大破壊から時が過ぎて尚、その朽ち果てる寸前の姿を晒す廃墟達。
ソレらは今荒野を生きる者達にとって、宝が眠っている山と同義であり。
凶悪なモンスターが闊歩していたり、強力なセキュリティに守られていない場所は。既に漁り尽くされているのが常識であった。
そう、価値が理解されていないモノや巧妙に隠されているモノを除いては。
荒れ果てた世界に転生(う)まれたけど、私は元気です 04話
『家族が増えたんだよね』
アサノ=ガワの町から少し離れた廃墟郡。
そこは、大破壊前においてはその地域で最も栄えていた街であった…が。
今現在においては、後ろ暗い経歴を持つ者以外はモンスターがうろつくのみの廃墟でしかなかった。
「えぇと……トレーダーの人の話だと、この辺りのはずなんだけどなぁ…」
物陰に隠れながら廃墟を進んでいた少女、アルトが地図を広げてボヤく。
いつも食材集めで町の周囲にしか出ない少女が、少し遠出をした理由。
ソレは、町に来たトレーダーが。昔持ち運びできるサイズの浄水器を見つけた廃墟の探索である。
とは言っても、浄水器が目当てではない。勿論あれば儲けモノであるが、そちらは望み薄だとアルトも割り切っている。
「と、こっちかな?」
軽く水分を補給し、突然の不意討ちにも対応できるよう。取り回しの効き易い小型拳銃を手に構えて廃墟を進む。
前世の知識を下に濾過器を作ろうと思い立ったのだが、いかんせん中途半端な知識で作ろうとした為失敗し…。
確実に作る為の水質濾過のノウハウを得るべく、構造等の説明が記された書籍や資料を探しに来たのだ。
が、そう簡単に目的のモノが見つかるワケもなく。
地図に記されていた廃墟のビルに到達はしたものの、内部の崩壊が進んでいたり。カードキーが必要な扉のせいで中々思うように探索が進まず。
そのような状況の中で襲いくるモンスターをやり過ごし、時折遠距離から狙撃しつつやり過ごし。
そろそろ探索を切り上げようか、と考え始めた頃になってようやく…。
かつて資料室であったであろう、ところどころ本棚がひっくり返っている部屋に到着。
更にそこで片っ端から書籍を探す事小一時間。
「やっと、見つかった…!」
目的の書籍に巡り合えた事による嬉しさか、半分諦めかけた所でようやく見つけられたことによる反動か。
濾過器の構造について記載された本を両手に持ち、本が散乱する部屋の真ん中でソレを両手で掲げてくるくる回り。
6回転ほど回った頃、床の本を踏んで滑り…見事に転ぶアルト。
痛みはそれほどでもなかったが、思わず回った自分の行動を思い返したのか悶絶。
15年間近く女やってるからしょうがない、と自己意識に欺瞞を被せてようやく立ち直り。
「……? なんだろう?」
更に散乱し広がった本の間から出てきた、一枚のカードに気付きソレを拾い上げて確認をする。
「なんで、資料室の本の間に社員証…?」
栞代わりにしていた社員でも居たのかな、などと考えつつ手の中で弄び。
ふと、資料室に到達する前に。カードキー認証のせいでは入れなかった場所を思い出した。
(Side:アルト)
社員証を手に、資料室から1階の件のエリアまで戻ってきたボク。
コレで開くかどうかは分からないけど、まぁ開いたらラッキーくらいな感覚である。目的の本とめぼしい本は回収できたし。
そんな、軽い気分で。しかし警戒を怠らずに社員証をカードリーダーに通し。
一拍を置いて、電子ロックされていた扉が開錠されたことを示す音が鳴り。扉が自動で開く。
開いた扉の奥には地下に続く階段があり、今の電子ロックの扉でもしや。とは思っていたが。
階段の箇所もライトで照らされている事から、この廃墟の電源がまだ生きている事を確信する。
「コレは、もしかするともしかするかな?」
戦車、はないかもしれないが。それでもかなりの儲けになるであろう雰囲気からか胸が高鳴るのを感じて。
ゆっくりと、地下への入り口をくぐり。地下へと進む。
階段を降りきったそこは、荒れてボロボロになった地上部とは打って変って。
多少壁面や床にヒビが走ってはいるものの、まさに『研究所』と言うべきエリアだった。
「…監視カメラが結構あるなぁ」
物陰に隠れ、時折綺麗に磨いた鉄板で曲がり角の先の状況を確認しながら進み。時折カメラがそっぽを向いているタイミングで狙撃を実行し破壊する。
その結果結構な発砲音とか立てちゃってるけど、今のところ警報もないので大丈夫と判断して先へと進む。
「……おおー」
途中、警備員の詰め所と思われる部屋から状態のよいサブマシンガンを入手したりもできた。
ボディアーマーもあったんだけど…ブカブカで逆に動き辛く荷物としても重たいので諦めた。小柄なこの体がこう言う時歯痒く感じる。
閑話休題
色々と嬉しい発掘、特に綺麗なコーヒーメーカーや調理器具とか本当に嬉しい。
ともあれ、そうやって慎重に障害を潰しつつ探索を続け。遂に一番奥にあった扉を開くと。
広い、機材で埋め尽くされた部屋の真ん中にある何かの液体で満たされた大きなガラス管の中に。
「…犬?」
結構大きなサイズの犬、平たく言うと大型犬な。
シベリアンハスキーっぽい犬が入ってました。
コレはアレですか、ポチですか? もしかして。
部屋の中央まで歩を進め、ガラス管に向かってケーブルが延びているコンピュータを起動。
ここに入るのに使った社員証の社員IDでログインができたので、色々と資料へ目を通す。
…どうやら、このビルは表向き真っ当な製薬会社。後ろ側で色々と違法スレスレ、時折アウトな研究をやってたみたいで。
このガラス管の中のわんこことハスキー君も、その研究の一環だったようです。
大破壊前の社会のモラルって一体どうなってたんよ、と思わず唸りつつもう一度ハスキー君に視線を向けた。その時。
偶然かボクの気配で覚醒したのか、うっすらと目を開けてちょうどボクの視線とハスキー君の視線が交差する。
「…うん、わかった。出してあげるよ」
こっちに敵意がない、むしろ捨て犬のような目でこっちを見るその視線に頷いて応えてコンピュータを弄り。
ハスキー君を出す為の操作を発見し、ソレを実行。
すると、大きな音を立ててガラス管の中の液体が排出されガラス管が上昇。
ハスキー君は液体が排出された事で床に崩れ落ちるが、完全にガラス管が上昇仕切ると。四肢に力を込めて立ち上がり。
全身をずぶぬれにする謎の液体と、体のあちこちにつながれたケーブルを勢いよく身震いして弾き飛ばす。
そして。
ノータイムで、こちらに飛び掛ってきた。
「え?! な、きゃふぁあ!?」
同情一秒怪我一生、一瞬そんな標語が頭を過ぎりつつ為す術もなく飛び掛られて床に押し倒され。
我ながら無意識とはいえなんという声を出してるんだ、と思う間もなく。
ハスキー君に顔中を嘗め回された。
結論から言えば、ハスキー君はボクに懐いてくれたと言えるのだろう。
ただ、親愛の情を示す為とはいえさすがに少々心臓に悪かったとボクが憤慨してもソレは許されると思うんだ。
でもまぁ、嫌われるより好かれる方が良いから今回は見逃してあげるのだ。
けして、ボクに怒られその大きな体を小さくしてきゅぅん、と鳴くハスキー君の姿にほだされたワケじゃないと主張する。
ともあれ、持ちきれない荷物を…早速で申し訳なくも感じるがハスキー君の背に担がせてもらい。
他のハンター達が病みつきになるのも良くわかる、と思わず納得するほどにホクホクな掘り出し物を土産にボク達は帰宅したのであった。
(続く)
【あとがき】
幸運に幸運、更に幸運を重ねてわんこと邂逅した主人公な回でした。
ハスキー君はちょっとオツムの足りない力持ちさんです、能力的にはサーガのタロウ的な。
ここから、アルトの食生活や環境が大幅に改善されます。きっと。
ちなみに主人公の性認識ですが、本人は認めたがらないですがメンタリティは結構女性よりになっているかもしれません。
インパクトが強すぎる環境をおにゃのこの体で過ごしてきたのが大きな原因かもしれません、というよりもほぼ確実にソレが原因です。