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No.11085の一覧
[0] 迷宮恋姫【完結】 (真・恋姫無双 二次創作)[えいぼん](2010/05/31 20:54)
[1] 第一話[えいぼん](2009/09/21 00:53)
[2] 第二話[えいぼん](2009/09/21 01:05)
[3] 第三話[えいぼん](2010/01/24 20:05)
[4] 第四話[えいぼん](2009/09/26 05:36)
[5] 第五話[えいぼん](2009/08/25 00:08)
[6] 第六話[えいぼん](2010/02/20 07:16)
[7] 第七話[えいぼん](2009/09/15 21:39)
[8] 第八話[えいぼん](2009/09/15 21:40)
[9] 第九話[えいぼん](2009/08/25 00:05)
[10] 第十話[えいぼん](2010/02/20 07:16)
[11] 第十一話[えいぼん](2009/08/27 23:37)
[12] 第十二話[えいぼん](2009/08/26 21:34)
[13] 第十三話[えいぼん](2009/09/21 08:56)
[14] 第十四話[えいぼん](2009/08/29 02:46)
[15] 第十五話[えいぼん](2009/09/21 03:04)
[16] 第十六話[えいぼん](2009/09/19 15:52)
[17] 第十七話[えいぼん](2009/09/04 23:58)
[18] 第十八話[えいぼん](2010/02/20 07:17)
[19] 第十九話[えいぼん](2009/09/21 03:40)
[20] 第二十話[えいぼん](2009/09/21 03:47)
[21] 第二十一話[えいぼん](2009/09/19 15:52)
[22] 第二十二話[えいぼん](2010/05/20 18:53)
[23] 第二十三話[えいぼん](2009/09/07 22:44)
[24] 第二十四話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[25] 第二十五話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[26] 第二十六話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[27] 第二十七話[えいぼん](2009/10/03 08:55)
[28] 第二十八話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[29] 第二十九話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[30] 第三十話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[31] 第三十一話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[32] 第三十二話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[33] 第三十三話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[34] 第三十四話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[35] 第三十五話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[36] 第三十六話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[37] 第三十七話[えいぼん](2009/09/21 00:42)
[38] 第三十八話[えいぼん](2009/09/20 23:50)
[39] 第三十九話[えいぼん](2009/09/22 15:51)
[40] 第四十話[えいぼん](2009/09/22 18:12)
[41] 第四十一話[えいぼん](2010/05/14 19:23)
[42] 第四十二話[えいぼん](2009/09/27 16:52)
[43] 第四十三話[えいぼん](2010/02/20 14:39)
[44] 第四十四話[えいぼん](2009/09/27 13:39)
[45] 第四十五話[えいぼん](2010/05/14 19:22)
[46] 第四十六話[えいぼん](2009/09/27 13:39)
[47] 第四十七話[えいぼん](2010/02/20 14:57)
[48] 第四十八話[えいぼん](2010/05/14 19:06)
[49] 第四十九話[えいぼん](2009/09/30 21:32)
[50] 第五十話[えいぼん](2009/10/02 00:33)
[51] 第五十一話[えいぼん](2009/10/03 01:57)
[52] 第五十二話[えいぼん](2010/03/27 14:36)
[53] 中書き[えいぼん](2009/10/03 16:02)
[54] 閑話・天の章[えいぼん](2010/01/10 19:35)
[55] 閑話・地の章[えいぼん](2010/01/09 11:12)
[56] 閑話・人の章[えいぼん](2010/01/10 10:59)
[57] 第五十三話[えいぼん](2010/02/01 19:13)
[58] 第五十四話[えいぼん](2010/04/14 23:22)
[59] 第五十五話[えいぼん](2010/01/18 07:26)
[60] 第五十六話[えいぼん](2010/01/20 17:42)
[61] 第五十七話[えいぼん](2010/01/31 22:16)
[62] 第五十八話[えいぼん](2010/01/29 23:27)
[63] 第五十九話[えいぼん](2010/02/03 05:56)
[64] 第六十話[えいぼん](2010/02/20 07:29)
[65] 第六十一話[えいぼん](2010/02/20 07:30)
[66] 第六十二話[えいぼん](2010/04/13 21:38)
[67] 第六十三話[えいぼん](2010/02/20 07:32)
[68] 第六十四話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[69] 第六十五話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[70] 第六十六話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[71] 第六十七話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[72] 第六十八話[えいぼん](2010/03/27 14:39)
[73] 第六十九話(書き直し)[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[74] ボツ話[えいぼん](2010/03/25 07:16)
[75] 第七十話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[76] 第七十一話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[77] 第七十二話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[78] 第七十三話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[79] 第七十四話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[80] 第七十五話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[81] 第七十六話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[82] 第七十七話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[83] 第七十八話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[84] 第七十九話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[85] 第八十話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[86] 第八十一話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[87] 中書き2(改訂)[えいぼん](2010/04/01 20:31)
[88] 第八十二話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[89] 第八十三話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[90] 第八十四話[えいぼん](2010/04/13 21:43)
[91] 第八十五話[えいぼん](2010/04/17 03:04)
[92] 第八十六話[えいぼん](2010/04/29 01:36)
[93] 第八十七話[えいぼん](2010/04/22 00:13)
[94] 第八十八話[えいぼん](2010/04/25 18:36)
[95] 第八十九話[えいぼん](2010/04/30 17:45)
[96] 第九十話[えいぼん](2010/04/30 17:51)
[97] 第九十一話[えいぼん](2010/05/05 13:47)
[98] 第九十二話[えいぼん](2010/05/07 07:39)
[99] 第九十三話[えいぼん](2010/05/30 13:16)
[100] 第九十四話[えいぼん](2010/05/16 08:27)
[101] 第九十五話[えいぼん](2010/05/16 08:31)
[102] 第九十六話[えいぼん](2010/05/18 07:11)
[103] 第九十七話[えいぼん](2010/05/22 07:52)
[104] 第九十八話[えいぼん](2010/05/31 22:26)
[105] 第九十九話[えいぼん](2010/05/30 13:59)
[106] 最終話[えいぼん](2010/05/31 22:24)
[107] 後書き[えいぼん](2010/05/31 20:56)
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[11085] 第八十一話
Name: えいぼん◆2edcbc16 ID:fd94314f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/13 21:42
ぶおんっ!

という風切り音と共に、凪がオーガに向かって攻撃を行う。
その軌道は氣のオーバーフローで輝きを放ち、まるで光の橋が架けられたかのようだ。
オーガへと繋がった橋の上を、暴走列車のような凪の拳が走り抜けた。

どんっ!

という衝突音からは、オーガへ相当なダメージを与えたであろうことが推察される。
だがどんなに想像力を働かせても、この現実には及ばないであろう。
一体どれだけの衝撃が掛かったのか、オーガの体は凪の攻撃を受けた腹側ではなく背中側から弾け飛んだのである。

ずしんっ!

という踏み込みが、しかし強烈なダメージを受けたはずのオーガの足元から聞こえてきた。
この生命力こそが、オーガの脅威を高めている所以であるのだ。
打ち終わりで体勢を整えられない凪の頭上に、オーガの腕が振り下ろされた。

がきっ!

という剣戟は、凪をオーガの反撃から守った沙和の双剣からの悲鳴だ。
オーガの拳を十文字に受けて刃同士を滑らせ、火花を散らしながらその勢いを受け流す沙和。
そのまま凪とポジションをスイッチした沙和は、大胆にオーガへと詰め寄った。

ざしゅっ!

という斬撃音を響かせ、半身を入れてオーガを側面から捉えた沙和が、その腕を切り裂いた。
しかし未だオーガの生命力は尽きず、それどころか先程から痛打を与え続けている凪と沙和へのヘイトが頂点に達してしまった。
そして、それこそが真桜が待ち望んでいた瞬間であった。

ぐしゃっ!

という無惨な音色が、オーガの太股に致命的な損傷が起こったことを告げた。
完全にタゲが外れた真桜の狙い済ました一撃が、肉を潰し骨を砕き、遂にはその足を捻じり切ったのだ。
いくら生命力に溢れるオーガといえども、片足を奪われたら倒れるより他にない。

地に伏せったオーガが粒子へと返ったのは、それから僅か十数秒後のことであった。



迷宮探索1日目。
祭壇からBF20海岸もしくは安全地帯まで移動して終了が、初日のセオリーである。
だがLV平均が23の華琳クランは、BF20に来た段階でかなりの余力が残っていた。
であれば華琳には、是非ともやっておきたいことがあった。
それは凪達の実力確認だ。

「少し腕慣らしをしましょうか」

という華琳の一声で、初日にも関わらずBF21でのLV上げをすることになった一刀達。
組み分けは、これもまた華琳が6人ずつ2パーティに編成した。

凪、沙和、真桜のLV20トリオ、そして彼女達のフォローには桂花を据える。
複数の敵が行かないよう食い止める役割は華琳が自ら行い、そのサポートは一刀の仕事である。
この5人が華琳のパーティメンバーとなり、春蘭秋蘭の率いる側と分かれての狩りが始まったのだ。

「一刀、あの3人を見なさい。格上を相手にこの戦いぶり。お互いの力を引き出し合って、見事な相乗効果が生まれているわ」
「確かに完璧なコンビネーションだけど……」

もちろん華琳の言葉は、凪達が単体では弱いという意味ではない。
だが3人1組で戦った方が強いであろうことは、誰が見ても明らかである。

「……ふっ!」

「あの氣弾なんて、ただことじゃないわ」
「確かに凄い技だけど……」

凪の放った氣弾が、沙和に魔術を放とうとしていたキメラの片翼をへし折った。
加護スキル【氣功】により、常人よりも遥かに氣を使いこなすことが出来る凪。
本来であれば圧倒的に不利であるはずの徒手空拳が、凪にとっては必殺の戦闘スタイルとなるのだ。
そのダメージ量にヘイトを刺激され、攻撃目標を凪へと変えるキメラ。

「や、やーい、キメラー! ……バ、バーカ、なのー!」

「言葉はどうかと思うけど、これも使い所によっては化けるわね」
「確かに面白いスキルだけど……」

そんなキメラに、たどたどしい悪口を投げかけたのは沙和である。
沙和の加護スキル【罵声】は、彼女には似つかわしくない。
その微妙な挑発行為は、しかしスキル的には効果を完全に発揮した。
ヘイトを高められたキメラは、凪に移したばかりの魔術のターゲットを、再び沙和に変更したのである。

「背中がガラ空きやでっ!」

「ほら、あの槍。もしも汎用武器だったら、是非欲しかったわ」
「確かに相当な武器だけど……」

真桜の加護スキル【機工】によって命を吹き込まれ、自働回転する『螺旋槍』。
熟練を要するものの、基本的に誰でも二刀流が可能となる沙和の双剣『二天』とは異なり、【機工】なしでは全く力を発揮しない『螺旋槍』は、まさしく真桜専用装備と言えるだろう。

真桜の『螺旋槍』による一撃は動作こそ遅いものの、それを補って余りある攻撃力を秘めている。
従って真桜の仕事は、他の2人が相手の隙を作った時からが本番だ。

だが残念ながら、華琳も一刀も真桜の攻撃をじっくり眺めることは出来なかった。
一刀の煮え切らない返事に、華琳の我慢が限界に達したからである。

「さっきからなによ、だけどだけどって。言いたいことがあるなら、はっきり言いなさい!」
「……華琳、体は大丈夫なのか?」

先程まで、凪達が対峙した以外のモンスターを処分していた華琳と一刀。
その時の華琳の戦い方が、一刀の目には異様に映っていたのである。
今は凪達の戦闘評価なんかどうでもいい、そう言い切れるくらい華琳の戦闘方法は酷いものであった。

ヘルハウンドの爪が、華琳の腹を引き裂き。
ケルベロスの牙が、華琳の太股を噛み千切り。
スライムの粘液が、華琳の腕を焼き溶かし。

それらの攻撃を、華琳は一切避けようとしなかった。
なぜなら、華琳も相手への攻撃に集中していたからである。
当然結果は相討ちであるのだが、華琳が敵に与えたダメージ量はそのまま彼女のHPに吸収される。
つまり、最終的には相手のみが傷を負うことになるのだ。

これが華琳の加護スキル【報讐雪恨】であった。
洛陽で冒険者達に有名な【吸魔】や【吸精】など、【報讐雪恨】に比べれば所詮はオマケである。
この【報讐雪恨】のお陰で、あれだけの攻撃を受けたにも関わらず、華琳はピンピンしていた。
一刀の目に映るステータス表示からしても、そのことは間違いない。

だが、それでも一刀は華琳が心配であった。
なぜなら回復したとはいえ、痛みの記憶は消えないからである。
雪蓮クランとの迷宮探索の折に集中攻撃を受けざるを得なかった一刀には、そのことが実感として分かっていた。
ましてや華琳は一刀と異なり、痛みに鈍いわけではないのだ。

「もうちょっと、敵の攻撃を避けたりした方がいいんじゃないか?」
「その動作の分だけ、こちらの攻撃回数が減るじゃない。それだと私のHP回復が遅れてしまうでしょ」
「でも受けるダメージ量だって減るだろ?」
「今回みたいに複数相手の時には避けきれないし、回復が間に合わなくなるわ」
「それだったら、1人で3匹も相手にしなければいいじゃないか。向こうには春蘭達だっているだろ? 俺も戦えるんだし、もっと頼ってくれよ」
「私が相手にした方が、全体の消耗度が抑えられるわ。大丈夫、貴方はちゃんと役に立っているから」

戦闘効率の観点から言えば、華琳の理屈に軍配が上がるだろう。
華琳だって、何も全ての戦闘で玉砕紛いの戦法を取っているわけではない。
要はその時々による戦術の使い分けの問題であり、先程の戦闘では華琳が全ての攻撃を引き受けた方がよいと判断したまでである。

だが一刀が言いたいのはそういうことではない。
今回の場合、1匹を春蘭達に、1匹を一刀に押し付けさえすれば、華琳は1対1で戦えた。
そうしておけば、あんな真似をしなくても済んだはずなのだ。

もちろん戦闘終了後には一刀のHP回復が必要となるし、春蘭達の方の負荷だって多くなる。
短剣飾りだってタダではないし、MPだって無限にあるわけではない。
そういう意味では、華琳の言い分に利があるだろう。

しかし、効率の追求だけが正しい選択だとは言えない。
まだ少女である華琳が、その身を削ってまでパーティ全体の消耗を抑えるなど、どこか間違っているように一刀は感じていた。
その思いを上手く伝えることが出来ずにやきもきとする一刀だったが、華琳には一刀の心配が伝わったようだ。

「その気持ちだけ貰っておくわ。だから、そんな顔しないで。ほら、これでも飲みなさい」
「ありがと。って、なんで『回復薬』なんだ?」
「ふふ、怒っては駄目よ。血圧が上がってしまうから。乳酸菌を取りなさい」
「……よく乳酸菌なんて知ってるな」
「大神官の受け売りよ。美容と健康にいいらしいわ。最近は私も毎日欠かさず飲んでいるの」

荷物入れからもう1本取り出して、うぐうぐと『回復薬』を煽る華琳。
酒飲みの華琳には、その甘さがキツそうである。

(乳酸菌って、成長の促進効果もあるんだっけ?)

敵の攻撃でボロボロになった服から垣間見える控え目な膨らみに、未来へのささやかな可能性を祈る一刀なのであった。



程々のところで戦闘を切り上げて、BF20海岸へと移動した一刀達。
初日だから景気付けに宴会かな、と張り切っていた一刀だったが、そうは問屋が卸さなかった。

「兄ちゃん、なんかエッチなお店に通ってるんだって?」
「ちょ、季衣、誰から聞いたんだ?!」
「誰でもいいんです。それよりも兄様、なんでそんな場所に通ったりするんですか」
「いや、ほら、俺だって男なわけだし……」

正座を強要される一刀。
一刀に詰め寄る季衣と流琉。

季衣達の迫力に一刀が思わず腰を浮かせたその時、背後から桂花がスコップで彼の肩を叩いた。

「煩悩退散! というか、さり気無く足を崩してるんじゃないわよ、変態! ちゃんと正座してなさい!」
「……なんでお前まで怒ってるんだよ、桂花」
「ちょっと! 私の体を好き勝手に虐めた癖に、無かったことにするつもり?!」
「それは華琳がお仕置きだからって……。いや、待て、涙ぐむなっ! 悪かった、俺が悪かった、この通りだから!」

正座をしたまま地に頭を伏せる一刀。
季衣や流琉ならともかく、恋人ではない桂花に怒られるのは理不尽な気がしなくもないが、女の子の涙には逆らえない。
全面降伏の白旗を揚げる一刀の頭上に、3人の冷酷な声が降り注ぐ。

「兄ちゃんが色んな人にエッチなことをするの、なんとか止められないかな」
「うーん。兄様の収入を一度回収してお小遣い制にするとか、どうかな?」
「洛陽にいる時は、首輪でもして華琳様の屋敷の庭に繋いでおいたらいいのよ!」

(嫁かよっ!)

とツッコミを入れたかったが、季衣達に嫌われたくない一心で自重する一刀。
確かに一刀には大勢の彼女がいる。
だからといって、季衣達を失ってしまうことなど耐えられるわけがない。
一刀は自分の彼女達を、それぞれ深く愛しているからだ。

たかが束縛が強いくらいのことで、その愛情が揺らぐことはないと言い切れる一刀。
ひたすら頭を下げて嵐が過ぎ去るのをじっと耐え忍ぶことだけが、今の一刀に許される行動の全てなのであった。



お詫びの印にと一刀がダゴンを狩り、数匹目でドロップした『珊瑚』を3つの欠片に割って季衣達へプレゼントした頃には、彼女達の機嫌もすっかり回復していた。

「今度沙和に加工して貰うといいよ。俺からも頼んでおくからさ」
「うん! 兄ちゃんありがとう!」
「私、髪止めにして貰います」
「ふんっ、こんな小さな欠片じゃ……、そうね、指輪くらいしか出来ないわ。まったく、仕方がないわね」
「あー、桂花ずるいっ! ボクも指輪にする!」
「わ、私も……」

などと一刀達が遊んでいる間にも、華琳は風や稟と明日以降の探索方針を見直していた。
先程確認した凪達の実力が、思った以上に高かったからである。

「BF22までは安全地帯に荷物を置いての探索、BF23以降は拠点防衛部隊とG討伐部隊に別れる方針でしたが……」
「凪ちゃん達が戦えるのなら、いちいちBF20まで戻って来るのは時間の無駄なのですよー」
「荷運び部隊と戦闘部隊に役割を分けて探索を行った方が効率的です。荷運び部隊は凪さん達にお任せした方がいいですね」

稟の提案を、しかし華琳は一蹴した。

「それは却下よ、稟。私は彼女達のポテンシャルを、この目でしっかりと見たいの。班分けはさっきと同じにして、交互に入れ替えることにするわ」
「わかりました。ですが、G戦の時には固定したメンバーで戦うべきです」
「稟、貴方だったら誰を選ぶの?」
「そうですね……。華琳様、春蘭殿、秋蘭殿、流琉、桂花、風でしょうか」

オールマイティの華琳に守備の流琉、そして近接攻撃の春蘭と遠隔攻撃の秋蘭と、バランスのとれた前衛陣である。
そして戦闘向けの加護スキルを持っていない自分は一歩譲り、前衛陣を的確にフォロー出来るであろう後衛達を推挙する稟。

(さすがは稟ね……)

自らをも客観視した隙のないパーティ構成に、華琳は内心で称賛した。
しかし、そんな稟の提案に風が異議を唱えたのである。

「メンバーについては、風に名案があるのですよー」
「聞かせて頂戴、風」
「ではでは、お耳を拝借して……ぐぅ」
「寝るなっ!」
「おぉ、数十話振りのゲホンゲホン。えー、うららかな波音についつい誘われてしまったのです」

登場人物の中ではメタな発言が最も似合う風の提案。
それは一刀に選別させるという方法であった。
まるで稟の【鑑定】のように、自分の全ステータスと他人の主要ステータスが分かる加護スキルを持っていると認識されている一刀。
彼であれば、最も優れたパーティ効果を発揮する組み合わせが決められるはずだというのが風の主張である。

「その言やよし!」との華琳の決定により一刀が選別したメンバーは、一刀、華琳、春蘭、秋蘭、桂花、稟、風の7人であった。
赤く点滅したパーティ効果欄には『HP2倍、MP2倍』と、凄まじい性能が表示されていた。
G戦においては漢帝国クランの例のように事故が起きやすい分、下手なステータス上昇よりも断然に優れた効果であろう。

こうして万全を期して、翌日からの迷宮探索に備えた華琳達なのであった。



『報告、連絡、相談』

これらが迷宮探索において、最も大事なことであるのは言うまでもない。
例え非常事態でも、これらがしっかりと成されていれば大抵のことは乗り越えられる。
逆にどんなに万全の計画を練ったとしても、これらが欠けていれば意味がない。

今回の場合に一刀が怠ったのは、『報告』であった。
一刀がGと交戦したのは1度きりである。
その際にGが自爆したので、Gとはそういうモンスターなのだと思い込んでいたのだ。
なので、数回Gと戦ったことがあるという華琳達に注意喚起をすることもなかったし、逆に華琳達からGについて問われることもなかった。

更に言えば、華琳は漢帝国クランとの『連絡』を密にしておくべきだったし、数回戦った経験に満足せず『相談』して不測の事態に備えておくべきだった。
華琳達は基本を怠ったそのツケを、戦闘中に支払うことになったのだ。

BF22の小部屋。
秋蘭の【千里眼】により、あっけなく見つけたGとの交戦中の出来事であった。

「やばい! 爆発するぞ、逃げろ!」

NAMEが黄色に変わった瞬間、Gは次々とミニGを産み出したのだ。
RPGにおいて、自爆攻撃は残りHPに依存する場合がほとんどである。
赤NAMEでの爆発だった漢帝国クランの場合でも相当なダメージを受けたのだから、今回の被害は予想もつかない。
さっさと回避行動を取らなければ、大惨事となってしまう。

しかし、このパーティのリーダーは華琳である。
一刀の指示に従ってしまえば群れとしての統率がとれない以上、皆が華琳の指示を待ったのは当然であった。
ここで華琳が一刀に聞き返したりして時間を浪費させてしまえば、彼等の人生はそこで終焉を迎えていただろう。

「全員、小部屋から退避!」

だが華琳は、優柔不断とは対極の存在である。
切羽詰まった一刀の叫び、突如として産み出されたミニG、そして爆発というキーワード。
それらの情報を瞬時に取り込んで即座に判断を下す華琳と、彼女の指示は絶対だというクランの特色が、全員の迅速な行動に繋がったのだ。

しかし、それで万事解決というわけではなかった。
Gは醜悪な子供達を産み出しつつ、華琳達の後を追って来たのである。
小部屋の出口までついて来られたら、外で周囲を警戒しながら待機している季衣達を巻き込んでしまう。

(HPは2倍になってるんだ。俺がGを部屋の隅まで押し込んでやる!)

パーティメンバーの中で最もLVの高い一刀は、HPも春蘭に次いで高い。
爆発を正面から受けて生き延びられる可能性があるのも、一刀と春蘭だけであろう。
一刀が覚悟を決めてGに突撃しようとしたその時、華琳から新たな指示が飛んだ。

「春蘭、Gの追撃を防ぎなさい。アレの使用を許可するわ!」
「はっ!」

華琳の命令に従って、死地へと飛び込む春蘭。
この場合、一刀の行動としてベストなのは、小部屋から退避することである。
華琳に指示の撤回を求める時間などないし、緊急時にリーダーの指示に従わないメンバーほど厄介な存在はいないからだ。
それは剣奴時代にリーダーをすることが多かった一刀には、身に染みて分かっていることだった。

(春蘭、生き残ってくれよっ!)

心の中で念じながら、小部屋を出る一刀。
そんな一刀の背後から、春蘭の雄叫びが聞こえた。

「見よっ! 此は我が父の精、母の血!」

振り返った一刀が見たもの。
それは、左目から眼球を抉りだして口にする春蘭の姿であった。

「春蘭?!」
「落ち着きなさい、一刀」

その華琳の言葉と、Gの爆発は同時であった。
小部屋の入り口から炎が溢れ出し、すぐ脇にいた一刀達を吹き飛ばす。
全身に衝撃を受けて炎に身を焼かれた一刀のHPは、200近くも減っていた。
前衛の高LV者である一刀ですら、それだけのダメージを負う程の威力である。
HP2倍の効果がなければ、300オーバーのダメージを受けていた後衛陣は全滅していたであろう。

小部屋の外に出ていた一刀達ですら、この有様なのだ。
中にいる春蘭の生存は絶望的だと思われた。

「ゲホッ、ゴホッ。く、秋蘭、予備の服をくれ! ボロボロになってしまった」
「ふむ、姉者。無事でなによりだ」
「春蘭! 生きてたのか!」
「人を勝手に殺すな、一刀。私は丈夫だからな。このくらいなんでもないぞ」

NAME:春蘭【加護神:夏候惇】
LV:23
HP:754/462(+462)
MP:0/0

頑丈とか、そういう問題ではない。
なんと春蘭のHPは、G爆発前となんら変化がなかったのだ。

「さっき春蘭が自分の目を飲み込んだの、見てたでしょ?」
「あ、そうだ。大丈夫なのかよ、あれ」
「春蘭の左目は義眼なのよ。加護を受けた時、そのスキルと一緒に授かった目なの。『贈物』とは別にね」
「父の精でも母の血でもないのか……」

低階層での探索時に失われた春蘭の左目に、夏侯惇の加護が宿ったのであろう。
春蘭の加護スキル【盲夏侯】とは、その義眼を飲み込むことにより、一時的にあらゆる攻撃を無効化する能力なのだと華琳は言う。
そして今回のように義眼を使用しても、時間が経てば再生するそうだ。
但し1週間は掛かるとのことで、華琳の指示がない限りは使用しない切り札であるらしい。

「これはG対策を根本的に練り直さないといけないわね。秋蘭、敵のいない空き部屋を探しなさい」
「待って下さい、華琳様。爆発音に惹かれたモンスター達が、5体ほどこちらに近づいて来ています」
「ちっ。ここで迎え撃つわよ。春蘭、悪いけどもう一働きして頂戴。通路の向こう側は貴方達のチームに任せるわ」

という華琳の指示があったものの、春蘭は九死に一生を得たばかりである。
武器こそ無事であるものの、防具は全て炎で焼かれてしまっている。
一刀は春蘭が心配だから、向こうのチームに混ざろうと考えた。

「俺は春蘭がおっぱいだから、向こうのチームに混ざるよ」
「馬鹿なことを言ってないで、一刀は私とこちら側で備えるわよ。パーティ登録を変える……暇は、どうやらなさそうね」

通路の向こうから、敵の影がちらほらと見え始める。
一刀達の休息は、この状況を切り抜けてからになりそうであった。



**********

NAME:一刀【加護神:呂尚】
LV:24
HP:825/385(+440)
MP:0/0
WG:80/100
EXP:1086/7500
称号:四八マン
パーティメンバー:一刀、華琳、春蘭、秋蘭、桂花、稟、風
パーティ名称:華琳党
パーティ効果:HP2倍、MP2倍

STR:38(+11)
DEX:52(+21)
VIT:28(+3)
AGI:37(+8)
INT:27(+1)
MND:20(+1)
CHR:53(+18)

武器:打神鞭、眉目飛刀
防具:スパルタンバックラー、勾玉の額当て、大極道衣・改、ハイパワーグラブ、仙人下衣、六花布靴・改
アクセサリー:仁徳のペンダント、浄化の腰帯、杏黄のマント、回避の腕輪、グレイズの指輪、奇石のピアス

近接攻撃力:241(+39)
近接命中率:111(+10)
遠隔攻撃力:158(+15)
遠隔命中率:102(+18)
物理防御力:193
物理回避力:113(+20)

【武器スキル】
スコーピオンニードル:敵のダメージに比例した確率で、敵を死に至らしめる。
カラミティバインド:敵全体を、一定時間だけ行動不能にする。

【加護スキル】
魚釣り:魚が釣れる。
魚群探知:魚の居場所がわかる。
封神:HPが1割以下になった相手の加護神を封じる。

所持金:13貫


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