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No.12354の一覧
[0] ゼンドリック漂流記【DDO(D&Dエベロン)二次小説、チートあり】[逃げ男](2024/02/10 20:44)
[1] 1-1.コルソス村へようこそ![逃げ男](2010/01/31 15:29)
[2] 1-2.森のエルフ[逃げ男](2009/11/22 08:34)
[3] 1-3.夜の訪問者[逃げ男](2009/10/20 18:46)
[4] 1-4.戦いの後始末[逃げ男](2009/10/20 19:00)
[5] 1-5.村の掃除[逃げ男](2009/10/22 06:12)
[6] 1-6.ザ・ベトレイヤー(前編)[逃げ男](2009/12/01 15:51)
[7] 1-7.ザ・ベトレイヤー(後編)[逃げ男](2009/10/23 17:34)
[8] 1-8.村の外へ[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[9] 1-9.ネクロマンサー・ドゥーム[逃げ男](2009/10/22 06:14)
[10] 1-10.サクリファイス[逃げ男](2009/10/12 10:13)
[11] 1-11.リデンプション[逃げ男](2009/10/16 18:43)
[12] 1-12.決戦前[逃げ男](2009/10/22 06:15)
[13] 1-13.ミザリー・ピーク[逃げ男](2013/02/26 20:18)
[14] 1-14.コルソスの雪解け[逃げ男](2009/11/22 08:35)
[16] 幕間1.ソウジャーン号[逃げ男](2009/12/06 21:40)
[17] 2-1.ストームリーチ[逃げ男](2015/02/04 22:19)
[18] 2-2.ボードリー・カータモン[逃げ男](2012/10/15 19:45)
[19] 2-3.コボルド・アソールト[逃げ男](2011/03/13 19:41)
[20] 2-4.キャプティヴ[逃げ男](2011/01/08 00:30)
[21] 2-5.インターミッション1[逃げ男](2010/12/27 21:52)
[22] 2-6.インターミッション2[逃げ男](2009/12/16 18:53)
[23] 2-7.イントロダクション[逃げ男](2010/01/31 22:05)
[24] 2-8.スチームトンネル[逃げ男](2011/02/13 14:00)
[25] 2-9.シール・オヴ・シャン・ト・コー [逃げ男](2012/01/05 23:14)
[26] 2-10.マイ・ホーム[逃げ男](2010/02/22 18:46)
[27] 3-1.塔の街:シャーン1[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[28] 3-2.塔の街:シャーン2[逃げ男](2010/06/06 14:16)
[29] 3-3.塔の街:シャーン3[逃げ男](2012/09/16 22:15)
[30] 3-4.塔の街:シャーン4[逃げ男](2010/06/07 19:29)
[31] 3-5.塔の街:シャーン5[逃げ男](2010/07/24 10:57)
[32] 3-6.塔の街:シャーン6[逃げ男](2010/07/24 10:58)
[33] 3-7.塔の街:シャーン7[逃げ男](2011/02/13 14:01)
[34] 幕間2.ウェアハウス・ディストリクト[逃げ男](2012/11/27 17:20)
[35] 4-1.セルリアン・ヒル(前編)[逃げ男](2010/12/26 01:09)
[36] 4-2.セルリアン・ヒル(後編)[逃げ男](2011/02/13 14:08)
[37] 4-3.アーバン・ライフ1[逃げ男](2011/01/04 16:43)
[38] 4-4.アーバン・ライフ2[逃げ男](2012/11/27 17:30)
[39] 4-5.アーバン・ライフ3[逃げ男](2011/02/22 20:45)
[40] 4-6.アーバン・ライフ4[逃げ男](2011/02/01 21:15)
[41] 4-7.アーバン・ライフ5[逃げ男](2011/03/13 19:43)
[42] 4-8.アーバン・ライフ6[逃げ男](2011/03/29 22:22)
[43] 4-9.アーバン・ライフ7[逃げ男](2015/02/04 22:18)
[44] 幕間3.バウンティ・ハンター[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[45] 5-1.ジョラスコ・レストホールド[逃げ男](2011/09/04 19:33)
[46] 5-2.ジャングル[逃げ男](2011/09/11 21:18)
[47] 5-3.レッドウィロー・ルーイン1[逃げ男](2011/09/25 19:26)
[48] 5-4.レッドウィロー・ルーイン2[逃げ男](2011/10/01 23:07)
[49] 5-5.レッドウィロー・ルーイン3[逃げ男](2011/10/07 21:42)
[50] 5-6.ストームクリーヴ・アウトポスト1[逃げ男](2011/12/24 23:16)
[51] 5-7.ストームクリーヴ・アウトポスト2[逃げ男](2012/01/16 22:12)
[52] 5-8.ストームクリーヴ・アウトポスト3[逃げ男](2012/03/06 19:52)
[53] 5-9.ストームクリーヴ・アウトポスト4[逃げ男](2012/01/30 23:40)
[54] 5-10.ストームクリーヴ・アウトポスト5[逃げ男](2012/02/19 19:08)
[55] 5-11.ストームクリーヴ・アウトポスト6[逃げ男](2012/04/09 19:50)
[56] 5-12.ストームクリーヴ・アウトポスト7[逃げ男](2012/04/11 22:46)
[57] 幕間4.エルフの血脈1[逃げ男](2013/01/08 19:23)
[58] 幕間4.エルフの血脈2[逃げ男](2013/01/08 19:24)
[59] 幕間4.エルフの血脈3[逃げ男](2013/01/08 19:26)
[60] 幕間5.ボーイズ・ウィル・ビー[逃げ男](2013/01/08 19:28)
[61] 6-1.パイレーツ[逃げ男](2013/01/08 19:29)
[62] 6-2.スマグラー・ウェアハウス[逃げ男](2013/01/06 21:10)
[63] 6-3.ハイディング・イン・ザ・プレイン・サイト[逃げ男](2013/02/17 09:20)
[64] 6-4.タイタン・アウェイク[逃げ男](2013/02/27 06:18)
[65] 6-5.ディプロマシー[逃げ男](2013/02/27 06:17)
[66] 6-6.シックス・テンタクルズ[逃げ男](2013/02/27 06:44)
[67] 6-7.ディフェンシブ・ファイティング[逃げ男](2013/05/17 22:15)
[68] 6-8.ブリング・ミー・ザ・ヘッド・オヴ・ゴーラ・ファン![逃げ男](2013/07/16 22:29)
[69] 6-9.トワイライト・フォージ[逃げ男](2013/08/05 20:24)
[70] 6-10.ナイトメア(前編)[逃げ男](2013/08/04 06:03)
[71] 6-11.ナイトメア(後編)[逃げ男](2013/08/19 23:02)
[72] 幕間6.トライアンファント[逃げ男](2020/12/30 21:30)
[73] 7-1. オールド・アーカイブ[逃げ男](2015/01/03 17:13)
[74] 7-2. デレーラ・グレイブヤード[逃げ男](2015/01/25 18:43)
[75] 7-3. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 1st Night[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[76] 7-4. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 2nd Day[逃げ男](2021/01/01 01:09)
[77] 7-5. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 3rd Night[逃げ男](2021/01/01 01:10)
[78] 7-6. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 4th Night[逃げ男](2021/01/01 01:11)
[79] 7-7. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 5th Night[逃げ男](2022/12/31 22:52)
[80] 7-8. ドルラー ザ・レルム・オヴ・デス 6th Night[逃げ男](2024/02/10 20:49)
[81] キャラクターシート[逃げ男](2014/06/27 21:23)
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[12354] 4-3.アーバン・ライフ1
Name: 逃げ男◆b08ee441 ID:a70380e9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/01/04 16:43
ゼンドリック漂流記

4-3.アーバン・ライフ1












「乾杯!」


依頼を無事終え、俺達は『チャプター・ハウス』で祝杯を挙げていた。乱暴にグラスを打ち合わせる音が周囲に響き渡るが、既に時刻が遅くなったことで周囲も騒がしくなっており悪目立ちすることもない。

グラスに注がれたエールを一息に飲み干すと冷たい液体を嚥下する感触が喉から腹へと伝わっていくのを感じる。店員におかわりを注文しながらテーブルに並んだ香辛料の効いた肉や、色あざやかな野菜を口に運ぶ。

すぐに人数分のグラスを運んできたハーフリングのウェイトレスに銅貨のチップを渡した後、ツマミを食べて付いた口内の油を押し流すようにまたグラスを傾けた。

正面に座っているゲドラは1リットルは入るだろう大きめのジョッキを使っているのだが、それでもこの2メートルを超える巨漢には小さいようで見る見るうちにその中身は消えていった。


「いやー、最初にあの地底ライオン共を見たときはどうなることかと思ったけど。

 全員無事だしボーナスも期待できるときた! 幸運の女神アラワイと狩猟の神バリノールの兄妹神の祝福に感謝だ!」


酒が入る前から上機嫌だったケイジの調子はもはや留まるところを知らないようだ。正面に座ったウルーラクに向けてグラスをかざすと、今しがた運ばれてきたばかりのニ杯目のグラスを持ち上げて打ち鳴らした。


「ホッホッホ、まあエンダック殿の仕事が上手に運べばあの地への入植も進んで神殿も再建されるじゃろうて。

 その先触れ、露払いが出来たのであればワシにとっても喜ばしいことじゃ」


ウルーラクはその獲得している"領域"の恩恵からしても特にバリノールに強い信仰を捧げているようで、非常に上機嫌だ。多くのドワーフが交易の神コル・コランを信仰していることを考えれば彼もまた変わり種だ。

やはりここストームリーチに流れ着いた冒険者というのは、皆一筋縄ではいかないような連中が多いように見える。


「…………」


常に無口なゲドラは、今日もその事自体は変り無いが威勢よく杯を空けている。岩の種族と呼ばれる彼のその表情は読み取りづらいが、それでも機嫌は上々のようだ。

確か彼の里ではライオンをトーテムとして祀っていたと聞いている。であれば"フィーンディッシュ種"などというカイバーに汚染されたライオンなど、彼からすれば憎むべき敵なのだろう。

特に通常のライオンよりも巨大種である"ダイア・ライオン"のそれを倒したということは彼にとって非常に意義のあることなのかもしれない。

俺達が景気の良さそうな顔をしていることを見取った顔見知りの冒険者たちがテーブルの周りに集まり、彼らを巻き込んで宴の輪は大きくなっていく。


「家みたいにデカいライオンどもは俺達のことを餌か何かと思って突っ込んできやがった。だけどバカの一つ覚えみたいな突撃にやられる俺達じゃねぇ。

 突っ込んでくるそのマヌケ面にしこたま矢をお見舞いしたやった後、横に回りこんで無防備な腹に俺様の獲物をこう……!」


興が乗ったケイジが大袈裟に冒険譚を語り始めたので、リズムの早い曲を軽く演奏して雰囲気を盛り上げてやる。周りの観客たちはニヤニヤと話半分くらいに聞いているが、それで丁度いいくらいだろう。

若干の誇張が加えられた戦いの記録は口から火を吹く双頭の獅子王がウルーラクの祈りに応じたバリノール神の御手により神殿の地下へと飲み込まれ、カイバーへと送り返されたところで終わりを迎えた。

締めとばかりに全員でエールが満杯になったグラスをかち合わせ、大勢を巻き込んだ宴は解散となった。


「やれやれ、お主にかかれば古井戸の大トカゲも古城を護るドラゴンになってしまいそうじゃな。

 ほどほどにしておかんと、身の丈に合わぬ仕事を持ちかけられて後悔も出来んようになってしまうかもしれんぞ?」


ケイジが熱弁を振るっていた酒場の小舞台から降りると、入れ替わりで3人から成る楽団が先程までの空気を引っ張ってか陽気な音楽を奏で始めており、客がばらけた事で店内は混沌としてきている。

テーブルに戻ってきた彼にはウルーラクから苦言が呈されていた。


「まあ皆楽しんでいたんだし良しとしてくれよ。チョイと大袈裟に話をしたけどもそれほど嘘を付いてるってわけでもなし。

 トーリも演奏ありがとな。おかげで盛り上がったぜ」


話し続けで喉が乾いたのか、手持ちのエールを一気に飲み干したケイジは大声で追加のグラスをオーダーするとまだ熱が収まらないのか再び捲し立て始めた。


「しっかし今回はホントに大物相手だったよな。故郷の狩りでも大型の獣を相手取ったことはあったけど、今回のはそいつらが赤ん坊に見える大きさだったぜ。

 あんなに育つなんて案外カイバーってのは食い物が余ってるのか? 不作の年には畑の地下を掘り返してみたほうがいいんじゃないかと思っちまうぜ」


塩の効いたポテトフライを口に運び、肉汁たっぷりで香辛料がこれでもかと振りかけられた焼肉串を片手で二本持って酒と交互に口に運びながらもそのトークは止まりはしない。


「そういや今回ゲドラは仕留めた連中の証を持って帰ってないよな。あの双頭ライオンの頭は無理にしても、牙でも持っていけば勝負は貰ったも同然じゃないのか?」


そういえば彼は出身の村の成人の儀式で、族長候補として狩りの獲物を探しているんだっけか。トンネルワーム族を追跡していたときにそんな話をしていたことを思い出した。

ケイジの話しぶりを聞くに倒した獲物の証明として体の部位を持ち帰っているということか。おそらくは彼らのトーテムに捧げられたそれら供物から次代の族長を判断する習わしなのだろう。


「……まだ半年以上の時間が残っている。祖霊が私を導いてくれる限り、より相応しい獲物と巡り会うこともあるだろう」


おそらくはこの依頼で皆もレベルを一つ上げたはずだ。俺の見立てでは皆7Lvから8Lvになったはずだ。そろそろこのゼンドリックでも腕利きと呼ばれていい実力を備え始めていると思われる。

毎回がこんな命懸けの冒険ではないにしろ、後半年もあればさらに一回り成長できることは間違いない。あとは獲物との巡り合わせだが、そこは彼の祖霊の導き次第だろう。

その後暫くの時間が経過した後、テーブルの上に並べられた料理がひと通り片付いた辺りでゲドラが腰を上げた。彼は街を訪れる友好的な巨人族が逗留するテント村──ルシェームに滞在している。

それなりに遅い時間になっているしテント村はストームリーチの郊外にあるためこの店からそれなりに距離がある。今ぐらいが帰宅にちょうどいい時間なのだろう。

ゲドラが席を立ったことで解散という流れになり、最後に頼んだワインのボトルから残りを自分のグラスに注いでいたところでまだ話し足りないのかケイジが椅子を寄せてきた。


「トーリ、時間があるようだったらもう1軒行かないか?

 この間ロックスミス・スクエアの辺りで美人が酌してくれるいい店を見つけたんだがよ……」


どうやら随分と酔いが回っているように見えるがまだ飲み足りないらしい。おそらく彼が言っているのはチュラーニ氏族が経営している『影の館』ではないだろうか。

フィアラン氏族の経営する『桃巻貝』に比べれば割高だが、ストームリーチで最高峰の質を誇るという噂の紳士の社交場である。それなりの事情通でなければ存在すら知らない上、毎日変わる合言葉を街中にいるエージェントから得ていなければ入場できないという代物だ。

その上チュラーニ氏族が経営している以上、普通の店であるはずがない。一晩の逢瀬を求めようものなら趣味や性癖、さらにはうっかり枕の上で語ってしまった話の一字一句までもが影の氏族のデータベースに記録されてしまうだろう。

シャーンにも同じようなエスコート・サービスを提供している店はあったが、あちらが外交官などの富裕層を主な顧客にしていたのに対し、こちらは主に成功を収めた冒険者向けだ。

未開のゼンドリック大陸から生還した冒険者の話は寝物語としても未発掘の遺跡を発見する糸口になることはあるし、"トラベラーの呪い"によって地図を作成できないこの土地の環境からして足で稼いだ情報というのは結構な価値があるものなのだ。


「んー、まあ構わないけど……」


店に入って暫くしたらケイジを女の子に任せて一人で帰ってもいい。そう判断してケイジに返事をしようとしたところ、こちらのテーブルに近づいてくる人影が視界に入った。

騒がしい店内でも特に俺達のテーブルに注目し、座ったきり微動だにしない相方とでこちらを観察していた人物だ。害意が無さそうだったので放置していたんだが、どうやらあちらから動きを見せてくれたようだ。

フード付きの外套の下には華やかな色に染められたぴったりとした燦絹の衣装が覗いており、この人物がそれなりに裕福な女性であることを教えてくれる。

だが微かに聞こえる金属の擦れる音から、その服の下に何か着込んでいることが判る。おそらくは鎖帷子──それもミスラル製と思われる高級品、手には白い優美な手袋。

防具を纏っても乱れない身のこなしからは、戦闘訓練を受けていることが見て取れる。さらに腰元の目立ちにくいが手の届きやすい位置には秘薬入れと思わしきポーチが収まっている。

軽鎧を身につけた秘術呪文使いとなればビガイラーかウォーメイジ、はたまたダスクブレードあたりが主流か。いずれにしてもスペルキャスターは油断ならない存在であることに変わりはない。

いつでも動けるように僅かに腰を上げ、様子を伺っていると彼女はケイジに話しかけた。元より彼の方に注目していたようでもあるし、どうやらあちらの客のようである。


「そこな勇敢な剣士様、先程の冒険譚には感銘いたしましたの。よろしければ私に酌をさせていただけませんか?」


突然の女性の申し出にケイジは一瞬戸惑ったようだが、すぐに照れ笑いを浮かべると彼女に向けてグラスを差し出した。


「いやあ、それほどの事でも。貴方のような方にそういっていただけると……」


いつもの調子でこのまま口説きに掛かるのかと思いきや、女性の顔をフード越しに覗き込んだケイジの体が硬直した。

まさか石化か麻痺に類する魔眼か、と思ったのも一瞬のこと。再起動を果たしたケイジは身を翻そうとした。おそらくは俺の後ろへと回りこもうとしたのだろう。

だがその行動は読まれていたようで、いつの間にか足の甲を踏み抜かれていた彼はバランスを崩し、逆に椅子の上に深く腰掛けることになる。


「あら、どうされましたの? こちらのワインはアンデールでも有名なシャトーの物ですのよ。きっとお気に召すと思いますわ」


迫る女性が体の向きを変えたことで俺の視界にも彼女の顔が映る。整った目鼻に、気の強そうな瞳。鮮烈な赤毛はこの人間の女性の気性をそのまま現しているに違いない。

一目見ただけで怒りを内側に秘めて表情を取り繕っているように見える、そんな様子から俺は現状を正しく理解した。


(なんだ、痴話喧嘩か……)


臨戦態勢までもってきていた緊張感が霧散し、腰を落ち着けると懐に入れていた手をテーブルの上に出し、先ほどワインを注いでいたグラスを傾ける。舌先にピリリとした刺激が生まれ、鼻から芳醇な香りが突き抜けていった。

俺が僅かにテーブルの上に残された料理をつまみながらもそうやってワインを楽しんでいる間にも、ケイジとその客人は盛り上がり続けていた。


「ちょ、アンじゃねえか! どうしてこんなところに?」


「あら、私たち初対面じゃありませんこと? ケイジだなんてお名前の方、初めてお会いしましたもの」


「いや人違いとか有り得ないから! まだスターピークス・アカデミーの卒業まで1年はあるんじゃ無かったのか。まさか退学に?」


「あのねえ、誰かさんと一緒にしないで頂戴。ちゃんと卒業証書は頂いたし、一人前の太鼓判を貰ったわ」


「そ、そうか。素行の悪さで退学になった挙句お尋ね者になってこの街まで流れ着いたのかと……って痛えよ、ワインの瓶で殴るな! 977Yってビンテージモノじゃねえか馬鹿!」


「アンタにだけは言われたくないわね、人がせっかく飛び級して卒業して帰ってみたら行方をくらましてるとか何考えてるのよ!

 屋敷は無人で書置きも無し、足取りを追ってみたら選りにも選って"砕かれた大地"に居るわ渡航しようとしたら船はドラゴンのせいで止まってるわでこっちは散々だったんだからね!」


時折鈍い殴打音を交えつつ、二人の会話は立て板に水を流すような勢いで続いている。次々に交わされる言葉のキャッチボールは聞いていて面白くはあるのだが、流石にそろそろ目立ち始めている。介入したほうがいいだろう。

とはいっても普通に話しかけても今の二人に他人の言葉を耳に入れる余裕があるかは疑わしい。そこでケイジが座っている椅子の足を軽く蹴って、ぐるりと椅子ごと一回転させることで二人の気を削ぐことにする。《足払い》の応用だ。

押され気味だったケイジが椅子を後ろに傾けていたおかげで作戦は簡単に済み、突然の事に気を取られた二人の間に割って入った。


「あー、お二人さん。仲がいいのは結構だが、良ければその続きは部屋でやったらどうかな。

 俺の勘違いで見世物の練習をしてるっていうなら話は別だが、その時はそこの舞台の上でやった方がいいと思うぜ」


どうやら長い別れからの再会のようだが、その熱で浮かれている頭を落ち着かせるためにわざと持って回った言い方を使った。

そしていつの間にか歩み寄っていたウォーフォージド──今まで無言を保っていた女性の連れ合いも俺の意見に同調した。


「私もこちらの男性の意見に同意いたします、お嬢様。

 幸いこちらの宿には個室の空きがあるそうです。ひとまずそちらに場所を移されたほうが良いのではないでしょうか」


俺達の言葉に二人とも冷静さを取り戻したようだ。周りを見渡して酒場の客たちの注目が集まっていたことに気づくと、気まずそうに咳払いをして佇まいを正した。


「そうね、確かにこんな場所でする話じゃなかったわ。えーと失礼、貴方は……」


「トーリだ。そこの誰かさんとは何回か一緒に冒険をさせてもらってるよ」


簡単に自己紹介をしたところで事情を察して近づいてきた店員に白金貨とチップ替わりの銀貨を1枚ずつ握り込むように渡し、三人に部屋を用意するように伝えるとお邪魔虫は早々に退散することにした。


「二人の再会を祝してここの払いは俺が持っておくよ。ゆっくりと旧交を温めるといい」


そう言って椅子から立ち上がるとケイジは何か言いたそうな目でこちらを見てきたが、それには気付いていない振りをして流しておく。


「そう、トーリさん。私のことはアンとお呼び下さい。ご好意はありがたく受け取らせていただきますわ。

 よろしければ後日冒険のお話などをお聞かせください。何分この街にまだ不慣れなもので、右も左も解りませんの」


丁寧に礼を述べる彼女だが、その言葉とは裏腹にこちらを警戒している様子が窺える。まあコーヴェア大陸で語られているこの街の噂を聞いていればこの対応も仕方が無いところだろう。

治安が随分良くなったとはいえ、不用意に暗がりに入り込んでしまえば容易に命以上のものも失いかねない危険が潜んでいるのは確かだ。明るいうちに表通りを歩く分には問題ないが、影には未だ知られざる恐怖が残されているのだ。


「この街でも『黄金竜の宿り』の看板を掲げているこの宿はお勧めさ。それじゃお二人さん、よい夜を」


そう言って彼らに背を向けた俺と入れ替わりに、部屋の鍵を携えた店員が近づいてくる。近くまた会うことになるだろうが、その時にはケイジから話を聞いて態度が軟化していることを祈るばかりだ。

そんな事を考えながら酒場の扉を押し開いて外の通りへと歩み出た。さて、久しぶりの帰宅だ。皆は元気にしているだろうか?




† † † † † † † † † † † † † † 




明けて翌日。俺はグレイストーンと呼ばれるタラシュク氏族の居留地を訪れていた。港湾地区から中央市場へと繋がる要路でもあるこの土地はさらにコロヌー河が流れていることもあり、ストームリーチの大動脈とでも言うべき場所だ。

ゼンドリックの奥地から発掘されたドラゴンシャードが船に積まれてこの地へと運ばれ、コインロードの手を経由してコーヴェア大陸へと出荷されるのだ。勿論、他にも鉄などの物資もここへと運び込まれ、精錬所で加工されている。

この大陸での採掘は多くの危険を伴うが、それに見合った成果を彼らは得ている。"発見"のマークは他にも探偵や狩りなどにも用いられているが、比較的若い氏族である彼らをここまで発展させたのはやはり"鉱脈"を発見する能力であることに間違いはない。

他の地区ではあまり見かけないオークやハーフ・オークがここでは数多く働いている。この大陸の住人だけでなくコーヴェア大陸からの移住者もが混じり合って共同作業を行っている様は彼ら氏族の有り様を示していると言えるだろう。

喧騒を抜けて受付へたどり着き、エンダックの名前を出すとハーフ・オークの受付嬢がにこやかに応対してくれた。床に描かれた色鮮やかなガイドに従って廊下を進むと、指定されたナンバリングがされた部屋へと辿り着く。ノックをすると中からエンダックの入室を促す声が返ってきた。


「ふむ、約束の時間よりはまだ少し早いが全員揃ったようだな」


壁際でパイプを燻らせているエンダックに対し、皆は椅子に座っていた。ゲドラでも十分に余裕をもって座れる椅子が常備されているというのはこの氏族ならではだろうか。表にはオークに混ざってヒル・ジャイアントの労働者がその巨体を活かして大量の積荷を運んでいたのが思い出される。

そんな中でケイジはだらしなくテーブルに突っ伏している。どうやら昨晩は随分と大変だったようだ。彼は顔だけこちらに向けると幽鬼のごとく呪いの言葉を吐いた。


「トーリィ~。酷いじゃねーか見捨てるなんて……戦士を孤立無援の状況に放り出すなんて、鬼だぜお前は」


他の皆は既に状況を把握しているらしい。物騒な物言いにも動じた様子はない。エンダックが僅かなりとも距離をとっているのは、彼の撒き散らすオーラを嫌ってなのかと思い至った。


「旧交を温めるのに部外者がいても邪魔になるだけだろう。何か行き違いがあったのだとしたらむしろ早いうちに解決しておいたほうがお互いのためだし、昨日はいい機会だっただろう?

 見たところこの街には来たばっかりって感じだったし、先輩としてしっかり面倒を見てやらないとな?」


彼自身にも思うところはあったのだろう。軽く諭してやると気持ちの整理をつけることが出来たようだ。落ち着いたケイジの様子を見て、エンダックが口を開く。


「何はともあれご苦労だった。想像以上の難敵と戦うことになったが、君たちはそれ以上に見事な働きで戦果を挙げてくれた。

 特にあの双頭の獅子については剥製にして氏族の居留地に飾ろうという話も出ている。既に神殿跡地の調査を兼ねた回収部隊が向かっているが、もしその話が進めば君たちの名前もレリーフに刻まれることになるだろう」


昨晩は彼も報告やら手続きやらで忙しかったのだろう、彫りの深い顔は目元にわずかに疲れが滲んでいるようだ。咥えているパイプは眠気覚ましの意味もあるのかもしれない。


「無論、今回の報酬もその働きに見合った大きなものになる……金貨や信用状で用立ててもいいが、望みの品があるならこちらで用意しよう。

 武装を望むならストームリーチ・フォージに言って用意させることも出来るだろう」


彼が言ったフォージとはこのストームリーチの警備隊やデニス氏族の武装の大半を生産している施設のことだ。大規模な鋳造所を兼ね備えたそれは、この街の北端で常時黒煙を吐き出しながら生産を続けている。

特注品の生産を依頼するには然るべきコネクションと交渉が必要とされているが、それをタラシュク氏族が行ってくれるならありがたい話だろう。


「そうじゃな、ワシは防具をお願いしようかのう。先日の件でいい加減今の鎧の限界を感じておったしの。

 少々暑苦しくても構わんから、頑強な奴を頼むとするか」


「……俺もそうしよう」


ウルーラクとゲドラは早々に決めたようだ。確かゲドラについてはそろそろ黒鉄亭に頼んだ品が仕上がっているはずだから新しい武器は必要ないということもあるのだろう。


「あー俺はどうしようかな。武器も鎧も新調したばっかりだし」


ほぼ全財産を投げ打って装備を新調したばかりのケイジは悩ましげだ。武器はこれ以上を求めればコストパフォーマンスが悪すぎるし、下手に重い鎧を着ても彼の長所である機敏さを失いかねない。

かといってミスラル製の魔法防具なんてのは目が飛び出るほどの金額だ。おそらく今回の報酬でもそこまでの品を求めるのは難しいだろう。


「すぐに決めなくても構わないさ。暫く悩んでくれても構わないから、決まったらフォージまで行くといい。俺から話をしておこう。

 で、トーリはどうするんだ?」


「そうだな、俺も現物支給をお願いしようかな」


俺の要求は勿論決まっている。ドラゴンシャードだ。現金にもアイテムにも困っていない俺にとって、シベイ・ドラゴンシャードを入手できる機会を逃すことはありえない。

"タイランツ"からの購入もそのうち可能になるとしても、それらは結局彼らタラシュク氏族がこのゼンドリックで発掘したものが流通した結果なのだ。その根元で品物を押さえておくに越したことはない。

出来れば報酬による受領だけではなく直接買い付けを行いたいところではあるが、現在コーヴェアでは在庫不足が続いている状況でもあるし無理は言えない。


「いいだろう。俺の裁量で許されている範囲になるが、そちらの求めるサイズのものを後日届けさせよう」


こちらの希望を伝えたところ、エンダックは特に問題ないとばかりに頷いてみせた。その後軽い雑談などを行った後、俺達は揃って居留地を出た。とはいえエンダックは見送りだけだ。彼はこの後も書類仕事があるらしい。

その中には俺達への報酬に関するものも含まれているのだろう。働き者の雇い主に感謝しつつ市場へと続く道を歩くと、俺達の進む道の中央に昨晩も見た人影が立ち塞がっていた。


「遅い! 報酬を受け取ってくるだけなのにどれだけ時間を掛けてるのよ。待ちくたびれちゃったわ!」


確かアンと名乗った女性はお供のウォーフォージドを脇に控えさせ、腕を組んで仁王立ちしていた。その威圧感はなかなかのもので、周囲の労働者達も遠巻きに避けている様子だ。

やや釣り上がった眼は彼女の機嫌が余りよろしくないのを教えてくれている。気圧されて立ち止まったケイジから思わず一歩離れてしまった俺達の隙を突くように伸びた彼女の腕は、正確無比にケイジの襟首を掴み上げるとそのまま市場に向かう道へと引っ張り始めた。


「さあ、今日中に依頼を3件片付けて家を買うわよ!

 宿の周りをちょっと歩いただけで仕事が溢れてるじゃない。根無し草なんて続けてたら癖になっちゃうんだから、思い立ったが吉日よ。

 もう狙い目の物件も押さえてあるんだから、キリキリ働くのよ!」


恐ろしい行動力だ。まるで《タイム・ストップ》の呪文を使われたかのように一方的な展開にケイジは一言も発する暇なく連行されていく。巨大な盾を運んでいるウォーフォージドがこちらに一礼してその後を追った。

残された俺達はどうしたものかと思わず目を合わせた。追いかけるべきか、それとも邪魔をすべきではないのか?


「……まあ若いうちに苦労をしておくのもいい教訓になるじゃろう。無茶にならんようにワシが見張っておいてやるとしよう。

 おぬしらは黒鉄亭に寄った後テント村に行くんじゃろう? 後のことは任せておくがええ。」


年を重ねているがゆえの振る舞いか、ウルーラクはそういうと二人の後を追って駈け出した。雑談の際に俺達がこの後の予定のことを話していたせいか、気を回してくれたようだ。無論彼自身が世話焼きなところもあるのだろうが。

ゲドラと視線を合わせて肩をすくめる。どうやら今回は俺達の出る幕はなさそうだ。俺達は突如引っ張りまわされることになったケイジの幸運を祈りつつ、ゆっくりと中央市場への道を進んだ。


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