荒野が広がり凶悪な魔物や殺戮機械が闊歩する世界。
そのような世界でも、日が落ちればやがて朝は来る。
かつて人類が文明の栄華を誇っていた頃、『人類が滅んでも~』というフレーズがしばしば用いられていたが。
そのフレーズを考えた人物もまさか想定していなかったであろう。
全面戦争以上に悲惨な大破壊を経て尚、人類が逞しく生き残る事を。
荒れ果てた世界に転生(う)まれたけど、私は元気です 06話
『何が役に立つかわからないよね』
丸い体に、嘴の代わりに銃身が生えた奇妙な進化を遂げた鳥類の一つ。鉄砲鳥。
群を為して無防備な頭上から銃撃を加えて来るそのモンスターは、新米ハンターやトレーダーにとっては恐怖の対象の一つであった。
その、『恐怖の対象』は今。
森の中の枝に止まっていた所をアーマーを装備したシベリアンハスキーに追い立てられた所を。
ライフルで狙い撃ちにされ、地面に墜落していた。
「ハスキー、グッド!」
「わふっ」
茂みからライフルを手に立ち上がり、撃ち落した獲物の傍で座り待機しているハスキーを撫でる少女。
バスケットボール程の大きさな鉄砲鳥の足を紐で縛り、既に中身の詰まった食材袋と別に担ぎ。ハスキーを撫でながら歩き出す。
しばし歩いて到着したのは、アサノ=ガワの町近くの下流の川辺。
そして、荷物を付近に下ろした少女。アルトはナイフを取り出し…。
まだ仄かに暖かい鉄砲鳥の解体を開始した。
「…えぇと、首斬って血抜きしないといけないはずなんだけど…首どこだろう」
血の匂いにワクワクしているハスキーを傍らに待たせ、時折首を捻り前世でアルバイトした記憶を思い出しながら解体を進め。
かなり手間取りつつ、なんとか胸肉、腿肉等の部位に切り分け。川で血を洗い流し。
森で拾っておいた枯れ木で焚き火を作り、薄くスライスした胸肉をナイフに差したまま火に炙り始める。
「わふっ、わふっ」
肉の焼ける匂いに鼻をフンフン鳴らし、口を半開きにして涎を垂らし始めるハスキー。
その様子を微笑ましく思いながら少女は笑みを浮かべ、焼けた肉を火から放し。一口齧る。
咀嚼すること数回、舌が痺れる様子もなく味もまぁ悪くないのを確認し。ナイフから外したその肉をハスキーへ与える。
「胸肉は大丈夫っぽい、と」
一口でソレを平らげるハスキーを横目に皮ツナギのポケットからメモを取り出して食感や痺れの有無等を記載。
続いて、腿肉を削ぎ落とし。先ほどと同じようにナイフに刺して火で炙り始める。
装備が整いサポートしてくれるハスキーを得た事で、狩りにも余裕が出来たアルトは。
新たなメニューを驚愕の騾馬亭に売り込むプランを組み立て始めていた。
「他のハンターも、ボクと同じような事しだしたしね…」
「わふ?」
溜息と共に嘆息、許可を貰い焼きあがった腿肉の一本を齧ってたハスキーが不思議そうにアルトを見上げる。
ぬめいもハンバーグによるぬめぬめ細胞やいもいも細胞の需要増加、ソレに伴いアルトと同じように定期的に卸そうとするハンターが増えてきたのだ。
今のところアルトの定期収入に目立った影響は出てないが、独占状態が解除されてきている事には変わらない為…。
「影響が目立ち始めてから動いても遅いしね」
「わぅーん」
前世での営業職時代に、アドバンテージに胡坐をかいてたら他社に掻っ攫われた苦い経験を思い出しながら。
苦い笑みを浮かべ、肉に満足して転がるハスキーを撫でるアルトであった。
(Side:アルト)
いつものようにぬめぬめ細胞やいもいも細胞を驚愕の騾馬亭に卸したボクは今。
自宅の調理器具を前に腕組していた。
「さて、どうしようかなぁ…」
普通にソテーとかだとハンバーグほどのインパクトがないし、なんとか入手できる調味料が塩や酢じゃぁちょっとしんどい。
酢も日本酒っぽいお酒の密閉ちゃんとしてなかったら出来たと言う、ちゃんとした酢からは程遠いモノだし。
「…ぁぁ…鰹節とか醤油がほしい、後砂糖と胡椒もほしい」
ないないづくしである、トレーダーから買おうにも見事に吹っかけられるし。
前世で何気なく食べてた鳥料理が恋しくなる。ソテーにから揚げに手羽先焼き鳥に煮物。
「……ん?」
今脳内で列挙した料理の一つが引っかかる。
焼き鳥。
「……炭火焼き鳥」
口にしてようやく、ストンと落ちる。
「ソレだ!」
閃きと共に歓喜の叫びをあげ、床に伏せてたハスキー君がビクっとなる。
窓から外を見ればまだ夕方、そうと決まれば話は早く。家を飛び出して目的の品をハスキー君と共に集めに出る。
閑話休題
一時間ほど駆け回り、ブロックに網に木炭。ソレと枯れ木から削り出した串を用意完了。
数本分胸肉や腿肉を切り分けて串へ通し塩を振り。
裏口のお風呂場スペースに出、ブロックを組んで炭を入れて火を起こす。
煙や中々つかないことに難儀しつつも火が安定してきたところで網を載せ…。
「…このお腹が空いてくる匂い、これだ」
ジュゥジュゥと音を立て、時折油と肉汁が混ざった液体を炭へ落とし。ソレが更に良い匂いを立て。
熱に苦戦しつつも何度かひっくり返し、程よく焼けたソレを一口。
「んまい……」
若干残る臭みが逆に旨みになり、歯ごたえと塩味が程よく噛みあっている。
2本目も味わおうと手を伸ばしたところで裾を退かれてそちらを見ると。
「きゅぅーん…」
物欲しげな瞳をしたハスキー君が、自分も食べたいオーラを全開にしていました。
その様子が凄く可愛かったので撫で回した後、お皿に串から外した鶏肉を入れて差し出し。
次の瞬間、ぺろりとソレを平らげるハスキー君。そして目が訴える、『もっと頂戴』と。
気が付けば、鉄砲鳥1羽分ボクとハスキー君で平らげてましたとさ。
(続く)
【あとがき】
主人公焼き鳥を作る、の巻きでした。副題は前世での妙な経験がまさかの大活躍の意味。
徐々に食材ハンターとして加速します、そしてハスキー君は美味しいモノが食べれます。
しかし調味料不足がたまに足を引っ張ったりします、きっと。
本当はこの回で戦車獲得をやろうと思ったのですが、もう1話くらいクッションを挟みたかったのでこんな話になりました。
次回、戦車がアルトの手に入る…かもしれません。
レンタルタンクは、その内名も無きハンターさんが乗ったりする予定です。
MMRでヘッツァーとかトラクターとか乗り回したのは良い思い出です。