紅魔館の一室で倒れ伏す白衣の男が一人。男の名は田吾作。つい先ほど田吾作の様子を観察している魔女、パチュリーの『エレメンタルハーベスター』から『ロイヤルフレア』と言うコンボをを叩き込まれ、ピクリとも動かなくなっていた。パチュリーは暫くの間その様子を眺めていたが不意に顔を背け誰かを呼ぶように口を開いた。「小悪魔、侵入者を倒したから回収して頂戴」「・・・・・・それはまだ早いと思いやすが?」「っっっ?!」ありえない声にパチュリーが慌てて振り向くと、先ほどまで倒れ動く事のなかった田吾作が平然と立っているではないか。着ている白衣はエレメンタルハーベスターの影響からかぼろぼろになっているもののほとんどダメージが無いように見える。パチュリーは混乱しそうになる思考を何とか冷静に留めようとしてると、田吾作がぼろぼろとなった白衣の裾を払いながら口を開いた。「いやはや・・・凄まじい威力でやすな~。予想を遥かに上回る詠唱速度・・・お陰で完全に食らっちまったでやすよ」「だとするならなぜ・・・」田吾作から告げられた言葉にパチュリーは更に疑問を深め、気付けばそれを口から漏らしていた。それに対し田吾作は笑いながら答えを返した。「まぁ、運が良かったんでしょうな~。予め飲んでおいた再生力向上薬『ミラクルキュウリ』のお陰で大体の傷は塞がったでやす」「なんて出鱈目な・・・それで動かなかったのね?」「そうでやす、傷口を塞ぐのに予想以上の時間がかかったでやすからな~。そして、あっしが倒れた拍子に魔力分解薬の試験管が割れたお陰で追加魔法も防ぐことができやした」「そうだったの」パチュリーは田吾作の説明に納得したとばかりに頷くと、田吾作の言葉から一つの推測を立ててそれを告げた。「となると、あなたの武器はもうなくなったわけね?」「いやいや、まだこのナイフがあるでやすよ?」田吾作の言葉通り、その手には何の変哲も無い一本の折りたたみ式ナイフが握られている。しかし、パチュリーにとってみればそんな物はあってないような武装。白衣を脱ぎ捨てネクタイを緩める田吾作にパチュリーは呆れながら口を開いた。「あなた・・・そんな武器で魔法に太刀打ちできるとでも?」「無理でやしょうな~」「だったら「しかしでやす」・・・」「あっしの能力を使えばいくらでも勝てるでやす」「能力?」パチュリーは怪訝な表情で田吾作へ聞き返していた。此処までの戦いで確かに能力らしき物は使っていなかったため戦闘用の能力では無いと考えていたからだ。聞き返された田吾作は苦い物を噛んだ様に顔を歪めながら答える。「あっしは昔、自分の能力で多くの人間達を捕まえては研究、実験、探求を繰り返してきたでやす」「それは妖怪として、そして研究者として普通の事では?」「そうでやすな。でも、あっしは度が過ぎていたでやす・・・ただ人間を、盟友を理解するが為だけに捕らえて、殺して、刻んで・・・・・・いつしかあっしは同族からも恐れられていたでやすよ」そう告げる田吾作の顔には深い悲しみの色があった。それに対しパチュリーは何を言うわけでもなく聞き役に徹している。「そんな訳で、あっしは自分の探究心を抑えるために能力を封印したでやす」「心が能力に引き摺られるなんて・・・未熟ね」「いやはや、手厳しいでやすな~」パチュリーからの言葉を田吾作は苦笑いを浮かべながら受け止めた。そして、苦笑いを止めた田吾作の顔には今までと違う狂喜の笑みが張り付いていた。「でやすから、ここからはあっしの能力、『壱を持って拾を理解する程度の能力』を使わせてもらうでやすよ」「っ?!「オータムエッジ」」田吾作の宣言に薄ら寒い物を感じ取ったパチュリーはすぐさま攻撃用の呪文、オータムエッジを撃ち放った。しかし、田吾作がほんの少し身体を動かすだけでオータムエッジの刃は田吾作の横をすり抜けていく。まるで田吾作には魔法によって生み出された鋼の刃の軌道がが分かっていたかのような動きだった。田吾作は笑みを浮かべたまま言葉を紡ぐ。「この呪文は既に理解済みでやす・・・当たりはしやせんよ?」「っ?!ならこの呪文で、~~・・・~・・・土水の術『ノエキアンデリュージュ』」しかし、新たに詠唱した呪文でさえ田吾作が狙いを先読みするかのような動きで避けるため当たるどころか掠る気配すらなかった。それならばと、パチュリーが避ける事のできないロイヤルフレアの様な広範囲呪文の詠唱を始めると、田吾作はその距離を一気に縮めナイフで切りかかってきた。それに慌てたパチュリーは詠唱を切り替えようとしたものの、田吾作の踏み込みのほうが早く手持ちの魔道書を盾にしながら後ろに跳び下がる事で危機を脱した。パチュリーはあまりの予想外の出来事に息を乱しつつ疑問を口にした。「はぁ、はぁ、どういう事なの、はぁ、何で私の呪文が?」「言ったでやしょう、あっしの能力は壱を持って拾を理解するんでやすよ」パチュリーの疑問に田吾作はその笑みを更に深くしながら答えた。そして、その意味を理解したパチュリーはありえないと言った表情を作っている。パチュリーは自分の予想を確かめるために再び口を開いた。「貴方・・・もしかして呪文が「分かるか、でやすか」っな?!」「勿論、魔法も詠唱も効果も、そして・・・お前の思考も大半を理解したでやすよ」パチュリーは自分の問い掛けを田吾作に言い当てられた事に驚いていたが、そこから告げられた事実には声すら失ってしまった。田吾作の言っている内容はパチュリーの持つ力、魔法やその戦法をほとんど見切ったと言っているのだから。事実、田吾作の能力はそれが可能である。壱を持って拾を理解する・・・つまりは僅かの挙動からそれに関係する事柄を理解すると言うのがこの能力なのだから。今回の戦闘で例えるなら、パチュリーの放った呪文、詠唱の内容、その威力、会話の内容や話しかた、このような事からパチュリーという魔女を田吾作が分析理解したのである。それが分かったパチュリーは未だに信じられないと言う顔をして何とか否定の言葉を紡いだ。「そ「そんな馬鹿なことが出来るはずがない、でやすか」っ?!」「無駄でやすよ、あんたの思考はほぼ理解できたでやす。どうやら降参する気もなさそうでやすからここで消さしてもらいやすね」「っ!貴方みたいな危険な輩をレミィには近づかせない!!~~」そう叫んだパチュリーが新たな呪文の詠唱を始めると田吾作はその距離を縮めナイフを振るってきた。パチュリーは呪文の詠唱を止めると魔道書でナイフを防ぐものの、無防備となっていた身体に田吾作の蹴りが突き刺さる。後ろへ蹴り飛ばされ、消えそうになる意識を繋ぎとめながらパチュリーは素早く展開できる呪文を詠唱した。田吾作が追い討ちを仕掛けてくる事を狙って。「『エメラルドシティ』!」自分の周囲に宝石の柱を作り出す呪文。田吾作が追い討ちをかけていたなら確実に当たっていたこの呪文も、自分の周囲に相手がいなければ当たる事はなかった。パチュリーは田吾作が追い討ちをかけなかった事を怪訝に思いながらも新たな呪文を唱えだすと、その瞬間に田吾作はナイフを振るってくる。そこから田吾作の一方的な攻撃が展開された。パチュリーの呪文は悉く避けられ少しでも長い詠唱をしようとすると田吾作が飛び込みナイフで切りかかってくる。時間の経過と共に増えていく身体の傷。そして、パチュリーの体力と精神力は最早限界となり四つん這いの状態で荒い息をつくしかできなくなっていた。「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」「限界のようでやすな・・・これでまた一つお前の事が理解できたでやすよ。と言うわけで、そろそろ終わりにするでやす」その様子を観察していた田吾作はそう告げると油断の無い足取りでパチュリーまで近づいていく。勿論その手にはパチュリーの血が滴るナイフを握って。その時、上空から大量の魔力弾をばら撒いてパチュリーの元に降り立つ影が一つ。魔力弾の影響で爆煙の立ちこめる中、パチュリーはその影を確認すると驚きの声を上げた。「はぁ、はぁ、こ、小悪魔、はぁ、何でここに?」「私はパチュリー様の使い魔ですから、早くつかまって下さい。このままレミリアお嬢さまの元まで一旦退きましょう!」「はぁ、はぁ、悔しいけどそれしかないわね」そう告げたパチュリーはその顔を歪めながら小悪魔の肩を借り、共に飛んでその場から離脱した。その後には爆煙の中で蹲る田吾作だけが残された。田吾作もまた、顔を歪めながらゆっくりと立ち上がると一人呟いた。「っく、逃げられたでやすか・・・何とかここで決着を付けたかったんでやすが」呟く田吾作の身体からは血が滴っていた。再生向上薬『ミラクルキュウリ』・・・聞こえはいいが実際の効果は簡単に傷を塞ぐだけで実際に治っている訳ではない。そのために田吾作の傷は再び開いてしまったのだ。「っ、いたたたでやんす・・・。とりあえず何処に行ったかは理解できてるでやすから応急処置だけしてから追いかけるでやんす。しかし、やっぱりこの能力は使うと気分が悪くなるでやす・・・できるならもう使わないで済むと良いんでやすけど・・・・・・」そう嘆いた田吾作は傷の応急処置、そして能力の再封印をするとパチュリーを追いかけ始めた。その先に目的の吸血鬼、レミリア・スカーレットがいることを理解できていたから。そして誰もいなくなった大図書館・・・。その奥にある地下へと続く扉から誰もいない図書館へ少女の声が響いた。「ねぇ、誰もいないの?」<おまけ>追いかける田吾作本当にこの能力は使いたくないでやすな~。相手の考えている事が理解できてくるうちに段々と更に理解したいと言う気持ちが抑えられなくなるでやすよ。そのお陰で昔は盟友を理解しようと話して、協力して、友になって・・・ここまでで良かったのに・・・。更に理解しようと捕まえて、実験して、殺して、研究して・・・それでも理解しきれずに殺して、殺して、殺し続けて・・・。あっしは自分の欲求のままに能力を振るい続けて・・・理解できないと言う事を理解した頃にはあっしの周りには誰もいなくなってしまったでやす。寂しかった、寒かった、心細かったでやす。この能力を封印したからと言って過去が消えるわけでもなくあっしはいつも一人でやした。どれほど時が流れても、同族ですらあっしと一緒にいようとはしなかったでやす。そんなあっしの友達になってくれたのがアスカ様でやす。アスカ様はあっしの過去なんか知らないから友達になってくれたんでやしょうが、あっしはそれでも嬉しかったでやす。もしも、アスカ様が過去を知りあっしのことを嫌いになってもそれは仕方ないと思うでやす。ただ、そうなったとしても、あっしがアスカ様を助け続けると思うでやす。それが、あっしみたいなのと友達になってくれたアスカ様へのお礼になるでやすから。田吾作の独白----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書+次回予告どうも、暗黒面のお手玉の中身です。田吾作チート・・・作っといてなんだがありえないよorz今後の活躍はおそらくは無いことでしょう。そして悩んでいた彼女の扱いも決まりましたし順調順調です。ただ、カリスマが難しいorzでは、次回予告はあえてこいつらに。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------毛玉A「解せぬ」毛玉B「然り」毛玉C「次回予告枠が普通にもらえるとは」毛玉D「遂に我らの時代が来たのか?」毛玉E「否、それは違う・・・我らの時代が来たのではない!」毛玉B「然り」毛玉A「良き事を言う、毛玉Eよ」毛玉D「だとするなら一体・・・」毛玉C「決まっている」毛玉A「その通り」毛玉B「然り」毛玉E「時代が我らを求めたのよ!!」次 回 「毛玉物語第二章 天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!」 くくっ・・・定期的に呼べば力を使うまでも無い by.kami