「戦闘可能なメイドは速やかに門前へ急行せよ!!」「館の中は?」「メイド長が残られるから平気よ。だから急いで!」「「「はい!」」」遠ざかっていく足音と羽音、周囲にも気配は無いし・・・どうやら行ったようだ。俺は段坊流箱・魔亜苦痛を脱ぎながら同じように脱いでいる田吾作へと声を掛けた。「流石は段坊流箱・魔亜苦痛だな。全く気付かれなかった」「あっしもこれほどとは・・・流石は段坊流箱でやす」田吾作自身も段坊流箱・魔亜苦痛の効力を自分で試すのは初めてだったようで、その効果に驚いているようだ。そんな田吾作に苦笑した俺は、気を引き締めなおして話を続けた。「田吾作、俺はこのまま上のほうに向かうからお前はこの階層、もしくは此処から下のほうへ行ってみてくれ」「了解でやす・・・・・・アスカ様」「ん?」「ご武運を、でやす」「あぁ、お前もな」そう言い合った、俺と田吾作は二手に別れた。それから数分、俺は階段を上がり二階の廊下を探索している。窓も無い廊下は随分と長く端にたどり着くだけでも数分かかりそうだ。しかし、なんとも悪趣味な内装だろう。俺はそんな事を考えながら辺りを見渡してみる。あたり一面は赤、赤、赤・・・完全に赤一色な上に窓も無い物だから目を休める事もできない・・・目が痛くなりそうだ。「こんな館に住んでるのはよっぽど趣味が悪いんだろうな・・・なぁ、あんたもそう思うだろ?」館の内装に辟易していると、正面から誰かが近づいてくる気配を感じたのでそのまま話しかけてみた。話しかけた相手は銀髪にスカートの短いメイド服の女性・・・・・・これは、ひょっとするか?そう考えていると女性はこちらに向かって口を開いてきた。「この内装は私の主人の趣味ですのでメイドである私の身からはなんとも」「それは暗に趣味が悪いって認めてるよな?」「さぁ、どうでしょうか?」女は誤魔化すように首を振りながら答えた。そしてこちらを睨みつけると詰問するように尋ねてきた。「それで、あなたはどちら様でしょうか?今宵、当館にお招きしたお客様は誰もいないはずなのですが」「さぁ、誰だと思うよ」「ふむ・・・」俺の言葉に女は少し考えるような仕草をすると、「愚かな侵入者ですね」いつの間にやら手にナイフを持ち、その先端をこちらに向けながら答えた。銀髪、エプロンドレスはメイド服か・・・それに刃物で女、どうやらこいつで当たりみたいだな。俺は女から視線を外すと念のために最後の確認をしておく事にした。「なぁ、もう一つ聞いても良いか?」「・・・なんでしょうか」「最近、触角の生えた男と黄色の髪の小さな女の子を襲ったか?」俺がそう尋ねると女は呆気に取られたような表情を作り、探るような目つきで答えた。「襲ったとは人聞きの悪い・・・少しだけ私のお願いを聞きやすいようにしただけですよ」「なるほど」決まりだ。女は怪訝な表情で更に尋ねてきた。「それで、それがd「黙れ・・・」?!」女が何か尋ねようとしていたが聞く気は無かった。俺は女を改めて睨みなおし一言だけ告げた。「殺す」一方その頃・・・・・・田吾作は大量の本が棚に納められている部屋、図書館のような場所を探索していた。その蔵書の数々は貴重な物からくだらない物まで様々で、こんな時でもなければ発明の足しにする為にも是非読んでみたい物ばかりだった。そう、彼の目の前にいる女性が現れていなければ。「それで、私の図書館に無断で入って来たあなたはどなたかしら?」羽織っている大きめのガウンをはためかせながら尋ねてきたのは、紫色の長髪を所々リボンで纏めナイトキャップのような帽子に三日月のアクセサリーを付けた女性、『パチュリー・ノーレッジ』彼女は館の者以外が訪れる事のなかった図書館への侵入者に顔をしかめ、プレッシャーをかけている。それに対する田吾作はいつの間に羽織っていたのやらいつものネクタイを結んだカッターの上から白衣を翻し、プレッシャーを受け流すように軽く手を振りながら言葉を返した。「いえ、あっしは怪しいもんじゃありやせんよ。あっしは河童の田吾作って言うんですがね、ちょっとこの館のご主人に用があってきたんでやすよ」「レミィに?」「レミィ?それが此処の主人の名前でやすか?」「『レミリア・スカーレット』、紅魔館の主にして私の親友でもある吸血鬼よ」「ほほぅ、ご友人でやしたか」「だとしたら河童?・・・でいいのよね。河童の貴方がレミィにどんな用件があるの?」「いやですね、突然やって来たと思ったらいきなり攻撃してきたんでちょっとばかし文句を言おうかと思いやしてね」「あぁ、レミィの『偉大なるスカーレット計画』ね・・・」「・・・・・・何でやすか、その微妙な名前の計画は」パチュリーは田吾作の来館目的を聞くと納得したように呟いた。田吾作は呆れながらその内容について聞き返すと、パチュリーも頭が痛いと言わんばかりに首を振りながらため息をついて答えた。「ふぅ・・・偉大なるスカーレット計画、早い話が周囲にいる妖怪があまりにも貧弱だったからレミィが支配しようとしているだけよ。安心していいわ、レミィに従っていれば問題なんか起こらないし、貴方みたいな貧弱そうな妖怪でも庇護してもらえるわよ」「それは、また・・・ずいぶんと言ってくれやすな・・・」パチュリーは親切のつもりか田吾作へとアドバイスをしたが田吾作にしてみれば侮辱でしかなかった。事実、田吾作の額には青筋がくっきりと浮かんでいる。田吾作は気持ちを切り替えるように咳払いをするとパチュリーへ質問した。「まぁ、庇護云々は置いておくとしてでやす、この館の主・・・レミリア・スカーレットでやしたか?とにかく吸血鬼は何処にいるでやすか?」「・・・それを知ってどうするつもり」「最初に言ったでやしょう。文句を言いに来たって」田吾作の言葉を聞いたパチュリーは数秒ほど何かを考えるように目を瞑ると、田吾作を哀れむような目で見ながら口を開いた。「文句?貴方が?とてもじゃないけど貴方のような木っ端妖怪ではレミィの相手にはならないわよ」「本当に・・・言ってくれるでやすな」「事実でしょう。まぁ、レミィの敵なら此処で消しても問題ないわよね」パチュリーはそう言うと、手に持った魔道書を開き呪文を唱え始めた。それを見た田吾作は背中の鞄より幾つかフラスコを取り出し、それをパチュリーに投げつけながら叫んだ。「それなら、その木っ端妖怪にやられるがいいでやす。特製『パイナップル』でやす!!」「~~~・・・火の術『アグニシャイン』」田吾作の道具とパチュリーの魔法がぶつかった瞬間、爆発の轟音と爆風が周囲に吹き荒れた。その様子にパチュリーは少し驚いたような表情を作って口を開いた。「まさか私の魔法が相殺されるなんて・・・」「けほっ、失敗したでやす・・・パイナップルじゃなくてココナッツを使うんでやした」パチュリーの言葉に反応するように声を発したのは煙の中から咳き込みながら現れる田吾作だった。田吾作は爆風による煙にむせて咳き込んではいたものの、その身には傷一つなかった。「しかし、たったアレだけの時間でこれほどの魔法を使えるとは・・・恐ろしい魔女でやすね~」「その魔法を打ち消しておいて何を言うのかしら・・・貴方、危険ね」そう告げたパチュリーの顔には先ほどまでの余裕の代わりに田吾作の一挙一動を見逃さずに観察しようとする魔女の顔に変わっていた。田吾作もパチュリーに対する評価を改め、自分の荷物からこの戦いに勝つ方法を計算しだしていた。緩やかに時が流れる中、先に動いたのは田吾作だった。田吾作は背中の鞄より試験管とフラスコを取り出すと試験管だけをパチュリーに向かって放り投げた。パチュリーは放り投げられた試験管を見ながらニヤリと笑みを浮かべた。「私がその程度読んでいなかったとでも?『スプリングウィンド』自分の武器で自滅するがいいわ」パチュリーの宣言どおり試験管はパチュリーが起こした風に流され田吾作の足元で砕け散った。すると今度は田吾作がニヤリと笑い、続けざまにフラスコを投げつけた。「それをあっしが予想しなかったとでも?こいつは魔力分解薬でして、簡単に言ってしまえば魔法の効果を軽減する薬品でやす。そして今投げたフラスコが・・・なに!」田吾作の投げたフラスコはパチュリーに届く前に空中で砕けその周囲を白く霜で覆い尽くしてしまった。パチュリーはその光景に一息つきながら口を開いた。「なるほどね・・・先に当たっても当たらなくても問題ない道具でけん制しこちらの呪文を封じる・・・か・・・」「驚いたでやす。風を起こした後にすぐに別の呪文を使っているとは・・・」二人はお互いの実力の高さを改めて知り、感嘆のため息を吐いた。パチュリーは田吾作の先を見据えて攻撃を仕掛けた先見能力を、田吾作はパチュリーの詠唱速度の速さを。となると、どれほどの能力か確かめてみたくなるのが研究者の性。パチュリーは魔法の研究、田吾作は発明の研究・・・そういう意味ではパチュリーと田吾作は似た物同士であった。「いいでやしょう・・・それなら今度はこいつでやす!」「なら私はこの呪文で・・・」お互いに宣言するや田吾作は荷物から色鮮やかな液体の入ったフラスコ数本を取り出し、パチュリーは先ほどよりも集中した様子で詠唱行った。そして、田吾作が手に取ったフラスコを全て投げるのと、パチュリーの詠唱が終わるのはほぼ同時だった。「あっしの最大火力!禁制『スイーツ』」「~・・・~~火金の術『セントエルモピラー』」ぶつかりあった道具と魔法は再び大爆発を引き起こした。最初にぶつかりあった時よりも大きなその爆発はパチュリーでさえ目を背けてしまうほどの爆風を生み出した。そして爆風が収まると、中から多少煤けているものの五体満足な田吾作が咳き込みながら現れた。「けへっ、けへっ、まさかの相殺でやす」「それはこちらの言葉よ・・・となるともっと火力を上げないといけないわね」「そいつはごめんでやす。どうやら火力では負けそうでやすから手数で勝負させてもらいやす。さぁ、その詠唱でついてこれるでやすか?」そう言った田吾作は怪訝な表情で聞き返してくるパチュリーをそのままに鞄の中から次々と試験管やフラスコを投げつけ始めた。それを見たパチュリーも負けじと呪文の連続詠唱に入る。「それ、それ、それでやす。『パイナップル』に『ココナッツ』、『アップル』と『オレンジ』もつけるでやすよ~」「~~~、『オータムエッジ』『サマーレッド』『フラッシュオブスプリング』っく、間に合わない、水の術『ジェリーフィッシュプリンセス』!」空中で次々と相殺していく魔法と道具。しかし、単純な速さでは田吾作の道具を投げるスピードに呪文の詠唱が間に合うはずも無く、とうとうパチュリーの足的で小爆発が起こり黒い爆煙があがった。パチュリーは自分の詠唱が間に合わないと見るや爆発と同時に自分の周りに障壁を張りすぐさま新たな呪文を詠唱しながら後ろへ飛び下がった。それを見た田吾作は好機と言わんばかりにパチュリーへと向かった。「これで決めるでやす!」「~・・・~~・・・残念、一歩遅かったわ。金木の術『エレメンタルハーベスター』」「しまったでやす!」それに対してパチュリーは既に唱え終わっていた呪文を開放した。パチュリーの周囲に発生した、歯車上の刃が田吾作を切り刻む。切り裂かれた田吾作が地に落ちると同時にパチュリーは新たな呪文を田吾作へと放っていた。「~・・・~・・・~・・・・・・~~・・・~、トドメよ。日の術『ロイヤルフレア』」パチュリーの手元からは眩いばかりの光が溢れ、倒れた田吾作を飲み込んだ。<おまけ>その頃の、紅魔館門「「あいたたた・・・・・・」」「「「大丈夫ですか美鈴様(先輩)?」」」「大丈夫です・・・それにしても、結局引き分けみたいですね~」「そうですね、私もあなたも体力なんて残ってませんからね」「全くですよ。EXメイド部隊も戦闘中止、怪我人の治療にあたって下さい」「良いんですか?美鈴様」「かまいません。問題があったときは私が責任を取りますし、もう戦う必要は無いようですからね」「あら、でしたら私達は勝手に入りますけど良いんですか?」「そんな体力残ってないくせに言わないで下さい。戦っていて何となく分かりました。あなた達の目的は陽動、つまりはもう誰かが侵入してるんですよね?」「な、何でばれたんだ~!!」「ちょ、才!」「ふぅ・・・えぇ、その通りです」「でしたらこれ以上の戦闘は無意味ですね。後でお嬢様のところまで案内しますので今しばらく待っていてください」「分かったわ。才、塁、今のうちに簡単にでも手当てをしておきなさい」「「はい、先輩」」「それにしても・・・お屋敷から響いてくる音はあなた達のお仲間ですか?」「だと思います」「派手ですね~」「そうですね~」勝負の末----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書+次回予告どうも、暗黒面のお手玉の中身です。田吾作のチート・・・不発。あえてここで引っ張るのがお手玉の中身なのです。ちなみに、パチェの喘息は治まっているようなので気にしないで下さい。では、次回予告です。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------っへ、敢闘賞で次回予告の担当ですか・・・ありがとうございます。パチュリーの放つ魔術の数々に、田吾作さんは遂に倒れてしまう。トドメに放たれたロイヤルフレア!田吾作さんはどうなってしまうのか?!?!次 回 「田吾作さんの爆弾イメージはテイルズのフィリアから」 塁だけ次回予告・・・いいな~ by.才