時間を遡らせて・・・紅魔館2階の廊下で邂逅を果たしたアスカと咲夜。もはやアスカは何かを語るつもりも無く、ただ相手を叩き潰さんと咲夜に向かって一気に走り出した。咲夜はその突然の行動に多少驚いたものの、そこは完全で瀟洒なメイド。すぐさまバックステップで距離をとりながら、どこから取り出したのか大量のナイフをアスカに向かって投げつけた。いつぞやかの兎とは違い、単発で撃たれる弾ではなく複数を同時に投擲するナイフ。アスカは体を捻り避けることでナイフは体に刺さることは無かったものの、頬を、腕を、足をと次々に掠め切り裂いていく。しかし、アスカがその程度で止まるはずも無く、お返しにと言わんばかりに空気弾を作り、撃ち放つ。空気弾はナイフを弾き飛ばし、咲夜まで一直線に飛んでいくが、その様子を冷静に見ていた咲夜は危うげなくそれを避け、バックステップを次々と踏みながらナイフを投擲し続ける。そして、それを追いかけんとアスカは咲夜に向かって走りながら何度も空気弾を撃ち放つ。その血生臭い追いかけっこは紫とレミリアの撃ち合った美しい弾幕とは違う、無骨な殺し合い。咲夜の量で相手を圧倒し確実に傷つけていくナイフ。アスカの一撃必殺で相手を打倒しようとしナイフを弾き進む空気弾。ただ相手を殺そうとする攻撃。アスカが消耗しきるまではいつまでも続くと思われたその撃ち合いも意外な邪魔により結末を迎えた。バックステップで後ろに下がっていた咲夜は気づかなかったようだが、アスカの飛ばしていた空気弾は周囲のインテリアなどを破壊していたためにその欠片が咲夜の足に引っかかり体勢を崩させたのだ。体勢が崩れた瞬間、迂闊にも咲夜は体勢を立て直すために動きを止めアスカから目を離してしまう。「っと?!」体勢を立て直す程度、一瞬で事足りた咲夜であったが再びアスカの姿を確認すると、すでに手を伸ばせば届きそうな位置まで肉迫していた。「っな、『プライベートスクウェア』!!」慌てた咲夜はすぐさま自身の能力、『時間を操る程度の能力』を使い周囲の時間の流れを遅くした・・・はずなのに、アスカの動きに変化は訪れない。咲夜が支配する時間の中、その影響を受けることなく軸足を踏みしめると体を捻りながら、「跳べ」咲夜の体めがけて一気に蹴り足を、「っっっ?!」横に薙ぎ払った。中段気味に振りぬかれた横蹴りは咲夜の体を捉え弾き飛ばす。弾き飛ばされた咲夜の体はすぐ横にあった扉を突き破るとその一室の奥の壁に叩きつけられた。あまりの衝撃に遠くなりそうな意識の中、咲夜は考える。「(な、ぜ・・・うごけ、る?)」ズキズキと疼く鈍い痛みに意識がはっきりしてくると、なんとか壁に寄りかかるような形で立ち上がり壊れた扉の外を睨みつけた。扉からは壊れた時の影響か埃が舞い上がりその先を見通すことができない。咲夜は壁で体を支えながらもいつでも侵入者を撃退できるようにその場でナイフを構え、そして待った。痛みのせいか、それとも緊張のせいか・・・汗が頬を伝い、ナイフを握る手は自然と力がこもる。1秒・・・2秒・・・3秒・・・敵は来ない。段々と薄れてきた煙が晴れたその先に・・・「いない!」アスカの姿は無く、見慣れた赤い廊下の壁があるだけだった。慌ててその姿を探そうと咲夜が構えを解いた瞬間、少し離れた横の壁から轟音が鳴り響き侵入者、アスカが走りよってくる。「そんな?!」痛む体では今更構え直すこともできず、能力を使っているにも拘らず何の変化も無い侵入者。咲夜は自身の顔が引き攣るのを感じながら、なんとかダメージを抑えようと後ろへ跳び下がる。しかし、ダメージ残る体でまともに逃げられるはずも無く、あっさりその胸倉を捕まれると振り下ろすようにして床に叩きつけられた「っあぐぅ!」咲夜の口からは苦悶の悲鳴がこぼれ、その体は四肢を広げ仰向けの状態で床に貼り付けられている。アスカはその傍に屈むと咲夜の腕を掴み、口を耳元に近づけ囁いた。「安心しろ、すぐには殺さない。その前にしっかりといたぶってやるよ」アスカがそう言い終わると同時に、咲夜の腕から木の枝が折れるような音が静かな部屋に響き渡り、その直後に「っあああぁあぁぁぁぁぁあぁ!!」咲夜の絶叫が迸った。すぐさまに咲夜は身を捩り逃げようとするが、単純な力でアスカに勝てるはずも無くそのまま押さえつけられると今度は逆の腕を掴まれる。「っひ?!」咲夜の短い悲鳴をかき消すように響く鈍い音と、それに続く咲夜の絶叫。その後は右足、左足と同じ末路を辿ると部屋には鈍い打撃音が何度も響いた。そして打撃音が止まると返り血で赤く染まったアスカが咲夜の片足を掴み引きずりながら廊下へ姿を現した。咲夜は抵抗する力も残ってないのか赤い床をさらに赤く染めながら荒い呼吸を繰り返しつつ引きずられている。アスカはほとんど抵抗がなくなった咲夜にどうやってとどめをさそうか考えていた。「(さて、どうするかな・・・少し先には大きな扉とその脇には階段。あそこから一階に降りてそこで潰すとするか)」そう考えをまとめたアスカは引きずるのが面倒になった咲夜の体を突き当たりに向かって放り投げた。直後、咲夜の体は突き当たりの扉を破りその中に転がり込んでしまう。「まずっ、力加減間違えた・・・」予定では扉の前で落ちるはずだった咲夜が突き当たりの部屋の中にまで行ってしまった事に一人毒づいたアスカは仕方ない、とため息を吐くと、歩きながらその部屋へ向かった。「咲夜、咲夜!!」部屋に入った俺が見たものは例の女を抱き上げ、その女の名前のようなものを呼び続ける少女だった。背中のコウモリの様な羽を見る限りではこの少女も妖怪なんだろうが・・・正直、今はどうでもいい事だ。俺は女を睨みつけたまま少女へ命令した。「どけ、餓鬼が」「っな?! お前が咲夜をこんな目に!」「だとしたら?」「殺す!!」コウモリ少女は俺の返事を聞くとすぐさま爪を振り上げ襲い掛かってくる。それに対して俺はほぼ反射的に左腕をかざして爪を防ごうと身構えると横から青い弾幕が割り込み、その方向から聞き覚えのある声が響いた。「二人とも止めなさい!」「紫? なんでここに??」「邪魔をするな! 八雲紫!!」振り向いた先に居たのは紫に田吾作、後は知らない女性が二人。知らない女性たちは女の様子を見ると息を呑み、田吾作は手を顔に当てて天井を仰ぎ、紫は弾幕を撃った体勢のまま顔を引き攣らせている。「レミリア、少し落ち着きなさい。それとアスカ・・・・・・何してるのよ?」「これが落ち着けるわけ無いでしょう!」「いや、先に聞いたのは俺なんだが・・・とりあえずは見ての通りだが?」紫からの質問に俺とレミリアと呼ばれた少女はほぼ同時に答えた。これじゃあ、なに言ってるかまったく分からんな。「紫、俺はこの女の始末をしておくから先にそっちの少女と話せばいいぞ」「・・・なんで咲夜を始末するのか教えてほしいのだけど?」「まぁ、早い話が・・・俺の身内に手を出したからだな」「なにそれ? やっぱり殺すわ」そう呟いた少女は牙を剥き出しにし今にも飛び掛らんと身構えた。それに対し俺も迎撃ができるように身構えていると、『飛光虫ネスト』またしても横から紫の宣言と共に大量の弾幕が飛んできた。「っな?!」「っげ?!」その弾幕は俺と少女にしてみれば殆ど不意打ちだった為、二人そろって体勢を崩しながら必死になって逃げ回り、弾幕の嵐が過ぎ去ると俺たち二人は同時に抗議の声を発した。「なにするんだ、紫!!」「何するのよ、八雲紫!!」「二人とも、落ち着きなさい」紫はあきれた様に首を左右に振りながら俺たちの講義を受け流すと俺に向かって話し始めた。「とりあえずアスカ、そこのメイドを殺すのは無しよ」「っな、ふざけるな!! ルーミアも影月もこいつにやられたんだぞ!」「それでもよ! レミリア、そこのメイドを早く退かして。ほっといたら死ぬわよ?」「っく・・・今は感謝しておくわ。パチェ、小悪魔、咲夜をお願い」「分かったわ」「分かりました」「ふざ「アスカ!」っち・・・」少女の言葉に二人の女性が反応しあいつを連れて行く。すぐにそれを追いかけようとしたものの、紫が邪魔をして行くことができない。そうやって足を止められているうちにやつは部屋の外へ運び出されてしまった。それを見送ることしかできなかった俺は紫を睨みつけると口を開いた。「紫、納得のいく説明・・・当然あるんだよな?」「勿論よ、こっちに来て話を聞きなさい。レミリア、貴方もよ」紫からそう誘われ俺たち4人、俺、田吾作、紫、少女は同じテーブルに着いた。そこでまず口を開いたのは紫だ。「さて、まずは話をスムーズに進めるために自己紹介からはじめましょうか。最初は私から、幻想郷の管理をしている八雲紫よ」「妖怪の山に住む河童の代表としてきた田吾作でやす」「・・・妖怪の山に住む薬師のアスカだ」「この館、紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ」そうして始まった話し合い。最初の議題となったのは憎き奴の件だった。「それじゃあ、アスカ。あのメイドは咲夜と言うらしいんだけど、なぜあそこまで執拗に狙ってたの?」「・・・ふぅ、さっき言ったとおりだよ。家で世話してるルーミアと人里の友達、影月に重傷を負わせたのがあいつだからな。と言うか、俺の獲物だってここに来る前から言ってた筈だぞ?」「あぁ・・・なるほどね。だけどそれは駄目よ」「・・・どういう事だ」紫からの言葉に自然と声が低くなっていく。そして、俺からの質問に答えたのは田吾作だった。「それは、そこのレミリアさんと吸血鬼条約が結ばれたからでやすよ」「吸血鬼条約? なんだそれ??」「それはね・・・」そして紫から聞かされた内容を簡単にまとめると・・・「つまりは餌やるから暴れるなってことか?」「・・・ずいぶんと乱暴な言い方だけど大体あってるわ」「私としてはその言い方には大いに不満があるのだけど?」俺からの返答を聞いた3人はそろって顔を引き攣らせている。とは言え、紫が大体あってると言ったからには問題は無いだろう。ついでにレミリアが何か言ってるがかまってる暇は無いので無視だ。そう考えた俺は話を進めた。「っで、結局あの咲夜だったか? 咲夜を潰したらいけない理由ってなんだ?」「っちょ、人の話を聞いてたの貴方は?!」「聞いてたさ。それで、どこに俺が遠慮することがあるんだ?」「んな?!」紫は俺の言葉に驚き声も出ないようだが知ったことではない。吸血鬼条約だかなんだか知らないがあいつを潰すことになんらためらいを覚えるようなものではない。そう考えていると紫が話を進め始めた。「絶対に駄目よ。せっかく纏まった条約をその日の内に無くすなんてとんでもないわ」「だから、そんな事はし「どうしてもと言うなら・・・」ん?」「私が相手になるわよ?」「なに?」そう言い合った俺たちはお互いに席から立ち上がるとテーブルを挟んで睨みあいをはじめた。部屋には先ほどよりも剣呑な空気が立ち込める。そこに慌てた様子で田吾作が割って入ってきた。「賢者様もアスカ様も止めてほしいでやす。お二人が争ってもどうしようもないでやすよ!アスカ様、見た限りではあの咲夜って方もひどい怪我だったじゃないでやすか。お願いですからそれで納得してこぶしを収めてほしいでやす。この通りでやす」そう告げた田吾作はその場に座るとそのまま床に頭を押し付けた。「っな?! 止めてくれよ田吾作!お前がそんなことする必要なんて無いんだぞ!!」「駄目でやす! アスカ様に納得してもらえるまで止めないでやす!!」「っっっ!! ~~~っだぁぁぁ、分かった! 分かったから頭を上げてくれ!」「納得してくれたでやすか?」「分かった! 納得したよ!!ったく・・・勘弁してくれよ・・・」俺はそう力なく告げるとそのまま椅子に座り込んだ。ふと見てみれば紫がニヤニヤ笑いながらこちらを見ている。「なに見てんだよ?」「べっつに~」「・・・っはぁ~~~」最早ため息を吐くしかなかった。すると、紫は次にレミリアへと顔を向けた。「さてと・・・次はあなたよレミリア」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「あなたもいい加減分かってるんでしょ?今回の騒動は元々あなたのくだらない計画がことの発端になっているのだから」「・・・・・・そうね。確かに今回の件は私が悪かったわ。貴方、アスカと言ったわね? また後日になるけど貴方の身内の方にも正式に謝罪させてもらうわ」「ずいぶんあっさりと言うんだな?」「そうでもないわよ。けど、家族や友達に手を出されて怒るのは当然の事。私にもそんな存在がいるから言えることよ」そこまで言ったレミリアは体を俺の方に向けると頭を下げてきた。ここまでされたら・・・。俺は頭を何度か掻き毟るとレミリアに問いかけた。「その言葉、信用しても?」「えぇ、レミリア・スカーレットの名前に誓うわ」「はぁ~・・・・・・ここまでされて何かできるかよ」そうやって俺があきらめたように嘆くと横から紫が話しかけてきた。「今度は完全に納得したみたいね」「あぁ、したよ、しましたよ。ったく、その代わりにレミリア! 今度、俺の身内を連れてくるからそのときにも頭下げろよ」「えぇ、かならず」そう言いあった俺とレミリアは互いに手を取り握手を交わした。その時だ、壊れた扉から先ほど咲夜を運び出した女性の片方が慌てて飛び込んできた。「レミリアお嬢様! 大変です!!」どうやら、まだ厄介ごとは残っているようだ。<おまけ>あ、危なかったでやす・・・アスカ様が止まってくれて本当によかったでやす。もし、あのままお二人が戦うようなことになったら・・・間違いなくどちらかが死んでしまうでやすよ。正直な話、賢者様の方は別にどうでも良いんでやすが体力の消耗具合を見るとアスカ様の方が殺されてた可能性のほうが高いでやす。そんな未来・・・考えるだけでも嫌でやすよ。あっしの頭一つでアスカ様が止まってくれて本当によかったでやす。頭を上げた田吾作の内心----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書+次回予告どうも、お手玉の中身です。とうとう、アスカ対咲夜のカードも終了しました。半ば強引に収拾をつける形でしたが、これはこれでありだろうとお手玉の中身は考えます。そして次回は・・・ちょっと、意外な方向に持っていこうかと考えるお手玉の中身なのでした。では、次回予告です。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------~~・・・・・・・・・~・・・~~~、ふぅ、これで妹様が外に出ることは無いわね・・・あら、次回予告?雨が降り出し外に出られない妹様その雨は自然のものではなく魔力を帯びた雨雨を止めるためには魔女を何とかしなければ次 回 「この次回予告・・・すごく不安になるのだけど?」 すぐレミリアお嬢様たちを連れて行きますから・・・待っててくださいよ、パチュリー様! by.小悪魔