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No.11085の一覧
[0] 迷宮恋姫【完結】 (真・恋姫無双 二次創作)[えいぼん](2010/05/31 20:54)
[1] 第一話[えいぼん](2009/09/21 00:53)
[2] 第二話[えいぼん](2009/09/21 01:05)
[3] 第三話[えいぼん](2010/01/24 20:05)
[4] 第四話[えいぼん](2009/09/26 05:36)
[5] 第五話[えいぼん](2009/08/25 00:08)
[6] 第六話[えいぼん](2010/02/20 07:16)
[7] 第七話[えいぼん](2009/09/15 21:39)
[8] 第八話[えいぼん](2009/09/15 21:40)
[9] 第九話[えいぼん](2009/08/25 00:05)
[10] 第十話[えいぼん](2010/02/20 07:16)
[11] 第十一話[えいぼん](2009/08/27 23:37)
[12] 第十二話[えいぼん](2009/08/26 21:34)
[13] 第十三話[えいぼん](2009/09/21 08:56)
[14] 第十四話[えいぼん](2009/08/29 02:46)
[15] 第十五話[えいぼん](2009/09/21 03:04)
[16] 第十六話[えいぼん](2009/09/19 15:52)
[17] 第十七話[えいぼん](2009/09/04 23:58)
[18] 第十八話[えいぼん](2010/02/20 07:17)
[19] 第十九話[えいぼん](2009/09/21 03:40)
[20] 第二十話[えいぼん](2009/09/21 03:47)
[21] 第二十一話[えいぼん](2009/09/19 15:52)
[22] 第二十二話[えいぼん](2010/05/20 18:53)
[23] 第二十三話[えいぼん](2009/09/07 22:44)
[24] 第二十四話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[25] 第二十五話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[26] 第二十六話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[27] 第二十七話[えいぼん](2009/10/03 08:55)
[28] 第二十八話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[29] 第二十九話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[30] 第三十話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[31] 第三十一話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[32] 第三十二話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[33] 第三十三話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[34] 第三十四話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[35] 第三十五話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[36] 第三十六話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[37] 第三十七話[えいぼん](2009/09/21 00:42)
[38] 第三十八話[えいぼん](2009/09/20 23:50)
[39] 第三十九話[えいぼん](2009/09/22 15:51)
[40] 第四十話[えいぼん](2009/09/22 18:12)
[41] 第四十一話[えいぼん](2010/05/14 19:23)
[42] 第四十二話[えいぼん](2009/09/27 16:52)
[43] 第四十三話[えいぼん](2010/02/20 14:39)
[44] 第四十四話[えいぼん](2009/09/27 13:39)
[45] 第四十五話[えいぼん](2010/05/14 19:22)
[46] 第四十六話[えいぼん](2009/09/27 13:39)
[47] 第四十七話[えいぼん](2010/02/20 14:57)
[48] 第四十八話[えいぼん](2010/05/14 19:06)
[49] 第四十九話[えいぼん](2009/09/30 21:32)
[50] 第五十話[えいぼん](2009/10/02 00:33)
[51] 第五十一話[えいぼん](2009/10/03 01:57)
[52] 第五十二話[えいぼん](2010/03/27 14:36)
[53] 中書き[えいぼん](2009/10/03 16:02)
[54] 閑話・天の章[えいぼん](2010/01/10 19:35)
[55] 閑話・地の章[えいぼん](2010/01/09 11:12)
[56] 閑話・人の章[えいぼん](2010/01/10 10:59)
[57] 第五十三話[えいぼん](2010/02/01 19:13)
[58] 第五十四話[えいぼん](2010/04/14 23:22)
[59] 第五十五話[えいぼん](2010/01/18 07:26)
[60] 第五十六話[えいぼん](2010/01/20 17:42)
[61] 第五十七話[えいぼん](2010/01/31 22:16)
[62] 第五十八話[えいぼん](2010/01/29 23:27)
[63] 第五十九話[えいぼん](2010/02/03 05:56)
[64] 第六十話[えいぼん](2010/02/20 07:29)
[65] 第六十一話[えいぼん](2010/02/20 07:30)
[66] 第六十二話[えいぼん](2010/04/13 21:38)
[67] 第六十三話[えいぼん](2010/02/20 07:32)
[68] 第六十四話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[69] 第六十五話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[70] 第六十六話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[71] 第六十七話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[72] 第六十八話[えいぼん](2010/03/27 14:39)
[73] 第六十九話(書き直し)[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[74] ボツ話[えいぼん](2010/03/25 07:16)
[75] 第七十話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[76] 第七十一話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[77] 第七十二話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[78] 第七十三話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[79] 第七十四話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[80] 第七十五話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[81] 第七十六話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[82] 第七十七話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[83] 第七十八話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[84] 第七十九話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[85] 第八十話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[86] 第八十一話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[87] 中書き2(改訂)[えいぼん](2010/04/01 20:31)
[88] 第八十二話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[89] 第八十三話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[90] 第八十四話[えいぼん](2010/04/13 21:43)
[91] 第八十五話[えいぼん](2010/04/17 03:04)
[92] 第八十六話[えいぼん](2010/04/29 01:36)
[93] 第八十七話[えいぼん](2010/04/22 00:13)
[94] 第八十八話[えいぼん](2010/04/25 18:36)
[95] 第八十九話[えいぼん](2010/04/30 17:45)
[96] 第九十話[えいぼん](2010/04/30 17:51)
[97] 第九十一話[えいぼん](2010/05/05 13:47)
[98] 第九十二話[えいぼん](2010/05/07 07:39)
[99] 第九十三話[えいぼん](2010/05/30 13:16)
[100] 第九十四話[えいぼん](2010/05/16 08:27)
[101] 第九十五話[えいぼん](2010/05/16 08:31)
[102] 第九十六話[えいぼん](2010/05/18 07:11)
[103] 第九十七話[えいぼん](2010/05/22 07:52)
[104] 第九十八話[えいぼん](2010/05/31 22:26)
[105] 第九十九話[えいぼん](2010/05/30 13:59)
[106] 最終話[えいぼん](2010/05/31 22:24)
[107] 後書き[えいぼん](2010/05/31 20:56)
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[11085] 第八十五話
Name: えいぼん◆2edcbc16 ID:fd94314f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/17 03:04
「おーっほっほっほ、お久しぶりですわね、一刀さん」

豪華絢爛な室内に、麗羽の甲高い笑い声が響く。
そう、一刀が連行されたのは取調室ではなく、なぜか都市長室だったのである。
これは前回逮捕され、冤罪(?)を被せられかけた時のシチュエーションとよく似ていた。

そのことを思い出し、最大レベルで警戒する一刀。
しかし一刀が心に張り巡らせた防波堤は、一瞬で無効化された。

「この件は、不可抗力ですわね。無罪ですわ」
「……は?」
「ですから、無罪と言っているのです」

思いがけない麗羽の言葉に、あっけにとられて周囲を見回す一刀。
そんな一刀の様子に、麗羽の傍に控えていた斗詩と猪々子が捕捉を入れてくれた。

「麗羽様は暴漢が凄く嫌いなんですよ。良かったですね、一刀さん」
「どうみても華麗じゃないからさ、ゴロツキ共って。姫の美意識に合わないんだよな」

では、なぜわざわざ自分をここに連れて来たのか。
そう尋ねる一刀に、麗羽は答えを返した。

「わたしくのムネムネ団が、遂に団員数500人を突破しましたの。そこで貴方を、団長に迎え入れることに致しました。望外の幸運をお喜びなさい」
「……えっと、いくつか質問があるんだが。ムネムネ団ってなんだ?」
「あ、それは麗羽様の親衛隊なんですよ。冒険者さん達を雇っているんです」
「なんで俺が、その団長に?」
「『天意の鎖』の試練を乗り越えたから、姫に評価されてんだよ。あたいと斗詩が副団長だから、これからよろしくな、兄貴!」
「そして私が……一刀、ちゃんと聞いてくれ」

あまりの超展開に頭の回転が追いつかなかったが、それでも質問を繰り返してようやく事態が飲み込めた一刀。
その申し出を反射的に断ろうとした一刀は、しかし直前でその口を閉じた。

(……待てよ。もしかして、これが増税の原因なのか?)

いつかの桃香達の話を必死で思い出す一刀。
その時は確か、麗羽達が冒険者を雇い入れたのはPLが目的だとの情報もあったはずだ。
だがそれにしては500人は多すぎるし、麗羽達のLVも以前と変わっていない。

(って、違う! そんなことは問題じゃないんだ!)
「私が今回、副官に任命された……って、おーい、一刀?」

なぜ麗羽が親衛隊を設立したのか、迷宮攻略が目的なのか、別の意図があるのか。
その理由が何であろうと、今はどうでもいい。
現時点で重要なのは、ムネムネ団500人を集めた結果、税率がアホみたいに高くなったことなのである。
つまりこのムネムネ団こそが、諸悪の根源であるかもしれないのだ。

『シシシシ身中の虫作戦なのじゃ!』

どこかで聞いた覚えのある美羽の言葉が、一刀の脳裏を駆け巡る。
庶民の暮らしのために体を張ろうとは思わないが、宿の子供達の将来を考えるのであれば、この機会を利用しない手はない。
具体的なアイデアまでは浮かんでないが、桃香達の協力を得ることも可能なはずだ。

「わかった。その団長の役目、謹んで拝命させてもらう」
「おーっほっほっほ。やはりわたくしの見込んだ殿方だけのことはありますわね。一刀さん、ムネムネ団の更なる発展に期待していますわよ」

ムネムネ団を大陸一の精鋭にして欲しい。
細かい話は、明日にでも副官と打ち合わせてくれ。
そちらの要求には最大限に配慮する。

そう言い渡され、退出を命じられた一刀。
彼が唯一心配だったのは、肝心の副官が誰なのかまったく分からないことなのであった。



翌日の朝、副官として宿を訪ねて来た人物。
それは予想外なことに、以前一緒にパーティを組んだこともある白蓮だった。

「そういや白蓮って、麗羽に雇われてたんだっけ?」
「ええっ、そこから?! ていうか私も昨日、ちゃんとあの場にいただろっ!」
「……」
「……」
「私、もう帰る」
「あー、いたいた、今思い出した! 凄い存在感だったよ、いやマジで!」

いじける白蓮を宥め賺しながら、一刀は自室へと彼女を招いた。
早朝にも関わらず、室内には既に桃香と朱里、そして雛里の姿があった。
3人を昨日の夜のうちに呼び出した一刀は、前もって事のあらましを説明していたのだ。

一刀達の問い掛けるままに、ムネムネ団の現状の活動と賃金を説明していく白蓮。
その内容を一言で表すと、適当というより他にない。

斗詩の手が空けば街の警邏に駆り出され。
猪々子の気が向けば軍事訓練を施され。
普段は迷宮探索による自己鍛錬のノルマを課され。

それらの仕事をこなすことにより貰える給与は、なんと月に300貫。
多少の贅沢をしても、大人1人が余裕で1年間暮らしていける額である。

但し、ドロップアイテムに関する権利はない。
それに装備の買い換えだってあるし、なにより命懸けの仕事でもある。
団員の大多数が加護持ちであることを考えれば、それほど法外とは言えない金額であろう。

しかし肝心のノルマが、『月に10日以上、BF16以降に潜ること』のみであった。
そのため、無理に迷宮を攻略しなくても普通に給料が貰えるのだ。
つまり冒険者達にとってムネムネ団は、いくらでもサボれる素敵な就職先だったのである。

「というか、いくらなんでもルールがいい加減過ぎるだろ……」
「し、仕方ないだろ! とにかく加護持ちの人数を揃えろって命令だったんだから!」
「それにしても加護持ちって、いつの間にかそんなに増えてたんだな」
「頑張って増やしたんだ! 加護を受けてから、私はひたすらムネムネ団の育成をやらされてたんだよ!」

ギルドの剣奴に加護持ちが出たと聞けば、行って多額の身代金を対価に勧誘し。
街に仕事を探す加護持ちがいると聞けば、行って安定した給料を対価に勧誘し。
迷宮中層で行き詰った冒険者には十分なサポートを餌にし、有望そうな奴隷も購入して自ら育て。
そうやって白蓮は、血を吐く思いで500人にまで団員を増やしたのだそうだ。

「ところで、なんで麗羽はそんなに加護持ちを集めてるんだ?」
「それが、私にも知らされてないんだよ。最初はPLが目的だと思ったんだけど、どうやら違ってたみたいだしな」

ただ単に白蓮が忘れられてるという可能性も否定出来ないが、恐らくは重大な秘密なのであろう。
それを一刀が聞き出すには、団での実績を積んで麗羽の信頼を得るしかない。

「で、俺にはどのくらいの権限があるんだ?」
「活動資金は月に15万貫で、入手したアイテム類も好きにして構わない。それ以外でも、ムネムネ団に関することは一刀に任せるそうだ」
「例えば活動資金を倍にしてくれとか、団員の給料を減らしたいとか、人数を減らしたいとかでも?」
「資金については相談が必要だな。後の2つは、一刀の裁量の範囲内だろう」

もちろん一刀に、資金上乗せの要求をするつもりはない。
それが全て税金に跳ね返って来ることは、目に見えているからだ。
むしろ重要なのは、残りの2つである。

「そしたらさ、明日にでも団員達に色々なことを通達したいんだ。悪いけど、全員を集めてくれないか?」
「随分と急だな。それなら今すぐに動かないと。打ち合わせはもういいのか?」
「知りたいことは大体聞けたし、もう十分だ。それじゃ頼んだぞ」
「ああ。同僚としてこれからよろしくな、一刀」

急ぐ必要もないのに全体集会を明日に設定したのは、無論この場から白蓮を追い出すためである。
如何に桃香の友人とは言え、白蓮は麗羽側の人間であるのだから、ここから先の策謀を聞かせるわけにはいかない。
一刀達にとっては、今からが本当の会議なのだ。

「とにかく、人件費を減らすしかないと思うの」

という桃香の意見は、全員一致で是とされた。
だが、これはそう簡単な話でもない。

まずリストラについては、真っ先にボツである。
なぜなら麗羽は、団員が500人の大台を超えたことを誇っていたからだ。
いくら人数調整が一刀の権限内だとは言え、減らすことによって彼女の不興を買ってしまうかもしれない。
それで一刀が団長をクビになれば、再び団員数が増やされて元の木阿弥である。

では皆の給料を下げればいいのかと言えば、それほど単純にはいかない。
「今日から全員の給料50%カットね」などと告げられて、モチベーションを維持出来る人間などいないからだ。
それでは麗羽の希望する精鋭部隊など出来ようはずもないし、当然一刀も地位を追われることになるだろう。

「でもさ、現時点での人員削減が絶対に出来ないんだったら、もう給料カットしかないんじゃないか?」
「ご主人様、その減らし方を工夫する必要があるんです」
「今の均等配分を止めて、能力と成果によって差をつければ……」
「雛里ちゃん、それってどういうこと?」

・LVによって基本給を決める。
・ドロップアイテムの所有権を認め、それらを通常より高く買い取る。

これが朱里と雛里の考えた、新しい給料体系の主軸である。
つまり前者が能力、後者が成果というわけだ。

高いLV者であるほど、そしてドロップアイテムを沢山持ち帰るほど、給料が上がるシステムに変える。
そうすることで、人件費を抑えつつ団員のモチベーションを上げようという意図だった。

限られた上位者には、結果的に今までより高い給与を支払うことになるだろう。
というよりも、そのくらいで設定する必要がある。
「頑張れば今までより給料アップしますよ」という建前が欲しいからだ。

基本的なベースを適切に定めれば、15万貫のうち20~30%は経費削減が可能であろう。
もちろんそれを上限に近づけるためには、机上の計算だけではなく実地で調整していかねばならないが。

「後は浮いたお金の分だけ税金を下げて貰うように、麗羽さんにお願いすればいいよね」
「いえ、桃香様。その方法は不確実です」
「でもさ、ちゃんと話し合いをすれば、麗羽さんだってきっと分かってくれるよ」
「けれど人員を倍にするなどと言われたら、打つ手がなくなっちゃいます」

真剣に討論を重ねる桃香と朱里。
その横では一刀も、雛里を相手に意見を戦わせていた。

「んじゃ、余った分を直接みんなにバラまくとか?」
「そうするには、全然足りないです……」
「なんでだ? 税を下げる代わりに返金するんだから、桃香達の話と変わらないだろ?」
「同じ額でも行政の減税だったら、民達の希望に繋がると思うんですけど……」

一刀に任されたのは、ムネムネ団の運営である。
市民への人気取りだと説明すれば余った資金をバラまけなくもないが、所詮は桃香達が現在個人でやっている食糧配給と本質的に変わらない。
金銭を支給しても苛酷な税に変化がないのでは、明るい未来を抱くことは難しい。

「ですからそのやり方で皆を救うには、もっと沢山の資金が必要かと……」
「じゃあさ、扶養してる子供1人辺りいくらって感じにしたらどうだ?」
「そんなの絶対ダメです! あっ、ごめんなさい、ご主人様……」

対象者を選別する方法は、不公平であり不正も横行しかねない。
なによりも、現在の洛陽市民は基本的に貧乏なのだ。
配られたお金をあぶく銭だと浮かれて使ってくれるとは思えない。
堅実に貯蓄され、日々の生活に細々と転用されるのが目に見えている。
活発な貨幣流通など到底期待出来ず、結局全員が貧困から抜け出せないだろう。

「それじゃ、屯所を作ったらどうかな? そしたらお給料って形で渡せるし、出来上がったら団員さんを配属すれば無駄にならないよ」
「確かに、洛陽の治安はあまり良くありませんから……」
「ん? もしかして、それで朱里は華蝶仮面をやってたのか?」
「はわわ、そ、そんなことより、今は桃香様の案でしゅ!」
「あわわ、朱里ちゃん、噛んじゃってるよぉ」

建物を作るには材料と人手が必要であり、そこに需要や雇用が生まれる。
一刀達が支払う材料費や賃金は、職人達の食事や服、仕事道具へと変わるだろう。
職人達が商店街に落としたお金は、いずれ店舗の補修などで彼等へと戻るはずだ。
そうやって金銭の流れを作ることにより、一刀達が最初に支払った額の何十倍もの経済効果が生まれるのである。

「しかも探索から戻ってきた団員を遊ばせとかないで済むし、治安も良くなって一石三鳥ってわけか。さすが桃香、賢いなぁ」
「えっへん。だけど問題は、団員さんの休息が足りなくなっちゃうかもしれないことだよね」
「いや、ほとんどが加護持ちって話だから大丈夫だろ。俺も最近ずっと用心棒みたいなことをやってたけど、全然楽だったし」

探索後に休息を欲する理由の大部分は、死と隣り合わせでない時間が必要だということである。
そういう意味では、極度に緊張する必要のない屯所での待機は休息と見なしても問題ない。
むしろメリハリのある生活を送れる分だけ、普通に長期休暇を与えてダラダラさせるよりも精神的な疲労回復が見込めるはずだ。

なかなか良いアイデアに思えた桃香の案だったが、しかし結局は保留となった。
朱里と雛里には、それを実行する前に試してみたい策があるのだそうだ。

「それってどういう作戦なんだ?」
「色々な意味で、非常に危うい策なんです。聞いてしまえば、私達とは一蓮托生ですよ。……ご主人様、覚悟はよろしいですか?」
「あ、じゃあ別に知らなくてもいいや」
「そんなあっさり……」

好奇心を満たすために無駄なリスクを増やす趣味など、一刀にはない。
それによく考えてみれば、一刀は出来る限り情報を持たない方がいいのだ。
なぜなら彼は、これからしばらくは麗羽サイドとの接触を持たねばならないからである。

一刀は策の詳細を朱里達に丸投げし、自分に必要だと思われる今後の方針のみを彼女達と打ち合わせた。
こうして、つかの間の隠遁生活に別れを告げた一刀なのであった。



逃げ隠れする必要がなくなった一刀は、大神殿を訪れた。
そこで得た『贈物』は、一刀的にはこれまでのどんなアイテムよりも素晴らしい物だった。
『崑崙のピアス』と銘の付けられたそれを耳に装備した彼のステータスに、これまでずっと欲して止まなかったとあるパラメーターが追加されたのである。

【魔術スキル】
覆水難収:相手の回復を一定時間だけ阻害する。<消費MP10>

更にピアスの効果なのであろう、MPが30に増えていた。
折角ゲームの世界に来たのだから、一度くらいは魔術を使ってみたかった一刀。
そんな彼にとっては、最高の『贈物』だったと言える。

武器スキルの場合、説明文には『敵』と表記されている。
パーティを組んでいない時でも仲間にはカーソルが点滅しなかったことから、『敵』というのはモンスターだけを指しているのだろう。
それに対して『覆水難収』は、『相手』という記述である。
これは【封神】と同じ表現であり、恐らく誰に対しても使用出来るのだと思われる。

魔術の実験なのだから、後衛に付き合って貰った方がいいだろう。
そう思った一刀は、宿にいた月と詠に協力を申し込んだ。

「頼むからヤらしてくれよ。ほんのちょっとだけカケさせて貰えたら、満足だから。痛くしないからさ」
「へぅ、ご主人様。体だけが目当てなんて、最低です」
「ずっと音沙汰なしだった癖に……」

心優しい月に冷たい視線を浴びせられ、普段はキツめの詠に涙目で睨まれる一刀。
非常に珍しい彼女達の反応に一刀は混乱し、思わず本音を口走ってしまった。

「しかし俺の紳士的な申し出にも関わらず、2人の反応は芳しくなかった。ふしぎ!」
「ご主人様、一体誰に向かって……」
「このっ! ふざけんじゃないわよっ!」
「ちょ、痛っ、ごめん! デコはやめて!」

詠に叩かれながらも、一刀は無沙汰の詫びを入れた。
絶対に許さないという構えをみせた月と詠だったが、惚れた弱みというものであろう。
「寂しい思いをさせてごめん」と謝る一刀の抱擁に、つい色っぽいため息で応じてしまう月達なのであった。

「と言うわけでさ、はむっ、魔術の実験に協力して欲しかったんだ。かぷっ、いやらしい下心なんて、全然なかったんだよ」
「へぅん、耳たぶはダメです……」
「ちょっと、本当に誤解だったんでしょうね?」
「ごめんごめん、久しぶりの月を堪能し足りなくて。もちろん詠もだけどさ」

ぷにぷにとした詠の頬を口で啄ばむ一刀。
一瞬だけ目を細めて気持ち良さそうにした詠だったが、直ぐに顔を背けて一刀から逃れた。

「そうじゃなくて、魔術を試したいんでしょ! 自分で話を脱線させてどうするのよ!」
「魔術なんかよりも、詠や月と仲良くする方が優先度は高いしなぁ」
「……馬鹿。それじゃさっさと終わらせて、ボクと月をたくさん可愛がって」

その言葉だけで実験どころではない一刀だったが、真面目な月と詠に諭されてしまった。
もう何でもいいから終わらせてしまおうと、呪文を詠唱する一刀。

「覆水難収……あれ?」
「ご主人様、ただ言うだけじゃダメなんです」
「精神を集中して、その呪文が心に浮かび上がった時に口にするのよ」
「なるほどな。もう1回やってみる」

≪-覆水難収-≫

そう唱えた一刀の魔術は、今度こそ発動した。
一刀の全身から放たれた淡いブルーの光が、一直線に詠の胸へと吸い込まれる。

「大体10秒くらいの集中が必要なのか」
「使う呪文によっても変わるんですよ、ご主人様」
「へぇ、そうなんだ。で、詠の方はどんな感じだ?」
「少し違和感がある程度よ。この違和感を感じている間は、ボクに回復魔法やアイテムは効果がないってこと?」
「多分な。違和感が無くなったら教えてくれ。時間を計ってるから」
「……このままじゃ、確認出来ないわね。少し体を傷つけてみようかしら」
「絶対ダメ!」

などと話している間に、詠の違和感も取れたようだ。
時間にして約1分。
これが長いか短いかは、実戦で使ってみなければ分からない。

「というか、使う機会なんてあるのかな? 体力を回復してきたモンスターなんて、見たことないんだけど」
「これからのことなんて、誰にも分からないわ。だから大切なのは、いつでも使えるように練習しておくことよ」
「ああ。といっても、3回しか使えないけどな。あれ、そういえば……ごめん、もう1度やらせてくれ」

再び呪文を詠唱する一刀。
先程の光景が繰り返され、一刀のMPは残り10となった。

「……やっぱり。精神的な疲労をまったく感じない」
「それなら多分、その魔力が借り物だからじゃないかしら」

今の一刀に備わっているMPは、あくまでピアスの効果によるものである。
従って、一刀自身の精神力ではない。
つまり30というマジックポイントは、一刀の精神に別枠で間借りしているようなものなのであろう。

「だから限界まで使っても気絶はしないけど、休んだりアイテムを使ったりすれば回復はするんじゃないかと思うの。あくまでもボクの推測だけどね」
「ピアス自体に魔力が宿ってて、それを消費しているって可能性は? それだと何か別の手段を見つけないと回復しないかも」
「それはないと思います。だって、ご主人様自身に魔力が備わっているんですよね?」
「どちらにしろ、今日寝てみればわかるでしょ。考えるだけ時間の無駄よ」

結果的に、彼等の疑問は翌日になっても解けなかった。ふしぎ!



黄色く見える太陽の眩しさに眼を細め、腰の痛みを覚えつつも行政府に向かった一刀。
元宮殿だけあって、500人が一堂に会する場所には困らない。
朱里達のアドバイス通り、さっそく一刀は彼等を班分けしていった。

MP持ちを除いて5人ずつ組ませ、全部で100斑となるように人数調整する。
彼等自身に班長を選ばせ、一刀はその中から有名そうな加護神の順に20名を選出した。
これは、MP持ちが同じような人数だったからである。
つまり選んだ20名を小隊長として、彼等の斑にMP持ちを配属したのだ。

小隊長斑を含めた5斑で1小隊とし、10小隊で1中隊250名とする。
中隊長はもちろん斗詩と猪々子である。
迷宮探索は小隊単位で行わせ、探索や訓練のスケジュールは中隊内で調整させる。
つまり斗詩達は探索要員ではなく、管理職としての役割を果たさねばならないのだ。

そしていよいよ肝心の、実質的な給料削減の通達である。

「給与体系は今説明した通り、完全な実力主義に変える! 財を築きたければ、能力を示せ! お前ら自身の手で、富を掴み取れ!」
「……なんか凄いね、一刀さんって。相当な実力がないと、あんな風には言えないよ」
「ああ、斗詩の言う通りだ。あたいもサイキョーだから、兄貴の言葉の重みが分かる!」

普通なら反発されそうな一刀の演説だったが、無駄に高いCHRの効果もあったのだろう。
そこかしこで気勢が上がり、ムネムネ団は大いに盛り上がった。

(あの大人しい雛里が、よくこんな過激なセリフを思いついたな……)

演説用のアンチョコをこっそり懐に戻す一刀。
ここから先は一刀がなにもしなくても、各自で勝手に強くなってくれるはずである。

「というわけで白蓮、俺はそろそろ帰るからさ」
「おいおい、まだ各小隊が迷宮へ潜る順番とか、小隊長を集めたミーティングとか、色々あるじゃないか」
「さっきも言ったけど、各小隊間の擦り合わせは中隊長に任せるよ」
「でも小隊内のコミュニケートとか、連携訓練とかさ」
「それは小隊長の責任範囲だって。班内の戦術決定なんかは、当然班長の役割だぞ?」
「も、もしかしたら、一刀じゃないと分からないことだってあるかもしれないだろ!」
「そういう話を分かりやすく纏めて俺の所に持って来るのが、副官の仕事なの。じゃ、そういうわけだから。頑張れよ、白蓮」

一刀に残された出番は、余程の大問題が起こった時しかないだろう。
そのために班長、小隊長、中隊長をでっちあげたのだ。

一足先に宿へと帰り、果報を寝て待つことにした一刀なのであった。



**********

NAME:一刀【加護神:呂尚】
LV:25
HP:454/399(+55)
MP:30/0(+30)
WG:80/100
EXP:143/8000
称号:○○○○

STR:38(+11)
DEX:53(+22)
VIT:28(+3)
AGI:41(+12)
INT:27(+1)
MND:20(+1)
CHR:53(+18)

武器:新・打神鞭、眉目飛刀
防具:スパルタンバックラー、勾玉の額当て、大極道衣・改、ハイパワーグラブ、仙人下衣、六花布靴・改
アクセサリー:仁徳のペンダント、浄化の腰帯、杏黄のマント、回避の腕輪、グレイズの指輪、奇石のピアス、崑崙のピアス

近接攻撃力:294(+39)
近接命中率:118(+14)
遠隔攻撃力:160(+15)
遠隔命中率:106(+18)
物理防御力:194
物理回避力:122(+24)

【武器スキル】
スコーピオンニードル:敵のダメージに比例した確率で、敵を死に至らしめる。
カラミティバインド:敵全体を、一定時間だけ行動不能にする。

【魔術スキル】
覆水難収:相手の回復を一定時間だけ阻害する。<消費MP10>

【加護スキル】
魚釣り:魚が釣れる。
魚群探知:魚の居場所がわかる。
封神:HPが1割以下になった相手の加護神を封じる。

所持金:60貫


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