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No.12354の一覧
[0] ゼンドリック漂流記【DDO(D&Dエベロン)二次小説、チートあり】[逃げ男](2024/02/10 20:44)
[1] 1-1.コルソス村へようこそ![逃げ男](2010/01/31 15:29)
[2] 1-2.森のエルフ[逃げ男](2009/11/22 08:34)
[3] 1-3.夜の訪問者[逃げ男](2009/10/20 18:46)
[4] 1-4.戦いの後始末[逃げ男](2009/10/20 19:00)
[5] 1-5.村の掃除[逃げ男](2009/10/22 06:12)
[6] 1-6.ザ・ベトレイヤー(前編)[逃げ男](2009/12/01 15:51)
[7] 1-7.ザ・ベトレイヤー(後編)[逃げ男](2009/10/23 17:34)
[8] 1-8.村の外へ[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[9] 1-9.ネクロマンサー・ドゥーム[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[10] 1-10.サクリファイス[逃げ男](2009/10/12 10:13)
[11] 1-11.リデンプション[逃げ男](2009/10/16 18:43)
[12] 1-12.決戦前[逃げ男](2009/10/22 06:15)
[13] 1-13.ミザリー・ピーク[逃げ男](2013/02/26 20:18)
[14] 1-14.コルソスの雪解け[逃げ男](2009/11/22 08:35)
[16] 幕間1.ソウジャーン号[逃げ男](2009/12/06 21:40)
[17] 2-1.ストームリーチ[逃げ男](2015/02/04 22:19)
[18] 2-2.ボードリー・カータモン[逃げ男](2012/10/15 19:45)
[19] 2-3.コボルド・アソールト[逃げ男](2011/03/13 19:41)
[20] 2-4.キャプティヴ[逃げ男](2011/01/08 00:30)
[21] 2-5.インターミッション1[逃げ男](2010/12/27 21:52)
[22] 2-6.インターミッション2[逃げ男](2009/12/16 18:53)
[23] 2-7.イントロダクション[逃げ男](2010/01/31 22:05)
[24] 2-8.スチームトンネル[逃げ男](2011/02/13 14:00)
[25] 2-9.シール・オヴ・シャン・ト・コー [逃げ男](2012/01/05 23:14)
[26] 2-10.マイ・ホーム[逃げ男](2010/02/22 18:46)
[27] 3-1.塔の街:シャーン1[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[28] 3-2.塔の街:シャーン2[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[29] 3-3.塔の街:シャーン3[逃げ男](2012/09/16 22:15)
[30] 3-4.塔の街:シャーン4[逃げ男](2010/06/07 19:29)
[31] 3-5.塔の街:シャーン5[逃げ男](2010/07/24 10:57)
[32] 3-6.塔の街:シャーン6[逃げ男](2010/07/24 10:58)
[33] 3-7.塔の街:シャーン7[逃げ男](2011/02/13 14:01)
[34] 幕間2.ウェアハウス・ディストリクト[逃げ男](2012/11/27 17:20)
[35] 4-1.セルリアン・ヒル(前編)[逃げ男](2010/12/26 01:09)
[36] 4-2.セルリアン・ヒル(後編)[逃げ男](2011/02/13 14:08)
[37] 4-3.アーバン・ライフ1[逃げ男](2011/01/04 16:43)
[38] 4-4.アーバン・ライフ2[逃げ男](2012/11/27 17:30)
[39] 4-5.アーバン・ライフ3[逃げ男](2011/02/22 20:45)
[40] 4-6.アーバン・ライフ4[逃げ男](2011/02/01 21:15)
[41] 4-7.アーバン・ライフ5[逃げ男](2011/03/13 19:43)
[42] 4-8.アーバン・ライフ6[逃げ男](2011/03/29 22:22)
[43] 4-9.アーバン・ライフ7[逃げ男](2015/02/04 22:18)
[44] 幕間3.バウンティ・ハンター[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[45] 5-1.ジョラスコ・レストホールド[逃げ男](2011/09/04 19:33)
[46] 5-2.ジャングル[逃げ男](2011/09/11 21:18)
[47] 5-3.レッドウィロー・ルーイン1[逃げ男](2011/09/25 19:26)
[48] 5-4.レッドウィロー・ルーイン2[逃げ男](2011/10/01 23:07)
[49] 5-5.レッドウィロー・ルーイン3[逃げ男](2011/10/07 21:42)
[50] 5-6.ストームクリーヴ・アウトポスト1[逃げ男](2011/12/24 23:16)
[51] 5-7.ストームクリーヴ・アウトポスト2[逃げ男](2012/01/16 22:12)
[52] 5-8.ストームクリーヴ・アウトポスト3[逃げ男](2012/03/06 19:52)
[53] 5-9.ストームクリーヴ・アウトポスト4[逃げ男](2012/01/30 23:40)
[54] 5-10.ストームクリーヴ・アウトポスト5[逃げ男](2012/02/19 19:08)
[55] 5-11.ストームクリーヴ・アウトポスト6[逃げ男](2012/04/09 19:50)
[56] 5-12.ストームクリーヴ・アウトポスト7[逃げ男](2012/04/11 22:46)
[57] 幕間4.エルフの血脈1[逃げ男](2013/01/08 19:23)
[58] 幕間4.エルフの血脈2[逃げ男](2013/01/08 19:24)
[59] 幕間4.エルフの血脈3[逃げ男](2013/01/08 19:26)
[60] 幕間5.ボーイズ・ウィル・ビー[逃げ男](2013/01/08 19:28)
[61] 6-1.パイレーツ[逃げ男](2013/01/08 19:29)
[62] 6-2.スマグラー・ウェアハウス[逃げ男](2013/01/06 21:10)
[63] 6-3.ハイディング・イン・ザ・プレイン・サイト[逃げ男](2013/02/17 09:20)
[64] 6-4.タイタン・アウェイク[逃げ男](2013/02/27 06:18)
[65] 6-5.ディプロマシー[逃げ男](2013/02/27 06:17)
[66] 6-6.シックス・テンタクルズ[逃げ男](2013/02/27 06:44)
[67] 6-7.ディフェンシブ・ファイティング[逃げ男](2013/05/17 22:15)
[68] 6-8.ブリング・ミー・ザ・ヘッド・オヴ・ゴーラ・ファン![逃げ男](2013/07/16 22:29)
[69] 6-9.トワイライト・フォージ[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[70] 6-10.ナイトメア(前編)[逃げ男](2013/08/04 06:03)
[71] 6-11.ナイトメア(後編)[逃げ男](2013/08/19 23:02)
[72] 幕間6.トライアンファント[逃げ男](2020/12/30 21:30)
[73] 7-1. オールド・アーカイブ[逃げ男](2015/01/03 17:13)
[74] 7-2. デレーラ・グレイブヤード[逃げ男](2015/01/25 18:43)
[75] 7-3. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 1st Night[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[76] 7-4. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 2nd Day[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[77] 7-5. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 3rd Night[逃げ男](2021/01/01 01:10)
[78] 7-6. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 4th Night[逃げ男](2021/01/01 01:11)
[79] 7-7. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 5th Night[逃げ男](2022/12/31 22:52)
[80] 7-8. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 6th Night[逃げ男](2024/02/10 20:49)
[81] キャラクターシート[逃げ男](2014/06/27 21:23)
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[12354] 5-3.レッドウィロー・ルーイン1
Name: 逃げ男◆b08ee441 ID:e809a8c1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/25 19:26
ゼンドリック漂流記

5-3.レッドウィロー・ルーイン1











ジャングル内部を走る通路の曲がり角の先に、飢えたホブゴブリンとバグベアの暗殺者達が屯しているのが見えた。この通路はもはや摩耗しきっているとはいえ規則正しく石畳が嵌めこまれていた痕跡を見て取ることが出来、この一帯が巨人文明の遺跡であることを教えてくれる。

直径が5メートルはありそうな柱が所々に取り残され、また折れて横たわっている。床や柱のことを考えると、ひょっとしたらこの辺りは元々巨大な建築物があったのかもしれない。今はその大半を自然に覆われているが、この大陸で巨人族の文明が栄えていた時代から4万年が経過していることを考えればありえない話ではない。

それだけの年月を経てなお痕跡を残している古代巨人族の文明も、またそれだけの間に他の文明が栄えることを許さなかったこのゼンドリックという大陸のいずれもが元の世界の常識に当てはめることが出来ない不思議なものだ。

文明を破壊され、衰退した巨人たちは結局その長い時間のあいだにもかつての繁栄を取り戻すことはなかった。それどころか今やコーヴェアの蛮地にも劣るような原始的な暮らしを送っている。これはゼンドリックの歴史を探求するコーヴェアの研究者たちのあいだでも様々な議論が交わされている謎の一つだ。

そんな未開の地ではあるが今、俺の目の前にある通路の要所にはこうして敵の部隊が駐屯している。特にホブゴブリンは斥候に兵士、秘術使いとその装備から窺える役割も分担されており統率のとれた部隊だ。組織だった動きをしているのは明らかであり、蛮族の群れと呼ぶには相応しくない規律というものを身につけている。

それぞれ単体の戦闘力では先程のトロルに劣るだろうが、彼らはそれぞれが与えられた役割を果たすことで隊としての戦闘力を何倍にも向上させるだろう。そしてさらに注意すべきが2体のバグベアだ。

このゼンドリックに住むバグベア達は、どういった訳か"ニンジャ"としての訓練を積んでいる。気配を操って姿を消し、不意に急襲してくるのだ。ホブゴブリンの連携に気を取られている間に死角に回りこんだ暗殺者に襲い掛かられるというのは最悪の展開だ。基本クラスとはいえサプリメントで追加されたに過ぎないマイナーな技術がなぜ彼らのお家芸になっているかは全くの謎であり興味深い。そのうちバグベアと知り合う機会があれば話を聞いてみるべきだろう。

だが今眼前にいる連中にそういった友好的な接触は期待できない。彼らは通路を閉鎖している番人であり、俺はそこを食い破る襲撃者なのだから。


「姿を消されて奇襲されたり応援を呼びに行かれると困るな。俺がバグベアの相手をするからフィアは敵の術者を仕留めてくれ。ルーは連中の足止めを頼む」


今俺とチームを組んでいるのはドラウの双子達だ。彼女たちには小屋の護りを頼もうと思っていたのだが、こういった巨人族の遺跡であれば彼女たちの知識が役に立つということで志願してきたのだ。代わりに小屋にはラピスが詰めている。俺たちが遺跡中央へ向い、エレミアとメイが外周部の敵を排除するという役割分担である。

ルーとフィアの戦闘能力については把握できてはいないのだが、ラピスがフィアの実力に太鼓判を押したことと、そのフィアがルーはさらに強いと語ったことで問題ないだろうと判断した。いい機会でもあることだし、このクエストの間にこの双子の能力を把握することにしようと考えたのだ。


「了解だ。確かに連中が"幽遁の術"で身を隠すと私では手間取るかもしれないしな」


フィアがそう言って同意を示し、ルーも頷きを返した。"幽遁の術"というのは先程の"ニンジャ"が使用する隠身の技術だ。閉鎖的な彼女たちの集落にも伝わっているということは古来よりバグベアが使用していたということなのだろう。ゲームでは姿を消している間は完全に攻撃を受け付けなかったが、この世界であれば《トゥルー・シーイング》の効果でその隠密を見破り攻撃をすることができるはずだ。ルーの役割が支援係であることを考えれば当然の配置だと言えるだろう。

大まかな役割分担が確認できたことで作戦を開始した。通路の脇に生える樹木に隠れ、小枝や落ち葉に注意して足音を消しながら気配を殺して移動する。バグベアはトロル達同様に鋭敏な嗅覚を有していることから、風下へと回りこみ奇襲に適した位置へと辿り着く。理想の位置を確保した後、指先を使用したドラウ流のハンドサインを駆使して呼吸を合わせて俺とフィアは暗がりから飛び出した。独特の歩法で足音を殺しながらも普段と変わらぬ速度で一気に目標へと肉薄する。

やはりバグベア達が最も練度が高いようで、咄嗟に反応して武器を構えようとした。ホブゴブリンの斥候もこちらに気づいたようだが反応しきれておらず、立ち竦んだままだ。そして俺たちが目標に武器を振り下ろすその直前、さらにダメ押しの呪文が敵を襲った。

周囲の木や蔦、下生えの雑多な草などが突然命を与えられたように動き出し、連中を縛り上げはじめたのだ。《エンタングル/絡みつき》と呼ばれる植物の領域に属する信仰呪文だ。ルーのサポートだろう、予め呪文や魔法の装備で《フリーダム・オヴ・ムーヴメント/移動の自由》の効果を受けている俺とフィアは範囲内に入っても影響はなく、敵だけが体の自由を奪われている。

突然の出来事に"気"を使って対応することすら出来なかった暗殺者に向けて、大剣を袈裟懸けに振り下ろす。鍛えあげられた漆黒のアダマンティンの刃がまるで抵抗なく振り抜かれ、縛り上げられたバグベアを左右に分割する。更に俺はその攻撃の勢いを緩めず、大剣の切っ先が地面にたどり着く直前にベクトルを横方向へと転換させる。

急な制動に地面を踏みしめる足に強い反発が返ってくるがその感覚すらも心地よい刺激だ。光を吸い込む黒い颶風と化した"ソード・オヴ・シャドウ"が俺の腕の動きをその先端へ何倍にも増幅して伝え、さらにつま先から腰、肩へと伝わるエネルギーを食って一閃される。再びまるで空を切ったかのような無抵抗さで今度はバグベアの腰を切り裂き、瞬く間に二名の暗殺者はその命を絶たれた。

高位のニンジャであれば例えこんな状況であろうとその体をエーテル界に溶けこませることで逃げ出すことが出来るため、相手に一切の行動を許さずに抹殺する必要があったのだがどうやら上手くいったようだ。

斬撃の勢いでクルリと回転した俺が正面を向いた頃には、クォータースタッフを構えたまま蔦に絡め取られたホブゴブリンの術者の急所にフィアがショートソードを突き刺しているところだった。独特の構えから繰り出される攻撃は、その見た目からは想像もつかない殺傷能力を発揮している。

かつて巨人族に対して反旗を翻したエルフが使っていた刃"トリーズン"がホブゴブリンの顎下から突き上げるようにして脳髄を抉っている。捻り込むように差し込まれた刃によって脳が破壊され、植物に対して抵抗していた四肢は一瞬のこわばりの後に力を失って投げ出された。

この一方的な奇襲で大勢は決した。残るはホブゴブリンの斥候が2体と戦士が1体と数の上では同等だがいずれの敵もルーの呪文に束縛されて禄に動けていない。この呪文による束縛は例え一旦抜けだしたとしても効果範囲に留まる限り何度でも絡みついてくるうえ、植物が妨害することで周辺の地形自体が移動困難になっているという凶悪なものだ。

初級呪文でありながら、ルーの卓越した制御能力により機敏な反応を見せる斥候役すら束縛されてしまっている。どうやら信じられないことに彼女の呪文を行使する能力──判断力は俺を上回っているようだ。呪文による一時的な増幅があるにしても、レベル自体もかなり高いようだ。どうやらルーの戦闘能力を心配する必要はないらしい。

バグベアと異なり鎧に身を包んでいたホブゴブリン達だが、鋼すら豆腐のように断ち割るアダマンティンの刃の前にはその装甲は何の役にも立たなかった。戦士は近づいてきた俺に対して苦し紛れに武器を向けてきたが、拘束された状態で無理やりに振るった武器が命中するはずもない。終わってみれば十秒ほどの間で敵は全滅していた。


「どうやら先程の斥候同様練度の低い兵のようだな。敵の主力はやはりトロル達ということか?」


武器を鞘に納めながらフィアが歩み寄ってきた。最高級の軽装鎧が彼女が発する僅かな足音すらも吸い込んでしまっているようで、草地を歩いているにも関わらずその移動は全くの無音だ。灰色の肌が夜の密林に溶け込んでおり、その輝く銀髪がなければ視認は相当に困難であろう。生まれ持った素質を磨き上げたことでその能力は全般的に常人の域を超えており、エレミアとは違った方向ではあるが戦士として一端の完成系であるといえるのではないだろうか。


「さて、どうだろうな。ホブゴブリンの中に秘術呪文の使い手がいた。まさかあの一体だけではないだろうし、各集団にある程度分散して配置されていると考えたほうがいいだろう。

 そうするとそれなりの数がいるだろうから、中には優れた術者が混ざっているかもしれない。遭遇戦になったらフィアは敵の術者を狙うようにしてくれ。油断はするなよ」


集団戦の際に恐れるべきは敵の秘術呪文使いだ。他の集団へ念話などで伝達されることが厄介なのは当然だが、戦場をコントロールする術において彼らの右にでるものはいない。戦力の分断を基本として、優れた使い手であれば一撃で対象を即死させる呪文なんてものを使ってくることも考えられる。そういった致命的な呪文に対してはある程度の備えをしているつもりだが、勿論完璧とは言いがたい。


「我らの血には夜と暗闇が結び付けられている。その影の力に及ばぬ呪文は我が身に届くことなくかき消されるだろう。敵の術者は蠍神の祝福を持つ我らに任せておくがいい」


胸を張って応えるフィアの様子が頼もしい。彼女たちドラウはオージルシークスやチラスクのように"呪文抵抗"を有しており、さらにその能力は成長に応じて強化されていく。俺の見立てではレベルが二桁に達しているフィアのそれは相当な強度があるはずだ。

さらに彼女はパラディンのクラス能力で呪文などに対する抵抗力が俺以上にある上、通常であれば抵抗に成功しても一部影響を受ける呪文の効果すら完全に打ち消す能力まで持っているのだ。彼女の持つ攻撃力の高さと相まって、術者にとって見れば天敵に近い相手だろう。


「ルーも十分に足止めの役割を果たしてくれたし、おかげで楽をさせてもらったよ。さっきの呪文は多分またお願いすることになると思うからこれを使って回復しておいてくれ」


俺はそう言うと真珠が連なったネックレスを取り出して彼女に渡した。無論これはただのアクセサリーではない。ひと粒ひと粒が"パール・オヴ・パワー"という使用した呪文のパワーを回復させる効果を持つ魔法の品だ。

その中でも最も低い階梯の呪文を対象にしたものでも金貨1,000枚するのだが、俺が渡したネックレスには30近い真珠が連なっている。金の力にモノを言わせたパワープレイというやつだ。生憎この世界のこういった呪文能力を回復させるアイテムの類は俺には効果がないのだが、メイやラピスといった秘術呪文の使い手がパーティーにいることもあって準備しておいたのだ。

どうやらルーはドルイド呪文を使用するようだが、この系統の呪文は密林で覆われた地域であれば先ほどのように低位の呪文ですら非常に強力な制御力を発揮する。かなり心強い助けになるはずだ。


「──うん。祖霊ではなく自然の助けを借りる分には私も力になれる。それに自分の身を守るには十分すぎる備えを預っている。トーリは私たちのことは気にしなくていい」


ルーはそういってローブの裾を軽く摘んだ。それは俺が着用しているものと同じ、竜紋が刻まれた品だ。未知の技術で編まれた布地は攻撃に対しては板金鎧の如く強固でありながらも軽く、数々の魔力による護りを提供する。その下に着用しているアウトフィットや装飾品を含めればその金銭的価値はとんでもないことになっている。他の皆にも言えることだが、冒険者という存在が歩く宝物庫と呼ばれるのも仕方のないことだろう。


「そっか。それじゃ頼んだぞ二人とも。これからが本番だからな」


二人にそう声をかけ、俺は再び密林の先へと視線を巡らせ歩き始めた。この先、遺跡付近に駐屯する全ての敵を排除するためには後何度かの戦闘を繰り返す必要がある。まだまだ今回の仕事は始まったばかりなのだ。




† † † † † † † † † † † † † † 




だがそれからの戦いはあまりに一方的なものだった。なんといってもルーの《エンタングル》が強烈すぎる。一回の呪文で影響が及ぶのは半径10メートル程度の範囲に過ぎないが、それに囚われれば力づくの脱出はほぼ不可能だ。

この密林の中という環境下で、周り中の樹木を含めた全ての植物が押し寄せてくるのだ。一旦絡みつかれたが最後、振り払っても次から次へとこの上なく精緻な制御力でコントロールされた植物がやってくる。秘術などによる瞬間移動や、俺達が使用しているような束縛を無効化する魔法具や呪文の効果を受けるしか逃げ出す手段は無いに等しい。

だがそれを可能とする術者はそもそも数が少ないし、真っ先にフィアによって排除される。残された前衛は止めを刺されるまでの間無駄な足掻きを続けるだけだ。次々と上がる巨人語の悲鳴がジャングルに木霊しそれを聞きつけて現れた増援を次々と処理していたのだが、今となってはもはやこれ以上援軍が現れる気配もない。

俺の仕事はルーに敵を寄せ付けないようにしつつ弓などを使ってフィアをフォローしていたのだが、大量の"パール・オヴ・パワー"によって無尽蔵に打ち込まれる《エンタングル》は押し寄せてきた敵全てを飲み込み、決して誰一人として逃がすことはなかった。

ホブゴブリンにバグベア、そしてミノタウロスといった三十名を超える敵兵が俺たちに襲いかかってきた。だがその全ては樹木の枝葉に首を釣り上げられ、潅木に下半身を縛り付けられ、足を取られて転倒したところを全身を雑草に抑えつけられるなどして身動きできなくなったところを次々と殺害されていったのだ。自然環境における高位ドルイドの恐ろしさを思い知らされたと言えよう。

あらかた始末をつけたと判断した俺は念話で通信を行ったが、エレミアとメイのチームも順調に周辺のキャンプ地制圧を終了させたらしい。あちらでもメイの呪文が敵を一時的に制圧、分断したところをエレミアが蹂躙したとのこと。どうやら前衛と後衛のコンビネーションがしっかりと機能したようで、こちら同様傷ひとつ負わずに戦闘を終了させたとのことだ。

十分以上に成果をあげたと判断した俺達は、依頼された品を回収して《ヒドゥン・ロッジ》に戻った。ドアを開けて戻ってきた俺達を見てファルコーは大いに喜んだ。どうやら休息も取らずに何やら作業をしていたらしい。

小屋の中央のテーブルには何やら乱雑に書きこまれた紙が散乱している。今回の出来事で受けたインスピレーションを書き留めていたのだろうか、一目見ただけでは解読できない内容が書き散らされている。数時間の間になかなかの荒れっぷりで、どこぞの大学博士だというこのハーフリングの研究室の散らかり具合が眼に浮かぶようだった。

ラピスはどうやらこの男の相手をする気はないらしく、小屋の角に椅子をおいて腕を組み帽子を目深に被って顔を伏せていた。チラリとこちらに視線を一度飛ばしてきたが、その表情はなにか言いたげだ。おそらくファルコーは俺たちが外に出て行ってからもずっとこの調子だったに違いない。留守番を引き受けたラピスはとんだハズレくじを引かされた気分なのだろう。

彼女は人当たりが良いとはお世辞にも言えない性分であるし、この依頼人との間に良好な関係を築く事は出来なかったようだ。初対面の印象などを良好にする魔法のアイテムなどといった品も存在するが、彼女は戦闘力を向上させることに重きをおいており、そういった方面には無頓着だし仕方が無いことだろう。だがその無愛想だったであろうラピスの様子にも関わらず、ハーフリングはマイペースを貫き通していた。


「よく無事に戻ってきてくれた! それに怪我も負っていないようで何よりだ。さあ首尾を聞かせてくれ!」


疲労でテンションが上がりきっているのか、ファルコーはその小さな体を大げさに動かして感情を露にしている。


「すまないがミスタ、テーブルの上を開けてもらっても構わないかな? 持ち帰った品の整理と検分を済ませるにも場所が必要だろうからね」


彼のテンションに押されるようにして俺がそう言うと、ファルコーは鷹揚に頷くと無造作に腕で紙を押し払ってテーブルの端から落とした。確かにテーブルの上は片付いたのだが、単に床の上にブチまけただけである。

ややゲンナリしながらメイに視線を送ると、彼女は苦笑を浮かべながらも部屋に待機していた《アンシーン・サーヴァント》に指示を出し、紙を拾わせ始めた。それを横目で見ながら俺たちは次々にテーブルの上へと戦利品を並べ始めた。


「素晴らしい! 私達が再び探索を再開するために必要なものを、君たちは全て回収してくれたようだな」


殺害された助手の遺体と遺品、発掘中の研究内容を記したノート、密閉封印のされた鉛製の頑丈な容器、逃げ出す途中で奪われてしまったスタッフの個人的な荷物。一通りを確認した後で再びファルコーは大きな声を挙げた。だが彼の顔には満足とは程遠い感情が浮かんでいる。


「だが、この冒険が本当に成功だと言う前に一つ欠けていることがある」


低く搾り出すような声が小屋に響いた。そしてファルコーは椅子に腰掛けた俺達一人ひとりの目を覗き込むように視線を動かすと言葉を続けた。


「復讐だ!!」


彼は声高に叫んだ。同時に小さい掌がテーブルを叩き、重い音が小屋に響き渡る。休憩しているアシスタントたちのことが脳裏をよぎったが、どうやら余程疲れていたようでこの騒ぎにも起きだしてくる様子はない。そしてファルコーはお構いなしに話を続けた。


「馬鹿なゴブリン共に私の計画を妨害させた、邪悪なクリーチャーに復讐するんだ。近くの洞窟に身を隠しているずる賢いジャイアントがいる。

 普段は対立している蛮族どもを結集させて駆り立て、私達の邪魔をしてくれた。私の助手を虐殺したのもそいつだ。奴があそこに居座っている限り、遺跡の調査を再開することはできない。

 排除は絶対に必要だ。だが私では奴の体から心臓を抉り取ることはできない。それは君たちの仕事だ」


ファルコー自身もそれなりに腕のいい術者のようだが、一人で巨人の住処に乗り込むのは流石に無理だということだろう。一般的な巨人族の中で最も与し易いであろうヒル・ジャイアントですらその脅威度は7だ。3メートルを超える上背に500kgの重量。先ほど戦ったトロルよりもいくらかランクの高い敵である。


「その大層な封のされた容器だけじゃ足りないのか? あんまり欲を掻いてるとそのうち身を滅ぼすよ」


この上さらに仕事を振ってきたファルコーに対し、ラピスがうんざりといった様子で口を挟んできた。皆の視線がテーブルの上に置かれた容器へと向けられる。占術対策に厚い鉛で覆われた筒。無断で開けたものに害を及ぼす防御術が施されているのだろう、秘術のオーラを漂わせたそれは明らかに曰く有りげな品だ。

ファルコーも俺達と同じくその容器を眺めていたが、しばしの黙考の後に再び口を開いた。


「ふむ……確かにその容器は重要なものだ。これだけでもスポンサーに3倍報いるに十分な資産になるだろうことは間違いない。だが、問題はそんなことではない!」


ハーフリングはギロリと鋭い視線をラピスに浴びせてそう叫んだが、そんなことくらいで無論ラピスが怯むことはない。ただ、頑ななファルコーを翻意させることは難しいと判断したようで肩をすくめると雇い主に先を促した。


「先程はああ言ったが、これがただ単に個人的な復讐心からだとは思ってほしくない。巨人達が何か邪悪なことを計画しているのは、お前にも分かっているだろう。

 殺人行為を行うごとに、奴らはストームリーチに一歩ずつ近づく。我々はあの街を守らなければならない、そうだろう?

 私は誓って言う、私の助手を殺した奴らに、生きて再び悪巧みを成功させやしない!」


ファルコーのその言葉にも納得できる点はある。原始人同然の暮らしを送っているはずのジャイアント達が、普段は奪い殺し合っているホブゴブリンやトロル達を統率し発掘者を襲わせる。それは明らかに常識を逸脱した行動だ。

その遺跡が非常に大きな価値のあるものだというのであれば納得も行く。だが実際にはファルコーらから奪い返した容器を蛮族たちに預けたまま、半日以上も放置している。ジョラスコ氏族がSOSを受け取ってから俺たちがファルコーをピックアップするまでに経過した時間からもそれは明らかだ。

彼らがすでに大したものを持ち運んでいなかったのは俺が見たところ間違いないし、襲われたキャンプ地の様子からも略奪はあっても荷探しをしたような形跡はなかった。そして追手をさらに差し向けていたことから、最優先は容器の回収ではなくファルコーらの抹殺だったと思われる。

ファルコーらが遺跡の発掘の際になんらかの秘密を探り当てており、その漏洩を避けるために殺害を目論んでいるということであればまだ判る。だがどうやらファルコーにその自覚はなさそうだ。果たして巨人の目的は何なのか?


「そういうことであれば構わないが……だが、その洞窟とやらはどこにあるんだ?

 周囲の地勢については一通り把握しているつもりだが、少なくとも80km以内にはそれらしきものは無いはずだぞ」


この小屋から出て周囲の掃討に出かける前に、事前に《レイ・オヴ・ザ・ランド/地勢》などの呪文により付近一帯の地図は頭に入っている。それによると、この辺りに巨人族の居住に適したような洞窟は見当たらない。

俺の知るシナリオでは、ファルコーが巻物を使って目的地までのゲートを開き巨人族の住処へと転移させてくれたのだが、それに類する効果は秘術の最高位呪文になる。この世界でそんなものが使えるのはごく一握りに限られるはずで、勿論このファルコーにそこまでの能力はないはずだ。


「それには秘密がある。それは長らくこの辺りの遺跡が発見されていなかったことにも繋がるのだが……君たちは当然"トラベラーの呪い"については知っているな?」


ハーフリングの問うその『呪い』は、変幻地帯と並んでゼンドリックの地図作成を困難にしている現象の一つだ。それは同じ経路を通って移動を行っても目的地に到着するために必要な期間が一定にならないというもので、その感覚と現実の双方を歪める神秘さから"謎と変化を司る悪神"トラベラーの呪いであると呼ばれている。

どうやらこの現象はゼンドリックの生まれでないものに強い影響を与えることが近年の探索から明らかになっており、このため友好的なドラウやジャイアントといった大陸出身のガイドを雇うことが最近の流行だ。


「その『呪い』の効果で既存の集落のごく近くや以前探索したエリアの中に突然遺跡が発見されることがある。隠されていた土地が突然姿を表すんだ。

 私たちはそれを"トラベラーの恩寵"と呼んでいるのだがね、それと同じようなことがその洞窟周辺に起こっている──違うのは、それがまるで月が満ち欠けするかのように出現と消失を定期的に繰り返すということだ。

 おそらくこの辺りを泡のように覆っていた『恩寵』が弾けたその残滓によるものではないかと私は考えているのだがね」


問いに頷いた俺達にファルコーが説明を続けた。『恩寵』というのはそれによって手付かずの遺跡を発見できるからなのだろう。初めて聞いた言葉であることからすると恐らくは彼ら考古学者や発掘家特有の言い回しなのだろうが、なかなか上手い事を言ったものだ。


「つまりこちらから好きな時間に仕掛けることは出来ないということだな。次にその洞窟の巨人族連中の顔を拝めるのはいつになるんだ?」


放っておくと自説を延々と語り始めそうだったハーフリングの言葉を遮って肝心の内容を問いかける。その辺りの話題に興味が無いわけではないが、身近にそのような脅威が潜んでいる今は優先すべきことが他にある。


「そうだな……この一週間遺跡を発掘している間に見張りを立てて観察していたんだが、その際の周期からするに次の夕方頃になるだろう。キャンプ地の近くに高台に入り口がある遺跡があったろう? あそこから見張っていたんだ」


今の時刻はもうじき夜が明ける頃だ。そうすると半日ほど時間に余裕があることになる。交代で休息を取り、戦いの準備をするには十分な時間だ。休息を取る前に準備していた瞬間移動の呪文で、彼らをストームリーチに送り届けることも出来るだろう。

だがその事を伝えるとファルコーは首を横に振った。


「君たちが回収した容器に収められているものは大変貴重で環境に敏感なもので、瞬間移動などをしてアストラル界へ送り込むと変質する恐れがあるんだ。助手達は送ってやって欲しいのだが、私は全てが片付いてから君たちが乗ってきた幻馬に同行させて欲しい。

 発掘団の本体を護衛したジョラスコ氏族の部隊も途中まで来ているだろうから、彼らと合流するところまでで構わない」


どうやら随分と慎重な取り扱いが必要な品らしい。そんなマジックアイテムのことは聞いたことがなかったが、もし本当だとしても今更瞬間移動を含めたアストラル界を利用する呪文の恩恵を放棄することが出来ない俺には縁のない物には違いない。


「相手の種族や数は判ってるのかい? 一口にジャイアントっていっても馬鹿みたいに種類がいるんだ。後、数によっちゃ何回に分けて突入したほうがいいかもしれないしね」


ようやく興味のある話になったからか、ラピスが顔を上げて質問を投げかけた。以前俺たちが"シャン・ト・コーの印璽"の儀式によってゼンドリックの大陸中から転移してきた巨人族の集団と戦ったことがあったが、その際に見た巨人族の種類は3種類だ。

だがこの大陸にはそれ以外にも多くの巨人族が住んでいる。風の巨人"クラウド・ジャイアント"、嵐の巨人"ストーム・ジャイアント"、石の巨人"ストーン・ジャイアント"……全てを列挙すれば10を優に超えるはずだ。

しかし幸いなことにファルコーが語った敵はその中で最も与し易いと思われる、ヒル・ジャイアントだった。


「連中は遺跡から逃げ出す私たちの仲間に向けて高台から大きな石を投げつけ、ゲームを楽しむように殺しを楽しんでいやがったんだ!

 遺跡まで来た数は3,4体だったとは思うが、見張りの報告ではその倍はいるはずだ。洞窟まで偵察を出したこともあるが、誰一人として帰ってこなかった。もし彼らの遺品らしきものを見つけることができたら、それも持ち帰ってきて欲しい」、


ヒル・ジャイアントの特筆すべき能力は今ファルコーの言った投石能力だ。目の前のハーフリングよりも遥かに重いであろう巨石を、軍用の強長弓並の射程で投げつけてくるのだ。そしてその威力は弓を遥かに上回る。集団で攻め寄せて城塞の防壁を破壊することもあるのだから、状況によっては非常に厄介な敵に成り得る。

"シャン・ト・コーの間"で戦った時には周囲に投げつけられる石がなく、その膂力で振り回される武器にさえ気をつけていれば良かったが今度は相手のホームでの戦いになる。距離が離れているうちに発見されると一方的に攻撃されることにもなりかねないし、十分に警戒しながら進む必要があるだろう。


「巨人を狩るのは我が務めだ。貴殿の同胞の失われた命は、誓って我らが連中に贖わせるだろう」


いままで壁を背に腕を組んで黙って話を聞いていたエレミアがそう言うと、ファルコーは満足したように笑顔を浮かべた。


「その言葉を聞かせてくれて安心したよ。せめて私の助手達がドルラーで安らかに過ごせるように、憂いを取り払ってやってくれ。

 ストームリーチの酒場では、君たちは英雄として称えられるだろう!」


そう言ってさらにしばらく情報交換を行った後、力尽きるように倒れて眠りについたファルコーをベッドに運んだ。聞いたところでは朝方に巨人の襲撃を受けてから不眠不休で今まで気を張っていたというのだから、仕方のないことだろう。

ゲームではとんでもない山師のようなキャラクターだったのだが、こうして実際に接してみるとその癖の強い部分が愛嬌と責任感で相殺されている。部下にも慕われているようで、チームのリーダーとしては十分な素養を持っているようだ。

朝方になって起きだしてきた彼の助手たちは帰還せずファルコーと共に残ることを希望したのだが、遺族への連絡などは一刻も早く行うべきだというファルコーの説得により渋々ストームリーチへと転移していったのだ。おそらく彼らは第二次の発掘隊として再びこの地を踏むのだろう。

その時はこのような悲劇が起こらないよう、現地の脅威を取り除いておくのが俺たちの仕事というわけだ。そんな事を考えながら、俺は《集団トランス》による瞑想に意識を沈めていくのだった。


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