外伝 黒歴史編 第五話 とんぼ返り皆さん、蜻蛉(トンボ)は好きですか?俺は好きでも嫌いでも無い。まあ、そんな事はどうでも良い。サイハテよりハイネセンへと帰還した俺は、統合作戦本部ビルへ呼び出されそこで辞令を受け取る事になった。「ペトルーシャ・イースト中佐。本日付けで大佐に昇進だ。おめでとう。」「・・・ありがとう御座います。」「さて、君の新しい赴任先だが『エコニア』の捕虜収容所の所長だ。」「エコニア?」惑星エコニアと言えば辺境だ。主な産業は捕虜収容所、他には何も無い。しかし、あの『氷の惑星』に比べれば十分都会だ。町はあるし、人も居る。「実は先日エコニアの捕虜収容所で事件があってな。現在、所長と参事官が不在で副所長も負傷し入院中なのだよ。詳しくは報告書を読んでくれたまえ。」なにその、『続きはWEBで』的はヤツ。「ああ。それから、君と一緒に赴任してもらう参事官だが・・・。『オディ・オー・ブランドー少佐』だ。確か君の同期だったね。」「はい、その通りです。」オディ・オー・ブランドー。アイツか。俺やキャゼルヌの士官学校の同期で学年主席、ちょっと変な奴だ。決して悪い奴じゃないが・・・。俺は辞令を受け取り執務室を退出し帰宅した。帰宅中に特にする事も無いので報告書に目を通した。 エコニア捕虜収容所事件報告書 エコニアの捕虜収容所にヤン・ウェンリー少佐が参事官として赴任 ↓ 公金横領していた所長のコステア大佐がヤン・ウェンリーを秘密監察官と勘違い。 ↓ コステア大佐が捕虜を使い(騙し)、ヤンを抹殺しようとする。 ↓ ヤン一行に返り討ちにあう。 ↓ コステア大佐軍法会議逝き。副所長巻き込まれて怪我。ヤン・ウェンリー首都星ハイネセンに帰還。 ↓ 結果、エコニアの№1、2、3不在。ムライ中佐が職務を代行。それにしても、俺が冬篭りをしている間に『エルファシルの英雄』が誕生していたとは、ちょっとショックだ。リアルタイムで見ていたかったのに。テレビをつけるとヤン・ウェンリー特集をやっている番組があるし、ドキュメンタリータッチでエルファシルの脱出劇を再現した番組もやっている。で、ちょっと興味があるので今見ている所だ。うわっ、エル・ファシル警備艦隊司令官のアーサー・リンチ少将が酷い扱いだ。彼に、同情したくなる。って、誰だ?このイケメン。ヤン・ウェンリー?美化しすぎじゃね?ピ!ピ!ピ!ピ!ピ!ピ!「ん?」官舎でテレビ観賞をしていると、キャゼルヌからテレビ電話が来た。「よう、大佐に昇進したんだってな。同期の出世頭だな。」「まあ、目の前の誰かさんに直ぐ追い着かれそうだがな。そんな事より、結婚おめでとう、これで人生の墓場入りだな。」「おいおい。まだ、式は挙げてないぞ。」「先に言って置いただけだ。なにしろ、俺は辺境行きの身の上だからな。悪いが式には出れそうに無い。」「なあに、気にするな。半分は俺が仕組んだ事だ。」「・・・それは、アイツの事もか?」「いや、その事には一切関知して無い、偶然だ。」「・・・・そうか。それにしても、もっと早く連絡してくると思ってたんだが何かあったのか?」「ああ、例のエコニアの事件の後始末が忙しくてな。」「エコニアの事件、エルファシルの英雄が所長と捕虜相手に大立ち回りをしたってヤツか?」「それは少し、語弊があるな。それより、何時出発するんだ?」「明日には出発するつもりだ。」「明日!?随分速いな。コッチに帰ってきたばかりじゃないか、もう少しゆっくりして行ってもいいだろ。少しぐらい休んでも、誰も文句は言わないぞ。」「いや、荷造りが面倒くさくて・・・。まだ、サイハテから送って来た荷物もダンボールから出して無い状態で・・。 面倒くさいから、今日そのまま『エコニア』に送った。だから、官舎が空っぽでとても生活できない状態って訳だ。」「変な所でズボラだな、お前さんは。」「安心しろ、引越し業者にだけは就職しないつもりだ。そんな訳で出発は明日、参事官殿とは空港で待ち合わせしてある。 見送りは必要ないからな。」「大丈夫だ、最初から見送りに行く気は無い」それはそれで複雑だな。その後、どうでも良い様な事を二言三言交わし、通話を終了した。「あんたは一体なんなんだぁぁーーーー!!」「お前がなんだ!!」ハイネセンの空港で参事官殿と待ち合わせしている俺に、まるで自由にやられた運命の様な魂の叫びをぶつけて来たバカが一人。このバカがオディ・オー・ブランドー少佐だ。時々、変な電波を受信するがそれ以外は普通?の人だ。・・・・多分。まあ、コイツの事は放って置いてシャトルに乗り込む事にする。それにしてもエコニアまでコイツと一緒か。かなりキツイ旅になりそうだ。道中、特に問題も無く俺達はエコニアに到着した。問題は無かったが問題が無い事が色々あったが、そこは割愛する。そんな俺達に敬礼しながら声をかけてきた美人さんが一人。「お久しぶりです。ペトルーシャ・イースト大佐、エコニアにようこそ」「ドールトン少尉?久しぶり、何時エコニアに?」「三日ほど前です。このたびはイースト大佐の副官を拝命いたしました。よろしくお願いします。」「此方こそ、よろしく。しかし、どうしてまた少尉が?」「何でも、イースト大佐の到着が予定より随分早かったので副官の人事が未定でして それで面識のある私が急遽抜擢されたらしいです。」「ああ、なるほど。」とんぼ返りの余波がこんな所にまで影響してくるとは。本来、副官人事は軍の任用権で自由に選べる様になっているらしいのだが、実際俺も統合作戦本部ビルで副官をどうするか聞かれた気がする。特に要望は無かったので、『優秀な人を適当に付けて置いて』って感じで流した。「ああ、そうだった。さっきから空気なこの人が新しい参事官のオディ・オー・ブランドー少佐だ。」「オディ・オー・ブランドー少佐です、よろしく。ドールトン少尉?」「イブリン・ドールトン少尉です。よろしくお願いします。所で参事官ってどんな事をするんですか?」「それは「所長がミスをしたら代わりに責任を取るのが仕事。」・・・。」「へぇ、そうなんですか。」そこ、納得しちゃって良いの?って、ブランドー君。冗談だって、そんなに睨むなよ。まあ、始まりはこんな感じだったが俺達はその後、それぞれが別の任地に飛ばされるまでの間特に問題も無くエコニアで過ごす事になった。・・・・・・・つづく。捕虜収容所の影の支配者「私は生きているのかね?」作者「多分。」捕虜収容所の影の支配者「再登場の予定は?」作者「未定?」