ようやく色々なものに一区切りついたように思えた一刀だったが、実はまだ1つだけ残件が残っていた。
それは、雪蓮クランとの迷宮探索の約束である。
尤もこれは、まだ凪達が迷宮に囚われていた時のアイテム交換クエストの話なので、交渉次第では何のペナルティもなく反故に出来るはずであった。
ところが、時期が悪かった。
ギルドの仕事が落ち着いた雪蓮達が迷宮探索を再開するタイミングと、丁度被ってしまったのだ。
雪蓮達はギルドを掌握して以来、まったく迷宮に潜っていなかった訳ではない。
それでもその回数は以前より格段に少なく、LV帯も雪蓮達は21、蓮華達に至っては19と、他の有力クランと比較して頭一つ低かった。
そんな彼女達にとって『小五ロリの導き手』として知られる一刀の助力は、喉から手が出るほど欲しかったのである。
「うーん、今はあんまり気乗りがしないんだよな。最近ずっと迷宮探索しっぱなしだったしさ」
「つれないわねぇ。華琳や桃香の手助けはしたのに、私達のは断るの?」
「雪蓮、その言い方は卑怯だろう。一刀を無理やり誘う真似は、感心出来ない」
「あら、冥琳だって、一刀がいてくれた方が嬉しいでしょ?」
「それはそうだが、しかし……」
雪蓮と冥琳のやり取りを聞きながら、どうしようか悩む一刀。
もういい加減に休みたかったし、今回は積極的に彼女達を手伝う理由もない。
と言うと冷たいようだが、彼女達が迷宮探索を再開するのは自らの意志なのである。
自主的に迷宮に潜る分には、全ての結果は自己責任であろう。
だが理屈の上ではそう考えていても、感情の面では全く違う答えが出る。
スケジュール的に厳しいのであればともかく、今回は一刀がその気になりさえすれば、雪蓮達と行動を共に出来るのだ。
である以上、多少疲労が溜まっていても彼女達の力になりたいと思ってしまう。
一刀は彼女達にそれだけの恩を感じていたし、情も交わしているのだから尚更である。
「はぁ、わかったよ。その代わり、ドロップアイテムは融通をきかせてくれよ?」
「さっすが一刀、なんだかんだで頼りになるわね!」
「本当にいいのか? 無理をしてるんじゃないか?」
一刀の答えに対する雪蓮と冥琳の反応は、対極である。
だからこそ2人は親友をやっているのだろう。
「そろそろ装備品も金で揃えられる限界に来てたし、丁度良かったと思うことにするよ」
「そういうことなら戦利品だけじゃなく、うちのギルドショップにあるもので貴方が必要なアイテムについても好きなのを持って行っていいわ。それが今回の報酬でも構わないわよね、冥琳?」
「ああ、勿論だとも。だが一刀、あまり法外な要求はしないでくれよ?」
「する訳ないだろ。念押しされるほど信用されてないのかよ、俺」
「なに、私達の下着まで必要なアイテムだと要求されないよう、予防線を張っただけだ」
「誰がそんな真似をするかっ!」
「あら、いいわね、それ。なんなら私自身が必要だって言ってくれても、いいのよ?」
「……ほんとですか?」
思わず敬語になる一刀。
雪蓮にからかわれ、冥琳に窘められつつも、彼女達の傍は居心地がいいと改めて感じる一刀なのであった。
元々彼女達が立てていた予定では出立は2日後とのことであり、そのスケジュールを崩すのはギルドの運営上問題になる。
本当であれば1週間以上は間を置きたかった一刀だったが、そういうことであれば仕方がない。
その期間の全てをリフレッシュに使う腹積もりの一刀が真っ先に実行したのは、祭と2人だけでの酒宴である。
ずっと以前、まだ一刀がボウガンの手入れも満足に出来なかった頃。
祭に弓の扱い方のイロハを教えて貰っていた時に交わした、『いつか洛陽で最高の酒を奢る』という約束を果たしたかったのだ。
勿論この約束は、【魚釣り】スキルで莫大な金を手に入れた頃でも、履行することは可能であった。
だがその言葉に込められていた意味を考えれば、ただ単に酒を奢れば済む話ではないのがわかるはずだ。
早く剣奴から脱出して、自分に酒を奢れるような身分になれ。
そういう思いが込められた祭の言葉に対し、それ以上の答えを返したいと思うのは男として当然であろう。
ただ剣奴から解放されただけの当時の状態では、全然足りない。
祭に相応しい男になった時こそ約束を果たそうと、一刀は誓っていたのだ。
そして今の一刀は、洛陽の一等地に宿を構え、超一流の冒険者達ともLV的に遜色がない。
ソロの冒険者でありながら、今や華琳に勝るとも劣らない名声まで得ている。
内面はともかくその外殻は、祭の隣に立っても恥ずかしくないだけの実績を積み重ねたはずだ。
今こそ誓いを果たす時だと、一刀は思ったのである。
「ふむ、このバーボンとやらもなかなかオツじゃが、やはり先程の老酒が一番儂の口に合う」
「あれは黄酒を入れないと作れないから、コストが掛かるんだよなぁ」
「まったく、ケチくさいことを言いおって。安いもんじゃろう、これを毎日持って来れば儂の機嫌が良くなるのじゃから」
「いつの間に毎日ってことになってるんだよ!」
「当然、利子じゃ。お主が剣奴から解放されてから、半年近くも待たせおって」
などと憎まれ口を叩きつつも、一刀に寄り添って酒を飲む祭は、至極上機嫌であった。
酒の美味さもあるが、自分の見込んだ男がこれほどまでに成長したことが、余程嬉しかったのであろう。
祭の部屋で、特別なつまみなどもなく、酒だけは一級品で。
本当に毎日来るのも悪くないな、と一刀が思ったその時、ドアをノックする音が響いた。
「祭殿、私です。入りますよ」
「なんじゃ冥琳。仕事の話だったら、お断りじゃぞ」
「いえ、次回の迷宮探索の件でお話が……。なんだ、一刀もいたのか。丁度いい、と言いたい所だが、邪魔をするのも申し訳ないな。祭殿、明日また出直して来ます」
「これ、待たぬか。折角じゃ、お主も一杯飲んでゆけ」
冥琳も祭や一刀と同様、酒はイケる口である。
時間的にギルドの仕事も終わっているはずだ。
ところが冥琳は、丁寧な口調ながらもきっぱりと祭の誘いを断った。
体調でも悪いのであろうか。
彼女にしては珍しく露出の少ない服を着て、魅力的なバストや引き締まったウエストもすっかり隠れてしまっていた。
無意識なのであろう、お腹や胸などに手を当てる仕草にも、なにやら違和感を感じる。
そんな冥琳が部屋を去った後、眉を顰めた祭が一刀に尋ねた。
「お主が昼間に会った時の様子はどうじゃった? あ奴、最近どうも態度が妙でのぉ」
「いや、いつも通りだったと思うけど」
「儂の気のせいなのか……、うーむ」
「強いて言うなら、こないだ抱いた時、いつもよりダウンが早かった気が……」
「それはお主の精が強過ぎるのじゃ! まったく、ただでさえやっかいであったのに、仕込みまでしおって」
「ベッドの中でも、もっと祭さんを喜ばせたかったんだって」
「ほんにお主は、調子の良い。まぁ良いわい。そこまで言うなら、今夜は楽しませて貰うとするかの」
「ああ、一生懸命がんばるよ」
「馬鹿者! お主に必要なのは加減じゃ!」
こうして一刀と祭は、夜明けまで仲睦まじく過ごしたのであった。
明くる日。
迷宮探索を翌日に控えた一刀が向かった先は、桃香の靴屋である。
「あ、ご主人様。靴、出来てるよ」
「サンキューな。……へぇ、これって『珊瑚』を砕いたのか」
「そうそう。ソールの部分に圧着させたんだ。とりあえず、履いてみてよ」
『六花布靴・改』という銘の入った靴は、至る所に雪結晶のような文様が入っており、布地ベースであるにも関わらず防御力が14もあった。
これは今までの『ダッシュシューズ』の5倍に近い値である。
逆に言えば、特筆すべきことはそれしかなかった。
DEX+3やAGI+3の性能はそのままであり、近接攻撃力+2はオマケの範疇を超えない微妙な性能だ。
「うーん、まぁまぁ、かなぁ?」
「そう思うでしょ。でもね、ちょっと動いてみて」
「ああ。……お? うわっと!」
一刀は、自分の思わぬ動きに躓いてしまった。
通常、人間は無意識のうちに自分の動きを予測して行動するものである。
そのイメージが裏切られたら、今の一刀のように転んでしまうのも無理はない。
逆に言えば、それだけ一刀は予想外のスピードで動けたということだ。
「ね、凄いでしょ。色々と配合や配置を試してみたんだけど、一番効果が高かったのがそれなんだよ」
「……これ、いいな! 慣れるまでは逆に危ないけど、俺みたいなタイプにとってはなによりの武器になると思う。ホントにありがとう、桃香」
「えへへ、どういたしまして。ご主人様が気に入ってくれて、良かったよ」
霞や明命など、速さが売りの知人達にも桃香の靴屋を勧めてみることを約束し、店を後にした一刀。
その足でBF5の海岸まで行って海水を汲み、華琳の館を訪ねた。
『覇者のマント』の礼代わりに、彼女の好きなワインを贈るためである。
「へぇ。白ワインもなかなか、悪くないわね」
「俺は赤より白の方が好きだけどな」
「ふふ、あの濃厚な酸味と苦みがわからないなんて、一刀もまだまだお子様ね」
「……まさか華琳にお子様呼ばわりされるとは」
「なによ、文句でもあるの?」
ワインを味わいながら、舌戦を楽しむ華琳と一刀。
その横では、春蘭と秋蘭もちゃっかりとワインのご相伴に預かっている。
「水で赤ワイン、海水で白ワイン……。もしかして、その中間の液体なら……」
「桂花、さっきからどうしたんだ?」
どうも先程からソワソワと落ち着きのない桂花に、そう尋ねる一刀。
桂花は一刀の袖をぐいぐいと引っ張り、部屋の隅まで彼を誘った。
華琳達の耳に入らぬよう、桂花は一刀の耳元で囁く。
「ちょっとアンタ、その瓢箪、少し貸しなさいよ」
「なんだよ、唐突に」
「いいから早く! か、華琳様に、わ、私のロゼワインを飲んで頂けるチャンスなのよ!」
「ロゼワイン? 製法に心当たりでもあるのか?」
「水よりしょっぱくて、海水程じゃなきゃいいのよ。ああ、いつも飲まされてばかりだったアレを、まさか華琳様に飲ませる日が来るなんて……」
「へぇ、面白そうな話をしてるじゃない、桂花?」
「か、華琳様! いつの間に?!」
「まったく。一刀を引っ張り込んでおいて、目立たないわけがないでしょ」
「そ、それは……」
「それにしても、まさか桂花がそんなことを企むだなんて。普段の躾が足りなかったのかしら」
淫猥な雰囲気が漂い始める室内。
舌舐めずりをする華琳と、恍惚とした表情の桂花。
躾けられる側の桂花が嫌がっていない以上、一刀が庇おうとしても彼女的には大きなお世話であろう。
「良かったらこれ、使ってくれ」
この場で一刀に出来ることは、ただひとつ。
華琳に『性なる神器』を手渡すことくらいであった。
「あら、気が利くわね。そうだ、良かったら貴方も桂花の躾に参加していかない?」
「……いいの?」
「い、いいわけないでしょ、馬鹿! その頭の中には何が詰まってるのよ!」
「ふぅん。桂花は私の命令が聞けないって言うこと?」
「そんなことは……でも……」
一刀が桂花の躾にどうやって協力したのか。
その真相は、翌朝まで華琳の閨から出て来なかった3人にしかわからないのであった。
雪蓮クランに対して一刀が協力出来ることの中で、現時点で最も大きな価値を持っているのは、やはり【魚釣り】スキルによるBF20海岸でのレベリングであろう。
ところが雪蓮は一刀の申し出を、折角だがと断ったのである。
「悪手ではないとは思うわよ。でも、最良でもないのよね」
「そうか? ほぼ確実に安全な状態でLVが上げられるんだぞ?」
「その安全が、落とし穴なのよ」
危機感のない迷宮探索は利より害の方が大きい、というのが雪蓮の言い分であった。
つまりPLに対する考え方と、根っこの部分では同じなのだ。
PLされてLV20に達した者は、自力でLV20まで上げた冒険者にはスキル面では敵わない。
それと同様、単体で出現する同じ敵ばかりを作業的に倒していても、肝心のプレイヤースキルが身に付かないと言うのである。
「うちみたいに若手を抱えているクランの場合、なによりも大切なのは多種多様な経験なの」
「へぇ、さすがは雪蓮。よく考えてるんだな」
「まぁね。というわけで、一刀には蓮華達のフォローをして貰うつもりよ。死線は潜り抜けて欲しいけど、本当に死なせる訳にはいかないんだから」
というやり取りが事前にあったため、今の一刀は蓮華達のサポートに徹していた。
現在の場所はBF20。
雪蓮達はともかく、蓮華達には辛い階層である。
「明命、前からは何匹だ?」
「2体来てます。オーガとヘルハウンドですね」
「いや、上にもちゃんと気を配らなきゃ。ガーゴイルが1匹いるぞ」
「はうぅ。すみません、一刀様」
索敵に出た一刀と明命が、小声で言葉を交わす。
本来であれば、一刀の『敵のNAMEが視認出来る』という特性を考慮しても、気配を探れる明命の方が索敵能力は上である。
だが明命がBF16以降に足を踏み入れたのは、数える程しかない。
空を飛ぶガーゴイルや地を這うスライムに、彼女は全く慣れていないのだ。
(なるほどね、こういうのも経験ってわけか)
特にBF16から登場するトラップ類を見抜く能力は、注意力だけでは身に付かない。
一刀自身、漢帝国クランとの迷宮探索時に引っかかった経験があって、初めてその危険度が実感出来たのである。
それ以来一刀は、トラップ類の特徴もさることながら、どういう場所で踏むとまずいのかという観点からも設置パターンを自然と想定出来るようになっていた。
もちろん一刀がそこに至るまでには、専門家である音々音の力も大きい。
まず一刀がトラップ類への意識を強くした直後に、音々音の行動をBF21で数日間観察出来たことが挙げられる。
彼女が罠を発見したのはどういう場所か、見た目はどうか、などを実地で体験したことは、一刀にとってはかけがえのない財産となった。
また同じ屋根の下で暮らしている気安さから、時折同じシーカータイプとしての議論を交わせていることも、一刀に足りなかった罠に対する知識の補完に役立っていた。
今回の探索でも既に一刀が3つ、そして雪蓮が彼女特有の勘によって2つの罠を見破っていた。
一刀のシーカーとしての活躍ぶりは、同じ役割の明命が私淑してしまうに相応しかったのであろう。
彼女はいつしか一刀を様付けで呼ぶようになり、教えを乞うようになっていたのであった。
ちなみにこれらの罠が生きていたのは、雪蓮達が独自のルートで進んでいるからである。
迷宮内の地図情報はそれだけ価値が高く、漢帝国クランと華琳クランが共同で切り開いたルートが他クランへ流れることなど、基本的にはありえない。
BF20海岸の場所を皆に気安く教える一刀が、例外過ぎるだけなのだ。
「今案内してる海岸への、ちょうど通り道なんだよなぁ。迂回出来るかもわからないし」
「でしたら、雪蓮様達の待機場所まで引っ張ってしまいましょう」
「それがいいな。明命、フォローはするから、釣りを頼むぞ」
「お任せ下さい、一刀様」
擬音で表すなら『シュタタタタ』という表現が相応しい明命の快足。
まだかなり距離のあった敵の一団に瞬く間に接近し、遠距離攻撃範囲ギリギリの所からオーガに向けて手裏剣を放った。
その攻撃に即座に反応したのは、オーガの隣にいたヘルハウンドだった。
といってもモンスター同士が庇い合う訳もなく、明命へ牙を剥いたという意味である。
自分に襲い掛かろうとするヘルハウンドを牽制しながら、一刀の元へと戻って来る明命。
そのあしらい方は、天性の才能を思わせる見事さである。
だが一刀が見るに、やはりまだ明命は上からの攻撃に意識が向かないようだった。
そう、明命の頭上には、既にガーゴイルが迫っていたのである。
『眉目飛刀』を投擲し、ガーゴイルのタゲを取る一刀。
その一刀動きで、ようやく頭上の敵に気がついた明命。
なぜ先程一刀に注意されたばかりの明命が、またしてもガーゴイルを見逃してしまったのか。
それは、空を飛ぶ敵に対する慣れ以外にも理由がある。
一刀の場合は視認なので関係ないが、気配や音で敵を察知する明命にとって、空を飛ぶ魔法生物は天敵なのだ。
「……気配も足音もないなんて、ずるいです」
「ほらほら。愚痴ってる暇があったら、走ろうぜ」
「はい、申し訳ありません。あ、そこっ!」
一刀にタゲを移そうとしたヘルハウンドに攻撃を加え、危なげなくヘイトを調整する明命。
やはりシーカーとしての資質は、群を抜いている。
それに天敵うんぬんは、あくまでも現時点での話なのだ。
溢れんばかりの才能を持つ明命であれば、あっという間に順応して自分を追い抜いてしまうに違いないと、一刀は確信していた。
(それまでの短い期間だけど、師匠役ってのも悪くないかな)
雪蓮達の待機場所まで敵を釣りながら、一刀は自分と並走する可愛らしい弟子入り志願者に目をやったのであった。
ところで今回の探索メンバーは、雪蓮クラン+一刀の総勢10名である。
その場合のパーティ構成は、5人ずつで組み分けるのが定石であろう。
なぜなら、2つの意味でバランスが取りやすいからだ。
第一にパーティ効果。
多人数の方が効果の強い傾向にあるため、偏らせると少人数のパーティが危険になる。
第二に経験値の割り振り。
経験値は人数割りで配分されるため、取得EXPが平均化されるメリットがある。
だがその定石は、雪蓮クランには当てはまらない。
彼女達はフルのパーティを1つ作り攻防の要に据え、残りが補助的な役割を果たすことで、常に総力戦を行っていたのだ。
この方法には、かなり大きなデメリットが存在する。
全ての敵を全員で倒すため、敵1体に対する1人当たりのEXP配分が少ないのである。
もちろん敵総数は変わらないため、トータルで考えれば一見同じなように思われる。
しかしそれは、総人数で割っても経験値が貰える敵に限れば、の話なのだ。
現にLV23の一刀は、BF20での戦闘からやっとEXPが貰えるようになっていた。
それまでは『増EXP香』を使用していても、人数割りだと経験値が1に満たなかったのである。
つまり現在の方法で戦うのであれば、ある程度の強敵でないと端数の切り捨て量が多過ぎてしまうのだ。
それでもこの方式を選択しているのは、当然デメリットを補って余りあるメリットが存在するからである。
雪蓮の加護スキルである【孫呉の剣】の効果がそれだ。
『仲間の力が己の力になる』という言葉の通り、雪蓮の加護スキルはパーティメンバーが多ければ多い程、彼女自身の攻撃力として加算される。
フルメンバー時の雪蓮のチート振りは、同じ『三国迷宮』の主役格である華琳、桃香に勝るとも劣らないのである。
この利点を捨て去ることなど、出来るはずがない。
ましてや更にもう1人、同じような恩恵を受けられる者が存在するならば尚更だ。
「はっ!」
3Mの巨体から繰り出すオーガの剛腕を、真正面から盾で受け止める蓮華。
祭壇での『贈物』である大型のヒーターシールドには傷一つ入らず、蓮華自身のHPも全く減っていない。
それもそのはず、蓮華の足は微動だにせず、逆に攻撃した側のオーガが蹈鞴を踏んでいたからだ。
攻撃特化の雪蓮とは逆に、蓮華は【孫呉の盾】という防御特化の加護スキルを得ていたのである。
自ら先頭に立ってみんなを引っ張っていく、攻の要・雪蓮。
保守的な性格がマッチしていたのであろう、防の要・蓮華。
たかが3匹程度の敵では、フォローどころか参戦すら出来ない。
そもそも彼女達のどこをサポートすればいいのか、という話である。
一刀がそんなことを考えている間にも、戦闘は進んでいく。
祭の矢がヘルハウンドの両眼に突き刺さり。
雪蓮の剣がオーガの片腕を切り飛ばし。
冥琳の炎が天井ごとガーゴイルを焼き尽くす。
LV差など問題にならない雪蓮クランの力量に、感嘆するばかりの一刀なのであった。
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NAME:一刀【加護神:呂尚】
LV:23
HP:424/367(+57)
MP:0/0
WG:20/100
EXP:2446/7000
称号:新性器の神
パーティメンバー:一刀、冥琳、祭
パーティ名称:( ゚∀゚)o彡゜
パーティ効果:近接攻撃力+10、遠隔攻撃力+10、魔法攻撃力+10
STR:31(+6)
DEX:49(+19)
VIT:25(+2)
AGI:34(+7)
INT:25(+1)
MND:19(+1)
CHR:47(+13)
武器:打神鞭、眉目飛刀
防具:スパルタンバックラー、勾玉の額当て、大極道衣・改、鬼のミトン、仙人下衣、六花布靴・改
アクセサリー:猫の首輪、浄化の腰帯、覇者のマント、回避の腕輪、グレイズの指輪、奇石のピアス
近接攻撃力:234(+39)
近接命中率:116(+20)
遠隔攻撃力:151(+15)
遠隔命中率:108(+28)
物理防御力:170
物理回避力:109(+20)
【武器スキル】
スコーピオンニードル:敵のダメージに比例した確率で、敵を死に至らしめる。
【加護スキル】
魚釣り:魚が釣れる。
魚群探知:魚の居場所がわかる。
封神:HPが1割以下になった相手の加護神を封じる。
所持金:239貫