<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

その他SS投稿掲示板


[広告]


No.11085の一覧
[0] 迷宮恋姫【完結】 (真・恋姫無双 二次創作)[えいぼん](2010/05/31 20:54)
[1] 第一話[えいぼん](2009/09/21 00:53)
[2] 第二話[えいぼん](2009/09/21 01:05)
[3] 第三話[えいぼん](2010/01/24 20:05)
[4] 第四話[えいぼん](2009/09/26 05:36)
[5] 第五話[えいぼん](2009/08/25 00:08)
[6] 第六話[えいぼん](2010/02/20 07:16)
[7] 第七話[えいぼん](2009/09/15 21:39)
[8] 第八話[えいぼん](2009/09/15 21:40)
[9] 第九話[えいぼん](2009/08/25 00:05)
[10] 第十話[えいぼん](2010/02/20 07:16)
[11] 第十一話[えいぼん](2009/08/27 23:37)
[12] 第十二話[えいぼん](2009/08/26 21:34)
[13] 第十三話[えいぼん](2009/09/21 08:56)
[14] 第十四話[えいぼん](2009/08/29 02:46)
[15] 第十五話[えいぼん](2009/09/21 03:04)
[16] 第十六話[えいぼん](2009/09/19 15:52)
[17] 第十七話[えいぼん](2009/09/04 23:58)
[18] 第十八話[えいぼん](2010/02/20 07:17)
[19] 第十九話[えいぼん](2009/09/21 03:40)
[20] 第二十話[えいぼん](2009/09/21 03:47)
[21] 第二十一話[えいぼん](2009/09/19 15:52)
[22] 第二十二話[えいぼん](2010/05/20 18:53)
[23] 第二十三話[えいぼん](2009/09/07 22:44)
[24] 第二十四話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[25] 第二十五話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[26] 第二十六話[えいぼん](2009/09/20 22:40)
[27] 第二十七話[えいぼん](2009/10/03 08:55)
[28] 第二十八話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[29] 第二十九話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[30] 第三十話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[31] 第三十一話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[32] 第三十二話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[33] 第三十三話[えいぼん](2009/09/20 22:41)
[34] 第三十四話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[35] 第三十五話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[36] 第三十六話[えいぼん](2009/09/20 22:42)
[37] 第三十七話[えいぼん](2009/09/21 00:42)
[38] 第三十八話[えいぼん](2009/09/20 23:50)
[39] 第三十九話[えいぼん](2009/09/22 15:51)
[40] 第四十話[えいぼん](2009/09/22 18:12)
[41] 第四十一話[えいぼん](2010/05/14 19:23)
[42] 第四十二話[えいぼん](2009/09/27 16:52)
[43] 第四十三話[えいぼん](2010/02/20 14:39)
[44] 第四十四話[えいぼん](2009/09/27 13:39)
[45] 第四十五話[えいぼん](2010/05/14 19:22)
[46] 第四十六話[えいぼん](2009/09/27 13:39)
[47] 第四十七話[えいぼん](2010/02/20 14:57)
[48] 第四十八話[えいぼん](2010/05/14 19:06)
[49] 第四十九話[えいぼん](2009/09/30 21:32)
[50] 第五十話[えいぼん](2009/10/02 00:33)
[51] 第五十一話[えいぼん](2009/10/03 01:57)
[52] 第五十二話[えいぼん](2010/03/27 14:36)
[53] 中書き[えいぼん](2009/10/03 16:02)
[54] 閑話・天の章[えいぼん](2010/01/10 19:35)
[55] 閑話・地の章[えいぼん](2010/01/09 11:12)
[56] 閑話・人の章[えいぼん](2010/01/10 10:59)
[57] 第五十三話[えいぼん](2010/02/01 19:13)
[58] 第五十四話[えいぼん](2010/04/14 23:22)
[59] 第五十五話[えいぼん](2010/01/18 07:26)
[60] 第五十六話[えいぼん](2010/01/20 17:42)
[61] 第五十七話[えいぼん](2010/01/31 22:16)
[62] 第五十八話[えいぼん](2010/01/29 23:27)
[63] 第五十九話[えいぼん](2010/02/03 05:56)
[64] 第六十話[えいぼん](2010/02/20 07:29)
[65] 第六十一話[えいぼん](2010/02/20 07:30)
[66] 第六十二話[えいぼん](2010/04/13 21:38)
[67] 第六十三話[えいぼん](2010/02/20 07:32)
[68] 第六十四話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[69] 第六十五話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[70] 第六十六話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[71] 第六十七話[えいぼん](2010/04/13 21:39)
[72] 第六十八話[えいぼん](2010/03/27 14:39)
[73] 第六十九話(書き直し)[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[74] ボツ話[えいぼん](2010/03/25 07:16)
[75] 第七十話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[76] 第七十一話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[77] 第七十二話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[78] 第七十三話[えいぼん](2010/04/13 21:40)
[79] 第七十四話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[80] 第七十五話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[81] 第七十六話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[82] 第七十七話[えいぼん](2010/04/13 21:41)
[83] 第七十八話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[84] 第七十九話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[85] 第八十話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[86] 第八十一話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[87] 中書き2(改訂)[えいぼん](2010/04/01 20:31)
[88] 第八十二話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[89] 第八十三話[えいぼん](2010/04/13 21:42)
[90] 第八十四話[えいぼん](2010/04/13 21:43)
[91] 第八十五話[えいぼん](2010/04/17 03:04)
[92] 第八十六話[えいぼん](2010/04/29 01:36)
[93] 第八十七話[えいぼん](2010/04/22 00:13)
[94] 第八十八話[えいぼん](2010/04/25 18:36)
[95] 第八十九話[えいぼん](2010/04/30 17:45)
[96] 第九十話[えいぼん](2010/04/30 17:51)
[97] 第九十一話[えいぼん](2010/05/05 13:47)
[98] 第九十二話[えいぼん](2010/05/07 07:39)
[99] 第九十三話[えいぼん](2010/05/30 13:16)
[100] 第九十四話[えいぼん](2010/05/16 08:27)
[101] 第九十五話[えいぼん](2010/05/16 08:31)
[102] 第九十六話[えいぼん](2010/05/18 07:11)
[103] 第九十七話[えいぼん](2010/05/22 07:52)
[104] 第九十八話[えいぼん](2010/05/31 22:26)
[105] 第九十九話[えいぼん](2010/05/30 13:59)
[106] 最終話[えいぼん](2010/05/31 22:24)
[107] 後書き[えいぼん](2010/05/31 20:56)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[11085] 第六十三話
Name: えいぼん◆2edcbc16 ID:fd94314f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/02/20 07:32
ズシンッズシンッと、重量級の足音だけが3体分。
そっと入口に近づいて索敵する一刀の目に、『NAME:ゴーレム』という表示が映った。

今の状況は、確かに大ピンチではある。
『ハンハン』で例えれば、後1撃でも貰えば3乙してしまう状態に近い。

(逆に言えば、ノーダメで凌げれば十分リカバリー可能だってことだ)

仲間4人が瀕死の重傷であるにも関わらず、冷静に現状を分析する一刀。
こういう時、真っ先に取り乱しそうな彼が平常心を保っているのには訳がある。
パニックになることこそが仲間の命を危険に晒すこと、それを彼は既に身を持って知っていたからだ。
剣奴時代の戦闘で季衣達や璃々がピンチの度に慌ててしまい、余計に状況を悪化させていた彼は最早いない。

しかも今回は、自分よりも遥かに熟練の冒険者である月や音々音がいるのだ。
それだけでも剣奴時代より全然マシである。
そう思って振り返った一刀は、我が目を疑った。

「詠ちゃん、みんな! ……ふぅ」
「れ、恋殿ぉ! 恋殿ぉ!」

洛陽で1,2を争う優秀な冒険者達である漢帝国クラン員。
そのメンバーであるはずの月や音々音が、すっかり取り乱していたからだ。

正直な所、一刀もこの2人が精神的にさほど強くないことは想像がついていた。
だがそれを差し引いても、BF21まで探索を続けて来た冒険者とは思えない態度である。

この程度のピンチ、今までに何度も潜り抜けたはずではないのか。
いや、実は潜り抜けていないのである。
多少の危機なら強引に突破出来る恋の武力と、そもそもそれを前もって避ける詠の知力。
それらによって庇護されて来たことが、月や音々音の精神的な成長を阻害していたのだ。

正確に言えば、危機に陥ったこと自体がないわけではない。
だがそれらのピンチから月や音々音を守り抜いてくれた恋や詠が、今は生死の境を彷徨っている。
パーティの要であり心の拠り所でもある恋と詠は、だからこそ月と音々音のパニックの要因となってしまったのだ。
そんな2人の様子を、一刀は絶望的な思いで見やった。

慌てふためく彼女達の姿は、一刀の目には生き残るための希望の光が消えてしまったように映っていたのであった。



今回の勝利条件、それは部屋外での迎撃である。
なぜなら部屋に敵の侵入を許してしまった時点で、室内戦闘での巻き込まれによって恋達の死亡が確定してしまうからだ。
従って、仮に月が落ち着きを取り戻して加護スキルを使用したとしても、一刀達はともかく恋達が危うい。
ランダム要素の強い月の加護スキルでは、かなり分の悪い賭けとなってしまうであろう。

しかも月には、彼女だけにしか出来ない役割がある。
恋達へ『再生の滴』の呪文を唱えることだ。
彼女のほぼ全MPを使用する『再生の滴』を使うとなれば、それ以外の働きを彼女に要求するのは不可能に近い。

一刀には、それらを踏まえた上で彼なりの迎撃プランがあった。
だが月と音々音の様子からして、それは廃案とせざるを得ない。

迎撃が出来ないとなれば、残るプランは1つだけである。
半分意識を失っている月に駆け寄り、その頬に平手打ちをして正気に戻した一刀は、遣る瀬無い思いを噛みしめながら吐き出す様に言った。

「俺が囮になる。その隙に『帰還香』使うんだ。わかったな」
「そ、そんな……。皆で使えば……」
「すぐ傍まで敵が来てるんだ。誰かが奴を他所に引っ張らなきゃ、香の効果が出る前に戦闘になってかき消されちゃうだろ?」
「でも、それじゃ一刀さんが……」
「俺だって、死にたくねぇよ! でも今のお前等と敵を迎撃しようとして全滅するよりマシだろうが! って、くそっ!」

自分の髪をぐしゃぐしゃと手で掻き回し、心を落ち着ける一刀。
深呼吸をひとつして、再び月に向かって口を開く。

「ゴメン、取り乱した。大丈夫、俺だって敵を撒いて『帰還香』を使うつもりだし、ダメでもBF20の凪達の所まで逃げればいいんだ。もう時間がない、俺は行くから後を頼むな」
「……へぅ」

自分でも全く信じていない内容を、月に言い聞かせる一刀。

敵は3体共ゴーレムであり、比較的動きが鈍いため逃げやすい敵だと言える。
だがそれも、逃げている道中で他の敵と遭遇しなければ、の話である。
一刀が生き残るためには、この幸運を引き寄せるしかない。

逆にヘルハウンドあたりに見つかってしまえば、逃げ切るのは不可能である。
そうなってしまえば、一刀に未来はない。
道を知らない彼がBF20まで逃げ切れる確率など、宝くじ1等と同程度であろう。
仮に今地図を借りたとしても、それを確認しながらの逃走など現実的ではない。

そのことは、月も薄々気が付いていた。
だが一刀の言葉を最も正確に把握出来たのは、倒れ伏す恋にぎゅっと抱きついていた音々音である。
同時に彼女は、それが本来バックパッカーである一刀ではなく、シーカーである自分が背負うべき役目であることも理解したのであった。

「ちんきゅーキック!」

恋がやられてすっかり混乱していた音々音。
そんな彼女がゴーレムに攻撃を仕掛けられた理由は、ただ一刀への対抗心のみであった。
己の役割を一刀に奪われ、恋に見捨てられる恐怖。
それが自身の命を失う恐怖に勝ったのだ。

「お前は引っ込んでいるのです! ネネの方が道に詳しい分、適役なのですぞ! 月、恋殿を、どうかっ!」

そう言い残して走り出そうとする音々音。
その背中に向け、一刀が叫ぶ。

「待てっ! お前が戦えるなら、全員で生き残れる! ネネは入口で防御に専念して部屋に敵を入れるな。体を張ってでも止めてくれ。月、ネネに『土の鎧』と『大地の力』、一番手前のゴーレムに『脱力の風』を。終わったらこっちに来てくれ」

そう言って一刀は荷物を拾って傷ついた恋達の方に向かい、その中身を引っ繰り返して短剣飾りを寄せ集めた。
そして種類と数を確認し、部屋の隅で恋達のHPを注意深く見守る一刀。
そう、彼は音々音だけにゴーレムの相手を任せようとしていたのだ。

こうして音々音とゴーレム達の戦闘が始まったのであった。



ゴーレムの堅い拳を避けながら、音々音は未だ平常心を取り戻せずにいた。

なぜ一刀は自分の手助けをしてくれないのか。
どうやって3体ものゴーレムを倒すつもりなのか。
恋達は今、どんな様子なのか。

そのようなことにも気を回せず、音々音はただひたすら一刀の指示に従って防御のみを行っていた。
敵の拳を打ち払い、敵の蹴りをしゃがみ避け、決して部屋に入れないように、ただそれだけを考えて戦闘を続ける音々音。
動揺している割にきちんと戦えているのは、これが防御のみという単純作業だからであろう。

運良く敵はゴーレムのみであり、それぞれが馬鹿でかい。
従って、入口に陣取った音々音の相手が出来るのは1体だけである。
だが相手の巨大さは、彼女にとって不利な材料にもなりうる。
格闘タイプの音々音だからこそ、相手との体格差は如何ともし難いのだ。

音々音の3倍近くある上背から、強烈な打ち下ろしを放つゴーレム。
これは受け流せないと判断し、動きを止める音々音。
普段の彼女であれば、横っ跳びに避けようとしていたであろう。
だが今の彼女にとっては、「防御に専念」「部屋に入れるな」の命令こそが、ある意味恋に代わる心の拠り所となっているのである。

音々音の氣で満たされた両足が床に張り付き。
同じく氣の張り巡らされた左腕と右腕を体の前で交差させ。
怖くて俯きそうになる顔を上げて、ゴーレムをしっかりと見据え。

次の瞬間、岩をハンマーで叩いたような轟音が鳴り響いた。
もし音々音が吹き飛ばされていたのなら、もっと軽い音がしたであろう。
そう、彼女は生身の体でゴーレムの攻撃を受け止めたのだ。

しかし、その代償は大きかった。
氣をしっかりと張り巡らせていた音々音の両腕は、骨も折れていないし肉も飛び散っていない。
だがその衝撃は音々音の全身を駆け巡り、彼女のHPを激減させたのである。

(う、ぐぅ。恋殿、ネネ1人では、もう……。最後まで頼りないネネで、すみませぬ……)

全身の痛みで心が折れかける音々音。
同じのがもう1撃入ったら、次こそ音々音は耐えきれなかったであろう。
だが、この場にいるのは彼女だけではない。

「へぅ、遅れてごめんなさい。今援護するから……」
「ネネ、いいぞ、その調子だ!」

精神的に復調を果たした月から、援護の呪文が掛けられ。
更に音々音のHPを観察していた一刀から、銀の短剣飾りを突き刺され。

「……まだ! ネネはまだまだやれますぞ! 恋殿ぉ、草葉の陰から見守って下されー!」
「れ、恋、死んでない……ぐふっ」

今の音々音は、決して1人きりで戦っているのではない。
それは援護という意味だけではなく、仲間の存在そのものが自分を支えてくれていることに、やっと彼女は気がついたのだ。

優しげな、月の言葉が。
暖かい、一刀の励ましが。
吐血まじりの、恋からのツッコミが。

(皆がいる限り、ネネは何度でも立ち上がれますぞ!)

背中に仲間を感じながら、ビーカブースタイルをとる音々音なのであった。



本当は音々音と一緒に敵の足止めを行いたかった一刀。
だが、いくら短剣飾りがそれなりの量あるとはいえ、考えなしに連続使用すればロストして足りなくなる危険がある以上、回復役は彼が適任であった。

一刀は恋達と音々音の間を何度も往復した。
そして4人のHPが100Pを切ったら銀の短剣飾りで全快にし、音々音のHPが半分を切ったらフォローしつつ回復する。

他人のHPを視認出来るという自分の特性を、今日ほどありがたく、そして恨めしく思ったことはない。
音々音の体から発生している肉を岩で打ちのめす音に、一刀の心は掻き乱される。
だが、自分以外でHPを適切に回復出来る者はいないのだ。
今すぐ前線に飛び出して行きたい気持ちを、一刀はじっと堪えた。

ジリジリとした苛立ちを感じながら音々音の呻き声に耳を塞ぎ、彼女達のHPの減り具合を見守る一刀。
そんな彼に月が近寄って来た。
ようやく音々音とゴーレムに呪文を掛け終わったのである。

一刀は即座に黄銅の短剣飾りを刺し、月のMPを全快にした。
ここまでくれば、彼女にも次にすべきことはわかる。

「まずは詠から頼む」
「はいっ」

≪-再生の滴-≫

月の詠唱と共に、水色の粒子が詠の体の欠損部を埋めていく。
一気に精神力を奪われて気を失う月に黄銅の短剣飾りを刺し、再び頬を平手で打つ一刀。
彼が音々音と一緒に戦えなかった理由は、回復役の他に月の気付役もする必要があったからだ。

「パンッ」「へぅ」
「パンパンッ」「へぅ、へぅぅ」
「パシンッ」「へぅぅぅ~ん」

更に3度同じことが繰り返され、詠達が回復した時には月の頬がすっかり赤く膨れ上がってしまった。
一刀が女の子を叩くのは生まれて初めてであり、力加減が上手く出来なかったせいでもある。
申し訳なく思い、一刀は月を抱きしめて頭を撫でた。

「痛かっただろ、月。ごめん、よく頑張ったな」
「へぅぅ、あふぅん」

なんという悪質なナデポ!

精神的に弱っている所を乱暴してから優しくするという、まるでヤクザのような手口である。
その行為が、月に一体どんな影響を与えてしまったのか。

それはまた別の機会に語りたい。



ところで、戦況の方はどうなっているのであろうか。

一刀が真っ先に詠の回復を指示したのは、『離間の計』を唱えて貰うつもりであったからだ。
そしてゴーレム同士を部屋の外で戦わせている間に、皆で『帰還香』を使用しようと思っていたのである。

しかしHPが回復して体が再生しても、直前まで半死半生であった今の詠には、高度な集中を必要とする『離間の計』は使えなかった。
他の皆も同様、今の状態では戦闘行為は無理である。

ではなぜ一刀は、すぐさま音々音のフォローに向かわなかったのか。
それは、その必要が全くなかったからである。
むしろこの段階になれば、LVの低い一刀のフォローでは彼女の足手纏いにしかならない。

「ちんきゅーチョップ!」

音々音の1撃が、彼女に殴りかかってきていたゴーレムの腕を断ち切る。
恋達が回復した時点で彼女は既に防御主体の戦いを止めており、今は完全に攻勢であった。
ゴーレムの攻撃を受け止める必要もなくなったため、回復もそんなにはいらない。

驚くなかれ、今音々音が相手にしているゴーレムは3体目、つまり最後の敵なのである。

そもそも落ち着いてさえいれば、パーティ効果とステータスブーストの香に加えて呪文の効果まであり、且つLV23である音々音がこのフロアの敵とタイマンで負ける訳がないのだ。
混乱していている状態でも、詠達が回復するまで音々音だけで戦線を維持出来ていたのがそれを証明している。
そして自信を取り戻した彼女にとって、最早ゴーレムなど敵ではない。

「これでトドメなのですぞ! ちんきゅーキック!」

彼女の全身を使ったドロップキックは、見事にゴーレムの腰部を貫いた。
そして最後のゴーレムもこれまでの2匹と同様、バラバラに砕け散って粒子となったのであった。



意識を取り戻した詠の指示で『帰還香』を使用し、一刀達は洛陽へと戻った。

体力的に回復していても精神的な負荷が過大である状況下で、祭壇まで戻らなくて済んだのは大きい。
本当は今回の探索でBF22への階段を発見し、それを新たな成果として皇帝に報告しておきたかった月達。
だが『増力香』を始めとする能力ブーストアイテムがその代わりとなるため、無理をする必要は全くない。

月達はしばらく休息を取るとのことだったので、これで一刀の仕事も終わりである。
実働は4日だったが、今回もボーナスが貰えてホクホクであった。

打ち上げを兼ねた『湯屋』での慰労会も、もちろん月達の奢りだ。
久しぶりのでかい風呂は気持ちが良く、一刀に迷宮での疲労を忘れさせた。

そのまま宴会へとなだれ込んだ一同。
いつになく死を間近に感じた彼女達にとって、酒も料理も非常に美味かったのであろう。
いつも以上に飲み食いし、一刀も釣られるようにして酒を煽ってしまった。
そうして宴を楽しんでいるうちに、一刀はいつの間にか音々音に絡まれていた。

「ネネでも大丈夫な敵だったのですから、お前だって十分にいけたはずですぞ!」
「俺じゃ無理だって、ネネよりLVが5つも低いんだから」
「少なくとも囮になるよりは、無理のない選択だったのですぞ!」
「もし俺が戦ったとしても、ネネ達が落ち着きを取り戻すまでの時間を稼ぐのは難しかったよ」

普段は戦闘要員でない音々音。
どうやら彼女は、自分がこれほどに戦えるとは思っていなかったようである。
音々音の言葉の端々からそのことを理解した一刀は、彼女の勘違いを正した。

「逃げ回っていいなら、まだなんとかなったかもだけどさ。それだと戦線を維持出来なくて、恋達が死んじゃうだろ。月の加護スキルでも同じことだし。まぁ、だから俺達全員が生きているのは、音々音が頑張ってくれたおかげだってことさ」

音々音が今まで一刀にあれだけ突っかかっていた理由。
それは彼女の自信の無さの現れであることに、一刀はなんとなく気付いていた。
今回、恋達を守って戦い抜いたことによって身に付けた自信は、今後彼女のバックボーンとなってくれるであろう。

そうなることを願って、ちょっと大げさに音々音を持ち上げる一刀。
その会話が一段落ついた辺りで、詠と霞が話に加わってきた。

「月も音々音も。それに一刀も、よく頑張ってくれたわね。お陰で助かったわ」
「いやー、ウチが油断したせいでスマンかったな」
「まぁまぁ、お互い様だって」
「でも、あれだけ苦労したのに『天使印』がドロップしなかったなんてね。リターンも大きいけど、現状ではハイリスク過ぎるわ」
「せやなぁ。それにしても今回ばかりは、ホンマに死んだかと思ったで」
「みんなで生き残れて、本当に良かったよ」

と言いつつも、今頃になって全身が震えて来る一刀。

死を意識したのは、一刀も同じである。
爆発により一瞬で意識を失った彼女達より、むしろ一刀の方が死を実感したと言ってもよい。

だがこの震えの原因は、恐怖というよりも怒りであった。

半ば死を覚悟して囮を申し出た時には、正直に言って宿屋のことも恋人達のことも凪達のことも、一刀は全く考えていなかった。
これでは恋人や保護者役は失格であろう。
そんな自分に、一刀は猛烈に腹を立てていたのである。

だがそれが本当に間違いだったのかどうか、そこが一刀にはわからなかった。
あの状況で自分の命を優先することは、つまり恋達を見殺しにするということだからだ。

俯いて無言になった一刀の肩に、そっと手を置いた者がいた。

「……恋、どうした?」
「強くなればいい。恋も頑張る。もっと強くなる」
「あはっ、はははっ、そっか、そうだよな。強くなれば、いいんだよな!」
「……ん」

今回もし敵が巨体を誇るゴーレムだけでなかったら、そして自分達の居場所が小部屋内でなかったら、1体ずつを相手取っての戦闘は不可能だったであろう。
そうなれば、いくら高LVの音々音とはいえ1人で戦線維持は難しかった。

そういう意味では、たまたま幸運が重なったと言える。
その幸運のお陰で、一刀のような低LV者でも生き残ることが出来たのだ。

逆に不運が重なれば、今回の恋達のような高LV者であっても瀕死の重傷を負うことになる。
確実な安全など存在しない、それこそが迷宮探索なのである。

(それでも俺は、もっと強くならなきゃいけない)

自分の命も仲間の命も持って帰るため、幸運を強引にでも掴み取るために、とにかくLVとスキルが必要なのだ。
そのためにも、まずは『打神鞭』を使いこなす必要がある。

そう一刀は考えたのであった。



**********

NAME:一刀【加護神:呂尚】
LV:18
HP:315/288(+27)
MP:0/0
WG:100/100
EXP:4194/4750
称号:エアーズラバー

STR:24(+4)
DEX:36(+12)
VIT:22(+4)
AGI:28(+6)
INT:22(+2)
MND:17(+2)
CHR:27(+2)

武器:アサシンダガー
防具:スパルタンバックラー、避弾の額当て、大極道衣・改、鬼のミトン、マーシャルズボン、ダッシュシューズ
アクセサリー:猫の首輪、万能ベルト、蝙蝠のマント、回避の腕輪、グレイズの指輪

近接攻撃力:134(+17)
近接命中率:85(+10)
物理防御力:118
物理回避力:89(+18)

【武器スキル】
デスシザー:格下の獣人系モンスターを1撃で倒せる。
インフィニティペイン:2~4回攻撃で敵にダメージを与える。

【加護スキル】
魚釣り:魚が釣れる。
魚群探知:魚の居場所がわかる。

所持金:282貫


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.039916038513184