第十三話 おかたづけ×4難攻不落のイゼルローン要塞が陥落した。この知らせは、同盟、帝国を問わず銀河中に瞬く間に広がった。今頃、同盟の首都星ハイネセンや帝国の首都星オーディンは大騒ぎだろうな。しかし、そんな事は今の俺には関係ない。やるべき事が多々ある。要塞攻略によって発生した事後処理だ。まず、捕虜の武装解除に戦闘で傷ついた艦の修理に要塞内部の調査、周辺宙域の調査及び残敵の掃討、監視衛星の設置などなどやる事は山ほどある。捕虜だけでも50万人いる。とても、数日では終わらない。終わるはずが無い。誰か、キャゼルヌを呼んで来い。300ディナールあげるから。捕虜については階級の高い奴は別の施設に移送しろと連絡があった。残りの捕虜に対しての指示は無かったので武装解除し、取り合えず要塞内部での様々な作業について貰った。先ほど、補給の済んだ第13艦隊と第11艦隊の中で整備や修理の必要ない艦が周辺宙域の調査と監視衛星の設置の為に出撃していった。第13艦隊の方の指揮はエドウィン・フィッシャー准将が第11艦隊の方の指揮はルグランジュ少将が担当している。ルグランジュ少将は第11艦隊の分艦隊司令官の一人だ。確か、原作では救国軍事革命のクーデターに参加してたっけ?クーデター発生時の第11艦隊の司令官でドーリア会戦時にシェーンコップが「それなりに勇猛で優秀」と言っていた通り優秀な人物だ。それで、本来の第11艦隊指揮官は要塞内で必死に事務処理を行っているのだが、第13艦隊指揮官は違った。ヤンの野郎は全部副官に任せてのほほんと紅茶を飲んでいやがる。俺はこの時、ささやかな仕返しを思い付いた。早速俺は、イゼルローン要塞攻略の簡易報告書を作る(創る)と統合作戦本部長シドニー・シトレ元帥へ送信した。兎に角ヤン・ウェンリー提督を誉めて褒めて誉めまくった内容だ。『要塞を落したのはヤン提督の功績で、第11艦隊は敵を引き付けただけ、 他の艦隊でもこの程度の囮役は出来た。 いや、第13艦隊だけでもイゼルローン要塞攻略は成功していた。 それに比べれば、俺なんて便所虫だ。 ヤン提督バンザイ、ヤン・ウェンリーよ永遠なれ、 ジーク・アドミラル・ヤン・ウェンリー、ジーク・フリープラネッツ。 追伸 ヤン・ウェンリー少将が退役したいと言い出すかも知れないので気を付けて下さい。』と、大体こんな内容の報告書だ。(実際は言葉を選んで書いた。)この報告書を読んだシトレー元帥やその他の上層部達は俺よりヤン・ウェンリーを評価する筈だ。そして、それを発表する同盟軍。同盟軍の発表を信じたマスコミもヤンを英雄として評価する。その結果、俺への注目が薄れる。ついでに、帝国軍の注目もヤン一人に集中すれば万々歳だ。まあ、実際はこんなに旨くは行かないだろう。仕返しが旨くいけば良し、旨くいかなくても良しだ。報告書を送り終えた俺は直ぐに残りの事務処理に専念した。それから、しばらく経ちイゼルローン回廊内の調査と監視衛星設置の任務を終えた第13艦隊と第11艦隊が戻って来た。丁度その頃にハイネセンから第13艦隊だけ先に戻って来いとの通達があったので先ほど、第13艦隊は要塞を出発した所だ。第11艦隊については、イゼルローン要塞に引継ぎ要員が到着しだい戻って来いとの事だった。引継ぎ要員の到着までは、まだ大分かかりそうだ。ついさっき、アーロカート技術中佐を筆頭とした技術者連中が暇を持て余しているので何か仕事をくれと陳情してきた。放って置くとこいつらは何を仕出かすか分からないので取り合えず、先の回廊調査の時に持ち帰ってきた航行不能になった帝国軍の艦を好きにして構わないと言って追い払っておいた。この事を予想していた俺は調査に出発する前のルグランジュ提督とフィッシャー提督に「持って帰って来れる様な物があったら持って帰ってきてね。」と、御願いして置いたので結構色々と持って帰って来てくれた。二人に感謝を。何事においても、引継ぎは大事だ。俺の方は、要塞に到着した奴らとの引継ぎを無事に完了したがアーロカート技術中佐を筆頭とする技術者諸君は「今、丁度良い所だ。手が離せない。」byアーロカート技術中佐だったので、イゼルローン要塞に置いて来た。現在、俺たち第11艦隊は首都星ハイネセンに向っている所だ。何もする事が無いのでテレビを見ている。現在、イゼルローン要塞攻略を成功させたヤン提督と愉快な13艦隊の仲間達による戦勝パレードの中継を見ているのだが・・・・・。「・・・凄いパレードですね。」「・・・ああ、本当に凄いな。ラップ中佐、もしかしたら貴官も俺も あそこに居たかも知れないな。」「ご遠慮願いたいですね。」「同感だ、まともな精神の持ち主には耐えられないな。あのパレードは。」ただただパレードの豪華さに圧倒されていた。「わずか1個半艦隊であの要塞を落すとは、敵にも出来る奴は居るものだな、キルヒアイス。」「要塞を攻略したのは同盟軍第13艦隊、司令官はヤン・ウェンリー少将。 要塞駐留艦隊を壊滅させたのは同盟軍第11艦隊、司令官はペトルーシャ・イースト中将。」「ペトルーシャ・イースト・・・。あの男か。第3次ティアマト会戦の英雄。」ラインハルト・フォン・ローエングラムは第3次ティアマト会戦で帝国軍の包囲網を戦闘中に旗艦を変更する事で突破した人物の事を思い返した。自分やキルヒアイスの思考の死角を完全に突いた策を使った人物が敵にいる。「同盟内部では、ヤン・ウェンリーの方が評価されている様だが それすらも、奴の策略かもしれんな。」「確かに、油断のならない人物です。」この時点での、ラインハルトとキルヒアイスは同盟軍の提督の中でペトルーシャ・イーストを一番評価していた。ペトルーシャのヤンに対する仕返しが裏目に出ているのだがその事を知る者は誰もいない。