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No.12354の一覧
[0] ゼンドリック漂流記【DDO(D&Dエベロン)二次小説、チートあり】[逃げ男](2024/02/10 20:44)
[1] 1-1.コルソス村へようこそ![逃げ男](2010/01/31 15:29)
[2] 1-2.森のエルフ[逃げ男](2009/11/22 08:34)
[3] 1-3.夜の訪問者[逃げ男](2009/10/20 18:46)
[4] 1-4.戦いの後始末[逃げ男](2009/10/20 19:00)
[5] 1-5.村の掃除[逃げ男](2009/10/22 06:12)
[6] 1-6.ザ・ベトレイヤー(前編)[逃げ男](2009/12/01 15:51)
[7] 1-7.ザ・ベトレイヤー(後編)[逃げ男](2009/10/23 17:34)
[8] 1-8.村の外へ[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[9] 1-9.ネクロマンサー・ドゥーム[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[10] 1-10.サクリファイス[逃げ男](2009/10/12 10:13)
[11] 1-11.リデンプション[逃げ男](2009/10/16 18:43)
[12] 1-12.決戦前[逃げ男](2009/10/22 06:15)
[13] 1-13.ミザリー・ピーク[逃げ男](2013/02/26 20:18)
[14] 1-14.コルソスの雪解け[逃げ男](2009/11/22 08:35)
[16] 幕間1.ソウジャーン号[逃げ男](2009/12/06 21:40)
[17] 2-1.ストームリーチ[逃げ男](2015/02/04 22:19)
[18] 2-2.ボードリー・カータモン[逃げ男](2012/10/15 19:45)
[19] 2-3.コボルド・アソールト[逃げ男](2011/03/13 19:41)
[20] 2-4.キャプティヴ[逃げ男](2011/01/08 00:30)
[21] 2-5.インターミッション1[逃げ男](2010/12/27 21:52)
[22] 2-6.インターミッション2[逃げ男](2009/12/16 18:53)
[23] 2-7.イントロダクション[逃げ男](2010/01/31 22:05)
[24] 2-8.スチームトンネル[逃げ男](2011/02/13 14:00)
[25] 2-9.シール・オヴ・シャン・ト・コー [逃げ男](2012/01/05 23:14)
[26] 2-10.マイ・ホーム[逃げ男](2010/02/22 18:46)
[27] 3-1.塔の街:シャーン1[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[28] 3-2.塔の街:シャーン2[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[29] 3-3.塔の街:シャーン3[逃げ男](2012/09/16 22:15)
[30] 3-4.塔の街:シャーン4[逃げ男](2010/06/07 19:29)
[31] 3-5.塔の街:シャーン5[逃げ男](2010/07/24 10:57)
[32] 3-6.塔の街:シャーン6[逃げ男](2010/07/24 10:58)
[33] 3-7.塔の街:シャーン7[逃げ男](2011/02/13 14:01)
[34] 幕間2.ウェアハウス・ディストリクト[逃げ男](2012/11/27 17:20)
[35] 4-1.セルリアン・ヒル(前編)[逃げ男](2010/12/26 01:09)
[36] 4-2.セルリアン・ヒル(後編)[逃げ男](2011/02/13 14:08)
[37] 4-3.アーバン・ライフ1[逃げ男](2011/01/04 16:43)
[38] 4-4.アーバン・ライフ2[逃げ男](2012/11/27 17:30)
[39] 4-5.アーバン・ライフ3[逃げ男](2011/02/22 20:45)
[40] 4-6.アーバン・ライフ4[逃げ男](2011/02/01 21:15)
[41] 4-7.アーバン・ライフ5[逃げ男](2011/03/13 19:43)
[42] 4-8.アーバン・ライフ6[逃げ男](2011/03/29 22:22)
[43] 4-9.アーバン・ライフ7[逃げ男](2015/02/04 22:18)
[44] 幕間3.バウンティ・ハンター[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[45] 5-1.ジョラスコ・レストホールド[逃げ男](2011/09/04 19:33)
[46] 5-2.ジャングル[逃げ男](2011/09/11 21:18)
[47] 5-3.レッドウィロー・ルーイン1[逃げ男](2011/09/25 19:26)
[48] 5-4.レッドウィロー・ルーイン2[逃げ男](2011/10/01 23:07)
[49] 5-5.レッドウィロー・ルーイン3[逃げ男](2011/10/07 21:42)
[50] 5-6.ストームクリーヴ・アウトポスト1[逃げ男](2011/12/24 23:16)
[51] 5-7.ストームクリーヴ・アウトポスト2[逃げ男](2012/01/16 22:12)
[52] 5-8.ストームクリーヴ・アウトポスト3[逃げ男](2012/03/06 19:52)
[53] 5-9.ストームクリーヴ・アウトポスト4[逃げ男](2012/01/30 23:40)
[54] 5-10.ストームクリーヴ・アウトポスト5[逃げ男](2012/02/19 19:08)
[55] 5-11.ストームクリーヴ・アウトポスト6[逃げ男](2012/04/09 19:50)
[56] 5-12.ストームクリーヴ・アウトポスト7[逃げ男](2012/04/11 22:46)
[57] 幕間4.エルフの血脈1[逃げ男](2013/01/08 19:23)
[58] 幕間4.エルフの血脈2[逃げ男](2013/01/08 19:24)
[59] 幕間4.エルフの血脈3[逃げ男](2013/01/08 19:26)
[60] 幕間5.ボーイズ・ウィル・ビー[逃げ男](2013/01/08 19:28)
[61] 6-1.パイレーツ[逃げ男](2013/01/08 19:29)
[62] 6-2.スマグラー・ウェアハウス[逃げ男](2013/01/06 21:10)
[63] 6-3.ハイディング・イン・ザ・プレイン・サイト[逃げ男](2013/02/17 09:20)
[64] 6-4.タイタン・アウェイク[逃げ男](2013/02/27 06:18)
[65] 6-5.ディプロマシー[逃げ男](2013/02/27 06:17)
[66] 6-6.シックス・テンタクルズ[逃げ男](2013/02/27 06:44)
[67] 6-7.ディフェンシブ・ファイティング[逃げ男](2013/05/17 22:15)
[68] 6-8.ブリング・ミー・ザ・ヘッド・オヴ・ゴーラ・ファン![逃げ男](2013/07/16 22:29)
[69] 6-9.トワイライト・フォージ[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[70] 6-10.ナイトメア(前編)[逃げ男](2013/08/04 06:03)
[71] 6-11.ナイトメア(後編)[逃げ男](2013/08/19 23:02)
[72] 幕間6.トライアンファント[逃げ男](2020/12/30 21:30)
[73] 7-1. オールド・アーカイブ[逃げ男](2015/01/03 17:13)
[74] 7-2. デレーラ・グレイブヤード[逃げ男](2015/01/25 18:43)
[75] 7-3. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 1st Night[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[76] 7-4. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 2nd Day[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[77] 7-5. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 3rd Night[逃げ男](2021/01/01 01:10)
[78] 7-6. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 4th Night[逃げ男](2021/01/01 01:11)
[79] 7-7. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 5th Night[逃げ男](2022/12/31 22:52)
[80] 7-8. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 6th Night[逃げ男](2024/02/10 20:49)
[81] キャラクターシート[逃げ男](2014/06/27 21:23)
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[12354] 6-7.ディフェンシブ・ファイティング
Name: 逃げ男◆b08ee441 ID:e6fdff55 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/05/17 22:15
我が家へと帰った俺はまずメイの準備済みの呪文の中から持続時間が長いものを皆に付与して貰い、その上でマジックアイテムを使用してこれまでに使用した呪文を再準備してもらった。本来であれば呪文を用意するのに必要な8時間の休息と1時間の準備時間を、"パール・オヴ・パワー"と呼ばれるアイテムを大量に投入することでスキップしたのだ。使用済みの呪文と同一の呪文が再準備されるだけとはいえ、メイが日ごろ準備している呪文は汎用性の高いものが中心であるため戦闘力の維持という点では問題ない。同様にラピスにも呪文付与に協力してもらう。これから先はいつ戦闘に突入してもおかしくない。それを前提に最大の戦闘力を確保すべく行動したのだ。

《スクライ・トラップ》により念視を妨害し、さらに《マインド・ブランク》などで占術などへの対策を行なっていたために先ほどの戦闘の情報を呪文で探ることは出来ない。だがバグベアの部隊のうち何体かはその近衛の証である"ロイヤルガード・マスク"に付与された《テレポート》の呪文で離脱していたことから、マインド・フレイヤー達がバラーネクの敗北を知って動き出すのにそう長い時間はかからないだろう。

どうしてそこまで敵の攻撃を警戒しているのか? その理由はメイがバラーネクを封じた竜晶にある。《トラップ・ザ・ソウル》の媒介となったこの巨大なカイバー・ドラゴンシャードを、敵は取り返そうとするはずなのだ。竜晶を破壊すればその中に封じ込められたバラーネクを開放することが出来る、というのがまず一つ。そして次の理由は『この竜晶の持ち主は封じ込められている存在に対して、開放を条件に一つの奉仕を要求できる』というものだ。

その権利を行使すればバラーネクは開放される。だがその代償として、例えば彼らの秘密をバラーネクから聞き出すことが出来るのだ。猊下と呼ばれたイスサランに並ぶことを許されていたバラーネク。彼はおそらく彼らの組織の企みや拠点など、秘匿しなければならない重要な情報を多く握っているだろう。その漏洩を防ぐためにマインド・フレイヤー達はこの竜晶を早急に俺から奪う必要がある、ということだ。

これはバラーネクの重要性を図る試金石でもある。それが重要であればあるほど、彼らは必死になって奪還あるいは破壊を試みるだろう。逆に泰然と無反応であるならば、あのウリサリドは彼らにとってそこまでの存在だということになる。

だが俺は襲撃の可能性は高いと踏んでいる。それはバラーネクの持つ情報だけではなく、マインド・フレイヤーという種の社会構造そのものに因る。『秩序にして悪』という属性を持つ彼らの文化は典型的な階級社会だ。それは激しい出世競争が繰り広げられていることを意味する。そんな中で、イスサランに重用されていたであろうバラーネクが失態を見せる──これは競争相手から見て相当の好機に映るはずだ。何も竜晶によって命令を出すことが出来るのは封印を行った術者に限られるわけでもないし、バラーネクに勝る能力を有していることを示すために手っ取り早い手段は彼を破った俺を倒し、竜晶を奪うことだからだ。

俺達がマインド・フレイヤーに対する戦闘準備を一週間かけて整えていたのと同様に、彼らも俺についての情報を集めている。《メタファカルティ/天眼通》のパワーだけではなく、呪文で変装したオーガ・メイジが街に入り込んで動き回っていたことは確認済みだ。それはハザディルの裏切りによって失った拠点の調査なども役割ではあるのだろうが、俺についても調査を行なっていたであろうことは間違いない。

既にこの屋敷のことは知られていると考えたほうが良い。そしてバラーネクの敗北を知ってから《天眼通》を使用したのであれば間もなくそのパワーが効果を表す時間になる。であれば俺の現在位置を知ることとなり、即座に攻撃が開始されてもおかしくない。彼らの優先順位によってはウォーフォージド・タイタンの防御フィールドを限定的にとはいえ中和することのできるラースとアマルガムを襲う可能性もある。だが念のため彼らとは念話のラインを結んでおり、何かが起こればすぐに連絡が来ることになっている。思考する暇も与えられずに一瞬で二人が無力化されれば打つ手はないが、そうでない限りは援護に駆けつけることは出来る。

万全とはいかないが、出来うる限りの手は尽くしているつもりだ。その努力はどういう形であれ、間もなく結果を迎えることになる。かつてない緊張に包まれながら、俺は傾きつつある太陽を屋敷の上から眺めていた。








ゼンドリック漂流記

6-7.ディフェンシブ・ファイティング








「……来たか」


夜明けにはまだ遠い、真夜中といっていい時刻。月と星が雲に覆われ、光の差さない夜の街は漆黒で塗りつぶされたかのように真っ暗だ。そんな中、屋敷の屋根の上で竪琴を片手に待機していた俺の知覚が敵襲を察知した。我が家はストームリーチ北部の街壁の外沿いに建てられており、少し街から離れればコロヌー河の支流に橋が架かっている。その橋を構成する大きな石のブロックを、毛むくじゃらの足が擦る音が聞こえてくる。その数は一つや二つという単位ではなく、数十といったものだ。さらには特徴的な呼吸音も聞こえてくる。ワイルドマン──マインド・フレイヤーの哀れな奴隷たちが、監督役であるオーガとオーガ・メイジに追い立てられるようにして橋を渡っているのだ。

人間というよりはチンパンジーに近い外見で、手には思い思いの武器(主として棍棒など)をもった彼らはナックルウォークで近づいてくる。本来であれば彼らはレストレス諸島にて一部が奴隷化されながらも特定の区画に隠れ潜んでおり、クエストを受けにくるプレイヤーを待っているはずだった。鉱山で強制労働させられているワイルドマンたちを解放する《スレイヴァー・オヴ・ザ・シュリーキング・マイン》は、ドロップするユニークアイテムで一時期人気があったクエストであり、俺もソロやグループで周回したものだ。だがマインド・フレイヤーたちの行動が何手も先に進んでいるこの世界では、諸島はその全てが制圧済みと考えるべきだろう。

そしてそんな目立つ集団はもちろん陽動であり、敵の本命は他にある。俺が察知した風の音の乱れは何者かが大気の流れに逆らって空中を進んでいる証。それはバグベアの暗殺者たち。彼らはコルソスで塔の周囲を飛んでいたとき同様、《フライ》の呪文かそれに類するマジックアイテムの助けを借りて空を移動してきたのだ。おそらくは地上に目を引き付けておき、彼らが空中から二階や屋根から侵入するというのが本命なのではなかろうか。呪文による範囲攻撃によって撃滅されることを避けるため、転移により周辺の空中から出現しお互いに一定の距離を保ちながら接近してきている。もっとも近いバグベアが敷地に到達するまで20秒ほどか。

屋内で待機している皆が迎撃に出るよりも、空中を飛んでくるバグベア達が屋敷に取り付くほうが早い。地上の敵襲を察知して瞬間移動などで逃げようとすれば、その時にはすでに屋敷に取り付いているバグベアのヴォイド・マインドによる《ディヴァート・テレポート》──コルソスの会議室に突入してきたリランダー氏族の護衛が使用した瞬間移動能力を捻じ曲げたあのパワー──で俺たちの瞬間移動を捻じ曲げ、逆に包囲網の只中に放り込むことも出来ると考えているのだろう。

そしてその策は俺が敵襲を察知した今もなお有効だ。暗天に黒い豆粒のように浮かぶ点の数は俺の想定をはるかに超えていた。その全てを接近前に撃墜することは不可能だろう。引きつけてから一気に呪文で撃滅しようにも、全周から接近してくるバグベア全てを攻撃範囲に巻き込むことはできないからだ。だが少しでも数を減らすべきであることは間違いないし、そのためには少しでも攻撃に時間を割くべきだ。屋根の影に身を潜めていた俺は手にしていた竪琴を弓へと持ち替えると、背中の矢筒から引き抜いた矢を立て続けに空中のバグベアへと撃ち放った。額に吸い込まれるように炎矢を突き立てられた不運なニンジャたちは《フライ》の制御を失ってゆっくりと下降していきながら炎上していく。奇襲が察知されていたことにバグベア達が気付き、飛行を加速させる。そうやって《スコーチング・レイ》の射程に踏み入ったバグベアが熱閃を浴びて蒸発するも、矢と呪文で20ほどのバグベアを落としてもまだ敵は半分以上が健在だ。闇夜に毛深い種族がヴォイド・マインドであるかどうかを見分けることが困難な以上、1体でも残っている限り安心はできない。

そしてその対空迎撃の間にも、地上からの敵が迫っていた。駆け寄ってきたワイルドマン達がそのままの勢いで跳躍し、その長い腕を活かして敷地を囲む3メートルほどの高さの鉄杭に取りつき、するすると器用によじ登り始めたのだ。そしてたちまちに数体が敷地内へと飛び降り──そして両断された。いつの間にか鉄杭の向こう側に現れていた巨大な蠍──シャウラが、侵入者が空中で晒した無防備な胴体をその前肢の鋏で捕えたのだ。

攻撃の直前までその存在を気付かせない隠形は、生物には欠かせないはずの呼吸などが一切不要な人造ならではの特徴によるものだけではない。この蠍はまるで水の中を泳ぐように土の中を移動する。それは穴を掘り進むのではなく、固体であるはずの土砂を液体であるかのように通り抜ける"地潜り"という能力によるものだ。さらに蠍種特有の振動感知能力により、どれだけ足音を殺そうと地面に接して近づく存在をシャウラが見逃すことはない。この屋敷への侵入を試みた哀れな盗賊たちがただの一人も生還しなかった原因である冷徹な狩人。アダマンティンの装甲が夜の暗闇よりもなお暗く輝き、ワイルドマン達に無慈悲な裁きを下す。

シャウラの大きく広げられた両前肢の鋏に圧倒され、ワイルドマン達がその動きを止めた。たとえ恐怖で縛られていようとも、その生存本能を脅かすほどの威容を前にして野人たちの体が前に進むことを拒否したのだ。それは一時的なものでしかないが、それで十分だった。アダマンティンの装甲が夜の闇に溶ける。眼前の脅威が幻のように消え去ったことで、今度はワイルドマン達に混乱が生じる。支配が恐怖を打ち負かし、数に任せて目的を果たそうと思った瞬間に蠍が消え去ったのだ。立て続けに起こる状況の変化に再び動きが止まり、そして次に絶叫が木霊した。

地中を高速で移動したシャウラが彼らの足元から襲い掛かったのだ。巨大な鋏を備えた前肢が薙ぎ払うように弧を描き、その範囲内にいたワイルドマン達をひとまとめに擂り潰した。圧倒的な重量差とその巨体を支える筋力により、鋏の刃で切断するまでもなくその付け根である腕部分で殴打された野人たちがその肉体を破砕されたのだ。

もちろん、監督役であるオーガ・メイジたちも黙って見ているわけではない。呼吸を合わせて放たれた多数の《ファイアー・ボール》が夜の闇を吹き飛ばすような音と閃光を発生させる。周辺のワイルドマンをも巻き込んだ呪文攻撃だ。アダマンティンの分厚い装甲で包まれた鉄蠍を物理攻撃で撃破することは困難と察し、使い捨ての奴隷を撒き餌に呪文を打ち込んだのだろう。たしかに爆発の煙が晴れた時、そこには蠍の姿は無かった。だがそれは魔法で破壊されたのではない。爆発に紛れ姿を消し、"地潜り"によってシャウラはオーガ達の足元へと移動していたのだ。

最初の犠牲者に選ばれた哀れなオーガ・メイジがその体を両断された。その鋏の射程に囚われた侵入者達は自らの辿る運命をその肉塊に見る。だが訓練を積んだオーガ達は怯まない。シャウラの攻撃手段はその前肢の鋏と、尾による三つ。ならば3体が犠牲になっている間に倒せばよいのだ──そんな結論に達したオーガ達は、呼吸を合わせて一斉に攻撃を開始した。《ディスインテグレイト》などの高位呪文を行使しようとしたものもいる。

だがその一切を、鉄蠍は容赦なく刈り取った。縦横無尽に振るわれた前肢と尾は、一度攻撃を受けた対象を捕らえるやまるで吸い込むように獲物をその体の下へと放り込んでいく。体格差・質量差を活かしたグラップル。いくら膂力に優れた種族であろうとも、10トンを超える鉄蠍に抑え込まれては逃げようもない。さらにシャウラはフィアがそうであるように、呪文使いの天敵でもある。瞬間移動などの呪文行使すら許すことなく、その腹の下に大量のオーガ達を抱え込んだシャウラはそのまま地面へと潜っていく。地中移動能力のないオーガ達がああやって引きずり込まれれば、たとえ組み付きから逃れることが出来ても身動きすることは出来ず、一方的に刻まれるだけだ。最終的に肉片と化した犠牲者の成れの果ては排水に紛れてコロヌー河へと落とされ、海へと流れていくことになるだろう。

地上をシャウラが制圧している一方で、空を駆けるバグベアを相手取った俺はついに敷地内への侵入を許していた。矢と火閃に狙われずにたどり着いたバグベア達が着地し、そしてそのうちの数体から思念波が放たれ、現実を侵食していく。ヴォイド・マインドが至近距離まで辿り着いたのだ。解呪や攪乱のパワーが幾重にも乱れ飛ぶ。その数はバラーネクの手数を上回る。間違いなく複数体の寄生主がこの場に干渉している。

そのうちの一種のパワーが虚空から白い虚構の物質塊を創造し、俺の視界を塞いだ。《ウォール・オヴ・エクトプラズム》だ。視線と効果線を遮ることで俺の行動を封じる、あるいは時間稼ぎをするつもりか。周囲を埋め尽くす体積という物量に対して手にした武器で立ち向かうのはあまりにも効率が悪い。そうやって呪文リソースを消耗させようというのも敵の策の内だろうが、他に手はない。《ファイアー・ボール》による火炎と《ライトニング・ボルト》による雷撃が周囲の空間を焼き焦がしエクトプラズムを虚無へと還す。だがその一手を放つ刹那の時間の間に、脳喰らい達は万全の体制を整えていた。吹き散っていく白い虚無に代わって眼前に立ちふさがったのは黒鉄の巨体、"ウォーフォージド・タイタン"──それも二体だ。

こちらの対抗策であるアマルガムとドーセントによるバリア無効化が使用回数に制限があり、再使用までに数日を要することを脳喰らい達はまだ知らないのか、それとも知ったうえでなおも念には念を入れてということなのか。屋敷の正面を通る道路と、庭の敷地を占有するかのように現れた巨人兵達は鉄の咆哮をあげると、屋根の上の俺目がけその巨大なハンマーを同時に振り下ろした。

一部の付与呪文が解呪されてはいるものの、位置関係上挟撃されているわけでもないその攻撃を俺は容易に回避することができる。だが常であれば例え回避したとしてもそのハンマーは屋敷を押しつぶし、粉々に粉砕しただろう。だがその鉄塊が屋根へと激突した瞬間、建物全体が激しい音に震えたかと思うとその攻撃を跳ね返した! タイタンの肩関節が反動を受けて金属の擦れ合う甲高い音を立て、上体を通してその反動を受け流すと今度は対手の巨大なミキサーを叩き付けてきた。だが結果は変わらない。鉄にも満たない強度しか有さないはずの屋敷の屋根と壁面は、音こそ派手に鳴らすものの傷一つなく存在し続けている。だが不自然なのはそれだけではない。あれほどの巨体が動き回れば、地下港がそうであったようにその体重を受け止める地面は荒れ果ててしまうはずだ。だが普段カルノ達が訓練で使用している柔らかい土の庭はウォーフォージド・タイタン達の突撃によっても全く普段通りの様子だ。

それはこの建物の建築時に使用した竪琴、"ライア・オヴ・ビルディング/建造物の竪琴"の効果によるものだ。特定の和音を鳴らすことで、この竪琴は周辺90メートル以内のすべての建造物に対する攻撃を無効化するという能力を有しているのだ。それは破城槌のような物理的なものから《ディスインテグレイト》のような呪文までをも対象とする、非常に強力なもの。建造物を作成する能力も考慮すれば、防衛戦においてこれほど頼りになるアイテムはそう存在しない。

建造物を破壊できない以上相手は扉や窓といった出入り可能な部分から侵入せざるを得ず、勿論厳重に施錠されたそれらを開錠するには時間がかかる。そして妨害する俺を排除するしかない──そう考えたのであろう敵の動きは、さらに俺へと集中することとなった。次々と橋を渡って姿を現すオーガ、そして空中に転移で現れるバグベア達。彼らの中に潜むヴォイド・マインドから放たれる思念波が周囲を埋め尽くし、俺に残されているアイテムや防御呪文の効果を抑止しようとしてくる。そのうえで複数のタイタンにより俺を処理し、じっくりと屋敷の攻略をしようというのだろう。あるいは誰かが俺を助けるために扉から出てくるのを待っているのかもしれない──だがそれはこちらの思惑通りの行動だ。


『獲物は皆蛸壺に入った。前回抜け駆けした罰だね、トーリには悪いが今回はこっちで全部平らげさせてもらうよ』


『それは悪かったな。こっちは連中の残した大げさな玩具を片付けて待っているよ、さっさと済ませてしまおう』


ラピスからの《センディング》が近傍の影を媒介に俺へと届き、俺の応答がその影に吸い込まれるように消えると同時に攻勢へ移る雄たけびをあげる。


「さあ、狩りの時間だ!」


俺のその声を受けて、街壁の上に潜んでいたエレミアが姿を現した。ヴァラナーの剣士の本質は狩人である。その極致に至っている彼女の技術は剣のみにとどまるものではない。完全に気配を殺し、敵の意識から逃れていた彼女は雲の切れ間から覗く月を背に跳躍すると、俺を包囲するように集まっていたタイタンの1体の頭部へと舞い降り手にした剣を振るう。一呼吸おいてそのタイタンを足場にするように蹴り付けると、次のタイタンへと舞い斬り降りた。跳躍とともに振るわれたその刃は、かつてザンチラーの防護を切り裂いたのと同様にウォーフォージド・タイタンのバリアをも切り裂いていく。エレミアが俺の隣に着地するまでに振るわれた攻撃の数は16。バリア破壊に加えてタイタンを切り裂いた斬撃により、巨人兵の胴体から装甲が剥がれ落下していく。内部の構造までもが切り裂かれたことで紫電が溢れている、むき出しとなったその部位へ俺は用意していた攻撃呪文を解き放った。

炎と電撃がお互いを増幅させながら閃光となって突き刺さる。三本一組となった《スコーチング・レイ》の呪文式が四つ同時に起動され、熱閃はそれぞれが正三角形の頂点を保持しながらもえぐり込むようにウォーフォージド・タイタン達の胴体へと潜り込み、炸裂した。閃光と爆音が視覚と聴覚を塗りつぶし、肌に伝わる衝撃が触覚をもあやふやにするほどの破壊がまき散らされる。だが強化された肉体により、そういった感覚のブレは一瞬で消えていき俺の視覚は煙の向こうに崩れ落ち、スクラップとなった巨大な人造の姿を捉えた。それと同時に、再びラピスからのセンディングが届く。


『獲物は3匹、全部予定通りに処理完了したよ。歯応えのないったらありゃしない。これじゃかえって不完全燃焼だね』


『そいつは悪かったな。思う存分腕を振るってもらう機会はもうちょっと先に用意してあるんだ、次の機会まで待っていてくれ』


どうやら彼女たちのチームは首尾よくミッションを片付けたようだ。こちらもまだ周囲に残党が残っているものの、エレミアとシャウラが踊るようにその武器を振るえばあっという間に全員がその首を断たれて崩れ落ちていく。俺が矢や呪文で処理したバグベアはその攻撃に付与されている魔法属性によって焼却され跡形すら残っていないが、エレミア達によって倒されたオーガらはその骸を晒したままだ。切り裂かれた首からは大量の血が流れ出て、周囲には血臭が立ち込めている。巨人種族であるオーガの体から流れ出る血液の量は人間とは比較にならない。屋敷の前の道は薄い星明りに照らされて黒く染まっており、このままでは夜明けとともに凄惨な光景が現れるに違いない。

だがシャウラがそういった遺体を抱えて地中へと沈んでいく。付近の地下構造のひとつには、ごみ処理を兼ねた警備として知性あるアティアグ──主に地下に住まう、清掃生物──の群れを住まわせている区画がある。おそらくはそこまで運んで行ってくれるのだろう。彼らは雑食ではあるものの新鮮な肉を好物としており、今回の獲物は喜んで受け取ってくれるだろう。あとは地表に流れ落ちた大量の血痕だが、これは屋敷から水を流して一気に道の反対側に流れるコロヌー河まで押し流してしまうしかないだろう。それでも気になるようであれば後ほどシャウラに地表比較の土を攪拌しておいてもらえばいいだろう。

さらなる敵襲を警戒しつつも、そうやって事後処理のことを考えていた俺が張り巡らせている結界から転移反応が届く。その座標と転移数はあらかじめ打ち合わせをしている通りのものだ。念のため数種の呪文を待機させておいた俺の目の前にラピスとメイ、そしてフィアがアストラル界を経由した瞬間移動により姿を現す。彼女たちはそれぞれの手に大きな"カイバー竜晶"を手にしている──これが今回の戦利品、こちらの思惑通りに攻め寄せてきたうえでバラーネク同様に《トラップ・ザ・ソウル》により囚われた哀れなマインド・フレイヤー達のなれの果てだ。


「馬鹿な連中ばかりだね、最後の一瞬まで自分たちがハメられたことに気付いていなかったみたいだよ。

 あらかじめ言われてなけりゃあの間抜け面を穴だらけにしていたところさ。

 でもまあそのお楽しみは連中の本拠地に乗り込む時までとっておくことにする──あんまり待たせないでくれよ?」


そういってラピスが放り投げるように竜晶を渡してくる。彼女たちは街壁に伏せていたエレミアとも違う別働隊として動いていた。それはマインド・フレイヤーの強力な能力であり、端末であるヴォイド・マインドの特性を逆手にとったものだ。寄生主達がその端末を経由して超能力を行使するには条件がある──それは端末から一定距離内にいなければならない、というものだ。

別口のヴォイド・マインド擁するマインド・フレイヤーとの戦いに備えて、俺は自宅周辺の地下を中心とした完全な地図を完成させていた。そしてその中でマインド・フレイヤー達が指揮所として利用するであろう箇所にあらかじめ目星をつけておいていたのだ。さらにハザディル襲撃後にストームリーチに侵入したオーガ・メイジなどの敵斥候を追跡し、彼らの得た情報をこちらでも把握しそのうえである程度の情報操作なども行っておいた。それにより敵襲時にそこに来るであろうマインド・フレイヤーを隠密に長けたラピス達に待ち伏せさせた、というわけだ。

事前にどれだけ強力な超能力による防壁を展開していようとも、ラピスとフィアの《魔法的防護貫通》はそれを無力化する。そのうえでメイがザンチラーの置き土産である《呪文連鎖化》の効果を有するロッドによって拡大された《トラップ・ザ・ソウル》を発動させることで敵を一網打尽にしたというわけだ。急場しのぎの作戦だったのは確かだが、結果として大きく天秤をこちら側に傾けることが出来た。日ごろから周辺の地下部分などを探索・管理していたのは自宅周辺の治安向上だけではなく、こういった状況に備えるためでもあったのだ。その活動が功を奏したというわけだ。

今回襲撃してきたマインド・フレイヤーは3体。俺の知る"トワイライト・フォージ"の知識が正しいのであれば、敵対している脳喰らい達の数は11。残りは7体、今日1日で3分の1を撃破したことになる。今回撃破した"ウォーフォージド・タイタン"からドーセントが回収できればラースとアマルガムによるタイタンの無力化はさらに順調に進むだろう。
さらに今回彼らに頼らずともタイタンを撃破可能であると示したことがマインド・フレイヤー達を縛る鎖となる。《アストラル・プロジェクション》やヴォイド・マインドを利用することで安全圏だと思っていた自分たちの戦術が万全ではないことを彼らは知ることとなった。もはやバラーネクがいったようにコーヴェアの主要都市をタイタンで攻撃するなどといった行為に彼らが出るとは考え難い。タイタンを動かすためには彼らが超能力を使用する必要があり、それが俺たちに捕捉されれば自分たちが捕縛される危険性を彼らが認識したからだ。

さあ、これからがこちらの攻撃の番だ。要塞に閉じこもって震えているであろうマインド・フレイヤー達に引導を渡す。その時が間近に迫ってきているのだ。


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