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No.12354の一覧
[0] ゼンドリック漂流記【DDO(D&Dエベロン)二次小説、チートあり】[逃げ男](2024/02/10 20:44)
[1] 1-1.コルソス村へようこそ![逃げ男](2010/01/31 15:29)
[2] 1-2.森のエルフ[逃げ男](2009/11/22 08:34)
[3] 1-3.夜の訪問者[逃げ男](2009/10/20 18:46)
[4] 1-4.戦いの後始末[逃げ男](2009/10/20 19:00)
[5] 1-5.村の掃除[逃げ男](2009/10/22 06:12)
[6] 1-6.ザ・ベトレイヤー(前編)[逃げ男](2009/12/01 15:51)
[7] 1-7.ザ・ベトレイヤー(後編)[逃げ男](2009/10/23 17:34)
[8] 1-8.村の外へ[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[9] 1-9.ネクロマンサー・ドゥーム[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[10] 1-10.サクリファイス[逃げ男](2009/10/12 10:13)
[11] 1-11.リデンプション[逃げ男](2009/10/16 18:43)
[12] 1-12.決戦前[逃げ男](2009/10/22 06:15)
[13] 1-13.ミザリー・ピーク[逃げ男](2013/02/26 20:18)
[14] 1-14.コルソスの雪解け[逃げ男](2009/11/22 08:35)
[16] 幕間1.ソウジャーン号[逃げ男](2009/12/06 21:40)
[17] 2-1.ストームリーチ[逃げ男](2015/02/04 22:19)
[18] 2-2.ボードリー・カータモン[逃げ男](2012/10/15 19:45)
[19] 2-3.コボルド・アソールト[逃げ男](2011/03/13 19:41)
[20] 2-4.キャプティヴ[逃げ男](2011/01/08 00:30)
[21] 2-5.インターミッション1[逃げ男](2010/12/27 21:52)
[22] 2-6.インターミッション2[逃げ男](2009/12/16 18:53)
[23] 2-7.イントロダクション[逃げ男](2010/01/31 22:05)
[24] 2-8.スチームトンネル[逃げ男](2011/02/13 14:00)
[25] 2-9.シール・オヴ・シャン・ト・コー [逃げ男](2012/01/05 23:14)
[26] 2-10.マイ・ホーム[逃げ男](2010/02/22 18:46)
[27] 3-1.塔の街:シャーン1[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[28] 3-2.塔の街:シャーン2[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[29] 3-3.塔の街:シャーン3[逃げ男](2012/09/16 22:15)
[30] 3-4.塔の街:シャーン4[逃げ男](2010/06/07 19:29)
[31] 3-5.塔の街:シャーン5[逃げ男](2010/07/24 10:57)
[32] 3-6.塔の街:シャーン6[逃げ男](2010/07/24 10:58)
[33] 3-7.塔の街:シャーン7[逃げ男](2011/02/13 14:01)
[34] 幕間2.ウェアハウス・ディストリクト[逃げ男](2012/11/27 17:20)
[35] 4-1.セルリアン・ヒル(前編)[逃げ男](2010/12/26 01:09)
[36] 4-2.セルリアン・ヒル(後編)[逃げ男](2011/02/13 14:08)
[37] 4-3.アーバン・ライフ1[逃げ男](2011/01/04 16:43)
[38] 4-4.アーバン・ライフ2[逃げ男](2012/11/27 17:30)
[39] 4-5.アーバン・ライフ3[逃げ男](2011/02/22 20:45)
[40] 4-6.アーバン・ライフ4[逃げ男](2011/02/01 21:15)
[41] 4-7.アーバン・ライフ5[逃げ男](2011/03/13 19:43)
[42] 4-8.アーバン・ライフ6[逃げ男](2011/03/29 22:22)
[43] 4-9.アーバン・ライフ7[逃げ男](2015/02/04 22:18)
[44] 幕間3.バウンティ・ハンター[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[45] 5-1.ジョラスコ・レストホールド[逃げ男](2011/09/04 19:33)
[46] 5-2.ジャングル[逃げ男](2011/09/11 21:18)
[47] 5-3.レッドウィロー・ルーイン1[逃げ男](2011/09/25 19:26)
[48] 5-4.レッドウィロー・ルーイン2[逃げ男](2011/10/01 23:07)
[49] 5-5.レッドウィロー・ルーイン3[逃げ男](2011/10/07 21:42)
[50] 5-6.ストームクリーヴ・アウトポスト1[逃げ男](2011/12/24 23:16)
[51] 5-7.ストームクリーヴ・アウトポスト2[逃げ男](2012/01/16 22:12)
[52] 5-8.ストームクリーヴ・アウトポスト3[逃げ男](2012/03/06 19:52)
[53] 5-9.ストームクリーヴ・アウトポスト4[逃げ男](2012/01/30 23:40)
[54] 5-10.ストームクリーヴ・アウトポスト5[逃げ男](2012/02/19 19:08)
[55] 5-11.ストームクリーヴ・アウトポスト6[逃げ男](2012/04/09 19:50)
[56] 5-12.ストームクリーヴ・アウトポスト7[逃げ男](2012/04/11 22:46)
[57] 幕間4.エルフの血脈1[逃げ男](2013/01/08 19:23)
[58] 幕間4.エルフの血脈2[逃げ男](2013/01/08 19:24)
[59] 幕間4.エルフの血脈3[逃げ男](2013/01/08 19:26)
[60] 幕間5.ボーイズ・ウィル・ビー[逃げ男](2013/01/08 19:28)
[61] 6-1.パイレーツ[逃げ男](2013/01/08 19:29)
[62] 6-2.スマグラー・ウェアハウス[逃げ男](2013/01/06 21:10)
[63] 6-3.ハイディング・イン・ザ・プレイン・サイト[逃げ男](2013/02/17 09:20)
[64] 6-4.タイタン・アウェイク[逃げ男](2013/02/27 06:18)
[65] 6-5.ディプロマシー[逃げ男](2013/02/27 06:17)
[66] 6-6.シックス・テンタクルズ[逃げ男](2013/02/27 06:44)
[67] 6-7.ディフェンシブ・ファイティング[逃げ男](2013/05/17 22:15)
[68] 6-8.ブリング・ミー・ザ・ヘッド・オヴ・ゴーラ・ファン![逃げ男](2013/07/16 22:29)
[69] 6-9.トワイライト・フォージ[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[70] 6-10.ナイトメア(前編)[逃げ男](2013/08/04 06:03)
[71] 6-11.ナイトメア(後編)[逃げ男](2013/08/19 23:02)
[72] 幕間6.トライアンファント[逃げ男](2020/12/30 21:30)
[73] 7-1. オールド・アーカイブ[逃げ男](2015/01/03 17:13)
[74] 7-2. デレーラ・グレイブヤード[逃げ男](2015/01/25 18:43)
[75] 7-3. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 1st Night[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[76] 7-4. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 2nd Day[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[77] 7-5. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 3rd Night[逃げ男](2021/01/01 01:10)
[78] 7-6. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 4th Night[逃げ男](2021/01/01 01:11)
[79] 7-7. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 5th Night[逃げ男](2022/12/31 22:52)
[80] 7-8. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 6th Night[逃げ男](2024/02/10 20:49)
[81] キャラクターシート[逃げ男](2014/06/27 21:23)
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[12354] 7-2. デレーラ・グレイブヤード
Name: 逃げ男◆b08ee441 ID:b370f3d2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/01/25 18:43
ガラス張りの天井からは巨大なシベイ・ドラゴンシャードが放つ青い光が室内を照らしている。カタコンベと呼ばれる塔の最上階、そこは大司教ドライデンの居室であり謁見の間でもあった。室内の外周は武器を携えたシルヴァーフレイム教会のパラディン達が並び、大司教の座す司教座に通じる階段はカニス氏族から贈られた鋼鉄製の番犬達が護っている。通常のものよりもかなり大型で強力な秘術のパワーを込められたこの人造はコーヴェア大陸にある教会の本部《フレイムキープ》で炎の護り手ジャエラを守護しているドラゴンハウンド・スカラヴォージェンを模しているのだろう。

政治的にコーヴェアから切り離されたこのゼンドリックのシルヴァーフレイム教会においてまさにドライデンこそが最高位の指導者であり、その権力を示すに相応しい広間が先日の竜晶の到着によって完成したと言える。今やこの大陸での信仰はフレイムキープの炎柱ではなく塔に設えられた竜晶へと捧げられ、その教会の一切を一人の大司教が取り仕切っている。この部屋に通されたものは彼の権力を疑うことはしないであろう──それだけの意味と意思を感じさせるに十分な威容をこの部屋は有しているのだ。

その至高の司教座において、大司教は本のページを一心に捲っていた。俺が渡した3冊の本に、急ぎ目を通しているのだ。


「叔父は私が思っていたより血迷っていたようだな。こんな戯言を書き綴ったりして!」


本を読み終えたドライデンが眉をひそめ、頭を振った後、一瞬沈黙する。


「そこに書かれていることは真実なのか?」


俺の問いかけに、大司教は弱弱しい溜息と共に言葉を零した。


「君は既にこの本に目を通していたんだな、では今さら秘密にしておくこともできないだろう。

『デュアリティ』──それは我らシルヴァーフレイム信仰の腐敗の象徴。我が叔父のジェラードはその思想に取憑かれたのだ。

暗黒六帝の一柱《ディヴァウラー》の力を利用してシルヴァーフレイムの純粋なパワーとの”バランス”を図る。

それにより力と支配、悪しき者が欲する諸々のことが手に入る、とこの本には記されている。

叔父の死と一緒にあの異教信仰も消えてなくなればよかったのに! やはりこの問題からは避けて通れないようだな」


彼は忌々しそうに本を睨みつけるが、すんでのところでそれらを床に叩き付けることは堪えたようだ。邪悪な思想が記載されているとはいえ、それは敵を知る貴重な資料でもある。じっくりと研究を行うことで、対応する術を研究できる可能が残されている以上安易に処分するわけにもいかないのだ。


「我々がこの塔を開放した際、叔父はエメロ司教の墓の前で彼の骨を磨り潰していたところを発見され、聖騎士により処断されている。

 『飢えを司る《ディヴァラー》の名において、 生者と死者を支配する力を我に与えよ。 信仰者の骸よ、我が糧となれ』

 この言葉が叔父の行動の意味を今になって教えてくれた。強い信仰を持って死んだ殉教者の遺骸を口にすることで力を得ようとしたのだろう。

 信仰に身を捧げた先人に対する最大の侮辱だ! フレイムに対する冒涜でもある!」


大司教は怒りも露にそう吐き捨てた。彼の怒りは俺の怖れている未来の一つでもある。この世界は死んだらそこで終わりではない──死後の世界が明確に存在し、死者を使役する、あるいは死後の魂を収穫する恐るべきクリーチャーが現実に存在するのだ。他の世界観であれば神格に信仰を捧げ、死後はその神格の有する異界で過ごすことが出来たかもしれない──だがこのエベロンではそうはいかない。死後はドルラーにて全ての記憶を忘却するまで揺蕩うのが一般的だろうが、デヴィルに魂を奪われればそれこそ文字通りの地獄の苦しみが待っているだろう。そして仮にその魔手を免れたとしても、安らかな眠りは生者達によって容易く乱される。《デュアリティ》によって貪られるなど考えられる最悪のケースの一つだといえよう。


「だが既にその叔父とやらは死んでいる。なら今すべきことは他にあるんじゃないのか?」


問題のジェラルド・ドライデンは既に過去の人だ。ゲームの中ではアンデッドとして登場し、さらにアルカシック・ドライデンという存在が目の前の大司教に憑依することで糸を引いていたが、今現在その兆候は見て取れない。さて、この状態で大司教はどのように動くのか。そして俺はどうすべきか。


「その通りだ、ヒーロー。こうしてここに君がいてくれたことは私にとって幸運だ、まさにシルヴァーフレイムの導きだろう。

 我々が過去の亡霊と決別し、来るべき『死の接触』に打ち勝つために君の力を貸してほしい」


そう言ってドライデンは怒りをねじ伏せ、使命感に燃えた瞳でこちらを見た。








ゼンドリック漂流記

7-2. デレーラ・グレイブヤード








「よくも私の安眠を妨げてくれたな! 死ぬがいい!」


『VALAK』と刻まれた棺桶から死体が這い出てくると同時に、背後の扉が音を立てて閉じた。眼前の遺体はかつて肉だったものに集る蟲の大群に包まれてその輪郭はあやふやにしか見えないが、サイズからして人族のものであることには違いない。


「蟲どもはお前の亡骸を喜んで食い尽くすだろう」


骨だけとなった死体が完全に起き上がると、まとわりついていた羽虫達が飛び立った。アンデッドの放つ負のオーラの範囲内を飛び交うその群れはまるで黒い球体のようだ。


「あの欲の張った私の弟子が、お前をよこしたのか? だがお前の骨は永遠に、私の墓を彩る一部となるのだ!」


半ば朽ちて見える杖と、人皮と思われる禍々しい装丁がされた呪文書をそれぞれの手に持って不死者は呪いの言葉を吐く。蟲の群れを切り裂くように紫電が奔り、火球が飛び出してくる。一方の呪文を高速化したことで一呼吸の間に立て続けの攻撃呪文を放っているのだ。それでいてなおこのスケルトンはこちらへと距離を詰めてくる。それは通常の秘術呪文使いではありえないことだ。だが生者を蝕む負のオーラを放射する呪われた存在はそのような定石には囚われない。この霊廟の主、秘術使いヴァラクは肉体の死を迎えてなお生前の能力と知性を失っていない。

──だが、俺の前では全くの無力だ。《ファイアー・ボール》や《ライトニング・ボルト》は俺の産毛の一本すら焦がすことは出来ず、絶望をもたらすはずの負のエネルギー放射は微風のようにしか感じられない。


「何を勘違いしているのか知らないが、俺の依頼主はあんたの弟子ではないぞ」


近寄ってきたのを幸いと、抜き打ちざまに剣を一振り。両手剣ほどの長さでありながらも小剣であるかのように感じさせる金色の刃が呪文書を持つ腕を両断するが、破壊はそれだけでは留まらない。《サン・ブレード》という銘をもつこの剣はアンデッドに対して極めて強力な破壊力を有しており、切断面から注ぎ込まれた正のエネルギーが不死者の肉体を破壊していくのだ。しかも俺が手を加えたことによりさらに研ぎ澄まされたその性能は死者の天敵ともいえるほどだろう。

自らの肉体が徐々に光の粉へと転じていくというのは果たして死者にとってどのように感じるものなのだろうか──それを問う間もなく、ヴァラクのスケルトンは消滅する。自身のステータスをチェックし、経験点が入っていないことを確認して溜息を一つ。もはや脅威度7以下の敵はどれほど倒しても俺の糧となることはない。それがクエストのボスであっても変わらないようだ。

ストームクリーヴ・アウトポストでの戦闘とタイタンに関連した一連のマインド・フレイヤーとの死闘は俺を一気に成長させた。日本語版MMOのレベルキャップであった16まであと一つだ。だが、そのために必要な経験点を稼ぐ手段は限られている。この世の中で一流と呼ばれるラインは5Lv~6Lvであるのに対して、そこからさらに一回り成長した相手でなければ俺は経験点を得ることが出来ないのだ。勿論、文明圏でもそういった実力者がいないわけではないが大抵は高い地位を有しているか氏族に囲われているなどで気楽に手合わせを申し込めるような相手では無い。

一方で文明圏の住人ではない、野生のクリーチャー──例えばストームリーチの近郊で稀に見ることもあるゴルゴンは石化ブレスを吐く鎧をまとった牛のような魔獣だが、これの成獣の脅威度が8で経験点となる最低ラインだ。しかし俺一人で倒した際に得られる経験点は375でしかない。対して15Lvから16Lvに必要な経験点は16万点だ。占術を駆使して毎日一頭を探し当てたとしても1年以上かかるというのでは効率が悪すぎる。

勿論、ゼンドリックの奥地には悪の巨人の集落や残忍なドラウの里などもあるわけだが、経験値稼ぎのためにそこに突入するというところまではまだ割り切れていないのだ。それだけにドライデンの依頼は渡りに船かと思ったのだが──




「トーリ、君であれば《死の領域・ドルラー》のもたらす災厄の事についても十分承知しているだろう」


謁見の間から場を移した、人払いのされた応接間で俺と向き合う大司教はそう呟いた。


「一説ではあの『最終戦争』すら、かの次元界が自らに死者の魂を招き入れるために引き起こしたのだ、といわれている。

 それが正しいかを知る者は人の身には存在しないだろうが、結果として多くの命がコーヴェア大陸で失われたのは確かだ。

 そして災厄はこの都市でも起こっていた。かつてこの地で秩序を守ってきた我々の先祖がこの塔を失ったのも、それに起因するものだ。

 100年に一度、この物質界に最接近する《死の領域》は多くの災いを落としていく。生と死の境界は曖昧となり、安息に囚われたはずの死者の魂が現世へと舞い戻るのだ──かつてこの地に葬られた殉教者たちの遺骨に、どこのものともしれぬ悪霊の魂が憑りつきスケルトンとして暴れはじめたのだ。

 それだけではなく、死者に憑依した悪鬼が生者を謀ってその魂を弄ぼうと暗躍した。

当時の記録は混乱のため多くは残されていないが、それは大変なものだったようだ。我々がこの塔を取り戻し、再び死者を鎮魂するのに100年近い年月を必要としたほどに」


ドライデンがここでいう悪鬼とは、ドルラーに住まうデーモン"ナルフェシュネー"のことだろう。脅威度14という数字は俺からしてみれば射程に捕えた瞬間蒸発させられる程度の小物でしかないが、一般的には街一つに甚大な被害を与えうる存在である。この地のシルヴァーフレイム教会が壊滅的な被害を受けていたとしても不思議ではない。


「そして、その災厄の日からまもなく100年だ。《死の領域》の周期は乱れることなく、再びこの物質界に近づいてきている。

 再びこの地が死と混沌に飲み込まれぬよう、私は出来るだけのことをするつもりだ──」


そう言って語られたドライデンの計画は大がかりなものだった。それはこのストームリーチの街全体を、《ハロウ》による結界で包むというものだ。これによりドルラーが接近しようとも死者が起き上がることは無く、例えアンデッドが発生したとしてもそれは街の外部での事となり街壁によって被害を防ぐことが出来る。一部の霊体は障害物を通過するとはいえ、そういったクリーチャーの脅威である負のエネルギーによる接触や能力値吸収を無効化することが出来るのは大きい。

だが勿論問題はある。単純には費用の問題だ。《ハロウ》の呪文行使に当たっては触媒が必要であり、最低でも金貨1000枚分もの薬草や香油を消費するし、彼が言うような効果を付与するのであれば一度の呪文行使で金貨5000枚分だ。そして街全てを覆うとなると、100回の呪文行使ではきかないだろう。声望を高めているシルヴァーフレイム教会といえど、容易に支払える額ではないはずだ。


「勿論それは解決しなければならない問題ではある──だがそれこそが私の仕事でもある。

 だから君には実働の場での最も重要な役回りをお願いしたい。勿論、相応の報酬は準備させてもらうつもりだ」


そう告げられたドライデンの言葉から今日という日まで、実に10日しか経っていない。彼はその間にこの街の領主たちを説き伏せるだけでなくスポンサーとして担ぎ出し、術の行使に必要な経費の大部分をストーム・ロードたちに負担させて準備を整えて見せたのだ。ある程度事前に根回しをしていたであろうとはいえ、現在の緊張溢れる領主たちを相手に大規模な提案を通してのけるその政治力は見事と言うに他ならない。確かにレベルや戦闘力でいえば彼は俺とは比べるべくもないほど弱小ではあるが、こういった影響力や戦略を実現する段においては俺には出る幕がない。ドライデンは自らの役割を英雄の働く場を設える介添人だと言っていたが、その仕事は十分に成し遂げていると言えるだろう──そして俺は経験点を稼ぎながらその役割の一端を担う。まさにWin-Winの関係だと思ったのだが。


「まあそう都合よくはいかないってことだな」


霊廟の主を滅ぼした後の探索を一通り終え、内部の罠を含めた障害を全て無力化したことを確認して地上へと足を向ける。このエベロンでは火葬ではなく棺に納められた遺体を埋葬するのが一般的だが、単に埋めた上に墓標を建てるのではなく係累の棺を納める霊廟を建てているケースもある。その中でも最も大きいものはこの墓地の異名でもあるストームリーチの開祖の一人、魔女デレーラ一世の墓である。丘をまるまる一つくり抜いて建造されたその地下構造物に比べれば小さいものの、他にもこういった様式で地下深くまで続く墓所というものはいくつも存在する。それらは副葬品の盗掘などを恐れて罠が仕掛けられていることも有り、まさしくダンジョンといっていい。こういった地下構造物の探索を兼ねた掃討は聖騎士達も不慣れであり、俺のような冒険者が適役というわけだ。

一方でシルヴァーフレイム教会の戦士たちは、俺が戻った地上で激しい戦いを繰り広げていた。夜を包む暗闇を打ち払わんと大量の篝火が敷き詰められた街の一角が、鋼の打ち合わされる音と怒号で満たされている。板金鎧の上から羽織られた青と白のサーコートを翻し、聖騎士達が肩を並べて戦列を維持していた。そこに打ち掛かるは暗闇から湧き出てくる大量のアンデッドの群れだ。そのほとんどは大した脅威とはならないゾンビだが、時折それらの集団に紛れてグールが地を這うように襲い掛かってくる。ゾンビ達の足の間を縫うように移動するグールたちは、騎士の脛などへ噛みついてその麻痺毒を注入しようとするのだ。そしてさらに厄介なことに頭上からはスケルトン・アーチャーの放つ矢が降り注ぐ。正面だけでなく頭上と足元へと注意を払いながら戦い続けることは歴戦の戦士たちでも困難であることは間違いない。だが彼らの士気は尽きることを知らぬかのように高い。


「For the Flaaaaame!」


信仰を捧げる祝詞と共に彼らの祈りが天から炎を降らせた。《フレイム・ストライク/業火》と呼ばれる信仰第五階梯の呪文が成す火柱は、例え火に対する抵抗があろうともその半ばを構成する純粋な信仰エネルギーで対象を焼き払う。その呪文によって敵の集団が薙ぎ払われたことで生じた空隙を利用して騎士たちは交代を行い、休息の間に信仰呪文や秘薬で傷を癒した者達が再び前線を構築する。夕暮れ時から開始された戦闘は既に10時間以上もの間継続されており、聖騎士達が屠った不死者の数は三桁を大きく上回っていることは間違いない。だがそれでも騎士へと襲い掛かる敵の圧力は一向に減じてなどいない。


「間もなく夜明けだ! それまで誰一人欠けることは許さんし、忌まわしき不死者達を一匹たりとも通してはならん!

 横に並ぶ同志と、背後の護るべきものの為に剣を振るえ! 一人一人の持つ火が集い、炎となって悪を打ち払うだろう!」


押し寄せる暗闇と悪のプレッシャーを指揮官の鼓舞が跳ね返す。善と悪のオーラが光と闇の境界線で激突し、激しく争っている。それは信仰のエネルギーを消費しながらも均衡を保ち、ついに太陽が顔を出す時間となった。それと同時に呪文が完成し、区画をひとつまるごと聖別する。それが《ハロウ/清浄の地》の効果だ。ゾンビやスケルトンといったアンデッドは特に陽光の下での活動に弊害があるわけではないが、聖別された空間を嫌ったかのようにその圧が減じていく。騎乗した聖騎士達の集団がその逃げ散る敵を追撃し、勢力圏を確保すると次の術者がさらなる《ハロウ/清浄の地》の詠唱に取り掛かる。

この儀式呪文は発動に24時間を必要とするが、一度発動すればその効果は1年間継続する。呪文の詠唱を続ける術者は設えられた神輿のような台座で儀式を行っているが、これはただのはったりではなく意味があってのものだ。霊体系の敵に地中から奇襲されて詠唱を妨害されないよう、地面とはある程度の距離を離す必要があるのだ。他にも呪文行使可能な高位のアンデッドが《テレポート》などで強襲してくる可能性などもあり、特に手練れの聖騎士達が儀式場の周囲を固めている。ヴァラクの霊廟を片付けた俺は、慌ただしく次の儀式の準備を行っているその場所へと近づいていくと顔なじみへと声を掛けた。


「司祭アストラ、少しお時間をよろしいでしょうか」


そうやって話しかけたのは重装の板金鎧を身に纏った女騎士だ。魔法で鍛えられたミスラルの上から特殊鋼による装飾がされており、胸部には蒼炎をあしらったプレートが嵌め込まれている──『忠義の砦』と称される、教会に対して大きな貢献をなしたものに与えられる強力なマジックアイテムだ。それに身を包んだ彼女はゲームのプレイヤーとしてもなじみ深い存在で、教会に対する貢献が深まれば様々なアイテムを融通してくれるという点でお世話になったものだ。


「トーリ殿か。こちらもひと段落したところだ。まったく、いくら倒してもキリがない。まるでこの世の死者全てを相手にしているかのようだよ──」


重装の頬当てから僅かに覗く表情には、やはり疲れが見て取れる。肉体的な疲労は呪文で取り除くことが出来たとしても、精神的なそれは同じようにはいかない。特に呪文の使い手であれば睡眠が不可欠だ。半日後に行われる戦闘に向けて、彼女もこれから交代で休憩を取るのだろう。


「皆さんが地上を抑えていただいているおかげで私の仕事は順調ですよ。報告にあった死霊術士の霊廟を一つ片付けておきました」

「そうか、それは有難い! 後背からアンデッドに挟撃されては厄介だからな、これで今夜の戦いも後顧の憂いなく進められるだろう。

 早速その霊廟内にも《ハロウ》執行の術者を送るように手配しておこう」


彼女の言伝を受け、従兵が駆けていった。早速術者を手配してくれるのだろう。なにせ儀式に24時間必要なうえに、今はこの墓地区画の地上を覆うのに大部分の司祭が動員されている。勿論予備人員もいるのだろうが、《ハロウ》を行使できるほどの術者となればそれなりの役職についているのが当然だ。その差配をするのも簡単ではない。

しかし、シルヴァーフレイム教会の層の厚さには驚嘆させられた。《ハロウ》は《レイズ・デッド/死者の復活》と同じ信仰第五階梯の呪文であり、クレリックであれば9Lvが必要だ。それだけの術者を10名以上同時に結界の展開に動員しつつ、押し寄せるアンデッドの波に対抗する前線を支えるだけの戦力を十分に維持している。大半はNPCクラスであるウォリアーであるとはいえ、装備や練度は高水準であり指揮を行っているのは優れた聖騎士達だ。《リング・オヴ・ストームズ》での戦いを経たことで、集団としての戦力はこのストームリーチでも頭一つ抜けた存在になっている。コーヴェアにおける教会の在り方を否定している以上、ここでドライデンが政治に関わろうとはしないだろうが強力な同居人を抱えることとなったストーム・ロード達の動きが心配だ。特にこの墓所での作戦行動には所有者であるオマーレン家の意向が大きく働いているはずで、大司教の彼らの間でどのような取引が成されたのかは気になるところだ。

実際のところ、今回の作戦に置いても大デレーラが葬られている墓所は俺は立ち入りが禁じられている。丘の地表部分には墓もなく、内部についてはオマーレン家が代々管理をしているので問題ないという話だ。俺の知る未来の展開では大デレーラに関わるチェイン・クエストもあるのだが、今のところその兆候は見て取られない。むしろこの墓地の霊廟を全て浄化してしまえば予防できるだろうと考えている。そういう意味でも、このシルヴァーフレイム教会による試みは俺にとっても有益なものなのだ。


「それではトーリ殿、また今晩に会おう。教会は貴殿の働きにひどく感銘を受けており、共に働く機会を楽しみにしているものも多い。

 近づきつつある暗闇に対抗して戦うには、強い信念を持った君のように勇敢な者達の力が必要だ。引き続きよろしく頼むよ」


そういって一旦の別れを告げた司祭から離れ、暁光で照らされた墓地の大門を潜って自宅への道を歩く。閑静な住宅街であるこの区画は、陽が昇り始めたこの時間帯はまだ静寂に包まれている。酒場兼宿屋となっている店舗が空気の入れ替えのために大きく窓を開け、店内の清掃を開始しているのが唯一の例外だ。近隣の住民としてすっかり顔なじみとなった店主とあいさつを交わし、朝市の仕入れ品からのおすそ分けを頂戴するとその果実を平らげる頃にはもうわが家へと到着だ。

敷地を示す黒鉄の支柱の高さは3メートルほどだが、姿を消したシャウラに替わって番を行う2体のアイアン・ゴーレムの姿はそれらよりさらに高く、その肩口から上を覗かせている。実際の戦闘力は兎も角、不心得者が受けるプレッシャーとしては随分なものだろう。その横を通り過ぎ、玄関の扉を開けようとしたところで俺の横にふわりと影が降り立った。


「おかえり──その様子だと怪我はなさそうだね」


その正体は勿論ラピスだ。彼女がシルヴァーフレイムからの依頼を受けるはずもなく、ここしばらくはメイと二人で秘術の研究にかかりきりだがどうやら今朝は出迎えに来てくれたようだ。その間子供たちの面倒はほぼエレミアが一手に抱えており、彼女たちはローテーションで留守の間の警戒も行っているのだが今の時間帯はラピスの担当だったのだろう。


「アンデッドの巣穴を一つ潰しただけだからな。俺が留守の間こっちにも特に異常はなかったみたいで何よりだ」


実際のところ、今日はお互いが様子見の状態だろうと考えている。墓地の奥から送り込まれてくるゾンビは統制も取れておらず、おそらくは死霊術士がアンデッドとして作り上げた後に制御を放り出してしまった烏合の衆に過ぎない。弓を射かけてくるスケルトン・アーチャーやゾンビに隠れて襲ってくるグールが厄介ではあるが、レイスなどの非実体クリーチャーはまだ出現していない。デレーラ墓地の奥には市民権を持たない者や犯罪者の遺体が葬られる『ペニテント・レスト』という区画があるのだが、どうやら大量のゾンビはそこから墓地へと送り込まれているらしい。《ハロウ》の展開のため、そこまで進んだ時こそが正念場になるだろうというのが俺とアストラの共通認識だ。

そこにいる死霊術士の事は既に明らかになっており、生前はデスシャドウと名乗っていたムーンシャドウ・ライトフットという名のハーフリングだ。実はこのハーフリングはご近所さんであったのだが、禁じられた住宅地での死霊術研究──アンデッドの作成──を行っている罪で犯罪者となり俺が討伐したという経緯がある。その際に遺体は証拠の一環として引き渡したのだが、今や悪霊となって蘇り、デスシェイドと名乗って生前の研究を墓地の奥深くで続けているというわけだ。

そこまで判っていれば俺が突っ込んで退治してしまえばそれで済む話ではある。だが実際にそれを行わないのはそこまでの仕事を求められていないことに加え、シルヴァーフレイム教会の成長に水を差したくないからだ。俺がゾンビをいくら倒しても経験値にはならないが、彼らが倒せば成長につながる。無論、犠牲は出るだろうがそれを判断するのはドライデンの役割だ。どうにもならない事態であれば声を掛けてくるだろうし、そうなれば手を貸すつもりはある。

ラピスは教会が気に食わないかもしれないが、善の勢力が成長することはこの街の治安向上に役立つ。常に留守番役を置いておくことが出来ない以上、不心得者が出ない環境作りは必要だ。一定水準以上の相手に通用しないのは仕方がないが、そういった例外はどこにいても避けられない。そして治安が向上すれば人口が増え、流通が増えれば様々なアイテムの入手が手軽に行えるようになる。このエベロンでも最大規模の都市であるシャーンとまではいかないにしろ、このストームリーチには発展してもらいたいものだ。


「何、また何か悪巧みでもしてるのかい?」


隣を歩くラピスがこちらを覗き込むようにして話しかけてくる。まったく見当違いも甚だしい。悪事を働くなんてことは、死後のことを考えれば恐ろしくて出来たものではないのだ。


「何、皆が平穏で無事に暮らせますようにって考えてただけさ。ラピスも嫌いじゃないだろ? そういうの」


軽口を交わしながら玄関をくぐる。そう、実際のところそれが出来るのであれば一番なのだ。


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