紅魔館の一室、一際広いその部屋で二つの人影が睨み合っていた・・・と言うよりも小さい人影のほうが一方的に睨んでいるようだが。片方の大きな人影は怪しげな雰囲気を漂わす金髪の美女、八雲紫。もう片方の小さな人影は紅魔館の主にして吸血鬼のレミリア・スカーレット。レミリアは紫を睨みつけ、自身の淡い水色の髪を撫でると尊大に言い放った。「つまり貴方が言いたいことはこういうこと?幻想郷に住むことを拒みはしないが支配する事は許さない。その代わりに食料を定期的に渡す・・・そういうことかしら?」「えぇ、その通りよ。貴方も支配者ごっこは十分楽しんだでしょう?このあたりで幕を引くべきだと思うけど」レミリアの言葉に紫は扇子で自分の口を隠しながら返答した。するとレミリアは可笑しな事を聞いたと言わんばかりに含み笑いをしながら話を続けた。「くくっ・・・それは何か冗談のつもりかしら?なぜ私が貴方のような名も知らぬ妖怪如きの言う事を聞かなければいけないの」そこまで話したレミリアは一度言葉を切ると全身から怒気を漲らせ、それを紫へとたたきつけた。「ふざけるな!!私は紅い悪魔、吸血鬼の『レミリア・スカーレット』たかだか辺境の地を管理する程度にしか脳のない妖怪の命令を聞く気などない!!」しかし、そんなレミリアの激昂した様子など歯牙にも掛けず紫はあからさまな侮蔑の嘲笑を浮かべた。「あらあら、吸血鬼といえども所詮は子供ということね。相手と自分の力量差も解らないなんて」「お前・・・殺すわ」レミリアは紫の挑発に全身の怒気を殺気に変え、紫に向かって踏み込むと自身の爪をその体めがけて振り下ろした。瞬間、部屋に甲高い金属音が響き渡る。見てみれば、レミリアの爪は紫の持っていた扇子によってその動きを止められてしまっているでわないか。「っち!」レミリアは小さく舌打ちをすると大きく後ろへ跳び下がり、自身の魔力から赤い蝙蝠の形をした弾をいくつか作り出すと紫めがけて撃ち放つ。「サーヴァントフライヤー!」「ふふっ、青く・・・ないから赤いわね~」それに対し紫は面白くもないような冗談を言いながら自身の作った弾幕でそれらを撃ち落していく。撃たれては消えて、消えては撃たれて・・・。レミリアの赤い弾幕と、紫の青い弾幕が織り交ざり打ち消しあうその様子は見る者を魅了するような光景だった。もっとも、観客なんてものは最初からいないのだが。そして、そんな他者を魅了するような光景も当事者・・・主にレミリアにとってはどうでもいいこと。紫の弾幕に自身の技が撃ち落されていく様子に早くも痺れを切らしたのか弾を作ることを止め、爪を構えると紫に向かって再び飛び掛った。先ほどよりも早く、鋭い攻撃が紫を襲う。それに対して紫は手に持った扇子を使い攻撃を捌いていく。レミリアが鋭く突けば扇子で払い、レミリアが力強く薙げば扇子がその力を受け流す。たった一本の扇子でレミリアの攻撃をすべて受け流すその様子はまさに強者の余裕といったところだろうか。とは言え、レミリアとてそれで終わるはずもなく攻撃しながらも冷静さを取り戻したのか、その攻撃はより鋭く正確なものとなっていく。そうなると今度は紫の余裕が崩れ始め、段々と扇子一本での守りが追いつかなくなってきた。紫は攻撃を受け流しながらも少し困ったような表情でため息をつくと攻撃の隙を狙い扇子を横薙ぎに一閃。レミリアはその攻撃を受け止めると再び後方へと飛び下がり紫を睨みながら攻撃の手段を模索し始めた。「(怒りで我を失ってたとは言え、近・中距離での攻撃をすべて捌かれてしまった。こうなると遠距離でも変わることはないでしょうし、かといって大技を使うには・・・・・・)」そうやってレミリアが次の攻め手を考えていると呆れ顔を作った紫が口を開いた。「もういい加減諦めたら?そろそろ実力の違いもわかったでしょう? なに、悪い様にはしないわよ」「う、うるさいわよ!その減らず口をすぐに叩けなくしてやる」「はぁ、できもしないことを・・・少し、痛い目を見るといいわ」明らかな実力差のある中、レミリアに降伏勧告をするもののそれを拒まれてしまい、流石の紫も目が据わってきた。紫は自身の背後にスキマを作り出すとその淵に腰を掛けレミリアへと放つ技の名を告げる。『飛光虫ネスト』その宣言と共に紫の周りに人の頭ほどの大きさのスキマがいくつか現れ、そこからスキマ一つに一個の白い弾が何度も射出された。先ほどまでとは攻守を逆転させた展開。紫が無数の弾幕で攻撃し、レミリアがそれを防ぎながら避ける。ただ違うのは紫にあった余裕がレミリアには一切ないことだ。避けることで精一杯のレミリアに紫は話しかける。「いかがかしら、私の弾幕は?いつでも降参してくれてもかまわないわよ?」しかし、レミリアは答えない。と言うよりも避けるのに必死すぎて答えるどころか問いかけすら聞こえていないようだ。紫は一つ大きくため息をつくと、あえて弾幕の薄い地点を作り出した。そうとは知らないレミリアはより弾幕の薄い地点、少し無理をすれば紫に攻撃できそうな位置まで誘導される。そして、そこまで誘導されたレミリアはそうとも知らず一気に紫へ踏み込むと振るおうとした・・・が!「甘いわよ」「っな!!」それは所詮、紫が誘い込んだ罠の中。レミリアの攻撃は紫に届く前に、レミリア自身が地面へ叩きつけられることで届かぬものとなった。「っかは?!」「あらあら、『魅惑のエサ』に釣られて飛んできたのは虫ではなく吸血鬼だったわ」レミリアは予想外の攻撃を受けた衝撃で立ち上がることができず、紫はそれを見下ろしながら面白そうに笑っている。呻きながらそれを見上げたレミリアが口を開く。「っく・・・立て、ない・・・」「それは当然。貴方の上に結界を張って動きを封じてるのですから」どうやら立てないのはダメージの問題ではなく紫の結界が原因のようだ。レミリアが苦しげに呻き続けていると、勢いよく部屋の扉が開きパチュリーと小悪魔が飛び込んできた。「レミィ、侵入者よ・・・って、レミィ!!」「っな、レミリアお嬢様!!」レミリアの部屋へと逃げ込んだ二人が見たものは紅魔間の主、レミリア・スカーレットが名も知らぬ妖怪の前で倒れているところだった。パチュリーは親友を助けようとし、すぐさま呪文の詠唱を開始する。しかし、紫が手に持った傘の先端をレミリアに突きつけた為に迂闊な事ができず、詠唱を止めざる得なくなってしまった。その状態のまま紫はレミリアに向かって口を開いた。「さて、いい加減実力差も思い知ったでしょうし・・・そろそろ降伏してくれると嬉しいのだけど?」「っく、ふ、ざける、な!」「ふぅ、仕方ないわね・・・残念だけど、死んでもらいましょうか」「好きに「レミィ!!」パチェ?」「そこの貴方、私は『パチュリー・ノーレッジ』よろしければ名前を聞いても?」「名乗られたのであれば名乗り返さなければいけないわね。私は幻想郷の管理者、八雲紫よ・・・それで、ご用件は何かしら?」紫の宣言に慌てたパチュリーはそれに答えようとするレミリアの言葉を遮り名乗りを上げた。それに対し、名乗り返すのが礼儀と紫も名乗りを返し、パチュリーへ怪しい笑みを浮かべながらその用件を尋ねる。パチュリーは一度深呼吸をすると親友、レミリアを助けるための交渉を始めた。「八雲紫・・・ね・・・、貴方の目的は何かしら?その状態でレミィを殺してないと言うことはレミィの命が目的ではないみたいだけど・・・まさか、レミィに文句を言いにきた?」「ん~、大体その通りなんだけど・・・訂正が一つ。文句だけじゃなくて、無意味に攻撃するのをやめて頂戴ってお願いに来たの」「分かったわ・・・その「パチェ!」レミィは黙って!・・・こちらからは自衛以上の攻撃手段に出ないことをレミィの代理、紅魔館の代表として誓うわ」「あら、そう。貴方がこの子みたいに分からず屋じゃなくてよかったわ」パチュリーの宣言に紫は胸をなでおろすと、レミリアを開放した。一方、開放されたレミリアは紫には目もくれずパチュリーに向かって口を開く。「パチェ!!貴方自分が何を言ったのかわかってるの?」「レミィ・・・冷静になって。あれはどう見てもレミィの負けよ」「だけど「それに」?」「私は親友がいなくなるのは嫌よ・・・」「パチェ・・・・・・」レミリアは最初こそパチュリーの食って掛かったものの、最後に告げられた言葉を聞くと目を潤ませた。すると、扉から新たな人影が。「ありゃ?もしかしてもう終わったでやんすか?」「で、でた~~~!!パチュリー様!か、河童です~~!」「・・・・・・なんか、ひどい言われようでやすな」「大丈夫よ小悪魔・・・・・・でしょう、八雲紫?」「えぇ、その通りよ。田吾作さん?」「なんでやすか?」「一応話はついたからこれ以上の戦闘は止めてね」「了解でやす」紫の言葉に田吾作は片手を挙げながら返事を返した。その後、紫とレミリア、パチュリーは小悪魔に用意された席に着くと簡単な決まりごとを決めた。一つ、紅魔館の者は幻想郷、もしくはその住民に対する攻撃に値する行為を行わない。一つ、ただし、自衛行為はその限りではない。一つ、食料に関しては八雲紫の名において定期的に配給を行う。そして、最後に紫が宣言する。「では、以上の条約をもって、ここに吸血鬼条約を定めるものとする。田吾作さんもこんなところでいいかしら?」「あっしらは山に迷惑がかからなければ問題ないでやんすよ」「だとすると天狗も同じでしょうから・・・そっちの吸血鬼さんもいいわね?」「不本意ではあるけど・・・約定を違えるほど腐ってはいないわ。紅魔館の主、レミリア・スカーレットの名においてその条約を結ばせてもらうわ」その返事を聞いた紫は満足したようにうなずいた。それに対してレミリアはまだ納得がいかないのかテーブルに突っ伏してふてくされたような表情を作り、その横ではパチュリーがため息を吐き、後ろでは小悪魔が困ったような愛想笑いを浮かべている。その時、パチュリーが気になったことをたずねた。「ねぇ、レミィ?」「なによパチェ、あんまり話をしたい気分じゃないんだけど・・・」「いつまでもふてくされないの。って、そうじゃなくて・・・・・・咲夜は?」「咲夜?・・・・・・そう言えばいないわね。これだけ騒いでいたらすぐに来るのに・・・おかしいわ」パチュリーの疑問にレミリアも眉間にしわを寄せて考え込んでしまった。紫と田吾作はその様子に顔を見合わせると、自分達の方もメンバーが足りないことに気がついた。「そう言えば・・・アスカは?」「あっしは見てないでやすが・・・?? 今、悲鳴が聞こえなかったでやすか?」「何も聞こえなかったわよ」「気のせいでやすかね」紫と顔を見合わせ真剣な面持ちでアスカの話をし考え込んでいるとふと、田吾作は何かに気づき慌ててレミリアの方を向き口を開いた。「レミリアさん・・・で、良いでやすよね。その咲夜さんってのはどんな人なんでやすか?」「なによいきなり・・・咲夜は私のメイドよ」「そういう事じゃなくて、その咲夜さんの格好でやすよ!」「咲夜の格好って・・・・・・なんで貴方にそんなことが関係あるのよ!!」「レミィ、落ち着いて。貴方は田吾作でいいわよね。突然そんな質問をして・・・どういうつもりかしら?」「どういうも何も・・・賢者様、アスカ様を早く見つけないと大変なことになるでやすよ」「確かに・・・そうとしか思えないわね・・・」「ちょ、だからどうしたのよ!」青い顔であせり続ける田吾作と真剣な顔で考え込みだした紫を見て、状況がまったく分からないレミリアは半ば叫ぶようにして話に割り込んだ。すると、田吾作がレミリアのほうに顔を向け簡潔に可能性の話を告げた。「あっしらの予想が外れてなければ・・・その咲夜さんは死ぬでやすよ」「っな?!」田吾作の宣告にレミリアは凍りつく。それもそうだろう。咲夜は完全で瀟洒なメイド。その彼女は戦闘面でも優秀でそう簡単にやられるはずが無いからである。レミリアはすぐさま反論を唱えようとしたその時、部屋の扉から轟音と共に何かが飛び込んできた。壁が崩れたことで砂埃が巻き上がる。そしてそれが収まり、レミリアが飛び込んできたものを確認すると・・・「さ、咲夜!!」そこにはズタボロになって床に横たわる己の従者の姿だった。レミリアはすぐさま咲夜のそばに駆け寄りその体を抱き上げると、壊れた扉の向こうから人影がゆっくりと歩いてくる。人影、アスカはレミリア、もとい咲夜を睨みつけたまま口を開いた。「どけ、餓鬼が」<おまけ>紅魔館ロビー「さてと、レミリアお嬢様の部屋は2階の奥ですからそこまでご案内です・・・メイド部隊はそれぞれの持ち場に戻ってくださいね~」「レミリアお嬢様? たしかここの主の名前よね?」「そうですよ。紅魔館の主、レミリア・スカーレットお嬢様です」「ねぇねぇ、吸血鬼だよ。楽しみだね塁」「遊びに行くんじゃないんだよ、才」「二人とも置いて行くわよ!」「「あっ、待ってください先輩!」」「おや、あれは・・・」「どうしました美鈴さん」「いえ、あそこにいるのは・・・お嬢様? まずい! パチュリー様は!!」「パチュリーなら今はいないよ。だから今のうちに外に行かせてもらうね」「っく、駄目です! 行かせません!!」「ふん、いいわよ。勝手に出て行くから!!」「ちょ、美鈴さんその子は一体」「皆さんは離れてください! 急いで!!」「「え? え? なになに???」」「それじゃあ・・・遊びましょ」最悪のエンカウント----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書+次回予告どうも、暗黒が使えそうになってるお手玉の中身です。リアルの忙しさがありえなかったここ最近・・・殆ど書けなかったorzその上、内容が気に入らなかったから書き直してたらこんなにも時間が・・・まぁ、とりあえず・・・吸血鬼異変もやっと終盤。なんとか妹様も出せそうな流れにできたから、後はどう収拾をつけるかだけだな。では、次回予告お願いします。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------っへ? 次回予告・・・って、そんな場合じゃないよ!メイドさん危ない!魔女はまだ来ないの?!何でもいいから誰か助けて~!!次 回 「っげ! こっち来た~~~~~!!」 才、危ない!! by.塁