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No.12007の一覧
[0] 侵食する変態と幻想庭園 【東方Project】[真・妄想無双](2011/02/13 09:00)
[1] Act.1-1  伊達男と幻想庭園[真・妄想無双](2010/07/13 19:45)
[2] Act.1-2  [真・妄想無双](2010/07/13 19:46)
[3] Act.1-3  [真・妄想無双](2010/07/13 19:47)
[4] Act.1-4  [真・妄想無双](2010/07/13 19:48)
[5] Act.1-5  [真・妄想無双](2010/07/13 19:48)
[6] Act.2-1  名前の無い喫茶店[真・妄想無双](2010/07/13 19:49)
[7] Act.2-2  [真・妄想無双](2010/07/13 19:50)
[8] Act.2-3  [真・妄想無双](2010/07/13 19:50)
[9] Act.2-4  [真・妄想無双](2010/07/13 19:51)
[10] Act.2-5  [真・妄想無双](2010/07/13 19:51)
[11] Act.2-6  [真・妄想無双](2010/07/13 19:51)
[12] Act.3-1  咲夜からの招待状[真・妄想無双](2010/07/13 19:52)
[13] Act.3-2  [真・妄想無双](2010/07/13 19:53)
[14] Act.3-3  [真・妄想無双](2010/07/13 19:53)
[15] Act.3-4  [真・妄想無双](2010/07/13 19:54)
[16] Act4.-1  ロリータ咲夜爆誕[真・妄想無双](2011/02/13 09:11)
[17] Act.4-3[真・妄想無双](2011/07/14 03:38)
[22] Act.4-3[真・妄想無双](2011/07/14 03:36)
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[12007] Act.4-3
Name: 真・妄想無双◆fafeda7d ID:2161a5e6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/14 03:38
魂魄・妖夢は冥界在住の半人半霊であるが、日用品などの購入の際にはよく人里に足を運んでいる。本日もまた彼女の主である幽々子の「この前の、お菓子をもう一度買ってきてちょうだい」と命令のついでに、人里へとやってきていた。

主の命令自体には大した抵抗はないが、その命令内容に妖夢は辟易とした気持ちで一杯だった。菓子を買ってこい。これなら特に問題はない。ただ、その購入先の店に問題があった。その店は、とある変態魔法使いが営む変態喫茶店で、客も店員も並々ならぬ変態揃いの人外魔境であったからである。

店員側は、理性的にイカれた貧乳スキー店主。人食い妖怪従業員その1。無表情系絞殺シルキーと噂される従業員その2。対する客側は…………言葉にすることさえ憚られるが、敢えて言葉にするのならば、常識なんて概念は前世に置いてきたような奴等とでも言っておこうか。

そのような連中が跋扈する環境下でのお使いは、常識人を自称する妖夢にとっては精神的苦痛を伴うのは必然であった。

「変態喫茶店になんて行きたくない……しかし、行かないと幽々様に怒られる。 ああ、これがヤマアラシのジレンマと言うのか…………ふふ、略してヤマンマですね」

ゆえに、そんな呟きが漏れるのも致し方なく、

「母ちゃん母ちゃん。 あのお姉ちゃんは、どうして誰もいないところに向かって話かけてるの? 変態? 変態なの?」

「こら見ちゃいけません! あのお姉ちゃんも色々と大変なのよ!」

そして、それに対する王道的な突っ込みが入るのも最早仕方無い、テンプレートな域であった。

「こ、こら! 年長者に向かってそんな口を聞いてはいけませんよ!」

「お姉ちゃん……年長者って言う程、大人じゃないよ。 身体……んん、失礼、外見的に考えて」

「し、失礼な! 私はこう見えて××歳なんですよ! 半人半霊なのでそうは見えないだけでっ」

妖夢の言葉を耳にするなり、少年はまるで仙人のような覚った顔になった。それはそう例えるなら、【賢者モード】のようであった。【賢者モード】とは罪悪感と宿命論なしには語れない男のアイデンテイィティとは何ぞや、という疑問に関する単語である。

男女のにゃんにゃん行為後、男が黄昏れて煙草をふかしている姿を想像してほしい、まさにあれだ。虚無感。望郷の念。罪悪感。行為前まで高ぶっていた心は落ち着きを取り戻し、恋やら愛やらといった粘膜が見せる妄想から解き放たれる。愛おしく思っていた恋人の存在は心の重要位置から転落し、舞いあがっていた気持ちは泥底に沈殿していく。そこに『俺、何やってんだろ……』『母ちゃんの作ってくれたハンバーグが食べたいよ』という呟きが加われば完璧である。


結局、【賢者モード】というのは、性欲を筆頭とする欲望からの解放により生じる虚心坦懐の境地!!!


少年はそんな表情を浮かべ、

「この前、外の世界からやってきた外来人は言いました。『16歳以上はババア! 19歳以上は熟女である!』と、これから考えるに、 お姉ちゃん熟――――」

きりもみ回転しながら宙を舞った。
と言っても、直接殴打されたわけではない。妖夢の脅しとして繰り出された拳から放たれる拳風により吹き飛ばされたのだ。決して彼女がコングパワーの持ち主というわけでも、子どもに容赦情けのない悪鬼羅刹女というわけではない。

「最近の子どもは躾がなっていないようですね。 それ以上、生意気な口をきくのなら鉄拳制裁です。 私の拳は凶暴ですよ」

多少、人の話を聞かないところと空気が読めない節があるが、彼女は善良な人外である。付け加えるなら、欠点として若干の体育会系であるが。

しかし、此処は幻想郷の人里である。普通の人間なら無傷では済まないだろう現状に対し、少年は落ち着いた対応を見せる。空中で態勢を整えると、猫のようなしなやかな動作で直値してみせたのだ。おそらく、外の世界の人間が彼を見たらこう言うだろう。『な、なんて変態的な動きなんだ! 格好良い! 抱いて!』と。

「流石はお姉ちゃん。 伊達にソードマスター妖夢と言われるだけのことはあるね」

「ソードマスター妖夢!? 何ですかその渾名は!」

「まぁ、それは置いておくとして」

「待ちなさい! それについてもう少し詳しく聞かせて下さい」

「別にいいじゃない。 お姉ちゃんが人里でソードマスター妖夢って言われているだけだよ」

「どうして、そう呼ばれているのかと訊いているのですッ。 私はそんな渾名を名乗ったつもりはありません」

どうして。
その問いに少年は一つ首を傾げると、虚心坦懐の境地顔で呟く。

「嫉妬って怖いよねぇ……」

「え? え? 嫉妬というのはどういうことなのですか?」

少年はその言葉に応えることなく、踵を返す。
思えば母の手伝いの途中であった。余計な時間を使いすぎていた。「僕、もう行くね」速く手伝いに戻ろうと思いながら、ふと思い出したように、

「そうだ。 お姉ちゃんも気をつけて。 最近、この人里付近に【因幡の黒兎】が出没しているから」

「? 【因幡の黒兎】?」

【因幡の白兎】ならば耳にしたことはあるが、【因幡の黒兎】などという言葉を聞くのは初め

「うん。 前は【因幡の白兎】さんが追い払ってくれたけど、今回もそうなるとは限らないからね。 出来るだけ各自で注意しましょうって。 いい? お姉ちゃん? アレに関わったら駄目だよ。 お姉ちゃんみたいな人は不幸になっちゃうから。 別にお姉ちゃんのこと心配してるわけじゃないから勘違いしないでね。 では、これにて失礼」

「…………これが外の世界からやってきた外来人曰く、ツンデレもどきもどき、というやつですか」

とある喫茶店に足を運ぶ途中であるブレザー姿の玉兎が、遠くで、じっと妖夢を眺めていた。ショタコン女性、というある種の変態を見る生温かい目で。



     ∫ ∫ ∫



幻想郷は外界から隔絶した一種の異界である。
文明社会や時間から切り離されたそこでは、外の世界とは異なる独自の文化を形成している。それは妖怪や妖精、及びその他多数の人外の交流が存在する点から考えるに何ら不思議ではない。

その大きな特徴としては、外の世界と比較して科学の力が弱い一方、神秘性が強力な力を持っている。
しかし、その一方、科学の力が皆無というわけではない。本来、科学と神秘とは相反するものと考える人がいるかもしれないが、実はそうではない。

自然科学史を例に説明してみよう。

古代世界には、科学観というものに神々や悪霊といった神秘的なものが付属して考えられていたのはご存知だろう。代表的な例としては星の観察がある。古代の人は夜空に浮かぶ天体を、神々の化身として崇め奉り、それを元に科学観を構築したわけである。

古代ギリシアについても語りたいが面倒な人が多いので省略する。

中世ルネサンス期には上位世界と下位世界の照応関係、といった関係にあるという考え方が浮上する。これを説明するのには真プラトン主義やらと言ったものが欠かせない。が、ぶっちゃけ、超絶端的にまとめると、

我々が住まう地球はより上位に位置する天界の影響を受け、天界はその更に上位に位置するアカシックレコード(一なる者)の影響を受けて存在している。下位世界は上位世界の模造品であり、上位世界がなければ存在しない、という説である。

ルネサンス期の魔術師(≒科学者)はこのような科学観のもと、世界に存在する事象を研究し、知性を養うことが魂をより上位存在へと押し上げるためには必要不可欠だと考えたのである。そのような考えが一般化するルネンサンス期の魔術師の中に、上位世界の情報を下位世界に伝達するための物質があると考えた人がいた。

彼は、その伝達物質をエーテルやら何やら眼に見えない小さな粒子と定義し、上位下位に関係なく世界に遍く存在しているとした。
そして、もう少し後に現れる賢者の石は、このエーテルが石の形に凝固したもので、この粒子を手に入れることができれば、上位世界の情報を知ることが出来ると考えられた。結晶化した情報を意のままに操ることが出来たならば、不老不死の薬やエリクサーといった超絶レアアイテムの作成も不可能ではない考えられたわけだ。

賢者の石と言えば、パララケルス。彼は(以下略)


今日のように宗教と学問とが切り離されていなかった昔、科学の反対となるものは宗教であった。科学は常識に喧嘩を売る厄介ものでしかなく、ガリレオやらブルーノやらは教会を敵に回して酷い目にあったものだ。
しかし、今日では科学の反対になるものは魔術である。魔術とは、昔は自然を研究し、そこに何らかの法則性を見出す研究のことを指していたのだが、時代が移ろい行くにつれて意味が変わってしまった。
現代人は魔術と言われて何を想像するだろうか。多くの人間は、ミニスカツインテールで赤い服の娘が「ガン○! ガ○ト!」と何やら神秘的な呪文を発したと思ったら、不可思議ビームやら破壊光線を発射する光景を想像されるのではないだろうか。私は凛ちゃん派だ。絶対領域が素敵だ。ケコーンしてくれ。

上記のように、科学と神秘とは必ずしも無関係などではなかった。そして、この幻想郷という神秘文化が色濃い異界においても科学技術が僅かに存在していた。といっても、幻想郷の管理者があまり科学技術を幻想郷に在るのは好ましくない、ということで非常に制限された上に、原始的な性能を持つものしか置いていない。尤も、某種族が持つステルス性能持ちの道具だったり、核融合炉だったりと一部例外も存在するが。

この科学技術の保守点検、及び研究開発している種族がいる。(諸処の理由により、種族的な意味で人間ではない)

では、どのような種族が行っているのだろうか。鬼だろうか、妖精だろうか、天狗だろうか。否。それは、


「河童の科学は幻想郷一ぃいいいいいいいッ!」


河童である。
古来日本にも登場するあの妖怪である。日本昔話に登場していても可笑しくない河童である。

よく伝説では、人間から尻子玉を抜いたり、川を泳いでいる人間を溺死させたり、溺死した人間から尻子玉を抜いたり、大好きな相撲で子ども相手に大人気なく無双したり、相撲に負けた子どもから尻子玉を抜いたりする様子が描かれているが、幻想郷に住まう河童はそのような伝承からはかけ離れている。 (余談であるが、尻子玉とは男のアレではない。尻の中にあるとされた架空の臓器である。間違ってもアレではない)

幻想郷の河童は、何故か知らないが、人間のことを盟友と称し、日夜、人間を観察し研究し共に在りたいと願っている。

そのこともあってか、人間の里の科学技術の保守点検を進んでおこなっていた。
また、
彼等は、常に胸躍るロマンを忘れずに、日本のワビサビを理解し、尚かつ少々劣悪な環境に置かれたくらいでは「ベアじゃボケぇええええええ! ベア!!」と文句を垂れない職人達である。(※ BASE UP=基本給上げろ糞野郎の略)

その日も、
真面目な河童の一人である“彼女”は人里に赴いていた。理由は、科学と神秘の融合で生まれた気象予報機【龍神の像】の保守点検である。これは別に彼女だけの仕事というわけではなく、当番性で、今日たまたま彼女の番だったのだ。

里の通りは妙に込んでいた。
特段、その日は祭りやら祝い事はなかったはずだが、と怪訝に思っていたが、次の瞬間、その妙に込んでいる理由がわかった。

「ゆ、ゆ、幽香様! 拙僧の頭を……ふ、踏ん――――」

額に【風見・幽香様に踏まれようの会】と書かれたハチマキ男が騒いでいたからだ。といっても、“彼女”がハチマキ男を目にした瞬間には彼は、某花妖怪に蹴りあげられて宙に浮いたところを、日傘から発せられた極ブトの光線で貫かれて、光の彼方に消えてしまった。

その直後には何故か先ほどまで居た土の中から出てきたが。そして、【風見・幽香様に踏まれようの会】と書かれたハチマキの同士にタコ殴りにされているのを一瞥した“彼女”は、

「さて、仕事仕事」

何も見なかったことにした。おそらく、ああいったコミュニケーションスタイルなのだろう、と。何事にも寛容な性分故に何となく察することにした。

その後、“彼女”は某花妖怪とそのファンによって構成されている人込みを縫うように走り去ることにした。その姿は、普段から「人間は河童の盟友さ!!」と言っている癖に、意図的に人間を避けるように見えた。

ふと進行方向上に見知った姿があった。迷いの竹林に住まう宇宙兎だった。
おそらく、普段から行っている仕事をこなしているのだろう。すなわち、彼女の師匠である薬師が作製した薬を、置き薬として置いては貰えないかと営業販売をしているのだ。

お仕事御苦労様ー、と思っていた“彼女”であるが、ふと気がついた。
件の宇宙兎がまるでアブノーマルな趣味を持つ者を見るかのような生温かい目をして、何かを眺めているのだ。

『あの半人半霊、絶対にショタコンね……これは師匠に報告しなくちゃ』

何かを口にしているようであるが、人外であっても兎のように耳のいい身体ではないので認識することは出来なかった。きっと、今晩の夕食は何にしようかなぁ、とか考えているのだろう。洞察力と経験則から何となく想像出来た。

「しかし前から思っていたけど、あの兎、どうしてあんな変な格好をしているんだろうねぇ」

見た目の割にはなかなか想像出来ない年齢をしている“彼女”からしてみれば、その兎の姿は破廉恥極まりなかった。そして、声には出さないが胸の内で思う。ありゃ変態さね、と。

文化の違いが価値観や美意識の差異を生んでしまうのは致し方ないことだ。江戸時代の日本を訪れた西欧人も、日本人の姿を見てひどく驚いたことだろう。特に、ちょん髷。美意識は国によって異なるとはいえ、幾らなんでもカルチャーショック過ぎる。
同じく日本の伝統文化であるサムライソードやNINJYAに関してもそれは言える。この場合は逆になるが、米国人がNINJYAに変装して本物のポン刀を振りまわしている様は、日本人でも唖然としてしまう。

この時、“彼女”も似たようなカルチャーショックに襲われていたのだった。

「博麗や、お山の脇巫女姿といい最近の若いものはどうかしてるよ本当に」

“彼女”の服装も少々アレなのだが、“彼女”が所有する鏡が少々曇っているせいもあってか度外視されている。見る人が見れば、Sな属性持ちは大喜びの服装に見えないこともない。


「シャルロット・デュノア・ハピネス!! さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! そこをお歩きの紳士淑女の皆さま方、コクトー露店だよ! 今日は珍しいものがあるんさ! その名も全自動卵割機!! さぁさ、見てらっしゃい!!!」


突然、【龍神の像】へと向かう“彼女”の耳に大きな声が届いた。どうやら露店販売が行われるようだ。思わず視線をやる。いかにも即興で作ったらしい露店。そして思いのほか小柄な店主が目についた。
しかし、何よりも気になるキーワードがあった。それは、

「全自動卵割機? 何、その如何にもポンコツっぽい名前」

全自動卵割機というものをご存知だろうか。“彼女”は知る由もないが、それは外の世界で放送されている某国民的アニメ、具体的に日曜日の夕方辺りにやっている○○○さん(※某主婦の名前)に登場した名前通りの卵割マスィーンのことである。全自動と謳っておきながら、その過程には手で割った方が速い手動操作が必要不可欠なのだが。

小さな移動式屋台の上には、その欠陥卵割機が置かれ、それについて売主が営業販売を行っている。小さな屋台の周りには、いつの間にか人だかりが出来ていた。そのせいもあってか、売主の声にも喜色に富んでいるようだ。

「さぁさぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 此処にあるは世にも珍しい全自動卵割機だよ! これさえあれば、面倒な卵割もあっと言う間に終わってしまう! 何とも心強い主婦の味方! 全自動卵割機だよ!」

そんなもので主婦の負担が減る訳ないだろう、と内心声を漏らしたのは“彼女”――――、河城・にとりだった。

河城・にとり。
彼女は所謂、河童である。頭に皿を乗せ、体色が青緑色をしているあの妖怪のことだ。尤も、それは伝承の種族としてである。
此処にあるのは、皿の代わりに帽子を、甲羅の代わりに工具入れのリュックサック、透き通るような白い肌、それを身に纏うは一輪の睡蓮花。容姿は極めて可憐なまるで妖精かと見紛う美しを持って存在していた。

「あれは駄目だ。 絶対に売れないよ」

つい呟く声に、

「そう言っている割には興味津津といった面持ちだが」

「そりゃ……どういうカラクリなのかは気になるさ。 エンジニアの血が騒ぐって言うかのかね」

「ほう、エンジニアか興味深い。 どうだねお譲さん。 そこの茶屋で一杯」

「…………ひゃっ!」

思いもよらない返答が背後から来た。

屋台の方に注意が向いていたせいか、背後にいる人物に気がつかなかった。
にとりは思わず、近くの茶屋の影に姿を隠す。
普段は「人間は河童の盟友さ!」と口にしている割には、いざという場面において積極的に人間に関わろうとはしない。それは彼女の気性に問題があった。

「なるほど、君は朝顔のような女性だね。 私のような喧しい太陽には、綺麗な花弁を拝ませてはくれない」

「うっ」

まさにその通り。にとりは人見知りをする照れ屋な河童であった。特に男性に関してはそれは顕著であった。男性に関しては某魔法先生ものの、本屋ちゃん並の人見知りであったのだ。

見知らぬ者同士ばかりの空間に放り込まれ、その空間の責任者に「はーい、2人一組でチーム作ってね!」と言われたら、顔面蒼白にして自分から行動できずに立ち尽くすタイプであった。

「しかし、奥ゆかしい女性というのもなかなか。 お譲さん、そこの茶屋が駄目なのであれば、向こうの和風料理店【天麩羅】で河童巻きのフルコースでも如何かな」

「…………」

「そのような熱い瞳で見つめられると困るのだがね」

「…………」

いかにも胡散臭い雰囲気を漂わす男は、にとりの隠れている物陰を覗きこむ。
何をするつもりなのか、と彼女が警戒する傍ら、男は至極真面目な表情で、

・――――布団が吹っ飛んだ

「っ!!」

不意打ちだった。普段ならば、このようなオヤジギャグにはクスリともしないはずが、こんな時に限ってツボに入った。

・――――どうしよう困った。 河童のお皿をさらってしまった。 それはもうサラっとな。

「ッ!!」

下らな過ぎる。それなのにどうしてこうもツボに入るのだろう。人見知りする彼女からすれば、危機的状況だからだろうか。

「最後に一つ。 現在の、少女に相手にもされない苦心をお題にして」

男は膝に手をあて身を屈める。

・――――苦心な気持ちで屈伸

そして、屈伸。最悪だ。こんな下らないオヤジギャグ見たこと無い。妙な面白さと不気味さが綯い交ぜになって少女を襲う。よくわからないものが鬩ぎ合い、叫んだ。


「ど、ど、どっかいけぇえええ変態!!!」


「はっははは。 いやはやいやはや、これはこれは失礼を、はっははは」

男はニヤリと嫌な笑みを浮かべて人ごみの中に消えて行った。
男が消えて数分したところで、にとりはようやく安堵の気持ちに至ることが出来た。
先ほどの微妙な胡散臭い雰囲気は微塵もなく、いつも日常が帰ってきた。

「今ならお買い得のなんたらかんたら――――」と、先ほどの屋台の店主が営業活動をしている声が聞こえてくる。時間が戻ってきた。まるで悪趣味な白昼夢を見ていたかのようだ。

安堵のため息。胸を撫で下ろす。助かった、と。

「河童のお譲さん。 お譲さんあの全自動卵割機を……どう思う?」

「すごく、無駄だね。 あんなものを買おうとする奴ぁ、今まで一切の家事をやったことのない奴か、よっぽど世間知らずのボンボンくら――――はッ!?」

突然の質問に思わず答え、気づく。その声の持ち主が先ほどの男のものだと。声がした方向。背後。振り返る。奴がいた。笑顔で両手を差し出している。

「どうかしたのかね。 幽霊でも見たかのような目をして。 何か恐い目にあったのかね、ならば私の胸を貸そう。 さぁ、飛び込んでおいで!」

「う、ううううるさい変態! こ、こここれで勝ったと思うなよ! そ、そそそその内、ギッタンギッタンにしてやる!」

反射的に【のびーるアーム】をぶちかまし、逃走する。もはや【龍神の像】のことは頭にはなかった。

…………あれ、光化学迷彩発動して、る?

迷彩を発動させようとして、ふと気がつく。先ほどから迷彩スーツが発動状態だったことに。

「やっぱり、アイツは妖怪だ……」

「いや、DNA上では正真正銘の人間だ。 しかし、生き物とは不思議だね。 どうして逃げられると追いかけたくなるのだろう」

「ついてくるなぁあああああああ!!」

その様子を、隙間妖怪の式の式が何とも言えない目で眺めていた。



     ∫ ∫ ∫



さて、
にとりが去った通りでは、相変わらず全自動卵割機の説明が続いていた。

「おー! すっげぇ!」

屋台の人混みの中にはある少女の姿があった。少女は白いドレスに身を包み、日傘をさしていている。日傘の中では彼女の蒼銀の髪がキラキラと光り、それと同じように眼前のカラクリを目に笑顔
をキラキラと放っていた。
見た目から分かる通り、彼女は所謂貴族であり、金持ちのお譲様であった。普段は貴族らしく厳格で、思いのほか容赦のない性格なのだが、年に何度か今のように幼くなる時があった。それが偶々今日であり、そんな時に出会ったのが全自動卵割機。

まさに最悪の組み合わせである。
しかし、彼女は何も自分の欲望を満たそうと思い、カラクリに目を光らせているわけではない。脳裏に浮かぶ姿はメイドの姿。いつも家事を一生懸命に頑張ってくれているメイド。自分に忠義を尽くしてくれる従者。

そのメイドの手。家事で切り傷が出来てしまっていた。
ナイフが得意な彼女がまさか自分の指を切ってしまうなんて姿は万が一も想像できなかった。
先ほどの前提条件で、それについて親友と議論をしていたら、おそらく卵の殻で切ったという結論に至った。なにせ、書を読むことで料理を極めたと豪語していた親友の言葉だ。信憑性がある。

だから、

「普段なら×××の価格のところ、今日は特別にお兄さんオマケしちゃうよ! 今ならなんと××で売っちゃうよぉッ!」

「素敵! 今すぐ買うわ! 」

少女はメイドに少しでも楽をしてもらおうと、善意の行動に出ることにした。

残念ながら、メイドが傷を負った指が『ゆっくりしてやろうか?』に噛まれた幻傷だとは露とも知らずに。何ともタイミングの悪い話である。しかし、それもまた運命なのだろう。



     ∫ ∫ ∫



どぞこの当主が素敵な卵割機を購入したその日の夜、八意・永琳は自身の研究室で、ある薬を作成していた。この八意・永琳という人間は天才的頭脳を持つことに加え、その特異な能力である【ありとあらゆる薬を作ることが出来る程度の能力】により、かつて不老不死の薬を作ってしまったように、大抵の薬は作ることが出来た。

今現在、彼女が手掛けているのは若返りの薬だ。

それを作る理由であるが、昼間にキノコにやられた老人、伊蔵の依頼でである。
里で優曇華院と別れた後、必死の形相で永琳の元まで走り寄り、涙ながらに土下座する様に、断ろうにも断り切れず了承してしまった結果だった。

「どうしてこんな事をしているのかしら……凄く不毛だわ。 ウドンゲは夜になっても帰ってこないし……どうなっているのかしら」

やりきれない気持ちで一杯だった。
しかし悲しいかな。天才である彼女にとっては、心此処にあらずとも、あっと言う間に作業は終わり、薬を作り上げてしまったのだ。

…………雑用でもこなしておこうかしら。

部屋を出ようとして気づく。薬はいつでも手渡せる状態。

それを見て、頭に掠めるものがあった。それは、因幡・てゐ。
悪戯好きの白兎である。
どうも千年ほど生きているせいもあってか、なかなかの老獪さを備えており、永琳も彼女の行動に対して頭を痛めることが多々あった。
このまま放置しておくと、いつものように結局は悪戯の道具に使われることは火を見るより明らかだった。

きちんとした所に保管しておこう、と思った直後に、

「永琳、聞いて。 虫よ。 虫が出没したの。 黒くてテカテカしてる変な虫が出たの。 地球の穢れを集束させたかのような奇妙な虫が出たの。 退治してちょうだい」

彼女の主が室内に押し入ってきた。表情から察するに、それとなく緊急事態であるようだ。

「少し待ってちょうだ――――」

作業を続けようとするも、主に中断される。

「手遅れになったらどうするの。 私、こう見えて焦ってるのよ。 わかるかしら、永琳。 あのような穢れの集合体みたいな塊に、部屋を蹂躙される私の硝子の心がピシピシと悲鳴を上げているのが。 私のハートは防弾ガラスじゃないのよ。 イナバ達の三倍も儚く、繊細なの」

少しの間ならば、薬から目を離しても大丈夫だろう、と楽観的に考えつつ、仕様が無く主の行動を聞くべく身体が動いていた。

「姫様。 ただの虫ならご自分でも対処できるのでは?」

「永琳。 あの虫を処理するか、あの野蛮人と一日仲良くしなさいか、どちらを選べって言われたら、今の私なら後者を選択するわ。 それほど事態は切迫している。 イナバの手も借りたいほどに」

普段、迷いの竹林に住まうあの蓬莱人と殺し合いをしている人間の言葉とは思えない。

余程のことなのだろう。永琳は即座に主の部屋へと移動することにした。

そして、

「陽動作戦成功なり。 今宵、この若返り薬は【因幡の黒兎】が頂戴いたす」

2人がいなくなった部屋に、突如として現れれる黒い影。その黒い影は若返りの薬を懐にしまうと、その場から消え失せるのであった。それはまさにNINJYAの技。



     ∫ ∫ ∫



永琳は、主の部屋に着くなり、室内から溢れ出る瘴気のようなものに思わず眉を顰めた。経験上、このような瘴気に遭遇した場合、ろくなことが起きない前触れとして知っていたからだ。

…………開けたくないわ。

「永琳」

無情かな。主からの「さっさと何とかして」というプレッシャーに強制され、

永琳は部屋の障子を開く。すると、そこには巨大で黒くてテカテカした謎の物体がいた。その黒いのは此方を威嚇するかのように、キィイイイ! と音を発する。
その大きさおよそ全長5メートル。人間からしたら見上げる形になる。確かにこれは脅威であった。付け加えるのなら、外来人がこの虫を見たら、こう言うだろう。

Gを超えたG。即ち超Gだ、と。

永琳は脳裏で、おそらく“誰かが”自分の研究室から持ちだした【対象を巨大化させる】薬を、この目の前にいる虫に投与した結果だろう、と分析する一方、
反射的に弓矢を顕現させ、それを滑るように射る。

直後、後悔した。
それは、体液をブチまけて破裂したのだった。

彼女は自分の背後にいる主の顔を見やる。硬直していた。長い時を共に過ごしてきたが、このような表情を見るのは久方ぶりであった。
最後のこの表情を見たのはいつだっただろうか。

おそらく自身も似たような表情をしているのだろう、と現実逃避じみた思考を浮かべた。
ただの現実逃避をする永琳の脳裏には、このような悪戯を毎回引き起こしてはニヤニヤ笑っている兎の姿が浮かんだ。

脳裏の兎が笑う。

『お師匠様って意外にドジッ子だねぇ。 まぁ、ドジっ子って歳でもないけ――――』

脳裏の妄想を撃ち砕く。永琳の唇が、この惨劇を作り出したであろう下手人の名前を呟いた。



     ∫ ∫ ∫



因幡・てゐはご機嫌であった。
それは昼間に、某喫茶店で鈴仙をワナにはめたり、人里で持て囃されたりと実に有意義な一日であったからだ。
里で出されたアルコール類のせいもあってか、その頬は赤く上気し、その表情はいつもより充実していた。

実に気分がいい。思わずスキップしてしまう程だ。やがて屋敷の前に着くと、見知った人影があった。
何故か目が死んだ魚のような目をしている八意・永琳であった。

酔いのせいで気分が上気しているというのに、その幽鬼のような姿を目にした途端、ブルっとてゐの全身を寒気が襲う。

とりあえず、無視するのもアレなので、とコミュンケーションを図って見ることにした。

「や、やぁお師匠様。 今夜は月が綺麗だよ。 いやぁ、気分がいい日は月夜は一層綺麗に見えるさね」

「………………」

「そうだ、お師匠様! 今日、鈴仙のやつが例の喫茶店で…………お師匠様?」

「………………い?」

「え? 何かいいましたか、お師匠様」

「………………しい?」

「お、お師匠様?」

「てゐ。 悪戯は…………楽しい?」

普段のてゐなら、この場の空気を読めただろう。
今自分が地雷原を歩いていることにも気がついただろう。
だが、タイミングが悪かった。某喫茶店で鈴仙をワナにはめ、人里でお酒やら何やらを出してもらい非常に舞いあがっていたのだ。
だから間違えた。選択を間違えた。

DQで竜王に『わしの みかたになれば せかいのはんぶんをくれてやる。 なかまになれ』と言われ、

→Yes
 No

の選択をしてしまうくらいに拙かった。だから言う。


「それはもう最高に、退屈な人生に欠かせないスパイスさ!!!」


かくして永琳の笑顔は最高潮に至り、夜天に昇る月が爛々と妖しくに輝くのであった。

「? お、お師匠様、何を怖い顔をし――――!? お、お、お師匠様! 私はまだ何も悪戯はしてま――――」








てゐは犠牲になったのだ。








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【あとがきゃ】

もう少しでヴァレンタンですね。皆様、どうぞチョコレートの代わりに受け取ってくだせぇ。何とか14日までには間に合わせようとガンバりました。
さぁ、楽しい楽しい猫耳装備。


【ソードマスター妖夢】フラグ

【因幡の黒兎】フラグ

【若返り薬】フラグ     が建ちました。

4月から、もしかしたら、転勤の可能性あり。
仕事内容と、ネット環境がヤバイ。







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