第十二話 備えとロープと憂いあり「よし、では作戦開始。」予定の宙域に到達したので、俺は空かさず作戦開始の命令を出した。直ちに、工作艦隊による作戦が開始される。少し、時は遡る。今、俺は対要塞駐留艦隊用の作戦を第11艦隊の幕僚達としている。「で、デコイの設置が終わった工作艦が隕石群にバサードラムジェットを取り付け、 それを敵艦隊に向けて叩き込む。ってな感じの作戦で行こう。」「なるほど、確かに一発ではなく複数で行えば効果はあると思います。 その作戦で問題無いと小官は考えます。」おお、J・R・L中佐が俺の作戦を誉めた。この作戦は行けると思っていた俺に別の人物から待ったがかかった。「それには、一つ問題があります。」「どんな問題かな?コーンナーコート・モ・アーロカート技術中佐。」俺は、問題を指摘して来た人物に問いかけた。彼はコーンナーコート・モ・アーロカート中佐。第11艦隊に所属している技術者連中(一応軍人)を仕切っている人物だ。階級は普通の中佐だが、俺は面白がって技術中佐と呼んでいる。そしたら、いつの間にかにその呼び方が定着してしまい今では、自分でも面白がっている位だ。「取り付けるバサードラムジェットがありません。まさか、艦を解体してそれを使うわけにも行きませんし・・・・。」「バサードラムジェットが無い?」「はい。」「・・・・何か代用できそうな物は?」「ありません。現在の所持している装備は・・・『監視用衛星』『囮用のデコイ』『ゼッフル粒子発生装置』しかありません。 後は・・・これらの装備の積み込みや運搬時に固定に使ったワイヤー位しか・・・・。」なんてこった・・・・。折角、ラップ中佐が賛成してくれる様な素晴らしい作戦が使えないとは・・・。いや・・まて。ワイヤー?これ使えるじゃん。ヤンも使ってたし。「ジェットが無ければワイヤーを使えばいいじゃない。」一同「( ゚Д゚)ポカーン」俺は唖然としている一同に、『ワイヤーを使って岩を牽引作戦』を説明し一同の賛同を得た為この作戦を行う事に決まった。作戦名「ワイヤーを使って岩を牽引」ワイヤーで岩を数珠繋ぎにしそれを工作艦で牽引し敵艦隊に向けて突っ込ませる。(工作艦は岩にある程度勢いが付いたら離脱)バーミリオン星域会戦でヤンが使っていたヤツのだ。そして、時は戻る。「我が艦隊側面に敵反応!!」「何!!?敵の別働隊か?」「拡大映像を出します。」「何だ?これは。」イゼルローン回廊で同盟軍第11艦隊と戦闘中のイゼルローン要塞駐留艦隊の側面に突如として敵が出現した。そして、その出現した敵は戦艦などではなく無数の工作艦とその工作艦に牽引されている巨大な岩であった。予想外の敵の状態に要塞駐留艦隊司令官のゼークト提督、及び首脳部達の思考が一瞬停止する。そこを、同盟軍第11艦隊からの猛攻撃が襲う。「な、何だ!?」「敵からの攻撃です!!」「くそ!!叛乱軍どもめ!!先ほどまではモグラのように縮こまっておったくせに!! さっさと反撃せよ。」さっきまでは後退しながら消極的に攻撃をくわえてしか来なかった敵からの予想外の攻撃で一時はうろたえたゼークト提督だったが直ぐに、気を取り直すと反撃を命じた。この時、突然の敵からの猛攻撃を受け、敵本隊に注意が移った為ゼークト提督ら要塞駐留艦隊の首脳部の頭の中から側面に出現した工作艦群の事はすっかり抜け落ちてしまった。ただ一人、陰気な幕僚を除いて・・・・・・。しかし、陰気な幕僚はこの時点で何度も自分の進言を無視し続けているゼークト提督を見限っていた為に、その事を進言する事は無かった。「敵、工作艦に気付いた様です。」「敵の注意を工作艦よりそらす。全面攻勢に移つる。主砲斉射。」俺の指示により、第11艦隊は今までの鬱憤を晴らすかのように敵に猛攻撃をくわえていく。それに、敵の注意が丁度、工作艦隊に逸れていた瞬間にこっちの主砲斉射が決まった為、予想以上に被害を与えた。今日の俺はなんか凄い。ヤベエ、テンション上がって来そう。俺が一人で興奮していると工作艦隊から切り離された岩が次々に敵に突っ込んで行った。凄いな、敵陣がズタズタだ。岩やワイヤーに衝突し爆沈していく艦が続出している。こんなに、旨く行くとは予想外だ。でも、何か爆発の規模が大きくない?メチャクチャ爆発してるよ?敵のいない場所でも爆発してるよ?疑問(不安)に思った俺は直ぐに工作艦にいるコーンナーコート・モ・アーロカート技術中佐に通信を入れた。「作戦は無事成功したようだ。アーロカート技術中佐。君達のお陰だ。」「我々は作戦通り行動したまでです。提督の支援攻撃が無ければここまで旨くは行かなかった筈です。」「支援攻撃位は当然の事だ。・・・所で、何か物凄く爆発しているんだが? 技術中佐、何か余計な事をしなかったか?」「その事ですか?余っていたゼッフル粒子発生装置を岩に取り付けて一緒に送りつけただけですよ。もちろん、起動は遠隔操作で行ったので此方まで爆発は来ないと思います。多分・・。」「多分?」「なにぶん、急な作業だったので絶対の保障は無いです。もしかしたら、ゼッフル粒子発生装置を起動した状態で送り出したのも在るかも知れませんね(笑)」その瞬間、俺の背筋が凍り付いた。「全艦戦場より急速離脱!!!!敵には一切構うな!!!!」(笑)じゃねえよ!!!!!あの爆発がこっちまで来たら如何するんだよ!その後、俺たち第11艦隊は混乱している敵を一切無視して戦場を離脱。そのまま、イゼルローン要塞に向かった。幸い、混乱している敵からの攻撃が一切無く、ゼッフル粒子も第11艦隊の方までは充満していなかった為離脱時に被害は出さずに済んだ。そして、イゼルローン要塞に到着した第11艦隊は所有者を代えた難攻不落の要塞と新たなる要塞の所有者に迎えられたのである。ちなみに、この時の俺はゼッフル粒子から逃げる事で頭が一杯であり駐留艦隊の旗艦に乗っているハズの義眼の愛犬家の事はスッカリ忘れてしまっていた。