紅魔館ロビー。普段であればメイドによって綺麗に掃除されている場所だが、今は見る影もなく嵐でも通り過ぎた後のように荒れ果てていた。壊れた扉から外を見てみると大雨が降っている。その雨を見て、ロビーで唯一立っている少女は呟いた。「雨? っちぇ、パチュリーか・・・」少女の周りには美鈴、茜、才、塁の4人がそれぞれ倒れている。4人とも特に大きな怪我があるようには見えないものの、立ち上がる気力も残っていないようだ。「まさかこんな負け方するなんて・・・がくっ「「きゅ~」」「攻撃から逃げ回ってたら全員してこけるなんて・・・恥ずかしすぎる」・・・・・・存外に余裕がありそうである。そして、一人意識を保っている美鈴は少女の方へ頭を上げると口を開いた。「うぅ・・・、・・・お嬢様もう部屋にお戻りください」「嫌よ!」その言葉に少女は美鈴を睨みながら頬を膨らませて答える。「絶対に嫌! お姉さまもまだ来ないしこんなチャンスはもう無いかもしれない。だから、私は絶対に外に出て見せるんだから!!」「そんなことレミィが許すわけ無いでしょ・・・」「パチュリー?!」少女の叫びに答えたのは美鈴ではなくロビーの奥からやってきたパチュリーだった。ちなみに美鈴はパチュリーの姿を確認すると安心したように気絶してしまった。パチュリーは周囲の惨状を見渡すとあきれたように首を振りながら口を開いた。「また、ずいぶんと暴れたのね。もう気は済んだでしょう? そろそろお部屋に戻る気には「嫌よ!」・・・でしょうね」「絶対にイヤ! それよりもあの雨、パチュリーでしょ。早く止めてよ。外に出られないじゃない」パチュリーからの勧告に少女は幼い子供のように地団駄を踏みながら拒絶の意を示すと自分の要求を突きつけた。それに対してパチュリーは更に首を振りながら答える。「そんなこと出来るわけ無いでしょう。ほら、今ならレミィも怒らないはずだから」「ヤダヤダヤダ! 絶対にヤダ!!」「そんな駄々を「もういい」っ?!」パチュリーの言葉に駄々をこね続けた少女は不意に動きを止めると、先ほどまでの幼さを微塵も感じさせない淀んだ目でパチュリーを睨んだ。その様子にパチュリーは薄ら寒いものを感じ言葉を詰まらせる。少女は両の手をだらりと下げ、パチュリーを睨みつけたまま口を開いた。「もうパチュリーには頼まない。その代わりに・・・・・・遊びましょ?」そう呟いた少女の手にはどこから取り出したのか歪んだ杖が握られている。それを見たパチュリーは慌てて防御呪文の詠唱を始めた。「っな?! 水の術『ジェリーフィッシュプリンセス』!」「はぁ!!」少女はパチュリーとの距離を一気に縮めるとその勢いのまま手に持った杖を振り下ろしたが、その直前に完成した水の膜によって受け止められてしまった。しかし、少女はそんなこと気にも留めずにそのまま杖で膜を押し続けると、「そんな呪文で私のレーヴァテインを防げると思ってる?」「っきゃ!」そのまま力任せに水の膜を打ち破った。水の膜が破れるとパチュリーはその衝撃で後ろへと弾き飛ばされ、少女はパチュリーが転がっていく様子を濁った目のまま見続けている。そしてその動きが止まると今度は激しく咳き込み始めた。「ごほっ! げほっ! こごほっ! こんな、けほっ! とき、げほっ! げほっ! ごほっ!!」「っへ?!」どうやら持病の喘息が出てきたらしく床に横たわったまま苦しそうに咳き込んでいる。それを見ていた少女は慌ててパチュリーの元に駆け寄ると涙目になって声を掛け始めた。「パ、パチュリー! ねぇ、大丈夫? ちょ、だれか~! 誰かいないの~!!」「ごほっ! げほっ! こほっ! げほっ!!」少女が必死に呼びかけるものの、周りにいたメイドの大半は少女が倒した為にここには居らず、いつもならすぐに来てくれる咲夜も今日に限ってはその姿を現さない。いよいよ、どうしていいのか分からなくなってきた少女の目からはぼろぼろと涙がこぼれ始めていた。「バ、バヂュリ~! じんじゃだめだよ~! ざぐや~、おねえざま~! だれでもいいがらはやぐぎてよ~」「フラン! 一体どうしたの?!」「お、おねえざま~!!」そこへレミリア、紫、アスカ、田吾作の4名が小悪魔からの知らせを聞いて大慌てでロビーへと入ってきた。ロビーに入ったレミリアは泣いている少女を見つけると、すぐさまにその元へ向かい話を聞き始めた。「フラン! 泣いていたら分からないわ! どうしたの?」「ひくっ、ぐすっ、バ、バチュリーが・・・パチュリーが~」「パチェが?」少女から話を聞いたレミリアは少女に向けていた目を離しパチュリーの方へ向けると、「こほっ! けほっ! ごほっ!!」苦しそうに咳き込んでいる親友の姿があった。それを見たレミリアは少女と同様にパチュリーへ駆け寄ると少女と同じ様に声を掛け始める。「パ、パチェ! ねぇ、大丈夫なの? パチェ!!」「けほっ! げほっ! ごほっ!!」「ねぇ、お姉さま! パチュリー苦しそうだよ。早く何とかしてよ!!」「ま、待ちなさいフラン・・・そうよ! 小悪魔、パチェの薬を急いで持ってきて!」レミリアはいつの間にか自分たちと同様、パチュリーの傍によってきていた小悪魔に薬を用意するように命令した。しかし小悪魔は目に一杯の涙をためながら無理だと言う。「何で無理なのよ!」「ちょうど今日、咲夜さんに用意してもらうはずだったんですよ~」「っな?!」「どうしたの、お姉さま? それなら咲夜を呼ぼうよ! って、そう言えば咲夜は?」「咲夜さんは大怪我をして動けない状態なんです・・・咲夜さんに見てもらわないと私だけじゃ薬品棚から見つけられませんよ~」「っへ?」「咲夜の薬が無い・・・と言うことは・・・・・・」「パ、パチュリ~!!」「パチェ~!!」「パチュリ~さま~!!」咲夜から薬がもらえないことが分かった3人は苦しそうに咳き込むパチュリーをどうする事もできず、その傍で座り込むとそのまま泣き始めてしまった。一方、レミリアに続いてロビーに入ったアスカ達は周囲の惨状に目を剥き、倒れている茜達の姿を見つけるとその傍に駆け寄った。「あ、茜?! 大丈夫か! 茜!!」「才ちゃん! 塁ちゃん! 大丈夫でやすか!」「となると私が余ってる人の介抱をしないといけないのかしら? と言うよりこれ誰??」抱き上げ声を掛けながら状態を確認してみると目立った傷も無く単純に目を回しているだけのようで、アスカと田吾作はそれが分かるとお互いに安堵のため息を吐いた。そうして余裕ができたアスカは改めて周辺を見渡してみる。「(向こうではレミリア達がなにやら騒いでるが・・・特には問題ないだろう。才と塁も大丈夫みたいだし・・・あれ? あの紫が見てるのは・・・)」そこまで考えたアスカはアカネを田吾作に任せて紫のところに向かうと、「んな! 美鈴?!」懐かしき修行仲間が倒れている姿に驚きの声を上げた。茜たちと同じ様に外傷は見られないがやはり気絶している美鈴。予期せぬ状態での一方的な再開に混乱したアスカは傍にいる紫に慌てて声を掛けた。「っちょ? え?! 紫、何で美鈴がここに?! なぜ? どうして?!」「そんなの私が知るわけ無いじゃない。それよりも美鈴って、この子の事? てっきり中国かと思ったわ」「いや、どこからそんな名前出て来るんだよ?」「どこからって・・・見た目から?」「何で疑問系なんだよ! そんなんだから胡散臭いって言われるんだ!」「ふふっ、それほどあるわよ」「褒めてねぇよ! ってか、あるのかよ!!」そうやって紫がアスカで遊んでいると、レミリア達の泣き声がロビーに響き渡った。何事かと思いその方向に目を向けるとレミリア他2名が苦しそうに咳き込むパチュリーを囲んで大泣きしているのが見える。ただ事ではないと感じた紫とアスカはお互いの顔を見合わせ頷くとその場を田吾作に任せ、レミリア達に駆け寄った。その一方、レミリア達はアスカと紫が近寄ってきた事にも気づかず、パチュリーに寄り添って泣き続けている。「パチェ~!!」「パチュリ~!!」「パチュリ~ざま~!!」「げほっ! はな、ごほっ! は、こほっ! げほげほっ!!」聞いている方が苦しくなりそうなその堰に、アスカは眉をひそめるとレミリアに声を掛けた。「なぁ、ずいぶんと苦しそうだが・・・そんな埃っぽいとこに寝かしたままで良いのか?」「っは、そうよ小悪魔! すぐに咲夜と同じところに連れて行きなさい。少なくともここよりかはましなはずよ」「は、はい! パチュリー様、失礼しますね」「ちょっと待って! それなら私たちの連れも休ませてもらえるとうれしいんだけど?」「そんなことで引き止めないで! 休ませたいなら勝手についてくればいいわ!」そう言い放ったレミリアは先に行ってしまった小悪魔達を追いかけるべく駆け足で去っていってしまった。対するアスカ達もすぐに茜達を抱えるとその後を追いかけ始めるのだった。所変わって紅魔館の一室。部屋の中は完全で瀟洒なメイドがいつも掃除していたらしく清潔感に溢れている。そんな部屋に響き渡る苦しそうな堰の音。パチュリーの喘息はただ場所を移動するぐらいでは収まりそうに無かった。「ごほっ! げほっ!」「お姉さま、パチュリーが!!」「今、薬を探してるから・・・・・・もう、どれなのよ!」「これでもないし、あれでもないし・・・・・・え~ん、見つかりませんよ~」そんなパチュリーを背にレミリアと小悪魔は薬品棚から喘息の薬を探し出そうとしている。そこに茜達を寝かしたアスカが横から薬を一つ取るとレミリアに声を掛けた。「傷薬もらうけどいいよな? 手持ちの分じゃちょっと足りなくてさ」「別にいいわよそのぐらい。今はそれどころじゃないの! 話しかけないでよ!!」「・・・とりあえずは、ありがとな」レミリアの言葉にアスカは呆然としながらもそう返事を返すと、そのまま茜達の下に戻っていった。それから再び薬を探し始めたレミリアと小悪魔だったが、突然レミリアの手が止まりそれに気づいた小悪魔が不思議そうに声を掛けた。「レミリアお嬢様? どうかしましたか?」「ねぇ、小悪魔・・・今あの男何を持っていった?」「っへ? 傷薬って言ってましたけど」「この大量にある薬の中から傷薬だけを?」「っは?!」レミリアの言葉を聴いた瞬間、小悪魔の脳裏に稲津が走る。すぐさまレミリアはアスカに向かって声を掛けた。「ちょ、ちょっと! アスカ!!」「ん? 何だ?」「貴方、もしかして薬の事分かる?」「そりゃ、薬師だからな・・・それがどうかしたか?」そのアスカからの返事にレミリアは小悪魔と顔を見合わせると、ほぼ同時にアスカに向かって口を開いた。「お願い、パチェを助けて!」「お願いします。パチュリー様を助けてください!」「は、はぁ?」それに対するアスカは突然の申し出にただ呆然とし、とりあえずは事情を聞くことにした。「助けてって・・・もしかしてお前ら、喘息の薬が無いのか?!」「無いんじゃなくて分からないのよ! 貴方なら分かるんじゃないの?」「この馬鹿が! 何でもっと早くに言わないんだよ!!」レミリアの返事を聞くや、すぐさま薬品棚に飛びついたアスカは喘息の薬を探し始めた。探してる最中にもパチュリーの堰は治まりそうに無い。「けほっ! ごほっ! こほっ!」「パチェ! アスカ、まだ見つからないの!!」「うっさい! 分からないならなんで早くに言わないんだよ。とっくに薬飲ませてるかと思ったじゃないか!! 見つけた・・・ほら、これだ!」そういってアスカが取り出したのは瓶詰めになっているシロップ形の薬だった。レミリアはその薬をひったくるように取るとすぐに小悪魔に渡して指示する。「小悪魔、お願い!」「はい! 妹様、ちょっと退いてもらえますか? パチュリー様、お薬ですよ」「ごほっ! けほっ! こほっ・・・・・・・・・」「すごい効き目だな・・・」レミリアに指示されたように小悪魔がパチュリーへ薬を飲ませると喘息は嘘のように治まっていき、数分としないうちに苦しそうな堰から静かな寝息へと変わっていた。アスカはその効果に驚き小さく呟くとふと、見知らぬ少女がいることに気がついた。少女はレミリアに似た顔立ちだが、その背中の羽があまりにも違いすぎる。レミリアの羽はコウモリのような膜が張ってある羽だが、少女は膜の変わりに色とりどりの宝石のようなものが付いているのだ。アスカはパチュリーの傍で安堵の涙を流す少女を見ながらレミリアに声を掛けた。「なぁ、レミリア」「っへ? あ、アスカ・・・何かしら?」「あの子・・・誰だ?」「へ?」「ふぇ? わたし?」アスカが示した少女は涙で目を赤くさせながらも呆然とした顔で見つめ返してくるのだった。<おまけ>そのころの人里「影月さん、体の方はもう大丈夫ですか?」「おう、もう全然平気だぜ」「そうですか、よかった・・・・・・」「なぁ、リグル」「はい?」「もう、こうやって言うのは最後にするつもりなんだが・・・最後に一度だけ言わせてくれ。お前のことが好きだ! 付き合ってくれ!!」「いいですよ」「そっか、そうだよな・・・・・・いいよな、っていいのか?!」「はい、影月さんに助けてもらったときに思ったんです。この人とならずっと一緒にいてもいいって」「リグル・・・」「影月さん・・・」「・・・・・・・・・俺、すごく邪魔か?」お邪魔虫、黒陽の見た光景----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書+次回予告どうも、お手玉の中身です。今回は少し意外な方向に話を進めてみましたが・・・これはこれでありですよね。もうじき長かった吸血鬼異変も終了、後はフランの扱いを決めるだけ。何気に一番難しいかもしれない。では、次回予告です。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------えっと・・・今回の次回予告はわたしが担当します。再び始まった会談しかし、その席にはもう一人、少女が加わる彼女は何者かそして、レミリアが語るのは何なのか次 回 「吸血鬼異変、終了のお知らせ」 よく一人でできたな。 すばらしいぞ、橙 by.藍