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No.12812の一覧
[0] 中の人などいない!!【王賊×オリ主】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:42)
[1] あ、ありのまま(ry なプロローグ[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:11)
[2] 勢い任せの事後処理編[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:18)
[3] 【人財募集中!!】エルスセーナの休日1日目【君も一国一城の主に!】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:23)
[4] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:15)
[5] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:16)
[6] 【過労死フラグも】エルスセーナの休日2日目【立っています】[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:17)
[7] ドキッ! 問題だらけの内政編。外交もあるよ ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:18)
[8] 【オマケ劇場】エルスセーナの休日3日目【設定厨乙】[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:19)
[9] 婚活? いいえ、(どちらかというと)謀略です。[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:20)
[10] いきなり! 侵攻伝説。[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:21)
[11] 始まりのクロニクル ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:22)
[12] 始まりのクロニクル ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:23)
[13] 始まりのクロニクル ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:24)
[14] 始まりのクロニクル ~Part4~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:25)
[15] 始まりのクロニクル ~Part5~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:26)
[16] 始まりのクロニクル ~Part6~[ムーンウォーカー](2010/08/15 13:22)
[17] 始まりのクロニクル ~Part7~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:29)
[18] 始まりのクロニクル ~Part8~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:39)
[19] 始まりのクロニクル ~Last Part~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:40)
[20] それは(ある意味)とても平和な日々 ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:44)
[21] それは(ある意味)とても平和な日々 ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:44)
[22] 【休日なんて】エルスセーナの休日4日目【都市伝説です】[ムーンウォーカー](2010/06/27 18:15)
[23] 動乱前夜 ~Part1~[ムーンウォーカー](2010/05/16 17:46)
[24] 動乱前夜 ~Part2~[ムーンウォーカー](2010/05/23 12:27)
[25] 動乱前夜 ~Part3~[ムーンウォーカー](2010/06/07 00:10)
[26] 【公爵家の人々】エルスセーナの休日5日目【悲喜交々】[ムーンウォーカー](2010/06/13 13:19)
[27] 【誰が何と言おうと】エルスセーナの休日6日目【この人達はモブな人】[ムーンウォーカー](2010/07/18 20:18)
[28] 【意外と】エルスセーナの休日7日目【仲の良い人達】[ムーンウォーカー](2010/07/18 20:17)
[29] 面従腹考[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:00)
[30] 合従連衡[ムーンウォーカー](2010/08/15 13:35)
[31] 伏竜鳳雛 ~part1~[ムーンウォーカー](2010/08/29 12:19)
[32] 伏竜鳳雛 ~part2~[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:43)
[33] 伏竜鳳雛 ~part3~[ムーンウォーカー](2010/12/12 10:43)
[34] 伏竜鳳雛 ~part4~[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:33)
[35] 伏竜鳳雛 ~part5~[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:01)
[36] 登場済みキャラクターのまとめ その1(始まりのクロニクルLastPart終了時点)[ムーンウォーカー](2010/05/23 12:49)
[37] 【あとがき的な】各話後書きまとめスレ【何かっぽい】[ムーンウォーカー](2011/01/23 20:02)
[38] 生存報告[ムーンウォーカー](2011/03/14 20:34)
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[12812] 始まりのクロニクル ~Part2~
Name: ムーンウォーカー◆26b9cd8a ID:0c92d080 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/16 17:23



 どう考えてもセメントな状況の中、エルト王国軍の遠征隊の面々は楽しくポーカーで身ぐるみ剥がされたりイカサマしようとしてバレて制裁鉄拳15連打食らったりしていますが皆様いかがお過ごしでしょうか?
 現地突撃粉砕リポーターのショタっ子セージです。

 お馬鹿な奴とかお間抜けな奴とかそんな愛すべきアホばかりですが、これでも有能(?)な部下なのですよ。例えばそこの小隊長は百発百中の子沢山だし、そこのお気楽兄ちゃんはやたら手先が器用で針金一本で鍵開け出来るし、そこのアゴの長い奴なんて景色をぐにゃりと歪ませられるんですよ。
 ああいや、最後のは嘘だけど。



 ……現状は俺の視界がぐにゃりと歪みそうだけどなっ!










■ ――3rd Day










「全小隊下車ーっ! 槍兵小隊は第1小隊、弓兵小隊は第1弓兵小隊の馬車に装備を積み替えだ。急げ!」

『イエッサー!!』


 この場には既に第7小隊の連中がいないが、彼らは全員既に先触れとして各村へ分散派遣されている。一帯に散らばった村の中心に位置するこの村で一旦ほとんどの馬車を空にして、最北端の村以外の各村落へと派遣して村人の避難を行っているのだ。
 ビリーのおっさんに付いてきた獣人族は全てこの作業の補助に散って貰っているからある程度混乱はマシにはなっていると思いたいが……。

 滞り無く避難が行われる事を祈るのみだな。


「ビリー殿、各村の避難は上手く行くと思うかどうか、率直に話して下さい」

「多少の混乱はあるでしょうが、誰もが状況が良くない事は理解しております。元より全員死を覚悟した蜂起でございましたから、故郷を遠く離れるとはいえ、新たな土地での生活が保証されているのであれば……」

「その言葉、信じますよ」


 ここまでは素早い展開で間に合わせたが、最北端の集落に間に合うかどうかはまだ分からない。
 徒歩で1日程の距離だというから間に合う事自体は疑ってはいないが……。

 しかし、撤退の事を考えると近過ぎる。
 遅延戦闘を行いながら徐々に後退するというプランなんだが、今居るこの村が各村の避難ルートの中継点となっている事を考えると、北の村である程度時間を稼がなければならず、ついでにこの村でも時間を稼いでおく必要がある。

 けど、この村を野戦陣地にするには時間が足りなくなるかもな。
 上手く北の村で時間を稼げなかった場合はここが俺の死に場所になるかもしれない――って、おいおいおいおいコラコラコラコラ。


「そこの大家族ーっ!! 気持ちは分かるが家財道具の持ち出しは身の回りの物だけだ! 馬車の数には限りがあるんだぞ!」


 やっぱり出てきたか、家財道具一式を馬車に積み込もうと考える馬鹿が。

 馬車の定員は完全武装の兵士が10名とその荷物までだ。もちろん多少の余裕は見ているが、それにしたって家財道具一式なんざ積み込みだしたら1、2家族乗せたら終わりになっちまう。
 村とは言うがどの村も現代日本の限界集落とは比べものにならない大規模な集落らしく、ただでさえ10個小隊の馬車50台を分散配置するのでは徒歩で移動せざるを得ない人間が出てくる可能性が高いのだ。

 もちろん全員徒歩で避難するのよりは遥かにマシだが、避難途中に起こるであろう問題の数々を思うと目の前が真っ暗になりそうだ。
 一応、第7小隊の小隊長を責任者に指名してるし、なかなかデキたおっさんなので大過無く任務をこなしてくれると信じてはいるが……。

 その前にこの詰め寄って来る兄ちゃんをどうにかしないと。
 一昔前の熱血系主人公みたいなナリの奴だが、見た目からしてオツムが若干アレっぽいし……。


「家財道具も無しで逃げ出して、その先どうするって言うんだよ!」

「財産は避難先である程度補償する。当分は生活補助も行う事も考えているから、今はとにかく出来るだけ迅速に後方へ避難する事を考えてくれ」

「誰がそんな事を保証してくれるって言うんだ!」

「この俺が保証する。ちゃんと書類も持たせているから、仮に俺がここで戦死してもあんた達に対する補償は確実に行われる」

「はぁ……?」


 何言ってるんだこの糞ガキは、って顔だな……。

 って、そう言えばそうだった。俺ってば糞ガキだったな。
 ウチの連中はその辺りスルーできるようになった奴が多いから時々忘れそうになるが、初対面の奴にはちゃんと説明しておかないとアレなんだった。


「俺はこの隊を指揮しているセージ=リトリーだ。こう見えてもエルト王国から公爵の位を頂いているんでな、そのくらいの補償は出来る。
 それとも、エルト王国のような小国の田舎貴族の言葉では信用できないか?」

「う……、いや、まぁ、そういうわけじゃないけどよ……」

「なら、家財道具は諦めてくれ。まぁ、ウチの馬車に乗らずに避難するというのなら止めはしないが……。その場合、逃げ遅れても助けて貰えるなんて幻想は抱かないでくれよ」

「…………」


 大人気無く言いたい事だけ言ってしまって、それで終わり。兄ちゃんは何事か考え込んでいるようだったが、俺は今それどころではないのだ。

 装備の積み替えの監督をしているカーロンに近寄り、今後の事を相談する。


「カーロン、この村で防衛線を張るとすればお前ならどうする?」

「北向きには川を利用して陣を張れると思いますが、それ以外の方角から攻められたらお手上げですな」

「相手の半数以下という数を考えると、渡河直後を叩いても押しきられてしまいそうだがな。上流から渡河されてもアウトだし、周囲が開けすぎているか……」

「大軍の運用には適していますが、寡兵で敵を迎え撃つような場所ではありませんな」

「まったくもってその通りなんだが、適していようとなかろうと、この場所である程度時間を稼ぐ必要が出てきそうだからなぁ……。
 仕方ない、当初のプラン通り第6小隊をここに置いて村の地形を利用して野戦築城しておくか」


 たった50人で定員2000の部隊を収容する野戦陣地を作れなんてのが土台無理な話だし、無いよりはマシ程度の陣地くらいにしかならない気もするが……。
 ここでもう一踏ん張りが利くかどうかは俺達全員の生死を分けかねないからな。数日間は土木工事をやっていてもらおう。

 幸いにして水辺に近い集落の鉄則として小高い丘のような位置に集落自体はあるから、土地の防御力自体も多少は期待できる。
 野獣・モンスター避けの柵は頑丈だし、堀さえ巡らせば急造の砦くらいにはなるだろう。


「このヴィンセント=カーロン、セージ様の案以上の名案は思いつきませんからな……。それにしても、何故我々がこのような……」

「言うな、カーロン。気持ちは分からんでも無いが、この辺りで王国に楯突く気がない事を表しておかないと政治的に拙いだろ。
 エルト王国軍が王の直轄兵と諸侯の供出する兵とで構成されている以上、ウチの軍と王国軍の騎兵が最も素早くヘルミナ王国まで展開できると言われて出兵を求められたら反論は出来ない。
 急いで軍備を整えているのは事実なんだし、これで断ったらそれこそ周囲の貴族辺りに二心ありと疑われかねん」


 とはいえ、せめてもう少し兵力が増強できるまで待って欲しかったというのはあるんだがな。
 一応、警察隊を連れて来れば数の上ではそれなりにはなるが……。民忠と治安が下がるのは回避したいしなぁ。
 しかも、手伝い戦なんだぜ、これ。
 ウチの領地を守るための出兵なら我慢も出来るが、いくら必要な出兵だといってもこんな所まで警察隊を引っ張り出す気は無い。
 そもそも、政治的基盤の弱さに付け込まれて出兵を押しつけられた感もあるんだが……。まぁ、実戦経験を積むいい機会だと思っておこう。

 そうとでも思わないとやってられない。


「公爵様、装備の積み替え完了致しました!」

「よし、第1から第5小隊と弓兵小隊の各小隊長を集合させてくれ」

「はっ!」

「カーロン、第6小隊の連中を預ける。後方に関する全権を委任するから、この村の野戦陣地化と避難民の誘導に関しての道筋を付けてくれ」

「…………」

「そんなに不服そうな顔をするな。心配しなくても、一段落ついて小隊長に後を任せられるようになったら全権委任してさっさと俺に追いついて来い。
 これから敵の半分以下で防衛戦を戦わなきゃいけないんだ。正直、カーロンがいなきゃ困る」

「……分かりました、そういう事であればこのヴィンセント=カーロン、微力を尽くしてセージ様のご期待に応えましょう」

「頼むぞ」


 各小隊の小隊長はそれぞれカーロンやオイゲンが見出した比較的優秀な奴らが選ばれているんだが、そうは言ってもまだ兵士や下士官の域を出ない連中が大半だ。いや、俺自身も別に専門家って訳じゃないからアレなんだけどな。

 いずれにしても、いつか専門の士官学校を設立したいとは思うんだが、当面は下士官レベルの人間を叩き上げで鍛えて士官レベルに引き上げるしかない。
 さらにそこから将校レベルの人材が出てくるのは何時の事になるやら……。
 それまでは、カーロンやオイゲンくらいしかマトモに別働隊を任せられないな。



 ま、これでもウチはまだマシな方なんだがな。
 他のとこなんて組織だった指揮系統無しで将軍が千単位の人間直率してるとかざらだし。
 戦術・戦略機動力やリスクヘッジの観点から見ても、ちゃんとした下士官が存在して軍の手足がきちんと動くというだけでも贅沢というものだ。

 ……まぁ、この戦いで一からやりなおしという事になりかねないのはアレなんだけどな。


「公爵様、各小隊長集まりました」

「ご苦労さん。――では、ここから先の予定を伝達する。
 第6及び第7小隊は後方での任務につくため、ここから先は第1から第5小隊と弓兵小隊及び友軍の騎兵という編成で行軍する。行軍目標はここから北にある獣人族の村だ。
 既に友軍の騎兵が先行偵察を行っており、今の所敵影は確認されていない。よって、戦闘は無いものと予想されるが油断はしないように。
 今夜は街道で野営し、明日の昼までには目標に到達する。行軍序列はこれまで通りだ。何か質問は?」

「野営の際にはテントは張れないものとして考えた方がよろしいのでしょうか?」

「この辺りの気候も温暖で、今夜は雨は降らないであろうという現地住民の情報がある。そして、我々が野営する予定の地点は広大な平原と隣接しているというわけでは無い。
 強行軍になってしまうが、それだけ状況が逼迫しているんだ。済まないが、今夜は我慢して貰う事になる」

「……了解です」

「他に質問がある者がいれば発言を許可するが? ……いないのであれば結構。各員、各々の小隊をまとめて迅速に行動に移るように」

『イエッサー!!』










■ ――4th Day










 さて、ここで現状俺の手元にある兵力の確認をしておこう。

 まず、リトリー公爵家の槍兵1個中隊250名と弓兵3個小隊150名の計400名。
 さらに、エルト王国軍の騎兵が1000名で、これの指揮はノア将軍が現在のところとっている。
 最後に、獣人族の戦士487名がいて、これは獣人族代表のビリーのおっさんが指揮官だ。

 以上の計1887名で可能な限りの遅延戦闘を行って村人を退避させるのが作戦の骨子となる。
 一応後詰でビルド王国近衛兵団の3000が急行しているが、普通の重装歩兵である彼らに行軍速度を求めるのは酷だろう。



 まぁ、最後まで残した馬車から荷物を全部降ろせば村人をそれに乗っけて後退させられるし、完全に徒歩で避難させる場合の事を考えれば天と地ほどの差がある。
 むしろ、馬車による避難活動が行えないのであればこんな作戦立案してない。

 それでも村人達の避難が間に合うかどうかは不安なんだがな。
 もちろん各村の村長に時間が無いとは念を押すよう言ってはあるんだが……。

 現代でさえ“避難活動”ってのは手間暇のかかるもんなんだ。
 ましてやインフラ整備のされていないに等しいこの時代じゃ、な。


「第5小隊及び弓兵小隊は馬車の積荷の積み降ろし作業急げ!
 第1から第4小隊は正面に空掘の構築だ。張り出しと正面の進入口を忘れるなよ!」


 とにかく今“も”時間との勝負だ。
 いかに素早く撤退できるかどうかが最終的な損害を確定させると思っておいて正解だろう。
 さらに、最悪避難民を抱えたまま戦闘状態に入ったりなんぞしたら……。想像したくも無いな。


「ビリ-殿は各家をまわって避難の手伝いと取りまとめをお願いします。それと、ノア将軍」

「偵察、ですな」

「話が早くて助かります。ヴィスト軍がどこまで来ているかは推測しか出来ませんが、下手をすれば目と鼻の先ですよ」

「ヘルミナ攻略戦の用兵を鑑みれば、まぁ妥当なところでしょうな。むしろ、よくぞここまで間に合ったと言うべきでしょう。
 とは言え、敵勢5000を僅か2000弱で足止めとなると……」

「兵力差1対3で、しかもこちらは寄せ集めですからね。とにかくこの村を拠点化して篭って防戦に徹して時間稼ぎをしつつ、最後は隙を突いて後退する。といった感じでしょうね」

「それはまた、困難極まる注文ですな。できれば接敵する前に撤退したいものですが……」

「そう願いたいですが、むしろ敵とぶつかった時の事を考えておかないといけませんからね。
 最悪のパターンの『ここに着いた時には既に敵が占領していた』や『着いたはいいが拠点化する間もなく敵に襲撃された』という状況が避けられたのは大きいでしょうけど……。
 まぁ、このままでもアルバーエル将軍の援軍頼みなのは変わりませんね。ここを拠点化してある程度耐えて、後方の第2拠点の村でアルバーエル将軍と合流できれば、何とかなるかと。
 我々もそうですが、ヴィスト軍も無意味な消耗戦は避けたいでしょうからね」

「なるほど。しかし、彼らが我々を無視してアルバーエル将軍の部隊へ向かった場合はどうされるのですかな?」

「どちらかと言えば、その方が好都合ですよ。こっちは快速部隊ですからね、最高のタイミングで敵の横っ面を殴りつけてやりますよ。
 ……まぁ、どうせこちらに来るとは思いますけど」


 戦略目標としてはこっち側の村落を抑える方が優先順位は高いはずだ。少なくとも、俺がヴィスト軍の立場ならそう考える。
 極端な話、ビルド軍やエルト軍なんて放っておいても良いのだ。
 この近辺の村落さえ抑えてしまえばヘルミナ国内の主な反乱勢力の息の根は止まるからな。それさえ達成できれば、ヘルミナ国内の平定は済んだも同然。

 万が一国境近辺にビルド軍やエルト軍が駐留し続けていても、ヘルミナ国内にある程度の抑えを置きさえしていれば何も出来ないからな。
 むしろ、駐留させ続ける事で戦費を増大させ、国力の疲弊を誘う事すら出来る。

 国境に拠点を作られれば後で面倒だが……、まぁ、自軍の正面にポンポンと砦だの要塞だのを築かせるほどヴィストの連中が間抜けだとも思えないしな。
 秀吉バリの一夜城でもやられたら話は別だろうけど。

 つーか、ビルドにそんな升武将がいれば俺が楽なんだがなぁ……。


「ま、とにかく偵察だけは入念にしておきましょう。間に合ったはいいが奇襲を食らいました、じゃ話にならないですしね」

「了解。それに関しては任されました。今まで通り、万全を期すとしましょう」


 これで、肩の荷はひとつ降りたかな。
 まー、肩の荷が降りたも何も、そもそも、ヘルミナ国内の反乱勢力をヴィストから遠くの地へ移そうと奮闘してる俺達のやってる事その物が、ヴィストの戦略行動のお手伝いをしている事になるとも言えるんだが……。
 まぁ、仕方ないよな。ここで全滅させるよりは遥かにマシ。代わりにエルト軍やビルド軍の兵士が命を散らすと考えると腹立たしくもあるが、相手は女子供だしなぁ。

 いずれにしても、戦略的に完全に後手にまわってしまっている以上、俺の出来る事は戦術的なポイントを多少稼いで状況を緩和する事くらいしかない。
 うろ覚えだけど、戦術的な勝利で戦略的な敗北を覆すのは不可能だ、ってどこぞの魔術師も言ってたしね。
 まぁ、その戦術的勝利を得る事すら難し過ぎて泣けてくるのが現状だけど。



 それにしても、だ。
 つくづく、カーディル王ってのは戦争の天才だね。こんな状況じゃなきゃ絶対に相手にしたくないクチだわ。
 少なくとも今この時は直接相対せずに済んでるのが、今回の一番の好運だろうな。

 ……とはいえ、今回の相手のアライゼル将軍も情報を聞いてる限りじゃ十分キツイ。
 当ってみなきゃ分からん部分はあるが、正直なところ、村の正面の空掘だけで何とかなるとも思えないんだよなぁ。

 一応、左翼も右翼も対策は考えてはあるんだが……。
 多分、一番厳しいのは正面からの波状攻撃だな。
 前線指揮はカーロンやノア将軍がいるから何とかなるとは思っちゃいるが、それにしても数の差をひっくり返せるほどの実力まで求めるのは酷だろう。
 正確に、多少の損害を気にする事無く、いくつかの部隊をローテーションで回されて連続突撃されたらこちらの損害と疲労が限界を迎える方が早いだろう。

 なにせ、突撃を受け止める重装甲の歩兵戦力がたったの250人しかいないんだ。
 残りの兵力は紙装甲過ぎて話にならん。迎撃戦闘には向かない騎兵と、同じく守勢に脆いともっぱらの噂の獣人、それに直接戦闘には全く向かない弓兵じゃなぁ……。
 獣人を迎撃兵力として無理矢理運用すればある程度はマシになるが、それでこっちの戦力の底が知れるのはもっとマズイ。
 となると、俺が最後に頼りに出来るのは騎兵の限定攻勢による時間稼ぎくらいか。



 実のところ、後方に迂回されて退路を遮断されると完全にアウトという話もあったりする。
 その場合は、アルバーエル将軍が間に合っていた場合のみ挟撃の形になって何とかなるが、その場合ですら敵の退路は俺達を中央突破する事になる訳で。
 さらに恐ろしい事に、挟撃の形になっても上手く連携できるかどうかすら全くの不明だったりする訳で……。

 うぐぅ。

 ちなみに、アルバーエル将軍が間に合わなかった場合、もっと悲惨な選択を迫られる事になる。
 即ち、援軍に望みを託して絶望的な防戦をするか、全滅覚悟で中央突破して撤退するか、降伏するか。
 そうなると、降伏は性に合わないから逃げる――ってコレもどう見ても死亡フラグだろうが。……降伏するしかないんだろうな。

 まぁ、いきなり後方へ迂回されるというのはヴィスト軍の進撃ルートを考えるとそうは無い。ので、実際には俺達と接敵してから包囲殲滅を狙われた場合の事さえ考えておけば良いというのは救いだろう。
 ……と言っても、陣形が薄くなった所にありったけの兵力を叩きつけて離脱、もしくは夜襲で敵を混乱させた隙に離脱、というくらいしか今のところ思い付かないんだが。
 ま、包囲殲滅なんて狙われる流れになってる場合はこっちにマトモな兵力が残ってる気がしないんだけどな。



 ……何回考えても、騎兵主体の寄せ集め2000で5000の精鋭を足止めするってのはキツいわ。分かっちゃいたんだけどな。
 篭城するにしても防御度が低すぎて話にならないし、かと言ってゲリラ戦するにしても地形と補給線と兵科がなぁ……。
 押しては引き引いては押し、という機動戦を仕掛けようにも戦闘可能地域の限定のされ方が狭すぎてスペースが無いし。

 何より兵力が足らん――って結局そこに戻るのな。

 当初の予定通り、接敵せずに何とか撤退するというプラン以外は全部茨の道だわ。やはり、全力で逃げるしかない。



 ……と、思ってるんだけどなぁ。
 苦虫を噛み潰したような顔をしてこっちに歩いてくるビリーのおっさんはなぁ。
 間違いなくフラグだろ、それ。


「リトリー殿……」

「何かありましたか、ビリー殿」

「ここからさらに北にも別の獣人族の有力な部族が住んでいるのですが……。我々とは別に蜂起していまして」

「別に?」

「人間の方に言っても正確に理解できるかどうかは分かりませんが、我らはオオガー族で彼らはウルガー族という氏族の違いがありまして。一口に獣人族とは言っても……」

「仲間意識は希薄だ、と」


 あれか? イギリス人とフランス人みたいなもんか? まぁ、あっちも一口に欧米人と括っちゃいけないくらいには文化に違いがあるからなぁ……。
 それにしたって、別々に蜂起するだなんて各個撃破の愚を犯すのは眩暈がしそうなほどだけど。


「はい。それ故に、我らは別々に立つ事となったのですが、どうやら彼らはラルン近郊でカーディル王相手に奇襲を仕掛けたらしく……」

「…………」

「今は、女子供ばかりが北東の村跡にまで逃げてきているという事なのですが……」

「……それで、ビリー殿は何を望んでおられるのですか?」


 多分、今の俺は目が笑っていないだろう。分かりきっている次の言葉には、思わず信じてもいない神様とやらを口汚なく罵倒してやりたくなる。

 今でも十分綱渡りをしているっていうのに、この上さらに難易度が上がるだと?
 クソ! 獣人達の士気を考えると無碍にも扱えないのが余計に腹が立つ!


「厚かましい事を言おうとしているのは重々承知しておりますが、彼らを救出しに動いて頂きたい。
 いくら氏族が違うと言えど、逃げてきているのは数少ない若者と、後は女子供ばかり。見殺しにするにはあまりに……」

「……その村跡までの距離は?」

「徒歩で半日から1日、というところです」


 つまり、往復にすれば約2日。馬車も無いし、現場での混乱も考えれば普通なら3日は欲しいか。
 何もかも強引に事を運んでも、やはり2日は見ておかなければいけない。

 分の悪い賭けは好きじゃないんだがな……。


「……騎兵を300、それ以上は割けません」

「それでは取り残される者が出てしまいます! せめて、あと200は……!」

「400が限界です。無理でも何でも、それでどうにかして下さい」

「しかし……」


 頼むから納得してくれ。全く数が足りてない無茶な話だっていうのはこっちも分かっちゃいるんだ。
 それでもこれ以上そっちに騎兵を割けないのは、こっちの無理が限界を超えるからだっての。
 既に軽く無茶しているっていうのに、こっから最大部隊の半数も持っていかれたらマトモに戦線に注ぎ込める戦力がなくなるだろうが。


「いいですか、そもそも彼らを助けるというのが無茶な話なんです。
 第1に、既に我々が不利な兵力差であるのにさらに兵力を目減りさせるのは緒戦で全滅する危険すら伴う事。
 第2に、食糧事情に全く余裕がない事。
 第3に、派遣隊が帰還するまでに要するであろう往復2日間は不利を承知でここで防戦しなければいけない事。
 第4に、仮にそれで派遣隊の帰還が我々の防戦限界点に間に合わなければ派遣した騎兵を全て見殺しにしなければならず、しかも防戦の過程で死ぬ兵士も無駄死にになりかねない事。
 最後に、よしんば間に合ったとしても、彼らが帰還した際に戦闘中であった場合、彼らを後方へ退避させるために兵に無理をさせねばならず、なおかつそれが成功するかどうかすら定かでは無い事――」


 ああもうっ!
 ざっと考えただけでこれだけのリスクがあるっていうのに、“不可能じゃない”ってのはどういう事だよ!
 俺のやり場の無い怒りと苛立ちはどこにぶつけりゃいいんだ!


「正直に言いましょう。救出自体は可能ですが、救える“かもしれない”女子供と、今ここにいる獣人族の戦士487名が引き換えになる覚悟がいりますよ」

「……後に残される者と、生き残った者の面倒はリトリー殿が見て頂けるのでしょう?」

「まだ11になったばかりのガキに酷な事を言いますね、まったく……。
 いいでしょう、あなた方の命は俺が預かります。後で文句を言われても聞きませんからね」

「感謝致します……!」


 この状況で騎兵を400も分派するとか、自殺行為にも程がある。
 ……のだが、断った場合の獣人達の士気低下や後々の外交上のポイントを考えると、やむをえない。

 背水の陣もいいところだよなぁ……。
 多分、限定攻勢に出てもらわざるを得ない騎兵を真っ先にすり潰す事になるんだろうが……。
 アルバーエル将軍には謝っても謝りきれないな。それに、俺の決断のせいで引かなくてもいい貧乏クジを引かされるノア将軍以下の騎兵の皆にも申し訳無い。
 元からその危険性が高かったのは確かだが、それがほぼ確実になったのは俺の判断が原因だからな……。

 まぁ、まず俺自身も生き残れるかどうか分からない内から、謝るもクソもないんだが。


「手始めに、獣人族の戦士から体力と足の早さに優れる奴をありったけかき集めて下さい。
 事情の説明は我々がするよりあなた方がする方が良いでしょうし、子供を背負って走る人数くらいは派遣してもいいでしょう」

「リトリー殿……」

「その代わり、最後の最後に全滅してもらう位の覚悟がいりますからね。
 無駄死にさせるつもりはありませんが、実際問題、我々に残された最後の手段が時間を命で贖うしかないという事になっていてもおかしくはありません」

「もとより、我等全員覚悟は出来ております」

「……俺は、カケラでも可能性がある限り、全員で生きて帰るつもりでいますからね。ビリー殿はこれから先10年は扱き使うつもりでいるので覚悟しておいて下さいよ」

「ははは、お手柔らかに頼みますよ」

「ま、考えておきます。早速ですけど救出隊の編成ついでにノア将軍を呼んで来て下さい。
 救出隊はビリー殿に率いてもらうつもりですが、ノア将軍にも説明が必要でしょうからね」


 さて、ノア将軍には何と説明したものかなぁ……。






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