第十四話 イゼルローン 出発してから 幾星霜 ヤンに恨まれんとも 俺の身の為イゼルローン要塞を出発して幾星霜。首都星ハイネセンに第11艦隊が帰還した。第13艦隊の時に比べればささやかな迎えの式典だったがそれでも、俺にしてみれば充分に凄かった。まあ、兵員の数は第13艦隊の二倍だからその家族や関係者の数も二倍と考えれば当然とも言える。流石に、戦勝パレードは無かった。「第13艦隊の時に比べると控えめですね。」「だが、それが良い。」やや不満顔の副官に短く答える俺。その後、俺は統合作戦本部に顔を出したがそこで、色々とあった。やはり、上層部はヤン・ウェンリー少将への英雄信仰を強化しようとしているらしい。ヤンの第13艦隊は難攻不落のイゼルローン要塞を犠牲を一人も出さずに攻略した。それに比べ、俺の第11艦隊は数で勝っている要塞駐留艦隊を破った。しかし、ほんの僅かではあるが犠牲は出ている。俺も同じ英雄にするとヤンへのご利益が下がると上層部が考えたとしても不思議ではない。実際、ヤン・ウェンリーは現在少将から中将に昇進している。俺の第11艦隊の幕僚は一部を除いて昇進したが俺は中将のまんまである。一応、年が明けたら大将に昇進するとの通達が来たがこれは秘密でとの事だ。結果、『味方の血を一滴も流さなかった』と云う点でヤン・ウェンリーは今回の戦いの英雄(生贄)になりました。(めでたし、めでたし)「結論を言うと、俺は悪くない、悪いのは上層部です。 俺の小賢しい策の結果と言うよりは、上層部の方針が・・・・。」「別に、ヤンもあいつ等も気にしてないと思うぞ。 これも給料の内と思っているさ。」俺の言い訳を遮って、さっさと帰れと手を振るキャゼルヌ。しょうがない。今日はもう帰るか。他に寄る所があるし。今頃、ヤンの奴はマスコミ攻勢に晒されているハズだ。俺も第3次ティアマト会戦の後の僅かな間だけだが俺もマスコミに追い回された事があった。最初はテレビに出れてラッキー位の感覚だったが段々煩わしくなって行き、更には俺では無くウチの三姉妹を標的とし始めた奴らまで現れた。なので、今の俺はマスコミが苦手だ。それはさて置き、現在俺は、ハイネセン記念病院にいる。別に俺の体調が悪い訳ではなく俺の義娘の一人であるカリンの母親であるローザライン・エリザベート・フォン・クロイツェル(略称ローザ)が入院しているからだ。通常のお見舞いなら、カリン達と一緒に来るのだが今回はローザの状態ついての話を担当医に聞く事と手術についての話をローザとする為だ。ローザは同盟軍に所属していた際に爆発事故に巻き込まれ、破片を体に浴びた。その一部が心臓に突き刺さっている状態だ。現在の所、体調は安定しているが主治医の話では、早い内に除去手術を受けた方が良いとの事だ。問題なのは手術費がバカ高いと言う事だ。とても、ローザが払える額ではない。「俺が手術費を立て替えるから、手術を受けろ。」と、今日もローザに言ったのだが自立心の強い彼女は絶対に首を縦に振らない。暇を見付けては俺はローザを説得する為に病院に来ているのだが中々うまくいかない。今の所、ローザへの説得は俺の連敗続きだ。お陰で、病院の看護婦さんとは顔見知りになってしまった。さっきも「また、いらしてたんですね。(ニヤニヤ)」とか「今日も駄目だったんですか?(ニヤニヤ)」とかニヤニヤと笑いながら声をかけられた。お前ら、絶対何か勘違いしてるだろ。俺は手術を受ける様説得に来てるだけだぞ。「はいはい、判ってます。大丈夫です。(ニヤニヤ)」・・・・早く何とかしないと。色んな意味で。「提督、こんな物が届いてます。」その日、カリンが俺宛に届いた郵便を持って来た事が全ての始まりだった。「招待状?同盟軍士官学校創立日記念式典?」「如何するんです。」何かを期待する目で俺を見て来る三姉妹。「よし、久しぶりに四人で旅行だ。(式典はついで)」そして、俺はその視線に屈した。出発当日、俺とカリン、アメークにベルナデッド。そして、ジャン・ロベール・ラップ大佐(昇進した)は空港へ向っていた。何故、ラップ大佐が居るのかと云うと同盟軍士官学校があるテルヌーゼン市に家(ジェシカとの愛の巣)があり、偶々出発日が同じだった為荷物持ちを手伝って貰う為に同行してもらった。女の子が三人揃うと、荷物がハンパじゃない。そして、空港で俺は見知った顔を見つけた。「あれ?おはようございます、ヤン中将閣下。今日は、何処かにお出掛けですか?」「おはようございます、イースト中将閣下。実は士官学校の創立日記念式典に招待されまして、 イースト中将閣下とラップは何処かに旅行ですか?」「こっちも士官学校の創立日記念式典に招待されたので、 後、ラップ大佐は帰郷だそうだ。」お互いに、慇懃に挨拶を交わしたが面倒くさくなったので直ぐに止め、ウチの三姉妹を紹介する事にした。「えーと、この子達はウチの三姉妹です。 それから、皆は知ってると思うけど此方の人物はあの有名な 『エルファシルの英雄』『イゼルローンの奇跡』『ミラクル・ヤン』『不敗の魔術師』 と呼ばれているヤン・ウェンリー中将閣下だ。」「始めまして、アメーク・アジャーニです。」「ベルナデッド・アジャーニです。」「カーテローゼ・フォン・クロイツェルです。」三人とも少し緊張した様子で挨拶をする。「どうも、ご丁寧に。ヤン・ウェンリーです。 ユリアン、此方の御方はあの有名な『第3次ティアマト会戦の英雄』 『ぼやきのペトルーシャ』『食堂の死神』『カフェのファントム』 と呼ばれているペトルーシャ・イースト中将閣下だよ。」「始めまして、ユリアン・ミンツです。提督、変な所で張り合わないで下さい。」「始めまして、ペトルーシャ・イーストです。お宅のヤン提督には、いつもお世話になってます。 ああ、それからヤン提督は他にも「「「いい加減にして下さい!!」」」・・・はい、スミマセン。」ヤン提督が他にも色々と異名を持っている事をユリアンに教えてあげようとしたら三姉妹に怒られてしまった。おのれぇ、ヤン・ウェンリー。それは、さて置きヤンがここに居るって事はテルヌーゼン市の空港では例の主戦論者代議員候補が取り巻きと一緒に待ち構えているな。スッカリ忘れていた。さて、飛行機に乗っている間に対策を考えるか。政治ショーの登場人物にされるのはごめんだ。つづく・・・・。