「そこか!!」「っひゃ!!!」っち、また逃げられた。アレから数十分、最初に攻撃してきたのは奴だというのにアレ以降ずっと逃げ回られている。右腕のほうは応急処置をすることで動かせる様にはなったものの全力は出せない・・・まぁそのお陰で空気弾は最初の一発以外、手加減して撃てる様になった。ただ、その手加減のせいかは知らないが気配を辿って攻撃を続けているのに延々と逃げられてしまう。尋問できるように生かして置きたかったのだがこのままでは埒が明かない。仕方が無い。俺はそうやって内心嘆息すると考えたことを実行するため声に出して呟いた。「殺すか・・・」誰にも聴かれる事の無い呟きは奴にも届いたようだ。逃げる奴の気配の中に更に怯えが含まれた。俺は先ほどまでとは違う意味で、殺すつもりで敵を追いかけ始めた。<玉兎>「殺すか・・・」身の毛がよだった。なんだあの化け物は?今までのが手加減?ここからは殺しにかかる??何を言ってるのかが理解できない。いやだ・・・・・・・・・・・・・・・いやだ・・・・・・いやだ、いやだ!!いやだ死にたくない!!!気付けば私は化け物の前に飛び出し、弾丸を撃ち放っていた。<アスカ>目の前に突然飛び出し其処から攻撃を撃ち続ける兎妖怪が一匹。しかし、最初の不意打ちのように狙い済ました攻撃ではなく出鱈目に撃って来る上に姿を見せての攻撃が見切れる見切れないはずも無く、攻撃の雨を掻い潜りながら兎妖怪の懐まで一気に駆け込んだ。兎妖怪はその顔を引きつらせ怯えと涙を浮かべた目でこちらの姿を追ってくるが今更逃げられるはずも無い。折角姿を見せてくれたんだ・・・「とりあえず・・・」簡単には殺さない。「半殺しだな」「げへっ?!」懐に飛び込んだ勢いでそのまま兎妖怪の腹に手加減した拳を叩き込むと兎妖怪は体をくの字に曲げて喘ぎながらその場に倒れた。倒れた兎妖怪は殴られた箇所、腹を押さえながら喘ぎもがいている。そこでやっと気付いたのだが、こいつは今まで見てきた兎妖怪とは少し毛色が違うようだ。俺に攻撃を仕掛けてくる時点でそれも当然なのだが、他の兎妖怪に比べて随分と小奇麗だ・・・ネクタイまでしてるし。まぁ、この場では何の関係も無いのだが。自分のどうでもいい考えを其処で打ち切ると目の前でいつまでも寝ている兎妖怪の長い髪を掴み無理やり引き起こす。兎妖怪は小さな悲鳴を上げたが知ったことではない。「おい、いきなり攻撃とは穏やかじゃないが・・・どういうつもりだ?」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」奴はびくつくだけで何も答えない。俺はそのまま奴の頭を床に一度、二度、三度と床に叩きつけもう一度引き起こすと同じ質問を繰り返した。「もう一度聞くぞ。どういうつもりで攻撃しやがった?」「あ・・・・・・う・・・あ・・・・・・」ダメか・・・完全に恐慌を起こしているようでまともに話が出来そうにない。俺は奴を床に投げ捨てるとさっさと始末するために頭を踏み抜こうと足を持ち上げ。振り下ろそうとした時「ちょっと待った~?!?!」見知った声が響いた。声が響いてきた方向に眼を向けると其処には急いでいたのか肩で息をしているてゐが居た。てゐは慌てた様子で奴に近づくと心配そうに声を掛け始めた。「鈴仙、聞こえる?しっかりして、鈴仙」「・・・てゐ?もしかして知り合いか?」「知り合いって言うか一応、永遠亭の仲間だよ。アスカこそいきなり何やってんのさ?!」「いや、いきなり攻撃されたもんだから・・・つい」「・・・・・・そりゃ鈴仙が悪いわ」てゐは心配そうに兎妖怪を抱えながら頬を叩いていたが俺からの返答を聞くと呆れた顔を向けた。しかし、永遠亭の兎だったとは・・・・・・殺す前にてゐが現れてくれてよかった。見てみればてゐの登場に安心したのか兎妖怪は完全に気を失っている。するとてゐは兎妖怪をその場に寝かせるとこちらに振り向き口を開いた。「どうやら鈴仙も大した事なさそうだし・・・とりあえずはいらっしゃい。アスカ」「半ば不法侵入ながらにお邪魔してます」「犯罪者だね~」「犯罪者言うな」「うっさっさっさっ、それはともかく今まで如何してたのさ。姫様たち心配してたよ?」「ま~ちょっと野暮用でな」「ふ~ん、まぁいっか。この子、『鈴仙』って言うんだけど其処の部屋に運んどいてもらえるかな。あたしは姫様たち呼んでくるから」「ん、了解」「変な事しちゃだめだよ」「するか!」「うっさっさっさっ・・・じゃ、また後でね~」てゐは人の事をそうやってからかうとそのまま走り去ってしまった。去り際になんてとんでもない事を・・・・・・俺は懐かしさの混ざったため息を一つ吐くと兎妖怪、もとい鈴仙を担ぎ上げ部屋の奥へ運んだ。それから十数分・・・・・・鈴仙を部屋に寝かした俺は自分の腕の手当てをしなおして永遠亭の前で輝夜たちの到着を待っていた。手当てのお陰でほぼ完治状態まで持っていけたのは嬉しいのだが・・・自分の薬の効き目が恐ろしくなってきた。それにしても、妹紅達の時もそうだったが久しぶりに会うとなるとなんと言うべきか迷ってしまう。そんなことを考えていると竹林の影から人影が見え出した。まず慌てたように飛び出してきたのは輝夜。その後ろからはゆっくりとした足取りで永琳とてゐ、その他の兎妖怪達がやってきた。輝夜は人の顔を見るなりこちらに飛びつき胸倉を掴みあげてきた。「ちょ?!かぐy「今まで何処行ってたのよ!!」・・・・・・」「じ、じんぱいじだんだから~。うぇ~~んえんえん」まさか泣き付かれるとは思わなかった。そう思い、輝夜を宥めていると今度は永琳が声を掛けてきた。「お久しぶりね、アスカさん」「だな、元気そうでなによりだ。なんか心配かけたみたいだが・・・・・・悪かったな」「ふふふ・・・、いいですよ。こうやってまた姫様に会いに来てくれたんですから」「あんがとな。ほれ、輝夜。いい加減離れてくれ」「・・・・・・うん」泣き止んだ輝夜にそう声を掛けると輝夜は一歩下がるようにして離れてくれた。そうして輝夜、永琳、てゐの三人としばしの雑談を交わすと次の目的地へ行くために別れを告げた。ちなみにある程度離れてから輝夜の悲鳴が聞こえたような気がするがそんな事は無いはずだ。「相変わらず綺麗なところだな・・・・・・そうは思わないか?」「全くね。此処はいつも変わらぬ美しさを見せてくれたのに全然見に来なかった誰かさん損してるわね」「全くだな」迷いの竹林を抜け、次にやってきたのは太陽の畑。夏場ということもあり咲き乱れる向日葵の美しさに目を奪われていると懐かしい気配を感じたので、そのまま声を掛けてしまった。返事を返してきたのは長い緑の髪に日傘を差した最強の妖怪、風見幽香。幽香はこちらへ近づきながら更に言葉を続けた。「本当に久しぶりね。今まで全然来なかったけど、何をしてたの?」「ちょっと野暮用でね・・・・・・軽く酷い目にあってたよ」「あらあら・・・、ところで折角久しぶりなんだし・・・・・・」「なら場所を移そうか」「勿論よ♪」俺からの返事に満足そうな笑みと言葉を返す幽香。しかし、伝わってくる気配はそんな穏やかな物じゃなかった。太陽の畑からそこそこに離れるとお互いに距離を保って身構えた。そこで幽香がこちらの右腕を見ながら口を開いてきた。「あら、あなた・・・怪我をしてるの?」「ん?これか?まぁさっき不意打ちを食らってな。もう治ってるから大丈夫」「そう・・・それは良かったわ。全力じゃないと楽しめないもの」「あぁ・・・、全くだ」動き始めたのはどちらが始めだったか。もしかしたら同時だったかもしれない。お互いに一気に距離を詰めると攻撃を始めた。今なら分かる。幽香が何処に攻撃しようとしているのかが。やっと・・・・・・やっと此処まで追いつけた!「っらぁ~!!」「はぁ!!」ただ右の拳を振りぬく。それを幽香が傘で払おうとするのが分かる。ならその隙を突いて蹴り穿とう。しかし幽香はそれを予想していたのか身体を捻りながら逆に蹴り返してきた。それを残していた左腕で防ぐとその勢いに身を任せてそのまま後方へと飛ばされる。後ろに撥ね飛ばされた勢いを利用して身体を起こしなおすと既にこちらを追いかけ日傘を突き刺さんと構えている幽香の姿が。突き出された日傘に頬を裂かれながらもそれをかわし幽香の懐へ。幽香の懐深くへ潜り込み、震脚を踏みしめ、ふと目線を幽香に送ってみれば幽香の顔は驚きに染まっていた。この一瞬・・・たった一瞬なれど幽香を越えた!!その躍る心のままに握りこんだ拳を前へと解き放った。「おらぁ!」確実な当たり。幽香は後ろへずり下がり膝をついている。以前のような誘いではなく間違いなく俺が狙い当てた一撃だった。しかし、当然ながらそれで倒れるほど幽香は優しくなかった。幽香はその場で立ち直すと顔を少しだけ歪めながら口を開いた。「っつ~・・・・・・女性に手を上げるなんて酷い人ね」「今更それを言うか」「それもそうだったわ。・・・・・・随分と強くなったのね」「どっかの誰かさんに勝ちたくなったからな」「そう・・・・・・でも、今はまだ負けてなさい!!」「冗談!今日こそは勝たせてもらう!!!」言葉を皮切りに再び始まる戦い。幽香からの攻撃をかわしながら殴り返す。殴られた幽香はそんな事気にしないかのように日傘を振るう。殴っては殴られ、蹴っては蹴られ、避けていては攻撃はかなわず、受け流すことで反撃に繋がる。余裕の欠片もないのにそんなやり取りがとても楽しかった。一撃一撃が相殺しあうたびにお互いに笑みが浮かび口からは笑い声が漏れる。しかし、気付いてみればお互いにぼろぼろとなり体力なんてほとんど残っていない。そうして二人同時にはじかれる様にして後ろへ飛び下がった。「くくっ・・・」「ふふっ・・・」お互いの口から更に笑い声が漏れる。楽しい時間もいよいよ幕を下ろすとき。「それじゃあ・・・」「えぇ、そろそろ・・・」「「決着を付けるか(ましょうか)!!!」」幽香は日傘の先端を此方へ向け、俺は残りの力を振り絞って右手に空気を圧縮した。そして・・・・・・・「食らえ~!!」「食らいなさい!!」同時にお互いの力を打ち放った。そして視界は白く染まり俺の意識も其処で途絶えた。<おまけ>鈴仙、目覚めの時「っは?!此処は!あの化け物は!!」「落ち着け鈴仙。此処は永遠亭でお前と戦ってたアスカはもう帰ったよ」「そ、そうなの?・・・っつ、いててて・・・・・・」「まだ無理すんじゃないわようどんげ。何をどうやったのか知らないけど骨が何本か折れてるんだから」「し、師匠・・・・・・そうだ、あの化け物は!化け物は何処に!!」「化け物化け物って・・・私達が来た時はあなたとアスカしかいなかったわよ」「姫様、だったらそのアスカが化け物ですよ!早く逃げないと」「落ち着け鈴仙。アスカならもう帰ったし、アスカは人間だから化け物じゃないよ」「そうようどんげ。それよりもあなたには傷を早く治してもらわないと」「っへ?」「永遠亭を此処まで壊しといて・・・ちゃんと直しなさいよイナバ」「ちょ?!それは化け物が・・・」「アスカは人間なんだからあんな真似できる訳ないでしょ。消去法でイナバしかいないのよ」「それなら私はただの人間にやられたんですか?」「まぁそういうことね。強いとは思ってたけど予想以上だったてだけで」「師匠~それはあんまりですよ~」「ほらほろ、泣いてる暇があったら早く寝なよ鈴仙」「てゐ~。てゐは信じてくれるよね~」「・・・・・・ごめん鈴仙。アスカの体格からあんなことが出来るとはちょっと・・・・・・」「そんな~」「っあ、そうそう。そのアスカから伝言で鈴仙の名前は今日から『ゲレゲレ』ね」「繋げるとゲレゲレ=鈴仙=優曇華院=因幡ね」「よろしくなゲレゲレイセン」「な、な、な、なんですかそれ~~~~~~?!?!」哀れな玉兎の悲劇 パートⅡ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------後書+次回予告どうも、お手玉の中身です。夏の暑さにテンション下がりまくってます。それはそうと、もうじき美鈴以外の紅魔勢が出る話の骨組みを組み始めたんですが、本作では咲夜さんを月人設定とさせてもらいます。あの人、出身不明すぎて設定の困るよorzとりあえずはそんな感じで・・・次回予告です!----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ゲレゲレです。あまりにも酷い名前に負けそうです。目が覚めたなら小屋の中太陽の畑は今日も平和疲れた身体を癒すため家路を急ぐと其処で再会が次 回 「あだ名の犠牲者は後どれだけ増えることやら・・・」 ゲレゲレイセン、ちゃんとやってて感心感心 by.てゐ