言葉。
言葉というものは様々な意味があり、それと同時に多様な形状を持つ。
『嫌い嫌い嫌い! 大ッ嫌い!!』
ある時は他人を傷つける刃になり、
『一生、許さない』
ある時は他人を縛りつける楔になり、
『クリスマス? 大丈夫。 私は君の味方だ、此処にいる』
また、ある時は他人を励ます特効薬になるように。言葉とは、千差万別なのだ。
では、雪人と名乗った男が放った、咲夜を嫁にもらいに来た、という言葉はどのような形を持っていたのだろうか。顎に手を置きながら、
小悪魔は僅かに思案した。
…………むぅうう。 コア的に考えてみたところ、非常にエロスな形だと思うのです。
そう、思ったが口には出さない。最近、自分が常識的な発言をしたとしても、非常識という概念が具現化したかのような存在であるパチュリー・ノーレッジは聞く耳を持たないことを知っていたからだ。
「登場に趣向を凝らしてみたのだが、どうやら少し怖がらせてしまったようだ。 そこの赤毛の、外見から判断するに司書君を見る限り」
悪趣味な登場をした男が、笑顔でそんなことを言ってきた。気に障る笑みだ。身長の関係上、見下されているように感じるのも要因の一つかもしれない。小悪魔は初見の相手に対して抱いた言い様の無い敵意を不思議に思いながら、
「べ、別に驚いてなんかいませんでしたよう! コアはその程度の虚仮脅しには効きません!!」
向きになって食いつく小悪魔に、
「滅茶苦茶、驚いていたじゃないの。 『首捥げー』だの、『隠れた能力が覚醒して、暴走している』だのとか意味不明且つ、とても正気とは思えないことを」
「パチュリー様。 小悪魔は普段からアレなので、もしかしたら、あの発言は素なのかもしれませんが?」
彼女の背後に居たパチュリーと、咲夜は冷静に突っ込んだ。あながち否定できないそれが気に食わなかったのだろう。小悪魔は、頬を膨らませながら、八つ当たりのように、騒動を巻き起こした張本人と向き合った。
「貴方のせいで、今まで築いてきたコアの、健全なる人格が全否定されましたよ」
「あらあら、世間では何時の間に、健全という言葉の意味は変容してしまったのかしら。 ねぇ、咲夜?」
「小悪魔の脳内妄想世界では、意味用法が異なるのではないでしょうか。 自身に都合がいい的な意味で」
くすくす、と笑い声と共に放たれるのは何気に辛らつな台詞だ。
「外野は黙っていて下さい!!」
ぷるぷると叫びを上げる小悪魔がよほど、可笑しかったのだろうか。男は笑みを噛み殺したかのような笑みで、
「何と言うか、アレだ。 君は随分と愛されているんだな」
「どこをどう見たら、そういう結論に至るんですか!? 今の状況はどう見ても、コアが性悪な二人なイジメられているところじゃないですか」
「それは、アレだ。 屈折した愛というか、歪んだ友情というか、一種の愛情表現だね」
「そんなものは要りません! なんですか、その “クリスマスは一人じゃない! ただし、ゴキブリと過ごす聖夜!!” みたいなのはッ」
つまり、と男は前置きし、
「本当は苛められるのが嬉しい、と」
「貴方、人の話を聞きましょうって言われませんか!? コアは、”変態の園”の仲間でも住民でもありません。 貴方やパチュリー様達のような変態さんとは違うのです、変態さんとは」
小悪魔は頭を抱える。背後から、パチュリーの抗議の声が聞こえてきたが無視だ。目の前のいる男も含め、変態には常識人の言葉など通用しないことを覚えたからである。
…………嗚呼、幻想郷の良心にして、幻想郷一の常識人であるコアには、こいつら変態の相手は辛いものです。 常識が通用しない相手ほど、厄介な存在はいません。 どうして、もっと他人を思いやれないのでしょうか? だから、戦争は無くならないのです。
「はぁ。 まぁいいです。 ところで、いきなり派手な登場をかましてくれましたが貴方はどちら様なんですか?」
「私か? 私は、咲夜君に招待された魔法使いだよ。 何でも、婚約者に会わせたい人物がいるから、と」
「妄言は脳内世界だけにして下さい、と咲夜さんに代わり、コアが代弁します」
ほら見てください、と小悪魔が顔を向ける方向には無表情ながらに視線を鋭くする咲夜の姿がある。彼女の視線はまるで、それだけで生物を射殺せるのではないか、と思えるほどだ。仮に、主の親友であるパチュリーの前でなかったとしたら、彼女はありとあらゆる手段を持って、変態を沈黙させていたに違いない。機嫌が悪いのは明らかであった。
しかし、彼女は能面のように無表情ではあるが、内に猛る敵意を完全には消せていなかったのだろう。それを察したパチュリーが、咲夜、と声をかけ、
「お客様のご案内、ご苦労様だったわね」
その労わりの言葉には、暗に下がりなさい、という意味も含んでいた。しかし、咲夜にとってそれは許容できるものではなかった。過去、目の前に男に散々な目に遭わされたことが原因だった。胸の下着を外され、胸を揉まれ、尻を揉まれ、とろくなことがない。不倶戴天の天敵とも言ってもいい。
そんな輩を、敬愛する主の親友の側に放置するわけにはいかなかった。故に漏れた言葉だ。ですが、と。
「ですが、パチュリー様。 この方は本当に変態なのですよ」
「大丈夫よ、愉快な方じゃないの。 それよりも、お茶菓子でも――――」
咲夜とパチュリーの会話に、割り込む者がいた。雪人だ。
「魔女殿。 私の魔法特性のことは既に、咲夜君に聞いているのかな?」
「創造、でよろしいのかしら?」
…………創造? ああ、咲夜さんが貰ってきた例のクッキーの製作者ですか。 ということは、この人がパチュリー様が会いたかった魔法使い?
頭に疑問符を浮かべる小悪魔の視界の先で、
パチュリーの言葉に、雪人は正しくもないが間違ってもいない、と曖昧に微笑みながら、
「お茶菓子程度なら、私がご馳走させて貰っても構わないだろうか? 咲夜君に、私に会ってもらいたい方がいる、と手紙を貰ったが、要するに貴女のことだろう? 美女からの誘いを受けて嬉しくない男はいない。 花束の一つもないが、お茶菓子程度なら用意しよう」
小悪魔は思った。随分と気障な男だ、と。同時に抱いた感情は、気に入らない、という敵愾心。
「まぁ、それは素晴らしい。 是非とも――――」
何か言おうとしたパチュリーの言葉に被せるように、
「まぁそこまで、コアに貢ぎたいというのなら止めませんよ。 精々、コアのために働いて下さいな」
そう告げると、パチュリーからは色の無い瞳で睨みつけられた。しかし、それでも小悪魔は、胸の内から溢れるものを塞ぐことなど出来なかった。
「咲夜。 そういうわけだから、もう下がってくれも構わないわ」
その言葉に、承りました、と無表情で頷きながらも、そのナイフのように鋭い視線でキッと、雪人を睨みつけたままだった。
彼が唇を持ち上げ、微笑みを浮かべると、彼女の視線はますますきつくなった。喩えるなら、唾棄すべき汚泥でも見るかのような瞳だ。その強烈な拒絶の意思に満ちた瞳で、余計なことをしたら息の根を止めてやる、と言わんばかりの一瞥を送り、彼女は退室していった。
雪人は肩を竦めながら、
「おやおや、随分と嫌われてしまったようだね」
「咲夜さんは多少、潔癖症なところがありますから受け付けないんでしょうね。 これだから“呪い憑き”は」
雪人は、小悪魔の言葉に笑みを浮かべ、
「“テックルーの刑”に処すぞ」
「やってみやがれ、です。 コアの“スーパーテックルー返し”に、貴方は敗北することになるでしょう」
その言葉を契機に、彼等は互いに数秒、見詰め合った。そして、彼等は確信した。
こいつだけとは相容れない、と。
抱いた感情は最悪だ。雪人は、普段から「嫌いだ嫌いだ」と豪語している八雲 紫と同等以上のものを小悪魔に感じていたし、また、小悪魔も、軽佻浮薄に戯言を弄する雪人のことが、気に入らなかった。
互いに感じた感情は、同属嫌悪。
「言ったな? 言ったな? 我が“奥義テックルー”の上を行く、と。 いいだろう、上等だ。 ならば、私も秘奥義を開放しようではないか。 その名も、“超・究極テックルー”」
「ふふん。 蟻んこが幾ら、虚勢を張ろうが、所詮は蟻んこです。 コアの“超・究極奥義テックルー返し”に勝てるわけないのです」
「これだから田舎モノは困るのだ。 “井の中の蛙、大海を知らず” という言葉は君の為にあるようなものだな」
「なら、“エロ河童の川流れ” とは貴方のためにある言葉ですね」
二人は互いに鼻を鳴らし、睨み合う。本当に、反発し合う同極の磁石のようだ。そんな中、二人のやりとりを眺めていたパチュリーは思った。テックルーって何のことかしら、と。
∫ ∫ ∫
咲夜が退出してから、雪人と小悪魔はというと飽きもせずに互いの罵倒を続けていた。しかし、二人の言葉を遮るように新たな声が来た。パチュリーの声だ。
よろしいかしら、と彼女は前置きし、
「はじめまして、私の名前はパチュリー・ノーレッジ。 本日は唐突なお招きに応じていただいて――――」
言葉を発しようとするも、
「パチュリー様の口調が普段と違います……。 何か、こう、違和感ばりばりと言いますか、似合わないというか、可笑しいですね!!」
パチュリーは机の上に置いてあった製図のための道具を取った。物差しだ。彼女はそれを手に、まるで剣術家のように鋭く一閃し、小悪魔の尻を叩いた。ぱちぃいん、と高い音と悲鳴が響く。
「きゃん……ッ! い、痛いです。 何するんですか!?」
非難がましい目をする小悪魔に、
「いい? 私は貴女とコントをするつもりはないの。 お願いだから、少し大人しくしていなさい」
「酷いです酷いです! あんまりな仕打ちです! パチュリー様は引きこもりで、殿方との繊細で緻密な駆け引きなんて出来るわけないない
ですから、コアがこうやって頑張っているのに……っ」
「黙・り・な・さ・い。 次に余計なことを言ったら――――」
パチュリーの言葉に、しかし、と遮る。
その表情は普段の軽佻浮薄な笑みでなく、珍しく引き締まった凛々しい顔立ちである。
「しかし、コアが戯言を弄するのを止めてしまったら、気まずい沈黙が生じるのではないでしょうか? パチュリー様は、今、何が流行のお菓子で、何が流行りの音楽とかそういう話についていけるのですか?」
息を吸い、続ける。
「コアはパチュリー様のそういうところが心配なのです。 社交性に欠けるパチュリー様が、初対面の他人とコミュニケーションを上手くとれないで、一人ぼっちになってしまうと思うと…………心配で、心配で」
「小悪魔…………。 貴女の気持ちはわかったわ」
実際に、小悪魔はパチュリーのことを大事に思っている。姉のように慕い、家族のように接している姿勢からも明らかだろう。また、司書として働かせてもらっていることも感謝している。ただ、それを素直に伝えられないから、普段はふざけた態度になってしまっているだけなのだ。
パチュリーも小悪魔のことを大事に思っている。だから、本心では心配しているのだろう、ということも理解できる。もちろん理解はできるけど、と眉を顰めながら言葉を発する。前置きの言葉だ。
だけどね、と、
「それとこれとは別よ。 態々、腹の立つ言葉を選択する辺りに悪意を感じるの」
「あ、悪意なんて、そんなつもりじゃないんです。 本当に、さっきの言葉に他意はないんです」
「他意はない? ねぇ、小悪魔。 他意っていうのはどういう意味か知ってる?」
パチュリーは近くにある辞書を手に取ると、“他意”と書かれた項を引き、それを読み上げる。
「本心とは、別の考えや意味、隠された意図のことを“他意”って言うの。 そこで、疑問なんだけど、貴女はさっき、自身の言葉に他意はないって言ったわよね? それってつまり、本心ってことでいいのかしら?」
「あうあう……何てねちっこい、そう、まるで姑のような揚げ足とり!!」
「誰が姑か。 そういう言葉は、私よりも相応しい相手がいるでしょうに」
その言葉に、小悪魔は軽く目を瞑り、思案する。記憶領域にアクセスし、知りうる情報の中から適役を検索する。該当件数一件。確かに、娘から孫のような存在がいるではないか。なるほど納得です、と頷きながら、その者の名を告げた。
「つまり、隙間妖怪ですね?」
それを発した瞬間、小悪魔の背後の空間が裂けて、その隙間から、白く細い女性のものであろう腕が飛び出してきた。左右の手は拳を握っている。握られた拳は、うんうん、と自分の答えに満足している司書の頭に添えられ、
「うきゃあああああああ!? 痛、何これ!? 何、痛ふあんああんあんああん!!」
頭を左右からぐりぐりと捻るように圧力を加え始めた。パチュリーはその攻撃を知っていた。ジャガイモ頭の少年が主役として登場する書に書かれていた“ぐりぐり攻撃”なるものだ。余程、痛いのだろう。微かに、目に光るものがある。
まぁそれよりも、と小悪魔を無視して、
「ごめんなさいね。 うちのペッ……じゃなくて、司書が無礼をはたらいてしまって」
「パチュリー様、パチュリー様! 痛いです痛いです、助けて下さい!! それと今、コアのことをペットって言いかけませんでした?」
雪人は微笑を浮かべながら、いや、と否定し、
「魔女殿。 こちらも些か、言葉が過ぎたようだ。 謝罪しよう。 だから、どうか司書君をあまり叱らないでやってくれないかな?」
どうやら、隙間妖怪とのじゃれ合いは終わったらしい。はぁはぁ、と息を荒くする小悪魔がいかにも死に体といった感じで、
「いい加減にしないと……はぁはぁ。 その昔……はぁはぁ、お嬢様でさえその威力に回避行動を取るしかなかったコアの奥義、真空破壊拳を打ち込みますよ?」
「本当にごめんなさいね。 この子はね、現実と妄想を混合させてしまう節、要するに妄想癖持ちの変態なの」
神妙な顔で告げられて、雪人はそれなら仕様がない、と曖昧に微笑む。まるで、哀れむような笑みにも見え、気の毒だなぁと言いたげにも見える。なんにせよ、気に入らない。
「変態に、まるで変態を見るかのように見られました……何ですか、この屈辱は!」
「こら、少し言葉が過ぎるわよ。 立場を弁えなさい、この方はお客様なのよ?」
「しかし、パチュリー様ぁ」
「しかし、じゃない。 貴女が脱線させるから、さっきの自己紹介から話が進まないじゃないの」
真面目な顔で自分を叱るパチュリーの背後、招かれた客人、雪人は唇を持ち上げて笑みを浮かべていた。先程、咲夜に笑いかけたものと違い、それは人を小馬鹿にしたような笑みである。
気に障る笑みだ。小悪魔が睨みつけると、彼はますます笑みを強くし、唇を動かせた。声は出していないようだが、実際に紡がれたとすれば、その言葉は、阿呆だろうか。
「ぱ、パチュリー様! 今、あの“呪い憑き”がですね、コアのことを馬鹿にして笑ってました」
思わず言葉を発するも、その言葉を耳にしたパチュリーが背後を振り向いた時には、彼の顔に浮かんでいた笑みは潜んでおり、
「済まないね。 元来、このような顔で勘違いされることがあるのだよ。 気分を害したようなら、謝罪しよう」
困った顔、眉尻を下げた申し訳なさそうな顔で頭を下げるところだった。
…………あの野朗。 なんていう陰険策士ですか!? コ、コアのことを嘗め腐った態度といい、一度、がつんと言わないと気がすみません!
「そんな、謝罪なんて必要ないわ。 おおかた、この子の勘違い、若しくは妄想でしょう。 それよりも本当にごめんなさいね。 気分を悪くされたかしら?」
「まさか。 万が一にも、そんなことは在り得ないよ」
やけに自信満々に告げる雪人の言葉に、パチュリーは首を傾げた。
「どうして在り得ない、なんて言えるのか訊いても?」
復讐のチャンスは思ったよりも早く到来した。このような会話の場合、気障な男が口にする台詞というのは大概、読めるものだ。邪魔してやる、と小悪魔は両者の間に割り込んだ。体勢だけでなく、実際に言葉としても。
嬉々とした笑みで、
「君に出会えたから、とか甘い言葉を囁いて、パチュリー様のポイント稼ぎをするつもりなんでしょう!? へへん、そんな気障な台詞は“呪い憑き”には似合わないですよ」
「…………」
「ほら、黙った! コアの予想は的中ですね!! いいですか? コアの目が黒い内はパチュリー様のポイントは稼げないものだと知りなさ――――痛っ!?」
小悪魔はほくそ笑んでいた。視界に、おそらく自分の言葉を奪われて困惑している変態をおさめながら。気に入らない相手を、もしくは狙った獲物を陥れることに興が乗るのが、悪魔の本質だと言うのならば、今の小悪魔はまさにそうであった。実際に、いい気味だと思う感情が乗った声は喜色に富んでいる。
しかし、その喜色に富んだ声は突如、背後からの衝撃に遮られた。頭を鈍器で殴打された衝撃だ。いきなりのことに混乱しながら、衝撃が襲ってきた背後に振り返ると、前髪で表情が伺えないパチュリーが幽鬼のように立っている。その手に、自分を殴ったであろう、重たい書を携えて。
「ちょ、何でパチュリー様が、コアを叩くんですか? コアは、コアはですね、変態の戯言からパチュリー様を守ろうと必死に、“テックルー返し”で応戦したのに……ッ」
「………………余計なことを」
「パチュリー様? 今、何か仰いましたか?」
「………………ちっ」
「ぱ、パチュリー様?」
「………………ちっ」
舌打ちの音が聞こえた気がしたが、小悪魔はそれについて言及できる勇気はなかった。
再度、パチュリーに視線をやると、俯いていることもあるが前髪に遮られてその表情は伺えない。しかしながら、何やらご機嫌斜めな雰囲気を発している。何か自分の落ち度はあっただろうか。無かった筈だ。この対応に、至らない点はないと自負している。
では、何が気に食わなかったのであろう。そのようなことを考えていると、小悪魔の脳裏にとある単語が過ぎった。その単語とは、オジコン。
…………まさか、本当に“オジコン”? こんな“呪い憑き”に甘い言葉をかけてほしいと言うのですか?
パチュリーから、気に入らない雪人に視線をやる。グレイの髪を掻き揚げながら、彼はにやり、と小悪魔に笑みを向けた。悩むこちらの姿を見て嘲笑っているかのような笑みだ。悪魔のような男である。
…………パチュリー様といい、この“呪い憑き”といい、隙間妖怪といい、どうしてこんなに変態ばっかり!
同時に悟った。
周囲には常識人が皆無であり、皆が変態ばかりで、常識人である自分には身が重い、と。
「うわぁああああん!! パチュリー様の馬鹿、オジコン! オジ専! 乳お化け! 淫乱雌猫!」
そう言葉を残し、変態達の重圧に耐えられなくなった小悪魔は、図書館の扉へと駆けて行った。行き先は、彼女の友人であり、よき理解者でもあり、尚且つ数少ない常識人の友人の所へだ。
「パチュリー・ノーレッジ君だったね。 先程は、きちんと挨拶できなくて悪かった。 改めて名乗ろう、私は雪人。 以後、お見知り置きを。 早速だが、ノーレッジ君は私に一体どのような御用なのかな?」
こちらこそ宜しく頼む、といった旨を伝えたパチュリーは微笑を浮かべ、
「実は、貴方の魔法特性に興味があるの。 もし宜しければ見せて頂けないかしら? 無論、対価は払うつもりよ」
「いいとも。 存分に魅せてさしあげよう。 ただし、対価はきちんと貰うよ。 いいね? それは――――」
走り去っていく背後で、そんな会話を聞いた気がした。最後に不穏な言葉が聞こえた気がしたが、小悪魔は聞いていない振りをして扉の外へと加速した。部屋の前で誰かいたような気がしたが、それどころではなかった。彼女は、心の安寧のために加速に徹するしかなかったからである。
∫ ∫ ∫
彼女が地下の部屋から飛び出し、謎の気配を追って、図書館の前に来た時だ。室内からの叫びと同時、赤い弾丸が走り抜けてきた。彼女はその存在に見覚えがあった。図書館の司書、小悪魔だろう。涙声で走って行ったが、何かあったのだろうか。なんにせよ、
「小悪魔はいつもいつも飽きもせず、テンション 高くていいね」
素直に、そう思う。それも一種の才能だろう。多少、羨ましくあった。
また、司書は何やら、「オジコン」「オジ専」などという言葉を叫んでいたが、長年、半ば軟禁生活にも似た環境で過ごしていた彼女にその言葉の意味はわかなかった。
…………どんな意味なのかしら? 後で、お姉様か、咲夜にでも訊いてみようかな。
純粋な知的好奇心に従い、後でそのことを訊ねるんだ、と彼女はその言葉を脳裏に刻みつけた。後に、その質問を投げかけられら姉がひどく困惑するとも知らずに。
「パチェの所に、あの変なのがいるのかな?」
興味は再び、謎の気配の主に移った。小悪魔が開けっぱなしにしていた扉から、そっと室内を覗く。
「わぁ……」
直後に、彼女は感嘆、決して小さくはない驚き声を漏らした。室内のその光景に思わず、彼女の大きな瞳がますます大きくなる。好奇心が刺激される。視界の先に広がるものに魅了されていたのだ。
彼女の視界の先に広がっていたものとは…………。
――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
クリスマス・イブ。私は当初の目的を果たせないでいた。手の中にあるのは、猫耳。