第二十五話 撤退反対派議員の思惑がひどい件 占~拠♪ 占拠♪ 明るい占拠~♪っと云う訳で、無事に目標星域を占領した第11艦隊。予想通りに敵の抵抗はまったく無く、駐留している敵もいなかった。しかし、意外だったのは物資食料がある程度残されていた事だ。(実際には隠匿した食料がもっと隠されていると思うが)占領地の民衆の話では、少し前に帝国軍の大艦隊がやって来て食料を配布して行ったそうだ。鉢合わせしなくて良かった。それにしても奥深くに進攻し過ぎだと俺は思う。何故なら、お隣さんはブラウンシュバイクさんの家だ。そのブラウンさん家の隣の星系(キフォイザー)にはあのガルミッシュ要塞があり、もう一つのブラウンさん家の隣の星系(アイゼンヘルツ)にはガイエスブルグ要塞があったりする。実際、この星系はイゼルローン回廊よりフェザーン回廊の方が近い。「ラップ大佐、ブラウンさん家の隣の星系にあるガルミッシュ要塞を攻略し、簡易エンジンを取り付けて同盟領まで持って帰るのは無理かな?」「(ブラウンさん?)中々面白い案ですが、我が艦隊のみの戦力では無理です。」「そうだよな。無理だよな。攻略に成功したとしても、簡易エンジンを取り付けてる間に敵が殺到してくるだろうし。 こんな事なら、帝国領侵攻作戦では無く、帝国領の要塞強奪作戦にすれば良かったんだよな。この様子では、もう一つの作戦『亡命者大量受入』も失敗だな。」参謀のラップに愚痴っている俺だった。実際、ブラウンさんの家に無断で上がり込めば、激怒したブラウンさん家のオットさんが大艦隊を率いてやってくるかも知れない。それはそれで、怖い気がする。『亡命者大量受入』作戦とは、その名の通り帝国領からの亡命者を募り『輸送艦・快速』に詰め込んで、同盟領に送る作戦だ。俺の作戦失敗発言にフォローを入れる様に口を開くフック・カーン大尉。「しかし、まだ亡命者を募っている段階ですので失敗かどうかは分からないと思うのですが・・・。」「・・・いや、此処の領主が逃げ出さずに残っている時点で駄目だ。此処の領主が、民衆に圧制を布いている暴君ならば良かったのだが・・・。」実際、第11艦隊が占領した星系の領主は特に圧制を布いている訳でも無い。・・・いや、敵がやって来たのに逃げ出さずにいる時点で充分立派な人物と云えるのではないか?俺ならば、逃げ出す。俺は占領してからすぐに領主のフェルデナンド・フォン・エスターライヒ伯爵に面会した。壮年の男性だったが、開口一番に自分の事では無く、民衆の処遇についての話題を切り出してきた。行き成り、この領主を処断しては民心に動揺を与え、暴動や反発などを引き起こす可能性が高いと判断した俺は、領主へはこの地の統治についての協力を要請した。簡単に言えば、『今まで通り統治しろ』って事だ。だって、面倒くさいじゃん。すぐに、撤退する訳だし。第11艦隊が、フォルゲン星系を占領してからしばらく経った。相変わらず、基本的な統治はエスターライヒ伯に任せているが、俺としても何もしないと云う訳にはいかないので、定期的にエスターライヒ伯の家で現在の領地の状態についての報告を受けている。『後、どれ位の食料の備蓄があるか』とか『後、どれ位で作物が収穫できるか』とか、そんな事だ。単純な計算でいけば、収穫前に備蓄が底をつく事になる。そうなったら、艦隊から食料を分けなくてはならない。俺は、エスターライヒ伯の家からの帰り道で地上車に揺られながら窓の外の様子を観察している。様々な人が働いている。俺に気付いた人は不安げな表情を浮かべる。その表情から、今この地の民衆が望んでいるのは帝国からの開放でも無く、圧制からの開放でも無い。ただ、この地が戦場にならない事を願っている、と俺は感じた。所変わって、帝国の首都星オーディンにあるライハルトの元帥府。「閣下、フォルゲン星系が同盟軍によって占領された様です。」「・・・まさか、そんな奥まで進攻してくるとはな。念の為に、焦土作戦の範囲にして置いて助かった。 遥々、その様な所まで進攻して来るとはご苦労な事だな。で、どの艦隊が進攻して来たのだ?」ラインハルトは余裕の笑みを持って、自分の参謀に問い掛けたが、その答えを聞くと同時にその笑顔が驚愕へと変わった。「同盟軍第11艦隊です。」「何!!またしても、ペトルーシャ・イーストか。・・・ヤツめ、一体何を企んでいる。 ・・・・・そうか!!分かったぞ。ヤツの狙いはガイエスブルグ要塞とガルミッシュ要塞だ。直ぐに要塞に増援を派遣する。 ガイエスブルグにはケスラーを、ガルミッシュにはレンネンカンプだ。ブラウンシュバイク星系には・・・特に必要無い。」「はっ、直ちに。」「そう何時までも、後手に廻っていると思うなよ。ペトルーシャ・イースト。」執務室より退出していく参謀の背を見送ると、ラインハルトは一人呟いた。食えば減る、食わねば腐る食べ物は、減らぬは人の食わぬなりけり。フォルゲン星系を占領した第11艦隊だったが、これ以上やる事が無いので撤退命令が来るのを大人しく待っている所だ。(多分、来ないと思うが)一応、撤退に備えて色々と小細工をしておいた。(敵の接近を素早く知る為に、星系の各所に無人偵察用の衛星を設置したりなど・・・。)そして、ついにエスターライヒ伯爵領にあった食料の備蓄が底をついた為、第11艦隊から食料の配布をしなければならなくなった。このままでは、第11艦隊の食料も直ぐに無くなる。俺は、イゼルローンに『さっさと食い物、持って来い。持って来ないと帰るぞ。』っと、通信を送った。副官は、『持って来ないと帰るぞ。』の所を聞いて「流石に、あれは冗談でしょう?」と言っていたが「俺は本気だ!!」と、言っておいた。そう、俺は本気だ。食料が無くなるor敵がやって来る、これらの内どちらかの事態が生じたら直ぐに逃げ帰るつもりだ。その頃、、同盟軍第11艦隊を初めとする各艦隊の占領地で不足し始めた物資(実際にはまだ余裕がある)の要求がイゼルローン要塞を経由し、自由惑星同盟の首都星ハイネセンへと伝えられた。そして、最高評議会では一部の良識派から『直ちに、撤退すべき』との意見が出始めたのだが、「元々、遠征の目的は帝国の重圧にあえぐ民衆を解放する事にあります。5000万人もの民衆を飢餓から救うのは人道上からも当然でありましょう。 現時点で帝国からの抵抗が無いのは、民心が同盟に傾いている証拠です。直ちに、占領地の住民に食料などの必要物資を供与すべきです。」「当初の予定だけでも必要経費は2000億ディナールだ。これだけでも、予算を大幅に上回る事は確実であるのに、これ以上の出費があれば財政の破綻は目に見えている。」「占領地を放棄し、遠征を中止すれば良い。」撤退反対派の議員の意見に対し、財務委員長のジョアン・レベロ議員と人的資源委員長のホアン・ルイ議員が遠征継続の無謀さと撤退を促す発言をする。しかし、二人の撤退論はサンフォード議長の「『我が軍将兵に戦死の機会を与えよ、手を拱いて日を送れば不名誉なる餓死の危機に直面するのみ』こう云う報告が届くようでは物資を送らない訳にはいくまい。」との意見により、補給の物資の輸送が決定された。そして、撤退命令が出される事は無かった。だが、撤退反対派の議員も決して無能では無い。本音では敵の焦土戦術に乗せられた事や現時点では撤退が最善の行動だという事は承知していた。そして、自分達がある人物の扇動に乗ってしまった事についても薄々は気付き始めていた。彼らが撤退反対する理由は、帝国領進攻に賛成した自分達の面子の為であった。多くの議員が心の中で『一回だけでも戦術的勝利をあげたら直ぐに撤退命令を出す。』と自己正当化をしていた。結果、イゼルローンの司令部から前線に対し撤退命令の変わりにある命令が送られた。『本国より物資が届くまで必要とする物資は各艦隊が現地において調達すべし。』とまたしても、帝国の首都星オーディンにあるライハルトの元帥府。あれ以来、たいした動きの無い同盟軍に対し警戒心を強めていたラインハルトの所に一つの報告が入った。イゼルローン要塞から前線に輸送艦隊が派遣されるとの事だった。ラインハルトはこの輸送艦隊の襲撃を、辺境星系への物資配布の任務を完了して帰還して来たキルヒアイスに任せる事にした。「キルヒアイス中将。イゼルローンから前線へ輸送艦隊が派遣される。お前に与えた兵力の全てを持ってこれを叩け。細部の運用はお前の裁量に任せる」「・・はい。ラインハルト様。」「キルヒアイス、勝つ為だ。」ラインハルトは、若干元気の無いキルヒアイスへ言い訳を行い、心の中では『キルヒアイス、お前は何も言わないが今回の作戦(焦土作戦)には反対だったのだろう。だが、それももうすぐ終わる。いままでは・・・。』などと回想モードに突入した。しかし、キルヒアイスに元気が無いのには別の理由があった。ただ単に、キルヒアイスは疲れていただけだった。キルヒアイスはイゼルローン要塞に隣接している星系の全てに物資を配布し、帰還しようと思った矢先に同盟軍の大進攻が始まってしまった為に同盟軍の艦隊に遭遇しない様に辺境星系を遠回りして帰還して来たばかりだった。そして、キルヒアイスは艦隊を率いて同盟軍の輸送艦隊を殲滅しに出征した。・・・・つづく。※フェルデナンド・フォン・エスターライヒ伯爵はオリキャラ(一発)です。出番はもう無いでしょう。※作者の脳内星系図はPS版の『銀河英雄伝説』を元にしている為、若干可笑しい所があるかもしれません。ご容赦の程をよろしくお願いします。次回こそは、前哨戦に・・・。