にか思いっきり異変モード入っちゃってるじゃない!?無理矢理て!無理矢理訊き出すて!
 何か訊きたいなら普通に言葉だけで済むじゃない!?なんでそこに軍事介入するの!?私がガンダムなの!?幻想郷はいつから修羅の国になったの!?
 と、とりあえず私は怒られないわよね…私は霊夢に非暴力是服従を誓ってるものね…れ、霊夢、勝利の栄光を貴女にっ!

「レミリア、アンタには妹が居るって魔理沙から聞いたんだけど、それは間違いないかしら?」
「い、妹?えっと…まあ、確かに居るけど。何、フランがどうかしたの?」
「どうかしたのかしていないのか。それを今から確認しに行くのよ。消去法的にそいつ以外考えられないから。
そうね…一応確認しておくけど、この紅魔館の住人ってレミリア以外で誰が居るの?今すぐ全員名前を言いなさい」
「ぜ、全員!?しかも今から!?いや、そんなの把握してな…」
「良いから言う!」
「ひぃっ!えええええっと、私の寝室前廊下掃除担当の妖精メイドのウェンディとティナとメイヤーに、大広間掃除担当の妖精メイドの
エルとシーラとメロディに、中央右階段担当のセリーヌとトリーシャとヴァネッサに…」
「妖精メイドなんかどうでもいいわ!」
「うええ!?だ、だって全部言えって言ったのは霊夢…」
「雑魚はどうでもいいの!いいから紅魔館に居る強い奴らを片っ端から言いなさいっ!」

 何この酷い仕打ち。あまりに理不尽過ぎるでしょう?霊夢の怒声にマジで震えてきやがった…怖いです…
 強い奴…強い奴なんて、むしろ腐るほどいるんだけど…むしろ私以外に弱い奴なんて紅魔館に居ないじゃない。
 とりあえず、霊夢の求めてるのは妖精以上の力を持つレベルみたいね…ううん、強い奴ねえ…

「まず美鈴が強いわね。アレは紅魔館が誇る最強の盾だ、並大抵の妖怪じゃ美鈴を倒せないよ」
「却下。門番以外で」
「…えっと、パチェなんかも実はかなりやるわよ?魔法を使わせたら、右に出る奴なんてこの世に居るのかしらね」
「却下。紅魔館内で一番怪しい気もするけどね。次」
「うう…さ、咲夜は言うまでも無いでしょう?咲夜は人間でありながらパチェや美鈴をも凌駕する存在よ。私の自慢の娘だわ」
「却下。あのクソメイドがアンタの害になるようなことを考えるとは思えない。さっきの魔女も同じね。次」
「…残るはフランくらいしか居ないんだけど。ああ、フランって言うのはさっき霊夢が訊ねてきた私の妹のことね」
「うん、やっぱりそいつが怪しいわ。というか、それ以外考えられないもの」

 間違ってもレミリアが犯人な訳ないし、なんて呟く霊夢。というか犯人って何?もしかして馬鹿フラン、また何かやらかしたの?
 …不味い、胃が痛くなってきた。最近大人しいなとは思ってたけど、まさかフランの奴、霊夢が動くような何か(=異変)をしでかしたり
してないでしょうね。もうお姉様は貴女の代わりに霊夢にしばかれるのは御免よ。今度紅霧異変起こしたら、私は正々堂々と霊夢に土下座して許しを請うわよ。
 ううん…でも、確かに言われてみれば、最近のフランはちょっと変だった。変というか、少し不機嫌な感じだった。
 多分、他人が見たら全く気付かないんでしょうけれど、私には分かる。伊達に同じ血を持ってる訳じゃないのよ、才能は別格だけど。月とスッポンだけど。
 最近のフランは変にイライラを貯め込んでる感じがして、見てて危なっかしいったらありゃしない。だけど、この前少し心配して
『どうしたのよ』って声をかけたら一言『うるさい』で撃沈。はい、無様なお姉様でごめんなさい。勿論、それ以上深く訊ねることも出来ず、今のまま。
 そんなフランが霊夢の気に障るような事をしでかしたとしたら…考えたくない。紅魔館で人妖大決戦なんてまっぴら御免よ。
 と、とりあえず霊夢にはフランの事は忘れてもらおう。幾ら問題児とはいえ、たった一人の妹を霊夢の餌食(フルボッコ)にされる訳には
いかないもの。フランが負ける姿も想像出来ないけど、霊夢が負ける姿なんてもっと想像出来ない。フラン、見てなさい、お姉様頑張るから。

「そ、それじゃ、折角来てくれたんだし、お茶の用意でも…」
「お茶なんかどうでもいいから、私を今すぐ妹さんのところに案内して頂戴」

 \(^o^)/ ごめんなさい、フラン。頼りにならない無力な姉を許して。
 いや、でも私は頑張ったわよ?頑張ったけど、ちょこっと力が足りなかった。ベストは尽くしたもの、悔いはないつもりよ。
 それにしても、霊夢はフランに一体何の用なのかしら…今の霊夢と不機嫌爆発のフランを会わせて本当に大丈夫なのかなあ…
 化学反応引き起こして爆発なんて起こらないでしょうね。何か緩衝材でも挟まないと、本当にヤバいんじゃ…

「お嬢様、よろしければ私が博麗霊夢をフランお嬢様のところへお連れしましょうか?」
「ふぇ?あ、め、美鈴?貴女まだ居たのね。全然会話に加わらないから完全に空気になってたじゃない」
「ふふっ、気を扱う者は気配を殺すこともまた一流なんですよ。まあ、そんなことはどうでも良いとして。
私もフランお嬢様に用がありますし、丁度良いですよ。何かあっても、私が対応しますしね」

 ぽわぽわと微笑む美鈴の何と輝かしいことか。ああ、美鈴、貴女は今誰よりも輝いているわ。
 美鈴の申し出に、私は『そうしてくれると助かるわ』と笑顔で返す。美鈴が居るなら、なんとかなるわよね。
 急に二人が殺し合いを始めても、それでも美鈴なら…美鈴ならきっと何とかしてくれる。普段は門番の仕事をサボって妖精と遊んだり、
咲夜と追いかけっこして遊んだりしているけれど、やるときはやる女だってことを私はちゃんと知っているんだから。

「それじゃ、美鈴に頼むけれど…霊夢、フランは少しばかり気難しい性格でね。どうか余り強く刺激しないであげて頂戴」
「それは向こう次第だわ。アンタの妹が今回の『異変』の首謀者なら、私は博麗の巫女としての仕事を全うするだけよ」
「…あのね、霊夢。フランは確かに性格悪いし捻くれてるし私の嫌がることを喜んでやるような娘だけど、それでもあの娘は私の…って、もう居ないし!」

 気付けば部屋から出て行ってしまってる霊夢と美鈴。今めっちゃ良いところでしょ!?凄く良い台詞言おうとしてたでしょ!?
 はあ…もういいや、今はとにかくフランの安全を祈ろう。フランも紅霧異変で霊夢に負けちゃってるし、流石にまた喧嘩を売ったり
しないわよね…とりあえず霊夢に土下座して謝る準備だけはしておこう、うん。お札作り二百枚くらいでフランを許してくれないかしら。















「いやだから無理だって。あれはそもそもアイツの一部なんだろ。それを身体に入れたところで、何の意味があるんだよ」
「そう断言するのは早いんじゃないかしら。もしかしたら、あれは別人の魂かもしれないでしょう?だったら原理的に出来る筈じゃない」

 昼下がりの紅魔館、湖一帯を見渡せる館自慢のテラスにて、延々と談議を交わし続ける私とさっき起床した魔理沙。
 もうかれこれ同じ話題で一時間は話続けてる気がするけれど、話に飽きたりしないのは、やっぱり私と魔理沙は会話の波長が合っているからなのかもしれないわ。
 魔理沙はどんな馬鹿話にも楽しそうに付き合ってくれるから、本当に良い話友達なのよね。ちなみに今の話題は『妖夢はオーバーソウルを作れるか?』よ。

「魂魄刀だか白玉刀だか斬艦刀だか忘れたが、アイツの持ってる刀は確かにそりゃ歴史のある立派な業物だろうさ。
だけど、そこにアイツの魂を吹き込んだところで、何の変化もないだろ。どうせ入れるなら幽々子自体を入れた方がよさげだし」
「斬ったら相手は必ず死ぬ、みたいな?そういうの私嫌いなのよ。反則技っていうか、それ最強じゃないって能力が出てくると駄目。展開的につまらなくなる」
「おいおい、一体何時から漫画の話にすり替わってるんだ。そもそも幻想郷で反則技なんて非難する方がおかしいぜ。
この楽園は化物揃い、どいつもこいつも最初からクライマックスな連中ばかりさ。時間を止めたり隙間を使ったりとかな」
「全くだわ。特に紫の化物っぷりには呆れて笑いしか出てこないわよ。縛りがあるこの世界ですら、あれだけ好き勝手やってるのよ。
お前は外の世界で一体何人何匹の人妖の屍の山を築きあげてきたんだっつーのよ」
「あら、ならば貴女は今まで食べてきたパンの枚数を覚えてるの?」
「13枚。私は和食派ですわ」

 隙間の中からぼわっとインチキ妖怪登場。もう紫が急に登場しても驚かなくなった自分が嫌過ぎる。あと、パンの
枚数を答えたのは魔理沙だから。私じゃないから。私はパンは数えきれないくらい食べてるわねえ…最近のマイブームは納豆トースト。
 というか、紫ってよくウチに顔を出すけれど、幻想郷の管理者なのよね?忙しくないのかしら。もしかして幻想郷の結界管理って
そんなに大変な仕事じゃないのかしら…もし私みたいなジャミルなニートにも出来る仕事なら、是非とも紹介して欲しいわ。

「しかし、こんな真昼間からどうしたんだ。まだ宴会の時間にはちと早いぜ、紫」
「宴会は昨日やったばかりじゃないか。魔理沙は余程ウチの酒蔵を空にしたいようね」
「他人の酒程美味いもんはないが私の持論でね。薄暗い地下で延々と過ごすよりも、私に飲まれたいって酒達も叫んでる筈さ」
「はあ、人間は本当に自分勝手だとは思わない、紫」
「ふふっ、そこが人間の魅力なのよ。レミリアはもう少し自分勝手に振舞っても良いとは思うけれど」
「冗談。自分勝手な吸血鬼は愚妹だけで十分間に合ってるよ」
「自分勝手か?お前の妹って礼儀正しいし結構しっかりしてるイメージだけど」
「だから、何度も言ってるけどあれは猫被ってるだけで…」

 本当、魔理沙のこの勘違いはいつか矯正してあげないといけないと思う。色んな意味で火傷しない為にも。
 でも、本当に紫ったら何の用かしら。また今日も私を意味も無く振り回すつもりかしら。今日は咲夜が
パチェに頼まれた用事とかで出払ってるみたいだから、隙間送りにするのは咲夜が帰って来てからにしてほしい。
 もしくは魔理沙も一緒に連れてってくれないかしら。私一人で幽々子と紫の相手をするのは本当に精神衛生上良くないしね。

「それで紫、今日は一体何の用かしら。まさか貴女も霊夢のようにフランに会いに来たという訳でもないでしょう?」
「え、何、霊夢の奴来てるのか?私全然話を聞かされてないんだが」
「別に言う必要も無かったからねえ。何でも霊夢はフランに大事な用があるとかで今は地下室の方に行ってるよ」
「ふ~ん、まあ、私は別に用はないからな。それにあまり面識の無い妹ちゃんよりも、その姉と会話してる方が面白そうだ」
「実際楽しんでるじゃないの。って、話が完全に逸れたじゃない。改めて紫、貴女は何の用で…って、ちょ!?何してるのよ!?」

 私が声を荒げた理由、それは紫の唐突な行動。人差し指を私の額に当て、瞳を閉じて紫は何やらぶつぶつと呟いているのだ。
 え、何この変なおまじない。もしかしてあれかしら、このおまじないはイツモトナリデミテマスって私も念じないといけないのかしら。
 …いや、冗談は置いといて、何やってんのよ紫は。新たな宗教かしら。ちょっとカルトなのは勘弁して欲しい…あの、ウチは浄土宗なんで。
 魔理沙と二人で『何やってんだコイツ』という訝しげな瞳を紫に向けていると、おまじない(?)を唱え終えたのか、紫は軽く息をついて私の額から指を離した。

「はい、これで私の用件はお終い。お忙しい中、時間を取らせてしまってごめんなさいね」
「いや、用件は終わりって…何、紫は私にヘンテコなおまじないをかける為にここに来たの?」
「フフッ、その通りですわ。レミリアの人生がより良い素敵なモノになるように、一人の友人として素敵なおまじないをかけさせて頂きました」
「…胡散臭いわね。ちょっと魔理沙、呪いってどうやったら解呪出来るものなの?」
「ん~…その辺の人間や妖怪程度の呪いなら簡単なんだが、紫クラスの化物となるとなあ…正直諦めた方が精神衛生上良いと思うな」
「絶望した。胡散臭い妖怪(ゆうじん)が世界を敵に回せる程の力を所有している現実に絶望した」
「あら、本当に失礼な娘達ね。言っておきますけれど、私は別にレミリアの身体を害するような呪いなんてかけてないわよ。
ただ、少しだけ視野を広げてあげただけ。そう、例えばこれまで見えなかったモノが、今では見えるようになるかもしれませんわね」
「何よそれ。霊魂の可視化なら妖夢と幽々子だけで十分に間に合ってるよ」
「オバケよりももっともっと素敵なモノですわ。強く遠く儚き存在、それは遥か悠久なるお伽話の裏側に蠢く妖々跋扈達」

 …始まった。またゆかりん☆17歳の嬉し恥ずかしポエム大会が始まった。紫…というか、紫と幽々子ね。この二人は
会話の途中で急に意図が全く掴めないヘンテコ言葉の羅列を始める時があるのよ。その度に私は頭を痛めてるのよね…言ってる言葉が何一つ理解出来ないから。
 だから私は正直紫と幽々子の中二ポエムは話半分で聞き流すことにしてる。だって、別に意味を理解出来なくたって、二人とも
気にする様子も無いし。多分、二人は最初から理解されることを考えずに話してるんじゃないかなっていうのが私の考え。
 言っちゃえば、二人のイミフポエムは私達で言うところの『えーと』に値するんじゃないかしら。本当、妖怪って強くなると言葉が不自由になるのかしらねえ。
 ちょっと二人に一度言葉の勉強を教えてあげたいわ。良い、これはパチェの受け売りなんだけど、この世で一番優れた文章というものは
一部の秀才天才だけが解読して悦に浸る文章ではなく、誰が読んでも理解出来る文章なのだそうよ。ああ、この言葉には心の奥底から同意するわ。
 …でも、そんな風に考えてるんだったら、図書館に小難しい本ばかりじゃなくて漫画を置いてくれても良いのに。本当、パチェは意地悪だ。けちんぼ。

「あー、何だ?つまるところ、紫はレミリアに結局何をしたんだ?」
「すぐに解かるわ。少なくとも当人であるレミリアにはね。私はただ、混じり合う汚水真水のなかに一滴の雫を落としただけ。
私は貴女達のようにレミリアを過小評価をしていない。むしろこれ以上ない程に過大評価を下している。
だからこそ、私は自分の思うままに行動させて頂くわ。暗く翳る館の住人達の考えは分からなくはないけれど、それでは全ての可能性を失してしまう。
運命とは山河の流れに委ねるものではなく、自ら選び紡ぎ取るもの。そうではなくて、レミリア・スカーレット」
「へっ!?あ、ああ…そうねえ、プロテインねえ」

 やばい、いつものノリで話全然聞いてなかった。とりあえず適当にお茶を濁した答えを返したけど、紫の奴怒って無いわよね…
 そんなことを考えながら、紫の顔色をこそりと窺ってみる。うん、大丈夫。紫はこれ以上ないくらい美人な笑顔だわ。おっぱい大きくて美人で強くて…ね、妬ましいっ!
 こ、これで勝ったと思うなよ!私だって後百年もすればきっとボインボインでDynamiteでexplosionなボディに…ごめん、後三百年くらい追加させて頂戴。

「それでは用も済みましたし、私は失礼させて頂くとしましょう」
「もう帰るのか?お茶くらい飲んで行ってもいいだろうに。なあ、レミリア」
「そうね、紫さえ良ければゆっくりしていきなさいな。咲夜も不在だし、大したお持て成しは出来ないけれど」
「ふふっ、お気持ちだけ有難く受け取らせて頂きますわ。こう見えてなかなかどうして多忙な身でして。
――レミリア、貴女の選ぶ道を、私もしかと見届けさせて頂くわ。乗るも良し、逃げるも良し、背を向けることは恥でも何でもないのだから。
貴女は運命を周囲によって狂わされた。なれど、貴女には運命を自分で選ぶ権利がある。それが好意であれ善意であれ、第三者の用意した道に価値などない。
他の誰もを介入させない、貴女がレミリア・スカーレットの本当の意思…貴女が自ら選び取る道を、私は心から応援しているわ」

 言いたいことだけを並べ、紫は隙間の中へと消えていった。…なんか今日の紫、いつもに増して饒舌で、しかも格段に意味不明ね。
 私はちらりと視線を魔理沙の方に向けると、魔理沙は意味不明とばかりに肩を竦めてみせる。よねえ…本当、紫は理解し難い思考回路してるわ。

「あー…なんだ。とりあえず、紫の言う事は気にするなよ。あいつの考えを理解しようとしたら人生を三回くらいやり直さないと無理だろうし」
「魔理沙の意見に私も同意するわ。紫の言う事を気にしてたってキリが無いもの」
「だよなあ。さて、紫の登場で会話が中途半端になっちゃったなあ…これからどうするかね。人里にでも遊びに行くか?」
「箒の後ろに乗せてくれるなら考えてあげてもいいわ。勿論、日傘も貴女が持ってくれるのよね?」
「やれやれ、なんともまあ注文の多い紅魔館だ。最後は真っ裸にされてぺロリってね」
「御免なさい魔理沙、私至ってノーマルだから貴女の期待には応えられないよ」
「気が合うな、私だってそうだ。よし、それじゃ人里で茶屋にでも行くとするか。レミリア、財布の方は頼んだぜ」
「妖怪に支払いを押し付けようとする人間なんて聞いたことがないわ。出かける準備するから少し待ってなさいな」

 にかにか笑ってる魔理沙に呆れ交じりの溜息一つ。まあ、それでも付き合おうとしてる私も私なんだけど。
 とりあえず今日は私も魔理沙と一緒に買い物を楽しむことにしよう。丁度欲しい漫画もあったし。
 霊夢は…まあ、美鈴が居るから大丈夫よね。私が帰ってきたら紅魔館が灰と化してました、なんてなっていませんように。君にこの声が届きますように。
















 ~side フランドール~



 不愉快。私の心は苛立ちの積載によって実に不快な感情に染まっている。
 私の心を乱す根源、それはこの紅魔館を覆う微弱な妖気。霧状に散布されたそれがここ最近ずっと私の苛立ちを掻き立てて仕方がない。
 お姉様が知人を集めて紅魔館で行ったパーティー、その日からこの妖気は感知され、この館を我がモノ顔で包み込んでしまっている。
 私の苛立ちの理由は、この妖気を生じさせている奴の正体、所在が未だに掴めていない事。薄く微弱に引き延ばされた現時点での妖気では、発生源まで感知出来ないのだ。
 害は無い。問題は生じていない。けれど、そのことも私の感情をイラつかせている。これはまるで誰かが紅魔館の手綱を握っているようではないか。
 その気になればいつでも紅魔館に何かを生じさせることが出来る。例えば、この館を支配する『主』を殺すことだって可能だ、と。
 この妖気を生じさせている犯人、目的。それが私には何なのかは分からない。だけど、この件は早急に処理しないといけない。少しの遅れが
私達のご主人様の…いいえ、お姉様の命運を分けることになりかねない。だから私は咲夜とパチュリーに異変の捜査を命じている。
 八雲紫や西行寺幽々子が今回の首謀者とは思わない。犯人は見知らぬ誰か。ただ、その二人のどちらかとは、つながりは間違いなくあるだろう。
 そうでなければ、紅魔館…いいえ、お姉様の居る場所にこんなことをする理由がない。犯人はお姉様に興味を持つ第三者。
 これはある意味、私達の望む展開ではあった。これだけのことをやってのけるのだ、恐らく犯人の実力は私達と同等クラスなのだろう。
 そんな強者がお姉様に興味を持ち、関係を持とうとしているのなら構わない。むしろ願ったり叶ったりだ。けれど、それ以上に
足を踏みいらせる訳にはいかない。今回の件は、八雲紫や西行寺幽々子のときとは比較にならない程に『踏み込み』過ぎている。
 早急に犯人を見つけ、こちらから接触をして真意を問い質さなければならない。相手の目的によって、私達の取るべき行動も変わる。
 もし相手がお姉様を単に試しているのなら放置しておけばいい。だが、もし犯人がお姉様に害を為そうというのなら…その時はすぐに消えて貰う。
 お姉様が気付かぬうちに処理し、今回の異変に終焉を迎えさせる。否、異変など最初から起きなかったのだ。そう世界に認識させる。
 もしもお姉様を利用し、唯の玩具と見做して今回の件を愉しんでいるのなら…そのときは私直々に殺してやる。二度とこの世に生まれたいと思わないくらいに、凄惨な最期を与えてやる。
 私の苛立ちが最高潮に達そうかというとき、部屋の扉の外からノックの音が響き渡る。これは美鈴と…博麗の巫女か。

「開いてるから好きに入って」
「失礼します、フランお嬢様…って、その顔はもう用件は理解してるって感じですね」
「当り前よ。この紅魔館を包む微弱な妖気、そしてそれを感知した博麗の巫女。そいつが私のところに来たんだ、用件は一つしかないでしょう。
ここ最近の馬鹿騒ぎの原因…微弱な妖気を垂れ流してる犯人(わたし)を懲らしめに来たのかしら、博麗霊夢」
「理解が速くて助かるわね。ま、犯人だからそれも当然か。はじめまして、フランドール・スカーレット」
「はじめまして、とは寂しいことを言ってくれるね。紅月の満ちるとき、あんなにも熱い夜を重ね合わせたというのに」
「…そう、あのときのレミリアはお前か。今までどうして『あの』レミリアが私と対等に弾幕勝負を出来たのか考えていたんだけど…そういうこと」

 美鈴と一緒に部屋に入ってきた博麗の巫女の言葉に思わず笑ってしまう。今更気付くなんて本当に馬鹿な人間だ。
 私は巫女を一瞥し、呆れるように息をつく。ぱっと見で、普段の咲夜程度の力か。紅霧異変の時よりは力をつけたみたいだけど…本当に愚かしい。
 その程度の力しか持たない人間が、わざわざ私の前に立つなんて。ああ、苛立たしい。本当に苛立たしい。
 私は身体の奥底から溢れ出る感情を必死に理性で堰き止める。唯でさえ苛立っているというのに、私の感情を逆撫でしないで欲しい。

「…それで?貴女は今回の騒ぎの犯人を私だと決めつけて、退治しに来たのよね?」
「そうよ。ここ最近の宴会続き、そしてそれ以上に紅魔館を覆う微弱な妖気…判断が難しかったけれど、私はこの件を異変と断定したわ。
ならばこの舞台の裏側で糸を引いて愉しんでいる奴は誰か。そう考えるとね、貴女ぐらいしか居ないのよね」
「妖気の発生源は紅魔館から、そして紅魔館の住人は数える程度。お姉様はそんな事が出来る訳がないし、お姉様の迷惑になることを
拒む美鈴や咲夜、パチュリーも除外。となると、残る犯人は私だけ…成程、実に当然の帰結による推理ね」
「そういうこと。さあ、聞かせて貰うわよ、この異変を起こした目的を。そしてすぐに止めないなら退治するわ…って、何笑ってるのよ」

 巫女の言葉の通り、私は彼女に対して笑いを抑えられないでいた。それは彼女の推測が的外れだったからではない。
 成程、巫女の考えは良く分かる。自分がもし彼女の立場なら同様の考えを持っただろう。そして私を犯人だと断定した筈だ。
 巫女の推理が外れていることに笑っていないのならば、私は一体何に対して笑っているのか。そんなことは考えるまでもない。

「ねえ、博麗の巫女。私、さっきから笑いが止まらないの。その理由、貴女には解かるかしら?」
「さあてね。正直、妖怪の考えなんて微塵も理解出来ないわ。ましてやこんな騒ぎを起こすような奴のはね」
「私を犯人だと勝手に誤認した事は見逃すわ。貴女のような頭の足りない人間が必死に考え辿り着いた答えだもの、蔑んだりはしないわ。
不機嫌極まりない私の前に姿を現したことも許してあげる。貴女の仕事は楽園の管理、幻想郷の異変を解決することこそ唯一の存在理由。
だけどね、私を『退治する』なんて言ってのけたこと、こればかりは戴けないわ。もう可笑しくて可笑しくてお腹がどうにかなっちゃいそう」

 本当、笑いが止まらないわ。博麗の巫女は、私を退治すると。私相手に勝つつもりなのだと。
 私は腰をおろしていたベッドから立ち上がり、ゆっくりと博麗の巫女の方に身体を向け直す。そして、空手だった手に妖力を纏わせ、紅蓮の魔剣を呼び起こす。
 ああ、今の私の顔は愉悦に歪んでいるんだろう。感情の波が抑えられない。本当、実に滑稽過ぎる。

「人間如きが私を退治するなんてね。本当、笑っちゃうわ。ああもう――本気で殺すわよ?この塵芥が。
隙間妖怪の寵愛無しにこの世で生きられぬ脆弱な雛鳥が私を退治する?不快を通り越して笑いしか出てこないじゃない」
「――っ、封魔じ…」
「遅いよ小娘がっ!!」

 巫女が術式を結び終える前に、私は地を蹴り、全身のバネを躍動させて彼女の腹部に拳を叩き込む。
 無論、手は抜いてある。私が本気で殴ってしまえば、拳が巫女の背中を貫通するくらい訳無いのだから。吹き飛ばされ床を転がる巫女に、
私は苛立ちを押し殺せないままに感情を喚き立てる。僅かばかりの理性を手加減に回してしまった為、感情が抑えきれない。

「未熟。未熟未熟未熟未熟未熟。弱過ぎてお話にすらならないわ。スペルカードルールが無ければ、人間なんてこんなものなのよ?
紅霧異変、春雪異変を解決して自分の力量を勘違いしてるみたいね?異変を解決し、私や西行寺幽々子にスペルカードルールで勝って、自分を強いと思っていたの?
本当に馬鹿な小娘だね。頭がおめでた過ぎて花でも咲いてるんじゃない?私達『化物』が本気なら、お前なんて一瞬で肉塊に変わるというのに」
「ぐっ…」
「本当に無様…ほら、いつまでも寝てるんじゃない!」
「があっ!!」

 倒れ伏している巫女に、私は容赦なく身体を蹴り上げる。軽く宙に舞った巫女の頭を片手で掴みあげる。
 本当、八雲紫は一体何を考えているのか。スペルカードルールなんて、あくまで良識の有る妖怪しか護る筈が無いというのに。
 もし、実力のある八雲紫…いいえ、この幻想郷に住まう連中を恐れない奴らが居たら、こんなルールなんて唯の下らぬお遊びでしかない。
 そして、その妖怪どもの狂爪が向けられるのは、間違いなく異変解決妖怪退治に乗り出すこの娘なのだ。だからこそ、この娘には現実を
理解させておかねばならないのに。博麗の巫女の危機に姿を現さないところを見るに、私は厄介事を押し付けられたか。下らない。

「博麗の巫女としてお前の行動は正しいよ。だけど、それも時と場合によるわ。
私相手に、たった一人で勝てるとでも思ったの?未知の相手でもなんとかなると思ったの?甘過ぎるのよ、お前は。
もし私が幻想郷に来たばかりで、ルールを何一つ知らない妖怪なら、この状況になれば迷わずお前を殺すわ。
臓物を抉り、性が違えば肉体を貪り尽くし、お前の嘆きを肴に生かさず殺さずで死よりも辛い責苦を味あわせる。
お前が今回起こした愚かな行動は、そんな結果を生む可能性すらあったのよ?それを少しは理解しているのかしら?」

 私の言葉に、博麗の巫女は言葉を返さない。恐怖に心を蝕まれたのか、ブツブツと小声で何かを呟くだけだ。
 命乞いか、はたまた泣き事か。巫女の悲痛な声を聞く為に、私は巫女の顔を己の方に近づけようとした、その刹那。
 突如、巫女の身体から光が放たれ、私は一瞬視界を失う。そしてコンマ数秒後に訪れる顎先への衝撃。
 その衝撃が巫女からの蹴りによるものだと気付いたのは、彼女を掴んでいる感触が掌から失われてから。
 巫女の蹴りによってよろめく私の前に、博麗の巫女は腹部を抑えながらも私を睨みつけている。
 …正直驚いた。私の束縛から逃げたばかりか、その瞳は恐怖など微塵も混じったりしない。その瞳はどこまでも私を退治しようという意志の表れ。

「はぁ…はぁ…私が甘いですって?私が愚かですって?その言葉、全部そのままアンタに突き返してやるわよ。
人間が妖怪に勝てないとか、一人じゃ何も出来ないとか、そんな手前勝手な決め付けを私に押し付けんな!
私は博麗の巫女、博麗霊夢なのよ!アンタ如きに殺されるほど安い人生なんて送ってないわ!巫女舐めんなクソ吸血鬼が!!」
「へえ…まだそんな減らず口を叩けるんだ。これから殺されるかもしれないというのに」
「殺されるだの苦痛だの…そんなのは私が巫女になったときから覚悟してんのよ!妖怪退治だってそう!スペルカードルールは
あくまで面倒事を減らす目的で作ったものだし、私はそんな甘いルールに依存してなんかいない!
私はね、殺し殺される世界の中で、覚悟をした上で博麗の巫女の座に立っているのよ!それをよくもまあ上から目線でぐだぐだと…あまり人間を侮るなっ!
大体覚悟が出来てないのはどっちよ!?アンタ、紫達を敵に回すのが怖いから私を殺せないんでしょう!?幻想郷を敵に回したくないから手を抜いてるのかしら!?
はっ!とんだ吸血鬼様だわ!何を怖がっているのよ?私がアンタなら、これだけ舐めた口をきかれてる以上確実に殺すけどね!」
「…良く言った、人間。生かして帰してやろうと思っていたけれど、気が変わったわ。お前はここで死ね」
「上等!アンタこそここで彼岸行きの片道切符を強制購入させてやるっ!!」

 私が爪を伸ばし、巫女の心臓を抉り出さんと飛びかかろうとする。しかし、その爪が彼女の臓腑まで届く事は無い。
 何故なら、私の腕を今まで傍観していた美鈴が掴んで止めていたからだ。私は軽く舌打ちをし、美鈴に言葉をぶつける。

「…この手は何のつもり?まさかお前、博麗の巫女に味方するつもり?」
「フランドール様、お言葉ですが今回ばかりは言わせて頂きますね。…いい加減、その茹った頭を冷やしなさい、この馬鹿が。
下らぬ挑発に頭に血を昇らせ、その結果が博麗の巫女の殺害ですか。それが何を意味するのか、少しは考えてます?
ええ、そうですね、考えてませんよね。考えてないからこんな愚行を続けてるんですよね。博麗の巫女を殺してしまえば、
当然この幻想郷は終焉を迎えますよね。そうなると、幻想郷中の妖怪達が敵に回りますよね。へえ、フランドール様はその結果レミリア様が殺されても良いと」
「ッ!だ、駄目!!それは絶対に駄目!お姉様を護る為に私はっ」
「はい、落ち着きを取り戻したようですね。だったら、後の行動は解かりますよね」

 美鈴の言葉に、私はようやく平静を取り戻す。愚か過ぎる。私は今、一体何をしようとした。
 日頃の苛立ちを今、博麗の巫女にぶつけて全てを台無しにしようとした。加えて、私は自らの暴走によってお姉様の命を失わせるところだった。
 なんと愚かな。感情の高ぶりのままに行動し、私は全てを終わらせてしまうところだった。私は掌のレーバティンを霧散させ、博麗の巫女に視線を向ける。

「悪かったわ…勝手な八つ当たりで貴女の命を奪うところだった」
「ふん…拍子抜けね。さっきまで好き勝手散々言ってくれたくせに、今度はその態度なの」
「…ごめんなさい」
「はあ…もういいわ。謝るつもりがあるのなら、さっさと今回の異変に幕を下ろして頂戴。そうしないと私の仕事が片付かないから」
「それは無理な話ね。だって、今回の異変の犯人はフランお嬢様ではないのだから」
「はあっ!?」

 美鈴の言葉に、博麗の巫女は目を丸くして驚きの様相を浮かべている。
 その反応は当然だろう。なんせ博麗の巫女は私が犯人だと完全に決めつけて行動していたし、私も完全に否定してはいなかったのだから。
 そんな巫女に、美鈴は淡々と説明を続けていく。

「そもそも、フランお嬢様が心を苛立ち乱していたのは、他ならぬ今回の異変のせいよ。
この妖気は紅魔館を起点として発生させているわ。人の館に厚かましくもね。そして、その犯人は未だに尻尾すら掴ませていない。
言ってしまえば霊夢、貴女同様にフランお嬢様も犯人を探しているのよ。その証拠に咲夜さんとパチュリー様には命令を出して捜索をさせているわ」
「じゃ、じゃあ今回の件は…」
「ええ、完全に貴女の勘違いってことになるわね。まあ、否定せずに喧嘩を買ったフランお嬢様にも非があるのは確か。
だから、今回の件はこれでお互い手打ちにしてほしいのだけれど、どうかしら?」
「…そっちがそれで良いなら構わないわ」
「そう、それは良かったわ。それじゃ申し訳ないんだけど、この部屋から今すぐ退出してもらえるかしら?
フランお嬢様は精神を少々患ってるから、今からその治癒作業をしたいのよ。その様子を正直外部の人間にあまり見られたくないしね」

 説明に頷き、博麗の巫女は室外に続く部屋の扉のへと手を掛ける。
 そして、すぐに出ていくかと思ったのだけれど、何故かその場に少し立ち止まる。
 何をしているのかと疑問符を浮かべる私達の方を一度振り返り、おもむろに声を発した。

「犯人扱いして悪かったわね!ごめん!」

 その言葉を残し、博麗の巫女は地下室から今度こそ去って行った。
 巫女の行動に呆然とする私に、くくっと楽しそうに笑う美鈴。本当、博麗の巫女は不思議な娘だ。良く分からない奴。

「お互い謝罪もしましたし、これで恨みっこ無しですね」
「私は最初から恨み事にするつもりはないよ。今回の件は完全に私のミスだもの」
「そうですね、その通りです。ほら、じっとして下さい。今から気を落ち着かせますから」

 ベッドに腰掛ける私に、美鈴は掌を翳して気を集中させる。
 私の感情の高ぶりや苛立ちにより生じる狂気。それを抑えるには、美鈴の力を借りる他に対処法が無い。

「本当に厄介な体質よ…こればっかりは恨み事を言わずにはいられない」
「そんな情けない弱音は吐かない。レミリア様が聞いたら、贅沢者って怒りますよ?」
「ふふっ、お姉様は凄いよね…お姉様は本当に心が強いよ。だからあんな理不尽な世界をも愛していられるんだ」
「自慢のお姉様、ですもんね」
「ええ、自慢のお姉様よ。世界一のお姉様」

 美鈴の治癒を受けながら、私は今回の件に反省をする。確かに最近感情が不安定だが、まさかこれほどまでとは思っていなかった。
 この館内に満ちている妖気が、私の感情を乱してしまう。恐らく妖気に気分が高揚する付属効果か何かが付与されているのだろう。
 そういう意味では、今回の異変の犯人は、私にとって最悪に近い相性だ。この気を昂らせる妖気は、私にとってただただ害悪でしかない。
 気分が高まり、狂気に身を委ねてしまえばそれこそ全てが終わってしまう。今回も美鈴が居てくれたからこそ良かったものの、最悪の一歩手前だった。

「…今回の騒動、私は何も出来そうにないかもしれないわね。下手すれば私が全てを台無しにしてしまいかねない」
「う~ん…私もあまりフランお嬢様の傍を離れられませんしね。ここはやはり咲夜さんとパチュリー様に頼るとしましょう」
「そうね…それに二人が駄目でも、博麗の巫女が動いてくれているものね。人間を侮るな…か」
「あれだけ言いきってたんですから、頼ってみても良いんじゃないですか?私達は最悪レミリア様に危害さえ加えられなければ、それで構わないのですから」

 美鈴の言葉に私は同意を示す。どうやら今回のことで私が動くには都合が悪過ぎる。
 犯人がそれを計算の上でやっているなら、大したものだ。だけど、それで全てを除したつもりで居るのならまだまだ甘い。
 世の中はそうそう全てが思い通りにいく訳が無い。近い未来、必ず正体を突き止めて、表舞台に引きずり出してあげる。
 そして、お前がお姉様に害を為す存在なら――こんな舐めた真似をしてくれた代償と合わせて、きっちり対価を支払ってもらうわ。








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