第二十六話 「やっと分かった、同盟軍の奴らは阿呆だ。」byラインハルト 「イースト提督、イゼルローン要塞より指令が届いております。」俺は副官からの報告を受け、指令を確認する。『本国より物資が届くまで必要とする物資は各艦隊が現地において調達すべし。』何これ?現地調達?略奪しろって事か?副官のフック・カーン大尉も俺の隣で首を捻っている。「一体、司令部は何を考えているんでしょうか。現地調達とは略奪の事では無いのですか?」「あるいは、帝国軍の輸送艦隊に食料を分けてくれる様に要請しろって事か、もしくは帝国政府にお前らの民衆が喰った分の代金を払えって事で請求書でも送るか?」「・・・そっちの方が、まだマシですね。」「・・念のため、撤退準備をして置く様に全艦に通達してくれ。」「了解しました。」俺は念の為に隣接星系にいるヤン提督の第13艦隊に通信を入れ、撤退準備をして置く様に言って置こうと思い通信を入れた。「って、訳で撤退の準備をして置いた方がいいだろ。『補給が失敗する』、又は『敵が進攻して来る』のどちらかの事態が起こったら直ぐに逃げようと思う。 そっちも適当にやって置いてくれ。・・・後、ウランフ提督とビュコック提督にも連絡よろしく。」「了解しました。それから、イゼルローンの総司令部の方に全軍撤退を進言して置いた方がよろしいと思うのですが・・。」「そうだな。司令部の方へはビュコック提督かボロディン提督から進言してもらった方が良いだろう。 自慢じゃないが、俺はロボス元帥に嫌われているからな。」「・・確かにそうかもしれませんね。私からビュコック提督に伝えておきます。」用件が済んだ為、互いに敬礼した後に通信を終了した。もし、イゼルローンから撤退命令が来ても、撤退を開始した途端に追撃を掛けられたら不味いな。俺は、念の為に小細工をして置く事にした。・・・って、ヤンの野郎何気に酷い事言わなかったか?「ヤン提督は無害なフリをして、結構毒舌家だな。」「閣下と同じですね。」「失礼だな。俺はちゃんと相手を選んでいるぞ。」「確かに、悪い方に選んでいますね。」撤退戦の為の小細工が終了し、『イゼルローンからの補給物資』あるいは『輸送艦隊の壊滅の報告』、『敵襲の報告』の内のどれが最初に来るかと待っている俺の所に慌てた副官が飛び込んできた。俺は副官の慌てぶりから、悪い知らせだと推測する。多分後ろの二つの知らせのどちらかだな。「如何した。輸送艦隊が壊滅したのか?それとも敵襲か?もしかして、両方だったりするのか?」「半分正解です。襲撃を受けたのはイゼルローンを出発した輸送艦隊と、それを護衛していたルフェーブル提督の第3艦隊です。輸送艦隊の被害は50%ほどで、第3艦隊の被害は軽微の模様です。」その後、副官から詳細な報告を受けた。流れ的には、イゼルローン要塞を出発した輸送艦隊とそれを護衛する為のルフェーブル中将の第3艦隊が大規模な敵艦隊によって襲撃を受けた。大規模な艦隊。報告によると、第3艦隊の約4倍の数だったそうだ。大体5万隻くらいか?多分、キルヒアイスの仕業だ。流石に4倍の敵と正面から戦おうとは誰も思わない。ルフェーブル中将も、そう思ったハズだ。第3艦隊は敵に遭遇した時点で、輸送艦や輸送コンテナを盾にして後退を開始した。(輸送艦については、イゼルローンでの俺との引き継ぎの際に『輸送中に敵襲を受けた時に盾に使う為に、輸送艦を無人操縦にして置けばいいんじゃね?』って 言って置いたのをちゃんと採用してくれた様だ。まあ、無人操縦にすると多少動きが鈍くなるが仕方ない事だ。 同盟軍の使っている輸送艦はデカイ。どのくらいデカイのかと云うと帝国の輸送艦の約2.5倍で全長約2500メートルだ。 積んでいた物資は勿体無いが、盾や障害物としても使える。)更に、ルフェーブル中将は無人の輸送艦を帝国領に向けて突っ込ませた。これには帝国軍も驚いただろう。何しろ、護衛をしている艦隊が護衛対象の輸送艦を盾にしたり、無防備な状態で帝国領に突っ込ませたりしたのだからな。普通なら、護衛無しの輸送艦などに構う必要は帝国軍には無いのだが、今回の彼らの任務は輸送船団の襲撃だった為に突っ込んできた輸送艦に注意が集中した様だ。敵の艦隊との戦いに集中した所為で突っ込んできた輸送艦を見失い、見失った輸送艦が同盟軍の占領星系に辿り着いたりしたら、本末転倒だ。(まあ、どうせ一部の輸送艦が無事に辿り着いたとしても雀の涙程度の量だが。)で、帝国軍が突っ込んできた輸送艦や盾になった輸送艦を破壊している間に、第3艦隊と残りの輸送艦は無事にイゼルローンまで撤退出来ました。めでたし、めでたし。以上が、『赤毛の輸送艦隊襲撃事件』の顛末だ。その後、イゼルローンより『ま、まだ補給が失敗した訳じゃないんだからね!!帰って来て欲しい訳じゃないんだから!!』と、通達があった。何か、『イラッ』と来たので、俺は第11艦隊の将兵全員を艦に収容し、フェルデナンド・フォン・エスターライヒ伯爵に別れの挨拶をして何時でも撤退出来る様に万全の体勢を整えた。キルヒアイス提督の指揮する艦隊が、同盟軍の輸送艦隊に大損害を与えたとの報告を受けたラインハルトは自分の作戦が上手く行っている事を喜ぶと同時に、上手く行き過ぎている事を不審に思い始めた。「可笑しい、ペトルーシャ・イーストともあろう者が後手にまわりすぎている。これは、何かあるハズだ。」「閣下、確かにペトルーシャ・イーストは優れた戦術家です。しかし、優れた戦術家が優れた戦略家である訳でもありますまい。 あるいは、ペトルーシャ・イーストは優れた戦略家なのかも知れません。しかし、彼は同盟軍の元帥でも総司令官でも無いのです。 如何に優れた人物でも、上官が無能では能力を生かす機会はありません。」「だが、同盟軍の上層部が無能では無かったら・・・。」「閣下。そもそも、この時期に大規模な出兵をして来た事自体が無能である証拠ではありませんか?」「・・・・確かに、オーベルシュタインの言う通りだ。これより、帝国領を占領している同盟を斉唱する叛徒共に対し、全面攻勢に移る。 至急に、提督たちを招集せよ。キルヒアイス提督へは、輸送艦隊襲撃の任務は切り上げ、フォルゲン星系を占領している敵の第11艦隊を撃滅する様に通達せよ。」「閣下、お待ち下さい。現在、キルヒアイス提督の位置する星系とフォルゲン星系は距離があります。フォルゲン星系には、別の艦隊を派遣するのがよろしいかと。」「オーベルシュタイン、ペトルーシャ・イーストは優れた戦略家では無いかも知れないが、優れた戦術家である事は確かだ。 その事は、卿もイゼルローン回廊で直接味わったハズだ。」「はい、ですが・・。」「キルヒアイスは私が最も信頼している部下だ。キルヒアイスなら、ペトルーシャ・イーストに遅れはとるまい。だから、私はキルヒアイスに任せる、それだけだ。」「はっ。」オーベルシュタインのお陰で、『ペトルーシャ・シンドローム』が治りつつあるラインハルト。そして、ラインハルトはついに大反撃を決意し諸提督を呼び寄せると、帝国領を占領している同盟軍に対しての反攻作戦を開始した。・・・キルヒアイスの眠れない夜は続く。同盟軍第5艦隊司令官のアレクサンドル・ビュコック提督は、イゼルローン要塞の総司令部に通信を開き今作戦の総司令官であるラザール・ロボス元帥に面会を求めた。しかし、実際に画面の向こう側に出た人物はラザール・ロボス元帥では無く、総参謀長のクブルスリー大将だった。「前線の各艦隊司令官は撤退を望んでいます。その件について、総司令官閣下のご了解を頂きたいのですが・・。」「現在、総司令官は昼寝中です。」「・・・昼寝?」「はい。敵襲以外起すなとの事ですので、総司令官との面会は致しかねます。ですが、総司令官の昼寝中にのみ小官に総司令官代理の権限が与えられていますので その権限で全面撤退を許可致します。」「!?それは、ありがたいですな。それにしても、昼寝とは・・・。もし、総参謀長に総司令官代理の権限が無かったらと考えただけでも恐ろしいものですな。」「はい。・・・実は、この案もイースト提督からのアドバイスに寄るものでして。」「ふむ。相変わらず、色々な意味で期待を裏切らない人物ですな。イースト提督は。」「はい、巷では『死神』や『亡霊』、『死化粧』などと呼ばれていますが、中々優秀な人物です。」「『死化粧』は、初耳ですな。その様に呼ばれておるのですか?」「どうやら、イゼルローン要塞限定の呼び名だそうです。」両副官「「オホン!!」」「でっ、ではイゼルローンでお会いしましょう。」「は、はい。」撤退の許可が出たため、気を良くしたビュコック提督とクブルスリー総参謀長の話しが脱線する。両名の副官が咳払いでそれを忠告すると、慌てた両名は敬礼をすると通信を切った。「イースト提督、大変です。」「どうした。フック・カーン大尉、敵襲か?」「はい、帝国軍の大艦隊がフォルゲン星系に進攻して来ました。監視用衛星が敵艦隊を捉えました。」敵の数は、大体こっちの4倍か?キルヒアイスか?赤毛の赤髭が来たのか?・・・いや、違うな。キルヒアイスにしては艦隊の進行速度が遅すぎる。恐らく、我慢の限界に達したブラウンさんか、『( ゚∀゚)o彡°リッテン!リッテン!』(リッテンハイム)辺りが私兵を率いてやって来たんだろう。兎に角、撤退の口実が出来た訳だし此処は素直に逃げさせて頂きます。「『撤退案B』だ。第11艦隊を二つに分け、それぞれ別ルートで撤退を開始する。分隊の方はルグランジュ少将指揮下の分艦隊4000隻とワイドボーン少将指揮下の分艦隊4000だ。 分隊司令官はルグランジュ少将、副司令官はワイドボーン少将だ。残りは本隊として小官ことペトルーシャ・イーストが指揮する。 なお『ナナシー・ノ・ゴーンベイ』少将は本隊の副司令官とする。」兵力の分散はあまりいい手じゃないと思うが、二手に分かれればどっちを追撃するか迷っている間の分だけでも時間稼ぎが出来るだろうし。俺は予め、作成配布しておいた幾つかの撤退案の内の一つを実行するように命令を出す。俺の命令に従い、第11艦隊は混乱無く二手に別れて、フォルゲン星系からの撤退を開始した。・・・つづく。フォルゲン星系にやって来た敵の正体とは一体!?次回、明らかになるかも。※新たなる呼び名『死化粧』の詳細については後日という事で。※銀英伝の漫画版と外伝の黄金の翼を買いました。