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No.12812の一覧
[0] 中の人などいない!!【王賊×オリ主】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:42)
[1] あ、ありのまま(ry なプロローグ[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:11)
[2] 勢い任せの事後処理編[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:18)
[3] 【人財募集中!!】エルスセーナの休日1日目【君も一国一城の主に!】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:23)
[4] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:15)
[5] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:16)
[6] 【過労死フラグも】エルスセーナの休日2日目【立っています】[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:17)
[7] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:18)
[8] 【オマケ劇場】エルスセーナの休日3日目【設定厨乙】[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:19)
[9] 婚活? いいえ、(どちらかというと)謀略です。[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:20)
[10] いきなり! 侵攻伝説。[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:21)
[11] 始まりのクロニクル ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:22)
[12] 始まりのクロニクル ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:23)
[13] 始まりのクロニクル ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:24)
[14] 始まりのクロニクル ~Part4~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:25)
[15] 始まりのクロニクル ~Part5~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:26)
[16] 始まりのクロニクル ~Part6~[ムーンウォーカー](2010/08/15 13:22)
[17] 始まりのクロニクル ~Part7~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:29)
[18] 始まりのクロニクル ~Part8~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:39)
[19] 始まりのクロニクル ~Last Part~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:40)
[20] それは(ある意味)とても平和な日々 ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:44)
[21] それは(ある意味)とても平和な日々 ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:44)
[22] 【休日なんて】エルスセーナの休日4日目【都市伝説です】[ムーンウォーカー](2010/06/27 18:15)
[23] 動乱前夜 ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:46)
[24] 動乱前夜 ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/23 12:27)
[25] 動乱前夜 ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/06/07 00:10)
[26] 【公爵家の人々】エルスセーナの休日5日目【悲喜交々】[ムーンウォーカー](2010/06/13 13:19)
[27] 【誰が何と言おうと】エルスセーナの休日6日目【この人達はモブな人】[ムーンウォーカー](2010/07/18 20:18)
[28] 【意外と】エルスセーナの休日7日目【仲の良い人達】[ムーンウォーカー](2010/07/18 20:17)
[29] 面従腹考[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:00)
[30] 合従連衡[ムーンウォーカー](2010/08/15 13:35)
[31] 伏竜鳳雛 ~part1~[ムーンウォーカー](2010/08/29 12:19)
[32] 伏竜鳳雛 ~part2~[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:43)
[33] 伏竜鳳雛 ~part3~[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:43)
[34] 伏竜鳳雛 ~part4~[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:33)
[35] 伏竜鳳雛 ~part5~[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:01)
[36] 登場済みキャラクターのまとめ その1(始まりのクロニクルLastPart終了時点)[ムーンウォーカー](2010/05/23 12:49)
[37] 【あとがき的な】各話後書きまとめスレ【何かっぽい】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:02)
[38] 生存報告[ムーンウォーカー](2011/03/14 20:34)
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[12812] 勢い任せの事後処理編
Name: ムーンウォーカー◆26b9cd8a ID:0c92d080 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/01/23 20:18
 そんなこんなで盗賊団どもを殲滅してから数日後。



 対症療法とは言え盗賊団にはとりあえず勝つには勝ったし、こちらの死傷者も片手で数えられる程という被害の少なさ。動員した連中には一時金を渡したし、押収した物は武器を除いて出来る限り被害者に返還する手筈を整えた。
 さらわれていた娘達に関しても、家に返したり侍女として雇ったり等と出来る限りの措置はとった。

 ――その中に安楽死という項目があったのは激しく鬱になりそうだったが。

 ……目がね、死んでるのよ。マトモな反応も返ってこないし……、正直トラウマもんだわ。気丈な娘さん見るのもそれはそれで痛々しかったけど、さ。



 あと、件の盗賊団が暴れていた期間中に孤児になった子供に関しては公爵家で孤児院を立ち上げて引き取るという異例の措置までとった。たぶん、すぐに異例じゃなくなるだろうけど。
 身寄りの無い子供を放置しておくなんて犯罪の温床を作ってるようなもんだしな。つーか、平和な国ニッポン出身としては仮にも自分が統治してる領内にそんな問題が放置されてるとか気分が悪すぎる。

 ……それはいいとして、予算足りるんだろうな?
 予算足りんとかなったら洒落にならんが……、けどコレに関してはもう決めたし譲る気も無い。お嬢さん方のうち何人かに慈悲を下さなきゃならんかった、その罪滅ぼしって訳でもないんだけどさ……。
 何とかしなきゃならん問題があって、何とかできる権限が手の内にあるなら、何とかしなきゃいけないと思うんだよな、やっぱ。



 そんな訳で、前から算段を付けていた減税措置も即座に行って根本的な問題の解決にも道筋を付けたし、関所の徴税機能の廃止と治安維持施設化も行って予防措置もとった。
 両方とも盗賊征伐を行ってすぐに公布したから領民に対するアピールにもなっただろう。

 こうなってみると領内の要所全てにあったと言って良いほど多かった関所の建物と人員もそのまま転用できて、鮮やかな有効活用だったと言える。
 それらを実現する為に殺人的な量の書類処理と各種折衝もこなした訳だし、流石に褒めて貰っても良いだろう的な。



 ……だというのに、朝っぱらからカーロンに長々と説教を受けているのは何故なんだぜ?


「セージ様はこのリトリー家に唯一残された正統な血筋の男子なのですぞ!
 確かに先の盗賊征伐に見せた才は賞賛すべきでしょうし騎士達からの受けも良かったのは知っておりますが、いま少しご自重下され。
 このヴィンセント=カーロン、セージ様に何かあってはと思うと飯も喉を通りませんわい」

「いや、さっき朝飯一緒に食ってただろお前」

「……言葉の綾という物ですじゃ。とにかく、今後はせめてこの爺をお側に控えさせて下され」

「分かった分かった、次からは気を付けるよ。……まぁ、次は無ければ良いと思うんだけどな。
 あと、ちったあオイゲンを信じてやれよ。あのオイフェもどき――じゃなかった、チョビ髭は見たとこ相当優秀だろ」

「ソレとコレとは別なのですじゃ。オイゲンの事は信頼しておりますが、セージ様の御身を守るのはこのヴィンセント=カーロンしかおりませぬ」

「お前の気持ちはよーく分かったからそんなに顔を近付けんな。
 つーか、言われなくてもこんな無謀な事は二度としたくねーっての」


 いやほんと真面目な話、相手が装備も錬度も不足してる盗賊団だったから良かったようなものの、そうでなければマジで二度とやりたくないね。

 身を守る物がハーフヘルムと軽鎧だけなんて軽装備の騎兵だけで突撃かますなんて、相手にマトモな歩兵戦力があれば普通に止まるぞ。長弓兵なんていたらプレートメイル装備の重騎兵でもアウトだし。魔法使いとか論外だ。
 日本人におなじみの長篠を例に出すまでも無く、騎兵というのはちょっと使い方を間違えただけで脆弱な防御力が浮き彫りになるもんだし。



 そういう考え方の面から見ても、ゲームでのチート性能的な面から見ても、とりあえず魔法使いを集中運用する部隊を作りたいな。
 このあいだ魔法使い隊の連中に聞いた給金の値段にはドン引きしたが、それだけの金を払う価値はある、はず。
 けどその火力を激突数が万を超える大規模な合戦で活かせるレベルまで引き上げようとすると……。

 うわぁ、帳簿が真っ赤になるナリよ。



 そうしなきゃならんとは分かっちゃいたけど、何とかして金稼がないとな……。
 当面考えつくのは、とりあえず貿易してみるとかその程度なんだが。しかし自分達で馬車の商隊を組んでも大した利益にはならんだろうしなぁ。
 いや、利益は出るだろうがそれに支払うコストがな……。やはりそういうのは商人に任せるに限る。

 かと言って河川船舶による交易はなぁ……。一応ぶっとい河川が一本あるみたいなんだが、船の建造や港湾施設の準備が可能かどうかすら分からん。後で要検討だな。
 対外交易に至っては、ビルド方面はともかく奈宮方面はクソ狭い山道を拡張しない事には貿易どころの話じゃねーし。

 ……いや待てよ。むしろ、ビルド奈宮間の直通ルートが全部狭い山道か森を突っ切るルートなのを考えれば、街道を拡張できればそれだけで人と物と金の流れが変わるんじゃ?
 神楽家領国を経由しても山道ばっかなのはほとんど変わらないから、ビルド⇔リトリー家領⇔奈宮のルートが出来ればコドール大陸南部の陸上物流が変わりかねない。
 なにせ、ウチの領地――というかエルスセーナまではビルド王国からデカイ街道が伸びてるからな。



 こうして考えてみると、潜在的とはいえ奈宮へのルートがあってかつビルドと王都を結ぶ街道も含むウチの領地って、普通に要衝じゃねーか。直轄地じゃないのが不思議なくらいだな。

 ……まぁ、つまりはこの要衝を落とされればマズイという事で。
 それはつまり死亡フラグが凄い勢いで強化されてるんじゃないか疑惑という事で。

 ……無理ゲー乙。


「ま、何をするにしてもだ。とにもかくにも金が足りん……。まずは金策が必要だな」

「セージ様、何を考えておられるかは存じませぬが、その前にビルド王国に赴かねばなりませぬぞ」

「は? なんで?」

「先の盗賊団征伐において、僅かとはいえビルド王国の領土を侵犯しましたからな。
 現地の代官に事後承諾は得たとはいえ、釈明と謝罪に赴かねばならないのは当然でしょう」

「マジかよ、面倒くさい……。現場の人間同士で意志疎通したんだからいーじゃねーかよー……」

「そういう訳にはいきますまい。
 ……というより、先ほどからずっとその事でもお諌めをしてきたつもりなのですが、お聞きではなかったのですかな?」


 うげ、カーロンの眉毛が危険な角度に……!


「ま、まぁ待て、少し落ち着け。一つ聞きたいのだが、釈明に向かうのは俺だけなのか?」

「このヴィンセント=カーロンは留守居役がありますので、誠に残念ながらお共できませぬが、王国側から監督不備の謝罪を行うという事でムスト殿が同行されるとの事ですじゃ。
 まぁ、彼女なら安心してセージ様を預けられますが……」

「お前の人物評価は微妙に謎だが、まぁいいとして。ムスト殿が同行されるという事はすぐに出て合流しなきゃならんのじゃないのか?」

「その点は心配ご無用。既にムスト殿は到着されておりますから」

「おいおいおいおいコラコラコラコラ。俺が挨拶に向かわなきゃならんだろそれ」

「このヴィンセント=カーロン、実はムスト殿とは長い付き合いでしてな。多少の融通は利きますのじゃ」


 いや、そういう問題じゃないと思うんだけどな。
 つーか、お前王国中枢真っ只中と言っても良い相手と繋がりあるとかどんだけだよ。まぁ、たぶんそのコネでお家騒動前に王国動かせたんだろうけどさ。

 ……あれ? 良く考えたら普通に凄くね、コイツ?


「それで、ムスト殿は怒っていたか?」

「怒っているというか呆れているというか、それについては本人から確かめた方が良いでしょうな。ちょうどムスト殿も来られる頃合でしょうし」


 カーロンがそう言うと共に部屋のドアがノックされる。つまりそれは『王賊』最年長の幼女ことムストタンとの御対面という事で……。

 あれ? なんか幼女というほどちっこくないよね?
 ってそうか、そう言えば俺自身も小学生並みなんだったっけ。どう見ても同世代か、下手すりゃ俺の方が見た目年下じゃねーか。

 ガッデム。


「お初にお目に掛かるの、リトリー公爵殿」

「わざわざご足労頂き誠に申し訳無い、ムスト殿」

「……ムストでよい。お主くらいの年頃の者にそうかしこまられると背中がムズ痒くなってくるからの、敬語もいらぬぞ」

「私からすればムスト殿も私と似t――いや、まぁいいか。それなら有り難くはっちゃけさせてもらうぜ、ムスト。どーせ公的な場では互いに敬語だけどな」


 おぉう、いけね。今一瞬眉毛の角度が跳ね上がったぞ。やっぱ女性にスタイルの話を振るのはマズイわ。特にこういう、ぺたん娘なのを気にしそーなタイプには。


「何か言いたい事でもあるのかの?」

「いやいや、滅相も無い。政務も忙しいだろうに、迷惑じゃなかったかな、と思っただけでな」

「迷惑に決まっておろう。事情は十分理解できるが、せめて事前に何か連絡してくれても良かろうに。おかげで王宮でも上へ下への大騒ぎじゃぞ」

「うへぇ……。こりゃ爵位没収かな?」

「一応先方の事後承諾も得ておるし、事情が事情じゃからな、そういう訳にも行くまい。まぁ、ワシからの厳重注意が関の山じゃ。
 ただし、次に同じ事をすればかばい立ては出来ぬぞ」


 はぁ……。
 そりゃあまぁ、いきなり改易は無いだろうとは思ってたけど、別に改易してくれても良かったのに。それはそれで死亡フラグ回避出来るしさ。
 今のままだと相変わらずヴィストの侵攻に合わせた死亡フラグは継続中だし。

 つーか、良く考えたらその後にもこっちからの大反攻に関する死亡フラグは残ったままになるんだよな?
 どこまで行っても死亡フラグとながーいお付き合いかよ。某テレビCMなんてレベルじゃねーぞ。


「まぁ、こんな事は二度としない――というかしなくても良いように国境地域での共同治安維持組織の設立でも働きかけるつもりだわ。
 ビルドとウチで手を組めば、国境地域に根城張ってる奴らの大半は何とかできるだろうし。そうなれば貿易量も増えて実入りも増えて万々歳。
 ウチも家計が火の車だし、こう言っちゃなんだけど、今回の事はダシに使わせてもらおうかな、と」

「ふむ……。なかなか興味深い事を言うの。じゃが、ビルド王国がそれを認めるものかの?」

「義も理も利もあるんだ。きちんと説けば乗ってくるんじゃねーのかな。
 それに、似たような事があるたびに一々こういう事をするなんてやってられないだろ。国境の向こう側にはルトの街まで大した拠点も存在しない事だし、もし治安維持を行うならウチが手を伸ばすのが一番効率が良い。
 双方共に侵攻の意志なんて無い事くらい分かってるんだから、ムストの口添えもあれば勝算は十分だ」

「そこまで良く回る頭があるなら、もう少し慎重に動いて欲しいのじゃがな。いくら互いに信頼している同盟国とは言え、面子の問題もあるのじゃぞ。
 今回は儂やお主が頭を下げることで貸し一つといった感じで済むがの」

「あー……、正直すまんかった」


 ムストタンには悪いが、ま、どうせそう大きな貸しにはならないだろ。数年後にはヴィスト軍に飲み込まれて消えちまう国なんだし。


「それにしても、リトリー公爵殿がこのような俊英だとは思わなんだ」

「セージで良いぜ。ま、親父殿の悪評を考えればムストの考えも理解できるし、意外に思われるのも当然だな。
 つーか、一応これでも10歳になったばっかの糞ガキだからなぁ。予想しろってのが無茶だろ」

「カーロンの口添えがあった時は正直迷ったのじゃが。まぁ、こうなってみると儂らの選択は正解だったようじゃな」

「俺としちゃあその時に爵位没収してくれても良かったんだけどなー。そうすりゃ無駄な苦労をしなくても済んだんだし」

「責任感の無い奴じゃの……。まぁ、こうなったからにはキリキリ働いて貰うからの」

「……国政参画は無理だからな。あと10年――いや、せめて5年は領内の立て直しをしなきゃならんだろ」


 真面目な話、独自の戦力を整えておかないと死亡フラグがハンパ無い事になる。
 一応相続したからには公爵家に仕える人間も守らなきゃならんだろうし。領内の住民だって守らなきゃいけないだろう。
 それに、領地放り出して逃げるって選択肢はその後の人生設計上重大な問題点を孕んでるんだよな。

 ……両親知人縁故無しの10歳の子供が路頭に迷って、その末路なんて簡単に想像つくだろ?

 しかも、占領地の統治政策において重要なポイントってさ。地元住民の慰撫もそうなんだけど、旧支配者の徹底的な駆逐ってのもあるんだぜ?
 ほら、潜伏→蜂起→鎮圧→潜伏→蜂起……の無限コンボとかマジうざいでしょ?
 もちろん懐柔するパターンもあるが、それだっていつ何時冤罪ひっ被せられて追放されたり処刑されたりされるか分からんわけで。

 ……なんで俺がこんな苦労を背負わなきゃならんのだか。マジで理解に苦しむぞ。


「あー、さっさと隠居してぇ」

「お主はまだ10歳になったばかりじゃろう。今からそんな事を言っていてどうする」

「ムスト殿の言う通りです。このヴィンセント=カーロンの目の黒いうちはセージ様に隠居などさせませぬぞ」

「……いきなり全否定かよ。まぁ、後継ぎが居れば隠居も出来る訳で、今から子供作れば15年くらいで後を継がせられるだろうし……。
 ムスト、協力する気になんない?」

「たわけ。阿呆な事を言っておらんと早く出立の準備をせんか」


 うーん、やっぱり脈無しか。まぁ別に良いんだけどね。ムストのお相手は別に居るし。

 それにしてもビルド王国かぁ……。原作ではサブキャラだった姫さんはなかなか覚悟の出来た良い姫さんだった気がするなぁ。
 どうせまだ幼女だろうからどーでもいいけど。

 そしてそれ以上に俺自身が全くの糞ガキだけどな!





















 ワシは先代のリトリー公爵が好きではなかった。
 これはワシだけではなくアルバーエル将軍やロイア伯爵も同じ事じゃったが、むしろ嫌っておったと言ってもよい。

 王国北部国境地帯の要衝の地を受け継ぎながら放蕩に明け暮れ、限度を超えた重税によって領内が荒れ果ててゆくのを省みる事も無かった。
 受け継いだ頃は精強を誇った手勢は見る影も失せ、かつては磨き上げられた武具達が並んでいた蔵には鑑賞用の宝剣が虚しく安置されるのみ。
 飽食と荒淫を続けた挙句、政務を放り出したまま国外へ物見遊山に出掛けて無意味に北部地域を混乱させ、トドメにそのまま死んでしまったというのには乾いた笑いしか出てこなかったものじゃ。



 正直に白状すると、リトリー家が北部要衝を領している建国以来の名家でなければそのまま爵位を没収しておったじゃろう。
 もっとも、現実にはリトリー家の格を考えると爵位没収など出来ない相談なのじゃがな。
 彼の家は建国以来我が国に仕える貴族という立場はとっておるが、建国時の経緯等を考えた際には、むしろ実際には独自の勢力を持つ小国というに近い。
 勢力が衰えた今のうちに取り潰してしまうのも一つの手ではあるが、我が国の貴族の中にはリトリー家と縁が深い家もいくつか在る。そう簡単に事は運ばぬじゃろう。

 実際には取り潰すどころか、お家騒動を避け北部地域を立てなおすために――名目上とは言え――王家による後見さえせねばならなかった。
 その時の並大抵ではない、しかも半ば以上無駄な苦労じゃと思っておったあの苦労は忘れられるほど昔の事ではない。



 じゃから、今回のビルド王国領への侵犯事件が起こったと聞いた時に、カーロンの阿呆爺っ! と口走ってしまったワシは責められるものではないと思う。
 怒り心頭に発して事件について詳しく聞き始めた時には、僅か10歳の童も抑えられぬのかと内心カーロンを罵倒しておったのじゃが……。
 話を聞けば聞くほどその童が異常なのじゃと感じ入らざるを得なかった。

 盗賊団の動きが入ってからの動きは歴戦の将軍を思わせる迅速さで、最低限の手勢ながら全て騎馬で構成された身軽な部隊で現場へ急行する。
 すぐに聞き込みを行って物見を放ち、撤退する盗賊団をいち早く発見する。
 そして、後続の部隊を待って戦機を逃す事無く手勢80騎のみで奇襲を仕掛け、結果根城まで見つけ出して100人近い大規模な盗賊団の尽くを討ち果たしてしまった。
 しかも、その全てに渡って自らが陣頭に立って指揮しておったというのじゃから恐れ入る。



 こと軍事に関しては素人に毛が生えた程度のワシじゃが、この者の才気が凄まじい事だけは分かる。
 僅か10やそこらの童が剣も帯びずに戦場へ赴き、並み居る譜代の騎兵の足手まといにならぬほどに馬を乗りこなして手勢の指揮を執るなど、今まで聞いた事も無い事じゃ。
 ロイア伯爵はノイル王国へ出向いておった故に不在じゃったのじゃが、問題が問題なだけに同席しておったアルバーエル将軍が茶を吹き出しつつも実に嬉しそうに話を聞いておったのが印象的じゃった。

 最初それを見て笑っておったワシじゃが、現場での事後処理でビルド王国側の抗議を丸め込んでしまって事後承諾を得てしまった事や、邸宅に戻ってから矢継ぎ早に実行されつつある施策の数々を聞いた時にはアルバーエル将軍と同じ目に……。

 鳶が鷹を産んだか、とはワシとアルバーエル将軍の一致した意見じゃったが、こやつめはどこでそれを聞きつけたのか。
 まぁ、恐らくは報告に来た兵かワシの侍女にでも聞いたのじゃろうが……。
 ビルド王国王都へ向かう道中でウチの鳶が迷惑を掛けてスマンなどと謝られた時は危うく2度も――



 こほん。



 ともかく、話を聞いた段階で既に今のリトリー公爵が相当な俊英である事は予想が付いたが、実際に会ってみるとそれ以上じゃった。
 見ると聞くとは大違いと言うし、人の話というのは尾びれ背びれが付いて針小棒大になるものなのじゃが、こやつに関してはそれは当てはまらぬな。
 実際、どうせ吊るし上げに近い状態になるじゃろうと思っておったビルド王との謁見の場の空気を一人で変えてしまいおった。

 まず国境を超えた事を素直に謝罪し、しかし間髪入れずに周辺地域を荒らしまわる盗賊団の討伐には必要な事であったと釈明する。
 実際にエルスセーナ郊外に100近い首が晒されたという話が伝わっていては、並いる要人も強くは物を言えぬわな。

 そして、そういう状況に持ち込んでからおもむろに民衆の生活を守るという義と理を説き、さらに治安の安定による経済活動の活性化からもたらされる利まで訴えて、件の新しい組織の設立に関してビルド王を肯かせてしまいおった。

 しかも、実働兵力と活動拠点をリトリー家が提供する代わりに初期投資費用はほとんどがビルド王国持ち。
 いくら重点地域をビルド側においており、資金負担も治安が安定するであろう数年後からは平等に負担するという条件であるといっても、これは破格――ありえないレベルの好条件と言えるじゃろう。



 それら全てを、リトリー家が混乱していたからこそ産まれた状況であろうと非難してきた彼の国の貴族の言葉をダシにして弁舌巧みに勝ち取ったのじゃから恐ろしい。

 身内の恥を晒して、しかも自身の父親をそこまで言う事は無かろうというくらい非難しつつも公爵家の窮状を訴え、資金の問題だけがどうしても解決できないとダメを押す事によって資金を引き出すとは……。
 ワシや一部の者はまるで詐欺師でも見るかのような目であやつを見ておったはずじゃ。

 まぁ、南部地域の治安悪化に頭を悩ませていたビルド王国にとっても悪い条件では無いから強硬な反対は出なかったのじゃろうが。
 それにしても、聞けば奈宮皇国にも似たような話をいずれ持ち掛けるつもりじゃと言うのじゃから空いた口が塞がらないの。
 親父殿のせいで金が無いのだとは言うが、いくらなんでもあこぎ過ぎるのではなかろうか?


「お主、前世は詐欺師じゃったのではないか?」

「失礼な。ちゃんとビルドにも奈宮にも利益の出る話なんだし、そもそも監査役付きなんだから詐欺扱いすんなっつーの。ただちょっとウチが余計に利益を出せるかもしれないってだけだ。
 つーか、確かに金は出して貰うけど一番働くのはウチなんだぜ? 多少の役得くらいあってもいいだろ」

「多少の役得のぅ……」


 ワシの目には両国を利用して自領を発展させようとしているようにしか見えぬのじゃがな。
 まぁ、北部地域が発展――というよりも復興――する事はエルト王国にとっても悪い話ではないが、あまり他国の資金が流入するのは良くないのじゃがの……。

 しかし、今国庫にある余剰資金の事を考えると背に腹は替えられぬか。
 ビルドもそうじゃが、奈宮に貸しを作るのは後々高くつきそうなのじゃがな……。
 とはいえ、リトリー家領内の問題と無視を決め込む訳にもいくまい。既にリトリー領に端を発した治安悪化と流民の増加は無視できぬ状況になりつつあるし、このまま北部を荒れ果てたままにしておく訳にもいかぬじゃろう。


「ついては、奈宮皇国に対する口添えを頼めないかな」


 こ、こやつという男は……。

 ……まぁ、今まで散々頭を悩ませてきた北部地域の問題が片付くのであれば、ある程度の代償には目を瞑るしかないか。
 それに、奈宮やビルドに貸しを作って後で苦労するのはこやつじゃしの。

 ……そう思うくらいの現実逃避はさせてもらいたい。


「まったく、ワシまでお主の詐欺に巻き込むつもりか?」

「だーかーらー、詐欺じゃねーっつーの……」

「冗談じゃ、そう腐るでない。奈宮皇国にならワシの名で紹介状を書いておけば良かろう」

「ありがたい。恩に着るぜ」

「しかし、ワシにも少しくらい見返りが欲しいの」

「そりゃあ、ウチの領内が安定するのが見返り――冗談だって、そう睨むな」

「いや、お主目が本気じゃったぞ」


 リトリー家の安定はワシにとっても頭を悩ます問題が一つ消えるという事じゃから、まぁ見返りにはなるが……。
 そして、こやつがそれをきちんと理解している事も本来なら驚くべき事なのじゃろうが……。

 思わずジト目になってしまうのは仕方ないじゃろう。


「しかし、物品を贈るのは賄賂になってしまうからマズイしなぁ……。本来なら髪飾りの一つでも贈るとこなんだろうけどさ」

「あぁ、言われてみれば確かにお主やワシの立場からすれば微妙な問題じゃの」

「という事で、仕方ないから借り一つって事でいいか?」

「いずれ返してくれるのじゃろう?」

「もちろん。俺はそれなりに義理堅いからさ。心配しなくてもちゃんと返すさ。利子付きでな」

「なら、楽しみにして暫く貸しにしておこうかの」


 ……少し待て、何故お主はそこで嫌そうな顔をするのじゃ。あからさまに「しまった」という顔をしおってからに。


「なんじゃ、ワシに借りを作るのは嫌か?」

「あー、いや、そういう訳じゃなくてだな。死亡フラグがちょっとな……」

「――?」

「……何でも無い。ムストに借りを作るのが嫌な訳じゃないからさ、暫く借りにしとくよ。ま、気にしないでくれ」


 妙な奴じゃの……。


「もうこの際アレだ。借りついでに誰か優秀な政務官を紹介してくれないか?
 発想力は無くても堅実に実務をこなせる方が良くて、若くて無茶の効く奴と経験豊富なベテランがセットで揃ってるとなお良いんだけど」

「済まぬが、そういう者はこちらでも不足しておるのじゃよ。期待には答えられそうにも無いの」

「むーん……。やっぱし、そりゃそうだよなぁ。けど、今から教育してても間に合わんし……。
 こりゃ、暫くは死ぬ気で働くしかないか」

「そんなに足りぬのか?」

「親父殿がな……」

「あー、概ね分かったからもうよい。そんなに深刻にため息をつかれるとこちらまでため息をつきたくなるわ」


 そういえばうっかり忘れておったが、こやつの父親を諌めた者が何人も暇を出されておったの。
 それを見てリトリー家を辞してワシの部下になった者もおるし、暇を出された者もほとんどが他の家やワシの部下になっておったはずじゃな。

 優秀な連中ほど居なくなっておるのじゃから、こやつがため息をつきたくなるのも分からんでもない。


「当面は俺が何とか穴埋めするし、カーロンも頑張ってくれてるが……、それにしたって限界がある。
 第一、俺が領地を離れる時はカーロン一人に後を任せっきりになるからなぁ。俺だってそりゃキツイが、カーロンは本気でマズイ。
 もう歳だろうし、無茶をさせたらそのまま倒れそうで怖いんだよなぁ。それだっていうのに平気で無茶するしさ」

「……回せても一人か二人じゃぞ。それ以上は期待せぬ事じゃ」

「本当にスマン。正直助かる」

「まったく。最初からワシをアテにしてくれるのは構わんのじゃが、もしワシが融通出来なんだらどうするつもりじゃったのじゃ?」

「まぁ、俺とカーロンで踏ん張りつつ登用と教育を間に合わせるくらいしか思いつかなかったな。俺かカーロンが倒れるのが先か、人が育つのが先か……」

「今お主やカーロンに倒れられると困るからの。多少助けてやったのじゃから、倒れない程度に苦労するのじゃぞ」


 俺が苦労するのは確定事項かよ、などとぼやくワシと見た目同年代の童じゃが、いずれはこやつがエルト王国を支える柱となろう。
 この歳でこれだけの才覚を表しているのじゃから、ワシの想像は外れてはおるまい。

 アルバーエル将軍やロイア伯爵に、ロイアの息子もおる。奈宮皇国やビルド王国、ノイル王国との関係も悪くない。
 最大の懸念と言っても良かった北部地域の荒廃と混乱も、こやつ自身の台頭である程度どうにかなる目処は立った。
 若いくせにさっさと楽隠居したがっておるこやつには悪いが、ワシは暫く楽をさせてもらえそうじゃの。



 ……この時は、ワシも他の皆もエルト王国の遠くない未来は明るく輝いていると信じて疑っていなかった。
 後にこの地を覆い尽くす事となる戦乱の炎の種火は遥か遠く、長い寿命を持つとて人の子に過ぎぬワシには見通せぬ事が多過ぎた故に。






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