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No.12812の一覧
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[1] あ、ありのまま(ry なプロローグ[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:11)
[2] 勢い任せの事後処理編[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:18)
[3] 【人財募集中!!】エルスセーナの休日1日目【君も一国一城の主に!】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:23)
[4] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:15)
[5] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:16)
[6] 【過労死フラグも】エルスセーナの休日2日目【立っています】[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:17)
[7] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:18)
[8] 【オマケ劇場】エルスセーナの休日3日目【設定厨乙】[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:19)
[9] 婚活? いいえ、(どちらかというと)謀略です。[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:20)
[10] いきなり! 侵攻伝説。[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:21)
[11] 始まりのクロニクル ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:22)
[12] 始まりのクロニクル ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:23)
[13] 始まりのクロニクル ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:24)
[14] 始まりのクロニクル ~Part4~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:25)
[15] 始まりのクロニクル ~Part5~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:26)
[16] 始まりのクロニクル ~Part6~[ムーンウォーカー](2010/08/15 13:22)
[17] 始まりのクロニクル ~Part7~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:29)
[18] 始まりのクロニクル ~Part8~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:39)
[19] 始まりのクロニクル ~Last Part~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:40)
[20] それは(ある意味)とても平和な日々 ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:44)
[21] それは(ある意味)とても平和な日々 ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:44)
[22] 【休日なんて】エルスセーナの休日4日目【都市伝説です】[ムーンウォーカー](2010/06/27 18:15)
[23] 動乱前夜 ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:46)
[24] 動乱前夜 ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/23 12:27)
[25] 動乱前夜 ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/06/07 00:10)
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[29] 面従腹考[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:00)
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[32] 伏竜鳳雛 ~part2~[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:43)
[33] 伏竜鳳雛 ~part3~[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:43)
[34] 伏竜鳳雛 ~part4~[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:33)
[35] 伏竜鳳雛 ~part5~[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:01)
[36] 登場済みキャラクターのまとめ その1(始まりのクロニクルLastPart終了時点)[ムーンウォーカー](2010/05/23 12:49)
[37] 【あとがき的な】各話後書きまとめスレ【何かっぽい】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:02)
[38] 生存報告[ムーンウォーカー](2011/03/14 20:34)
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[12812] 始まりのクロニクル ~Part6~
Name: ムーンウォーカー◆26b9cd8a ID:0c92d080 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/15 13:22


 夜襲の結果は、とりあえずは成功と言っていいものだった。

 これまでで1番の懸念材料だった追加オーダーの避難民の後送はほぼ完璧な状態で遂行され、強行軍ではあるが今現在も安全圏へ向けて避難中だ。
 もちろん彼女らに無理を強いている事は承知しているが、せめてヴィスト軍に追いつかれない程度には距離を稼いでもらわないと本当にこちらが全滅しかねない。それも、軍事用語的な意味ではなく、一般的な意味で。

 また、彼女達が無事後方へ脱出したのと引き換えに獣人族義勇兵部隊が洒落にならないレベルの損害を受け、戦線離脱した。元々真っ向からの集団戦闘での働きはそんなに期待していなかったので、1番効率良く使い潰した形にはなるが……。
 まぁ、ベストではないがベターではあると思っておくしかないだろう。

 もう少し何とか出来なかったものかとか多少思ったりしないでもないのだが、その辺り、検証とか反省とか後悔とかしている余裕は全く無いのでしない。
 いやむしろ出来ない。なにせ、作戦行動の後始末が次の作戦行動の準備に直結しているんだぜ。先の事を考えるので手一杯で、過去を振り返る余裕なんて欠片も無かった。



 払暁を迎える前に何とか――殆ど無理矢理にだが――部隊の再編を終えるというウルトラCを決めてはいるが……。










■ ――7th Day










「さて、避難がサクサク進んでいると仮定しても今日一日――せめて半日くらいは踏みとどまらなきゃいけないわけだが、どうするかね」

「我等の事など無視して昨夜のうちに後退して頂けていれば……」

「終わった事は今更だし、そもそもあの状況で見捨てるなんて選択肢はカケラも無い。
 代償として払った義勇兵の犠牲は痛いが、まぁいずれにしても彼女達に護衛を付けなきゃならないのは元からだからな。元々計算に無かった戦力でもあるし、そう考えると当初の想定よりはかなりマシな状態だな。
 ……矢の残弾だけは厳しすぎるが」


 矢の残弾の充足率は2割台に突入している。危機的状況――というか危機そのものだ。これはもう完全に俺のミスだし海よりも深く反省しなきゃいけないのだが、それは後回し。
 とにかく、残弾が少ないのは弓隊の運用でカバーするしかないが……。弾切れにならない程度に節約しながら潤沢に矢玉を使って前線への援護を切らさない、という超絶難度の業を要求するしかない。
 もちろん無理を言っているのは間違い無いので、最終的には前線への負担増という形で対処せざるを得ないだろう。……今から胃が痛い。

 冒頭で少しばかり言及した義勇兵の部隊に関しては、死傷率が4割オーバーという事実上の壊滅状態のため、ネイ他が取りまとめる避難民の護衛に付けて既に後退済みだ。
 実際には護衛どころの騒ぎじゃない損耗率なのだが、だからと言ってこの場に置いておいても足手まといにしかならない。丸裸で後退させるよりはマシ、といった程度でも護衛が有るのと無いのとでは天と地ほどの違いもあるだろうし、これが1番戦力を有効活用できる方策だろう。
 ……後退させた残りは2000を割ったけどな。

 まぁ、元からその程度の数しかいなかったから特別苦しくなった訳じゃないんだが。むしろ、ここまで無茶して当初の正規戦力がほぼ無傷で済んでる辺りは出来すぎの部類に入るんだろうが。



 今日一日でどれだけの損害が出る事やら……。


「どうやら正面からの力押しは昨日で懲りたようですな。敵が動いたとの報告が入りましたが、左翼方面から迂回してくるようです。兵力はおよそ3000から4000。
 当初の情報での5000という兵力から若干少なかった事と、これまでに与えた損害を考えますと――ほぼ全力出撃と言ってよいでしょう」

「予想通り、か。右翼へ動かれると控えめに言っても面倒だったんだが……」

「恐らく、セージ様が仰られたように森に伏兵を伏せられている可能性を危惧したのでしょう。まぁ、実際にネイ嬢が伏兵として伏せると言いだした時はどうなる事かと思いましたが。ビリー殿に説得してもらえたのは有り難かったです」

「彼女の気持ちは買いますが、私自身はともかくとしても若い連中は突然彼女が指揮を執ると言っても納得しないでしょう。
 身分的にはそう問題は無いですが……。まぁ、氏族が違うというのもありますし。
 そうかと言ってクライドでは伏兵などという任には多少不安が残りますし、私が指揮を取るわけにもいかないですからな」


 ちなみに、クライドはビリーのおっさんの弟一家の長男だそうで。おっさんは甥の成長振りに目を細めながらため息をつくという高度な技を披露していたが、短慮がちな所はともかく彼自身の行動には思う物があったっポイ。
 まぁ、クライドもネイも二人共々足手まといだと一蹴されて説教食らって強制後退させられてたけど。


「それにしても、敢えて右翼をがら空きで放置したリトリー殿の読みは素晴らしいですな」

「読みじゃなくて賭けに近いけどな。全く備えを置けなかったのはタダの兵力不足に過ぎないし」


 むしろ、正面に配置している連中ですら昨日負傷して前線から外された奴が大半という状況だ。
 村の外部に張り出した空間から元からあった環濠内部まで戦線を下げて対処してはいるが、実際に戦闘になったら寸刻たりとも持ち堪えられないだろう。

 予備兵力として獣人族の連中を待機させてはいるが、実際に押されだしたら焼け石に水なんだろうなぁ。
 という事は、石が焼けちゃう前に初期消火しなきゃいけない訳で。
 火勢が強くて初期消火に失敗した場合は逃げるのが常識なんだけど……。

 逃げられない場合は火事場のクソ力に頼るしかないか。



 敵将に関しては、昨日から今日にかけての敵の戦い方を考えると、奇策には出ないオーソドックスな戦い方をするという印象を受けた。
 さらに言えば、リスクはなるべく避けるタイプだな。

 今回兵力を分散して包囲に出ていないのは、それだけ部隊の統率を重視しているからだろう。
 まぁ、せいぜい3倍の兵力では包囲体勢を築くには少し足りないからな。それなら自身の指揮できちんと統率した兵力を正面からぶつける方が確実という考え方は別段不思議でも何でもない。
 時間の経過が俺達に有利だっていう事もあるし、包囲による長期戦はむしろ避けるべきだろうからな。

 ただ、リスクを避けるっていうのはややもすれば消極的になりかねないが……。
 しかし、軍を率いる立場として考えればあながち欠点とも言い切れないか。何事もバランスが大事だしな。
 カーロンやビリー辺りに言わせると経験不足が垣間見えるっつー事だが、それであれだけちゃんと統制が取れてるんだからヴィスト軍は人材が豊富で良いね……。



 いやはやしかし、ここまででもいくつ即終了のポイントをスルーしているんだか。

 軍を分けて包囲殲滅を狙われたらアウト。(敵にもリスクはあるが、普通に勝てない)
 昨日と同じく正面からごり押しされてもほぼアウト。(敵の被害は拡大するが、やっぱり勝てない)
 右翼から攻勢に出られても終了。(全く対応出来ない)
 戦場を大きく迂回されて後方を遮断されても投了。(阻止不能)

 いやまぁ、左翼からの攻勢だって受け止められる確証なんてどこにもないんだが。
 敵将の傾向を読んだ上での賭けには勝ったが、それでやっと五分よりちょっとマシって程度だからなぁ。
 兵力差3倍をひっくり返すとか普通に無理。俺の才能じゃジリ貧に持ち込むので精一杯だっつーの。
 作戦がもうちょっと自由に立てられるんならゲリラ戦術とかに持ち込むんだが……。避難民が蹂躙されたら戦略的敗北だからなぁ。


「ま、ボヤいていても仕方が無い。それじゃあ、始めるとしますか」

「はっ」


 俺の言葉で一挙に村内が慌ただしくなる。
 左翼方面に展開する槍兵小隊が臨戦体勢に入り、残り少ない矢を番えた弓兵小隊の射ち手が射線を確認する。村の中央に突貫工事で設けられた狼煙台から狼煙が上げられ、敵襲を知らせる。


「作戦通り、前線指揮はカーロンに任せる。頼むぞ」

「我が一命に替えましても、一兵たりとも通しはしませぬ」

「ビリー殿は後詰めだが、戦況次第じゃすぐに出番があると思っておいてくれ。扱き使って済まないが、状況が状況だ。頼りにさせてもらう」

「承知しております」


 後は、俺が獣人族を戦場に投入するタイミングを間違えない事だな。
 普通に責任重大なんだが……、しかし体良く俺自身を少しでも後方へ下げようっていうカーロンの思惑も無視できないしなぁ。むしろこの妥協のお陰で俺がここに残れる事になったんだし。

 や、そりゃあ俺だってさっさと安全な後方へ逃げたくないかって言われたら逃げたいけどさ。ノア将軍以下の騎兵を借りたって事情もあるし、カーロンを死なせて(あいつの事だからマジで全滅覚悟の足止めするだろうし)自分の保身を図るってのもなぁ。

 男の子には後に引けない最後の一線ってのがあるんだよ! と。

 村長宅の屋根に登り、左翼に広がる平原を見通す。ここ最近ずっと開き直りっ放しできてるが、今日は本当に開き直りの最たる展開だなぁ、こりゃ。


「敵軍、トラップポイントへ侵入します」

「――てぇぇぇぇ!!」


 うん、伊達に歳くってないわ。流石カーロン、ドンピシャのタイミングだ。

 離れた位置にいる俺の腹に響くほどの声量で放たれた命令に応じ、弓兵が弓に番えた矢を曲射する。



 着陣当日に掘っておいた落とし穴がここに来て役に立った。左翼に存在する環濠の切れ目――つまり村落の出入り口に正対するようにして進軍する敵が、丁度弓の射程に飛び込んでくるところにゾーンを設けておいたのだ。
 ゾーンと環濠との隙間を突進してから左折して出入り口に吶喊されると無意味になる仕掛けなのだが、わざわざ弓の射程内で側面を晒しながら動くなんて事も無いだろうという事で、放置。

 結果的にはそれが正解だった。

 と言ってもまぁ、それぞれ個々の深さは大した事が無い。小さな子供が落ちても普通に這い上がれる程度の深さでしかないからな。
 本当ならこちらの側面にも馬出風に堀を掘りたかったのだが、生憎とそれだけの時間も兵力も無かったが故の苦肉の策だ。どうせ嫌がらせ用という事で数だけは大量に掘ったがな。

 掘り返した跡でバレる可能性も考えたんだが、着陣した直後からそこら中で穴掘をしたくったお陰でドコもかしこも掘り返した廃棄土砂だらけという状況だ。それらの中には、意図的に撒いた土砂もある。
 もちろん警戒はされていただろうが、8畳に1、2個は大当たりがある状況では隊列を組んだ歩兵では引っ掛からざるを得ないだろう。
 で、落とし穴で僅かなりとも足止めを食らった敵に思う存分矢を射ち込む、と。
 近接戦用の盾を構えて備えてる奴らもいるが、落下の運動エネルギーを味方につけた矢に対しては何もしないよりマシ程度でしかない。長弓による曲射戦法はプレートメイルすら貫通するっつー凶悪な威力を誇るからな。
 ……その分訓練に掛かる時間も膨大なものになるけど。

 弓兵隊の連中、右腕と左腕の太さの違いが半端無い事になってるからなぁ。一日中弓引いてりゃそうなるのかもしれんけど。


「しかしまぁ、思う存分射ち込めとは言ったものの、残弾がなぁ……」


 出征前の想定ではビルドの近衛を盾にする形で矢を撃ち込むのが主任務になると思ったから矢弾だけは大量に持って来てたつもりだったんだが、蓋を開けたらコレだからな。甘かったとしか言いようが無い。

 直接打撃戦力だけでマトモに殴りあったら話にならないから拙いだけどなぁ……。
 錬度はともかく数が違いすぎる。数はやっぱり偉大だよ兄貴。
 仕方が無いので奇策に頼っている訳だが、まぁ、これも裏を返せば王道か。


「うーん、しかし立て直しが早い早い。進軍しながらあっという間に立て直すとか、チートにも程が有るだろ。
 撃ち方は――うん、カーロンも流石だ。今射ち尽くすのは得策じゃないからな」

「落ち着いておられるのはいいですが、このままでは前線が突破されかねませんぞ」

「大丈夫、少なくとも突破されるのは無い。左翼は正面に比べて備えが薄いとは言え、村の構造上突入口は狭いからな。一点を支えるだけなら数が少ないウチの連中でも何とかなる」


 実際にカーロンの指揮は見事なもので、上手く三段に重ねた隊列を操って徹底的にアウトレンジして応戦中だ。
 環濠をよじ登るようにして村の柵を乗り越えようって連中には容赦無く矢や岩、熱湯等が浴びせかけられてるし、昼くらいまでならこれで何とか耐えられそうだな。

 問題は、リミットを超えると矢の残弾がゼロになって側面からの突入を食い止められなくなって全滅しかねない事なんだが……。
 たとえそれが見えていたとしても、獣人族を投入するには少し早い。今投入すると、肝心な時に敵の心を折れなくなる。


「辛うじて支えているだけで、あれではそう長くはもちませんぞ」

「分かってる。分かってるが、ノア将軍が到着してからでないと敵の攻勢を抑止できない。
 あそこに獣人族500を足しても数で負けている事には変わりがない。ただ足しただけじゃ無意味なんだよ」

「しかし……」

「確実にジリ貧になるか、細いルートだが勝ち目がある手を打つかの違いだ。
 どうせ最初から賭けの要素が強い作戦を選んだんだ、ここまで来たら最後までやり通すしかない」

「……はっ」


 と、大見得切ったはいいが……。普通に胃が痛い。
 今頃ノア将軍も全速で疾駆してるだろうが、上手く近い位置で伏せる事が出来なかった地形の問題上、間に合うかどうかはカーロンの粘り次第。
 徹底的に鍛え上げたウチの連中は普通の軍にありがちな劣勢下での脱走や寝返りは心配しなくてもいいが……。

 しかし本当にこのままでは崩れかねない……!
 くそっ! やはり獣人族を投入するしか――


「馬蹄の音と土煙……、我々は賭けに勝ったようですぞ」

「ふぅ……。こんなのるかそるかの大博打の連続、二度としねーぞコンチクショウ」


 何とか、間に合ったか……。



 開戦直前の狼煙を受けて急進したノア将軍の騎兵が、敵軍右側面へ回り込む。昨日の段階で左翼遠方へ騎兵を移動させておいた奇策が実る瞬間だ。
 一歩間違えば最大戦力を遊兵化する危険な賭けだったけどな。これしか勝ち目が無いんだから状況が厳しすぎる。


「正面にはウチの連中、右はノア将軍、後方は落とし穴による足止めがある。となると、敵が安全に後退する先はもと来た左翼方向しかない。
 ここまで持ってこれるかどうかは完全に博打だったが、ここからなら何とかまとめられるだろ」

「お見事です」

「まだ完成してない。ビリー殿以下の獣人族はカーロンと合流して正面への突撃を牽制してくれ」

「敵を包囲しないのですか?」

「追い詰めて暴発させるとマズイからな。窮鼠猫を噛む、の猫にはなりたくないだろ?
 しかも相手は鼠なんて可愛いもんじゃないし。ちゃんと逃げ道は開けておかないと。
 ……それに、実際問題ビリー殿の言う通り、カーロンの隊はもう限界だろう。何時崩れてもおかしくない」

「はっ」


 短く返事を返したビリーのおっさんはそのまま屋根から飛び降り――って、凄い身体能力だなおい。
 さらっと飛び降りたけど、こっから地面まで軽く2階分はあるぞ? 獣人族パネェな。

 で、だ。

 ビリーのおっさんには言わなかったけど、問題はこの戦闘で敵を撃退しても根本的な問題解決にはならないって事なんだよな。
 一見いいようにあしらっている様に見えるが、矢の残弾が乏しい事と兵が接触する接点を狭くして防御を行っている関係上、敵に与えている損害は見た目ほど多くは無い。
 実際の損害を正確に知る手段は無いが、少なくともそう考えておくのが正しいだろう。

 となると、一時不利な体勢に陥っているとはいえ、敵は一旦後退してから再編を行えばまだまだ戦闘は可能な状態にあるわけで。
 それに比べて、こちらはもう余力が殆ど残っていないというお寒い事情もあるわけで。



 可能な限り迅速に後退を開始して、退路を遮断されないように動かないといけない。


「うん、それにしたって騎兵の突撃はマトモに食らったらやっぱ激痛だよな。
 数倍の敵に突っ込んであれだけ暴れられるってのは……。こうして見ると強烈だわ」


 もう本当にやりたい放題だな。

 側面から――それも右側面から横撃を食らったという状況で、敵の右翼はただただ混乱の渦中にある。
 前衛はカーロンとの睨み合いで動けず、中衛はその側面のカバー、後衛は中衛との連携機動の真っ最中、左翼に至ってはこの一瞬は完全に遊兵だ。

 武器を構えて応戦してる連中もいるが、組織的戦闘からは一番遠い所にいるな。
 馬蹄で蹴散らされてる奴がいるかと思えば、武器を構えるのがやっとで速攻槍で頭カチ割られてる奴もいる。騎兵と一対一でやりあってる勇者もいるが、個人の奮闘で局面をひっくり返せるはずも無く。騎兵2騎で1人を囲んで討ち取るなんて状況すら出現している程だ。

 ……組織的戦闘が出来なくなった軍って、脆いな。
 本で読んで得た知識としては知ってるつもりだったが、実際に見るとそれが良く分かる。
 これは本当に酷い。



 って、敵の指揮官は右翼を見捨てているのかな。組織がきっちりしてる中衛と後衛を転回させて、防衛線を構築してる。
 っつーか対応が早すぎるだろオイ。しかも、右翼を素早く展開してノア将軍への部隊の横撃に割いて……!



 ……あ゛ー、こりゃ上手い事やられちゃってるなぁ。ノア将軍も手早く兵をまとめようとしてるけど、やりたい放題のところに反撃食らったらそりゃ混乱するよな。
 実被害が少なそうな事だけは救いか。


「敵さんも上手いな……。こっちから突出してノア将軍の援護を出来れば崩壊しそうなんだけど……。
 まったくもって兵力が足りん。無い袖は振れないか」


 ウチの連中が無傷ならともかく、今までの戦闘で普通に削られてるからなぁ。実際の損耗はまだ少ないが、押し出せるほどの体力なんてどこにも残ってない。
 獣人族の連中と併せて戦線を維持してる状況だし、正面突破を選択させてないだけでも上出来だ。

 となると、自力で現状をどうにかしなきゃいけないノア将軍は一旦端兵を下げて体勢を立て直すしかない訳で……。


「うぁー、退き佐久間バリの後退かよ……。ああまで完璧に後退されちゃ追撃は無理だな。ノア将軍も結構苦労して立て直してるし……。ウチの連中は論外か」


 ここで上手く追撃できればこの後の苦労が半減以下っつー目論見だったんだが。そこまでやらせちゃくれないか。

 ……あと、ウチの連中はもうこれ以上は無理だな。もう1回戦わせてもケーブルが切れた某汎用人型決戦兵器と同じ末路を辿る事になるだろう。もちろん都合よく暴走モードに入ってくれたりはしない。
 ウチの連中以外の装甲戦力が無い以上、この局面で勝ちを拾っても次が無いってのはキツイなぁ……。

 とにかく可能な限り迅速に兵をまとめて撤退だ。
 今夜どころか、昼には撤退を開始して第2陣地の環濠集落まで後退して、川を天然の堀として対峙して時間稼ぎするほか無い。



 ただ、そう簡単に後退させてもらえるものかどうか……。





















 はい、予想通り追撃入りましたー。

 ……マジ勘弁してくれ。


「カーロンやビリー殿は良くやってくれてはいるが、こちらの本隊の後退速度は疲労と怪我人含みであまり速くは無い。対して敵さんは無傷の連中だけで編成していて、しかもこちらと比べればまだまだ元気一杯ときた。
 ……殿の俺達だけで食いとめるのは正直厳しいと思いますが、そこんところどう思います?」

「我々も昨日から動きっぱなしですからな。獣人族や公爵軍よりはマシというだけで、実際には戦闘に耐えられる状況にあるとは……。
 まぁ、いまここにいる500はマシな連中を集めていますから、あと1戦くらいなら根性で踏張らせますよ」

「やっぱ無茶気味ですよね……。
 とは言え、ここで一度は敵を迎撃しておかないと本隊に追いつかれてしまいますからね。どちらにしても避難民の足の遅さを考えると後方の村で時間は稼がないといけないんですけど。
 せめて村に到着するまでくらいは楽をしたかった……」


 睨み合いで時間を稼げれば最高なんだが、今んとこ対峙してるのはこっちの騎兵500に対して敵歩兵1000強だからなぁ。放っといたら普通に仕掛けられるだろうな。

 しかも、旗を見る限りじゃ敵の指揮官が直接出てきてるようにしか見えん。
 赤白チェックの盾に、クロスした長剣と一対の獅子。誰の旗かは分からなかったが、接敵以降ずっと指揮を取っている指揮官の物であるのは間違いが無い。
 ったく、やる気満々じゃねーか。
 いやまぁ、自軍より少数の相手にあそこまでけちょんけちょんにされて黙って撤退させる奴なんて、あのヴィスト軍にはいないか。

 こっちもずっとリトリー家の旗を掲げてるから、敵さんにもバレてんだろうなぁ、指揮官がここにいるの。
 ちなみに、ウチの家の旗は双頭の鷲だった。
 見た瞬間吹いたけどな。それ何ていう黄金樹? っつーか神聖ローマ帝国の旗じゃねーか。いいのかこんな大層な旗で。
 ……まぁ、代々受け継がれてきた旗ならいーけどさ。



 それにしても、敵さんの心理状態考えたら黙って退かせてくれる訳ないよなぁ……。


「しかし、睨み合いになったまま動きませんな」

「こっちとしてはそれで時間が稼げれば勝ちみたいなもんだから、これでいいんですって。まぁ、大方こっちの出方を窺っているんでしょうけど」

「今までの戦闘の経緯を考えると、敵将の気持ちも分からないでもないですな」

「こちらは事前の準備をしていましたからね。それに、投射戦力の差が大きかったというのもありますし。
 何より、運に恵まれました」


 運が良かった、ってのは大きいだろうな。
 そういう所まで敵さんが過大評価してくれてるんなら……。ここに俺自身がいるというバレバレの情報まで加味すると、どうかな。


「……上手く行けば、か」

「何か上手い手でも考えつきましたか」

「ええ、まぁ。相変わらず賭けの要素は強いですが……」

「分の良い賭けならやってみる価値はあるでしょう。具体的には?」

「こちらから仕掛けて突っかかった後、一押しするだけで即座に退くんです。それも、一糸乱れず、整然と」

「…………? それにどういった意味が……?」

「敵がこちらの奇策を警戒しているのなら、意味の無い行動の裏に何かあると勝手にドツボにハマってくれますよ。まぁ、失敗したらケツまくって逃げるしかないんですが」


 ええ、不敗の魔術師のパクリですが何か?

 問題は魔術師ほどの名声が背景に無いって点だが、レンネンがハマった時と違うのは圧倒的に機動力はこっちが上って事だな。
 機動力を活かして何とかするのが王道なんだろうけど、まぁ、疲労と作戦上の制約がな……。


「勝手に混乱してくれれば速攻で切り返して打撃を与えれば良いですし、守りを固めるのであれば労せずして時間を稼げます。
 最悪のパターンは看破されて追撃を食らう事ですが、歩兵と騎兵なら振り切る事は出来るでしょう。
 我々の疲労を考えれば、これが上手くいって時間が稼げればこの局面では勝ちに等しいかと」

「…………」

「まぁ、賭けのチップはノア将軍麾下の兵の命ですから、最終的に採用するかどうかはノア将軍にお任せします」


 そもそも、俺自身は戦闘には参加できないからな。
 今回も獣人族を率いた時も、一時的に指揮下に入った隊から護衛戦力は抽出しているが、数名程度でしかない。当然、最前線に突っ込むなんて言語道断だ。

 ……まぁ、前線の後方くらいにはいないと戦況に即応できないから、無理を承知でそこまでは行かなきゃいけないんだけど。


「……本当に、セージ殿が我々の上に立つ日は近いかもしれませんな」

「買いかぶりですよ。そもそもこれは騎兵の皆の気合いと根性、何より一糸乱れない統制がとれる錬度が無けりゃ成立しない作戦です。もちろん、それを統率するノア将軍の力も必須ですし……。
 俺はただアイデアを出しただけですよ」

「そのアイデアこそが重要だと思うんですがね……。
 ま、ここで謙遜しあっていても意味は無いですな。早速作戦行動に入るとしましょう」

 ノア将軍が鞘から剣を抜き放ち、それに併せて軍勢の気勢が変わる。
 オフからオンへ。静から動へ。所在なさげに下げられていた突撃槍が明確な殺意を持って構えられ、瞬時にして隊列が整えられる。

 それぞれの顔には疲労の色が濃いが、流石にアルバーエル将軍とノア将軍が直率する騎兵だけあって錬度の高さはヴィスト軍に劣るものでは無い。
 と、思う。

 正直ヴィスト軍の精鋭は化物のような気がして断言できない辺りがカーディルクオリティの恐ろしいところだ。


「かかれぇーっ!!」


 だがまぁ、今相手にしてるのはヴィストの最精鋭たる近衛では無い。
 であるのならば、蹴散らすとまでいかなくても押し込むくらいは難しくない。

 難しくないが……、これはむしろ上手く受け止められていると見てもいいかもしれないな。
 そもそもが槍隊で方陣を組まれたら騎兵だけでは崩しづらいというのがあるし……、疲れも誤魔化せないレベルだろう。
 それに敵はこっちの倍以上。騎兵と歩兵という違いはあるが、下手を打てば敗北の坂を転げ落ちるのは目に見えている。


「……ノア将軍」

「頃合でしょうな」


 こちらの前線の前進が止まるか止まらないかというこの状況で、もう敵の両翼が前進する気配を見せている。
 実際に凹形に陣形を変化させられる前に後退すべきだろう。

 敵さんもハメられてばかりという訳ではないみたいだな。これまでの勝ちで調子扱いて中央突破の欲を出していたら包囲殲滅されていたか。


「全騎後退っ! 隊列乱すな!」


 ノア将軍の声で全騎一斉に馬首を巡らし、追撃を食らわない程度には素早く後退。それと前後して敵の両翼が急速に前進して俺達を捉えようとする。

 だがしかし、騎馬の速度に人の足では追いつけない。
 間一髪で包囲の腕をすり抜け――って、本当に間一髪だなおい。
 最初から退く事前提の作戦だったから良かったものの、少しでもタイミングが遅れてたら……。


「こりゃあ、このまま後退した方が良さそうですかね」

「同感ですな。付け入る隙が見出せません」

「逃げ出す隙くらいはありそうなのが救いですね」

「全くです」


 敵は凹形陣のままで一旦前進は止めている。とって返しても普通に包囲殲滅されかねないし、想像以上に兵の疲れも大きいし……。

 正直、ここらが潮時なのだろう。
 時間は稼げるだけ稼いでおきたいというのが本音なんだが、これ以上は藪をつついて蛇を出しかねない。なにせ、こっちの増援は何時来るか分からないのに、敵にはいつ増援が来るかわかったもんじゃないんだ。

 まぁ、こちらの後退に合わせて急進してこないところを見ると、警戒されているのは確からしい。
 なら、せいぜいその警戒心を利用させてもらうとするか。


「それじゃあ、何か策でもあるかのように、慌てず騒がずゆっくりと後退しましょうか」

「ははは……。時間を稼がれただけだと知ったらさぞや悔しがるでしょうな、敵さんは」

「この歳で目の敵にされるのは嫌なんですけどね……」

「ま、人生諦めが肝要ですぞ」



 ヴィスト軍に睨まれるとか、ホント勘弁して欲しいんですけど……。
 しかし、ありえないとは言い切れないなぁorz






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