その日は、奇しくも月が紅く輝く晩。俺は紅く彩られた館を睨みつけると集まった面々に向かい口を開いた。「よし、それじゃあ確認するが最終目標はこの館に住む吸血鬼に身の程を教える事だ」「随分と物騒な物言いね、アスカ」「事実だろ。まずは茜と才、塁。3人は正面から殴りこみで陽動をしてもらうんだが・・・今更だが、大丈夫なのか」「大丈夫ですよアスカ様。私に才と塁、伊達に普段から一緒に哨戒任務を行っているわけじゃありませんから」「そうですよアスカ様。私と先輩が戦闘、塁にサポートしてもらえば怖い物なんかないですよ」「私も、先輩と才が一緒なら吸血鬼の下僕程度に負ける気はしません」「・・・分かった。その後に俺と田吾作が正面とは反対、裏のほうから侵入。館内を制圧しつつ吸血鬼を探す。俺は別にも狙う奴がいるから問題は無いんだが・・・田吾作も正面のほうがいいんじゃないのか?」「見くびらないで欲しいでやすよ、アスカ様。あっしは結構やるでやすよ」「無茶だけはするなよ・・・最後に紫は警護のほとんどいなくなっているはずの吸血鬼のところへ強襲。この中では一番強いからな・・・頼む」「頼られるのは嬉しいのだけど、心配はしてくださらないのかしら?」「必要か?」「必要ないと思いますけど」「先輩に同じく」「才に同じく」「必要何でやすか?」「・・・・・・信頼が痛いわ」俺達の信頼に溢れる返事を聞くと紫は膝を着いてしまった。こんなにも信頼していると言うのに何が不満なのやら。とは言え、ふざけるのも此処までだ。そう考えた俺は一つ咳払いをし5人を見渡した。5人ともそれぞれが緊張の面持ちで次の言葉を待っている。「紫、田吾作、茜、才、塁・・・・・・行くぞ!」「「「「はい(でやす)」」」」「えぇ」俺の号令で紫はその身体をスキマの中へと消し、茜と才と塁は正面へと走っていく。その場に残った俺と田吾作は段坊流箱・魔亜苦通に身を隠すと、紅い館の裏から忍び込むのだった。紅い館の門前、普段ならサボり気味の門番がのんびりと守護を担っているその場所は戦いの喧騒に包まれていた。襲撃者は3体の天狗と思わしき妖怪。その実力の高さを瞬時に見抜いた門番はすぐさま館へと伝令を走らせた。「館の警備部隊を呼んで!襲撃者3、能力高し!!」その命令を聞き、館に走るのは以前から館に使える妖精メイド。その様子を見送った門番、紅美鈴は門番部隊を蹴散らす襲撃者達をにらみつけ、そのリーダー格へと声を掛けた。「いきなり攻撃とは・・・やってくれますね」「突然支配者面して攻撃してくるあなたの主人よりはマシだと思いますけど?」「まぁ・・・たしかに・・・」それに言い返してきた襲撃者のリーダー格、茜の言葉につい納得してしまう美鈴。彼女は門番部隊の相手を才と塁に任せると美鈴の近くまで歩み寄り更に言葉を続けた。「あなた達には迷惑してるんですよ。人数的にはこちらが少ないでしょうけど実力差は見ての通り・・・・・・おとなしく降伏しませんか?」「それは無理な相談です。これでも一応門番ですし・・・私があなた達全員を倒せばいいだけの話ですから!」「そう、それじゃあ痛い目を見てもらいましょう!!」お互いにそう告げると二人はそれぞれの得物を手に身構えた。茜は幅の広い刀を、美鈴はその拳を。相手の実力を察したのか、身構えた二人はお互いの出方を窺いながら相手を睨みつけるとそのまま動かなくなった。一方、才と塁は普段の様子からは見ることも出来ないような奮戦ぶりを見せている。才は一体何処に隠し持っていたのか、刀に槍に斧にこん棒にと様々な武器を手に門番部隊を蹴散らしていた。さながら才無双状態である。その傍らで才の討ち漏らした敵を確実に戦闘不能に追い込んでいく塁。討ち漏らしを倒し、時には才の隙を埋めるように盾で守る姿は流石は長年のパートナーと言うべき物である。「行き過ぎだよ、才。先輩から離れすぎないようにしないと」「ふぅ、そうだね。・・・・・・あれは?」周囲の敵をあらかた片付け、一息ついた才に塁が注意した時、その変化は訪れた。敵の増援。先ほどの門番による伝令が届いたのだろう。館から新たな敵が勢いよくこちらに向かって飛んでくる。その数は先ほどまで相手をしていた門番舞台よりも多く、様子を見る限りでは実力のほうも高そうである。才はやや顔を引きつらせながら塁へとたずねた。「ねぇ、塁。これ、先輩のとこまで戻れる?」「戻れるかもだけど・・・先輩はあの門番の相手が忙しそうだし、これ引っ張って行ったら邪魔にしかならないね」「だよね~」そう言って才が茜へと顔を向けると、茜と美鈴が激しくぶつかりあっていた。あそこに敵を連れて行ったら確かに邪魔にしかならないだろう。才は一つ頷くと塁に声を掛けた。「ねぇ、塁。これは・・・下がれないね」「そうだね、才」「もっと、がんばらなくちゃね」「そうだね、才」「よし、それじゃあ行こう。塁、私に続け~~~~~!!」「いっくよ~~~!!」そう雄たけびを上げると、才と塁は敵に向かって突撃していった。戦いは厳しくなるがそれは望むところであった。彼女達の役目は陽動、雑魚敵を集める事こそが彼女達の役目なのだから。その雄叫びを耳にした茜は美鈴との距離をあけると、才と塁の方へ目を向けた。ちょうど新しく現れた敵の群れを才が蹴散らしているところで随分と頼もしくなった部下に笑みがこぼれてしまう。しかし、そんな隙を美鈴が見逃すはずも無く、すぐさま殴りかかってきた。「この状況で余所見とは、随分と余裕があるんですね」「当然。私達は誇り高き白狼天狗。あなたの様の木っ端妖怪とは実力が違うんですよ」「言ってくれますね・・・・・・ならその木っ端妖怪の足元にひれ伏させて上げますよ!」「冗談じゃない!」お互いにそう叫ぶと剣と拳がぶつかりあった。驚いた事に美鈴の拳は切れることなく茜の刀を受け止めている。驚きに固まってしまった茜に美鈴はそのまま刀をはじくと無防備な体に向かって蹴りを放つ。茜は慌ててもう片手に持っている盾でそれを防いだものの、美鈴の蹴りの威力に後ろへとはじかれてしまった。その様子に美鈴は呆れたように言葉を発した。「今のを防ぎますか・・・・・・これでも体術には自信があるんですけどね~」「っつ~、それはこっちが言いたい!どうやったら拳で刃物をはじけるんだ!!」「気の力を使えば余裕です」「なによそれ!!」美鈴の言葉に反応して茜が大声で反論するも意味が分からない理由を告げられ頭を抱えてしまった。美鈴はそんな茜に構うことなく自慢気に説明を始めた。「私の能力は『気を使う程度の能力』ですからね~、並みの刃物じゃ傷一つ付きませんよ。と言うわけで早く降伏しちゃってください」「それじゃあ並みじゃない刃物を使ってあげますよ・・・・・・」胸をそらしながら能力自慢をする美鈴に対して茜は据わった目で言葉を返した。その声色に美鈴は顔色を変えて構えなおした。そんな様子に構うことなく茜は更に言葉を続ける。「本当でしたら体力を温存しておきたかったんですけどあなた相手には少し難しそうですね」「ほ、ほほぉ・・・今まで手加減していたとでも?」「まさか、間違いなく全力でしたよ」茜は美鈴の言葉に首を振りながら答えた。すると先ほどの宣言はなんだったのか、美鈴が更に警戒の色を深める中、茜は話を続ける。「全力でしたが体力の消費を抑えるために能力を使わなかったんですよ」「能力?」「えぇ、私の能力は白狼天狗にしては珍しすぎる物で使うのに体力がいるんです」「それはまた、ご愁傷「その代わりに」・・・」「その分だけ凶悪になってしまうんですよ」そう笑いながら告げる茜の足元には小さな竜巻が一つ発生していた。美鈴はその様子に威圧され動きを止めてしまったが茜にとってはそんな事関係ない。「それじゃあ、私の能力『暴風を作り出す程度の能力』をその身に刻んでください。受けろ、『二匹だけの鎌鼬』」「不味い、『彩光乱舞』」二人の宣言でぶつかりあう二つの竜巻。片方は美鈴の作り出した美しく彩り溢れる竜巻。もう片方は茜の作り出した真っ黒の竜巻。暫くぶつかりあった竜巻が消えるとその場には体中に小さな裂傷を作った美鈴が蹲っていた。美鈴は痛みで顔を歪めながらも立ち上がり茜に向かって口を開いた。「いたたたた・・・、いきなり大技とはやってくれますね」「それを防いどいて何を言っているのやら・・・」「その目は節穴ですか?この体中の傷が見えないんですか」「本当ならバラバラの挽肉にできるのに・・・」「ちょ、なに物騒な事を言ってるんですか!!」美鈴は茜の言葉に大声で反論しているが茜は小さな裂傷しかない美鈴に不満そうなため息を吐いている。茜が不満に思っているこの結果は美鈴の技が茜の竜巻に対して防御と相殺を同時に行ったが故の結果であり、もしも他の技で迎撃していれば茜の宣言どおり・・・とまでは行かずともかなり近い状態になっていたはずである。そのことに気付いている二人はお互いの挙動を警戒していた。美鈴は同じ技が来た瞬間にその隙を付けるように、茜は大技を使った反動で予想以上に体力奪われた事に。茜は油断無く美鈴を睨みつけながら声を掛けた。「あなた・・・名前は?」「紅魔館の門番『紅美鈴』です。そう言うあなたは?」「妖怪の山、哨戒第三班隊長『茜』です。美鈴、今からでも投降する気はありませんか?」「無理ですよ。私はこの館のお嬢さまに命を助けてもらった身。それを裏切るつもりはありません」「そうですか、残念です。あなたとは何となく仲良くなれそうな気がしたんですが・・・」「あっ、それ私もですよ。奇遇ですね~」「本当に」二人はそう言い合うと構えを崩さないままお互いに笑い合った。そして、笑い終えると再びその顔を引き締めた。「では、その見に暴風の刃を刻んでください!」「ならば、大陸の拳がお相手をしましょう!!」「「いざ、参る!」」そう宣言した二人はそれぞれの得物、刀と拳を振り上げ相手へとぶつけた。二人がぶつかりあった瞬間、その場からは風と光が溢れ、離れた戦場にいた才、塁、そして他の部隊もその光景に目を奪われた。風と光が収まり、立ち込めていた砂煙が晴れたとき・・・そこにいるのは。少し時を巻戻して・・・・・・「うりゃ~~!!」「才、危ない!もう少し気をつけて」「ありがと、塁。今霊弾を撃ってきたのはお前か~!!」新しい敵の警備部隊、EXメイド部隊の中に突撃しても才無双の勢いはとどまるところを知らなかった。EXメイド部隊も遠距離から霊弾を撃つなどして反撃してはいるものの、才自身が迎撃してしまうか塁の盾によるサポートのせいでまともな攻撃が一つも通っていない。しかし、そんな才も体力が無尽蔵にあるわけではなくその呼吸はかなり荒くなっていた。そもそも、彼女が此処まで無双が続けられたのは塁のサポートが合ったが故であり、塁のサポートが無かったならとっくの昔に体力切れか袋叩きにあっていた。そんな才のサポートに徹した塁は才よりも消耗が激しかった。自分に向かってくる攻撃よりも才の防御を優先させていたために急所に当たらない攻撃はあえて受けたものすらある。そんな状態をEXメイド部隊は見逃さなかった。「みんな、あっちの盾持ちから先にやるよ」「なっ!塁はやらせないよ!!」「才、待って!」塁の静止の言葉も聞くことなく才はEXメイド部隊へと突撃して行った。こうなるとEXメイド部隊にとってはしめたものでそれぞれの確固撃破へと作戦を変更させる。当然塁もその事にはすぐに気が付いたものの、時既に遅く完全に才と分離されてしまった。そんな時に門の方向、茜と美鈴の戦っている所から凄まじい風と光が届いた。その光景にその場にいた全員が目を奪われる。そして、風と光が収まった時。「「せ、先輩!!」」「「「美鈴様!!」」」<おまけ>侵入者達「初めてのおまけだ・・・」「何言ってるんでやすかアスカ様」「いや、なんか言わないといけないと思ってな」「そうでやすか。でも、声は漏れちまいやすから気をつけてくやさい」「了解」「しかし・・・さっきまでバタバタしてた給仕が全員いなくなったでやすね」「茜達がうまくやってくれたんだろうな」「そうでやすね。・・・みんな無事だと良いんでやすが」「あいつらなら大丈夫だろ」「・・・そうでやすね」段坊流箱・魔亜苦痛を被っての会話----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書+次回予告どうも、暗黒面のお手玉の中身です。再会やアスカ無双が待ち望まれた中、それを平気で裏切る。それこそが暗黒面のお手玉の中身。ちなみに、塁の能力ですが・・・結局決まらなかったorzなるべく元ネタにあわせようとしたらどうしてもチート性能にしか・・・では、次回予告です。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------次回予告?そうね、出番もない事だし・・・折角だからやってあげるわ。無事紅魔館内部へ潜入したアスカと田吾作二人は別れて目的を果たすべく進みだすそして、その行く手を遮るメイド服と図書館の主次 回 「美鈴たちの勝負の行方はもう少し先で」 存外にちゃんとした次回予告になった by.kami