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No.12354の一覧
[0] ゼンドリック漂流記【DDO(D&Dエベロン)二次小説、チートあり】[逃げ男](2024/02/10 20:44)
[1] 1-1.コルソス村へようこそ![逃げ男](2010/01/31 15:29)
[2] 1-2.森のエルフ[逃げ男](2009/11/22 08:34)
[3] 1-3.夜の訪問者[逃げ男](2009/10/20 18:46)
[4] 1-4.戦いの後始末[逃げ男](2009/10/20 19:00)
[5] 1-5.村の掃除[逃げ男](2009/10/22 06:12)
[6] 1-6.ザ・ベトレイヤー(前編)[逃げ男](2009/12/01 15:51)
[7] 1-7.ザ・ベトレイヤー(後編)[逃げ男](2009/10/23 17:34)
[8] 1-8.村の外へ[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[9] 1-9.ネクロマンサー・ドゥーム[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[10] 1-10.サクリファイス[逃げ男](2009/10/12 10:13)
[11] 1-11.リデンプション[逃げ男](2009/10/16 18:43)
[12] 1-12.決戦前[逃げ男](2009/10/22 06:15)
[13] 1-13.ミザリー・ピーク[逃げ男](2013/02/26 20:18)
[14] 1-14.コルソスの雪解け[逃げ男](2009/11/22 08:35)
[16] 幕間1.ソウジャーン号[逃げ男](2009/12/06 21:40)
[17] 2-1.ストームリーチ[逃げ男](2015/02/04 22:19)
[18] 2-2.ボードリー・カータモン[逃げ男](2012/10/15 19:45)
[19] 2-3.コボルド・アソールト[逃げ男](2011/03/13 19:41)
[20] 2-4.キャプティヴ[逃げ男](2011/01/08 00:30)
[21] 2-5.インターミッション1[逃げ男](2010/12/27 21:52)
[22] 2-6.インターミッション2[逃げ男](2009/12/16 18:53)
[23] 2-7.イントロダクション[逃げ男](2010/01/31 22:05)
[24] 2-8.スチームトンネル[逃げ男](2011/02/13 14:00)
[25] 2-9.シール・オヴ・シャン・ト・コー [逃げ男](2012/01/05 23:14)
[26] 2-10.マイ・ホーム[逃げ男](2010/02/22 18:46)
[27] 3-1.塔の街:シャーン1[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[28] 3-2.塔の街:シャーン2[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[29] 3-3.塔の街:シャーン3[逃げ男](2012/09/16 22:15)
[30] 3-4.塔の街:シャーン4[逃げ男](2010/06/07 19:29)
[31] 3-5.塔の街:シャーン5[逃げ男](2010/07/24 10:57)
[32] 3-6.塔の街:シャーン6[逃げ男](2010/07/24 10:58)
[33] 3-7.塔の街:シャーン7[逃げ男](2011/02/13 14:01)
[34] 幕間2.ウェアハウス・ディストリクト[逃げ男](2012/11/27 17:20)
[35] 4-1.セルリアン・ヒル(前編)[逃げ男](2010/12/26 01:09)
[36] 4-2.セルリアン・ヒル(後編)[逃げ男](2011/02/13 14:08)
[37] 4-3.アーバン・ライフ1[逃げ男](2011/01/04 16:43)
[38] 4-4.アーバン・ライフ2[逃げ男](2012/11/27 17:30)
[39] 4-5.アーバン・ライフ3[逃げ男](2011/02/22 20:45)
[40] 4-6.アーバン・ライフ4[逃げ男](2011/02/01 21:15)
[41] 4-7.アーバン・ライフ5[逃げ男](2011/03/13 19:43)
[42] 4-8.アーバン・ライフ6[逃げ男](2011/03/29 22:22)
[43] 4-9.アーバン・ライフ7[逃げ男](2015/02/04 22:18)
[44] 幕間3.バウンティ・ハンター[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[45] 5-1.ジョラスコ・レストホールド[逃げ男](2011/09/04 19:33)
[46] 5-2.ジャングル[逃げ男](2011/09/11 21:18)
[47] 5-3.レッドウィロー・ルーイン1[逃げ男](2011/09/25 19:26)
[48] 5-4.レッドウィロー・ルーイン2[逃げ男](2011/10/01 23:07)
[49] 5-5.レッドウィロー・ルーイン3[逃げ男](2011/10/07 21:42)
[50] 5-6.ストームクリーヴ・アウトポスト1[逃げ男](2011/12/24 23:16)
[51] 5-7.ストームクリーヴ・アウトポスト2[逃げ男](2012/01/16 22:12)
[52] 5-8.ストームクリーヴ・アウトポスト3[逃げ男](2012/03/06 19:52)
[53] 5-9.ストームクリーヴ・アウトポスト4[逃げ男](2012/01/30 23:40)
[54] 5-10.ストームクリーヴ・アウトポスト5[逃げ男](2012/02/19 19:08)
[55] 5-11.ストームクリーヴ・アウトポスト6[逃げ男](2012/04/09 19:50)
[56] 5-12.ストームクリーヴ・アウトポスト7[逃げ男](2012/04/11 22:46)
[57] 幕間4.エルフの血脈1[逃げ男](2013/01/08 19:23)
[58] 幕間4.エルフの血脈2[逃げ男](2013/01/08 19:24)
[59] 幕間4.エルフの血脈3[逃げ男](2013/01/08 19:26)
[60] 幕間5.ボーイズ・ウィル・ビー[逃げ男](2013/01/08 19:28)
[61] 6-1.パイレーツ[逃げ男](2013/01/08 19:29)
[62] 6-2.スマグラー・ウェアハウス[逃げ男](2013/01/06 21:10)
[63] 6-3.ハイディング・イン・ザ・プレイン・サイト[逃げ男](2013/02/17 09:20)
[64] 6-4.タイタン・アウェイク[逃げ男](2013/02/27 06:18)
[65] 6-5.ディプロマシー[逃げ男](2013/02/27 06:17)
[66] 6-6.シックス・テンタクルズ[逃げ男](2013/02/27 06:44)
[67] 6-7.ディフェンシブ・ファイティング[逃げ男](2013/05/17 22:15)
[68] 6-8.ブリング・ミー・ザ・ヘッド・オヴ・ゴーラ・ファン![逃げ男](2013/07/16 22:29)
[69] 6-9.トワイライト・フォージ[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[70] 6-10.ナイトメア(前編)[逃げ男](2013/08/04 06:03)
[71] 6-11.ナイトメア(後編)[逃げ男](2013/08/19 23:02)
[72] 幕間6.トライアンファント[逃げ男](2020/12/30 21:30)
[73] 7-1. オールド・アーカイブ[逃げ男](2015/01/03 17:13)
[74] 7-2. デレーラ・グレイブヤード[逃げ男](2015/01/25 18:43)
[75] 7-3. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 1st Night[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[76] 7-4. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 2nd Day[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[77] 7-5. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 3rd Night[逃げ男](2021/01/01 01:10)
[78] 7-6. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 4th Night[逃げ男](2021/01/01 01:11)
[79] 7-7. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 5th Night[逃げ男](2022/12/31 22:52)
[80] 7-8. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 6th Night[逃げ男](2024/02/10 20:49)
[81] キャラクターシート[逃げ男](2014/06/27 21:23)
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[12354] 幕間4.エルフの血脈2
Name: 逃げ男◆b08ee441 ID:38d1799c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/08 19:24
ストームリーチ・クロニクル

王国暦998年 ニムの月 第一週号

街に来た若い冒険者で、皆にトーリと呼ばれている奴のニュースを覚えているだろうか?

彼らのパーティーの仕事は迅速で強力だ。南方遥か彼方のジャングルで救出作戦を成功させた帰り道、窮地に陥った嵐薙砦で巨人達を追い払うのに大きな役割を果たしたと聞く。

徐々にその噂は広がり、一般大衆から果てはコインロード、ドラゴンマーク氏族までもが注目し始めているらしい。

先日コルソス航路の開放に活躍したパーティーにインタビューした際、彼についてのコメントをもらったのでそれを紹介しよう。

「俺はトーリが、びた一文持たず岸に打ち上げられた時のことを覚えている。最初はどこにでもいる、ただのヒューマンにしか見えなかったよ」

「肩を並べて戦ったのは実際には数回にすぎないのですが、彼の働きなしでは我々も無事ではいられなかったでしょう」

「彼のこの地での活躍に、私たちの教えたことが少しでも役立っていれば嬉しいわ」

毎度おなじみストームリーチの見回り人、キャプショー・ザ・クライアーがお送りした!

著:キャプショー・ザ・クライアー











ゼンドリック漂流記

幕間4.エルフの血脈2











巨大な雪洞で2体の強力なクリーチャーが向かい合っている。神秘に彩られた叡智の守護者、ホワイトドラゴンと地下の暗闇で脳を啜り他者の精神を喰らって糧とするマインドフレイヤー。


「心を操る寄生虫め、私を解放しろ! これは予言書がいう私の役目ではないぞ!」


ホワイトドラゴンが唸るように挙げた声は雪洞を揺るがし、その響きに打たれて雪片が舞い落ちる。心弱いものであれば恐怖にかられて心が折られてしまうであろう威厳を有したその声に、しかし超越者たる精神の支配者は臆せず自らの持つ念波を放って白竜に服従を強いる。


──服従せよ、お前は逆らえぬ。今や汝の運命は予言書ではなく、この私が支配しているのだ


その体躯は禍々しいことを除けば人間の大人と変わらぬ大きさに過ぎない。だがそこから発される思念波は凡百の人間を何万人と集めたものより強力であり、大気を震えさせるほどの影響力をもってドラゴンへと浴びせかけられた。雪片が渦を巻いて打ち付けられ、竜は苦しげにその頭部を振って抵抗する様子を見せている。噛み締められた牙が折れるほどに力を込め抗うその姿は、想像を絶するエネルギーのやり取りが交わされていることを想起させる。

一方で巨竜と異形がそうやってお互いの意思を戦わせている雪洞へと、密かに忍び寄る影があった。彼らこそは敵中深くまで送り込まれた必殺のナイフ、悪神の信徒や召喚された悪鬼を打ち倒してここまで辿り着いた精鋭の冒険者達だ。既に疲弊の極地にあった彼らだが、最後に残された力を銀炎の象徴であるロングボウへと注ぎこみ、矢を放つ。

教会の祝福を受けた矢は銀色の尾を引いて空を駆け、狙い過たずマインドフレイヤーの背後に浮かんでいた紫色の巨大なクリスタルへと突き立った。鏃から吹き出した清浄なる炎はそのクリスタル──"マインドサンダー"に走った亀裂をさらに押し広げ、破砕する。


馬鹿な! 神秘の精髄たる我が秘石が打ち砕かれるなど──


破砕音に振り返ったマインドフレイヤーは、その捉え難い異形の表情ですらわかりやすいほど歪めて驚愕を露わにした。そしてその行動は両者の間の均衡を崩すに十分な隙となった。マインドサンダーが破壊されたことで自分の意思を取り戻したホワイトドラゴンが、その顎から憎しみとともにブレスを吐き出したのだ!


「カイバーになど帰さぬ、貴様はここで朽ちるがいい!」


白竜の口内に刻まれた魔法陣が威力を増幅し、直線上に放たれたその凍てつく吐息は振り返ったマインドフレイヤーを包み込むとその全身を一瞬で氷結させた。極低温へと塗り替えられたその氷像は、やがて周囲の大気との温度差に自らの構造を維持しきれなくなって砕けていく。それを見届けたホワイトドラゴンは、冒険者たちのほうを一瞥するとその大きな翼を広げて飛び立った。

竜が山から立ち去ると、積もっていた雪が光の欠片となって飛び散っていく。露出した地表には既に新緑の芽が出ており、木々も次々とその葉を広げていく。氷のドラゴンをマインドフレイヤーの支配から開放したことで、島が緑を取り戻したのだ。

冒険者を送り出した村からもその様子は見えている。仲間の勝利を確信した村人たちは勝鬨をあげ、押し寄せていたサフアグンの軍勢を海へと押し返していく。既に島の周囲を囲んでいた流氷は溶け崩れており、その周囲で待機していた救援の船が次々と村の港へと入港していく。ついに島を封鎖していた邪悪なカルトは追い払われたのだ。




† † † † † † † † † † † † † † 




幻術によって演出された舞台が大喝采の後に幕を降ろす。現実と見紛う精緻な描写をされたモンスター達は今までの常識を覆すクオリティであり、観客をその迫力で圧倒していた。シャーンの《メンシス》上層にあるここ"アート・テンプル"は格式で言えば"カヴァラッシュ・ホール"に劣るものの、流行の最先端を行く前衛的な芝居をかけることで有名な劇場だ。そこで封を切られたこの"コルソスの雪解け"はまさにその舞台に相応しい圧倒的な表現力を魅せつけてくれた。

そしてその演出に負けず、登場したキャスト達の熱演も舞台を盛り上げていた。カーテンコールに応えて舞台に上がった人の群れの中央には厳しい訓練を積んだのであろうレダの姿がある。他にもソウジャーン号で見た顔が何人も並んでいることからすると、あの客船に載っていたメンバーはよほどの精鋭ぞろいだったのだろう。

元々フィアラン氏族から分派したチュラーニ氏族は同じ芸術を表の家業としながらも、どちらかといえばそれは美術・造形方面へと偏っており芸能面では遅れをとっているとされていた。だがドラマや物語を主眼においた作品が多い中、派手なアクションや画期的な映像表現で観客の目を惹きつけて離さない演出は流行の最先端たるシャーンに間違いなく新風を吹き込んだだろう。今回のこの演劇は特別製の"イメージ・プロジェクター"と呼ばれる記録装置に収録されており、今後手頃な価格で様々なシアターで上映されることになる。いくつかのクラシックスタイルを旨とする劇場では受け入れられないだろうが、今日のこの反響を見れば心配は不要だろう。

拍手の音は俺がいる貴賓席でも響きわたっていた。どうやらこの席に座っている階層の観客にもこの演目は気に入ってもらえたようだ。隣に座っていたリナールも立ち上がって拍手をしながら、その周囲の様子を見回して何度も首肯している。責任者としてこの日まで監督を行なってきた彼にとっては、肩の荷が降りただけではなくこの反響を受けて舞い上がらんばかりの気持ちなのだろう。


「おめでとう、リナール。どうやら大成功といって良い結果に終わったみたいだな」


俺がそういって差し出した手を、リナールは力強く握り返してきた。そこに篭められた力から彼の感謝の気持ちが伝わってくるようだ。


「ありがとう、トーリ! これも君の協力のお陰だよ。本当に大変なのはこれからだが、今は初回公演が無事に終わったことを祝おう」


彼はそう言って、他の客への挨拶へと向かっていった。それを見送って俺もようやく一息つける。正直なところ、俺もこの作品が受け入れられるかは半信半疑なところもあったのだ。オペラや演劇が中心の時代にSFXを駆使した映画をぶち込んだようなものであり、ひょっとしたら全く受け入れられずに終わるかもしれないとさえ考えていた。だがその心配は杞憂だったようだ。このコーヴェアの人たちは普段からメイジライトやアーティフィサー、そしてフィアラン氏族のカーニバルなどで幻術自体を目にする機会が多くこういった演出を受け入れる素地が出来ていること、さらにそういった演出に負けないだけの演技をレダを始めとした舞台俳優たちが魅せつけてくれたこと。その結果が今もまだ鳴り止まないこの万雷の拍手に現れているのだ。

俺がしたことといえば大まかなストーリーを脚本担当に聞かせたこと、そして演出担当の幻術使い達に対してクリーチャーについての情報を伝え、精緻で迫力のある再現ができるように指導したことくらいだ。それを立派な芸術作品に仕上げたのはリナール率いるスタッフ達の努力の賜物だ。

早いもので俺がコルソス島に流れ着いてから半年ほどの時間が過ぎている。当時の俺にはこんなことになっている今の自分のことなどはとても想像できていなかっただろう。舞台に目をやると、降ろされたカーテンに島から出港する船の映像が映し出されている。それは勿論ソウジャーン号だ。実際にはストームリーチで行われた改修をこの時点で反映されたその姿は、勿論この公演を見た客からの予約を当て込んでの広告を兼ねている。超一流の豪華客船、そしてこの公演との縁もある曰くつきの船ともなれば刺激に飢えているシャーンの富裕層からの食いつきは十分に期待できるだろう。だが俺の心に湧き上がるのは感慨深さだ。徐々に小さくなっていくコルソスの風景はある意味俺のこの世界での原風景と言っていい。

そうやって感傷に浸っている間に拍手は鳴り止み、周囲は歓談へと移っていた。まだ日が沈んでそれほどの時間が経過していない頃だ。おそらくはこれから飛行ゴンドラに乗って雲の上のレストランで夕食、という人たちが多いのだろう。ありふれたシャーンの夕刻、だがそこを彩る話題に新しい芽としてこの舞台の事が登る。それが街中へと広がるのもそう遠いことではないだろう。そんな考えを巡らせていた俺の元へ、リナールが戻ってきた。後ろにエルフの男性を一人連れている。仕立ての良い黒い革のコートが薄暗い照明のもとでその輪郭を霞ませている──抑止状態ではあるが、おそらくはディスプレイサー・ビーストを素材とした品だろう。勿論相当な高級品であり、それを身に纏っている人物がそれなりの地位にいることを教えてくれる。


「トーリ、紹介するよ。こちらが我らが家長であらせられるエラン・ド=チュラーニ男爵閣下だ。閣下にも今回の公演を気に入っていただけてね。

 脚本に演出にと協力してくれた君に是非お礼したいということなんだ」


リナールに紹介されたその男性に俺は驚きを隠せなかった。エラン・ド=チュラーニと言えばチュラーニ氏族を率いる氏族のトップで、かの「影の大分裂」を引き起こした当事者、間違いなく歴史を動かしたキーパーソンの一人なのだ。コーヴェアを覆う幾重もの影、そのうちひとつは間違いなく目の前のこの人物の手によるものだ。突然のVIPの登場に俺は慌てて向き直り、一礼を返した。


「お目にかかれて光栄です、男爵閣下。ですが私は少々舞台に口を挟んだに過ぎません。

 賞賛の言葉は是非私の妄言を形にした演出と俳優の皆へとおかけください」


俺の言葉に、その黒衣のエルフは僅かに口元を歪めた。その細い瞳と相まって氷の微笑とでも呼ぶに相応しい表情だ。


「聞いていた通りの人物のようだな。そんなに畏まる必要はない、私と君との間には特に上下などなく対等の存在なのだから。

 それに今は私が礼を述べる時なのだ。それはこの舞台のことだけでなく、原作となった島での事も含めてだ。君の活躍は聞いている。

 私の家族が卵のまま凍てつくことなく、こうして飛翔の時を迎えることが出来たのは君の助けによるところが大きいのだろう。

 我々の一族は年若い氏族ではあるが、恩知らずではない。君が必要とした時には、我々が必ず援けに向かうだろう」


そうやって差し出された手を握り返した。紡がれた言葉は確かに丁寧なものであったが、その真意は深い影に覆われて一切察することができない。やはり氏族の家長ともなれば一筋縄ではいかない実力者のようだ。紹介されていたデータでは9Lvのローグ/ドラゴンマーク・エアだったと記憶しているが実際にはもう少し高いレベルを有しているのだろう。かろうじてわかるのは、こうしたやり取りをしながらも相手もこちらのことを探っているということだろうか。相手にもそのことは伝わっているのだろう、エラン男爵は再び口元を歪めると手を引いた。


「冒険者としてだけではなく、芸術方面にも優秀な人物というのは得難い人材だ。よければこれからもリナールと一族を支えて欲しい。

このあとの祝賀会には私は参加できないが、是非楽しんでいってくれ。リナール、後のことは任せたぞ」


そう言ってエラン男爵は踵を返した。その背後を守るように4体の影が現れ、まるで漣のように影へと溶け消えていく。その背中を見送ってこちらに身を寄せたリナールが呟く。


「ふむ、どうやら男爵は君のことを気に入ったようだな。紹介した甲斐があったというものだ」


どうやらリナールには先程のやり取りが好印象に映ったようだ。実際のところどう思われているかは不明だが、今のところ俺はチュラーニ氏族に害となるばかりか益を与える存在のはずだ。これからも友好的な関係を維持したいと思っているし、特段マークされるようなことはないだろう。なにせ相手は世界規模の諜報・暗殺組織のトップなのだ。接触が避けられないのであれば友好的に振る舞うに越したことはない。


「そうだと嬉しいんだがね──雲上人の考えることは俺にはわからんさ。さて、挨拶回りが終わったのなら次の会場に行こうじゃないか。

 料理の方は期待していいんだろう、リナール?」

「勿論だとも! せっかくシャーンに来たんだ、ストームリーチでは口にする機会もないような料理を是非堪能していってくれ給え!

 私としてはこれに味をしめて、ずっとシャーンに定住してくれても構わないんだがね」

そんな軽口を叩き合いながら、俺達は"アート・テンプル"を後にする。この後は近くのホテルを借りきって、公演に関わった内輪のメンバーだけでの打ち上げが行われるのだ。この公演については連日は行わず、話題が浸透するのを充分に待ってから第二回を行うこということで暫くはオフの日が続くことになっている。実際には数日後から再びレッスンの日々になるのだろうが、それまでは彼女たちにとってもつかの間の休日というわけだ。そのため今晩は全員、翌日を気にせず楽しんで欲しいと事前に言われている。そんなわけで俺はまだ会場にも到着していないのに既に出来上がった感のあるリナールと共に、飛行ゴンドラに乗り込んで次の目的地へと向かったのだった。




† † † † † † † † † † † † † † 




瞼を開けるとそこは薄暗い室内だった。窓に大粒の雨が打ち付けている様子が見えるが、防音がきちんとしている室内までその音が届くことはない。昨晩は夜遅くまで起きていたため十分な睡眠を取った今はそれなりにいい時刻のはずだが、分厚い雲に遮られて日光が届かないために現在時刻を空模様から測ることは出来そうもない。頭を巡らせてヘッドボードの上に置かれた時計を見やると、最後に見た時からぴったり6時間が経過している。どれだけ深酒をしても心身に影響が出るほど酔うことはなく、軽い酩酊感を感じる程度に収まる上に翌日に酒が残ることはないというのはつくづく便利なものだと自分の体のことを思う。

ベッドからゆっくりと起こした俺がシャワーを浴びて身支度を整え、リビングルームに戻るとそこには既にレダの姿があった。きっちりと身支度を整えた様子で、キッチンで作業をしているようだ。網目が粗く体にフィットしたノースリーブで長いニットに、レギンスを合わせている私服姿だ。黒い肌着に包まれたボディラインがニット越しに眩しく存在を主張しているその姿はまさに眼福だ。俺がソファに腰掛けると彼女はコーヒーを注いだカップを俺の前に置き、そのまま隣へと滑りこむように座った。


「おはよう、レダ」


彼女の方へ向き直ってそう尋ねると、彼女は柔らかく微笑んで首を振った。


「おはようございます、トーリ様。そろそろお目覚めになるころと思っていました。

 じきに朝食が届くように手配しておきました。ディオネ達が戻ってくるまで少々お待ちいただけますか」


「ありがとう。それじゃあここで待たせてもらおうかな」


そう返して彼女が淹れてくれたコーヒーに手を伸ばす。奇しくもソウジャーン号で毎朝頼んでいたものと同じ銘柄のようだ。ちなみにディオネというのはソウジャーン号ではプールで水球などを行なっていた際に俺の面倒を見てくれた中の一人だ。瓜二つの三人組だと思っていたが、どうやら彼女たちは正真正銘三つ子のエルフだったらしい。多産とはいえないエルフの中では極めて稀なことのように思える。

上からレア、ディオネ、ティティスという彼女たち3人の見分けをつけるのはかなり困難な仕事だ。なにせ顔だけでなく仕草や癖などといったものまでほぼ同一といっていいほど似通っているのだ。その三つ子という特性のおかげか、彼女たちの息のあったコンビネーションは見事なものだ。例えば昨晩の公演ではオージルシークスなどの巨大な幻術は一人の術者で表現できる範囲を超えているが、彼女たちは呼吸を合わせることでひとつなぎのクリーチャーとして観客に見せることに成功している。頭部から尻尾の先、翼の端に至るまでを一体として他の術者と共に操ることは俺にも出来そうもない。紛れもなく彼女たちも昨晩の成功の立役者の一人だと言える。

他にも昨晩の公演では演出の大部分を幻術で行うなど従来の演劇よりも圧倒的に多い人的資源を投下している。背景から音響に至るまで、俳優の演技以外の大部分は《マイナー・イメージ/初級幻像》等の呪文によって行われているのだ。この能力の持続時間は精神集中の続く限りというものであるが、だからといって何十分も精神集中を維持し続けることは術者にとっても相応の負担となる。特に静止した背景などではなく、大きなアクションを伴うクリーチャーを制御していた担当者たちは相当な精神的疲労があったのかもしれない。

それでもエルフという種族特性は、人間の睡眠よりも短い時間の"トランス"で体調を取り戻す。その差は一日あたり2時間でしかないが、彼女達はその時間を修練に当てる。寿命の長い種族が、さらに多くの時間を費やしたその技術の完成度の高さは言うまでもなく人間よりも高い。このコーヴェアで芸術など幅広いジャンルでこの種族が高い評価を受けているのも当然なのだろう。

そんな彼女たちは"エキスパート"と呼ばれるNPCクラスではないかと思っていたのだが、皆が技能系のクラスを成長させているようだ。俗にPCクラスと呼ばれるそれらの職業はそれだけでも特別な意味を持つ。1レベルのウォリアー(NPCクラス)と1レベルのファイター(PCクラス)を比較すれば、後者は前者の2倍程度の脅威と考えられる。前者がどこにでもいる兵士であるのに対し、後者は英雄の素質を持つものとして定義されているのだ。彼女達も今はまだ未熟ではあるが、今後成長することで氏族の精鋭としての役割を高めていくだろう。そしてそれは上役であるリナールが有力者として地位を挙げていくことに繋がる。情報屋としてのチュラーニ氏族の能力は疑うまでもない。"タイランツ"とは友好的な関係を築いているが、彼らだけに情報源を頼るのも危険だ。信頼出来るソースは多いに越したことはない。

懸念事項として、チュラーニ氏族は同じ"影のマーク"を有するフィアラン氏族と敵対関係にあるという点が挙げられる。俺がチュラーニ氏族に近づきすぎることは、フィアラン氏族との距離がそれだけ離れることを意味するのだ。こればかりはどうすることもできない問題である。

そもそもこのライバル関係にある2つの氏族は、元々は一つの氏族として纏まっていたのだ。その起源は4千2百年前に遡る。その頃、タレンタ平原のハーフリングに"歓待のマーク"が生じたのと時を同じくしてエアレナルのエルフに"死のマーク"と"影のマーク"が出現した。"死のマーク"はヴォル家に、そして"影のマーク"はティレン、ショル、エロレンティ、ペリオン、そしてチュラーニといった複数の家系に現れたのだ。

ドラゴンと戦争しているエルフの中に突然現れた"竜の予言書"に関わる神秘。その本質は不明ながらも、仇敵であるドラゴン達との関わりを示すその刻印は同胞であるエルフ達から疑惑の目で見られることとなる。それ故にヴォル家が同胞の手によって滅ぼされようとした時、フィアラン氏族がエアレナルから脱出したのは当然の帰結ともいえる。

それから長い間をかけ"五つ首のヒュドラ"と呼ばれるこの氏族はコーヴェアの人間文明の中で強い影響力を持ち続けていた。だが今から30年ほど前、王国歴972年にその頭同士が激しい衝突を起こす。それが"影の大分裂"──昨晩面会したエラン男爵が引き起こした歴史の転換点だ。

最終戦争のさなかチュラーニ家が毒蛇の牙を向き、同じフィアラン氏族を構成する主流血統の一つ、ペリオン家のその悉くを皆殺しにしたのだ。突然引き起こされたその凶行に対し、当時の氏族長はチュラーニ家全員を"皮剥ぎ"──ドラゴンマークを剥ぎ取り、能力を剥奪した上で氏族から除名するドラゴンマーク氏族における追放刑──に処すと宣言。だがエラン卿はそれに反発、刑に服することを拒否して新しいドラゴンマーク氏族を立ち上げたのだ。これが第二の"影のマーク"の氏族、チュラーニ氏族の興りである。

その原因となった殺戮の理由は今もなお謎に包まれており、エラン卿は現在に至っても自らのその行為が私欲ではなくフィアランは元より全ドラゴンマーク氏族に対する忠誠のなせるわざであるとの主張を変えていない。様々な陰謀論が語られる中、確かなのは滅んだ"死のマーク"の一族に代わって13番目のドラゴンマーク氏族が誕生したということだけだ。いまやフィアラン家とチュラーニ家はお互いの顧客を奪い合うライバル同士であり、規模で劣る新興のチュラーニは同じく歴史の浅い氏族であるタラシュク氏族と提携して各地で影響力を高めている。

一方でフィアラン氏族は失った勢力を取り戻さんと新しい活動を始めている。それはダーグーンのホブゴブリンとの提携によるゼンドリックの開拓だ。この砕かれた大地に住む現住のゴブリン種族をコーヴェアのゴブリン種族の国家"ダーグーン"へと取り込むことで、現地種族と傭兵契約を結んで現地で戦力を調達するタラシュク氏族へと対抗しようとしているのだ。彼らは軍隊を率い、ストームリーチを越えた位置に開拓村を築きながら現地部族の吸収に励んでいる。

それは時に流血を伴う激しいものだ。反発する現地部族がフィアラン氏族のエージェントを拉致・監禁する事件も起きており、特にストームリーチから近い"タングルルート渓谷"に住まうホブゴブリンの部族とは激しい戦闘が散発的に行われていると聞く。元は風光明媚な観光地として、あるいは秘薬の原料となる貴重な植物の群生地として知られていた土地だが、今や周辺のトログロダイトなどの部族も巻き込んでの紛争地帯と化している。無用心に出歩いた旅行者は放たれた狼に噛み殺されるか、奴隷狩りに捕まってしまう運命を辿ることになるだろう。

この地に纏わるクエストはゲームの中にも存在し、経験点効率が良いことで有名だった。俺も育成用のキャラで何週も駆け抜けるようにクリアを繰り返していたことを覚えている。だが今の俺のチュラーニ氏族との関係がそのクエストに干渉することを躊躇わせる。うまく天秤の均衡を維持したまま両氏族と友好的な関係を築ければそれが最良なのだが、果たしてそんな立ち回りが出来るのか、そしてそれが必要なことなのか、といった点で悩んでいるのだ。

現在の俺のストームリーチでの立ち位置は当然だがチュラーニ氏族寄りということになる。ゲームではフィアラン氏族に関する依頼を受けることが多かったため、これは俺のアドバンテージである知識の前提を覆しかねない状況だ。だがこの点に限っては問題ないと俺は判断している。

現状、ストームリーチにおいてドラゴンマーク氏族の中で最も大きな勢力として考えられるのはタラシュク氏族だ。彼らはその"発見のマーク"を使用してドラゴンシャードだけではなく貴重な鉱石などの採掘事業をゼンドリック北部で広く展開しており経済的にコインロードたちにとって欠かせないパートナーである上に、現地部族を取り込んだ傭兵部隊によりデニス氏族と並ぶ戦力を有している。このタラシュク氏族がゲームでは端役でしか登場しておらずストームリーチに確固たる拠点を築いていなかったという時点で、ドラゴンマーク氏族関連の知識は当てにならないと考えたのだ。

そのタラシュク氏族とはエンダックを通じていくつか仕事の斡旋を受けており、彼は既にストームリーチ周辺の複数部族と氏族の責任者として契約を結ぶなど、安全地帯となったセルリアン・ヒルの再開発に欠かせない人物となっている。本人の義に篤い人柄もあり、氏族の窓口としては信頼のできる人物だ。そのライバルであるデニス氏族との関係はストームクリーヴ・アウトポストの件で良好なものとなったし、ジョラスコ氏族とは相変わらず蜜月といっていい関係にある。そしてチュラーニ氏族との関係については言うまでもないだろう。他の氏族とは特に特筆すべき関係はないが、それでも一介の冒険者の後ろ盾としては十分すぎるほどのコネクションと言っていい。

またフィアラン氏族は確かにチュラーニ氏族と競争関係にあるが、攻撃的なチュラーニと異なってその方針は"バランス"だ。均衡を保つことを旨とする彼らは過激な行動を避ける傾向があり、ある意味信頼出来る相手であると考えられるのだ。そして何よりチュラーニ氏族には"ドラゴンの道"と呼ばれる"竜の予言書"の解析を行うセクションがあり、そこには歴史家や占者だけではなく、占星術師も多数在籍しているという。彼らが今まで研鑽してきた知識は、俺にとっては喉から手が出るほど欲しいものだ。今はまだ無理でも、俺が冒険者として名を挙げていけばいずれそういった人物からのコンタクトがあることは充分に期待できる。コルソス島での巡り合わせもあったとはいえ、俺がチュラーニ氏族との関係を重視するのはこういった意図があってのことなのだ。


「ただいま戻りました!」


リビングでレダの手配してくれた新聞『シャーン・インクィジティヴ』を読みながらゆっくりとした朝の時間を過ごしていたのは数分ほどだろうか。外へと通じるドアが開き、そこから3人のエルフの少女たちが元気よく現れた。服装は同じだが、それぞれ違う髪型にすることで個性を出しているようだ。ハーフアップがレア、ポニーテイルがディオネ、ツーテイルがティティスだ。服装はシャツを胸元で結ぶようにして大きく開けた状態で、へそのあたりを露出した随分と大胆な格好だ。側腹から伸びた竜紋がその姿を隠しきれずにかすかに覗かせている。ストームリーチほどではないとはいえ、このシャーンも学生たちの多いメンシス上層部ではこういった服装も見かけないわけではない。


「おはようございます、トーリ様!」

「朝食をお持ちしましたよ。このホテルのモーニングブレッドはとっても評判がいいんです」


この三人は性格も同じらしく、まさに揃えば姦しいという表現がよく似合う。動きも呼吸が実に合っており、今もレダがテーブルをさっと拭いたその上に三人娘が次々と皿とバケットを並べていく。焼きたてらしいパンからは香ばしい匂いが漂い、瑞々しく輝いて見えるようなサラダ。それらを彩るのであろう多彩なジャムやドレッシングを収めた瓶に、スープをなみなみと湛えたボウル。三人がかりでワゴンで運んできただけあって、流石の分量だ。


「今朝の恵みをアラワイに感謝します──」


簡素な祈りの言葉を"ソヴリンホスト/至上の主人"の一柱である豊穣の女神に捧げ、少し遅めの朝食を開始する。ティティスお薦めのパンをまずは一口そのままで食べると、カリっとした表面に対して中はフワフワに仕上げられており、舌の上で溶けるような食感がすると共に香ばしさが溢れかえってきた。これは確かに素晴らしい一品だ。初めてシャーンに訪れた時以来、様々なレストランやホテルを巡ってはいたがその中でも最高ランクの出来栄えだ。これだけ出来のいいパンが籠に山になって盛られているのを見ると、それだけで幸せな気分になるほどだ。他の皆もすっかり気に入ったようで、次々と籠に手を伸ばしている。すっかりその味わいに魅入られた俺達は、ジャムを塗ったりサラダを挟んだりと様々な食べ方を楽しんだ。山のように盛られていたパン達も5人がかりの攻勢にあっという間に切り崩され、見る間にその姿を消していった。


「昨日の祝賀会の料理も良かったけど、この朝食はそれとは違った感じで美味しいね。紹介がないと泊まれないホテルだけあって一流の味!」

「そりゃこのシャーンの大部分の塔の所有者であるイル=テイン家が経営してるんだもの、この街でも最高峰なのは間違い無いわ」

「それだけ期待されてるってことなんだし、次の公演も頑張らないとね! そしたらまたここに来れるかも……」


まだ室内に微かにパンの香りが残る中、再びレダが淹れてくれたコーヒーを飲みながらのんびりとした時間を過ごす。イル=テイン家とはシャーンの建築に巨費を投じた一族で、この街どころかブレランド王国でも王を除けば並ぶものがないほどの財力と権勢を誇っている者達のことだ。テイン家が雲の上の街、スカイウェイを築き上げた時に当主であったシャーラ女卿は当時最高の建築家を集め、60もの家族とその従者たちが入れるような広大な宴の間と宿泊設備を建設した。それが今俺達が宿泊しているホテルなのだ。現在は月に一度"テインの饗宴"と呼ばれるパーティーがここでは行われており、そこに必ず招かれる家門を指して"シャーン六十家"と呼ぶほどだ。この宴に招かれるということは紛れも無い成功の証であり、シャーンの有力家門であることを内外に示すことになる。


「そうだな……ひょっとしたらその機会は意外とはやく訪れるかもしれないな。

 六十家や招待客以外にも、"テインの饗宴"には余興を披露する芸人達が招かれることがあるそうじゃないか。

 昨日の公演の噂は近いうちにこの街に広がり切るだろうし、リナールの方針で次回公演は当分先と来てる。

 焦らされた名家の連中が君たちを指名することは充分にありえると思うよ」


今の彼女たちの技量は、万全の状態で望めば"名人芸"レベルのパフォーマンスを可能とする技量を持ち合わせている。もう少し腕を磨けば、充分に"名演"と呼ばれる領域に達するだろう。そこまでいけば"テインの饗宴"に呼ばれる資格は充分といっていい。それぞれのドラゴンマーク氏族は家門として六十家に数えられてはいるが、チュラーニ氏族の場合出席するのは家長であるエラン男爵かその代理人だ。氏族内でそれなりの地位まで登らなければ出席することは適わないだろう。だが有力家の一門ではなく、芸術家の一人として招待されることはそれよりも近いところにあるはずだ。


「それなら私達の中で一番可能性が高いのはチーフですね。私たちは裏方だし、氏族の中じゃマイナーな家系だからなかなかそういう機会は回ってこないんですよね」

「そうかしら? 私達の公演のウリはどちらかというと貴方達の創りだす精緻で迫力のある幻術なのだし、饗宴の出し物としてもそちらのほうが好まれるんじゃないかしら」

「あー、それでまた話題作りをするっていうのはありそうですね。キャプテンはそういうのが大好きですし」

「そういえばトーリ様は昨晩の公演を貴賓室でご覧になっておられたんですよね。他にはどんな方がお見えになられてたんですか?」


ティティスの問いに、昨晩の記憶を反芻する。エラン男爵以外にも、多くの要人らしき人物が昨晩は公演を鑑賞していた。だが直接紹介されたのは男爵だけであるし、顔を見たところでそれが誰かわかるということもない。勿論情報収集の一環として近くで交わされる会話にはひと通りチェックを入れていたが、それでも名前が解ったのはほんの数人に過ぎない。


「俺が紹介を受けたのは君たちの家長、エラン男爵だけだ。

 でもリナールが何人かそれらしき人物に挨拶回りをしていたし、おそらくもう根回しは十分に行なっているんじゃないかな」


確か、セントラル上層を代表する市会議員がその中にはいたはずだ。今はまだ六十家には数えられていないものの、いつそうなってもおかしくはないと評判の人物だ。この世界の富裕層も芸術のパトロンとなることがステイタスの一種として認められており、ひょっとしたらこの議員を後ろ盾として饗宴に乗り込むと共に、彼の六十家入りをサポートするという計画があるのかもしれない。
六十家は一枚岩のグループではなく"饗宴"の間を一歩出れば互いにしのぎを削るライバル同士に他ならず、またその六十家のメンバーは入れ替わっていくものなのだ。コーヴェア最大規模の都市であるこのシャーンでの政治力はその所属する国家であるブレランドにも当然強い影響を与えるため、謀略を生業とするチュラーニ氏族にとってはまさに主戦場といえるはずだ。そこでそんな謀が進んでいてもおかしくない。


「あー、でもそうなるともっと腕を磨かないといけませんよね。万が一失敗でもしようものならどんなシゴキが待っているものやら……」


ディオネのその言葉に、三人は一斉にテーブルに突っ伏した。晴れ舞台に登る歓喜が、一転してプレッシャーに転換されてしまったようだ。


「……まあ、そうならないように精進するしかないわね。最大限のバックアップはしていただけるでしょうし、悪いようにはならないはずよ」


レダがそう言葉を掛けるも、三人の心には届かなかったようだ。顔を伏せたまま微かにうめき声を上げるその様はまるで亡者のようだ。


「氏族の一部門を代表する芸術家になろうというんだから、ある程度厳しい鍛錬があるのは当然のことだと思うんだが……

 彼女たちの指導者はそんなに厳しい人物なのか?」

「そうですね……すでに一線を退かれた方なんですが、術式の制御については我々の氏族の中でも飛び抜けて優秀な方です。

 私も師事していたことがありますし、腕に間違いはありません。ただ、この三人のいうように教育指導はかなり厳しいです──」


レダも若干その当時のことを思い出したのか、若干笑みを崩した表情でそう語ってくれた。どうやらこの4人はいわば同門ということのようだ。ソウジャーン号のクルーの中でも特に仲の良いメンバーという風に思っていたが、年が近い以外にもそういった理由があったようだ。


「なるほど……それなら俺の用事に少し付き合ってもらえないか? ちょっと付き合って欲しい所があるんだけど──」




† † † † † † † † † † † † † † 




「そっちに行ったよ! 気をつけて!」

「また!? どうして私のところにばっかり来るのよ~~」

「《熱閃》撃つわよ、カウントに合わせて距離をとって、張り付かれないようにして! 3,2,1……」

「奥から何かデカいのが来てるよ! そいつは早く片付けてあれに集中しなきゃ──」


前面で敵を受け止めているディオネの側面を、粘体とは思えない機敏さで通り抜けてレアに迫る黄土色のウーズ、"オーカー・ジェリー"。レダが焼き払うべく《スコーチング・レイ》を放ち、その体積を減じたところで二人が取り囲んで対粘体に特別な効果を発揮する棍棒を叩きつける。残った一人は周囲の警戒を行い、新たに迫ってくるクリーチャーの接近を皆に告げている。その様子は随分と手慣れたように感じられる。短期間とはいえ集中的に戦闘経験を積んだことで、彼女たちの連携も上手に機能しているようだ。

そう、ここストームリーチ地下の下水道区画で彼女たちとパーティーを組んでから今日で4日目。最初は不慣れな土地の暗がりに怯え悪臭に辟易していた彼女たちも、今ではすっかり一人前の冒険者のように戦闘を続けている。


「ちょっと、トーリ様! あれは無理! 一匹ならともかく、二匹は手に負えませんよ!?」


悲鳴のような声で前方を警戒していたレアが救難信号を発する。そちらを見れば大型のアースエレメンタルが2体、地響きを立てながら彼女たちに迫っているところだった。


「……連中の足は遅いんだから、呪文やワンドによる攻撃を加えながら距離を取り続けていれば十分勝てるんじゃないか?

俺はその奥にいるのを相手にしてくるから、手前の2体はなんとかしてみるんだ」


そういって俺は前に飛び出し、2体のアースエレメンタルの横を通り過ぎるとその影になって彼女たちからは見えていなかったであろう3体目の敵へと向かっていった。床面から体の半ばを浮かび上がらせたこの一際巨大なエレメンタルは"ランドスライド"と呼ばれる狂ったエレメンタルだ。本来ははるか古代にこの地に縛り付けられ下水の管理を役割としていたのだろうが、今はその役目を放り出し、近づくものすべてを破壊する厄介者へと成り果てている。その体は半分が地下に埋まっていてもなお手前の2体より大きい。超大型サイズといったところか。

こちらの接近を感知してか、歪な人型をとって立ち上がったその身の丈は手前の5メートルほど、重量も20トンほどはあるだろう。こういった元素そのものといった敵には急所というものが存在しないため、さすがにこの大きさともなれば一撃必殺というわけにはいかない。だがそれはあくまで『一撃』では倒せないというだけだ。大振りの一撃を掻い潜って懐に潜り込むと、その半分程度の体積が集まった胴体に向けて掌底を放つ。モンクとして鍛え上げられた身体攻撃力が予め付与された呪文術式によって増幅され、エレメンタルの肉体はまるで大巨人に張り手を食らったかのようにその体を削り取られる。打撃音が響く度に、まるでシャボン玉の塊を吹き散らすような勢いで岩が、土くれが削り落とされていく。3発を叩き込んだ時点で超重量の岩の塊はその大半を吹き飛ばされ、その体躯を維持できなくなって崩れ落ちた。そして徐々にその姿を薄れさせ、溶けるように消えて行く。

この世界における仮初の実体を破壊されたことで呪縛が解け、元いた次元界へと帰還していったのだ。

俺がそうやって敵のボスを瞬殺した一方で、残った2体の大型エレメンタルを相手取りレダと三つ子達は慎重に距離を取りながら戦いを開始していた。彼女たちにはそれなりの装備を渡してあり、正面からの殴りあいであれば3トン近い重量の岩の塊にすら競り勝てる戦力を持たせてある。とはいえそのウェイト差を活かして組み付かれてしまっては勝ち目がないため、一瞬で片をつけられない敵を相手にして慎重に間合いを測っているのだろう。


「下がりながら焼くわよ! 呪文のストックがないならワンドを使いなさい!」


レダがそういって皆を指揮し、一斉に熱閃を放つ。攻撃を集中され、急激に熱せられたことで焼け焦げた部分が次々とこぼれ落ちて行く。全員で二斉射するころには1体のエレメンタルは完全に崩れ落ちるが、その隙をついてもう一体のエレメンタルが突進を開始した。突然加速したその動きに彼女たちは対応できず、敵の間合いの内側に収められてしまう。

だがその振るわれた岩の拳を、ティティスは構えたライトシールドで見事に受け止めた。本来であればそんな盾など無視して吹き飛ばしてしまうようなウェイト差だが、このミスラル製の盾に付与された強化魔法はその攻撃の勢いを緩和し、さらに身に纏ったエルフ製のチェインシャツは腕に加わった負荷を全身に逃すことで衝撃を受け流させる。


「ハッ!」


さらに追いすがろうとしたエレメンタルの追撃を、彼女は呼気とともに飛び退ってその間合いから逃れることで回避した。二人の距離が開いたことで、誤射を恐れて待機されていた呪文による熱閃攻撃が再開される。ティティスが距離を取ることに専念したため、放たれた閃光の数は3条。それらは狙い過たず命中するが、巨大な岩塊を焼き切る事はかなわない。生き延びたエレメンタルが今度は転がるようにして突撃を開始する。単純な打撃では仕留め切れないと判断し、押し潰すつもりのようだ。だが、その単純な軌道が仇となった。巨人族の作り上げた下水道は広く、大型のアースエレメンタルが転がってきた程度で塞がれるものではないのだ。猛牛の突進をいなす闘牛士のように、ひらりとその攻撃を開始した一行は再び熱閃を放った。鈍重な岩の塊相手であれば、彼女たちの技量でも十分に命中が期待できる。全弾をその身に浴びた最後の一体は流石に耐え切れず、自らの住処である次元界へと帰還させられていった。


「ふう、一瞬危ないかと思いましたけど無事切り抜けましたね」


ティティスはそう言うとワンドを腰のホルダーに戻し、袖で額の汗を拭った。彼女たちは呪文を行使する邪魔にならないよう、最低限の防具しか身に着けていない。鎧であるミスラル製の鎖帷子は胴体部を覆っているだけであり、盾もライトシールドと呼ばれる小型のものだ。それ以上の重装備では秘術呪文を発動する際の動作を妨げることになる。素材と付与されている魔法効果で軽減するにも限度があり、これが精一杯の装備なのだ。これ以上防具を纏うと行動のテンポが一拍遅れてしまい、それが原因で呪文の制御を失敗する可能性が出る。それを嫌っての軽装備だが、その代償として敵の攻撃を捌ききれなかった場合には手痛い痛撃を受けることになるのだ。先ほどの汗は暑さだけではなく、立て続けに攻撃の対象となったによる緊張からくるものもあったのだろう。


「お疲れ様。これでこの区画も処理完了だ。この周囲を軽く調べ終えたら、あとは狩り残しがないかを確認しながら地上に帰ろうか」


彼女たちの働きを労うように小さく手を叩きながら仕事の終了を告げる。ゲームであればボスを倒せばお宝が出るものと決まっているが、生憎今回出たようなエレメンタル系のクリーチャーは財宝を貯めこむ習性を持たない。あるとすればここで連中に殺された冒険者の遺品だろうか。魔法付与などで保護がかかっていなければ朽ちてしまっているだろうが、もし何かが残っていれば逆にそれは魔法のアイテムということになる。あとは宝石や貨幣などは遺体の近くに袋詰になっていることがある。とはいえ基本的にこのエベロンではクンダラク氏族という優秀な銀行屋がいるため、冒険者といえども全財産を持ち歩くようなことがないのでそう大した量は期待できないのだが。


「ひょっとして今トーリ様が相手にしていたのが今回のターゲットだったんですか?」

「そういうこと。さあ、まだ探索していないエリアもあるんだから気を抜かずに。

 油断して帰り道で下手な怪我をしたんじゃ割にあわないからね」


そう言うと4人は再び表情を引き締め、それぞれ手分けして周囲の探索を開始した。そこには初日にあったような過度の緊張や、技量不足からくる見落としなどは感じられない。俺は内心で実験が一定の効果を示したことに満足しながら、そんな彼女たちを率いて帰路へとつくのだった。




† † † † † † † † † † † † † † 




「お疲れ様です~!」


元気の良い声とともに、エールを満たしたグラスが打ち付けられる。4日かけて3つの下水区画を踏破し、目的を達したのだ。今こうやって行なっているのはささやかな祝勝会のようなものだ。特に金銭が必要ない俺は、彼女たちに貸していた装備のうちワンドなどの消耗品を補填する金額を除いた報酬を4等分して彼女たちに渡していた。その中には下水道を探索している間に発見した戦利品の売却も含まれているため、結構な金額が彼女たちの手元には転がり込んだ事になる。


「いやー、最中は暗かったり怖かったりで色々ありましたけど、こうやってみると冒険者っていう暮らしも悪くないですね!」

「私達のお給料1年分を4日で稼いだんだものね……大勢の人たちがこの街に訪れてくるのも納得です」

「──でも、それだけの人が流入しても決して溢れたりはしていない。その分、犠牲になったり逃げ出したりしてる人が多いっていうことだよ」

「そうね、今回はトーリ様から貸していただいた装備のおかげだってことを忘れないように。

 きっと今回の稼ぎを全員分合計しても、あのお借りしていた盾一つ買えないんだから。

調子に乗って、シャーンに帰ってから地下に探検に行ったりしたら、二度と帰ってこれないわよ」


賑やかに騒いでいる彼女たちを見ながら杯を傾ける。彼女たちの言うとおり、冒険者は命の危険を代償に金貨を得る職業だ。そしてその金貨の出処は何も遺跡から発掘される遺物だけではない。むしろ同業者の残した遺品であることが殆どだ。特にこの街の下水区画のような浅い階層では既に古代文明の遺物はあさり尽くされていると見て良い。発掘が終わり無人となった区画に危険なクリーチャーが棲みついて犠牲者を産み、また討伐される──そのサイクルの中で冒険者の装備が遺され、回収して戦利品として販売され、修理されて店先に並んでは別の冒険者の手に渡る。経験が浅く、未踏破の区画に辿りつけないような若い冒険者の命を糧とした経済の循環。その中で例外的に成功を収めるか、成長したものだけがそのサイクルから逃れられるのだ。


「シャーンの深層は危険度が段違いだからお薦めはしないけど、この辺りの浅い区画なら今の皆でもそれほど無茶でもないだろうね。

 とはいえ一度不運に見舞われればそれで終わりだし、よっぽど切羽詰らない限りお勧めできないけど」


昨日まで安全だった通路が、ある日突然不気味なアンデッドや這いよる粘体の狩場に変貌することなど日常茶飯事。街の区画よりも遥かに深く広い地下構造物が外部からの侵入者を招いている。コボルドの棲家がそうだったように、外部の洞窟などに地下で繋がっているのだ。そこから何が侵入してきてもおかしくない。そういう異常を察知できる知覚あるいは占術による予知、そして危険が迫った際に逃げ延びることの出来る手段があるか否か。それらを用意できるようになって初めて安定したといえる。とはいえそれらも勿論絶対などとは言えないものだが。


「まあ私達って皆前に出るタイプじゃないですもんね。攻撃も呪文かワンドみたいな消耗するものばかりだし、冒険に向いてないのは判ってますよ」


「でも今回の実戦のお陰で、呪文の制御力は間違いなく上がってます! いまなら今まで成功しなかった呪文も発動できるかも──」


「それはそれで師匠のスパルタ訓練が正しかったってことになるんで複雑な気分ですが……」


「このことを追求されたら、それみたことかと言わんばかりに危ないところに放り込まれそうだよねー。嬉しいようで嬉しくない……」


「ははは……まあその辺の説明は任せるよ。依頼の報酬と戦利品の売却益を山分けにした金額が迷惑料ってことで勘弁して欲しい」


俺ひとりでも簡単に処理できるクエストに、わざわざこの4人に同行してもらったのには勿論理由がある。それはちょっとした実験だ。それは彼女たちを引率してのレベルアップ作業──俗にいう"パワーレベリング"──は可能か? という点を検証したかったのだ。そしてその結果は極めてYesに近い結果となった。この短期間の間に彼女たちはレベル4から6まで成長した、と俺の鑑定眼が分析している。ちょうど2日ごとに1回のレベルアップがされた勘定だ。

彼女たちの成長はまさに俺が判断した遭遇脅威度とそこから得られる経験点の仕組みに準拠していた。流石にウィザードの呪文書に呪文が浮き出るようなことはなく既に書き込まれている呪文が使用可能になるなど、レベルアップによって起こる成長についてはゲーム通りとはいかなかった。だがそれでも近似値といって良い結果だ。ケイジ達との冒険で彼らに起こった成長も同じであったことから、これはある程度共通性のある法則であると判断してよいだろう。

訓練による技量の蓄積──訓練値と呼称する──と実戦による経験点の入手のバランスについてはまだまだ検証が必要だが、この仕組を把握していれば他人のレベルアップ作業を安全かつ素早く行うことが可能になる。それは身内の戦力増強だけではなく、俺の経験点入手効率の上昇にも繋がるのだ。相手を殺さずとも気絶させることで戦闘に勝利し、経験点を入手可能なことが解っている。同じ相手を対象とした場合に獲得できる経験点は一度のみだが、相手がレベルアップなどで成長すれば再び経験点を得ることが出来るということまで検証済みだ。

これを利用すれば、カルノ達がある程度のレベルアップが可能になった時点で模擬戦の相手をこなしてもらい経験点獲得、さらにレベルを上げてもう一度……ということを繰り返すことで容易に経験点を稼ぐことが可能になる。

レベル差が8以上ある状況では戦っても経験点は入手できないが、既に街近郊の野生動物をあらかたノックダウンしてしまっている以上こういった備えは必要だ。ザンチラー1体を仲間4人で共闘して倒すのとトロル20体を一人で倒すのでは難易度的には比べるべくもないが、経験点的には等価なのだ。そういった選択肢を作っておくことは将来を見据えた上での必須事項である。


「迷惑だなんてとんでもないですよ。むしろまた機会があったらお願いしたいくらいです!」

「今まで見たことがなかった色んな生き物を実際に相手にしたわけですし、少なくとも今後の表現力を増すのにいい経験になりましたよ」

「そうですね。この先当分の間私たちはドラゴンとかを幻術で操作するのが主な仕事になるんですから、いい機会でした」


そんな俺の思惑を知らず、彼女たちは好意的な言葉を返してくれた。お互い抱えているものはあったとしても、相互を利する関係が築けているのでそれで十分だろう。目の前の彼女たちとは長い付き合いになるはずだ。願わくば、友好的な関係を続けていきたいものだ。騒がしくテーブルを囲んだ4人を眺めつつ、俺はグラスを傾けるのだった。


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