妖怪の山の裏にある道を抜けた先に広がる広い川。そこでアスカは懐かしい再会を果たしていた。「おや? そこにいるのはアスカさんじゃありませんか」「ん? あなたは映姫さん。 お久しぶりです」呼びかける声に振り返り相手を確認したアスカは顔に笑みを浮かべながら再会の言葉を投げかけた。それに対する映姫も顔に柔和な笑みを浮かべながら返事を返す。「えぇ、本当にお久しぶりです。しかし、見たところまだ生きてるようですけど・・・・・・なぜここに?」そういって小首を傾げる映姫にアスカはここが何処なのか尋ねることにした。「いえ、適当に散歩してただけなんですが何時の間にかこんな所まで・・・・・・ここは何処なんでしょうか?」「はぁ、相変わらずですねアスカさんは。しかし、日々をそのような"適当"にすごしているようではいけませんよ。ただ日々を適当という名の自堕落で過ごす、是即ち罪です。そう、あなたには計画性というものが・・・・・・」「(しまった! 墓穴を掘ったか)」アスカが心中で自らの失敗を悟ったときには既に遅く、映姫はアスカの"適当"という言葉に反応してそのまま説教モードに入ってしまった。幽々子していた説教のように怒鳴られないだけましではあるが、こうも懇々と言われると流石のアスカもへこんでくる。そして、そうこうしているうちにやっと説教モードが終了したのか、ややすっきりしたような面持ちで映姫が話を続けた。「・・・・・・という事です。 いいですか?さて、ここがどこかとのことですが、ここは三途の川。正確に言えばその川原ですね。」「へぇ・・・三途の川ですか。しかし、俺はさっき言ったとおり散歩の途中ってだけなんですが映姫さんこそなんで三途の川に?」映姫から現在位置を聞く事ができたアスカはそのまま疑問に思ったことを聞き返した。すると、映姫は苦笑いを浮かべながら視線を船着場へと送り、困ったように話し始めた。「それが、ちょっと休憩時間になったので小町・・・三途の川の渡し守の様子を見に来たのですが・・・・・・」「あ~・・・・・・」映姫からの返事を聞いたアスカは流石になんと言っていいのか分からないといった風に表情を引き攣らせてしまった。おそらくはアスカの背後、ちょうど映姫から死角となっている場所で眠っている彼女こそがその渡し守なのだろう。そう考えたアスカが如何したものかと思い始めたその時、無常にも映姫はそのことを尋ねてきた。「それでですね、アスカさん。ここにその渡し守の死神がいた筈なんですがどこにいるか知りませんか?」映姫の問い掛けにアスカは後ろの女性を教えるだけでよかったのだが、このまま教えれば再び映姫が説教モードに入るのは確定だろう。流石に寝起きでそれはあんまりじゃないだろうか?そう考えたアスカはこのまま映姫を別の場所に移動させようと話を持ちかけることにした。「んじゃ、t「ZzzZzzZzz・・・・・・」・・・・・・」「今のは・・・・・・アスカさん、ちょっと退いてもらえますか?」そんなアスカの努力は庇おうとした本人からのいびきによってものの数秒もしないうちに水泡に帰してしまった。そして映姫・・・・・・いや、四季=映姫=ヤマザナドゥは目が全く笑っていない笑顔をアスカに向けるとそのまま口を開いた。「アスカさん、そこを退いてもらえますか?」「はい! わかりました!!」当然、そんな映姫にアスカが逆らう術は無く、すぐさま脇に退くと直立不動の体勢で動けなくなってしまった。さて、アスカが退くと自然と映姫の視界には昼寝中の女性が入るわけのだが・・・・・・「ふふ、ふふふ・・・・・・そうですか、そうですか。昨日あれほど言ったというのに・・・・・・いい度胸です」「え、映姫さん?」「あ? なんですか、アスカさん」「何でもありません! 失礼しました、映姫様!!」「なら結構です」女性の姿を見つけるや映姫の体からは凄まじいまでの怒気が溢れ出しはじめた。それを見たアスカは流石に不味いと考え、宥めようと声をかけたのだが映姫の怒気を正面から浴びてしまい再び直立不動の構えに戻ってしまった。一方映姫・・・・・・いや、ここは映姫様と呼ぼう。映姫様はアスカのそんな態度など全く気にせずに女性の傍まで歩み寄るとその場で屈み、いかにも優しげな声音で話しかけた。「小町。 起きなさい、小町。 仕事の時間ですよ」「ZzzZzz・・・むにゃ・・・・・・」「小町・・・・・・起きろ」「っひゅっ!!!」しかしながら優しかったのは一瞬のことで、そのあまりに恐ろしい声音に女性・・・・・・もとい小町は顔を青くさせながら体を起こした。目を覚まし上半身を起こした体勢の小町はそのまま何かを探すように首を振って周囲を見渡した。そして、背後にいる映姫に気づくことの無かった小町は大きく安堵の息を吐いた。「ふぅ~・・・夢でよかったよ・・・・・・」「へぇ、何が夢でよかったんですか?」「そりゃ勿論、仕事をサボって昼寝をしていたのを四季・・・様・・・・・・にぃぃ!!」「あら、どうしたの小町? そんなに驚いて」小町の安堵はまさにつかの間だった。背後から掛けられた言葉にはじめは映姫様だと気づかなかったものの相手を確かめようと後ろを振り向いたのが運の尽き。笑顔なのに目が笑っていない映姫様と見事なまでの睨めっこ状態になってしまった。その距離はまさに恋人の距離だが今の小町にはそんな事を気にしてる暇は無かった。小町は恐怖で顔面蒼白、息も絶え絶えの状態になりながらもなんとか言葉をつむいだ。「し、四季様? な、なぜこちらに?」「なぜだと思いますか?」「あ、あははは・・・・・・もしかして、新しい魂が届かないから?」「あら、分かってるのに聞くなんて・・・・・・小町はいけない子ね。 うふふふ・・・・・・」「あ、あは、あはは・・・・・・そうですね、あたいは悪い子ですね~」「うふふふ・・・・・・」「あははは・・・・・・」その光景を横から見ていたアスカは思った。「(あ、終わったな・・・・・・)」実際、二人は笑いあってるのにそこにある空気は今にも引き裂けそうなほど張り詰めている上に、映姫様から立ち昇る怒気は全く治まっておらずアスカの耳にはまるで地響きのような音が聞こえてくるのだった。そしてついに・・・・・・「こ」映姫様の怒りが・・・・・・「あはは・・・って、っへ?」小町を貫いた。「この、馬鹿小町がー!!」「きゃん」「うわっ」映姫様は怒りの雄たけびを上げ、小町とアスカはその雄たけびに驚きの声を上げた。小町の場合は悲鳴だが・・・・・・まぁ、それは置いておくとして、映姫様の怒りはとどまる所を知らなかった。「小町、正座ー!」「は、はい!」「あなたはどうして、いつもいつも・・・・・・」そして、小町をその場で正座させた映姫様の説教という名の拷問が始まった。「・・・・・・であるからして、サボるのもいい加減にしなさい!聴いてるのですか!!」「ひ、ひゃい・・・・・・」「そう、あなたは怠惰がすぎる・・・・・・」怒声に次ぐ怒声。「・・・・・・なのだから、あなたは自分の仕事の意味を分かっているのですか!聴いてるんですか小町!」「っひ、聴いてます・・・・・・」「魂が彼岸へ渡れない・・・・・・私達、閻魔の裁きを・・・・・・」叱責に次ぐ叱責。よくもまぁ、言う言葉が尽きないことだ・・・・・・アスカはそう思いながら改めて映姫が閻魔であることを再確認し、やっと怒りが収まり始めた映姫と髪が白く煤けはじめた小町の二人を眺めた。そうして数時間に及ぶ、長く厳しい説教は小町がその怒声を一身に浴びるという偉業(自業自得)の下、終わりを迎えた。「・・・・・・です。分かりましたか?」「・・・・・・・・・・・・・・・」「小町、返事はどうしましたか?」「わ、分かりました・・・・・・今後はまじめに魂を運びます」「分かればいいのです・・・・・・幸い今は暇なようですからそのまま休憩に入ってもいいですよ」「は、は「ただし・・・」ぃ?」「その後は当分休憩、休みは無いものと思いなさい・・・・・・いいですね?」「っへ? そ、それh「あ?」はい、分かりました!」「よろしい」映姫がそう言って満足そうに頷くと、小町は緊張が解けたのか正座した状態のまま顔から地面へと崩れ、たれ小町へと退化した。しかしたれ小町は何をする訳でもなく自分達を眺めているアスカの存在気づくと「はて?」っと首を傾げ、ただの小町として立ち上がり、恐る恐る映姫へと話しかけた。「え~っと、四季様・・・・・・そちらの方は一体どなたで?」「ん? どうしたんですかアスカさん。そんなところでボーっとして??」「いや、ちょっとばかり話しかけるタイミングを見失ってしまってな」「ふむ、どうやら話が長引きすぎたみたいですね・・・・・・気分を害したと言うなら謝りますが・・・・・・」「あぁ、別にいいですよ」アスカは自分に向かって申し訳なさそうな顔で今にも頭を下げそうな映姫を手で制しながら、小町へ視線を向け、話を続けた。「それよりもその人は一体?」「彼女ですか? 彼女は私の部「おっと、四季様ちょっと待ってください」小町?」映姫が小町のことをアスカへ紹介しようと話を始めると小町は何を思ったのか映姫の話を遮ってしまった。そのことに対して映姫がいかぶしげな顔を小町に向けると、小町はアスカの正面へと移動しながら話を進めた。「映姫様、自己紹介ぐらいはあたい一人でも出来ますよ。さてと、はじめましてだね。名も知らぬ御人。あたいはこの三途の川で渡し守をしている死神の『小野塚 小町』・・・・・・それで?お前さんの名前は?」なんというか・・・・・・先ほどまで垂れていたのと同一人物なのかと言うほどに立派な名乗りである。先ほどからのやり取りを見ていたアスカは予想外の名乗りにやや呆気にとられながらもなんとか返事を返した。「あ、あぁ、俺は妖怪の山に住む薬師のアスカだ・・・・・・」「ふんふん、薬師のアスカね~・・・・・・あ、呼び方はアスカでいいかい?あたいの事も気軽に小町って呼んでくれていいからさ」「まぁそれはいいんだが・・・死神ね~・・・」「ん~?なんだいその反応は?? まさかと思うけど信じてないのかい?」「いやな、さっきからずっとここに居た人間としてはサボりが出来る死神って言うのはちょっとな・・・」「むかっ?!映姫様~、こいつこんなこと言ってますよ~」「それはあなたの自業自得です!!そもそも、あなたがまじめに仕事をしていればそんな風に思われることも・・・・・・」アスカからの疑いのまなざしと言葉が癇に障った小町はすぐさま映姫へと話をふり、アスカを懲らしめてもらおうとしたのだが、その行動は完全に失敗であった。それどころか再びお説教が再開されそうな空気を感じた小町は慌てて映姫の言葉を遮り話をやめるように説得しはじめた。「っひ?! し、四季様、まだ話の途中ですから・・・・・・っね?」「っむ、仕方ありませんね」「っほ・・・・・・」「後で私の部屋に来るように・・・あなたの立場をしっかりと教えてあげましょう」「(っげ?!)え、えっと・・・出来たら遠慮し「却下です」とほほぉ~」珍しくも説得に成功したかと小町が喜んだのもつかの間、結局は苦しみが後回しにされただけのことだった。しかしながらなんとか説教は回避した小町さん、やや落ち込みながらもアスカへの話を続けた。「はぁ・・・・・・えっと、あたいが死神に見えないって話だったよね?」「まぁそうなんだが・・・・・・なんと言うか、ご愁傷様?」「っく、考えないようにしてるから言わないでくれるかい。それとあたいが死神かどうかは・・・・・・こいつを見てから言っておくれよ!!」「あぶっ?!」小町が喋り終えるのとほぼ同時だろうか。アスカは何かを避けるように慌てて後ろへ跳ねとび、それと同時に先ほどまでアスカの首があった場所に銀色の閃光が走る。そして、小町はいつの間にか手に取っている大鎌を肩に担ぐとアスカの様子に賞賛の声を放った。「ほぅ、今のを避けるとは・・・・・・噂に違わずと言ったところだねぇ」「ふざけんな! 突然何するんだって、うわさ?」突然の小町の凶行にアスカはすぐさま怒鳴り問い詰めようとしたが小町の最後の言葉に首をかしげた。「噂って、どういう事だ?」「あははは・・・・・・いや、悪いね。 あんたが噂のアスカならこのくらい問題ないと思ったんだけど・・・・・・うんうん、全く問題なかったねぇ。 あっはっはっはっ・・・・・・・」大鎌を肩に掛けアスカの質問に答えることなく小町は一人納得したように首を縦に振りながら闊達に笑い続ける。その気持ちの良い笑い声は三途の河原に響き渡るが危うく首を刈り取られるところだったアスカにしてみれば笑い事ではない。先ほどよりも怒気の篭った声で再度小町へと質問を放った。「なぁ、一人で納得してないでちゃんと説明してくれないか?いきなり人様の首を刎ねようとしやがって、それに噂ってのはいったい何のことだ?」そこで小町は笑うのをやめはするものの、ニヤニヤとした表情を崩すことなくアスカの質問に答え始めた。「そうだねぇ・・・・・・まずは噂について教えようかね。噂ってのは色々あるんだがね、曰く『自称人間(笑)』曰く『なぜか死なない人間(笑)』曰く『妖怪と殴りあえる人間(笑)』などなど・・・くく、しかし口にしてみると笑える噂ばかりだねぇ」「んな!? じ、自称人間・・・しかも笑・・・」「あははは・・・・・・そんなに落ち込まなくてもいいだろ。そんな面白人間(笑)だったからあたいもちょっと悪ふざけがしたくなったんだよ。そして結果は予想通り! 傷一つ無いじゃないかい」小町の話を聞いたアスカは盛大に落ち込んだ。地面に膝と両手をついてガクリとうなだれ、見えるはずも無い青い影まで背負い込んでしまっている。その様子に小町は笑いながら続きを話すのだが、アスカはそれに対して怒鳴る気力すら残ってはいなかった。そして、せめてもの意趣返しのつもりで小町を睨んでやろうと顔を上げた時、それを見てしまった。「・・・・・・・・・・・・」「ん? どうしたんだい? そんな顔を青くして・・・・・・と言うかそろそろ立ちなよ」そんな小町の言葉にもアスカはただただ首を横に振るだけだった。その顔色は勘違いしている期間でリリー・ホワイトに出くわしたかのように真っ青である。「本当にどうしたんだい? そんなに顔を「言いたい事は終わりましたか、小町?」あお・・・く、し・・・て・・・・・・」立ち上がらないアスカを不思議に思った小町が声をかける最中、彼女の声は聞こえた。小町の背後から聞こえた彼女の声は聞くものの魂をも凍えつかせるような絶対零度の響きを持っていた。「え、えっと・・・ま、まだ言い足りない「終わりましたよね?小町」・・・・・・はい、四季様」背後を振り向かないように話しながら必死に視線で助けを求める小町。それに対して先ほどよりも激しく首を横に振って拒絶するアスカ。それ以前に現状で小町を助けれる存在がいるだろうか? いや、いない。そんな一瞬のやり取りなどは気にせずに彼女、四季映姫は小町の後頭部を鷲掴みにするとにこやかにアスカに告げた。「アスカさん、今回は私の部下が大変失礼しました。お詫びに関してはまた後日お伺いさせていただきますね?では、失礼します」そうやって一気に言い放った映姫はアスカからの返事を聞くことも無くその場から立ち去っていく。無論、小町の頭を掴んだまま・・・・・・正確には小町を引き摺りながら。そして、いまだアスカのほうを見続ける小町の顔には恐怖を通り過ぎた曖昧な笑みだけが見えなくなるまで浮かんでいた。その後、しばらくした後にやっと動けるようになったアスカは一つ大きく深呼吸をすると勇気を出して一つの決断を下した。「(さっき見たことは、忘れよう!)」しかし彼は忘れてはいけない事を忘れている。後日、映姫たちがお詫びに来ることを。そして、どこからとも無く噂話が流れていることを・・・・・・。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書き(と言う名の言い訳orz)どうも、更新速度低下どころか止まっていたお手玉の中身です。前回の更新後、引越しをしたんですがその後なぜかPCが沈黙・・・・・・色々あってやっと更新orzだと言うのになんかgdgdになってるし・・・オマケもないし・・・いつもなら書いてる次回予告も今回は無しですorz最後に一言・・・ここまで待っていてくださった方、本当にありがとうございます。前回分の感想返しをこの場でまとめて・・・・・・楽しんでいただけたようでありがとうございます。次回はなるだけ早く面白い話をあげれるようにがんばります。