(ふっ、とうとう私の武も白蓮殿に追い越されてしまいましたな)
(白蓮ちゃんの智謀には、風達も敵わないのですよー)
(おーっほっほっほ、白蓮さんはわたくしなどよりも、遥かに都市長に相応しいですわ)
「うふ、うふふふ……」
幸せそうに眠っている白蓮を眺め、一刀は心からほっとしていた。
白蓮の頭上に燦然と輝くLV表示が、ようやく16へとアップしてくれたのだ。
今度一緒に神殿に行ったら、みんなで白蓮を胴上げしよう。
そう思いながら、同じく寝ている蓮華に視線を移す一刀。
蓮華のLV表示も、その数値を2つほど上げていた。
当初そのLVの低さが心配された蓮華だったが、EXPが溜まっていたのだろう、初日の移動時にLV14へと上がり、3日目を終えて早くもLV15になっていたのである。
ちなみに、一刀も白蓮より僅かに遅れてLV16へと上がっていた。
本格的なLV上げが2日目からであったことを考えると、その狩りのペースは驚異的である。
パーティの要である蓮華は、敵の注意を引いて攻撃を一手に引き受ける。
同じ守備タイプの流琉でも、蓮華ほどの巧みさはない。
そして蓮華に足りない攻撃力を補うのが、思春の役割である。
見た目通りの苛烈な攻撃で、重い1撃を敵に加えていく。
季衣よりも手数が勝る分だけ、敵に与えるダメージも大きいであろう。
その蓮華を補助して敵の攻撃を支え、時には思春と共に敵に攻勢を仕掛けるのが明命である。
彼女の特徴はスピードであり、どうしても季衣の守りに比重が多くなりがちな一刀とは違って、遊撃の見本とも言える立ち回り方であった。
そんな3人をサポートする小蓮の存在も重要である。
魔術に目覚めるのが遅かったせいか、はたまた他の要因からか、小蓮は土系統以外の魔術が現状では上手く扱えなかったが、それでも彼女の価値は下がらない。
前衛に補助魔法を掛けた後、彼女は魔術師らしくない身体能力を活かして手矢を放ち、敵に隙を作り出すのである。
投擲技術も素晴らしいが、敵と前衛3人の動きを完全に見切っているあたりに、雪蓮や蓮華との血の繋がりを感じさせる。
そして後ろから戦況を見通すのが、目つきの悪い魔術師・亞莎である。
外見と比べて若干服装が背伸びしている少女であったが、実力は確かであった。
風の魔術で敵を弱体化し、火の魔術で敵を打ち破るその攻撃的な魔術は、確実にパーティ戦力の底上げに繋がっていた。
そんな5人が、息を合わせて敵に立ち向かっているのである。
多少LVが低かろうがそんなものは関係ない、ということを証明するかのように、一刀チームや星チームと同等かそれ以上の戦果を上げていたのであった。
「ちょっとあんた、サボってんじゃないわよ!」
「わ、シーッ、皆が起きちまうだろ」
「いいからさっさと来なさい。眠ってる女の子をニヤニヤ眺めてるんじゃないわよ。妊娠させるつもりなの?」
「んなわけあるか! っと、いけね」
「まったく、ちゃんと見張りしなさいよ」
「わかったわかった、悪かったよ」
とはいえ、昼間に全力で戦っていたせいで、何かで気を逸らしていないと眠ってしまいそうだった一刀。
感覚の鈍い一刀ですらそうなのだから、季衣達は更に辛いであろう。
そして最も辛そうなのが、先ほどから口だけは元気な桂花である。
いや、辛いからこそ口を動かして紛らわせているのだ。
NAME:桂花
LV:15
HP:186/155(+31)
MP:45/178(+35)
いくら強がっていても、そのMPで桂花の状態は一目瞭然である。
「なぁ、桂花だけ先に休んでてもいいんだぞ? さすがに俺1人じゃ無理だから季衣達には付き合って貰うとして、お前はもう限界に近いだろ?」
「ふん、あんたなんかに気遣われたくないのよ。いいから黙って見張りをしなさい」
(……これだけは使いたくなかったけど)
「季衣、ちょっと来てくれ。まだ頑張れるか?」
「うん、ボクまだ平気ー」
その言葉を聞いて、一刀は季衣をパーティから外した。
その瞬間、パーティ効果が無くなったことにより『MP:37/178』になった桂花。
体をぐらつかせて倒れそうになった桂花を、一刀がしっかりと支えた。
MPが約2割しか残っていない状態で、しかも完全に不意打ちである。
僅か8のMP消費とはいえ、精神への負荷は大きかったのであろう。
桂花は昏睡状態に陥ってしまったのだ。
一刀はそのまま桂花を抱いて(本来ならば念を押す必要もないことだが、対象が一刀なので一応追記しておくと、性的な意味ではない)、蓮華の隣に寝かせた。
そして季衣をパーティに戻すと、MPが元に戻ったせいか桂花も安らかな寝顔になったのであった。
夜半過ぎに星チームと見張りを交代し、4日目の朝になった。
「おい、貴様! もっと離れろ、痴漢め!」
「思春、いい加減になさい! 迷宮内なんだから、一刀に着替えを見られたくらい気にしないわ」
一刀は朝っぱらから思春に怒鳴りつけられていた。
寝起きでボーっとしていた一刀は、目の前で着替えている蓮華を眺め続けてしまい、それを思春に見咎められたのだ。
だが蓮華を始めとする皆の非難の目は、思春の方に向けられていた。
そんなことで怒る思春の方が、迷宮内では非常識なのである。
なぜなら、用足しならばともかく着替えを見られたくらいで恥ずかしがっていては、迷宮探索など行えないからだ。
自分で治療出来ないような手傷を負ったら、仲間に傷薬を塗ってもらうのだから、それも当然である。
尤も、ならば一刀は女の子の着替えをマジマジと見ていいのか、という話とは別問題であるが。
ともかく、思春だって「着換えぐらい」的な考え方の、ごく一般的な探索者のメンタリティは持っている。
一刀が目を逸らさなかったのは褒められた行為ではないが、逆に仲間の裸くらいで戸惑ってあたふたしてしまう方が問題であることは、思春にも解っているのだ。
それでも一刀に突っかかってしまう辺り、思春の一刀に対する敵意には根深いものがある。
そのことは、今までの蓮華と思春のやり取りから一刀も察していた。
思春自身も筋違いの怒りであることを理解しているのだろうことは、容易に想像がつく。
それでも自分に敵意を向けてしまう彼女に、一刀はむしろ好感を抱いていた。
(よっぽど蓮華のことを大切に思ってるんだな。……それに、なんといっても褌少女だし! 多少のことは全然OK!)
その一刀の懐の深さには、感嘆の念を禁じえない。
一刀と思春はチームが違うため、必要以上にギスギスすることもなく、それから更に3日が過ぎた。
前回はここで帰路についたことからもわかるように、そろそろ迷宮に滞在するのが精神的に辛くなってくる頃合である。
穏の魔法効果はあるが、それはハイペースでの狩りと相殺であろう。
特に一刀は今日が祭との情事の日なので、帰りたいなぁ、帰らないのかなぁ、とそわそわしっぱなしであった。
狩り自体は順調に進んでいて、一刀達は蓮華PTも含めて全員がLV16になっていた。
LV16と言えば、後衛が新しい魔術を覚えるのではないかと一刀が予測を立てていたLVである。
そしてその予測の通り、彼女達は新しい魔法を覚えていた。
『試練の部屋』に挑むには、丁度いいキリであろう。
だからといって一刀は、蓮華達が今すぐ『試練の部屋』に行けばいいのに、などとは全然思っていない。
出来るだけLVを上げ、連携力を高め、スキル熟練度を上げてから挑んだ方がいいに決まっているからだ。
(仕方ない、今週の逢瀬は諦めよう……。あ、でも冥琳だったらボウガンのメンテ日なんて関係ないかな。いや、雪蓮は普段通りに行動して欲しいっていってたし、もし冥琳の部屋に行ったら彼女達の作戦の邪魔になるかも。やっぱり諦め……るのか? うーん……)
と、潔く煩悩を絶つ一刀。
今日の物資を受け取ろうと、『帰らずの扉』で穏と祭の到着を待った。
ところが、いつも来ている穏と祭だけではなく、今日は雪蓮と冥琳も姿を現したのである。
「一刀、貴方最高よっ! んー、ちゅ、ちゅぱっ、ちゅっ」
いきなり一刀に走り寄り、そのまま抱きしめてキスの雨を降らせる雪蓮。
皆があっけにとられる中、冥琳が雪蓮を引き剥がした。
「おい、雪蓮。いい加減にしろ。浮かれ過ぎだ」
「いいじゃない。一刀のおかげで、ようやく孫策様の加護スキルが発揮出来るようになったのよ! これで華琳ちゃんや桃香ちゃんにも負けないわ!」
加護スキルは、祭壇で加護を受けた時に自ずと理解出来る仕組みになっている。
雪蓮の加護スキルは、『仲間の力が己の力となる』というものであった。
ところが、このスキルの効果が今まで全然発揮されていなかったのである。
雪蓮だって、伝説に残る曹操・劉備と肩を並べる孫策の加護が、他の2人に比べてしょっぱ過ぎるとは思っていた。
冥琳達とパーティ行動をとった。
蓮華達をそれに含めてもみた。
他の者と組んだりもした。
考えられる限りのことを試し、全て上手くいかずに諦めかけていた時、蓮華達から『おまじない』の報告を受けたのである。
その間の抜けた言葉の響きに失笑しながらも、物は試しと実行してみて驚いた。
パーティ登録人数が増えれば増えるほど、自分の攻撃力が増していくのが実感出来たのだ。
雪蓮は今、かつてないほどに興奮していたのであった。
一方それを素直に喜べないのが冥琳である。
いや、冥琳とて雪蓮の飛躍は嬉しい。
だがなぜ一刀にパーティ登録のやり方がわかったのか、その疑問が彼女の歓喜に水を差す。
さすがに『おまじない』で誤魔化される冥琳ではなかったのであった。
(蓮華達、パーティ登録のことを話しちゃったのか。そう言えば、口止めしてなかったしなぁ。まぁ別に知られても困らないからいいや)
一刀の中ではパーティシステムを公開した時の問題点は解決済みであったし、剣奴から脱却出来た今となってはそんなに金に拘っていない。
もちろん貰えるものなら貰いたいし、装備品を買う金も必要なのだが、身を買い戻そうとしている時に比べると必死さの面で雲泥の差があったのだ。
それに、あの時とは隠している内容が全く違う。
EXP取得システムは、知らない人は安全マージンが大き過ぎるために効率が悪くなるだけで、命がどうこうには繋がり難い。
だがパーティシステムは、そのパーティ効果の有無が直接命に関わる可能性が高いのである。
一刀は、命に関わる情報を金額で交渉するつもりは毛頭ない。
金を貰えればラッキーだが、貰えなくても情報を渡さないという選択が出来ないのだ。
それが一刀の限界であった。
(いっそこのまま口コミで広まってくれれば、そっちの方が楽でいいな)
ぼんやりとそんなことを考えている一刀に向かって、冥琳が尋ねかける。
「一刀、お前はいつからこの仕組みを知っていた? どうして解ったのだ?」
「知ったのは偶然だよ」
「出来るだけ詳しく説明して欲しいのだがな」
「えーっと、あーっと……」
別に答える義務はないのだが、先週体を重ねたばかりの冥琳の問いである。
彼女に嫌われたくない一刀は、自分の特異性を隠したままで答えることが出来るか脳内でシミュレートしてみた。
(実は、祭さんといちゃいちゃしてた時、偶然乳首を押したら力が溢れ出したんだよ)
(なんと?! 儂は全く気づかなかったぞ?)
(効果が遠距離攻撃アップだったからな。実際に撃ってみないとわからないって)
(……それをなぜお主は気づけたのじゃ?)
(そ、それは、あー、ほら、射精の勢いで……)
無理だー!
無言で考え込んでいたと思ったら、いきなり頭を抱えてしゃがみ込む一刀を見て、冥琳はさりげなく距離を取った。
そんな冥琳と一刀の間に雪蓮が割り込んだ。
「一刀、ひとつだけ教えてくれない? いつから秘密にしていたのか知らないけど、それを蓮華達に教えてくれたのはなぜ?」
「そりゃ、蓮華達が今回『試練の部屋』に行くって言ったから……」
「ほらね、冥琳。これでもまだ一刀を疑うの?」
「……私だって、疑っていたわけではない。だが、お前が隠しておきたいと思っているだろうことを、不躾に聞いてしまったのは謝罪しよう。済まなかったな、一刀」
「一刀、貴方に秘密があってもなくても、私達は気にしないわ。秘密を打ち明けることだけが信頼の形じゃない。貴方は行動を以て信頼に足る人物だということを示しているのだから、それで十分よ」
雪蓮のキスから始まって、信頼どうこうの話に急展開されたため、一刀はいまいち話についていけなかった。
それでもなんだかいい方向に話が進んでいることは理解した一刀は、沈黙は金とばかりに口を噤む。
己のうっかりスキルに対しても対応策を編み出した一刀に、死角はなかった。
「ところで姉様、それを言うだけのために、わざわざいらしたのですか?」
「そんなわけないでしょ。いよいよ時期が来たのよ。貴方達には今日の真夜中辺りに『試練の部屋』に挑戦して貰いたいと思ってるの。いける?」
「もちろんです!」
「ふむ、ではそれまで我等が野営の見張りをしましょう。蓮華殿のパーティは、ゆっくり休息を取られよ」
「本当は私達で見張ろうと思っていたのだけど、お言葉に甘えさせて貰うわ。ついでに、それまで一刀を貸して貰えないかしら。一刀さえ良ければ、おまじない効果のお礼をしたいのよ。どこへ行って何をするかは、その時までのお楽しみね」
「一刀殿、どうなさる? 折角の申し出ですし、私は行かれたほうが良いかと思いますが。野営の見張りだけならば、一刀殿が抜けても平気でしょう」
「うーん、でも雪蓮はほら、例の賭けを知ってるだろ、ギルドとのやつ。あれ、PL禁止って約束があるんだよ。下手に疑われてもまずいしなぁ」
「そんなの、蓮華達と合同で狩りをしている時点でギルドを敵に回すも同然の行為なんだから、今更気にしても無駄よ」
「薄々そうじゃないかとは思ってたんだけどな。……よし、星達がいいなら行ってくるよ。お礼ってのも気になるし、色々と勉強になりそうだし」
(もしかして、迷宮内5P?! いや、さすがにそれは危険かな。恐らく交替で口を使って……)
先達の雪蓮達から迷宮内での新たなノウハウを学び、今後の糧にしようと張り切る一刀なのであった。
**********
NAME:一刀
LV:16
HP:220/220
MP:0/0
WG:55/100
EXP:1988/4250
称号:連続通り魔痴漢犯罪者
パーティメンバー:雪蓮、冥琳、祭、穏、一刀
_ ∩
パーティ名称: ゚∀゚)彡
⊂彡
パーティ効果:近接攻撃力+20、遠隔攻撃力+20、魔法攻撃力+20
STR:16
DEX:24(+4)
VIT:17(+1)
AGI:22(+4)
INT:19(+1)
MND:14(+1)
CHR:19(+1)
武器:アイアンダガー、バトルボウガン+1、アイアンボルト(100)
防具:避弾の額当て、ハードレザーベスト、レザーズボン、ダッシュシューズ、レザーグローブ、万能ベルト、蝙蝠のマント、回避の腕輪
近接攻撃力:74
近接命中率:63
遠隔攻撃力:92
遠隔命中率:61(+3)
物理防御力:65
物理回避力:80(+18)
【武器スキル】
デスシザー:格下の獣人系モンスターを1撃で倒せる。
インフィニティペイン:2~4回攻撃で敵にダメージを与える。
ホーミングブラスト:遠隔攻撃が必中になる。
所持金:14貫300銭