幻想郷に帰りつき、平和な日々が続いている。以前紫と話し合った嫌な予感が嘘のようだ。そんなことを考えていると今日もルーミアの元気な声が響いてきた。「それじゃ、行ってくるね~」「おう、知らない奴には付いていくんじゃないぞ」あの日以来、食事が気に入られたのか、はたまた居心地が良かったのかは分からないがルーミアが家に住み着いてしまった。最初こそ追い出そうとは思ったものの、そのつど躊躇ってしまいそのままズルズルと半ば養い子状態に・・・とは言え、ルーミアのことが嫌いと言うわけでもなく美味しそうに食事をする姿を見ていると悪い気もしなかったので我が家の一員となっている。こうなってみると藍が橙を可愛がる理由がよく分かる。「これが父性という奴なんだろうかな~」そうやって、誰も答えることの無い独り言を呟くと一人頷き、出かける準備を始めた。なんでも、今日は霖之助が独り立ちし店を作ったのでその開店式だとか。黒陽と影月に誘われたいた俺は、その開店式に参加させてもらうことにしていたのだ。今日もいい天気、誰かの門出を祝うにはこれほどの日も無いだろう。そう考えを纏めると出かける準備を進めるのだった。所変わって人里から近い魔法の森入り口。其処では複数の男女が新しく出来た店の開店祝いに訪れていた。と言ってもたったの6人であるが・・・・・・まずは触角が生えている三人組。人里の守妖怪として有名になってきた黒陽と影月、そして一時期は霧雨道具店で看板娘をやっていたリグルである。影月は相変わらずリグルに告白しては砕けているようだ・・・何か切欠でもあればと思わないでもないが当分は無いだろう。黒陽はそんな二人を眺めて呆れた様子で首を振っている。4人目は幼い少女を抱きかかえているメガネの青年、霖之助に話しかけている青年、アスカだ。霖之助の新しい門出に対し祝いの言葉を述べている。「随分いい店が出来たな、霖之助」「ありがとう、アスカさん。これも黒陽さんや影月さんからの口添えがあったからこそなんだけどね」「あの二人にそんな甲斐性があるとは・・・」「ははは・・・、まぁ普段のお二人は頼りになるとは言いがたいですけど」そう笑いながら言う霖之助と共に件の二人を見てみると影月が玉砕した瞬間だった。何年想い続けてるのやら・・・あの二人はいろんな意味で予想を越えてくれる。その様子をひとしきり笑った俺は、霖之助が抱いている少女に関して尋ねた。「そういや霖之助、お前が抱いてるその子は?まさか、そんな幼子を?」「違うよ。この子は霧雨さん所のお嬢さんで、今日これない親父さんの代わりに黒陽さんたちが連れてきたんだ」「へぇ~。嬢ちゃん、お名前は?」「ん・・・『マリサ』・・・・・・」俺が少女、もといマリサに視線を合わせて尋ねると、マリサは短く名前だけ答えて霖之助の首元に顔を隠してしまった。すると後ろから黒陽たちが話しかけてきた。「あちゃ~、旦那~。お嬢を怖がらせたらダメじゃないですか」「いや、そんなつもりは無かったんだがな・・・」「ダメですよ旦那。お嬢は怖がりなんですから」「その割には霖之助君には良く懐いてるけどね~」「あはは・・・、お恥ずかしい限りで」「へぇ~、そういやなんで新しく店を?お前ならあのまま霧雨さん所に居てもやっていけただろう?」俺がそう訪ねると霖之助はちょっと困ったような苦笑いを浮かべ口を開いた。「僕もそうしたかったんだけど色々と思うところがあって」「思うところ?」「うん。僕の能力は『道具の名前と用途が分かる程度の能力』なんだけど、これを使うには普通の道具屋じゃ無理だって思ったんだ」「それで普通じゃない道具屋を自分で作ろうと?」「そういうことだね」「なるほどな~。それにしてもマリサちゃん・・・だっけ?よく霖之助に懐いてるな」「そうだよね~。私が魔理沙ちゃんを抱っこしたらあっという間に泣かれたってのに」「あの、リグルさん?そんな恨めしそうな目で見ないでくれると嬉しいんですけど」「私は元からこんな目だよ霖之助君。そう見えるのは私に悪いと思ってるからじゃないかな~」そう言ったリグルの目は据わっていた。霖之助が一歩後ずさるとリグルが一歩前に出る。じりじりとリグルがその差を詰めていたその時、マリサがリグルの方へと振り向き一言だけ言い放った。「・・・虫嫌い!」「はぅっ!」「うぐっ!」「へぶっ!」効果は抜群のようだ。リグルだけじゃなく離れていた黒陽と影月まで膝を着いている。なんと言うか・・・ご愁傷様である。それはともかくとして、俺はそんな3人を尻目に霖之助との話を続けた。「そういや霖之助。もう店の名前は決まってるのか?」「あ、はい。店の名前は「こーりん」っへ?」「こーりんのお店だからこーりん」「・・・どういう事だ?」こーりん、こーりんと叫びだしたマリサをそのままに俺は霖之助へとたずねた。それに対して、霖之助は困ったような表情で訳を話し出した。「それが、なぜか分からないんだけどマリサが僕の名前を『こーりん』って呼び出してね・・・マリサ、僕の名前は霖之助なんだけど」「違うもん!こーりんはこーりんだもん!!」「っと、こんな感じなんだよ」「なるほどな~・・・、それは惚気か?こーりん」「勘弁してくれよ、アスカさん・・・」「ははは・・・、すまんすまん。とすると店の名前はどうするんだ?」「うん。折角いい考えがもらえたから『香霖堂』って名前にするよ」「香霖堂・・・な・・・。うん、いい名前じゃないか」「ありがとうございます、アスカさん」「どういたしまして。そういえば・・・黒陽、影月、それにリグルも、ちょっといいか」俺はふと思いついたことを伝えるべく3人を呼んだ。3人はまだへこんでいたのか起き上がるとショックを受けた表情のままこちらにやってくると、代表して黒陽が口を開いてきた。「なんすか旦那。俺達は今、お嬢に嫌われた絶望に囚われてるんですが」「お前ら・・・・・・、まぁいい。それよりも3人とも、俺の住んでいる場所って教えてたか?」「確か・・・妖怪の山、ですよね?」「おう、もっと詳しく言うと大蝦蟇の池を更に奥に行ったところだがな」「それがどうかしたんですか、旦那」「最近、嫌な予感がしてな・・・・・・もし何かあったらすぐに知らせに来い。山の仲間にはお前たちの事を教えておくから普通に通してもらえるはずだ」「嫌な予感ですか、旦那。それは一体・・・」「詳しいことは俺にもわからん。分からんのだが、どうにも引っ掛かってな・・・リグルは何か感じることは無いのか?」「私?・・・そうだな~、最近というよりも人里の人と知り合ってからは誰かを襲うって事もしなくなったし、博麗大結界が張られてからは人里を襲おうとする妖怪も出なくなったし・・・うん、暇になったぐらいかな」「そうか・・・、まぁ、何も無いのが一番いいんだが念のためにな」「分かりました、旦那」「それは僕が頼っても良いのかい」「当然。じゃなきゃここで話さないよ」「助かるよ」俺がそう告げると、霖之助は嬉しそうに礼を言った。黒陽、影月、リグルも一応は警戒してくれるようで真剣な面持ちで頷いている。そうしてその日はそのまま雑談をし解散することとなった。それから数日・・・・・・俺は永遠亭へと向かっていた。永遠亭の薬師、永琳は薬品に対しての造詣が深くその知識はまさしく天才であった。そんな彼女も鬼が使った薬には興味があるらしくたまに共同研究を行う仲である。そんな仲ではあるのだが、ただの薬師と天才の薬師が同列になれるはずも無く、共同研究というよりも彼女から知識を分けてもらいながら研究をしていると言うのが正しい状態である。そう言えば・・・・・・鈴仙を撃退した後日に訪れた永遠亭では一悶着あったな。あの日もこんないい天気で・・・・・・回想「お、よく来たねアスカ」「まぁ鈴仙だっけか?怪我させたわけだし、一応見舞いぐらいわな」「殊勝だね~、それと鈴仙じゃ無くてゲレゲレじゃないの?」「本人の居ないところでそう呼ぶ意味があるのか?」「無いね」そういってお互いに笑い合うのは永遠亭の門前。てゐにも言ったとおり、鈴仙の見舞いに来たわけではあるのだが、結局なぜ攻撃されたのかも分かっていなかったのでついでに聞いておこうとやって来た次第だ。そうして案内された先には輝夜、永琳、鈴仙の全員が揃っていた。鈴仙の様子を見る限りでは完全に完治しているようだ。流石は永琳、薬師というよりも医者としての腕の良さが分かる。それはそうと、鈴仙が人の顔を見た瞬間から思いっきり硬直しているのはなぜだ?「あら、いらっしゃいアスカ」「お邪魔してます、永琳さん。よ、輝夜。こないだぶりだな」「よく来たわねアスカ。さぁ、遊ぶわよ!!」「いきなりだな、おい・・・・・・それはともかくとして、アレ・・・どうしたんだ?」「アレ?・・・イナバ、なに固まってるの?」「っひ、ひ、ひ、姫様、そいつは一体??」「これ?これが噂のアスカよ。そう言えばあなた、アスカにボコされたばっかりだったわね」「あ~、あの時は悪かったな。いきなり攻撃食らったもんだから頭に血が上って」「い、いえ・・・気になんかしてませんにょ」「にょ?」「にょ?」「ゲレゲレイセン・・・・・・にょ??」「てゐ!いい加減そう呼ぶの止めてよ!!」「いや、だってね~」「まぁいきなり攻撃してきた罰だと思って甘んじて受けろ」「ひどい!確かに攻撃したけど姫様達のためと思ってやったのに・・・・・・その上、怪我が治ったら屋敷の修繕までさせられるし・・・・・・」「それは・・・すまんかった」鈴仙は膝を着いて落ち込んでしまった。どうにも俺が壊した壁やらの修理は鈴仙がさせられたらしい。この件に関しては俺が悪いな・・・・・・そう考えて鈴仙に頭を下げると輝夜がおかしな物を見たといった表情で尋ねてきた。「あれ?何でアスカが謝ってるの?」「いや、壁の修理とかゲレゲレにさせちまったんだろ?アレ壊したの俺なのに」「へ?」「え?」「は?」鈴仙がいまだ涙する中、俺からの返答で輝夜たちが三者三様に呆けた表情で固まってしまった。その中からいち早く脱した永琳が口を開く。「壊したって・・・扉と壁を粉砕してたんだけど・・・・・・あなたが?」「ん、まぁそうだが・・・悪かったなゲレゲレ」「そう思うんならその呼び方を止めてください~」「それとこれはべつだ」「ひどい~~~」鈴仙はそのまま泣き崩れてしまった。そんな中、次に再起動を果たした輝夜が口を開いた。「ちょっと待ってよアスカ!ただの人間がどうやったらあんなことできるのよ!!」「ん~、長年の修行と投薬、後は・・・気合?」「何で疑問系なの!!ねぇ、えーりん。これって私がおかしいの」「いえ、姫様がおかしいと言うよりもアスカがおかしかったんでしょうね」「永琳さん、随分酷いこと言いますね」「それが事実ですから」腕を組んだ永琳はそうやってきっぱりと言い切った。まぁおれ自身も最近は人間離れしてきたかな~とは思っていたが・・・・・・とは言え人間だがな。とりあえずこれからは少し自重しようと考えた俺はそのまま鈴仙を宥めるのだった。回想終了あの後は本当に大変だった。鈴仙は泣き止まないし、てゐは余計に煽って泣かせるし・・・その後、慌てて宥めてたが。輝夜からは壁の修理の代わりに当分の遊び相手を命令されるし、永琳からは新しい薬品の被検体にされるし。特に永琳の薬の被検体はやばい・・・二度と御免だ。今思い出しただけでも身体の震えが止まらない・・・・・・まぁこんな事はさっさと忘れることにしよう。そう考えを纏めた俺は、迷いの竹林上空を永遠亭まで飛んでいくのだった。<おまけ 少し未来の『幻想郷縁起』>妖怪の項名前 黒陽能力 常識に囚われない程度の能力人間友好度 高危険度 低主な活動場所 人里二つ名 とんでも元人間一号解 説 人里の守護者にして一道具店の警備員と言うなんとも変わった肩書きを持った妖怪がこの黒陽だ。 彼は元は人間だったらしいのだが、ある事件をきっかけに妖怪に変じてしまったとか・・・波乱万丈な人生である。 そんな彼であるが見た目は触角が生えているだけで人間とほぼ変わらず元から住んでいただけに人里においても 人気者である。 ただ、どういうわけか私の古い記憶、阿一時代の記憶の中に彼とそっくりの人物がいるのはどういう訳か、その 謎はいまだ解明できていない。 なお、彼の相方である影月さんは虫の妖怪、リグル・ナイトバグと交際中とのことである。目撃例「食い逃げした妖怪を捕まえるのを手伝ってもらった」 うどん屋店主 流石は警備員である。「屋根の上で変な踊りをしていた」 匿 名 何かの儀式かもしれない、邪魔をしないように。「知らない青年に頭を下げていた」 匿 名 旦那と呼ばれる人間に頭が上がらないようだ。 著 稗田阿求----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書+次回予告どうも、お手玉の中身です。とうとう普通の人間、魔理沙さんが登場しました。香霖堂が建っている時点で物心付いてたらしいし・・・このぐらいは赦されるよね?後、B.Bやってたら急に必殺技のイメージが。では、次回予告をお願いします。----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------香霖堂の創立記念?・・・これを読めばいいのかな平和な日々が続いても、それが崩れるのはいつも突然。友が倒れたとき、家族もまた・・・・・・次 回 「なぜかスペカイメージにB.Bのテイガーが入ってきた」 こーりん、これ読んでー by.魔理沙