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No.12397の一覧
[0] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(ハーレムを作ろう続き)[shin](2009/11/07 17:44)
[1] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(始まりは突然に)[shin](2009/10/04 01:49)
[2] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(誰が悪いのか)[shin](2009/11/07 17:56)
[3] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(リハーサルは華麗に)[shin](2009/11/07 17:56)
[4] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(新たな仲間)[shin](2009/10/10 00:31)
[5] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(東方辺境領)[shin](2009/10/14 01:19)
[6] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(鉱山開発)[shin](2009/10/17 10:07)
[7] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(ボーデ商会)[shin](2009/11/07 17:58)
[8] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(お披露目)[shin](2009/11/07 17:59)
[9] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(賢人会議)[shin](2009/11/07 17:42)
[10] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(街道整備)[shin](2009/11/04 23:35)
[11] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(賢人会議Ⅱ)[shin](2009/11/07 17:41)
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[12397] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(お披露目)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/07 17:59
次から次へと馬車が押し寄せてくる。
ローゼンハイム邸のゲートキーパーは、コーチマンと呼ばれる御者や馬丁達をも臨時に駆り出しその馬車の列を裁いて行く。

何せ、乗っている連中が連中だけに下手な扱いは出来ない。
馬車に示された紋章をすぐさま読取り、素早く降車位置を決めて行く。

数少ない公爵は、勿論正面玄関の真前。
次いで侯爵はその前後、それより遠い場所に付ける場合は執事もしくは、執事補のお出迎えの手配。

それを素早く判断して、馬車の誘導を行なわねばならない。
リフォームのなったローゼンハイム伯爵の屋敷で、盛大なパーティーが開かれようとしていた。


新たに、養女となったゼルマ・グラーフィン・フォン・カーリッシュ・ローゼンハイムのお披露目会である。
三百名にも上る招待者リストの中で、欠席の通知を送ってきたものは数える程だった。

それでなくてもヴィンドボナの貴族社会の中で、復活したローゼンハイム卿とその麗しの養女の噂は辺りを席巻していた。
しかも、後見人としてドルニィシロンスク辺境伯の名前が上がっている以上、等閑に出来るパーティーではない。


そして、欠席者が少ないのには、もう一つの理由があった。




「ふ、フリードリヒ、だ、男爵の馬車です!」
今までゲートキーパーに囁きかけていた魔道具から緊張した声が漏れる。

それを聞いた途端、彼は手早く車列を止め端に寄るように指示を出す。
並み居る諸侯の馬車が一斉に両脇に寄り、真ん中に一台通れる隙間が作られて行く。

ゲートキーパーが緊張した面持ちで見守る中、悠々と数台の馬車が正面玄関に向かって来る。
男爵が乗るには豪華すぎる馬車、しかもその前後に二台づつ護衛の馬車が続き、計五台の馬車が走り抜けて行った。

先程までは姿の見えなかった、竜騎士がいつの間にか上空を舞っている。
そう、フリードリヒ男爵が参加するパーティーに欠席する事は、余ほどの事が無い限りあり得ないのであった。



ふうっと、吐息を吐き出し、再び彼は動き始めた車列の整理を始める。


フリードリヒ男爵、これが皇帝アルブレヒト三世の偽名である事は、誰もが知っている事である。
皇帝が直接訪れるとなると、事が大仰になる場合にこの偽名が使われる。


誰もが知っておりながら、誰もそれを指摘する訳には行かない皇帝の行幸である。
正面に停車する馬車の位置も、微妙に難しい扱いが要求される。

仰々しく真正面に馬車を止める訳にも行かない。
かと言って、通常の男爵レベルの扱いでは許されない。

馬車は正面玄関に付けられるが、その位置は玄関から少し離れた所。
偶々、敷かれていた赤い絨毯を馬車が横切る形で止められる。

あくまでもフリードリッヒ男爵は、偶々下にあった赤い絨毯を歩くだけと言う体裁が整えられる。
そして偶然表に出て来ていた、元御学友のドルニィシロンスク東方辺境伯が友人と出会ったと言う顔で、彼を迎え入れる。




パーティー会場は、中央の大広間が使われていた。
当然、三百名にも上る招待客及びその同伴者が入る程大きくは無い。

人々は会場に入ると、主催者であるローゼンハイム卿と挨拶を交わし、そのまま中庭に広がる屋外会場へと流れて行く。
室内の会場に留まる事が出来るのは、伯爵以上の出席者のみと言う暗黙の了解のようなものが出来ている。


ざわめくパーティー会場の入り口で、ハウス・スチュワードが来客の到着を告げている。
「ポモージュ北方辺境伯、ギュンター・マルクグラーフ・フォン・ボモージュ・シュタインドルフ様の到着です」

一人一人の招待客の名前を正確に、大きな良く通る声で伝えて行くのだ。




その彼が、一瞬言葉に詰まる。



そして当りを見回し、更に姿勢を但し、その到着を告げる。
「フリードリッヒ男爵様の到着です」

会場内にざわめきが広がるが、頭を下げてハウス・スチュワードが下がると、緊張したような沈黙が辺りを包む。

「失礼致します」
それまで歓談していたローゼンハイム伯が突然会話を切り上げ、動き出すのを誰も咎める事も無い。

ゼルマも緊張した面持ちで卿の後ろに控えながら、入り口の扉を目指して行く。


三十代後半の長身の人物が、ドルニィシロンスク辺境伯と歓談しながら扉の前に現れる。
シーンと静まり返った中、フリードリッヒ男爵、いや皇帝アルブレヒト三世が一歩会場の中に足を踏み入れたのだ。


全員が軽く会釈をし、ゆっくりと頭を上げる。
一瞬の静寂の後楽団が再び音曲を奏で初め、全員が如何にも普通の事だという顔で会話を再会する。

しかし、実際には全員の目がフリードリッヒ男爵の挙動に注目しているのは疑い無かった。
その注目を一心に浴びているフリードリッヒ男爵に、ローゼンハイム伯爵はゼルマを引き連れて歩み寄って行く。




「これは、これはフリードリッヒ男爵、ようこそ御出で下さいました。 ホルスト・ローゼンハイムです」
ローゼンハイム卿が頭を下げ挨拶する。

相手は帝政ゲルマニアの最高権力者である。
粗相があっては行けない。

かと言って、アルブレヒト三世として扱う訳にも行かない。
あくまでも建前はフリードリヒ男爵なのだ。

本来ならば、男爵に対して伯爵から頭を下げる事はあり得ない。
だが今回は、ローゼンハイム伯爵がホストである故に許される。

「ああ、ありがとう、伯爵」
とは言え、相手は皇帝である。

そのぞんざいな口調に頭を下げながらも、苦笑いが浮かびそうになるのを伯爵は必死に堪える。

「で、そちらが、卿の息女かな」
男爵の興味は、既にゼルマに向いている。

「はい、自慢の娘でございます」
「ゼルマ・ローゼンハイムでございます」

ゼルマは優雅に、身体を折り曲げ挨拶を行う。
長身のゼルマが身に纏っているのは、茜色のドレス。

むき出しの肩に白いレースを羽織り、アップした髪が生えている。
その抜群のプロポーションにはどのような服装も似合うのだが、今回は特に念入りに仕上げられた出来栄えは見事の一言だった。

「ほおっ、美しいな」
褒められて嬉しく無い訳が無い。

しかしながらこのお方に褒められる場合には、ある意味大きなリスクが伴うのだ。
気に入った女性を側妃に迎え入れるのに、躊躇う理由など彼にはありはしない。


「ありがとうございます」
ゆっくりと顔を上げながら、その深い瞳で男爵を見つめる。

吸い込まれそうな大きな瞳、半開きの唇は微かに濡れた様な滑りを帯びている。
あちらの世界の口紅の輝きは伊達ではない。


(ゼルマ、や、やりすぎ、やりすぎ…)
辺りには聞こえない。
耳に付けたイヤリング型の魔道具から、彼女だけが聞こえる焦るようなご主人さまの声に、少し嬉しくなるゼルマだった。





(それじゃ~、カウントするからね~)
アンの声が耳に響いてくる。

(カウントダウン、3、2、1、今!)
微かに聞こえる声に併せて、ゼルマは身体を動かす。


「それでは、こちらに・・・あっ!」
男爵に飲み物を運んできたメイドが、丁度ゼルマの後ろを通り過ぎようとしたタイミングで、彼女の身体が回る。

そしてそのまま踏み出そうとした身体は、見事にメイドにぶつかった。



「ああっ!」
メイドの手に乗せられたお盆から、グラスが飛び上がる。
そしてそれは狙い済ました様に、男爵の足元に飛び散るのだった。

カシャンと言う音が響き、一瞬にして会場内の会話が凍りつく。
楽曲だけが、その後ろで流れている。



「これは、とんだ粗相を、男爵殿、こちらへ」
足元が少し濡れたか濡れない位の状態で、ローゼンハイム伯が素早く男爵を導く。

ドルニィシロンスク東方辺境伯がその後に続き、会場から退出して行く。
ざわざわと会場内に動揺が広がるが、残されたゼルマは、メイド達に簡単な指示を出し素早くその痕跡を消しさって行く。

出席者は気にはなるがどうする事も出来ないまま、ぎこちなくパーティーが続いて行くのだった。




「ふむ、見事なものだな、全く濡れてない」
一旦廊下に出た皇帝は、しげしげと自分のズボンを見ながら呟く。

あのタイミングでグラスが零れ、遠めで見ている限り足に飲み物が掛かったとしか見えない。
まあそんな事をしたら、良くて打ち首だろうが、これではそこまでの事は出来ない。



「申し訳ございません、お手間を取らせました」
ドルニィシロンスク東方辺境伯が、歩きながら頭を下げて来る。

「良い、中々面白いものを見せて貰った」
そう言いながら、皇帝はローゼンハイム伯が開いた扉の向こう側に消えて行く。

扉が閉められるとさりげなく、ロイヤルガードがその扉の前に立ち、警護を始める。
彼らは、何も見ず、何も聞こえないのが仕事なのだった。




「で人払いまでして余を呼びつけた以上、それなりの価値はあるのだろうな、アルブレヒト」
皇帝は、正面のソファに腰を下ろすと、辺境伯に対して言うのだった。

「はい、勿論です」
座っても宜しいかと許可を取り、正面に腰を下ろす辺境伯。

この御仁も、度胸はあるようだ。
若い頃、皇帝のいわゆる御学友と言う立場故に咎められないと言う訳ではないのだ。



「これをご覧下さい」
辺境伯の言葉に合わせて、ローゼンハイム伯が用意した石の固まりを机の上に置く。

同時に、地図を広げるのも忘れない。


皇帝の目が細まり、その石の固まりを見つめる。

「この辺りで、どうやらかなりの銀鉱脈があるようです」
アルブレヒトと呼ばれた、当方辺境伯は地図を指差した。

それはヴィンドボナから南西、東方辺境伯領と皇帝直轄領の中間地点を指していた。








皇帝の様子も気になるが、ローゼンハイム卿が戻られるまでは、ゼルマがホストを務めねばならない。

(その右の方はメクレンブルグ侯の下にいる伯爵だね~、一応Bランクの対応宜しくね~)
魔道具を通して耳元に、アンの声が聞こえてくる。

別室で会場の様子をモニターしながら、アンジェリカが指示を出してくるのだ。
目の前に現れる人物の詳細な情報と対応のランク、それらに従いながら、ゼルマはホストの役割を果たして行く。




(ゼルマ~、来たよ~、頑張ってね~)
アンの弾んだ声が聞こえてくる。

もう、別に楽しんでいる訳では無いのに、困ったものだ。



「シュテファン・グラーフ・フォン・ベークニッツ・アルベルト様、御到着です」
ハウス・スチュワードの声に、ゼルマは気を引き締める。

アルシュタット侯ブッフバルト公爵にも招待状は出されているが、まだ来てはいない。
皇帝ことフリードリヒ男爵が招待を受諾されたと言う情報は流してある以上、十二選帝侯全員が一度は顔を出す筈だ。

その露払いの意味も含め、アルベルト伯が来たと言う事であろう。
ゼルマは、礼を逸しない程度に話をしていた伯爵に頭を下げ、さりげなく扉の傍に移動する。

(入ってきたよ~、真っ直ぐゼルマに向かって来るよ~)
ゼルマは気が付いていない振りをしながら、傍の侯爵夫人と会話を続ける。

侯爵夫人が、近づいてくる男性に気が付いたように、視線をゼルマの後ろに向ける。
さあ、気を引き締めなくっちゃ。

そう思いながら、ゼルマは後ろを振り返るのだった。



「まあ、アルベルト卿、御無沙汰しております」
満面の笑みを浮かべ、ゼルマは深々と頭を下げる。

「やはり、ゼルマなんだね、本当にびっくりしたよ」
そりゃびっくりするわよね、貴方が売り払った相手は、ご主人さまですものね。

口に出てしまわないように注意しながらも、湧き上がってくる怒りを堪え、ゼルマは笑みを浮かべる。
アルベルト伯の名前に含まれたベークニッツと言う領地名。

それは、ゼルマの父のヴェスターテ伯爵の領地であった地名だ。
ゼルマが十歳まで過した幸せな日々の記憶を呼び起こす名前。


「本当に、アルベルト卿にはお世話になりっぱなしで、今はこうしてローゼンハイム卿に養女として迎えられました」
そう言いながら、ゼルマは再び頭を下げる。

そのまま笑みを浮かべているのは辛かったせいもある。
父を貶め、母を自殺へと追いやった人物。

(ゼルマ、ゼルマ、ここは泣いても可笑しくないからね~)
アンのアドバイスが耳元に聞こえ、戦法を切り替える事にする。
笑いながら相手をするには、余りにも辛すぎる。


「色々ありましたけど、ゼルマは…今は、幸せです」
涙が溢れてくるけど、それが悔し涙だとはアルベルト卿には判らない筈だ。

ハンカチを取り出し、涙を拭く。

「すみません、つい涙が溢れまして、いけないですわね」
そう言いながら、顔を隠す。

怒りも湧き上がって来るので、色々危ない。
(ゼルマ! 頑張るんだ! 今皇帝の方は終わったから、もう少しだけ時間を稼げ!)

アンじゃなく、ご主人さまの声が聞こえて来る。
そうだ、私にはご主人さまがいる。


「これからも、宜しくお願いします」
ご主人さまの声を聞いた事で、何とか持ち直せた。

ゼルマは満面の笑みをアルベルト卿に向けるのだった。


「そ、そうか、これからも宜しく」
アルベルト卿は、何故かゼルマの様子に怯んだように、そそくさと離れて行く。

あれ?
何か間違えたかしら?

(あ~、ゼルマ~、そんなに泣き笑いを見せたら、引かれるわよね~)
アンの言葉に、顔を赤らめてしまうゼルマだった。





皇帝ことフリードリヒ男爵が、会場に戻って来た。
後ろに東方辺境伯そしてローゼンハイム伯を引き連れ、機嫌は悪くなさそうである。

会場の中に、何処と無く安堵が広がる。
先程の件があるだけに、対応を一つ間違えると間違いなく誰も寄り付かなくなるのだ。

些細な事で皇帝の不興を買い、廃れていった諸侯も無い訳ではない。
それに比べると、フリードリヒ男爵は問題なさそうに歓談されている。

どうやら、ローゼンハイム伯の対応は、皇帝のお気に召したようだった。
会場にいた諸侯の心の中で、ローゼンハイム伯はお近付きになって損は無い伯爵であるとランク付けされた瞬間である。



わざと粗相をして、皇帝との密談の時間を取る。
そしておいて、そのフォローに対して皇帝が満足の意を表明する。

たったこれだけの事で、周りの評価が数倍にも跳ね上がるのだ。
普通ならリスクが高すぎて、出来ようも無い行動である。

しかしながら、水の精霊と契約しているご主人さまならば、零れる水すらも操る事が可能であるが故に出来る事だった。




フリードリヒ男爵の周りに、あくまでもさり気ない風を装い既に到着していた選帝侯達が挨拶を交わして行く。
そしてその様子をご主人さまやアンジェリカが、真剣にモニターしているのだ。


「アルトシュタット侯、リヒャルト・ヘルツォーク・フォン・アルトシュタット・ブッフバルト様の御到着です」
結局、ブッフバルト公がやって来たのは、十二選帝侯の中で一番最後だった。

(さーて、来ましたよ~、来ましたよ~)
耳元に、ワクワクするようなアンの声が聞こえてくる。

実際、ゼルマもブッフバルト公を目にするのはこれが初めてだ。
緊張した面持ちで、ゼルマはローゼンハイム伯の後ろで佇む。

今は目の前にフリードリヒ男爵がいる以上、ゼルマもローゼンハイム伯も出迎えには行けない。
ドキドキしながらブッフバルト公が、中に入ってくるのを待つ。



ゼルマの持つ、公爵のイメージはでっぷりと太った五十代の男である。
そしてそのイメージ通りの人物が、真っ直ぐにフリードリヒ男爵の前に歩み寄るのをあっけに取られるのだった。



「これは、これは、フリードリヒ男爵、御無沙汰しております」
慇懃に頭を下げるブッフバルト公に、皇帝の顔が歪む。

「ああ、ブッフバルト公、久しぶりだな」
男爵の仮面すら被らず、皇帝が素で答えるのをゼルマは驚きを持って見つめる。

「キルンベルガー卿も、あまり男爵を振り回すものではないぞ」
ブッフバルト公が更にあてつける様に、東方辺境伯に苦言を呈す。

要は個人的なつながりで、皇帝を引きずり出すなと言っているのだ。



「これは、これは、ブッフバルト公爵様、御無沙汰しております」
選帝侯と皇帝の鍔迫り合いの中、ローゼンハイム伯が何も気が付かないような顔で割り込んだ。


普通なら出来ない。
ゼルマにはとても皇帝と選帝侯の会話に割り込もう等と言う恐ろしい事は出来ない。

一瞬むっとするブッフバルト公であったが、声をかけて来たローゼンハイム伯の顔をまじまじと見つめる。

「ふむ、そうであったな、ローゼンハイムか、久しいな」
その口ぶりはいかにも偉そうであり、これではどちらが皇帝かと疑いたくなる。

「はい、本当に、御無沙汰しております」
そんな中ローゼンハイム伯は、どこ吹く風と返事を返す。

「ああそうそう、これがわが娘となりました、ゼルマです。 ゼルマ、ご挨拶を」
突然自分に振られ、ゼルマは慌ててしまう。

こんな中で挨拶をしろと言うのか。

「ぜ、ゼルマ・ローゼンハイムです。 今後とも宜しくお願い申し上げます」
「ブッフバルトだ」

頭を下げるゼルマを見ようともせず、一言だけ告げると、再び公爵はフリードリヒ男爵に向き合う。


「男爵、ホーフブルグの方で御用がおありでございませんか」
こんな所で油を売ってないで、早く宮殿に戻れと言う当てこすりなのだろう。

「ああそうだな、そろそろ失礼させて貰うぞ、ローゼンハイム卿」
「何のお持て成しも出来ませんで、また、お越し下さい」

ローゼンハイム伯が頭を下げるのを見習うように、ゼルマも頭を下げ、少し怒り気味の皇帝が退出するのを見守るのだった。




フリードリヒ男爵が扉から出て行くのを確認すると、ブッフバルド公はじろりと、ローゼンハイム伯を睨み付ける。

「ローゼンハイム、貴様は何をしたのだ」
「何をと言われましても?」
ゼルマでは気後れしてしまいそうな眼力にも、伯は平気なようだ。

「たわけが! この屋敷! その娘! この間までの貴様にこのような金なぞ無いのは明らかじゃろうが!」
ローゼンハイム伯の眉毛が釣り上がる。

「よくご存じで、公爵様にそこまで気を遣って頂けていたとは」
「ええい! ふざけるな! 貴様がわしを恨んでいる事位、承知しとるわ!」
ブッフバルド公がわなわな震えながら声を荒げる。

周りにいる誰もが驚いた様な顔をしながらも、聞き耳を立てている。
ローゼンハイム伯が、突然金持ちになった事は誰もが不思議でならないのだ。



「ブッフバルド殿、今日はローゼンハイム伯のご令嬢のお披露目ですよ」
突然、第三者から声をかけられ公爵がそちらを睨み付ける。

「なんじゃ、来ておったのか」
忌々しげに、ブッフバルド公が呟く。

「あー、ひどい言い方ですね、皆さんお見えですよ」
二十代前半にしか見えない若い男性である。

しかしながら、ゼルマも彼が何ものかは承知していた。
十二選帝侯の中で最も若いニーダザクセン侯ハインリヒ・ホルシュタイン公爵である。

「ええい、ごちゃごちゃと煩い! わしはこいつと話してるのだ」
ブッフバルド公は、ホルシュタイン公を無視しようとする。

「どうやって、ローゼンハイム伯がお金持ちになったか知りたいのでしょ」
それでも声を掛けて来るホルシュタイン公に、煩そうに顔をしかめていたブッフバルド公の顔がピクリと動く。

「おぬし、知っておるのか?」
「いや、知りませんよ」
ホルシュタイン公は、さらりと答える。

「それじゃ・・・」
「場所を考えられたら如何ですか?」
ホルシュタイン公は、言い募るブッフバルド公の言葉に被せる様に言う。

改めてブッフバルド公は回りを見回した。
誰もが咎める様に、公爵を見つめている。

突然乱入して来て、皇帝を怒らして帰してしまう。
その上でホストであるローゼンハイム伯に対するもの言い。


同じ選帝侯の一人の言葉に同意しない者はいなかった。


「ちっ」
明らかにこれ見よがしに舌打ちするブッフバルド公。
そのまま、会場を後にしようとする。

「ローゼンハイム! おぬしが不正にて金を得たのなら、覚悟しろ! ゲルマニアに害する者はわしがゆるさんからな!」
最後に捨て台詞を残してブッフバルド公は退出していった。


会場に残された諸侯はあっけにとられるだけだった。


「ありがとうございます、ホルシュタイン公爵様」
アンから指摘され慌ててゼルマはホルシュタイン公に礼を言う。

いやいやと、手を振るホルシュタイン公。

(ゼルマ~、ここであのデブがどうしてあんなに怒っていたのか聞いて~)

「しかし、どうしてあんなにブッフバルド公爵様はお怒りになられたのでしょう?」
アンの指示に従い、ゼルマは何も知らない顔で言葉を発する。


「ああ、それは簡単です」
ホルシュタイン公がしたり顔で答える。
諸侯の視線が公に集まる。


「先程ランマース商会が破産したんですよ」
パーティー会場内に、ざわめきが広がるのだった。


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