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No.12397の一覧
[0] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(ハーレムを作ろう続き)[shin](2009/11/07 17:44)
[1] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(始まりは突然に)[shin](2009/10/04 01:49)
[2] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(誰が悪いのか)[shin](2009/11/07 17:56)
[3] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(リハーサルは華麗に)[shin](2009/11/07 17:56)
[4] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(新たな仲間)[shin](2009/10/10 00:31)
[5] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(東方辺境領)[shin](2009/10/14 01:19)
[6] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(鉱山開発)[shin](2009/10/17 10:07)
[7] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(ボーデ商会)[shin](2009/11/07 17:58)
[8] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(お披露目)[shin](2009/11/07 17:59)
[9] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(賢人会議)[shin](2009/11/07 17:42)
[10] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(街道整備)[shin](2009/11/04 23:35)
[11] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(賢人会議Ⅱ)[shin](2009/11/07 17:41)
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[12397] 伯爵令嬢ゼルマ・ローゼンハイム(始まりは突然に)
Name: shin◆d2482f46 ID:993668df 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/04 01:49
朝の空気が、眠気を一気に吹き飛ばしてくれる。

まずは、軽く柔軟体操。
昨晩の睡眠中に堅くなった筋肉を解すのだ。

手を高くあげて、ゆっくりと円を描くように動かす。
この体操、『ラジオ体操第一』と言うそうだが、実に良く出来ている。

順番に一通りこなすだけで、身体を動かすのが楽になるのだ。
最後は深呼吸を繰り返し、ウォームアップは終了。

「さて、今日も頑張りますか!」
頬を両手で軽く叩き、ランニングを開始する。

元伯爵令嬢であった姿はそこにはない。
鍛え抜かれた抜群なプロポーション、そして、それには不似合いな体操服。

しなやかに伸びる健康そうな太股を惜し気もなくさらけ出し、身体に密着するブルマ姿で走り抜けて行く美女。
スポーツブラを着けた上半身の体操服の胸元には、ひらがなで『ぜるま』と書かれている。

そう、ヴィンドボナ郊外のバルクフォン卿の屋敷に奉公しているゼルマの姿だった。



軽くランニングを終え、裏口から建物に入る。
走っている時は、あまり気にならないが、やはりこの格好で誰かに会うのは気遅れしてしまう。

ゼルマは足早に二階の自室を目指す。


ゼルマは知らない、広大な庭を走り抜けている間、誰にも会わないのは誰もいない訳では無い事を。
先月から雇われた数名の庭師達が、その間は息を潜めている事を。

ゼルマは知らない、建物の裏口の所で、彼女が入ってくるのを見つめている熱いまなざしがある事を。
お姉さまと呟く彼女らは、先日雇われた新しいメイド達であり、やはり彼女らもゼルマの姿が向かってくると慌てて隠れているのを。




部屋に戻った彼女は、真っ直ぐにバスルームに入り汗を流す。
ドライヤーで髪を乾かす頃には、同室のアンジェリカも起きて来る。

「おはよう~、ゼルマ」
「ああ、おはよう、アン」

「今日は誰?」
洗面台に向かって顔を洗っているアンに問い掛ける。

「えーっと、ああ、グロリアよ~、確か夜から呼ばれたって嬉しそうだったわね~」
と言う事は、今日は大丈夫だな。

ゼルマは一人頷く。
全くご主人さまは、どうしようもない。

隙あらば、新しいメイドに手を出そうとするから、その対応が大変である。
五人の赤服だけでは物足りないのかと問うと、そんな事は無いとの返事が返ってくる。

では何故と問うと、『そこに山があるから』と返事を返される。
少なくとも、五人に不満だと言う事ではなさそうなのが唯一の救いか」

「ご主人さまも、立派な男だものね~」
ウンウンと頷きながら、アンが答えてくる。

ほぼ、毎日のように誰かがオツトメしているのに、尚もあの勢いだ。
これで誰かが生理になろうものなら、ローテーションに穴が空いてしまい調整が大変になる。

少しは、おとなしくなってくれないものか」
「あら~、駄目よ~、そしたら、私達もつまらないじゃない~」

まあ、そう言われればそうなのだが…
自分一人を見つめてくれとは言わない。

五人だけにして欲しいのだが、それも口には出来ない。
いくら、五人が特別扱いを得ているとは言え、身分としては他の黒服メイド達と一緒なのだ。

「しかたないわね~、水の精霊の加護まであるのだから~、底は無いのよね~」
まあ、これにはゼルマも苦笑するしかない。

事実、ゼルマ達のタフさ加減も、水の精霊の加護があるお陰でもあるのだから。
それ故、ご主人さまとのオツトメがあった翌日も平気な顔が出来るのだ。



「うーん、仕方ないな、今度また三人で搾り取ろうか」
「あー、やっぱりアレは効くみたいね~」

通常は一対一だが、時には二対一、三対一と複数でオツトメする事もある。
最初は、ドキドキものだったけど、慣れてしまえばあれはあれで楽しい。

それに、流石に搾り取るので、翌日の夜のオツトメは無くなる。
アマンダなんか一対一でも感じすぎちゃうので、複数でオツトメして、翌日は単なる添い寝する方が好きなようだ。

「まあ、頑張りますか」
「そうね~、程々にね~」



そんな事を話している間にも、二人は着替えを済ましていた。
赤み掛かった濃紺のメイドウェア、頭にはカチューシャを付け、生足にショートソックス。
そして歩きやすいパンプスを履けば完璧である。

「じゃ、行きましょう」
「ご飯~、ご飯~」

二人は連れ立って、食堂に向かうのだった。





「おはよう」
「あっ、ゼルマさん、アンさんおはようございます」
「おはよう、ゼルマ、アンジェリカ」
「「おはようございます」」

ゼルマとアンジェリカが入って行くと、既に残りのメイド達が集まっていた。
後は、ご主人さまを迎えるだけだ。



「ご主人さまは?」
ゼルマは、グロリアに尋ねた。

「もう来られます、少し寝坊しちゃって…」
舌を出しながら、顔を赤らめられても…
ハイハイ、ご馳走様


「みんな、おはよう!」
ご主人さまのハイテンションな声に、全員で挨拶を返し、朝食が始まるのだった。



「今日は、ゼルマとグロリアのレッスンか、時間は二時で良かったんだよな」
「ハイ」「そうです」
二人で返事をしてしまい、言葉が重なってしまう。

「じゃ、大ホールに一時半で宜しく」
今度は、逆に二人とも頷くだけ。
思わず、グロリアと顔を合わせて苦笑いを浮かべる。



朝食が終わると、ゼルマ自身の担当となっているメイド達三人と朝の打ち合わせ。
流石に二十人もいると、全員で掛かると大概の仕事が早々と終わってしまう。

だから、ローテーションで仕事が回されている。
本日は、ゼルマ自身も含め四人ともローテーションに入っていないので、直接の業務は無い。

勿論、窓拭きの日とかは全員でかかるのだが、今日はそのような用事も無い。
こう言う時は、勉強に当てる事になっている。



メイド個人毎の問題がない事を確認すると、そのまま全員で二階に向かう。
ご主人さまとアンが作ったハルケギニアの言葉で書いたテキストでの一般知識の学習は、三人のメイド達。

ゼルマ自身には、ご主人さまのお国の言葉、日本語で書かれたテキストを使った学習である。
まだまだ難しい内容なのだが、これは後でご主人さまに質問出来るので、それが嬉しい。

昼迄何回が休息を挟み、何とか学習を終えた。
ゼルマ自身ですら、時折眠たくなるのだから、他の三人も同様である。

だけど、常識も無いメイドが失敗すれば恥を欠くのは俺だとご主人さまが言う以上、手を抜かせる訳には行かない。

「「「ありがとうございました」」」
三人の声を背中に受け、ゼルマは弾んだ足取りで食堂に向かうのだった。







昼食後、部屋に戻りメイド服を脱ぐ。
クローゼットを開き、並んでいる服の中からお気に入りのワンピースを選び、着替える。

本当はジーンズのパンツが好きなのだが、そうも行かない。
ジャケットを羽織り大ホールに向かった。

「やあ、そのジャケットも良く似合うな」
待ち受けていたご主人さまが、そう言ってくださる。

それだけで、嬉しくなってしまうのは仕方ない。
ゼルマは本当にこのご主人さまが好きなのだ。

「すみません、遅くなりました」
もっとゆっくりでも良かったのに……

そうは思うが、逆にグロリアにすれば二人っきりにはしたくないのだから一緒か。
思わず苦笑が浮かぶ。

グロリアが怪訝そうな顔を向けて来るが、手を振って誤魔化す。



「揃ったな、じゃ、行くか」
ご主人さまが杖を唱え術式を唱えるとゲートが形成される。




ご主人さま特製の杖を頂いたので、ゼルマ達五人は魔法が使える。
但し、普通の系統魔法が使えるのは、ゼルマとグロリアの二人だけだ。

ゼルマが風の系統、グロリアが水の系統のメイジだった。

水の精霊に対するお願いの形で、魔法が使えるのは全員。
火の精霊に対する魔法が使えるのは、アマンダと、リリーとクリスティーナのチビッ子二人組。

ちなみに、チビッ子二人にはまだこの事は伝えていない。

そしていわゆる先住魔法が使えるのは、ヴィオラだ。


ゲート構築の魔法は、本来召還魔法にも使われている術式をアレンジしたものなので、ゼルマとグロリアは使える。
ただ出口を指定して構築するので、ご主人さま特製の杖が無いと発動しない。

行き先が決まっているゲート、固定ゲートならば精霊魔法でも発動出来る。
固定ゲートの場合は、魔道具の起動をお願いするだけなので可能なのだ。

但し、固定ゲートが設定されているのは、ヴィンドボナの屋敷とご主人さまの領地の館の私室のみである。


ゼルマとグロリアの魔力量は、それ程大した事はないそうだ。
それでも、これから鍛錬を積めばトライアングルクラスは目指せるそうだが、そのような気は無い。

そう、二人とも水の精霊の加護を得ているので、自分個人の魔力量だけで魔法を発動しなくても良いからだ。
ちなみに、水系統のメイジであるグロリアが水の精霊にお願いすると、かなり大変な事となる。

治癒系の魔法が、水の秘薬なしで効果が上がるのだから、治療や癒しに関してはレベルを超越した効き目をもたらす。
ゼルマの場合は、風の系統に水の精霊の助けを借りているので、グロリアのような極端な効果は判り辛い。

しかしながら、系統魔法だけでは届かない遠方まで術式が通用する。
風の魔法の頂点と言われる偏在、これが案外簡単に出来てしまった時は驚いた。

今でもその辺りにいるメイジのレベルは二人とも凌駕している訳だが、それでもとてもご主人さまのレベルには届かない。
それは当たり前なのかも知れないが、それでも転移が一人で出来る程度までは魔法を習熟したいとは思っている。

いつまでも、ご主人さまに依存してばかりでは申し訳ない。
それでも、中々一人で転移ゲートが構築出来ないのは、別の理由もあるのかも知れない。



目の前の水の鏡のようなゲートが安定すると、二人はすっとご主人さまに歩み寄る。
ゼルマが右に、グロリアが左だ。

そのまま、腕にしっかりとしがみ付く。
両手に花の状態でご主人さまも嬉しそうだ。

この時だけは、誰憚る事無くご主人さまにしがみ付けるのだ。
やはり、転移ゲート構築が一人で出来るようになるにはもう少し時間が掛かりそうだった。




三人揃ってゲートを抜けると、いつものマンションの一室だ。
あまり時間も無いので、ここで遊んでいる訳にもいかない。

それでも、恒例の様にご主人さまと軽く口付けを交わして、玄関に向かう。
偶にお買い物に付き合うと言う事で、一人だけ誘って頂いた時は、とても楽しい時間をここで過ごせた事もあるだけに名残惜しい。

表に出ると、しぶしぶご主人さまの腕から身体を離す。
流石に、両手を美女二人に抑えられるのは、恥ずかしいとの事だった。


本当に、人って慣れるものなのよねえ…
グロリアが鉄の魔物と例えた電車も、慣れれば便利な交通手段にしか見えない。

二駅ほど電車で移動し、目指す建物に向かって歩いて行く。
だけど人の多さだけは、ご主人さまの国に来る度に圧倒される。

誰も魔法が使えないと聞いた時は、本当に驚いた。
ましてや、今は貴族もいないと言うのだから、更に驚いてしまう。

これだけ多くの人がいて、支配するものもおらず、全部自分で決めなきゃいけないなんて。
全員が貴族の義務と平民の権限を持つ不思議な国だと言う思いは、今も消えない。




「オハヨウゴザイマース」
二人とも、まだたどたどしい日本語で挨拶をして中に入る。

「はい、いらっしゃい、宜しくね」
「「宜しくオネガイシマース」」
二人揃って頭を下げるのは、ここの教室の先生だった。

週一回二時間、ご主人さまも含めて三人で、ここ『福留社交ダンス教室』に通っているのだった。
勿論、遊びじゃ無い。

ゼルマはいずれ、そしてグロリアはいざと言う時の為、ダンスぐらい踊れなければとご主人さまが手配したのだ。
ご主人さまは、最初自分は関係ないと逃げようとした。

だけど、グロリアと二人でご主人さまと一緒じゃなきゃ出来ないと迫ったのだ。
お陰で、この社交ダンス教室は、二人にとってとっても楽しいものになっている。

時々、どちらがご主人さまと一緒に練習するかで揉める事もあるけど、それは大した問題ではない。
うん、ご主人さまが、とても疲れて見える事もあるけど、私達が上手くなる為には仕方ない事だと我慢して貰おう。



練習が終わると帰るまでの一時間、これが一番楽しみの時間だった。
グロリアも同じようで、少し浮かれているのが判る。

「今日は何にする?」
ご主人さまが聞いてくる。

そう言えば、今日はグロリアと打ち合わせする時間が取れなかった。
「グロリア、何かアイデアある?」
「えっ、特に無いわね、ゼルマは?」

「ああ、アンからちゃんと預かって来た」
「流石! アンちゃんね! 見せて、見せて!」

横でうんざりしているご主人さまを放り出して、二人でアンのリストをチェックする。
これは? うううん、こっちが? いやそれよりこれなんか?

時間も掛けてられないので、無難な線に落ち着かざるを得ない。
今度から出かける前にはグロリアともう少し煮詰めてから来よう。

「決まった?」
「「ハイ、ここが良いです!」」

二人揃って、開かれたページをご主人さまに見せる。
それは、『駅中名店! ここが一番! デザート編』と書かれた雑誌だった。




美味しいケーキを頂いて、皆へのお土産も手に入れた。
ケーキ25個は流石に多いので、ご主人さまを二人で隠している隙に指輪に収納して貰った。

「じゃ、三十分しか時間残ってないけど、頑張って」
そう言って、ご主人さまが本屋さんへ歩いていってしまう。

でも仕方ない。
この先のお店は、ご主人さまは退屈だろう。

「じゃ、いこうかゼルマ」
もう、グロリアは嬉しそうに私の手を引く。

化粧品は、乳液位で良いんだがなあ…


そう言いながら、ご主人さまとの待ち合わせに二人して10分以上遅れてしまった。







屋敷に戻ったので、二人とも慌ててご主人さまから離れる。

「お帰りなさいませ」
きっちりと、挨拶を交してくるのはリリーだ。

最近チビッ子二人が、ご主人さまに甘えていると目付きが厳しい。
情操教育に悪いとご主人さまは言うけど、あれはどう見てもライバル視だ。

まあ、アマンダでさえ若すぎるって言っていたから、後四五年は大丈夫だろう。


直ぐに、手隙のメイド達が集まって来る。
ご主人さまの前に一列に並ぶ。

「おかえりなさいませ!」
一斉に元気な声で挨拶すると、ご主人さまは機嫌が良い。
まあ、これで小さな声だと後で怒らなければならない。


「はい、ただいま」
そう言いながら、ご主人さまがテーブルに向かって歩いて行く。

その様子をみんな、キラキラした目つきで見ている。
ご主人さまが私達を連れて行く時は、必ず土産を買って帰ってくるのだ。

アマンダ、お前までそんな目で見てたら、示しが付かないじゃないか、全く。


指輪から土産のケーキをテーブルの上に出すと、全員から歓声が上がる。

「私のは、最後で良いから、グロリアは?」
「私も残りで良いわ」

うん、二人とも既に食べているだけに余裕だ。


「アマンダ、アンジェリカは?」
ヴィオラが入って来たのは気が付いたが、アンがいない。

「えー、アンちゃん二階で調べ物じゃないかなあ」
アマンダは、どれにするか検討中で視線がケーキから離れない。

「ヴィオラ、アンジェリカの分も選んで上げてね」
グロリアが仕方ないと言う顔で、ヴィオラに頼む。

「判った!」
おおっ、ヴィオラも真剣だ。

「二人はどれが良いんだ?」
リリーとクリスティーナがご主人さまに抱えられるようにして、ケーキを覗き込む。

「一つだけ?」
「だけなの」
うん、この時だけは、やっぱり子供だ。
ご主人さまの顔が、嬉しそうに崩れる。

「じゃ、俺の分上げるから半分こして良いよ」
「ハイ、ありがとう! ご主人さま」
「ありがとうございます」

リリーとクリスがこれが良いと言いながらケーキを選んでいるのを見ているとグロリアが近づいて来た。


「アンだけど、何か見つけたのかしら?」
「ありえるね、見に行こうか」

ご主人さまに断り、グロリアと二人で大ホールを後にするのだった。






二階の書庫の奥、元々は書庫の本を持ち出して読むためのスペース。
今ではそこは、あっという間にアンジェリカの仕事場に変貌していた。

大きなテーブルが運び込まれ、その上に古い紙の書類が山積みされている。
これらの書類は、皇室書院に仕舞われている帝国の過去の事件をまとめたものである。

こっそりと書院の中にゲートを設け、必要な書類を自由に取れるようにしたのだ。
勿論ゲートそのものは、書院の奥、めったに人の来ない処である。

見たい書類を持ち出し、確認がすめば戻すと言う事をここ数日アンジェリカは繰り返していた。


「どう、アン、仕事は進んだ?」
「あ~、グロリアさん、ゼルマさん~、ありましたよ~」

アンジェリカが数枚の書類を振り回している。
どれどれっとグロリアが覗き込む。

「えーっとね、これが~、二番通り沿いの邸宅~」
アンは嬉しそうに、書類をグロリアに見せる。

「そして、これが~、東方辺境領のローゼンハイム伯爵家の系図~」
更に、もう一束の書類をアンが指差す。

「そして~、これこそが~、新離宮建設時に~、ゼルマのお父さんと一緒に御取潰しになった貴族のリスト~」
そうか、準備に必要な資料は全て集まったと言うことなのだろう。

「やったじゃない、さすがアンね、これで始められるわね」
グロリアが嬉しそうに、私を見詰める。




そう、わがヴェスターテ家を貶めた、ブッフバルト公爵に対して鉄槌を下す為の舞台作りの材料が集められたのだ。
私は、喜ぶべきなんだろう。


ご主人さまも含め、皆が協力してくれている。
そして、ご主人さまの力と皆の協力があれば、確かにお家再興は成し遂げられるだろう。

だけど、私は自分の顔が引き攣るのが判った。


お家再興は、成し遂げたい。
父上と、母上の無念は晴らして上げたい。

獄中で、母にも娘の私にも会えず、断罪された父。
失意の内に亡くなってしまった母。

その墓に、少なくとも報告出来るような行動は取りたい。
いや、それが出来る体制が整いつつあるのだ。



だけど、どうして私は素直に喜べないのか…
お家再興し、自分の立場が没落貴族から、伯爵令嬢へと変わる。



そう、その後が怖いのだ。



私は…

私は、伯爵になりたいのだろうか…




「大丈夫?」
そんな私の様子に気が付いた、グロリアが声を掛けて来る。

そう、今は同じメイド、そしてこんなに素晴らしい仲間。
だけど、伯爵になった時、自分の立場はどうなるのか…

まさか、メイドでは居られまい。
ま、まさか、ご主人さま、バルクフォン卿の愛人には…




「ゼルマ、ゼルマ、ゼルマ!」
「あ、ああ、アン、私は、私は…」

昨日までは平気だった。
まだまだ、始まりは先だと思っていた。

ご主人さまに言われ、社交ダンスに通うのも楽しかった。
毎日身体を鍛え、知識を増やし、魔法を覚える。

とても、とても楽しかった…




「ゼルマ、ご主人さまに相談すると良いよ」
「ああ、アン、ど、どうして…」

横で私の身体を抱きしめるようにして、アンが話し掛けて来ていた。

「ゼルマは、お家再興した後を考えたんだよね~」
うんうんと力なく私は頷いた。



イヤだ!

こんな素敵な仲間から離れるのは!



イヤだ!

ご主人さまと離れるのは!」



「大丈夫、大丈夫だよ~、ご主人さまは、ちゃんと考えてくれるから~」
「ほ、本当かな? で、でも?」

不安が渦巻く。
信じたい、だけど信じられない…



「一つ、秘密を教えて上げる。 ご主人さまは、昔王国魔道騎士長を勤められた事もあるのよ」
「お、王国魔道騎士長…」
それは、王を守る一番の盾、どのような王国であれ、武門の位では王に次ぐ地位。

「そう、それをあっさりと投げ出した人なのよ~、私達のご主人さまは~」
アンがにっこりと笑って、私を見つめている。



ご主人さまを信じなさいって言っている。
グロリアを見ると、彼女もウンウンって頷いている。

「あ、ありがとう…」
まだ、処理しきれない事柄は一杯ある。

だけど、私、ゼルマ、そう何の肩書きも無い、ゼルマ個人はアルバート様と一緒にいたい。
だから、ご主人さまに聞いてみよう。

きっと、素敵な答えを教えて下さるだろうから。




「ありがとう、もう大丈夫」
「ゼルマ、無理しなくても良いのよ」
「頑張ってね~、ゼルマ~」


そう、こんな素敵な仲間がいるのだ。
地位や身分なんて、意味は無い。

だって、王族の落しだね、精霊使い、獣人、エルフのコックさん。
みんな、みんな仲間だ。



そう、きっとお家再興を成し遂げて、大きな声で皆に言おう。


私、ゼルマ・グラーフィン・フォン・ヴェスターテは、アルバート・コウ・バルクフォンの思い人の一人だと」






「ゼルマ、ゼルマ…」
「うん、なんだ?」

「もう言っちゃってるよ…」

ま、また、言葉にしてしまったのか…

ゼルマは、グロリアの方を見る。








「がんばろ!」

それが、グロリアの言葉だった。


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