さて、この兎め如何してくれよう・・・。俺の目の前には気絶して目を回している黒陽と、同じ様に気絶し、縄で縛られ転がされている兎妖怪が一匹。ちなみにこの縄は人を宙吊りにしてくれていた罠に使われていたものだ。俺はなぜこのような状態になったのか、先ほどの出来事を思い返してみた。まぁ、思い返すほどの出来事でもなかったのだが・・・。兎が飛び出し戯言をほざいた後、兎は落とし穴を見に行ったので、すぐさま足のロープを外すと穴を覗き込んでいる兎の頭の上に着地してやったのだが、この兎、情けないことにたったそれだけで目を回したようで仕方なく罠に使われていた縄で縛り上げて、放置していたのだ。それから黒陽を救出して、これといった怪我も無いようなのでそのままウサギと一緒に転がしたのだが・・・。「ふむ・・・とりあえずは起こすか」俺はそう呟くと、とりあえずは黒陽を起こして兎を運ぶことに決めた。「おい、黒陽・・・起きろ、黒陽」「ん・・・う、ん、旦那?」黒陽は2度3度とその体をゆするとすぐに目を覚ました。「っよ、目覚めの気分はどうだ?」「最悪ですよ。何があったんですか?」「落とし穴に落ちたんだよ」「落とし穴??」「詳しくはこの鍋の具に聞いてくれ」「鍋の具?」そう言って首をかしげた黒陽は俺が指差す方向に目を向けた。例の兎へと。「旦那・・・そいつは?」「言ったろ? 鍋の具だよ」「なるほど」黒陽はそういうとそのまま頷いた。どうやら黒陽も納得してくれたようだ。「って、んなわけないでしょ! 旦那、こいつ如何したんですか?!」残念納得していなかったようだ。「はぁ・・・分かった、ちゃんと説明するよ」「頼みます」「簡潔に言うとだ」「簡潔に言うと?」「そいつが罠を作って俺達が引っかかった」「旦那、鍋はどこですか?」流石黒陽。その180度方針を変えてしまうような身の振り方に痺れもしなければ憧れもしないよ。俺はそう思うと、黒陽に返事を返した。「まぁ、待て黒陽。一応そいつの保護者に心当たりがあるからそいつの所に行くとしようじゃないか」「分かりました。案内お願いします」俺の言葉に黒陽は短く答えた。さてと、いつまでも寝ているこの兎をどうやって運ぶかな。一方その頃・・・・・・「ただいま~って、姫様に鈴仙? ・・・・・・一体何をしてるんですか?」本日の仕事、偵察から帰ってきたてゐが見たものは輝夜が鈴仙の顔に落書きをしているところだった。すでに鈴仙の額には『米』、頬にはナルトと言った具合に至る所に落書きが書き込まれている。そして、ちょうど鈴仙に新しい髭を書き終えた所で、輝夜はてゐが帰ってきたことに気がついた。「っあ、ようやく帰ってきたわね。さぁ、遊ぶわよ!」「・・・姫様~、遊ぶのはいいんですがこの部屋を見たらまた師匠が怒りますよ」てゐは部屋の惨状を見渡しながら輝夜へとそう返事を返した。その際に、滝のような涙を鈴仙を見ない様にするのはもはや慣れた物だ。そして、それに対する輝夜は特に慌てるでもなく、いつもの口調で軽く答えた。「それなら大丈夫よ。ちゃんとイナバが片付けてくれるから」「っへ? 私ですか」「何か文句ある?」「無いです・・・・・・」突然、しかも片付けの話を振られた鈴仙は呆然とした表情のまま聞き返してみたが、輝夜からの一睨みで再び滝のような涙を流すのだった。そして、そんな鈴仙に目をくれることも無く、輝夜は再びてゐへと話しかける。「だからイナバ、遊ぶわよ」「・・・(鈴仙、後で人参あげるね)わかりm「たのも~」おや?」「あの声は、イナバ迎えに行きなさい。ほら、何時までも泣いてないで早く片付けて!」来客の声に聞き覚えのある輝夜はすぐさまてゐを迎えに出し、泣いている鈴仙を強制的に片付けに参加させた。とりあえずは鈴仙一人で片付けることにはならなくて済みそうだ。一方、迎えに向かったてゐも来客の声には聞き覚えがあり、「(アスカもいいタイミングで来てくれて・・・姫様の相手はアスカに頼も~っと)」と、こんなことを考えながら玄関の扉を開いた。「はいは~い、アスカいらっしゃ・・・い?」玄関を開けて、アスカの姿を確認したてゐはそのまま固まってしまった。しかし、それも仕方が無いことだろう。予想通りにアスカがいるのは問題ない。その少し後ろに男が付いて来ているがアスカの知り合いのようだしこれも問題ない。二人は一本の竹を肩に担いで運んでいる・・・そこに一匹の兎妖怪を吊るして。「んぐ~! んぐぅ~~!!」「よっす、てゐ。久しぶりだな」「う、うん、久しぶりだね、アスカ・・・ところで、その子は」「土産」「土産って・・・」「煮て良し焼いて良し蒸して良しの美味しいお土産だ」「ん~~~!!! んぐんぐぅ~~~!!!!」吊るされている兎妖怪はアスカの発言に命の危機を感じているのか必死にもがくものの、縄はまったく解ける気配を見せない。その光景に同族であるてゐは冷や汗を流しながらひいている。「え~と、アスカ・・・一応その子は此処の兎だから放してくれるとうれしいんだけど」「勿論放すぞ。何せお土産だからな」「っほ、よ「ただし鍋の上にな」くない~~~!!」「はっはっはっ、遠慮しなくていいぞ~」「遠慮じゃないよ~」てゐはアスカの言葉を必死に否定するもののアスカはまったく取り合ってくれない。と言うよりも、アスカがてゐをからかっているだけの様であるが。「旦那に弄られるとは・・・同情するぞ、兎の嬢ちゃん。・・・ん? なんだこいつ、また気絶してるよ」てゐとアスカの話を面白おかしく聞いていた黒陽がふと、吊るされた兎に視線を向けると、兎は緊張に耐えられなかったのか、はたまた吊るされた体勢が辛かったのか再び気を失っていた。黒陽はそんな兎に呆れのため息を吐いたが、正直、仕方のないことだろう。なんせ全く身動きが出来ない状態で自分の命が知らない間に他人、この場合はアスカの手の中にあるのだから堪らない。気絶と言う名の現実逃避の一つや二つ起こしてもしょうがないことだ。まぁそれはさておき、アスカ一行は永遠亭の広間へとてゐに案内された。ちなみに、哀れな兎はまだ吊るされたままである。どうやらてゐは見て見ぬふりを貫くようだ。そうして、広間へと到着。綺麗に片付けられた広間では輝夜と鈴仙がお茶を飲みながらアスカへ歓迎の言葉をつむいだ。「あらアスカ。ようこそいらっしゃ・・・いぃ?!」「っぶぅ~~~!!」「人の顔見ていきなりそれは無いんじゃないか?」「そんな事はど「げほっげほっ」の後ろに担い「ごほっごほっ」・・・・・・」兎を吊るして現れたアスカの姿に輝夜は驚きに声が裏返り、鈴仙は飲んでいたお茶を勢いよく吹いてしまった。そんな二人の姿を見たアスカは憮然とした表情で抗議の声を上げている。それに対する輝夜はすぐさま吊るされた兎について問い質そうとするのだが、お茶にむせた鈴仙の咳き込む声でまともに喋れない。輝夜はいまだ咳の止まらぬ鈴仙にその体を向けると、「ごほっ! げほっ! 「イナバうるさい!!」 うぼぉ!!」なぜか手に持ったスリッパで鈴仙の頭を一閃。その一撃で鈴仙は叩かれた箇所から煙を上げながらちゃぶ台に突っ伏し、ピクリとも動かなくなってしまった。動かなくなった鈴仙を見ながら輝夜は一言、嘆くように呟く。「ふぅ・・・イナバ、私の邪魔をしたあなたが悪いのよ」言い放った輝夜は額を拭い、どこか満足そうな顔をしている。そして、そんな光景を見ていたアスカとてゐは顔を引き攣らせながら声を揃えた。「「ひでぇ~」」「うるさいわよ、二人とも。それよりもアスカ、その吊るしてるのは一体何なのよ!」「何って・・・」アスカは肩に載せた竹に吊るした兎を一度見ると、再び輝夜に視線を戻し、首を傾げながら答えた。「今晩のおかず?」「何であなたが聞いてるのよ! イナバ! 早くそのイナバを降ろしなさい」「はいな~」「あ、あぁ・・・今晩のおかずが・・・」輝夜からの命令と言う免罪符を手に入れたてゐの行動はすばやく、返事を返すやすぐさま吊るしていた兎を降ろしてしまった。そして、それをどことなく残念そうに見ているアスカに対して黒陽は、「(旦那、まさか本当に・・・)」演技だとは分かっていても疑わずにはいられないのだった。それはさておき、黒陽は肩から竹を下ろすと、なおも何やら言い争っているアスカの影から顔を覗かせると、その体に電撃が走る。「う、ふつくしい・・・・・・」短く呟いた黒陽はアスカの横からふらふらと広間へと入って行った。「ん、黒陽? どうしたって、黒陽?!」その様子にアスカが何事かと思い声をかけるものの、黒陽は振り返りもせず輝夜の前まで行くとその場で膝をつき頭を垂れた。対する輝夜は突然の事に如何していいのかも分からず、アスカに黒陽のことを尋ねる。「っちょ、アスカ! こいつ何者よ?!」「あぁ、なんと美しい方だ・・・」「そいつは俺の友人の黒陽って言うんだが・・・どうなってんだ?」「その白磁のように白い肌・・・」「ふ~ん・・・あなたの友人は突然人に言い寄ってくるような危険人物なの?」「そのふつくしい手はまさに白魚の如し・・・」「そんな事はないんだが・・・お~い、黒陽~」「纏いし衣もあなたのふつくしさを際立たせる・・・」「へ、へぇ~・・・ふふん、気分がいいわ。もっと言いなさい!」「その艶やかな髪はまさに天上の輝き・・・」「もっと、もっとよ! もっと私を褒め称えなさい!!」「「うわぁ~・・・」」アスカは無駄にテンションの上がっていく輝夜と明らかにキャラクターの変わっている黒陽の様子に、いつの間にやら隣に来ているてゐと一緒になってひいてしまった。輝夜は褒めちぎられて気分がいいのか先ほどまでの警戒はどこへやら。黒陽は広間に入ったときと変わらずに、アスカの声さえも聞こえないかのようにその口から色々すごい言葉を紡ぎだしていく。「そのふつくしい耳もまた素晴らしい・・・」「変なところを褒めるのね・・・まぁいいわ、もっと言いなさい!!」「ねぇ、アスカ・・・」「なんだ、てゐ?」「あんたの知り合いってあんなのばっか?」「いや、あいつも普段からあんなじゃない筈なんだが・・・」そうやっててゐとアスカが話していると、今度はてゐに助けられたウサギが目を覚ました。「ひ、ひぃ~! 俺を食ってもうまくないぞ~!!」「うるさいよ『ロン』、少しは静かに起きれないの?」「ち、長老? 火は? 鍋は??」「長老言うな! 感謝しなさいよ。私がこの身を盾にあんたを助けてやったんだから」「ち、長老~~~」「だから、長老言うなと!」目覚めた兎、ロンはてゐの言葉を聞くと感動の涙を流しながらてゐへと飛びついた。しかしてゐは、『長老』と言われるのが気に入らないのか飛びつかれる寸前でロンを叩き落す。そして、その様子を横で見ているアスカは呆れのため息を一つついた。「はぁ・・・てゐ、よくそんな事いえるな?」「ん? だって助けたのは事実じゃん」「いや・・・ん~、まぁいいか・・・」「うささささ」「っひ! お前は!!!」アスカの存在に気づいたロンは先ほどまでのうれしそうな表情を一転、この世の終わりかと言わんばかりの絶望一色に染め上げ、てゐへと助けを求めだした。「ち、長老! 何でこいつが此処に?! 」「あぁ、ロンは知らないよね? こいつはアスカって言って、姫様の遊び相手だよ」「ひ、姫様の?」「そうそう」「なら、俺は食べられないで済む?」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫」「その間はなに?! 長老、こっち向いて話してください!!」ロンの問い掛けにてゐが顔を背けながら不安げな答えを返すと、ロンは涙目になりながら必死にてゐの両肩をゆすり始める。しかし、アスカは横から見ていた。ロンに返事を返すときにてゐがニヤリと笑みを浮かべていたのを。そこでアスカは、せっかくなので便乗することにした。「まぁまぁ、落ち着きたまえ。きみはロン君でいいのかな?」「は、はい・・・そうですが・・・」「俺の名前はアスカ・・・早速だけど風呂に入れてあげよう」「お風呂ですか?」「あぁ、ぐつぐつ煮えたぎっていい湯加減だぞ」「それは鍋でしょ?!」「何を異な事を・・・きみは今晩のおかずじゃないか」「この人、思いっきり食べる気だ! 長老助けて~~~!!」「ロン・・・」「ち、長老?」「美味しく食べられるんだよ?」「長老ーーーーー!!!」ロンは先ほどよりもその顔を青くするとその場で尻餅をつく様に座り込むとおびえる様に震えながら丸くなってしまった。その体からは「食べないで食べないで食べない・・・・・・」と呟き続けている。この様子には流石のアスカとてゐもやりすぎたかと慌てて謝りはじめた。「あぁ~・・・今のは冗談だぞロン」「そ、そうだよ! 冗談だからねロン」「本当に? 俺を食べない?」「あぁ、食べない」「俺を見捨てない?」「うん、見捨てないよ」「うぅ・・・怖かった・・・」そこまで言われたロンはやっと頭を出した。「いや、悪かったな。あまりにもからかい概があって・・・・・・いや、すまなかった」「ごめんね~ロン。ちょっと悪ふざけしすぎたよ」「うぅ・・・もう勘弁してくださいよ」アスカとてゐが悪乗りしたと謝ると、ロンはやっとその青い顔を元の血の通った色に戻すのだった。一方その傍では・・・・・・「もっと、もっと私を讃えなさい!」「もはやそのふつくしさを表現できる言葉がないほどに・・・・・・」「ほ~っほっほっほっほっ!!」完全に人格の壊れた二人がまだそのままで居たそうな。<おまけ 少し未来の『幻想郷縁起』>妖怪の項名前 影月能力 常識に囚われない程度の能力人間友好度 高危険度 低主な活動場所 人里二つ名 とんでも元人間二号解 説 前のページにて紹介した黒陽と同様の経歴を持つ妖怪、それがこの影月だ。 彼も元は人間だったらしいがある事件を境に妖怪へと変じてしまったらしい。 残念ながらその事件に関しては本人(本妖怪?)達が口を閉じてしまいなんら語られることはなかった。 ちなみに、別ページにて紹介している虫の妖怪、リグル・ナイトバグさんとの交際が確認できており、 その幸せそうな姿は傍から見てもお似合いの二人である。目撃例「見たことの無い緑髪の少女と散歩してた・・・浮気か?」 弥四郎 その少女がリグル・ナイトバグである「うちの炊事場に黒い例の奴が・・・・・・」 八百屋の奥さん 彼ら妖怪とは関係ないだろう 著 稗田阿求----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書き+次回予告どうも、黒いお手玉の中身です。多くの読者の期待を裏切り、てゐにはノータッチと言う汚いお手玉です。以前から考えていた新しいオリキャラは唯の兎妖怪になりました。(しかも雄)これから先、彼には道化師になってもらおうかと計画を立てるお手玉の中身なのでした。では、次回予告です。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------うっす、突然現れた新兎、ロンです。次回予告も担当させてもらいます。終わることの無いと思われた礼賛の言葉しかし、あの方が目覚めることでその言葉も終わるそして、礼賛の言葉は悲鳴と変わり兎の心に戦慄を残す次 回 「永遠亭のウサギは見た! あの方の怒れる姿を!」 それよりあんた、いい加減本当の名前を名乗りなさいよ by.てゐ