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No.11085の一覧
[0] 迷宮恋姫【完結】 (真・恋姫無双 二次創作)[えいぼん](2010/05/31 20:54)
[1] 第一話[えいぼん](2009/09/21 00:53)
[2] 第二話[えいぼん](2009/09/21 01:05)
[3] 第三話[えいぼん](2010/01/24 20:05)
[4] 第四話[えいぼん](2009/09/26 05:36)
[5] 第五話[えいぼん](2009/08/25 00:08)
[6] 第六話[えいぼん](2010/02/20 07:16)
[7] 第七話[えいぼん](2009/09/15 21:39)
[8] 第八話[えいぼん](2009/09/15 21:40)
[9] 第九話[えいぼん](2009/08/25 00:05)
[10] 第十話[えいぼん](2010/02/20 07:16)
[11] 第十一話[えいぼん](2009/08/27 23:37)
[12] 第十二話[えいぼん](2009/08/26 21:34)
[13] 第十三話[えいぼん](2009/09/21 08:56)
[14] 第十四話[えいぼん](2009/08/29 02:46)
[15] 第十五話[えいぼん](2009/09/21 03:04)
[16] 第十六話[えいぼん](2009/09/19 15:52)
[17] 第十七話[えいぼん](2009/09/04 23:58)
[18] 第十八話[えいぼん](2010/02/20 07:17)
[19] 第十九話[えいぼん](2009/09/21 03:40)
[20] 第二十話[えいぼん](2009/09/21 03:47)
[21] 第二十一話[えいぼん](2009/09/19 15:52)
[22] 第二十二話[えいぼん](2010/05/20 18:53)
[23] 第二十三話[えいぼん](2009/09/07 22:44)
[24] 第二十四話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[25] 第二十五話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[26] 第二十六話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[27] 第二十七話[えいぼん](2009/10/03 08:55)
[28] 第二十八話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[29] 第二十九話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[30] 第三十話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[31] 第三十一話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[32] 第三十二話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[33] 第三十三話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[34] 第三十四話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[35] 第三十五話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[36] 第三十六話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[37] 第三十七話[えいぼん](2009/09/21 00:42)
[38] 第三十八話[えいぼん](2009/09/20 23:50)
[39] 第三十九話[えいぼん](2009/09/22 15:51)
[40] 第四十話[えいぼん](2009/09/22 18:12)
[41] 第四十一話[えいぼん](2010/05/14 19:23)
[42] 第四十二話[えいぼん](2009/09/27 16:52)
[43] 第四十三話[えいぼん](2010/02/20 14:39)
[44] 第四十四話[えいぼん](2009/09/27 13:39)
[45] 第四十五話[えいぼん](2010/05/14 19:22)
[46] 第四十六話[えいぼん](2009/09/27 13:39)
[47] 第四十七話[えいぼん](2010/02/20 14:57)
[48] 第四十八話[えいぼん](2010/05/14 19:06)
[49] 第四十九話[えいぼん](2009/09/30 21:32)
[50] 第五十話[えいぼん](2009/10/02 00:33)
[51] 第五十一話[えいぼん](2009/10/03 01:57)
[52] 第五十二話[えいぼん](2010/03/27 14:36)
[53] 中書き[えいぼん](2009/10/03 16:02)
[54] 閑話・天の章[えいぼん](2010/01/10 19:35)
[55] 閑話・地の章[えいぼん](2010/01/09 11:12)
[56] 閑話・人の章[えいぼん](2010/01/10 10:59)
[57] 第五十三話[えいぼん](2010/02/01 19:13)
[58] 第五十四話[えいぼん](2010/04/14 23:22)
[59] 第五十五話[えいぼん](2010/01/18 07:26)
[60] 第五十六話[えいぼん](2010/01/20 17:42)
[61] 第五十七話[えいぼん](2010/01/31 22:16)
[62] 第五十八話[えいぼん](2010/01/29 23:27)
[63] 第五十九話[えいぼん](2010/02/03 05:56)
[64] 第六十話[えいぼん](2010/02/20 07:29)
[65] 第六十一話[えいぼん](2010/02/20 07:30)
[66] 第六十二話[えいぼん](2010/04/13 21:38)
[67] 第六十三話[えいぼん](2010/02/20 07:32)
[68] 第六十四話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[69] 第六十五話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[70] 第六十六話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[71] 第六十七話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[72] 第六十八話[えいぼん](2010/03/27 14:39)
[73] 第六十九話(書き直し)[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[74] ボツ話[えいぼん](2010/03/25 07:16)
[75] 第七十話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[76] 第七十一話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[77] 第七十二話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[78] 第七十三話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[79] 第七十四話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[80] 第七十五話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[81] 第七十六話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[82] 第七十七話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[83] 第七十八話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[84] 第七十九話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[85] 第八十話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[86] 第八十一話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[87] 中書き2(改訂)[えいぼん](2010/04/01 20:31)
[88] 第八十二話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[89] 第八十三話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[90] 第八十四話[えいぼん](2010/04/13 21:43)
[91] 第八十五話[えいぼん](2010/04/17 03:04)
[92] 第八十六話[えいぼん](2010/04/29 01:36)
[93] 第八十七話[えいぼん](2010/04/22 00:13)
[94] 第八十八話[えいぼん](2010/04/25 18:36)
[95] 第八十九話[えいぼん](2010/04/30 17:45)
[96] 第九十話[えいぼん](2010/04/30 17:51)
[97] 第九十一話[えいぼん](2010/05/05 13:47)
[98] 第九十二話[えいぼん](2010/05/07 07:39)
[99] 第九十三話[えいぼん](2010/05/30 13:16)
[100] 第九十四話[えいぼん](2010/05/16 08:27)
[101] 第九十五話[えいぼん](2010/05/16 08:31)
[102] 第九十六話[えいぼん](2010/05/18 07:11)
[103] 第九十七話[えいぼん](2010/05/22 07:52)
[104] 第九十八話[えいぼん](2010/05/31 22:26)
[105] 第九十九話[えいぼん](2010/05/30 13:59)
[106] 最終話[えいぼん](2010/05/31 22:24)
[107] 後書き[えいぼん](2010/05/31 20:56)
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[11085] 第九十三話
Name: えいぼん◆2edcbc16 ID:fd94314f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/30 13:16
黒を主体とした武骨な甲冑、その中に人の気配はない。
だが不気味な顔当ての奥から覗く2つの眼光が、それがただの防具ではないことを知らしめている。

和風リビングアーマー。
それが一刀達に迫りくるモンスター、ブシドーの正体であった。

既に敵はこちらの存在に気づいている。
この段階から交戦を避けるには、この場からの逃走が必要になるだろう。
そしてそれは言うまでもなく、ハイリスクな選択である。
なぜなら敵を撒くまで逃走するということは、その最中に別の敵と遭遇する危険性が高いからだ。
つまり一刀が如何に嫌な予感を覚えようと、最早ブシドー達との戦いは避けられないのである。

「秋蘭、援護を!」
「はっ」

主の声に短く答え、矢を番える秋蘭。
彼女の放つ矢に合わせ、春蘭と華琳が左右から先頭のブシドーに攻撃を加えた。

ブシドーに気押され、出遅れてしまった一刀だったが、いつまでも躊躇してはいられない。
中距離に最も適正がある『新・打神鞭』で後列のブシドー2体を牽制し、自分の方へと引きつける。
と言っても、そのまま敵達を1人で相手にしようというわけではない。
秋蘭や後衛の援護を巧みに利用し、正面からの戦闘を避ける一刀。
そうすることにより、華琳達が1体に集中出来る戦場を作り上げているのだ。

秋蘭の矢が3連続でブシドーの片割れに突き刺さる。
もう一方のブシドーの腕を鞭で絡め取った一刀は、強引に引っ張った直後にその手を緩めて相手の体勢を崩した。
その反動を利用して突撃する先は、秋蘭の放つ4撃目の矢をうるさげに刀で打ち払うブシドーの懐である。
ブシドーが無防備になった所で小型バックラーを叩きつけて相手に蹈鞴を踏ませ、その隙に背後へと駆け抜けて再び敵達との距離を取る一刀。

今や攻撃力もアタッカーの一角として十分に通用する一刀だったが、本来はこういったせせこましい戦い方に分がある。
ずば抜けた器用さと回避力を活かして、敵の攻撃ミスを誘う一刀。
特に『六花布靴』を使いこなせるようになってからは、その人間離れした瞬発力が一刀の戦法を一段高みへと押し上げていた。

もちろんそのような立ち回りの成否は、集中力の持続こそが最大の鍵を握る。
そして命を掛けた戦闘である以上、その消耗は激しいに決まっている。
戦っている一刀本人には、たかが数分が何倍もの長さに感じられるのだ。

「一刀、こちらは片付いたわ」
「我々でもう1体貰うぞ」

ようやく先の戦いを終えた華琳と春蘭のヘルプに、思わず一刀が気を緩めてしまったのを責めることは出来ないだろう。
しかしその隙を敵が見逃してくれる道理もまた、あるわけがない。

音もなく一刀に近づき、武器を鞘に納めて溜めの動作を行うブシドー。
その動きに一刀が気づいた時には既に遅い。
咄嗟に飛び退こうとした一刀の首元目掛けて、ブシドーの居合が一閃した。

一刀が反射的にバックラーを構えることが出来たのは、これまでの戦闘経験の賜物であった。
だがその勢いを完全に止めることまでは出来ない。
本来であれば一刀の首を刎ねていたはずのブシドーの攻撃が、バックラーを左腕ごと切断するに留まったのは、僥倖と言っても差し支えないであろう。

「あっ、ぐぅ……」
「兄ちゃん!」
「兄様!」

いくら一刀が痛みに鈍いとはいえ、さすがに限界がある。
余りの衝撃で悲鳴も出せない一刀の様子に、それまで後衛陣の傍で戦闘を見守っていた季衣と流琉が飛び出した。
だが、動き自体はさして早くない季衣達が一刀の元に到達するまでの時間は、ブシドーが再度の溜めを行うには十分過ぎる。
先程一刀を襲った必殺の居合が、今度は流琉に向けて放たれようとしていた。

「華琳様、アレを使います!」

そう言って稟が手にした砂時計を傾けるのと、ブシドーの刀が流琉の首に喰い込むのとは、一体どちらが早かっただろうか。
いや、例えそれがどちらであっても、結果は同じである。
稟を中心とした光の洪水に包まれた戦場は、時を一刀の左腕が切断される以前まで巻き戻されたのだから。

予想外の出来事に混乱して立ち竦む一刀。
だが軍師達にとっては、それも想定内である。

≪-鉄皮―≫

桂花の唱えた呪文が、一刀の体を不可侵の鋼鉄に変化させる。
ブシドーの居合であっても、無機物となった一刀を両断するのは不可能であった。
攻撃が不発となっても、ヘイト自体は大幅に一刀へ傾いている。
無為な斬撃を繰り返すブシドーを一刀ごと焼き尽くすかのように、稟が火系統6段階目の大魔術『煉獄』を解き放った。
風や桂花も不得意な火系魔術を、稟の攻撃に重ね合わせて撃ちまくる。

コストを度外視した魔術による波状攻撃は、脅威の攻撃力を持つブシドーをあっけなく火刑に処したのであった。



パーティメンバーの混乱を立て直すため、華琳は一度BF25の海岸まで撤退することを決めた。
『鉄皮』の効果で2時間は身動きが取れないはずの一刀も、水系統6段階目の魔術『解呪の聖水』により呪文を解除されたため、行動に支障はない。

まだBF26に降り立って間もない頃だったこともあり、それ以上の新手に襲われることなく無事にBF25まで戻れた華琳達。
だが海岸に着くまでには、いくらかの戦闘をこなさねばならなかった。
そして戦闘中の季衣や流琉、一刀の動きは著しく精彩を欠くものであった。

それはそうであろう、同じく命が危なかったアトランティスとの初対戦時も、立ち直るにはそれなりの時間が必要だったのである。
ましてや左腕を切り落とされた一刀が精神的に回復するのは、容易なことではない。
海岸に着くなりその場にへたり込む一刀や他のメンバーに向けて、華琳が口を開いた。

「まずは『時の砂時計』の説明ね。これは『金の天使印』で手に入れたばかりのアイテムよ。皆が体感した通り、ある程度まで時間を巻き戻す効果があるわ」
「再使用までに多少の時間が必要になります。ですから、少なくとも同じ戦闘中には一度だけしか使えないことは覚えておいて下さい」

稟が捕捉したように制約こそあるものの、『時の砂時計』はバランスブレイカーとなりうる程の神性能を誇るアイテムであろう。
唯のゲームならいざ知らず、本来ならやり直しのきかない迷宮探索においてトライ&エラーが可能となるのだから、その恩恵は計り知れない。
但し、全ては失敗を受け入れる精神力があってのものだ。

「……兄ちゃん、やっぱりボク達、この後もBF26に行かなきゃいけないのかな」
「兄様、私、怖いです。さっきだって、首を……」

心が折れかけている季衣達。
まだ幼い彼女達がそうなってしまうのも、無理はない。

だが一刀に言うべきことは、何もなかった。
なぜなら、既に季衣達には選択肢を提示してあるからだ。
このまま冒険者を続けるもよし、引退して宿屋で働くのもよし、全ては彼女達の意志である。

無言で季衣達を抱き寄せ、震える彼女達の背中を撫でる一刀。
そんな一刀自身は、一体どういう決断を下したのだろうか。

一刀には宿屋があり、『伊吹瓢』もあり、『真珠』という金策まである。
今後の生活に困ることは、まずありえない。
しかも今回の依頼である「Gキング討伐」は、既に終了しているのだ。
ここで一刀が冒険者を辞めることを選んでも、責める者など誰もいないだろう。

「『時の砂時計』については分かったけど、もう一度BF26に挑戦する前に、ブシドーの居合について十分に対策を練った方がいいと思うぞ」
「当然そうするつもりだけれど……本当にいいの? 季衣や流琉と一緒に洛陽に戻っても構わないのよ? もちろん他の皆も、クランからの脱退は好きになさい」
「もう少し休憩が必要だけど、俺は参戦するよ」
「なぜなの、一刀? 貴方は私のクラン員ではない。危険を冒す必然性なんて、ないはずよ」
「それは、その……」

口ごもる一刀。
だが華琳に促されて、しぶしぶ自分の思惑を説明した。

「もちろん華琳達が心配なのも理由のうちだけど、正直に言えば『時の砂時計』があるからだな」
「いくら時を戻せると言っても、稟が説明した通り絶対に安全というわけじゃないのよ?」
「それでも『時の砂時計』を持っていない他のクランよりは、遥かに恵まれてるだろ。今回の探索で俺が敵の特性を把握出来るかどうかは、彼女達の命に直結する問題だからさ」

特に敵の攻撃を一手に引き受ける役割の蓮華が、ブシドーの居合のような技を知らぬまま戦えば、間違いなく死亡してしまうだろう。
最前線で敵にダメージを与える役割を担う雪蓮や思春だって、かなり危ないはずだ。
彼女達の命が助かるなら、手足くらい何度でも犠牲にして構わない。
それが複数の恋人を持つ一刀の、せめてもの誠意であった。

「本当は華琳達も含めた冒険者全員がこれ以上の迷宮探索を諦めてくれるのがベストなんだけどな。BF26以降の敵は危険過ぎるしさ」
「それはそれで、問題があるわ。一刀、貴方は忘れたのかしら? 迷宮探索は神々の覇権を賭けた争いの延長なのよ」
「……そうなんだっけ?」
「英雄神同士の熾烈な戦争は、伝説として残っているでしょ」
「それってそもそも、本当の話なのか?」
「漢女達による神託が、少なくとも単なるおとぎ話ではないことを証明しているわ」

戦いの余波で大陸が滅亡しないようにと太祖神が提案し、神々が作ったと伝えられている三国迷宮。
もし華琳の言う通りだったとしたら、挑戦者がいなくなった時点で太祖神の定めたルールは成り立たなくなる。
そうなれば、再び神々による直接の戦いが始まるのかもしれない。

伝説のように古の神々が受肉した状態で大陸に降臨し、再び戦乱の世となるのか。
超常の力を用いて、別次元での戦闘になるのか。

神々の争いがどのような形になるかはわからない。
だがいずれにしろ人類主導による大陸の歴史は、そこで終わってしまうことになるだろう。
もちろん太祖神のお告げを信じるならばの話だが。

「まぁ、伝説の信憑性については保留だな。どうせここで討論しても、結論なんか出ないんだから」
「そうね。それよりもブシドーの居合について話しましょうか。皆も気づいたことがあれば、進言してちょうだい」

必殺の威力を誇る居合だが、冷静に考えれば致命的な欠陥がある。
刀を鞘に納めるというモーションが分かりやすいことだ。

要するに息もつかせぬ連撃で、その行動をさせなければよい。
現に華琳と春蘭が相手にしたブシドーは、居合を1度も使わずに敗退していた。
またその読みやすい動作に注意を払っておけば、いざという時に対応することも可能であろう。

「但しその場合、受け止めるという選択は取らない方がいい。俺はちゃんと盾で受け止めたはずなのに、左腕ごと両断されたからな」
「鞘から抜き出す軌道なのだから、思い切って地に伏せるのも手ね」
「華琳様、それは危険過ぎるのでは。その後が無防備になってしまいます」
「姉者の言にも一理あるが、要は如何に周囲が上手くフォロー出来るかということだろう」

議論を重ねる華琳達。
しかし一刀は最初に発言してからというもの、その討論に加わることはなかった。
自分自身の言葉によって、左腕を落とされた時のことがまざまざと脳裏に再生されてしまったからだ。

思わず身震いをする一刀。
ずっと抱きしめっぱなしだった季衣や流琉にも、それはしっかりと伝わっていた。
しかし季衣達だって、一刀を慰めるような余裕などない。
季衣達に出来ることは、自分達が一刀にしてもらったように、自らの体温を彼に伝えることだけである。

強く寄り添い、3人はお互いの温もりを感じ合う。
まるで赤子のように、それだけで何か安堵を感じる一刀。
季衣達もおそらくは一刀と同じ心地であろう。

いつしか一刀の手が、季衣や流琉の尻方面へと位置取りを変えていた。
それは一刀の復調を告げる狼煙である。

ふにふにのまロい感触を味わいながら、次戦に向けて英気を養う一刀なのであった。



当然の話だが、BF26で出現する新たな敵は、ブシドーだけではない。

凶悪な全体麻痺攻撃を使って来る目玉の怪物・バグベア。
獅子の体とサソリの毒針を持つ合成獣・マンティコア。
これまでで最大級の膂力を誇る1つ目の巨人・サイクロプス。
魔法の武器も含めた物理攻撃が一切通用しない狂った精霊・ジン。
攻撃した相手を一定確率で石化させてしまう雌鶏の化物・コカトリス。

更にはBF21から出現していた敵達も、より力を増して華琳達の往く手を阻む。
対する華琳達も、経験値は度外視した総当たり戦により、敵の特徴を調べて対策を編み出していった。
『華琳党』のパーティ効果によりHPが倍化した面子が矢面に立ち、季衣達はリザーブとして前衛陣が欠けた場合の穴埋めを行う作戦である。

結局、誰一人としてクランを抜ける者は現れなかった。
さもあろう、ここで脱退者が出るような結束力の弱いチームなど、迷宮最終層であるBF26まで辿り着けるわけがないのだ。
だがそんなものは、このフロアでは最低条件に過ぎない。

≪-受傷転写-≫

マンティコアの老人のような口から、不気味な呪文が唱えられた。
傷だらけの獅子の体が見る見るうちに塞がり、その代償として春蘭の肉体が見えぬ刃で切り刻まれていく。

減ったHPだけなら『銀の短剣飾り』で回復出来るが、体中の傷を治すことは出来ない。
しかし今の華琳達は、その上位アイテムを手に入れている。

全身を苛む痛みをこらえ、春蘭は自らに『金の短剣飾り』を突き刺した。
すると見る見るうちに体中の傷が塞がり、その上でHPまで全快となった。
しかしその事実は、『銀の短剣飾り』が不要になったこととイコールでは結ばれない。

マンティコアが魔術使いであることを知った桂花が、『沈黙の風』を唱え始めた。
だがバグベアの麻痺光線を浴びせられ、詠唱が中断される。

麻痺に掛かったのは桂花だけではない。
バグベアの麻痺攻撃は全体効果なのである。

レジストしたのは風ただ一人。
その風が周囲の後衛陣とリザーバー達を、素早く『銀の短剣飾り』で突き刺していく。
この状態異常回復効果がある限り、『銀の短剣飾り』の価値は些かも落ちないのだ。

絶体絶命の前衛陣、その麻痺を解除したのは一刀である。
毒もそうだが、なぜか彼は麻痺の効果も効きにくい。
普通なら指一本動かせないはずなのに、ちょっと痺れているくらいの感覚で動けるのだ。
さすがに石化の無効化までは不可能だったが、それでも麻痺や毒から前衛陣を確実に回復させることが出来るのは、立派なアドバンテージである。

≪-覆水難収-≫

再び『沈黙の風』を詠唱しようとする桂花に先んじて、一刀が唯一使用出来る魔術を撃ち放った。
マンティコアの使った『受傷転写』を、回復魔術の一種だと考えたのである。
一刀の推測が正しければ、マンティコアの『受傷転写』はこれで防げるはずだ。

「馬鹿なっ! 何をしているの!」

しかし一刀の取った行動は、同じく前衛でありながら魔術を使用出来る華琳から見れば、愚挙そのものであった。
確かに一刀の考えは正しいのかもしれないが、今彼がいる場所は前線なのである。
そんな中で呪文詠唱のために精神を集中させ、棒立ちとなった一刀を見逃してくれるほど、敵は甘くない。

「……え?! あぐっ!」

サイクロプスの振るう木槌が、一刀の胴体にめり込んだ。
血反吐を撒き散らしながら、吹き飛ばされる一刀。
突然魔術が使用出来るようになったことによる弊害が、これである。
前衛として立ち回る中での魔術の使い所は、血の味と共に覚えていくしかない。

一刀の抜けた穴を塞ぎ、サイクロプスに対峙する季衣と流琉。
秋蘭がバグベアに矢を放って後衛の更に後ろへとおびき寄せ、霞や凪達が取り囲む。
マンティコアと相対するのは華琳と春蘭である。

内臓がろっ骨ごと破壊されたショックに震える腕で『金の短剣飾り』を握り、体に突き刺す一刀。
たちまち一刀の傷口が塞がり、その見た目だけは健常な状態を取り戻す。
尤も後で『再生の滴』を受けねば、欠損した内臓や骨が修復されることはないのだが。

(痛みに怯えるのは、後でいい……)

『新・打神鞭』を握りしめ、季衣達のフォローをすべくサイクロプスの元へと駆ける一刀なのであった。



『時の砂時計』がなければ、間違いなく死者が出ていたであろう激戦。
戦闘ペースこそゆっくりであったものの、その死闘は華琳達のLVや戦闘スキルを確実に向上させていった。
新たな敵と戦い慣れたこともあり、探索最終日予定の今日などは、これまで『時の砂時計』を唯の一度も使用しなかったほどだ。

「このまま敵に変化がないのなら、BF30まではいずれ辿り着けるわね」
「迷宮制覇が見えてきましたね、華琳様」
「姉者、華琳様。余韻に浸るのは洛陽に戻ってからにしましょう」
「それもそうね。折角一刀がいるのだから、最後に『バミュータの宝玉』をいくつか手に入れましょう。最低でも後1個は欲しいわ」

対アトランティス戦術は、既に雪蓮達が確立させている。
折角苦労して編み出した作戦だったが、一刀は今回の探索前に予め雪蓮から、華琳達に教えることの了解を取っていた。
その代わりに一刀が持ち帰ったBF26の敵情報を教える約束なのだから、雪蓮達からしてみれば僅かな対価と言えよう。

一方の華琳達にしても、BF26の敵情報に対して一刀の口を塞ぐ権利はなかった。
自分達の編み出した特別な戦術というわけではなく、BF26にさえ辿り着けば誰しもが手に入れられる一般的な情報という扱いだからだ。
端的に言えば、雪蓮達の使用した戦術を無料で教えて貰えるということなのだから、文句の出ようはずもない。

八方美人の名を以て偽善行為の業を成す者と自己認識する一刀の、まさに面目躍如といったところだろうか。

「なによ、その謳い文句は?」
「開き直りの一種かな。華琳にしろ雪蓮にしろ、俺の利敵行為は目に余るだろうけど、もうそういう風にしか生きられないってことを、最近実感してるんだよ」
「……まぁ、貴方らしくって、いいのじゃないかしら?」
「そう言って貰えると助かるよ。さて、それじゃ次のアトランティスを釣るぞ」

BF26で死線を乗り越えたことで感覚が麻痺したのか、海岸での対アトランティス戦を一刀はおままごとのように感じていた。
『泥の形代』を使っていれば無痛であるし、例えそれがなくても『時の砂時計』があるのだから、BF26に比べて命の危険は格段に低い。

特に波乱も起こらず、3時間ほど戦って2個の宝玉が出た所で、今回の迷宮探索はあっさりと終了したのであった。



その夜、華琳邸で行われた打ち上げは、常軌を逸するほどの盛り上がりを見せた。
互いの生を喜び、数秒に一度は音頭と共に打ち鳴らされる杯。
今回の迷宮探索は、それだけ苦しく辛いものであったのだ。

いつ終わるとも知れぬ宴の最中、不意に一刀の袖を引く者がいた。
ツンデレ比率、脅威の10:0を誇る鬼ツン少女、桂花である。
普段は怒った表情しか一刀に向けない桂花が、珍しく不安げな儚い雰囲気を纏わせていた。

無言でグイグイと袖を引く桂花、彼女に誘導されるがままの一刀。
辿り着いた先は、桂花の自室であった。

部屋に連れ込むなり、一刀にしがみつく桂花。
どうしたんだ、と声を掛ける一刀にイヤイヤと大きく首を振り、桂花はその顔を胸に埋めた。
訳がわからずに戸惑う一刀に、桂花はうううっと胸元で唸る。

猫耳フードから覗く、癖のある茶色の髪。
何とはなしに、指を絡める一刀。
桂花の唸り声が激しさを増す。

一体何なのだと思う一刀の疑問に答えたのは、華琳の声であった。

「その子はね、一刀。貴方を失ってしまうのが怖かったのよ」
「華琳様?! どうして……」
「ふふっ、夜伽を命じようと貴方を探していたら、一刀を連れ込むのを見つけたの。いけない子だわ、ご主人様に隠れて男を誘い込むなんて」
「そ、それは誤解なんです、華琳様! この万年発情男が無理やり部屋に押し掛けて、私に乱暴しようとしたんです! そうだわ、そうに決まってます!」
「……そんな見え透いた嘘をつくペットには、キツめのお仕置きをしなきゃね。一刀、手伝いなさい」

そう言われて、今更躊躇する一刀ではない。
宝玉にストックしてあった『性なる神器』を取り出し、臨戦態勢を整える一刀。

ところで、本日の華琳邸の状況を再度確認しよう。
現在行われている打ち上げは、常軌を逸するほどの盛り上がりを見せていたのだ。

「華琳ひゃまー、どこでしゅかー。わらしと一緒にもっろ揉みましぇんかー」
「飲むのだろう、姉者。揉んでどうするの……ひっ」

華琳を探しにきた春蘭と秋蘭が。

「兄ちゃん、桂花の所にいるのー?」
「兄様、私達とも、もっとたくさんお話を……うわぁ」

一刀を探しに来た季衣と流琉が。

「桂花、今回の迷宮探索での反省点をツマミに飲み直しま……ぷふっー!」
「おやおやー、凄い有様なのです。……稟ちゃん、風達もこっそり混ぜてもらうのですよー」

桂花を探しに来た稟と風が。

「みんな、どこに行ってしまったのだろう」
「なんか寂しいのー」
「どうもウチら、ハブにされとる気がせぇへんか、姉さん」
「うーん、せやな。ほな、探しに行こか?」

遂には宴会場に取り残された凪達と霞までもが。

桂花の狭い室内で繰り広げられた、BF26を思わせる激戦。
その二次会は翌朝になっても終わる気配を見せず、結局次の日の夜遅くまで続いたのであった。



**********

NAME:一刀【加護神:呂尚】
LV:28
HP:527/450(+77)
MP:30/0(+30)
WG:100/100
EXP:556/9500
称号:カズP

STR:39(+10)
DEX:60(+26)
VIT:27
AGI:47(+15)
INT:28
MND:21
CHR:54(+17)

武器:新・打神鞭、眉目飛刀
防具:スパルタンバックラー、勾玉の額当て、昴星道衣、ハイパワーグラブ、極星下衣、六花布靴・改
アクセサリー:仁徳のペンダント、浄化の腰帯、杏黄のマント、回避の腕輪、グレイズの指輪、奇石のピアス、崑崙のピアス

近接攻撃力:318(+54)
近接命中率:139(+22)
遠隔攻撃力:168(+15)
遠隔命中率:128(+29)
物理防御力:229
物理回避力:142(+32)

【武器スキル】
スコーピオンニードル:敵のダメージに比例した確率で、敵を死に至らしめる。
カラミティバインド:敵全体を、一定時間だけ行動不能にする。
ホーミングスロー:遠隔攻撃が必中となる。

【魔術スキル】
覆水難収:相手の回復を一定時間だけ阻害する。<消費MP10>

【加護スキル】
魚釣り:魚が釣れる。
魚群探知:魚の居場所がわかる。
封神:HPが1割以下になった相手の加護神を封じる。

所持金:205貫


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