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No.12007の一覧
[0] 侵食する変態と幻想庭園 【東方Project】[真・妄想無双](2011/02/13 09:00)
[1] Act.1-1  伊達男と幻想庭園[真・妄想無双](2010/07/13 19:45)
[2] Act.1-2  [真・妄想無双](2010/07/13 19:46)
[3] Act.1-3  [真・妄想無双](2010/07/13 19:47)
[4] Act.1-4  [真・妄想無双](2010/07/13 19:48)
[5] Act.1-5  [真・妄想無双](2010/07/13 19:48)
[6] Act.2-1  名前の無い喫茶店[真・妄想無双](2010/07/13 19:49)
[7] Act.2-2  [真・妄想無双](2010/07/13 19:50)
[8] Act.2-3  [真・妄想無双](2010/07/13 19:50)
[9] Act.2-4  [真・妄想無双](2010/07/13 19:51)
[10] Act.2-5  [真・妄想無双](2010/07/13 19:51)
[11] Act.2-6  [真・妄想無双](2010/07/13 19:51)
[12] Act.3-1  咲夜からの招待状[真・妄想無双](2010/07/13 19:52)
[13] Act.3-2  [真・妄想無双](2010/07/13 19:53)
[14] Act.3-3  [真・妄想無双](2010/07/13 19:53)
[15] Act.3-4  [真・妄想無双](2010/07/13 19:54)
[16] Act4.-1  ロリータ咲夜爆誕[真・妄想無双](2011/02/13 09:11)
[17] Act.4-3[真・妄想無双](2011/07/14 03:38)
[22] Act.4-3[真・妄想無双](2011/07/14 03:36)
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[12007] Act.2-5  
Name: 真・妄想無双◆fafeda7d ID:9f2446cc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/13 19:51
“シルキー(Silky)”という存在を、ご存知だろうか。

端的に言ったらどのような存在か、と問われたら、多くの者がこう言うだろう。シルキーとは家に付き、無償奉仕をモットーとする妖精である、と。

妖精にしては非常に稀有な存在だろう。妖精とは本来、自然の延長だけあって、多くのものがホームグラウンドとするのは、自然の中である。風の妖精、水の妖精、火の妖精、土の妖精、といった属性を持つものがイメージし易いだろう。

しかし、シルキーという妖精はそうではない。先程も述べたが、“人間が住む家に付く妖精”なのである。

また、人間社会に溶け込むこの妖精は、他の妖精よりも知能が高い。炊事、洗濯、掃除から周辺警護と何でもこなす非常な存在だ。妖精としてのお茶目な性質を持ちながらも、穏やかで思慮深い、その妖精は、あまりの万能さゆえに、同じ家に仕える召使からは目の仇にされるほどである。

だが、勘違いしてはいけない。シルキーが、“のほほん”とした万年頭が春な妖精とは一線を画す存在であるということを。

彼女等(男のシルキーがほとんど見られないため、彼女と表記する)は、気に入った家に付いて無償で奉仕するが、たとえ嫌がらせや解雇を言い渡されても自分から出ていくことは、(個体差はあるが)ほとんどない。

気に入らない主人や、不当な理由で家に侵入しようとする輩(強盗等)を、ありとあらゆる能力を持って追い出す話は有名だろう。彼女等の機嫌が悪いときには、散々嬲られた挙句追い出される場合もある。最悪、排除されることもありうる。この世から。具体的には、絞殺などで。

このように、シルキーとは能力面だけでなく性格等も、他の妖精とは一線を画した妖精なのである。(自称サイキョーの妖精のように、妖精としての性質も持ってはいるが、個体差により度合いは異なる)

余談であるが、シルキーが“シルキー”と呼ばれる所以は、彼女等が絹の服を好んで着ることから Silky 。総ての固体が、絹の服を着ているというわけではないが。更に余談であるが、彼女等は割と美人の姿であるらしい。


     ∫ ∫ ∫


その日の“とある変態の喫茶店”での話だ。

朝の十一時頃、あまり朝が得意というわけではないルーミアは、ベッドの上で目を覚ました。直後、寝すぎたよー、と慌てて喫茶店に行く準備を整え、やや小走りで店へと向かう。

眩しい朝日に眉を顰めながら、それを遮るため、自身の周囲に暗闇を発生させる。彼女の能力である【闇を操る程度の能力】だ。僅かに外の様子が覗けるように闇を展開し終えたルーミアは、トテトテ、と歩き出す。今日も平和だなぁ、と思いながら。

道中、喫茶店の周囲には、雪人が趣味でやっている花壇がある。風見 幽香の花畑と言わないまでも、それなりに色取り取りの花が溢れるている華やかな場所だ。そんな中、ルーミアの友人である氷の妖精“チルノ”、大妖精の“大ちゃん”の姿は見えないが、その代わり、色んな妖精がその周囲で遊んでいた。

暖気と陽気を好む妖精達の中で、寒い友人は除け者にされていないだろうか、と少し心配になりながらも、その光景を見ていたルーミアは「はっ」とし、

「早くいかないと、ゆきとに怒られちゃう」

思い出したかのように花壇を後にした。

大した距離もないので、店には特に時間もかかることなく直ぐに到着した。いつも通りの店を見上げながら、扉を開く。

すると、これまたいつも通りの光景が広がっていた。相変わらずアレな雪人に、暢気に話しをする里人、忙しなくオーダーを受けたり商品を運んだりする給仕の姿、といつも通りの。

「にゅ? 今、何か変なのがいたような……」

注意深く見なくても分かる。なにせ、もはや自分の領域のようなものだ。その分、異物には敏感になる。そして、その異物というのが給仕だ。それも、見知らぬ給仕の少女である。白のシャツの上に、黒いジレ、首下にはアクセントとなるように赤いタイが結ばれている。下半身は黒のミニスカートに、同じく黒のニーソックスだ。細い体の少女にはよく似合う格好であった。華やかな格好をした給仕の少女は忙しなく、店内を行き来している。

…………誰、あれ? それにあいつが着てるのって……?

よく見ると、彼女はルーミアがいつも愛用している熊のエプロンをかけているではないか。自分の仕事を、お気に入りのエプロンを盗られたルーミアは、気に入らないと思いながら、

「それ、ルーミアのだよ。 勝手に使わないで」

目の前まで歩みより告げると、オーダーを受けていた彼女が振り返る。肩の高さで揃えられた赤い髪が宙を舞う。振り返り、顔が露になる。綺麗な黒曜石の瞳が、ルーミアを捕らえた。

可愛いというよりは、綺麗という顔だ。ただし、

「………………」

「な、なによぅ」

人形のような顔だ。その無表情な顔に思わず、戸惑いにも似た声が漏れる。感情が読めない。八雲 紫とはまた違ったやりにくさだ。紫は飄々としていて、意味のわからない、脈絡のない、理解不能な言葉で相手を翻弄するが、この少女はその反対だ。無表情ゆえに何も読み取れない。

やがて、その少女は興味をなくしたかのように、ぷい、とルーミアから視線を逸らして、雪人のところへとオーダーを渡しに行った。直後に、正体不明で異物に対して、気に入らない感情が波のように溢れてくる。喫茶店に給仕がいるのは何ら不思議なことではないが、しかし、その役目を負っているのは自分のはずだ、という思いから。

「意味わかんない…………ゆきとーッ。 あいつ、何なの!?」

その感情を言葉に乗せて、雪人に問う。これはどういうことなんだ、と。

しかし、雪人はというと…………。

最近、妙に顔を見かけるようになった魔法使いの少女と会話を楽しんでいた。彼と言葉を交わしている魔法少女の名は、アリス・マーガトロイド。

人形遣いの少女だ。どういうわけか、性格に多少の難がある彼に対して、嫌悪感は抱いていないようだ。それどころか、アリスの顔には笑みの形が浮かんでいる。珍しいこともあるものだ、と彼を知るものならば、そう思うだろう。なにせ、咲夜曰く、理性的にイカレた人間(変態)なのだから。やはり、“魔法使いという種族”は人間とは違うのかもしれない。感性や嗜好などといったもの辺りが。

なんにせよ、雪人とアリスの仲が悪くないのは確かなようだ。ルーミアの視界の先、二人が笑い合っている。

…………なんだか、変な感じ。

仮初とはいえ、父親にも似た存在を盗られたことで生じた幼い敵意だ。正体不明の給仕のことに加え、少女にとって気に食わない出来事がまた一つ増えた。

雪人が珍しくカウンターの向こう側ではなく、アリスと話をするために客席側に座っていることも、その感情を刺激する要因の一つなったのかもしれない。


     ∫ ∫ ∫


「それでね、店主。 魔理沙から聞いたわよ。 なんでも通常の商品よりも、魔力を凝縮して創った、より上位のものがあるそうじゃない?」

雪人の燕尾服のタイを締め上げるアリスは、とてもイイ笑顔を浮かべながら、そう告げる。

「アリス君……何やら、笑顔が怖いのだが気のせいかね?」

「気のせい気のせい。 それよりも、早く出しなさい」

目を細めて笑みの形を作っているのだが、違う角度から見れば、別の表情が見えてしまいそうだ。具体的には、サイコロのように。

余程、より上位な菓子に興味があるのだろう。魔法使いという存在は、知的好奇心旺盛な学者と似たようなものだな、と思いながら、

「確かに、君のような可愛らしい女性に贈り物をするのも悪くない」

雪人は、酷く自然にアリスの腰に腕を回し、

「だが、私としては口付けという名の贈りものを、君から貰いたいところ」

口説き始める。尤も、飄々とした笑顔が悪いのか、それとも彼の性格そのものがいけないのか、彼が幻想郷にきて口説きに成功した試しなど一度もなかったが。

彼に纏わり付く呪いの力を以ってすれば、里娘のように呪いに対する抵抗が低いもの相手ならば、ハーレムを作ることも不可能ではないだろう。だが、それを良しとするほど、彼は紳士道を捨てているわけではなかった。殺人鬼には殺人鬼ならではの“法”を、紳士には紳士ならではの“美学”を持っているのだ。彼のような男の美学(ダンディズム)を、理解してくれる女性がどれほどいるかは疑問であるが。ちなみに以前、八雲 紫はこれを意味不明だと投げ出した。

「あら、やだ。 随分と節操の無い紳士さんもいたものね」

一方、アリスはというと特に気にした風もない。ここで顔を赤らめるなどの判りやすい反応があったりすれば、雪人も報われるのだが、現時点の反応からでは少々難しいだろう。

「それだけ、君が魅力的だということだ。 どうだい? 私と共に、『愛とは何ぞ?』という問いの答えを探しに行かないか?」

まるで、どこぞの三重スパイのような甘い声だ。その言葉に少し考える素振りを見せたアリスは、なら……参考までに問うけど、と前置きし、

「私だけを愛してくれると誓ってくれるの? 貴方の紳士としての誇りにかけて」

「君がそれを望むのならば」

「いまいち、信憑性がないのよねぇ。 その程度じゃ、女の子の心は動かせないわよ。 もう少し、こうね? 世界の総てを敵にまわしてでも愛してやる、ってくらいの熱意じゃなきゃ」

彼の口説きに対する姿勢は全然駄目なようである。

少女の言葉に、僅かに考える素振りを見せた雪人は、普段の飄々とした笑みを引っ込めて、

「では、“幸せになるために恋をして、満たし合うために愛し合う”という言葉が信条な、私の嫁になってくれ」

毅然とした表情で告げる。ギャップ萌え作戦に出たようだ。しかし、正々堂々と正面から策を弄するも結果は芳しくなかった。

雪人の言葉を耳にしたアリスは、呆れたように溜息を零し、

「いい? 変態店主にでも解るように言ってあげるから覚えておきなさい。 恋っていうのは、“する”ものでも“される”ものでもないわ。 恋っていうのはね、気がついた時には“落ちている”ものよ」

一気に喋り終え、紅茶で喉を潤した。

やはり、今回の口説きも駄目だったようだ。彼の努力は果たして、この先、報われることなどないのではなかろうか。

「ぐぅ、の音も出ないとはこういうことを言うのだろうね。 いやはや、いやはやいやはやいやはやいやはやいやはやいやはやいやはやはっはははははは!!」

いきなり狂ったように笑い出した雪人に、アリスは問う。いつでも鎮圧可能なように、魔法の術式を構えながら、

「ちょっと、いきなりどうしたのよ? まさか、魔法の森に自生している茸を食べたんじゃないでしょうね? もしそうなら、正気に戻してあげるから安心なさい。 主に武力行使という方法だけど」

「いや、別にそのような物を食していないが。 というか今、さり気無く酷いことを言われたような気がするのだが……」

「気のせい気のせい。 私はちゃんと現状を認識できているわ。 つまり、素で狂ってるのね?」

「そうではない、そうではない。 やはり、君は面白い女性だと認識させらると同時に、実に愉快な気持ちにさせられただけさ。 いやぁ、都会派魔法使い君は実に愉快だよ」

腹を抱えて笑みを零す。悪意も他意もない純粋な笑みだ。三十路男には、その子ども染みた笑みが不思議と似合っていた。

自身のことが原因で笑われているアリスは憮然とした表情で、

「何か釈然としないものを感じるけど、まぁいいわ。 それよりも、それだけ笑わせてあげたんだから対価くらい寄越しなさい」

対価という言葉で、彼は思い出す。先程まで、裏メニューの、より上位な菓子の話をしていたことを。彼女はそれを要求しているのだろう。

雪人としては、好みの女性と楽しい時間を過ごせたこともあり、彼女の願いに応えるつもりであった。

「ゆきと」

しかし、

構わないよ、と口を開こうとしたところ、彼を挟んでアリスの反対側からかけられる声があった。ルーミアの声だ。

先程まで、彼等が非常に仲良く談笑していただけあって、間に入っていくのを躊躇しているのだろうか。おずおず、といった感じで二人のもとに歩んできた。

「寝坊助さん、寝坊助さんのルーミアか。 まずは、おはよう。 難しい顔をしているが、どうかしたのかい?」

「うん、おはよう。 あのね、ゆきと……あいつ誰?」

ルーミアは、見慣れぬ給仕を指差しながら問う。先程の赤毛の少女の正体を。

「誰? 誰とは一体、どの対象を指して問うているの…………誰だ、あの子は?」

指が示す方向に視線を向けた彼は、眉を顰めて、訝しむように首を傾げた。というのも、雪人も知らない給仕が自身の店で忙しなく働いているのだから。それも、いっそ清清しくなるほどの働きぶりだ。

「誰って……貴方のところの給仕じゃないの? さっきも、オーダーを持ってきてくれたり、あの子に商品を運んでもらったりしてたじゃない」

「てっきり、ルーミアだとばかり。 というのも、アリス君の唇を注視することに忙しくて気がつかなかっギュホ……!?」

雪人のタイを締め上げながら、

「何ですって?」

イイ笑顔で話しかける。

「絞まってる、絞まって……オーケー理解したぞ、アリス君!! これは、“私を束縛して、旦那様!”という遠まわしな誘いだね!? なるほど、なるほど挙式を」


・――――戦符「リトルレギオン」


首を絞めながら、アリスは懐からスペルカードを取り出し、発動させる。すると、何処からか複数の人形が表れた。

【上海人形】と呼ばれる、“人形遣いアリス”の愛用するものの一つだ。人形達の手には、槍やら盾やらが握られている。まさに“小さな軍団”という言葉が相応しい。

「「「シャンハーイ!!」」」

人形操術だの、ファランクスシフトがどうのこうのなど、と頭に浮かんでは消えていく雪人の眼前、

「あ、アリス君、待ちたま、痛い痛いではないか。 そして、首が絞まっ」

人形達は武器を手に突撃を慣行した。アリスも手加減をしているので大した怪我にはならないはずであるが。タイを締め上げられながら、上海人形のチクチク攻撃に晒されている雪人の顔からは、少しばかり苦悶の色が見て取れる。

そんな雪人に満足しつつ、

「それで、本当にあの子に見覚えがないのかしら?」

難しい顔をしたルーミアに確認を込めた意味で

「知らないわー。 大体、ゆきとがくれたエプロン、勝手に使わないでほしいのにー」

唇を尖らせる少女に、アリスは何か思うことがあったのか、目を細めた。まるでどこぞの母猫のような、やたらと生徒を試すことが好きな先生のような表情だ。

「なによー? どうして笑ってるの?」

何故、笑われたのかわからない。その真意を問おうとしたところ、件の赤髪少女がルーミア達のもとへとやって来た。その手には、オーダーが書かれた紙切れがある。どうやら、それを雪人に渡しに来たようだ。

「…………」

「この場合はご苦労様でいいの、かな?」

雪人が、無言と共に手渡されたオーダーを受けとると、少女は一礼し踵を返す。しかし、余りに不自然なほど違和感を抱かせない少女に、

「待ちたまえ。 先程からあまりに甲斐甲斐しく、それも自然に働いてくれていたから気がつかなかったが、君は一体何者かね?」

雪人は疑問するために、踵を返す腕を握りしめる。

「…………」

その問いかけに、給仕の少女は口を開くことなく、代わりに沈黙を持って応えた。

「趣味は? 特技は? 好みの男性は……わかった真面目に行こう。 だから、槍を向けるのをやめてくれ」

答えてくれないことにどうしたものか、と思いつつ適当な言葉を発する彼にリトルレギオンの槍が向けられた。少し黙れという意思を汲んで、降参だ、と腕を上げる。

「わかればいいのよ。 それで、あなたはどうして此処で働いているの? 店主の知り合いというわけでもなさそうだし、何か理由があるのかしら?」

「…………」

アリスの問いも、雪人と同様に沈黙を持って応えられる。変態は兎も角、常識人を自称する彼女としては、己の問いまで完全無視されるとは思わなかったのだろう。何か気に障ることをしただろうか、と小声で雪人へと問いかける。

すると、雪人は真面目な顔で頷いて、

「おそらく、私と君の間柄に嫉妬したのだろうね。 それが気に入らないから、無言という形を持って抵抗してい――」

「少しお話しましょうか。 主に、暴力的なやりとりで」

真空破砕拳だの、天上天下無双拳だの、超絶魔力強化拳だのの技名と共にドスドス、と打撃音が響き渡る。ルーミアはそれを、無視して、

「あーもー。 それで、あんたは何をしたいの? どうして、私のエプロンをつけてるのー?」

憮然とした表情で問いかける。

「…………」

またもや沈黙で返される。要領を得ない返答、状況に段々と苛立ちが積もってくる。「あのねぇ――」少女からその感情が少しだけ溢れそうになった時、

「では、困った時の会議といこう。 諸君、何か気がついたことがあったら、教えてほしい。 まずは、ルーミアからだ」

拳の跡が残る顔をした雪人に、膝の上に抱き上げる。その問いかけに、彼女の口からは別の言葉が零れる。

「ええと、じゃあね。 あいつから人間の気配がしないよー」

アリスはその言葉に、でも、と前置きし

「妖怪や魔法使いというわけでもなさそうね。 私の勘じゃあ、妖精だと思うんだけど」

しかし、と雪人が続ける。

「妖精というものは自然がホームグラウンドな筈なのだが……。 好き好んで喫茶店の仕事を手伝うような妖精などいただろうか」

「四大属性持ちの妖精じゃない、のかしら。 となると、ニンフ? バンシー? コボルト? 絹の服じゃないけど、シルキーっていうのも考えられるわね」

最後の言葉に、ぴくん、と少女の眉が跳ねた。どうやらあながち、アリスの推測は間違いではないようだ。

「ふむ、そうか。 では、問うてみようではないか。 君は、私のパーフェクトな人柄に惹かれて馳せ参じ、幼い恋心に戸惑いながらも、この店で働くことにしたシルキーかね!?」

両サイドからの拳を顔面に受けながら、発せられた問いに、シルキー(仮)は少しばかり悩む素振りを見せて頷いた。尤も、彼女が頷いた部分は「この店で働く」というところだけなのだが。

適当に頷いたのが悪かった。

なにせ、変態を調子づかせる行動に繋がったのだから。少女の肯定に、雪人は行儀悪くも椅子の上に立ち上がる。店内の客に対して、まるで演説でもするかのように大仰な仕草で、

「里の愚民共、理解したかね!? この私のッ!! モテる男の魅力というものを……ッ!!!」

雪人の言葉を受けた里人(男)はというと、

「ち、ちくしょう……!!」「な、何であんな変態がフラグ建ててんねん」「り、理不尽だにゃー……」「そんなふざけた幻想……俺がぶっ壊す!!」

信じられない思いをぶつけるように、飲食代をカウンターに叩きつけ、泣きながら駆け出して行った。余程、悔しかったに違いない。

「か、勘違いするなよ。 別に悔しくなんかないんだからなッ!! 俺のところにもいずれなぁ、座敷童子タンがやってくれるんだからなぁああ」

よく見たら、里の問題児扱いされている森田 一樹の姿もそこにあった。今日もルーミアを見にやってきていたのだろう。

「おいおい、座敷童子が問答無用で幸福だけを運んできてくれるわけないだろうが、常識的に考えて」

彼をフォローする坂上の姿も見える。家に居ても、嫁がアレだから逃げてきたのであろう。

余談であるが、坂上が言うように【座敷童子】という存在は、必ずしも善ではない。善と、それと対になる面を持つ妖怪である。確かに、座敷童子がやってきた家は、彼(彼女)を大切に扱うことで、思わぬ幸運を得ることもある。 しかし、座敷童子は必ずしも幸運を呼び込むわけではない。座敷童子が住み着くことにより幸運が舞い込む一方、暴力を振るったり、不当な扱いをしたりなどしてしまうと、当然だが家を出て行ってしまう。

その際、座敷童子が“赤い顔”、または“赤い着物”を着たり、“赤い桶”を持ったりしていたら凶事が起こることの前触れである。それでまでの幸運とは打って変わって、怒涛の如く不幸に見舞われることとなろう。火災、殺人などの不幸に。

閑話休題。

里の男共が奇声を上げて走り去った後、雪人はさて、と口を開いた。

「愚民共が去ったのは置いておいてだ。 シルキーというのは気に入った家に付いて、奉仕する妖精だったね」

「ええ、確かそうだったはずだけど……ねぇ、あなたは本当にシルキーなの?」

その問いに、シルキーは頷く。やはりシルキーで間違いないようだ。それに満足した雪人は、

「そうか。 では、シルキー君。 此処で働きたいと望むのなら、自由に働くといい」

人手が足りないと思っていた雪人は即断した。丁度いい、と。また、シルキーというのは有能であり、気に入った家に奉仕し始めたら中々出て行こうとしない、ということも知っていたのも大きな理由だ。

しかし、それが気に食わないと思うものがいた。ルーミアだ。少女は唇を尖らせ、

「そんな変な奴がいなくても、私が頑張るもん」

何が気に入らないのやら、珍しいことに拗ねた表情を浮かべている。雪人がどうしたものかと困った顔で、アリスに視線をやると、彼女は呆れ顔で、『鈍感』と唇を動かした。


     ∫ ∫ ∫


吸血鬼の館である紅魔館。その地下に、蔵書が多数保存されている【大図書館】と呼ばれる書斎がある。

書斎の主は、紅魔館の主【レミリア・スカーレット】の友人である【パチュリー・ノーレッジ】。職業が魔法使いの魔理沙とは違い、生まれた時からの種族が魔法使いである、生粋の魔女だ。

彼女はその日も、地下だけあって風通しが悪く日当たりもなく、かび臭い書斎で、魔道書に目を通していた。本の虫、知識まみれの少女という言葉がぴったりくるほどの読書家である。

いつものようにネグリジェ姿のパチュリーは、魔道書の次の項を開こうとした瞬間、

「あら、咲夜じゃない。 紅茶の時間にはまだ早いけど、どうかしたの?」

友人の従者である十六夜 咲夜が難しい顔をして、図書館に入ってくるのを見て、その動きを止めた。視界の先、基本的に完璧超人である彼女が思い悩んだような、難しい顔をしていることに僅かばかり驚きながら、そのことを問うてみる。

「何か粗相をして、レミィに怒られたの?」

昔の記憶が蘇る。懐かしい記憶だ。当時の咲夜は、粗相をする度に怒られては、落ち込んでいたわね、という古臭い思い出。

「いえ……そういうわけではないのですが。 少し、パチュリー様に相談したいことが御座いまして。 構わないでしょうか?」

「相談? 別に構わないけど」

珍しいこともあるものだ、と思いを抱いていると、彼女が何かを手にしていることに気がついた。可愛らしい袋に詰められたそれからは、甘い香りが漂ってくる。おそらく、何かの菓子だろう。

「もしかして、その手にしている物のことかしら?」

「ええ。 外で買ってきたクッキーなのですが、パチュリー様はこれをどう思います?」

パチュリーは手渡された袋を開く。すると、思ったよりも、食欲を刺激する香りが零れる。

…………とても美味しそうね、なんて答えは求めていないのでしょうね。態々、魔法使いである私のところに尋ねてくるくらいなんだから。 だとしたら…………。

魔道書を閉じ、机の上に置く。咲夜が申し訳なさそうな表情を浮かべたのに、気にしないで、と軽く手を振る。そして、袋の中からクッキー取り出してみた。

それは作者が余程、愛を込めたのだろう。とても丁寧に作られていた。もしかして、個人的に咲夜に贈り物として渡したのかもしれない。

そんなことを考えていると、少女の中に悪戯心が沸いた。

「ねぇ、咲夜」

パチュリーの悪戯心が顔に出たのだろうか。咲夜の顔が僅かに引き攣る。

「何でしょうか?」

「このクッキーを作ったの、男の人でしょう?」

「そうですが……どうしてわかったのですか?」

怪訝な表情を浮かべる咲夜に、

「ふふ、そんなの簡単よ。 だって、これには貴女への愛が溢れているもの」

直後の咲夜の表情は、筆舌に尽くし難いものだった。これまた珍しいこともあるものね、と思っていると笑みが零れた。愉快な感情だ。

そんな感情を抱きながら、手にしたクッキーを天に翳してみる。すると、突如として妙な違和感を抱いた。

「あら?」

やがて違和感は確信に変わり、驚きの感情が生まれた。









 

――――――――――――――――――――――――――――――


あとがき

次の更新の時あたりに、タイトルを変更しようと思うですが、なかなか……ぱっとしたものが浮かびません(泣)

候補としては、これだけ思いついたのですが、


・ぼくたちには幻想が足りない【東方Project】

・ぼくたちには変態が足りない【東方Project】

・とある東方喫茶店と変態紳士【東方Project】

・変態と東方喫茶店【東方Project】

・とある変態と東方喫茶店【東方Project】

・神隠しが激怒する頃に【東方Project】

・脳内世界完全無欠【東方Project】

・魔法使いの花嫁【東方Project】

・侵食する変態と幻想庭園【東方Project】


前七、八を修正のためカットしました。また後に、修正したverを載せてみようと思います。


……HDの中から、『女装少年ふぁんたすてぃいっく ユーノ!!』なる恐ろしいものが出てきましたorz


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