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No.11085の一覧
[0] 迷宮恋姫【完結】 (真・恋姫無双 二次創作)[えいぼん](2010/05/31 20:54)
[1] 第一話[えいぼん](2009/09/21 00:53)
[2] 第二話[えいぼん](2009/09/21 01:05)
[3] 第三話[えいぼん](2010/01/24 20:05)
[4] 第四話[えいぼん](2009/09/26 05:36)
[5] 第五話[えいぼん](2009/08/25 00:08)
[6] 第六話[えいぼん](2010/02/20 07:16)
[7] 第七話[えいぼん](2009/09/15 21:39)
[8] 第八話[えいぼん](2009/09/15 21:40)
[9] 第九話[えいぼん](2009/08/25 00:05)
[10] 第十話[えいぼん](2010/02/20 07:16)
[11] 第十一話[えいぼん](2009/08/27 23:37)
[12] 第十二話[えいぼん](2009/08/26 21:34)
[13] 第十三話[えいぼん](2009/09/21 08:56)
[14] 第十四話[えいぼん](2009/08/29 02:46)
[15] 第十五話[えいぼん](2009/09/21 03:04)
[16] 第十六話[えいぼん](2009/09/19 15:52)
[17] 第十七話[えいぼん](2009/09/04 23:58)
[18] 第十八話[えいぼん](2010/02/20 07:17)
[19] 第十九話[えいぼん](2009/09/21 03:40)
[20] 第二十話[えいぼん](2009/09/21 03:47)
[21] 第二十一話[えいぼん](2009/09/19 15:52)
[22] 第二十二話[えいぼん](2010/05/20 18:53)
[23] 第二十三話[えいぼん](2009/09/07 22:44)
[24] 第二十四話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[25] 第二十五話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[26] 第二十六話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[27] 第二十七話[えいぼん](2009/10/03 08:55)
[28] 第二十八話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[29] 第二十九話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[30] 第三十話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[31] 第三十一話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[32] 第三十二話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[33] 第三十三話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[34] 第三十四話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[35] 第三十五話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[36] 第三十六話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[37] 第三十七話[えいぼん](2009/09/21 00:42)
[38] 第三十八話[えいぼん](2009/09/20 23:50)
[39] 第三十九話[えいぼん](2009/09/22 15:51)
[40] 第四十話[えいぼん](2009/09/22 18:12)
[41] 第四十一話[えいぼん](2010/05/14 19:23)
[42] 第四十二話[えいぼん](2009/09/27 16:52)
[43] 第四十三話[えいぼん](2010/02/20 14:39)
[44] 第四十四話[えいぼん](2009/09/27 13:39)
[45] 第四十五話[えいぼん](2010/05/14 19:22)
[46] 第四十六話[えいぼん](2009/09/27 13:39)
[47] 第四十七話[えいぼん](2010/02/20 14:57)
[48] 第四十八話[えいぼん](2010/05/14 19:06)
[49] 第四十九話[えいぼん](2009/09/30 21:32)
[50] 第五十話[えいぼん](2009/10/02 00:33)
[51] 第五十一話[えいぼん](2009/10/03 01:57)
[52] 第五十二話[えいぼん](2010/03/27 14:36)
[53] 中書き[えいぼん](2009/10/03 16:02)
[54] 閑話・天の章[えいぼん](2010/01/10 19:35)
[55] 閑話・地の章[えいぼん](2010/01/09 11:12)
[56] 閑話・人の章[えいぼん](2010/01/10 10:59)
[57] 第五十三話[えいぼん](2010/02/01 19:13)
[58] 第五十四話[えいぼん](2010/04/14 23:22)
[59] 第五十五話[えいぼん](2010/01/18 07:26)
[60] 第五十六話[えいぼん](2010/01/20 17:42)
[61] 第五十七話[えいぼん](2010/01/31 22:16)
[62] 第五十八話[えいぼん](2010/01/29 23:27)
[63] 第五十九話[えいぼん](2010/02/03 05:56)
[64] 第六十話[えいぼん](2010/02/20 07:29)
[65] 第六十一話[えいぼん](2010/02/20 07:30)
[66] 第六十二話[えいぼん](2010/04/13 21:38)
[67] 第六十三話[えいぼん](2010/02/20 07:32)
[68] 第六十四話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[69] 第六十五話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[70] 第六十六話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[71] 第六十七話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[72] 第六十八話[えいぼん](2010/03/27 14:39)
[73] 第六十九話(書き直し)[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[74] ボツ話[えいぼん](2010/03/25 07:16)
[75] 第七十話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[76] 第七十一話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[77] 第七十二話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[78] 第七十三話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[79] 第七十四話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[80] 第七十五話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[81] 第七十六話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[82] 第七十七話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[83] 第七十八話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[84] 第七十九話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[85] 第八十話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[86] 第八十一話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[87] 中書き2(改訂)[えいぼん](2010/04/01 20:31)
[88] 第八十二話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[89] 第八十三話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[90] 第八十四話[えいぼん](2010/04/13 21:43)
[91] 第八十五話[えいぼん](2010/04/17 03:04)
[92] 第八十六話[えいぼん](2010/04/29 01:36)
[93] 第八十七話[えいぼん](2010/04/22 00:13)
[94] 第八十八話[えいぼん](2010/04/25 18:36)
[95] 第八十九話[えいぼん](2010/04/30 17:45)
[96] 第九十話[えいぼん](2010/04/30 17:51)
[97] 第九十一話[えいぼん](2010/05/05 13:47)
[98] 第九十二話[えいぼん](2010/05/07 07:39)
[99] 第九十三話[えいぼん](2010/05/30 13:16)
[100] 第九十四話[えいぼん](2010/05/16 08:27)
[101] 第九十五話[えいぼん](2010/05/16 08:31)
[102] 第九十六話[えいぼん](2010/05/18 07:11)
[103] 第九十七話[えいぼん](2010/05/22 07:52)
[104] 第九十八話[えいぼん](2010/05/31 22:26)
[105] 第九十九話[えいぼん](2010/05/30 13:59)
[106] 最終話[えいぼん](2010/05/31 22:24)
[107] 後書き[えいぼん](2010/05/31 20:56)
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[11085] 第六十六話
Name: えいぼん◆2edcbc16 ID:fd94314f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/04/13 21:39
迷宮前で天和達と別れた一刀は、その足でギルドショップに向かった。
ドロップアイテムを売却するためである。
迷宮内で手に入れたアイテムは、必ずしもギルドショップで売る必要はない。
だが基本的にどの店でも売値は一緒だし、少しでも雪蓮達の利益となるようにとの思いがあるため、一刀はギルドショップを愛用していた。

ショップカウンターで戦利品を取り出した一刀。
今回の目玉商品である『大真珠』は全部で7個だったため3姉妹に2個ずつ譲り、その代わり『真珠』と『黄銅の短剣飾り』は皆より多く、それぞれ15個ずつ貰っていた。

『黄銅の短剣飾り』は『帰還香』と交換して貰う予定である。
そのため『大真珠』と『真珠』だけを売却しようとした一刀の背後から、声を掛けてきた者がいた。

「こんにちは、一刀。それ、凄いわね」
「ああ、蓮華か。しばらくだな」

たまたまショップにいた蓮華である。
彼が口にしたように、彼女と会うのは久しぶりのことであった。

一刀に向かって嬉しそうに駆け寄って来る蓮華。
人見知りするタイプであり普段は表情の硬い彼女の見せた笑顔は、無駄に周囲の買い物客の注目を集めてしまっていた。
そのことに彼女が全く気づかなかったのは、一刀にのみ意識が向いていたからであろう。

「ふふ、それをここに売ったら、きっと姉様が大喜びで買い占めるわよ」
「あー、確かに雪蓮って、こういうのが好きそうだもんな」
「実際に似合うしね。羨ましいわ」
「羨ましがることはないだろ? 蓮華だってきっと似合うぞ」
「ダメよ、私なんか。だって、地味だし……」

それまで楽しそうだった蓮華の表情が曇った。
姉を模倣した派手な服装とは裏腹に、彼女には内向的かつ自省的な所がある。
以前の小蓮もそうだったが、それに輪を掛けて彼女も自分に自信が持てないタイプなのだ。
姉が傑物過ぎるというのも善し悪しである。

「いやいや、むしろ蓮華の方が良く似合うと思うけどなぁ」
「……そんなこと、ないわ」
「ほら、その証拠に。お嬢様、どうか私めの贈り物をお受け取り下さい」
「え、なに?」

戸惑う蓮華の胸元に、『大真珠』を押し当てる一刀。
彼の見立て通り、彼女の健康的な小麦色の肌に、真珠の白色がよく映えていた。

「魅力的なお嬢様に貢がずにはいられない私の思いを、なにとぞ汲んで頂きたい。『大真珠』がお嬢様の引き立て役の一端に加えられる栄誉を私にお与え願えれば、恐悦至極でございます」
「……ぷっ、なによそれ。貴方って、変な人ね」
「変って言うなよ。でもこれが蓮華に一番よく似合うって思ってるのは、ホントなんだ」

周囲の客が砂糖を吐くような一刀の演技は、しかし蓮華には好評だったようである。

「ふふ、ありがとう一刀。じゃあお姉様に見つかる前に、私が買っちゃおうかな」
「なんで買うのさ。蓮華にプレゼントするって言ったろ?」
「それはダメよ。そんな高価なもの、貰えないわ」
「ああ、お嬢様! そのようなつれないお言葉! 私めの誠意が……」
「あははっ、ちょっと、それ止めて。ぷっ、止めてったら、もう。わかった、わかったから」
「じゃあ改めて、受け取ってくれよ。そのままで悪いけどさ」
「ええ、ありがとう一刀。なにかアクセサリーに加工してもらって、大切に使うわ。……あの、これはお礼の気持ちよ」

一刀の頬に軽く唇を触れさせた蓮華は、ここでようやく周囲の目に気がついた。
真っ赤になって店を逃げ出した彼女の後姿を見て、非常に得をした気分になった一刀。

こうして蓮華の更なる好感度と周囲からの殺意を手に入れた一刀は、『真珠』を売らずにギルドショップを去った。
折角『大真珠』を身に付けた蓮華の隣で、雪蓮が『真珠』をジャラジャラさせていたら台無しだからだ。
さすがは『エアーズラバー』、空気の読める男である。

いい気分で宿へと帰る一刀の背後から、「ちりーん、ちりーん」と黄泉路を誘う道しるべのような鈴の音が聞こえて来たのは、きっと気のせいであろう。
そう信じたい一刀なのであった。



新たな武器の修練を終えた一刀を待ちかねていた、複数の有力クラン。
彼女達からのアイテム交換ツアーの催促のうち、彼が真っ先に応じたのは華琳のクランであった。
彼女達を最優先にした理由、それは一刀の目の前で繰り広げられている光景が原因である。

「てりゃー!」
「そりゃー!」

本館から一番離れた奴隷小屋を叩き壊している季衣と流琉。

「だから、まずは華琳様が10個のアイテムをゲットしたのよ! それで強欲な春蘭が5つ持って行ったの! 残りはいくつだか、わかるでしょ!」
「えー、じゃあ2個」
「違うよ、3個だよ。ねー」

子供達を相手に教鞭を振るう桂花。

「どうだ秋蘭。これは華琳様が時折見せる、デレた時のポーズだ。似てるだろう」
「うむ、さすがは姉者だ」

中庭の木々を華琳の形に伐採している春蘭と、それを見守る秋蘭。

「あ、一刀さん。お帰りなさーい」
「……なぁ、七乃。なんで宿がこんなことになってんの?」
「実はですね、例の公用宿の認定が上手くいきまして……」

結果、税金分であった700貫が浮いたのである。
そこで七乃は、恋のペット達用の小屋を作ろうと思いついた。
本館に住まわせたままだと、獣臭がこびりついて将来的に高級宿屋として機能しなくなるからである。
従って本館と最も離れた場所にある、現在は使用していない奴隷小屋を改修してペット小屋にしようとしたのだ。

そこにたまたま遊びに来ていた季衣と流琉が、それならボク達がやってあげると申し出た。
→小屋の中を見て、彼女達の怒りが有頂天になったらしい。

季衣達を探しに来た桂花が、元は奴隷だった境遇から親近感を覚えたのであろう、子供達は教養を身に付けるべきだと行動を開始した。
→本日予定していた子供達の仕事が滞ってしまった。

季衣達と桂花を呼びに来た春蘭秋蘭まで、なぜか美が足りないと言い出して庭の木々で華琳のオブジェを制作し始めた。
→嫌がらせとしか思えない。

「一刀さん、早くなんとかして下さいよー」
「まず七乃が止めろよ! なんでこんなになるまで放っといたんだよ!」
「だってあの人達、何を言っても聞かないんですもん」
「……確かに、人の話を聞かないタイプばっかだけどさ」

仕方なく一刀は、疲れた体を引き摺って華琳の屋敷へと向かい、彼女達を引き取るよう要請した。
ところが、そのこと自体は何の負い目もない行為のはずなのに、なぜかお願いして引き受けて貰う形となってしまったのである。

華琳が上手いのは、「その代わり、早速アイテム交換に連れて行きなさい」と言わなかった所であろう。
一刀から「頼む」という言葉を引き出して快くOKを出し、「ところでアイテム交換の話は、どうなっているの?」と水を向けたのだ。

すると一刀的には、こっちの頼みは気持ちよく引き受けて貰ったのだから、という気分になってしまう。
いくらお人好しの一刀でも、もし指図がましく言われていたら、さすがにその交換条件はおかしいと思ったであろう。
だがこういう風に誘導されて、それとこれとは別という思考が出来るほど一刀は成熟した精神の持ち主ではない。
加えて一刀は、女の子にはつい見栄をはってしまう性格でもある。

結果的に一刀は、中1日を置いてすぐにまた迷宮探索へ向かうことになってしまったのであった。



最初に華琳のクランを選んだのは、悪い選択ではない。
むしろベストだったと言えることに一刀が気づいたのは、華琳との条件交渉の最中だった。
明後日の出立というのは些か性急ではあったが、それを補って余りあるメリットがあったのだ。

「そうねぇ。往復で2日なら、報酬は200貫くらいが適当かしら」
「あ、ちょっと待ってくれ! それってお金じゃなくて、他のことでもいいか?」
「なによ、欲しいアイテムでもあるの?」
「そうじゃない。実は、状況によっては華琳のスキルを俺に使って欲しいんだ」

一刀が報酬代わりに依頼したのは、華琳のスキル『吸精』で自分のHPをレッドにしてもらうことである。
それまで手段は余り考えてなかったのだが、誰かに殴られるにしろ『毒薬』を飲むにしろ、全HPの9割分もやられるのはさすがに辛い。
それに瀕死状態まで自分を殴ってくれる人に心当たりなどないし、そんなことをもし一刀が誰かに頼まれたとしても絶対に断るであろう。
その点、華琳のスキルであれば少なくともスプラッタな展開にはならないし、毒を飲むよりも安心である。

凪達の解放作戦を説明して華琳の了承を得ようとする一刀に、しかし彼女は良い返事をしなかった。

「貴方ね、自分の加護神を一体なんだと思っているの! 自分を守護して下さっている神を、自らの意志で封じるですって? 寝言は寝てから言いなさい!」
「華琳の言いたいこともわかるよ。自分の都合だけで加護神を封じるなんて、許されない不敬かもしれない。でも、それでも俺は、凪達を一日でも早く迷宮から解放したいんだ!」
「……神々を封じるだなんて、10回生まれ変わっても許されないような罪なのよ? 貴方、ちゃんと理解しているの?」
「俺は呂尚って神が釣りの人ってことくらいしか知らない。でも、俺の加護神になるような人だ。きっと凪達を見捨てるような真似をする方が、不敬になるに決まってるさ」

そう言いつつも、華琳のこの剣幕では『吸精』は使って貰えそうもない。
だが、それでも構わない。
いざとなったら自分の尻を『打神鞭』でペチングすればいいだけの話だ、と開き直った一刀。
そんな彼に対して、華琳は大きく溜め息を吐いた。

「……今回、1度きりよ? それに、絶対に必要な状況じゃなきゃダメよ?」
「華琳、いいのか?」
「返事なさい! わかったの、わからなかったの?!」
「ありがとう華琳! 約束するよ、最悪の場合のみ、今回1度だけだ」
「はぁ……。まさかこの私が、よりによって神様の封印を手伝うことになるとはね。まぁ、貴方らしい理由だといえば、そうだけど……」

華琳に感謝しつつも、かなりの合理主義者に見える彼女の予想外の信心深さに戸惑う一刀。
もちろんこれも、現代日本出身の一刀だからこその感想である。

なにしろ街の中心地に大神殿を擁し、神託を得ることまであるのだ。
しかも日頃からスキルという形で神の奇跡を目の当たりにしている冒険者達が、神々を恐れ敬うようになるのは当然の帰路であろう。

何にせよ、華琳からOKを貰えたことは確かである。
疲れていた一刀はそれ以上深く考えることをせず、華琳と一緒に宿へと戻ったのであった。



明くる日。
翌日に迷宮探索を控えた一刀は、早速装備を整えようと所持金の整理を行っていた。
金銭で200貫と『真珠』が15個。
これらを合わせれば、最高級の装備が購入出来るであろう。

細かい無駄遣いはするが、女性や子供が絡まない限り、大きな買い物には躊躇いを覚えるタイプの一刀。
そんな彼が、有り金を使い果たす覚悟を決めていたのである。
そこには、先日防具を一新したばかりなのに、とは言えない事情があったのだ。

『試練の部屋』の中ボスを一刀が攻略した時は、全く苦戦をしなかった。
だがそれも季衣や流琉、桂花が一緒に戦ってくれたお陰であろう。
当時よりLVは2つも上がって装備も強化されているが、最悪ソロに近い状態で戦わなければならないのは如何にも厳しいと思われたのである。

加護により一刀の身体能力が強化されたため、マーマンと中ボスのどちらが強いか単純な比較は出来ない。
だがBF16相当の実力だろうと予測しているマーマンが、加護ありLV19の一刀にとって、3姉妹の援護を受けていても楽な相手とは言えなかったのだ。
加護なしLV19の一刀が本当に中ボスに勝てるのかと問われると、疑問符をつけざるを得ない。

一刀自身は、中ボスがキングエイプと同じ程度の強さであれば、苦戦するだろうけど勝てない相手ではないと考えていた。
彼にとって、それほど印象の強い相手ではなかったからである。
だがそれでも、迷宮探索では何が起こるかわからない。
一瞬の油断が命取りなのは、先日の対G戦で嫌というほど学んでいる。

(やっぱり、装備強化は限界までするべきだよな……。あれ、待てよ。強化って言えば……)

「しまった! すぐに天和達に連絡を取らないと!」

慌てて宿から駆け出した一刀。
街の人々が振り返るような速度で、天和達の宿へ向かったのであった。



「ええ?! ごめんなさい、一刀さん。もう、私達の分は残ってないよ」
「ファンの人のコネで、『滑らかな皮』を使った防具一式と交換してくれるって……」
「私達レベルじゃ『滑らかな皮』なんて高級アイテムを手に入れる機会なんてめったにないから、即座に契約してしまいました」

一刀はなぜこんなに慌てていたのか。
それは彼自身がすっかり選択肢から除外していた、能力ブースト系アイテムの使用にあった。
そう、彼は『黄銅の短剣飾り』の売却を止めさせようしていたのだ。

『増力香』『増防香』『増知香』『増速香』はそれぞれ30串、つまり『黄銅の短剣飾り』6個と交換可能である。
彼女達に分配した短剣飾りに自分の物を加えれば、それら全てのブーストアイテムを使用して『試練の部屋』に挑むことが出来たのだ。

しかし結果は、先程3姉妹が口にしたように、既に手遅れであった。
彼女達の防具強化も必須である以上、その契約を中止にさせることは出来ない。
ギルドでは現在、短剣飾りは買い取りのみの非売品である。

(なんとか売ってくれるように頼んでみるか? でも、昨日の『大真珠』で貸しだの借りだのって思われたら……)

好意で行ったことが、もし打算だと誤解されてしまったら。
蓮華からそんな風に思われるくらいならば、全裸で中ボスに挑んだ方がマシである。

命が掛かっているのだから、理由も含めてきちんと話せばいいだろうに、それが出来ない一刀。
その絵面が言い訳っぽいのも嫌だったし、もっとはっきり言えば、彼は蓮華の前ではいい格好をしていたかったのだ。

蓮華は一刀にとって、特別な存在だった。
というと誤解を招くかもしれないが、一刀にとって女の子達はみんな特別な存在である。
だがその特別さの中にも、色々あるのだ。

例えば華琳が相手の時は、彼女と対等であろうと背伸びするように。
例えば雪蓮が相手の時は、自分の精一杯を見せようとするように。
例えば桃香が相手の時は、ありのままの自分で頑張ろうとするように。

一刀は蓮華に対して、彼女が理想とするような男でありたいと思ってしまうのである。
そして一刀の考える彼女の理想の男は、決して言い訳などしないのだ。

そのことを考えると、ギルドにも迂闊に相談出来ない一刀なのであった。



宿への帰り道、とぼとぼと歩きながら手の中の『真珠』を見つめる一刀。
それ自体が何やら魔力を持っているようで、例の如く不思議な力を感じさせる『真珠』は、『ミスリルインゴット』並みに高く売れそうであった。
だが、一刀が今欲しいのは金ではなく、串なのだ。

(あっ! 金で買えないんだったら、交換ってのはどうだ? 『真珠』に需要がありそうなのは……)

一刀は脳味噌をフル回転させた。

短剣飾りを大量に持っている人物。
一刀の人脈にひっかかる人物。
物々交換によって利益が出そうな人物。

その結果、とても身近な所に『真珠』を必要としそうな者がいることに気がついた。

「いらっしゃい、ご主人様」
「一体、何のよう?」

それは、現在一刀の宿に滞在している月達である。
彼女達は前回、皇帝に報告するためにBF22への階段を探していたはずだ。
それが叶わず、代わりに『増力香』などを成果物として上納すると言っていた。

これに『真珠』も加えれば、月達の印象は大幅にアップするに違いない。
なぜなら、迷宮探索において『真珠』は初ドロップのようなものだからである。
それに迷宮産の『真珠』が普通の海で取れたものと異なることは、手に取れば誰にでも確実に分かる。
形が宝石なだけに、皇帝にとっても印象深いアイテムとなるであろう。

「まぁ、確かにご主人様の言うことも一理あるわね」
「あれ、詠? 今俺のこと、ご主人様って言わなかったか?」
「い、言ってないわよ! で、でも、アンタが呼んで欲しいって言うなら……」
「……月、詠はどうしたんだ?」
「詠ちゃん、照れ屋さんだから」

怒り以外の理由で顔を真っ赤にしているのが丸分かりの詠。
いつのまにか愛らしく変貌している詠であったが、彼女に対してここ1週間で行われたことは、決して微笑ましいものではない。
双子達を始めとする従業員達は一刀のことをご主人様と呼称し、昼も夜もいつも一緒にいる月からは一刀賛美を聞かされる日々。

前回の悪質なナデポに引き続き、今回は悪質な洗脳である。

元々詠は一刀に好感を持っており、先日は命を救って貰ったことも印象深い。
その気持ちをじっくり育てていけば、きっとほのぼのとした恋物語に育ったであろう。
だが、「ゆっくりしなかった結果がこれだよ!」である。
ご愁傷様としか言いようがない。

それでも持ち前のツンっぷりを発揮し、一刀と交換条件を煮詰める詠。
デレようが素クールになろうが、パーティの財布を預かっているという自覚まで失うような詠ではない。

「だってこれ、初物なんだぜ! 交換比が1:1じゃ、割に合わないって!」
「ご主人様の話だと、ドロップ率は一緒だったんでしょ! それなら等価に決まってるじゃない!」
「詠ちゃん、せめてもうちょっと……」
「月は黙ってて! 交渉はNOと言われてからが勝負なんだから!」

粘り強く交渉を進める一刀と、強気な姿勢を崩さない詠。
一進一退の攻防は、結局交換比1:2で決着した。
『真珠』12個に対して『黄銅の短剣飾り』24個、つまり能力ブースト香全種との交換である。

一刀にしてみれば最低限の目標は達成したわけであり、詠にとってもいい買い物であった。
がっちりと握手を交わす2人と、それを羨ましげに見つめる月。
そんな彼女の視線に気づいた一刀は、月の掌に『真珠』を乗せた。

「今の交渉で詠が得た『真珠』は、皇帝に献上しちゃうんだろ? だから、これは俺からのプレゼントだ。ほら、詠にも。交渉に乗ってくれたお礼だよ」

そう言って、握りしめていた詠の掌にも一粒。
詠は途端にあわあわとキョドり、さっきまでの強気さが消え失せてしまった。
月は心底嬉しそうな笑顔を浮かべている。

(こういう反応が見たくて、世の中の男は女の子にプレゼントを贈るんだろうなぁ)

と、なにやら達観したことを考えている一刀。
この贈り物は彼の言葉通りあくまでお礼であり、月達の可愛らしい姿が見られたのはある意味お釣りのようなものである。
だから一刀にとっては彼女達の反応だけで十分満足であったのだが、ご褒美はここからが本番であった。

「ご主人様、あの、もっとこっちに……。へぅぅ、詠ちゃん、お願い。やっぱり一緒に……」
「もう、わかったわよ。あ、ご主人様、勘違いしないでよ! 別にボク達は『真珠』を貰ったから、こんなことをする訳じゃないんだからね!」

こうして一刀達は、ねっとりとした淫猥な午後を過ごしたのであった。



夕方の自室。
いい加減、明日の迷宮探索に備えなければいけない時間帯である。
手元には200貫と『真珠』が1個。
一刀は、非常に悩んでいた。

(最近、なんだか複数プレイが多いような気がする……)

それは決して気のせいではない。
そして、そのことが問題であった。

疲労に鈍い一刀は、タイマンであれば精力的に負けることはない。
だが複数プレイというのは、エンドレスなのだ。
なぜなら、1人を相手にしている間に他者が回復してしまうからである。

従って最近では、一刀が先に限界を迎えてしまうことも度々であった。
しかしそれは、彼にとっては洒落にならない一大事だ。
彼の基準はエロゲ、つまりは無限の精力を秘めた男達なのだから、それに比べると自分が非常に不甲斐ないように思えたのである。

一刀は、金と『真珠』を握りしめて大神殿へと向かった。
今回の『贈物』は、防御力こそないものの近接命中率+10、物理回避力+10という高性能な額当てであったのだが、そんなものはどうでもいい。

「あの、根元の方に……」
「よかろう! 受けてみろ、俺のゴッドウェイドーを! 精力増強! 性欲招来! もっと、もっともっと、元気に、な・あ・れっ!」

ズブッ!

こうして一刀は、漢として進化を遂げたのであった。



**********

NAME:一刀【加護神:呂尚】
LV:19
HP:329/302(+27)
MP:0/0
WG:50/100
EXP:201/5000
称号:エアーズラバー

STR:26(+4)
DEX:36(+10)
VIT:24(+4)
AGI:28(+4)
INT:24(+2)
MND:18(+2)
CHR:38(+12)

武器:打神鞭
防具:スパルタンバックラー、勾玉の額当て、大極道衣・改、鬼のミトン、マーシャルズボン、ダッシュシューズ
アクセサリー:猫の首輪、万能ベルト、蝙蝠のマント、回避の腕輪、グレイズの指輪

近接攻撃力:198(+17)
近接命中率:98(+20)
物理防御力:116
物理回避力:97(+23)

【武器スキル】
スコーピオンニードル:敵のダメージに比例した確率で、敵を死に至らしめる。

【加護スキル】
魚釣り:魚が釣れる。
魚群探知:魚の居場所がわかる。
封神:HPが1割以下になった相手の加護神を封じる。

所持金:6貫


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